ハルヤスミ句会 第5回

2001年1月

《 投句 》

01 初雪や夫婦喧嘩の溶け所     野草

02 青々と雪降りつもれ街灯に    ねね

03 永田町とりまいてゐし冬の靄   なつめ

04 注連売に辻を譲れる占ひ師    阿昼(夏)

05 着膨れて体温計を銜へをり    春休

06 軒しずくぽとぽと落ちて雪の穴  つよし(春)

07 慈姑のあちこち向きて寒水に   ふみ

08 日没に平らな町で死んだ人    海南江

09 冬ぬくし河馬の背中に毛の疎ら  夏実(阿・ふ)

10 霜柱山の小石の落ちる音     野草

11 ポケットに破れ犬飼う月蝕夜   海南江

12 小晦日ポストの口が突つかえる  阿昼(海・桂・春)

13 ドアノブのまんま真上の氷柱なり つよし

14 待春の胸張つて立つペンギンよ  春休(夏・桂・ね)

15 草野球する一団も初比叡     ふみ(野)

16 春遅し平熱の花にさへ屈む    海南江

17 捨て雪にビオラの花弁まじりをり 桂香(つ・な)

18 ラガーメン短く学歌うたひけり  なつめ(つ・桂)

19 撫でていてゆめのみぞおちゆびのまた 海南江(ふ・ね)

20 特急の加速始まる冬野かな    夏実(春)

21 個食して風の通える青空か    海南江

22 めじろにと蜜柑刺せしも鵯ばかり 桂香

23 シャンプーを傾けて押す三日かな 夏実(つ・阿・な)

24 抱かれたる子が涙目や初詣    阿昼(野)

25 寒波来る為替相場の下落する   なつめ(海)

26 午後三時背伸びしてみる冬木立  ねね(つ)

27 病窓に初日染み入る富士の峰   野草

28 初声に仔猫の鈴が答えけり    桂香(阿)

29 新年の川で気づくや忘れ物    ふみ

30 くちびるに残る七種粥の味    春休(野・ふ)

31 放射冷却放射状なる薄氷     つよし(海・ね・な)

32 靴底の等高線に来る春風     海南江(夏・つ)



【 海南江 選 】
12 小晦日  小晦日につっかえると言うのがいいですね。進めない歯がゆさのようなものも感じます。
25 寒波来る  相場の急落が人々の狂奔とともに想像されるよう。渇いた感じが響いている。
31 放射冷却  薄氷が毒物のようにみえてくる。わずかに溶けて軋むとき熱を放っているような。

【 山田野草 選 】
○24 抱かれたる  親子の初詣風景。親にとってはこの句が、一生記憶にのこるでしょう。
○30 くちびるに  新年には七種粥の味が欠かせません。野草のまず味が好ましく浮かびます。味は唇には残らず、口中にいっぱい広がったと思います。
○15 草野球  お釈迦様の御教えは信仰心の薄い衆生も救うのです。”も”は小馬鹿にした感じです。”の”というところではないでしょうか。

【 かたぎり夏実 選 】
○04 注連売に 吹きっさらしの中、どっちにしても寒そうですよね…。
○14 待春の  寒さに弱い種類は、ストーブをつけてもらった部屋に籠もっているそうです。でも、この子は健気…。
○32 靴底の  …等高線に春来たる とか、春の風 とかになるとよかった。
17 捨て雪に  なんか内地っぽくっていいですね。札幌ぢゃ、ビオラなんて根雪の底のまた底です。(ちょっとやそっと掘ったって出てきやしません。)

【 鋼つよし 選 】
17 捨て雪に  捨て雪は、塊となつていくらか土の汚れも目立つなかに一弁の花に微笑みを感じます。
18 ラガーメン  学歌を短く歌うというのは、今の流行なのかどうか、中七がよい。
26 午後三時  あたたかい室内での背伸びでしょうか。葉をすっかり落とした木立を通して、夏の間、気づかないことも発見できたりしてなかなかよいものです。
23 シヤンプーを  正月早々のユーモア。こんな日常吟もよい。
32 靴底の  靴底の等高線を俳句に詠み込んだのには感服したけれど五、七、五にまとめると「春風」をしんぷと読まねばならないので(しゅんぷう)と読みたい。来るを春風来というのもある

