ハルヤスミ雑詠選集

巻之一




  第一回 二〇〇〇年九月

百間の秋の廊下を振りかへる    中村阿昼

オホーツクの風に乗りけり草のわた 石井みや


  第二回 二〇〇〇年十月

秋の雲半端に切れしセロテープ   瀬尾なつめ


  第三回 二〇〇〇年十一月

真四角の屋上にいて火事遠し    中村ふみ


  第四回 二〇〇〇年十二月

吹く息にゆるくくぼめる葛湯かな  小川春休


  第五回 二〇〇一年一月

小晦日ポストの口が突つかえる   中村阿昼

待春の胸張つて立つペンギンよ   小川春休

シャンプーを傾けて押す三日かな  こると漣

放射冷却放射状なる薄氷      鋼つよし


  第六回 二〇〇一年二月

雪晴や川に沿ひたる靴の跡     こると漣

風船の割れて結び目残りけり    小川春休


  第七回 二〇〇一年三月

春の野に在ればくつつく飴と飴   小川春休

象に乗りかくんかくんと春日傘   北村桂香


  第八回 二〇〇一年四月

蝶生れ翅の重さを曳きにけり    小川春休

パトカーのぱかぱか光る春の夜   中村ふみ


  第九回 二〇〇一年五月

文庫本開いて閉ざす夏野かな    瀬尾なつめ


  第十回 二〇〇一年六月

 (諸事情により休会)


