ハルヤスミ句会 第百八回

2009年10月

《 句会報 》

01 一両の列車に一人秋遍路     阿昼

02 待ち合はせ場所を忘るるひつじ雲 つばな(あ)

03 ひつじ雲ベンチはどれも花野向き 無三(山)

04 工具箱観音開き小鳥来る     春休

05 ぐみ噛んで確認しあふ万歩計   波子(阿・春)

06 蛇穴に入るや残高証明書     佳子(あ・波)

07 アリア聞く能楽堂や萩の垣    つよし

08 タイフーンまとめ買いするコンビニで あたみ

09 読み終へし力道山伝秋刀魚焼く  無三(山)

10 野分めの蕾の菊を吹き倒す    つよし

11 壁の染みばかり見てをり素十の忌 無三

12 白桃のひとつが夜の底辺に    佳子(波)

13 一心に寝癖が急ぐ野分あと    春休(阿)

14 葉鶏頭不老不死とはいふけれど  つよし

15 さぼる子は畦道走る運動会    無三(あ)

16 首つなぐ螺子見えてをり星月夜  春休(佳)

17 限界の村に今年の菊咲けり    波子(佳)

18 秋分の海に向きたる椅子五つ   阿昼(無)

19 秋祭鳥の手羽先しゃぶりつき   あたみ

20 芋腹をまあるくまあるくさするかな 春休

21 頼みごとばかりする日や貝割菜  阿昼(無・山・春)

22 日溜まりの椎の実赤いランドセル つばな(佳)

23 柿不作頼みの綱の芋もまた    春休(鋼)

24 名月にいちばん近き柩かな    佳子(鋼・無・波・阿・春)

25 月白しぽつんぽつんと猫の影   つばな

26 誘惑のDMあまた神の留守    無三

27 粗方は落として渡す大根の土   波子(鋼)

28 主るす金木犀の花の散り     あたみ



【 鋼つよし 選 】
「01 一両の列車」と「17 限界の村に」採りたかったが制約上、下記の3句にした。
○23 柿不作  今年の作物は余りよくないと聞きます、小生も台風が上陸していちだんとやられた。
○24 名月に  なんとも言えない良い句と思う。名月と柩の句は見たことがない
○27 粗方は  畑のそばを通りかかった人に持たせるのだろう、景色がよく見える。

【 水口佳子 選 】
○16 首つなぐ  ロボット或いはマリオネットか何かの首だろうか。そう分かっても思わず人間の首も連想してしまい、一瞬ドキッとさせられた。首が螺子でつながっている危うさ・・・季語の星月夜がよく効いていると思う。
○17 限界の  限界集落を限界の村と言い替えて良いかどうか、その辺りやや疑問ではあった。過疎の村で大切に育てられている菊が今年も見事に薫っている。静かではあるが確かな生活が息づいていると感じた。ちなみに限界集落をこえると超限界集落、さらに消滅集落へと向かうという。
○22 日溜まりの  学校の帰り道ドングリを拾いながら道草でもしているのだろうか。赤いランドセルがあざやかに目に飛び込んでくる。近頃ではボランティアの方が子供たちの登下校を見守っておられ、きめられた道しか通れなくなった。ドングリの落ちていそうな人気のない道にはなかなか入れないようだが。
 09 読み終へし  力道山と秋刀魚に昭和の匂いがするなあ。先月のマタイ伝と秋刀魚も面白かったが、この句も味わいがあると思う。
 13 一心に  寝癖が急ぐとは、寝坊した子が髪もとかさずに走って行ったということなのか。野分の後も草が倒れて寝癖のようになっているのでそっちのことかとも・・・寝癖が急ぐという言い方には面白さを感じたのだけれど。

【 梅原あたみ 選 】
○02 待ち合わせ場所を忘るるひつじ雲  たぶん吟行にいらっしゃる時の出来事でしょうか?速だに一句出来ましたネと申してよいのでしょうか?
○05 ぐみ噛んで確認しあふ万歩計  野道の生のぐみを召し上がっての一句でしょうか?確認されたのは野道**?迷子にならないように*でも万歩計を見る余裕が御ありの様ですから大丈夫です。
○15 さぼる子は畦道走る運動会  子供は元気が一番*状景が浮かび、親は何よりの慶びを感じていらっしゃる事でしょう。

