ハルヤスミ句会 第百九回

2009年11月

《 句会報 》

01 秋雨や瞼(まなぶた)太き犬の逝く  波子(阿・春)

02 虚無的なネットサーフィン秋の声  順一

03 とんぼうの千が掴まる防護網    はなの

04 秋天や水に棲むもの羽ばたける   阿昼

05 カルストの草原に見ゆ昼の月    あたみ

06 返り花日を大切に物干して     春休(ぐ)

07 この先のお宅の紅葉ほーら見て   はなの

08 手短に日記を閉じる十三夜     波子(鋼)

09 木の実独楽どれもいびつに回りけり ぐり(佳・あ・鋼)

10 草を抜く土の湿りも冬隣      つよし(無・あ)

11 秋にやる水は土つぶ食ひ始め    順一

12 大根を洗ふ目配せなどしつつ    つばな(は)

13 軒下に密談めきて初時雨      無三

14 コスモスにカメラを向ける人ら過ぐ 順一

15 鯛焼や反抗期とはめんどくさ    ぐり(無・波)

16 花やつで中座したれど通過待ち   はなの

17 梨食べて葡萄の味を思ひだす    順一(佳・春)

18 暖かな日差し賜り冬立ちぬ     つよし

19 木枯や裏に壁無きおもちやの家   春休

20 林檎剥きでこぼこ作り眠り過ぎ   順一

21 冬ともし背景くらき聖家族     佳子(波)

22 二人ゐて片方ばかり白き息     春休(ぐ・は)

23 ホットコーヒー買うやお釣をたつぷりと 春休(あ)

24 静かなる午後を揺らして石蕗の花  つよし(山)

25 冬ざれや父に絡まる母の糸     佳子

26 暮早し軽石が湯に流されて     春休(佳・阿)

27 東光寺てっぺんまでが石蕗の道   あたみ

28 終ひ湯の窓にはじけて初あられ   はなの(ぐ・無・春)

29 ひとりごと返事はなくて今朝立冬  無三

30 山茶花のこんなとこまで吹かれゐて はなの

31 托鉢の後ろ姿や初時雨       無三(山)

32 大根の面取りするも猫背にて    ぐり(無・阿)

33 まだ何も置かぬ食卓クリスマス   佳子(ぐ・は・波・阿・春)

34 折り紙の手裏剣飛ばす文化の日   阿昼(は・佳・鋼・山)

35 石蕗の花灯篭並ぶ東光寺      あたみ

36 晴れしこと風なきことも宣長忌   無三

37 葉にこぼる光わづかや石蕗の花   阿昼(あ・山)

38 線香の煙流るる冬に入る      つばな

39 羽立てて歩きをるのみ冬の蝶    つばな(波・鋼)

40 江戸店を持ちし家なり柚子は黄に  無三

41 大根洗ふ父の真似して縄束子    波子

42 コラーゲン鮟鱇ずくし二人旅    あたみ

 



【 草野ぐり 選 】
○06 返り花  冬の日差しは洗濯物にとって本当に貴重。返り花とよく響き合っている。
○22 二人ゐて  不思議と息が大きく白くなる人とならない人がいる。子供の頃は白い息を競い合ったりしたが、この句は淡々と描写していながらちょっとくすっとしてしまうところがいい。
○28 終ひ湯の  夜遅く終い湯に入っていると湯気で曇ったガラス窓に初あられがぱちぱちとぶつかってきた。冬の夜のしんとした時間と寒さとお湯で疲れた身体がほぐれて行くのが感じられる。
○33 まだ何も  これからどんなごちそうが並ぶのだろう。そろそろ台所では良い匂いがしてきて。

【 二川はなの 選 】
○12 大根を  出荷する大根でも洗いながら家族の会話か、「目配せなどしつつ」に何の話か想像の余地があり面白い。
○22 二人ゐて  不思議な光景、気がつくところが凄い。
○33 まだ何も  ああこれからどんなご馳走が運ばれてくるのだろう!?胸躍る。
○34 折り紙の手裏剣飛ばす文化の日
01 秋雨や  辛くて寒くて・・上五が寂しすぎるのでは? 
02 虚無的な  上五、厳めしい言葉を何とかしたい。
04 秋天や  中七、下五から推測して「鳥」か、だとしたら具体的に言った方が鮮明になるのでは?
06 返り花  中七、短い日照時間を有効に使おうとしている様子を具体的に表してほしい。
08 手短に  「閉じて十三夜」か?やや理がつくか。
09 木の実独楽  中七、どれもがだ円を描きながら回っている。手作りの感じは伝わるが・・・
13 軒下に  「密談めきて」をもう少し写生したい。
14 コスモスに  「人ら過ぐ」が解りにくい。「人ら去り」?
15 鯛焼や  「ああ、面倒くさい!」そう言いながら、腹いせに鯛焼きにかぶりつく姿が伝わってくる。
17 梨食べて  可笑しい。楽しい。
18 暖かな  上五、中七。暖かな日差しの差し込む場所などの様子をもって穏やかな立冬の日を表したい。
19 木枯や  中七、下五が面白いが・・
24 静かなる  中七、「午後を揺らす」とは?
25 冬ざれや  毛糸まきでもしているのか?
26 暮早し  面白い。
27 東光寺  景が見える。
29 ひとりごと  「ひとりごと」に返事がないのは普通では?
32 大根の  下五、必要か。
35 石蕗の花  お寺、灯籠、つわの花 出過ぎかも。
38 線香の  中七、「どのように流れたかを」知りたい。
39 羽立てて  中七、「ただただ歩む」では?
40 江戸店を  柚子は実がなるまで途方もない時間が必要。老舗を感じる。
41 大根洗ふ  縄束子、そう、教えていただかないと気がつかないかも。