  第十一回 二〇〇一年八月

夕立の来るまで街を歩くなり    中村阿昼

鳴き交はすことにはじまり虫の夜  鋼つよし

夏蝶やがらんとしたる窯の穴    中村ふみ


  第十二回 二〇〇一年九月

画鋲のみ壁に残され九月かな    松尾むかご


  第十三回 二〇〇一年十月

芋掘るや丘の突端まで畑      松尾むかご

水底を亀は歩くや秋深し      松尾むかご


  第十四回 二〇〇一年十一月

逆立ちの蜘蛛の眼に入る鰯雲    鋼つよし

麦の芽や四つの島が一つに見え   松尾むかご


  第十五回 二〇〇一年十二月

泡盛に舌のしびるる年つまる    鋼つよし


  第十六回 二〇〇二年一月

月曜の新聞軽く初氷        鋼つよし

とんどの火見えて踏み切り開かざる 松尾むかご


  第十七回 二〇〇二年二月

雪解田に広がり進む雲の影     中村ふみ


  第十八回 二〇〇二年三月

芝青む「いちにつさん」と消防士  松尾むかご

その先に夜の来てあれば梅まばら  小川春休


  第十九回 二〇〇二年四月

囀りに窓を開くや山迫る      松尾むかご

若芝や犬の両耳裏返る       こると漣


  第二十回 二〇〇二年五月

永き日のショーウィンドウに眠る猫 中村阿昼

畳まれて顔ばかりなる鯉幟     小川春休

おひさまにおしりをむけて田植えかな 小川やすみ


  第二十一回 二〇〇二年六月

清水飲んで大いに胸を濡らすかな  小川春休

鴎外忌背すじ伸ばして立ち読みす  中村阿昼


  第二十二回 二〇〇二年七月

手も足もつつぱりどほし水馬    松尾むかご

玉葱のひげそろひたる軒の下    小川やすみ


  第二十三回 二〇〇二年八月

足湯して数えてゐたる流星     松尾むかご


  第二十四回 二〇〇二年九月

鶏頭の土にスコップ突き刺さり   小川春休

をんなの身乗せてやうやく南瓜割る 小川春休

灯台に列なし登り鯊日和      松尾むかご

かんたんな服着て帰る秋の出湯   中村阿昼


  第二十五回 二〇〇二年十月

秋の蚊のまつわり来るや納戸まで  鋼つよし

秋灯下スリッパ離ればなれかな   松尾むかご


  第二十六回 二〇〇二年十一月

マフラーを畳むや尻に敷いてをり  鋼つよし

よく眠る嚔出さうな顔のまま    小川春休


  第二十七回 二〇〇二年十二月

ダンサーの手拍子響く寒ざらへ   戸田九鈴

行く年の箸浮かびゐる洗ひ物    小川春休


  第二十八回 二〇〇三年一月

干布団叩くやかもめすぐ側に    松尾むかご

あたま無きたいやきが湯気もはもはと 小川春休


  第二十九回 二〇〇三年二月

春はあけぼの納豆の糸渦巻いて   小川春休


  第三十回 二〇〇三年三月

雪の山木の芽の山や川流る     戸田九鈴

蛇いでし穴へと流れ込む雨ぞ    小川春休

靴と靴打つて落とすや春の土    小川春休


  第三十一回 二〇〇三年四月

春水に洗ふやぴんと猫の髭     小川春休

猫の恋トンネル二つ並びけり    戸田九鈴

亀鳴くや伏せて置かれし洗面器   松尾むかご

青嵐ジープにドアのなかりけり   小川春休


  第三十二回 二〇〇三年五月

蝌蚪生まる原生林の水溜まり    こると漣


  第三十三回 二〇〇三年六月

ひとまはり山ふくらませ栗の花   戸田九鈴


  第三十四回 二〇〇三年七月

荒梅雨や降ろす国旗の紐固く    鋼つよし

玄関を狭めポンポンダリヤかな   小川春休


  第三十五回 二〇〇三年八月

桶の水こぼしつつ来し墓参     松尾むかご



  第三十六回 二〇〇三年九月

糸瓜水一リットルは溜まりをる   鋼つよし

天高くよく食ひ笑ひて帰りけり   戸田九鈴

残る蛾や自動販売機につどひ    小川春休


  第三十七回 二〇〇三年十月
     
こま
掌にのせて細しや今年米      鋼つよし

間引菜にモンゴルの塩ふりにけり  渋川どんぐり

干し布団同じ模様で赤と青     松尾むかご


  第三十八回 二〇〇三年十一月

野間馬の頸添ひ立てり初時雨    じゅん
  ※野間馬(のまうま)……愛媛県今治市野間に生存する日本最小の在来馬

霜月の堅焼きそばをほごしけり   舟まどひ

立冬の工場より人湧き出せる    松尾むかご


  第三十九回 二〇〇三年十二月

手袋を脱ぐ間や蕎麦湯置かれたる  松尾むかご


  第四十回 二〇〇四年一月

書初めのおの字はみ出てほめらるる 舟まどひ

篝火の燠となりをり初詣      鋼つよし

初伊勢や賽銭受のひろびろと    舟まどひ


  第四十一回 二〇〇四年二月

見送りの後に落ちけり寒椿     小川やすみ

春一番よりかかるもの倒しけり   松尾むかご


  第四十二回 二〇〇四年三月

涅槃会の受付にゐる恩師かな    鋼つよし

芹摘みの流れに白根揃えたる    松尾むかご


  第四十三回 二〇〇四年四月

