ハルヤスミ句会 第百五回

2009年7月

《 句会報 》

01 踏切が上がるや走る立葵     春休

02 母に手を引きづられをり藍浴衣  つばな

03 ひと唸りしては熊蜂次の薔薇   まどひ(き・春)

04 歯磨きが鏡に散つて青嵐     春休(あ・波)

05 ここだけの話はなかり心太    きさ

06 驟雨来て母の編み物濡らしけり  順一

07 クオークオーと雉の鳴くなり青田風 つよし

08 青梅雨や通園バスを待つに唄   阿昼(山)

09 夕立ちや窓をあちこち閉め回る  順一

10 あぢさゐの踏み止まつてゐる時間 佳子

11 ひと際に髪を立たせて夏祭    波子(き)

12 ほおかぶり草払うこと梅雨晴れ間 あたみ

13 背の子の花火臭さよわれもまた  春休(き・佳・阿)

14 しんだふりしてはしりだす油虫  つばな

15 呼び物のこれが白虎やサングラス まどひ

16 藻畳や炎昼の日にさらさるる   きさ

17 万緑や一歩に一つ息吐いて    春休(あ・山)

18 とうすみのとまりて川の音高し  つばな(波)

19 バナナ剥く猿や辺りに目をくばり まどひ(鋼・あ・春)

20 訪ひたれば蒼朮の煙うすうすと  きさ(佳)

21 遠雷や降り込む早さ本を積む   順一

22 同級の医者の入院半夏生     つよし(阿)

23 お見合ひの話素麺すすりつつ   阿昼(ま・波)

24 みじか夜の字幕から目が離せない 佳子(山・春)

25 息吸うて歌ひ始むや油照り    春休

26 鰻屋のうまい煙の吐き通し    順一

27 身籠るを娘に聞くは夏至の夜   つよし

28 草も樹も伸び放題や送り梅雨   あたみ

29 夜濯の溶け出しさうなものばかり 佳子(鋼)

30 月涼し奥歯で割れるビスケット  波子(佳・阿)

31 妻の詫び状お鮓失敗しましたと  阿昼

32 水槽に潮騒を聴く海月かな    佳子(ま)

33 子等去って櫂の音きく夕端居   波子

34 袋掛け網も掛けられ鳥は居ず   順一

35 案の定どしゃぶりの中海開き   あたみ(鋼・ま)



【 鋼つよし 選 】
○19 バナナ剥く  人間にあまりにも似ている。
○29 夜濯の  溶け出すという発見は見たことがない。
○35 案の定   今年は梅雨明けが遅いようだが、案の定がよい。

【 山下きさ 選 】
○03 ひと唸り  熊蜂の生態をよく捉えている。次の薔薇、という止め方がいいです。
○11 ひと際に  粋なオニイサンが見えてくる。夏祭に合っている。
○13 背の子の  花火見物の名残がよく出ている。親も子もあの花火のにおいをつけてという感じがいい。
 01 踏切が  立葵が走っているように読めるので、〈踏切を走り抜けるや〉とかとしてはどうでしょうか。
 02 母に手を  子供が手を引きずられているのですね。子供は藍浴衣を余り着ないのではと思いますが。
 04 歯磨きが  上五中七がいいので、別の季語の方が合うのでは?青嵐は外の景ですね。
 06 驟雨来て  外で編み物をしているのでしょうか。
 09 夕立ちや  ちょっと当然かな?って思います。
 12 ほおかぶり  〈梅雨晴間ほほかぶりして草払ふ〉ということでしょうか。
 18 とうすみの  よくできていますね。景もみえてきます。次に採りたかった句ですが川ととうすみはちょっとつき過ぎかな。
 21 遠雷や  何故本を積むのでしょうか。ちょっと分かりにくいです。
 24 みじか夜の  ホントホントよく分かりますね。
 25 息吸うて  どういう状況で歌っているのかもう少し分かるといいのでは?
 29 夜濯の  いろいろ想像が膨らみますが、もう少し具体性が欲しいように思います。
 30 月涼し  この句も好きな句です。ビスケットのサクッとした感じと季語が合っている。ただ、前歯ではなく、奥歯なのか、とちょっと意外。
 31 妻の詫び状  なんか面白いですね。メールかも知れませんが 詫び状がちょっと気にかかりました。
 35 案の定  ああ、やっぱりという感じが出ていますね。

【 水口佳子 選 】
○13 背の子の  フレーズは平凡と思いましたが、下五「われもまた」によって良くなったように思います。同じ時間を子どもと共有した後の心地よい倦怠感ですね。
○20 訪ひたれば  蒼朮の句は初めて見ました。田舎の古い民家を思い浮かべ、またそこに住んでいる人のつましい生活を思い浮かべました。「煙」はこの場合「えん」と読むのでしょうね。
○30 月涼し  ビスケットのサクサク感が「涼し」に現れています。でも月という言葉が丸いモノを連想させて(もちろん三日月もありますが)もう少し離した方が良かったかなとも・・・
 01 踏切が  正確には遮断機が上がるのでは?
 02 母に手を  「引きづられ」は「引き摺られ」なので「ず」が正しいでしょう。
 17 万緑や  最初惹かれた句ですが、やってみたら私の場合二歩にひとつの息になりました。よちよち歩きのお子さんか、ご老人とも考えられますが。
 23 お見合ひの  きっと何回かお見合いをしたのでしょうね。だからあまり深刻にならないように、軽い感じで素麺でもすすりながら・・・やけに音を立てながら食べているのではないでしょうか。ちょっと可笑しい句。「お見合ひ」という言葉に少し引っかかりました。「お」がどうか。
 31 妻の詫び状  こんな可愛い奥さんになりたいものです。でももう手遅れ・・・