【 水口佳子 選 】
○09 木の実独楽  ドングリのまん中に楊枝などを立てて作る木の実独楽。木の実というのは同じようで全く同じ形はなく、しかもどこかいびつだったりするので、いびつに回るものの方が多いのかもしれない。「いびつに回りけり」と言いながら実は揺れているのは作者の心なのではないか。
○17 梨食べて  ああそういうことってあるよなあと納得。梨と葡萄を他のことばに置き換えてみることも可能だし。A君を食べて(?)B君の味を思ひ出す・・・とか、いろいろ想像してしまった。誰にでも作れそうで、実は作れない句。
○26 暮早し  軽石が湯にやすやすと流されている、作者はそこに自分の姿を重ねたのか・・・今日という日もあっけなく暮れてしまった、という寂しさが漂っている。
○34 折り紙の  折り紙の手裏剣はその形からして文化勲章を想像させられる。重くて意味深いはずの勲章も、見方によっては、形ばかり立派で紙のように軽く感じられる、ということか。作者の意図とは少々ずれているかもしれないのだが・・・
01 秋雨や  瞼太きで大きな犬が想像でき、余計に哀れさを感じる。秋雨はつきすぎ、他の季語の方がよいと思う。
06 返り花  丁寧な生活ぶりがうかがえて好感のもてる句。季語の付け方がよいと思う。
19 木枯や  とても面白い句と思って惹かれた。裏に壁無き・・・裏は後ろ側ということだと思うが、ドールハウスなどは手前の壁がないので、どうなんだろう?とややその部分が引っかかった。

【 小津無三 選 】
○10 草を抜く  庭仕事をする事で感じる季節の到来は同じことを感じていても、こうして句にされるとなるほどと深くうなずいてしまいます。
○15 鯛焼や  鯛焼きとそれを決して喜んではいない子供でもいいし、鯛焼きには関係ないところで反抗している場面かもしれないが、面白い。反抗期に出会った親の複雑な感慨が、「めんどくさ」となったのでしょうね。
○28 終ひ湯の  夜も更けてきた様子でしょうか、いよいよ冬の到来ですね。
○32 大根の  台所での様子が、生き生きと伝わります。

【 喜多波子 選 】
○15 鯛焼や反抗期とはめんどくさ
○21 冬ともし背景くらき聖家族
○33 まだ何も置かぬ食卓クリスマス
○39 羽立てて歩きをるのみ冬の蝶

【 梅原あたみ 選 】
○09 木の実独楽どれもいびつに回りけり
○10 草を抜く土の湿りも冬隣
○23 ホットコーヒー買うやお釣りをたつぷりと
○37 葉にこぼる光わづかや石蕗の花

【 鋼つよし 選 】
○08 手短に  簡潔で感じのよい句
○09 木の実独楽  童子らしい素直な句
○34 折り紙の  季語との兼ね合いが良い
○39 羽立てて  こんな冬の蝶にめぐり合わせたとは俳句をしていればこそ

【 山田つばな 選 】
○24 静かなる午後を揺らして石蕗の花
○31 托鉢の後ろ姿や初時雨
○34 折り紙の手裏剣飛ばす文化の日
○37 葉にこぼる光わづかや石蕗の花