花びらのまぶされている泥団子   舟まどひ

山道の曲り細りて残花へと     小川春休


  第四十四回 二〇〇四年五月

万緑を大きく吸ひて吐き出せり   舟まどひ

つかはれぬ線路であれば茂りけり  小川春休


  第四十五回 二〇〇四年六月

炎昼に回しきたるや岩魚酒     鋼つよし


  第四十六回 二〇〇四年七月

夏燕郵便局に集まりゐ       鋼つよし

きしみつつ極暑の門の開きけり   小川春休


  第四十七回 二〇〇四年九月

地下深くつながつていて毒茸    松尾むかご


  第四十八回 二〇〇四年十月

とろろ汁これじや濃いとか薄いとか 山田つばな


  第四十九回 二〇〇四年十一月

へひりむしとまりそこねてころげたる 山田つばな

枯草を抜けばみづみづしき根つこ  小川春休


  第五十回 二〇〇四年十二月

冬の蠅電気の紐と共に揺れ     松尾むかご

黄身あおく茹だりて寒の玉子かな  こると漣


  第五十一回 二〇〇五年一月

元日の事務所の番を引きあてり   鋼つよし

湯治場の病自慢も初笑い      舟まどひ

臨月の臍消え失せし初湯かな    小川春休


  第五十二回 二〇〇五年二月

婆ちゃんに寒いといえば飯食えと  渋川どんぐり

手も顔もふやけて雪に産まれし子  小川春休


  第五十三回 二〇〇五年三月

春の雪止めば明るくなりにけり   山田つばな

啓蟄の早足虫や鎌の先       鋼つよし


  第五十四回 二〇〇五年四月

入院す春の炬燵をそのままに    舟まどひ

蟻生まれ社長の家に近づきぬ    山田つばな

神田川けふの花びらゆきにけり   舟まどひ


  第五十五回 二〇〇五年五月

てつぺんにねじり上げたる祭髪   舟まどひ

アカシアの花たふたふとふりかかる 山田つばな


  第五十六回 二〇〇五年六月

表札の名前をなぞりなめくぢり   小川春休

揉め事を三つ収めて祭り笛     舟まどひ


  第五十七回 二〇〇五年七月

明易の吾子寝て起きて寝て起きて  小川春休

ほうたるの沈んでゆきし沢の音   山田つばな

夕立を逃げてやしろのがらんどう  金子由宇


  第五十八回 二〇〇五年八月

初秋のすすむ時計をもどしけり   山田つばな

赤ん坊に鼻を掴まれ生身魂     小川春休


  第五十九回 二〇〇五年九月

銀やんま翔ぶや雨粒はね飛ばし   小川春休

月白や荷台に鮮魚積み上げて    渋川どんぐり

踊り子は踊り櫓を放れゆく     舟まどひ

気の利いた言葉が出ない月夜かな  山田つばな


  第六十回 二〇〇五年十月

この箱のかなり窮屈黒葡萄     小川春休

よく切れぬ鋏叱るやそぞろ寒    小川春休


  第六十一回 二〇〇五年十一月

呼ばれた気しつつに新酒またふくむ 小川春休

障子まだ開けられざれば這ひまはり 小川春休


  第六十二回 二〇〇五年十二月

麦麹かすかに匂ふ障子かな     渋川どんぐり

遮断機の長きをコートの襟立てる  金子由宇


  第六十三回 二〇〇六年一月

神楽見に布団と酒を担ぎ来て    渋川どんぐり

立てつけの悪しきを蹴るやしづり雪 金子由宇

冬帽を脱がん脱がんと赤子かな   小川春休


  第六十四回 二〇〇六年二月

深く掛け堅きベンチや春隣     舟まどひ

積み木つむ音をちひさく春の雪   小川春休

なで仏くまなくなでる日永かな   舟まどひ


  第六十五回 二〇〇六年三月

松の葉に水気たつぷり名残雪    鋼つよし

耕して忘るるあれやこれやかな   小川春休

淡雪やかがめば深く象の皺     舟まどひ

願懸けも今日までと言ふ蕗のたう  渋川どんぐり


  第六十六回 二〇〇六年四月

春興の顔そむけあふタンゴかな   舟まどひ


  第六十七回 二〇〇六年五月

山里のあけっぱなしの春燈     舟まどひ

おむつ換へしつつに春を惜しむなり 中村阿昼

蛙の夜ただ一枚の田んぼから    渋川どんぐり

初夏の入らぬ服を捨てかねる    山田つばな


  第六十八回 二〇〇六年六月

穴ひとつ水面に開くが蝌蚪の口   小川春休

路地涼しまたもや同じ柄の猫    中村阿昼


  第六十九回 二〇〇六年七月

炎天や鞄の底に本ひしやげ     小川春休

荒縄に氷一貫下げ来たる      舟まどひ


  第七十回 二〇〇六年八月

橋一つ渡す影さへ灼かれをり    金子由宇

おもむろに座り直して盆の僧    山田つばな


  第七十一回 二〇〇六年九月

銀漢の向きに寝袋並べけり     渋川どんぐり


  第七十二回 二〇〇六年十月

秋水や羽根つくろへば波生まれ   小川春休

何の日やら八幡様に秋燈      渋川どんぐり


  第七十三回 二〇〇六年十一月

我楽多に値のつく小春日和かな   舟まどひ

脱衣場にばらばらばらと椎こぼれ  渋川どんぐり


  第七十四回 二〇〇六年十二月

