ハルヤスミ句会 第百七回
2009年9月
《 句会報 》
01 捕虫網は母に持たせて三輪車 阿昼(波) 02 ばつたとぶ「焼肉バカ」と看板に 春休(阿) 03 秋の蚊の満ちてをるなり応接間 つばな 04 底紅や薄味嫌いの母であり 無三(佳) 05 こほろぎの塀駆け上がる鎌の先 つよし 06 萩の花カメラに収めピンボケで あたみ 07 盆の月子らと座敷に並び寝る 波子(佳・阿) 08 爪立ててラベルをはがす十三夜 佳子(あ・無・山) 09 蝗逃ぐ月とどかざる草叢へ 春休(鋼) 10 さてもまたまずさうに焼く秋刀魚かな つばな(無・波) 11 蟹群れてテトラボットの月夜かな 波子(鋼・山) 12 骨のみとなりし秋刀魚やマタイ伝 無三(◎阿・佳・あ・春) 13 この庭の秋明菊のひろごりて つよし 14 月出づを待ちおこごとの二つ三つ つばな 15 しじみ蝶握つて死なせ泣く子かな 阿昼(鋼) 16 白萩の赤紫に競い咲き あたみ(鋼) 17 敗北はなにゆゑ北か去ぬ燕 春休 18 真夜中をひらききつたる毒茸 佳子(無) 19 ワイパーに野分名残の葉一枚 春休 20 含羞草くしやくしやくしやと閉ざしけり 阿昼 21 大根蒔く隣の畑はもう伸びて つよし(春) 22 「玄米ヲ四合」炊きて賢治の忌 無三(あ・山・春) 23 夏草を焼く煙たち秋彼岸 あたみ 24 教室のがらんだうなり運動会 春休(波) 25 秋深むひとつも鏡置かぬ部屋 佳子 26 こめかみに触るる暖簾も母の衣 波子 |
【 鋼つよし 選 】 ○09 蝗逃ぐ 月届かない草むらとは面白い視点と思いました。 ○11 蟹群れて テトラポットという景色の良くないものを蟹との取り合わせて句にしたと思う。 ○15 しじみ蝶 景色がわかるしリズムもよい。 ○16 白萩の 秋らしいいい景色が表現されている。 【 水口佳子 選 】 ○04 底紅や 「底紅」「薄味嫌い」の言葉によってイメージされる「母」は外交的で少々派手な感じ。およそ俳句に詠まれてきた「母」とはかけ離れている。作者の母親に対する屈折した思いが感じられる。 ○07 盆の月 お盆に家族で帰省したのだろうか。普段は親子別れて寝ているのだが、広い座敷に皆で並び寝て、そのことにある種の新鮮さを感じた作者。古い木造家屋の匂いまで感じられる句。「盆の月」が涼しげで良い。「子らと座敷に」か「座敷に子らと」か・・・何を強調したいかで語順が代わると思う。 ○12 骨のみと まさか「マタイ伝」を持ってくるとは。「骨のみとなりし秋刀魚」という俗っぽい事柄が、ふいに意味深いことのように思えてくるから不思議だ。この秋刀魚が、だんだん十字架に架けられたキリストのように見えてきた。 10 さてもまた 「まずさうに」は正しくは「まづさうに」ですね。まづさうに焼く・・・本当にまずかったのか、まずそうだけれどおいしかったのか、どちらでしょう。 17 敗北は 着眼は面白いと思いました。 24 教室の 「運動会」で「教室」ががらんどうなのは当たり前かと。少し視点をずらして「職員室」とかにするとちょっと面白いかとも思いますが、いかがでしょう。「がらんだう」は「がらんどう」で良いと思いますが・・・ 26 こめかみに 良い句と思いましたが「暖簾」だけでは季語にならないと思いました。「夏暖簾」「麻暖簾」とすべきでは? 【 梅原あたみ 選 】 ○08 爪たててラベルをはがす十三夜 ○12 骨のみとなりし秋秋刀魚やマタイ伝 ○22 「玄米ヲ四合」たきて賢治の忌 【 小津無三 選 】 ○10 さてもまた まずこの句が目に飛び込んできました。あの秋刀魚がそこまでまずそうに見えるとはどういう焼き方なのか。そう思わせるのも句の力でしょう。 ○08 爪立てて そろそろ肌寒くなる頃の寂寥感に、上二句がよく照応していると思います。 ○18 真夜中を 毒茸にも色々ありますが、独特の色彩感に惹かれました。 【 喜多波子 選 】 ○01 捕虫網 私の・・本当に好きな句です 三輪車で全ての様子が解る句です ○10 さてもまた 中7がとても新鮮です 今まで秋刀魚の句を詠んだり 例句を読んだりしていますが このような句がなかったように思います 上手い句です ○24 教室の コレも↑の句と同じで 新鮮でした 運動会の賑やかさと 教室のがらんどうで静かな様子がとても 面白いと思います 【 山田つばな 選 】 ○08 爪立ててラベルをはがす十三夜 ○11 蟹群れてテトラボットの月夜かな ○22 「玄米ヲ四合」炊きて賢治の忌 【 中村阿昼 選 】 ◎12 骨のみと 秋刀魚は上手に食べると長い骨がきれいに残る。