ハルヤスミ句会 第三回

2000年11月

《 投句 》

01 拝啓を略し四文字「寒なつた」    つよし(夏・阿)

02 川沿いを行くよこがらし鼓笛隊    ふみ(つ)

03 物思いカマキリ首を傾げてる     野草

04 天井の隅つこの暮早きこと      春休(九・ふ・ね)

05 マスクしてウォークマンして眼鏡して 九鈴(阿)

06 竪琴を手に舞ひ来たり龍田姫     桂香

07 磨きけり芋名月の大薬缶       春休(九・阿)

08 小春日の水滴吸はぬタオルかな    夏実

09 老木の腕ぞあやうき熟柿なり     ねね

10 夜長風呂りんごの皮を浮かべては   阿昼

11 風が来て蜘蛛の子高く散りにけり   野草(ふ・春)

12 バイパスの灰色匂う秋雨や      ねね(ふ)

13 ふぞろひな林檎のうさぎ数えけり   阿昼

14 真四角の屋上にいて火事遠し     ふみ(夏・桂・つ・春)

15 霜の夜を乾き切つたる月の肌     春休(野)

16 遥かなる薄野原に雲の影       ねね(桂・野)

17 三世代の金魚出で来る冬日和     桂香(九)

18 東京の人東京へ初氷         夏実

19 立冬やとんぼの頭掻きをりぬ     つよし

20 バッタ跳ね子は飛びついて捕らえけり 野草

21 この度は賀状欠礼枇杷の花      桂香(夏・春)

22 球根の土とび出せリ冬乾く      九鈴(桂)

23 綿虫のきりもみ舞ひやつむじ風    つよし

24 冬の野に止まりし青のスーパーカー  ふみ

25 凍雲や逆さの熊の形して       夏実

26 冬晴れだ昨夜のことは忘れなよ    ねね(つ)

27 落葉焚き小さきつむじ風走る     九鈴(野)

28 辰年の紅玉長く長く剥く       阿昼(ね)



【 六本木ねね 選 】
04 天井の  ぼんやりと部屋にねころがったまま、影がうつってゆくさまを1日中みているようだ。さみしいけど、すこし満足。
28 辰年の  うねうねと、しっぽのような皮が、ほそくほそく。もう辰年もおわりか。

【 かたぎり夏実 選 】
◎21 この度は あの時はがたがたしてたけど、一段落してみると、あぁそういえばもう年賀状の季節だな。今年は書けないんだなぁ。そんな、ひっそりしたさみしさをひしひしと感じました。枇杷の花がよくあっていると思いました。
○01 拝啓を 手紙は「寒なつた」で始まってるけど、内容はきっと暖かいんだろうなぁと想像されます。素朴な筆跡や送り主の人柄まで目に浮かぶようです。
○14 真四角の 二階とか対岸とか、ぢゃなく、『真四角な』屋上っていうところで、無機質な無感情な雰囲気が出ている。火の粉とか、そういう暖かいものから、あえて距離を置いているみたいな感じがしました。
その他
26 冬晴れだ いろいろあったけど、こんなに透き通った冬日に、なにをいつまでもごちゃごちゃと! ま、夜になったらまた思い出しちゃうかもしれないけどさ…。
22 球根の 「〜とび出して」としたいです。早くも来春の花咲くときを夢見て、養分を蓄えて…。「土をとび出し」じゃないから、とび出しているのは土、ですよね? 土が鉢をとび出しているのか、盛り上がっているのか。とにかく、なんとなく生命力の強さみたいのを感じました。

【 北村桂香 選 】
14 真四角の  対岸の火事なら迫力があるがビルの屋上から眺める遥か遠くの火事は・・・ でもやっぱり阪神大震災が想起されます。お互い『火の用心』に心がけましょう。
16 遥かなる  遠くまで薄野が晩秋の陽に光っていて一部大きな雲が影を落としている様が浮かんで来ます。静寂でいて穏やかな一句だと思います。
22 球根の  チュウリップそれともクロッカスの球根でしょうか? 思ったより深く植え込まないといけないようです。冬の寒さに当たらないと花は咲かないそうで我々人間は自然界から学ぶ事が多いですね。

【 戸田九鈴 選 】
04○ 天井の  「天井の隅」と「暮早し」の取り合わせは、隅に置けませんでした。
07○ 磨きけり  寄り合いがあるのでしょう。ちょっと自慢な芋の煮物なんかが並びそうです。磨く、名月、大薬缶と印象深い言葉が並ぶので、上五は強調されすぎるような気がします。
17○ 三世代の  ありふれた光景ですが、なんとも目出度いですね。三代としていただきました。
08 小春日の  しょうもないタオルである。
12 バイパスの  雰囲気がありますが、「灰色匂う」は意味深でよく分からなかったです。
13 ふぞろひな  ふぞろいな林檎うさぎ、が好きです。でも「ふぞろい」は「不細工」なのか「並んでないこと」なのか、何人もが作っているために「一個一個が違う」なのか、分かりかねました。