頬二つ打ちて寒さに負くまじき   小川春休

糸となり玉となりけり年の塵    渋川どんぐり


  第七十五回 二〇〇七年一月

手ふるへるほどの大椀薩摩汁    小川春休


  第七十六回 二〇〇七年二月

コルク栓抜けばきゆぽんと萌えはじむ 小川春休

春の波引くや次なる波のなか    渋川どんぐり

春うれひなどまだ無くて電車好き  小川春休


  第七十七回 二〇〇七年三月

春の鶏羽根蹴ちらしてきたりけり  小川春休

日を弾く幼の頬や猫柳       金子由宇

春眠をむさぼる夢にめざめけり   梅原あたみ

春月やいくらかけても話し中    山田つばな

浜大根吹かれ物干竿鳴つて     渋川どんぐり


  第七十八回 二〇〇七年四月

笛一人太鼓一人や春祭       渋川どんぐり

初蝶の羽をぴたりと閉ぢてをり   山田つばな


  第七十九回 二〇〇七年五月

新緑や手品に拍手まばらなる    小川春休


  第八十回 二〇〇七年六月

逃げ癖のついてしまへり雨蛙    山田つばな

盛り塩をこはさぬやうに水打てり  舟まどひ

幼子の深き睡りに蛍来る      金子由宇

バス六台乗せしフェリーや油照り  小川春休

かぶせれば麦わら帽子が歩くやう  中村阿昼

梅雨入して一本曲がる猫の髭    山田つばな


  第八十一回 二〇〇七年七月

頭のみ出でて青田の白鷺よ     小川春休

忘られぬならそのままに夏つばめ  山田つばな


  第八十二回 二〇〇七年八月

柩ゆく庭夏草に擦られつつ     舟まどひ


  第八十三回 二〇〇七年九月

二学期の窓に横顔見つけたり    舟まどひ

大蛇八匹神楽舞台をはみ出せり   小川春休


  第八十四回 二〇〇七年十月

搾り出す練り歯磨きや虫の宿    舟まどひ


  第八十五回 二〇〇七年十一月

バスを待つ鼻につんつん秋刀魚かな 梅原あたみ

金庫番ひねもす足を焙りては    舟まどひ

嚔して直すともなくネクタイを   小川春休

はばたきのはじめの羽音冬水に   渋川どんぐり

山眠り泡風呂に泡消ゆる音     小川春休


  第八十六回 二〇〇七年十二月

紅葉山葉書狭しと描きけり     小川春休

アコーデオン冬の空気を吸うて吐き 小川春休


  第八十七回 二〇〇八年一月

スーパーで訊く黒豆のありかなど  中村阿昼

初夢を見てをるらしき寝言かな   小川春休

ひらひらととんどの灰よ川を越え  小川春休

てのひらも顔もとんどの灰まみれ  小川春休

一木へかたまり逃げて寒雀     鋼つよし

振袖はいらぬ成人の日の海     舟まどひ


  第八十八回 二〇〇八年二月

節分の小鬼転んでしまひたる    山田つばな

恋猫に水疱瘡の子が怒る      中村阿昼


  第八十九回 二〇〇八年三月

お土産は鮭のおむすび鳥帰る    山田つばな

春ともし婚儀のあとの庭ひろく   小川春休


  第九十回 二〇〇八年四月

ぼんぼりをぬければ花の森となる  渋川どんぐり


  第九十一回 二〇〇八年五月

春炬燵買うて程なく逝かれしよ   小川春休

牡丹より小さき頭と撫でらるる   中村阿昼

竹散るや臼を郵便受けとして    舟まどひ


  第九十二回 二〇〇八年六月

ひしめいてこぼるるばかり巣の燕  鋼つよし

頬杖も疲れるものや桜桃忌     舟まどひ


  第九十三回 二〇〇八年七月

噴水や二段三十六方に       渋川どんぐり

膏薬を貼りあうてゐる蚊帳の中   舟まどひ

こんなにもアロハが似合ふおひととは 中村阿昼


  第九十四回 二〇〇八年八月

ロープウェイ残暑の街を離れけり  小川春休

釣堀に猫をり猫のお皿あり     中村阿昼


  第九十五回 二〇〇八年九月

三毛猫をあぐらに乗せて月の客   山田つばな

猪垣や神楽舞台のすぐうしろ    小川春休


  第九十六回 二〇〇八年十月

駆けつこの形に秋の昼寝かな    中村阿昼

溢蚊よ天守閣までよう来たな    小川春休


  第九十七回 二〇〇八年十一月

冬田売る噂またたく間に村に    小川春休


  第九十八回 二〇〇八年十二月

風邪の眼にいよいよ睫毛おもたげな 小川春休

引き出して中うつろなる毛糸玉   舟まどひ


  第九十九回 二〇〇九年一月

ぶらんこも私も冬日浴びてをり   中村阿昼


  第百回 二〇〇九年二月

春寒し新聞に紐食ひ込みて     小川春休

チャンネルを変へて一人の春炬燵  山田つばな

春潮や大観覧車ゆか透けて     舟まどひ



 本選集は、ハルヤスミ句会百回を記念して、それぞれの句会での一番人気句及びそれに準ずる高点句を選び出したものである。句会毎に選出句数にばらつきがあるのは、突出した高点句がない時に横並びで多数の人気句が出たためである。

 平成二十一年三月十八日
小川 春休

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