【 梅原あたみ 選 】
今月は選句だけと致しますので宜しくお願い致します。
○04 歯磨きが鏡に散って青嵐
○17 万緑や一歩に一つ息吐いて
○19 バナナ剥く猿や辺りに目をくばり

【 舟まどひ 選 】
○23 お見合ひの  見合い話って案外こんな感じかも。どんなひとが話を持ってきたのか分かるような句。
○32 水槽に  悲しさとロマンのある句。そしてとても孤独な。
○35 案の定  雨に打たれている海の表面。人々の慌ただしい動き。その後の何もない雨の音だけの浜。

【 喜多波子 選 】
○04 歯磨きが  初夏の風の風で 歯磨きをしていたら 鏡に歯磨きが飛んでしまった 一瞬の切り取りが上手です
○18 とうすみの  糸とんぼの別名を知りませんでした 調べて解ったのです 川の音高し・・が とうすみの季語に合っていると思いました
○23 お見合いの  冷素麺をすする音とともに その場に居る家族の姿などが見えてきます 好きな句です

【 山田つばな 選 】
○08 青梅雨や通園バスを待つに唄
○17 万緑や一歩に一つ息吐いて
○24 みじか夜の字幕から目が離せない
以上です。

【 中村阿昼 選 】
調子が悪いので、今回は選のみとさせてください。
○13 背の子の花火臭さよわれもまた
○22 同級の医者の入院半夏生
○30 月涼し奥歯で割れるビスケット
他に好きな句  
 02 水槽に潮騒を聴く海月かな
 33 子等去って櫂の音きく夕端居

【 小川春休 選 】
○03 ひと唸り  この「ひと唸り」は、薔薇から飛び立つ熊蜂の「よっこいしょ」という掛け声のようなものでしょうか。リアリティと躍動感がある。たくさん咲いている薔薇の奥行きも感じられる。
○19 バナナ剥く  油断すると周りの猿に持って行かれちゃうんでしょうね。猿の動きから雰囲気まで、よく見えてきます。
○24 みじか夜の  「字幕から目が離せない」映画と言えばサスペンスでしょうか。夜の短さが緊迫感を一層引き立てているような趣があります。
 02 母に手を  子供にしては藍浴衣とはちょっと渋めですね(お母様のチョイスでしょうか)。手を引かれる様子と相俟って、ちょっと気の弱そうな子供の様子が窺われます。
 05 ここだけの  拍子抜けしてしまう感じがいかにも「心太」らしいです。
 08 青梅雨や  唄はやっぱり「あめあめふれふれ」でしょうか。微笑ましい。
 09 夕立ちや  残念ながら原因・結果になってしまっています。
 11 ひと際に  祭らしさ、気持ちの弾みがよく出ています。下五に「祭髪」を持ってきて、もっと描写を膨らませるのもありかもしれません。
 12 ほおかぶり  上五・中七・下五がそれぞれうまく響き合っていないというか、「草払う」は草刈のことだと思うのですが、草刈も夏の季語なので季重ねですし…。
 14 しんだふり  「死んだふり」と「走り出す」と二つの動きが入っているため、一句の中に時間の経過が生じてしまっています。一つの動きを引き立て、一つの瞬間の景に絞るため、動詞はなるべく少なめにした方が良いです。
 23 お見合ひの  気乗りしてないんでしょうか。とてもまとまりそうにない、素麺のように流れていく見合い話か…。
 26 鰻屋の  「うまい煙」とは面白い表現だなと思いましたが、それに比べると「吐き通し」がちょっと大雑把な表現。ぜひ推敲を。
27 身籠るを娘に聞くは夏至の夜   つよし
 27 身籠るを  娘から自発的に報告した(身籠るを娘より聞く)のか、親が娘に尋ねた(身籠りしかと娘(こ)に聞くや)のか、ちょっと状況がはっきりしません。「を」「は」の助詞がうまく機能していないように思います。
 29 夜濯の  洗濯物の色合いや質感、水の揺らぎが感じられる句。
 30 月涼し  どことなく星野立子を思わせる句です(「いつの間にがらりと涼しチョコレート」があるせいかな)が、「奥歯で割れる」がもう一声欲しい感じです。「奥歯に砕け」「奥歯に鳴れる」とか、もっと生き生きとした句になる表現がまだ他にありそうな気がします。
 31 妻の詫び状  可愛らしいけど、句としては少し弱いかなぁ、という気もします。
 32 水槽に  自分の故郷である海の潮騒を、今は水槽の中で聴いている海月。望郷の念に駆られているかどうかは、海月に聞いてみなくては分からない。なかなかに味わい深い句。
 33 子等去って  良い雰囲気なのですが、「見る」「聞く」などの動詞は省ける場合がままあります。この句も「子等去つて櫂のひびきや」(「去れば」も有りか)とした方が句の姿が良くなるように思います。
 35 案の定  ほんと、今年の海開きはこんな感じでしたね。当方では七月末までの梅雨明けは望めそうもありません。

来月の投句は、8月15日までに、3句お送り下さい・・・・・・投句はこちら

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