【 小津無三 選 】
○18 秋分の  秋のおだやかな海を眺めるために置かれた椅子。そこに座る人の気配も無く、秋の寂寥感を感じさせる。
○21 頼みごと  そうした日は何か心の中が小さなものでざわざわしてくるのかもしれない。貝割れ菜が効いている。
○24 名月に  作者の意図から大きく離れているかもしれないが、死者が月光になるような気配に強く心惹かれた。能「姨捨」で舞うシテが、捨てられた老女からあたかも月の光そのものとなって舞っているような。月の光には私たちを浄化する力があるのだろう。

【 喜多波子 選 】
○06 蛇穴に  これから冬眠するヘビさんと 残高証明の取り合わせが絶妙です 
○12 白桃の  有名な西東三鬼氏の句を彷彿しました 底辺が素晴らしいと思いました 頂点に立つ人達を支えている大勢の一人の白桃です 
○24 名月に  生きとし生けるもの必ず命の終りがあります 人の死は 悲しい事ではない・・ 柩はそれを語っています

【 山田つばな 選 】
○03 ひつじ雲ベンチはどれも花野向き
○09 読み終へし力道山伝秋刀魚焼く
○21 頼みごとばかりする日や貝割菜

【 中村阿昼 選 】
○05 ぐみ噛んで  熟年夫婦かな。ぐみが生っている野道か山道か、もうどれだけ歩いたかお互いの万歩計を確認しあっているのでしょう。先日、松山城のお城山に息子と登ったとき、こんな仲のよい夫婦を何組も見かけて、いいなあと思いました。
○13 一心に  「寝癖が急ぐ」はちょっと省略しすぎかなと思いましたが、野分あとの物の散らばりようが、寝癖とマッチしています。
○24 名月に  思い残すことなく人生を全うした方の柩かと。きっとその思い出は今も残されたひとたちを照らしていることでしょう。
その他好きな句
12 白桃の  「底辺」がわかりにくかったけれど、(桃の木の下、部屋の床?)、まっくらな中に一つだけ転がっている桃の白さが印象的
22 日溜まりの  どこで切れているのかがわかりにくかったけれど、赤いランドセルの子が日溜まりの椎の実を探していると読むと、懐かしい光景。

【 小川春休 選 】
○05 ぐみ噛んで  心温まる風景というだけではなく、句に実感を与えているのはぐみ。ウォーキングの途中でちょっとつまんでみたのでしょうか。私も小さい頃よく食べました。
○21 頼みごと  たくさん頼み事をすると、周りの人たちにたくさん迷惑をかける訳ですから申し訳なく思ったりすることもあろうかと思うのですが、何だか下五の「貝割菜」にほっとします。
○24 名月に  白々とした柩の姿がとても印象的な句。初読時、「いちばん」が強すぎる気もしましたが、「いちばん」だから印象が鮮明なのだという気も後からしてきました。
 02 待ち合はせ  「ひつじ雲」は季語なのでしょうか。私の愛用のヤマケンの季寄せでは見当たりませんでしたが…。
 03 ひつじ雲  「18 秋分の」と似たモチーフですが、「どれも」より「五つ」の方が具体的で景がよく見えます。
 06 蛇穴に  ちょっと唐突な感じです。というのは私が「残高証明書」にそれほど縁が無く、思い入れがないからかもしれませんが…。確定申告の時に必要になるぐらいでしょうか(だとしたら時期が合わない?それとも九月が年度終わりの会社?)。
 09 読み終へし  力道山と秋刀魚とに関わりはないのでしょうが、何だか太々とした秋刀魚が目に浮かんできます。
 11 壁の染み  素十の忌だと、人工の物より自然の物の方がしっくり来るように思います。「壁の染み」が似合いそうな俳人と言うと、放哉や三鬼などですかねぇ。
 17 限界の  重い句ですね。「限界集落」を「限界の村」と表現していますが、俳句の上の表現として十分通用するのではないかと思います。
 18 秋分の  この詠みぶりは、無人の椅子を詠んだものと思いますが、心地よい広がりを感じる句です。
 19 秋祭  上五が状況の説明にしかなっていないのが残念。もっとイメージの広がる季語があるはず。
 27 粗方は  「粗方は落として」つまり少しは土が残っているということで、良く描写されていると思います。下五の字余りがちょっと苦しい気も。


来月の投句は、11月15日までに、3句お送り下さい・・・・・・投句はこちら

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