【 野草 選 】
15 霜の夜を  乾き切つたる月の肌と全く根拠のない断定がよい。
16 遥かなる  それほど遠い筈のない薄野原を遥かと誇張したのが面白い。雲の動きが読み込まれていればさらによかったと思います。
27 落葉焚き  素直な写生。作者はこの情景の何に感動したのでしょう。小さな旋風がすぐ消え何事もおこらないのでほっとしたのか。あるいは次に起こる大事件を暗示しているのか

【 中村阿昼 選 】
○01 拝啓を  なかなか心暖まる(?)書き出しの文句ではないでしょうか。
○05 マスクして  口、耳、目を塞ぎつつ実は全部耳がポイントなのが面白い。順番を間違えてはいけないのかも。
○07 磨きけり  大勢の月の客を見送った後は薬缶をごしごし。上五、「磨きあげ」ぐらいでもいいかなあ。
△02 川沿いを  リズムは好き。鼓笛隊が本物かこがらしの見立てかわからないところがちょっと。
△08 小春日の  「水滴吸わぬタオル」は実感があって好き。小春日は動くかと。

【 鋼つよし 選 】
02 川沿いを  リズミカルで、カ行音の響きが心地よい。
14 真四角の  真四角とあえて表現したところがよいのか読んでいて気持ちがよい。
26 冬晴れだ  俳句は片言の詩とも、ぴたりと言葉が決まっている。
◎印をつけたけれど、舌頭千転してみるに滑らかにこない句2句
04 天井の隅つこの暮早きこと 08 小春日の水滴吸わぬタオルかな
 08の句の中七 す、す、ぬ がどうも 小春日の水を吸はざるタオルかな ではどうでしょうか。

【 中村ふみ 選 】
04 天井の  日の暮れるその早さを、「天井の隅つこ」という限定された場所をあげて表した点がおもしろかったです。この言葉によって西日の指し込む部屋で、ぼんやりと一日が、そして季節が過ぎていくのを感じている様子が伝わります。
12 バイパスの  ”灰色匂う”にやられました。「道」はいつの時代でも、人に一種の感傷を呼び起こす存在ですが、都会の味気ないバイパスも、またそうなのですね。
11 風が来て  本当に単純明快な句。でも、このシンプルさが、どこか心地良いです。

【 小川春休 選 】
○14 真四角の  遠火事を見たときの、何か不安な、居心地の悪いような感じが伝わってくる。その感じは「火事遠し真四角の屋上にいて」とした方が強く伝わるかも。
○11 風が来て  景が気持ち良いです。上五は「吹く風に」や「南風」などにした方がすっきりするかな? ただ、そろそろ夏(蜘蛛の子)の句は季節はずれな感じがしますね。
○21 この度は  軽やかな表現も「枇杷の花」も良いです。味のある絵手紙のよう。
01 拝啓を  下半分はとても魅力的だけど、「拝啓を略し」がちょっと説明的な気も。
02 川沿いを  「こがらし鼓笛隊」が童話的でカワイイしリズムも良い。が、具体的な表現の句と比べるとちょっと弱いかも。この弱点は「川沿いを行くよ」をもっと鮮度の高い表現にすることでクリアできると思う。
05 マスクして  この句は惜しい。下五が安易な感じがする。マスク・ウォークマンと来た後に眼鏡が来ても、インパクトがないのだ。師に「春の耳」の句もあることだし。
06 竪琴を  ちょっと空想的過ぎるのでは?
08 小春日の  何を拭こうとしたのかなとか想像を広げようとすると、ちょっと具体性に乏しい気もします。
12 バイパス  「トマトの赤を食ふ」とかいうのと同様に、色彩という一要素を強調した言い方。巧みである。
17 三世代の  「三世代の金魚」が面白いだけに「出で来る」がふつうなのがもったいない感じ。
18 東京の  「東京へ初氷」とはどういう行動でしょうか。クール宅急便?
19 立冬や  切れが二つ。「掻いてをり」などとしては?
22 球根の  上五中七、勢いがあって好きです。しかし、「乾く」は冬のイメージに含まれているので、わざわざ言わずとも「冬ざるる」などで良いのでは?
24 冬の野に  「止まるや」とすれば素早さが出るかも。
25 凍雲や  上五が動いてしまう。「凍雲」ならでは、という句にしなくては。同時にツキスギにも注意しながら。
26 冬晴れだ  「冬晴れ」の明るさと「昨夜」の嫌な出来事との対比がはっきりしすぎている。上五次第でよくなりそう。
28 辰年の  「巳年の」とすれば、年賀状に使えそう。縁起が良い感じがするし。


来月の投句は、12月15日までに、3句お送り下さい・・・・・・投句はこちら

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