秋刀魚という庶民的で日本的な食べ物と、マタイ伝の取りあわせは意外性があるが、細い身体を捧げつくして殉教したキリストの生涯と、かすかに響きあう。 ○02 ばつたとぶ 「焼肉バカ」のインパクトがすごい。なんせ焼肉のことしか頭にない店主は、庭の草なんかむしらない。ばったがぴょんぴょんとぶ草の中を歩いて入口へ辿り着くのだ。 ○07 盆の月 たぶん一人暮らしの母と帰省してきた子供たち(といってももう大人)。夜遅くまでの楽しい会話の余韻でなかなか寝つかれず、月を見上げる。素直に親孝行したくなる句。 他に好きな句 03 秋の蚊の 最近の家はLDKが基本なので、「応接間」は懐かしい響きの言葉になってしまった。きっとあまり使われない部屋なので、秋の蚊に占領されてしまったのだろう。 11 蟹群れて 蟹も集まってお月見、と思うと楽しい。なお、ネットで検索すると、正しくは「テトラポッド」というらしい。私は「テトラポット」だと思っていた。 13 この庭の なんらかの事情であまり手入れをされていない庭なのでしょうが、秋明菊の風情がいいですね。 26 こめかみに 暖簾は季語? 私は麻暖簾を想像したのですが。暑さでくらくらする頭が涼しい衣に触れたとき、それが母のよく来ていた着物だったことを思い出して、懐かしく、ほっとする気持ちになったというように読みました。 【 小川春休 選 】 ○12 骨のみと きれいに骨だけになった秋刀魚の様子に、今日の糧を大事にいただく心情が込められています。 ○21 大根蒔く ああ、ちょっとうっかりしとった〜、という感じでしょうか。せせこましいところの全くない句で好感を持ちました。 ○22 「玄米ヲ四合」 賢治の「雨ニモマケズ」の「一日ニ玄米四合ト味噌ト少シノ野菜ヲ食べ」の詩句を活かしてあります。わたくしごと、最近個人的に忌日俳句がちょっとブームなのですが、なかなかこのようには書けないですねぇ。 04 底紅や この母君は意見をはっきり言い、しゃきしゃきとした方のようですね。「底紅」の華やかさが良いです。 05 こほろぎの 草刈をしていたら、鎌から逃げるようにこおろぎが塀の上へ、という句意自体は良いと思うのですが、もっとメリハリのある言い回しがあるのではないでしょうか。 08 爪立てて 日常の些細なところに季節感を感じている句ですが、合う人は合うし合わない人は合わないというタイプの句と思います。個人的な好みを言わせてもらえば、「はがす」という動作に焦点を合わせるより、中七を「ラベル剥がしぬ」として、剥がし終わってつるっとした面(ガラス瓶?)も見えてきた方が「十三夜」にはよりよく合うように思います。 10 さてもまた 焼いている途中(もしくは焼き立て)なのにまずそうな秋刀魚というのを見たことがないのですが、どんな感じなのでしょうか。焦げまくっているとか? ちなみに「まづさう」が正しい表記です。 14 月出づを それほど深刻そうではないようですが、微妙な雰囲気が伝わってきて好きな句。ただ、「出づ」が必要でしょうか? 「月を待ち」でも良いはずですし(この場合字数が足りないが)、動詞を少なくする意味でもせめて「月の出」とした方が良くはないでしょうか? 15 しじみ蝶 「何が○○して○○なった」型の報告句になってしまっています。目の前にあるのは「泣いている子」と「子の手で死んでしまった蝶」だけのはず。「握つて死なせ」は説明しすぎのように思います。 18 真夜中を 勢いのある句ではありますが、「真夜中」「きつたる」「毒茸」と強い要素が揃っているので、強い内容の割には少し平板な印象も受けます。また「毒茸」と言っても種類が多いため、特定の茸の方が良いように思います。 23 夏草を 「夏草」と「秋彼岸」の季重ねが成立するかどうか、皆さんの御意見を聞いてみたく思いました。私としては、成立しないのではないかと思います。初秋ならともかく、秋彼岸の頃の草は夏草とは呼べないと思います。夏の間に刈っていた草を秋彼岸の頃まで待って焼くとすれば苦しいながらも句意は通りますが、何のためにそのような事をするのかに大きな疑問が残ります。 26 こめかみに 母の着物をほどいて作った暖簾、趣のある暮らしぶりですね。ただ、それが触れたのが「こめかみ」であることが、私には少し限定しすぎではないかと思われるのです。例えば「頬」「額」「頭」などであればすんなりと読めますが、暖簾がピンポイントでこめかみに触れるというのはちょっと不自然に感じました。 |
来月の投句は、10月15日までに、3句お送り下さい・・・・・・投句はこちら |
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