【 中村阿昼 選 】
○01 秋雨や  「瞼太き」で年を経た大きな犬の印象。秋雨の中、愛犬との思い出がしみじみと蘇ってくるのでしょう。
○26 暮早し  「暮早し」と思うのはまだ夕方。その頃湯に浸かれるというのは、旅行中でしょうか。湯のたっぷりとあふれる北国の温泉とかいいなあ。旅愁とは、湯に流される軽石のような心持になることかもしれない。
○32 大根の  「おでん酒」などと猫背はつきすぎるが、「大根の面取り」との取り合わせは微妙に可笑しい。普段料理をしないお父さんが手伝わされているのかも。
○33 まだ何も  テーブルクロスだけが掛けられた食卓がクリスマスのごちそうを待っている。楽しい時間を待つことも楽しい。
他に好きな句
10 草を抜く土の湿りも冬隣
15 鯛焼や反抗期とはめんどくさ
22 二人ゐて片方ばかり白き息
28 終ひ湯の窓にはじけて初あられ
36 晴れしこと風なきことも宣長忌
以上です。

【 小川春休 選 】
○01 秋雨や  まぶただけを描きながら、立派な体格の、威厳ある犬の姿が浮かびます。句の姿も堂々としており、飯田蛇笏の〈なきがらや秋風かよふ鼻の穴〉を思わせます。
○17 梨食べて  人の頭の中には味覚地図があり、例えばかぼちゃとさつまいもなどは至近距離にあったりしますが、この句の場合、梨の味と葡萄の味が頭の中で繋がった、という訳。妙な説得力のある句です。確かにそう言われれば、食感は大きく異なるものの、味そのものは甘味と少しの酸味がベースで共通しています。
○28 終ひ湯の  「終ひ湯」から時間帯、辺りの静けさが感じられる。「終ひ湯」の侘しい雰囲気を、「初あられ」でかすかな華やかさの感じられる句に転じたところに惹かれました。
○33 まだ何も  多くを語ってはいませんが、「まだ」の一語が「これから」への期待を言わずとも感じさせてくれます。
 02 虚無的な  ネットサーフィンを「虚無的」と言い切ってしまうと、書き手の印象を述べただけの句になってしまう恐れがあります。それを実感のあるものとして読み手に届けるには、イメージを広げてくれる季語によるフォローが必要だと思いますが、「秋の声」ではあまり効果的ではないように思います。
 03 とんぼうの  防護網は落石や鹿・猪の侵入を防ぐためのネットですが、それに蜻蛉が千匹もつかまっている景。実際に見た方には申し訳ないですが、ちょっと数が多すぎて想像が及びません。
 04 秋天や  しっかりと出来てはいると思うのですが、景がきれいすぎて、和歌のような印象です。
 08 手短に  「手短に閉じる」という言い方は省略しすぎでは? もっとすんなりと動きが見えてくる描写がありそうです。
 09 木の実独楽  いびつに回る木の実独楽には興を覚えますが、それを「どれも」でまとめてしまっては平板な印象になってしまい残念です。例えば「木の実独楽一ついびつに回り出す」などとした方が、「いびつに回る」ことへの驚きが出そうな気がします(驚きを出すことが書き手の狙いでなければ、的外れなアドバイスですが…)。書きたいものと句の内容とが合致しているか、ぜひもう一度照らし合わせてみてください。
 10 草を抜く  土は正直なもので、その湿り具合・乾燥具合・あたたかさ・冷たさから直に季節が感じられます。私の好みを言わせてもらえば、上五は「草抜くや」と切りたいところ。
 12 大根を  面白い句ではありますが、目配せしている人たちの関係を窺わせる手がかりがもう少しあると、より想像の広がる句になるのではないかと思います。
 15 鯛焼や  反抗期の子を持つ親の心情と読みましたが、上五があまり利いていないように思います。もっと離した季語の方が軽やかで広がりのある句になりそうです。
 18 暖かな  良い雰囲気ではあるのですが、これは「小春日和」という季語一言で言い表せてしまう情趣なのではないでしょうか。
 21 冬ともし  絵として、景としては良いと思うのですが、「背景」という語感の硬さが一句の調和を崩しているように感じました。何か良い言い換えはできないものでしょうか。
 23 ホットコーヒー  私の句なのですが…。「買うや」は正しくは「買ふや」でしたね。失礼しました。
 29 ひとりごと  下五がいかにも詰屈です。独り言とはそもそも返事はないものという気もします。それらを解消すると、「つぶやきに返事のなくて今朝の冬」のような感じでしょうか。
 30 山茶花の  口語的な表現の面白さはありますが、「こんなとこ」が具体的であれば、もっと面白くなる可能性のある句なのではないでしょうか。穴埋め問題のつもりで、いろいろと考えてみても面白いかもしれません。「向かう岸」「崖つぷち」「八百屋前」…。
 39 羽立てて  既に飛ぶ力を持たず、その細い脚で歩くだけとなった冬の蝶らしい姿を写生されていますが、その様は「冬蝶」という季語の本意から出ていないように思われます。本意を踏まえつつ本意から踏み出すことが出来たとき、句に力が宿るのだと思います。


来月の投句は、12月15日までに、3句お送り下さい・・・・・・投句はこちら

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