【 北村桂香 選 】
12 小晦日・・・・・年内に投函だけはしておこうとポストに駆けつけたのになんだってストンと落ちてくれないのよ・・・。気忙しく慌てている様が愉快です。
14 待春の・・・・・ペンギンは実は温帯に住む種類が多いのですよね。胸を張って直立不動のペンギンよ、今しばらく春を待ちましょう。「なおれっ!」
18 ラガーメン・・・これぞ男の世界。戦い終えて誇らしく野太く歌う校歌がすでに日が傾いた辺りにひろがって・・・。

【 中村阿昼 選 】
◎09 冬ぬくし  冬日の当たる河馬の背中が目に浮かぶ。冬晴の動物園に行きたくなった。
○28 初声に  「答えけり」がやや甘いけど、素直で可愛い句。朝の寝床のなかで聞いているのかも。
○23 シャンプーを  三日の必然性が弱いけど、「傾けて」のリアリティに一票。

【 中村ふみ 選 】
09 冬ぬくし  私、何故か河馬、サイ、鰐等の俳句が好きなのです!でも、私の河馬好きを抜いても、やわらかくって悲しい雰囲気のある良い句だとおもいます。ちなみに、象の頭もショボショボの毛が生えていて良いですよ。
30 くちびるに  上品なだけではなく、しっかりと味を感じている点が面白い。こういう日常のこまやかな事を、俳句にできたら、と思う。
19 撫でていて  こういう俳句を作れる人って、なんか凄いですね。私にはなかなか、難しいです。どうしても、甘ったるくて恥ずかしいものになってしまう気がして。いいなあ。

【 六本木ねね 選 】
*14 待春の  ペンギンは、いつも遠くを見ているような気がします。
*19 撫でていて
*31 放射冷却  かかとで踏んで歩く、通学路の水たまりの氷。

【 瀬尾なつめ 選 】
◎17 捨て雪に  パンジーの一種ビオラの発音の濃厚さに、捨て雪がうまく溶け込んでいると感じました。色彩の妙と、読みの妙。
○23 シャンプーを  『3日』という季語は意外と詠み切れないのですが、日常でありながら傾けてシャンプーを使うというそろそろなくなるかな?という微妙な時期が綺麗に溶け込んでいると思いました。 
○31 放射冷却  薄氷は”うすらひ”と使うほうが個人的には好きなのですが、放射冷却との取り合わせの妙に感嘆致しました。
28 初声に  選には入れなかったのですが、かわいらしい雰囲気がくどくなく素敵な一句と思います。

【 小川春休 選 】
○12 小晦日  せわしさを出しながら裏切りもあって面白い句。でも「突つかえるポストの口や小晦日」かな。
○20 特急の  上五中七、勢いがありムダもなく良い表現ですね。ただ、もしかしたら「枯野」の方が良い句かな、とも思います。
○06 軒しずく  下五のまとめ方の良さでいただきました。
 02 青々と  この場合は「あをあを」とひらかなでぼかした方が良さそう。街灯に積む雪を青々ととらえた感覚はとても良いんだけど、はたして命令形にする必要があるかな。「街灯にふりつむ雪のあをあをと」とか。
 03 永田町  川柳的な政治諷刺になってますね。
 09 冬ぬくし  河馬と言うと坪内稔典さんが思い出されますね。稔典さんの河馬は観念っぽいけど、この句は実物っぽいな、と思います。「背中の」の方が自然なように思います。
 10 霜柱  こういう句、私もよく作るんで気持ちはわかるんですが、中七下五の具体性が弱いんですね。お互いに気を付けましょう。
 15 草野球  「草野球」と「初比叡」の取り合わせは、意外性もありながらよく合ってますね。それだけに、中七にもう一工夫ほしい。
 16 春遅し  草城の「高熱の鶴」を思い出しますが、「平熱の花」はイメージがちょっとつかみにくい気がします。
 17 捨て雪に  良い所を見ていると思います。ただ、もっとピントの合う言い様があるはず。
 22 めじろにと  ぜんぶ説明になっちゃってる気がします。
 24 抱かれたる  「子」を詠むのは難しい。この句もちょっとありがちになってる気がする。パパの撮ったホームビデオっぽくなっちゃうんですよね。


来月の投句は、2月15日までに、3句お送り下さい・・・・・・投句はこちら

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