ハルヤスミ句会 第百十回

2009年12月

《 句会報 》

01 小鳥屋の小さき聖樹に小さき星  ぐり(◎阿・佳・山・春)

02 霜枯を飴噛み砕きつつ行けり   春休(波・山)

03 はかせから手紙お山は冬ざるる  つばな(あ・春)

04 小春日の干物の乾きいまひとつ  つよし

05 黄落や蟻のオブジェが二十九   阿昼

06 冬うらら偽物だつた祖母の指輪  佳子(無・あ)

07 白菜の積み上げられしせーるかな あたみ(鋼)

08 活けたれば馥郁として冬のバラ  はなの

09 鯛焼の型を磨くやブラシ焦げ   春休(ぐ・ま)

10 夜咄は亭主自慢や山の神     無三

11 鞄にもすこし雪積み足早に    春休(波・あ)

12 煤逃げの示し合わせの銀座かな  まどひ(は)

13 朝寝してインフルエンザの閉鎖なり あたみ

14 着ぶくれて昭和のままに止まる町 つばな(は・鋼)

15 息白く以下同文で済まされし   春休(は・無・波・ま)

16 けんか売る猫の唸りや枯葎    つばな

17 平成や仰臥漫録漱石忌      波子(あ)

18 冬の蠅背中の見えぬ肖像画    佳子(ま)

19 スコップ三つ師走の穴を掘り続く 阿昼(佳・ま)

20 張り紙に新豆とありはや師走   無三

21 踏み跡の道くつきりと芝枯るる  つよし(ぐ・山)

22 冬花火つっけんどんに終りけり  ぐり(佳・春)

23 重ね着や心の創の薄らへる    波子

24 一日置き忘年会や女房殿     はなの

25 年末や寝癖を隠す帽子欲し    阿昼(無)

26 大根の飾り細工のシンメトリー  ぐり

27 棄てられて聖夜の紅きりぼんかな 佳子(ぐ・波・鋼)

28 婆たちの和讃艶めく寒夜かな   無三

29 職退きし社より届きて新暦    はなの(佳・鋼・山・阿)

30 一言に二言返る冬の月      つよし(◎は・無)

31 狭き道歳の瀬なれど工事中    あたみ

32 東京へ凍雲の街発ちにけり    波子(春)

33 真言はどれもかな書き冬至梅   無三(阿)

34 ペコちゃんを拭い銀座の年用意  まどひ

35 生姜ゆに母子の頬のほのぼのと  あたみ

36 伊勢暦売るや銀座の四丁目    まどひ

37 しだれ梅道に並ぶる花屋かな   無三

38 届かずに賀状雪国より戻る    春休(ぐ・阿)



【 草野ぐり 選 】
○09 鯛焼の  かなり使い込んだ鯛焼き型なのだろう。ブラシで磨くのですね。
○21 踏み跡の  踏み跡が冬の寒々しさをより強く感じさせる。
○27 棄てられて  クリスマスプレゼントのりぼんを気軽に捨てたのではなく何か悲しい物語を思わせる紅いりぼん。
○38 届かずに  黙って引越してしまったのか、胸がざわりとする。雪国がきいている。

【 二川はなの 選 】
○12 煤逃げの  中七が愉快、悪友どもの顔が想像される。
○14 着ぶくれて  中七から衰退した街並みが思い浮かぶ。季語が生きていると思う。
○15 息白く  「あっ、そ!」せっかく新調したスーツで出向いたのに・・・。
◎30 一言に  夫の一言に、言い返す妻。信頼しきって。安心して言いたいことを全部言えるのです。「冬の月」が佳い。ぬくぬくとした家庭が感じられる。
以上4句頂きました。
以下、気になりました句を。
 06 冬うらら  「冬うらら祖母の指輪の偽物と」ではいかがでしょうか?
 07 白菜の  「セールかな白菜山と積み上げて」では意味が違いますか?
 11 鞄にも  下五、蛇足ではないでしょうか?
 19 スコップ三つ  とても面白い景。頂きたかったのですが、上五の音が合わないのでは?上五、「スコップ」を「シャベル」にしたら整うように思います。
 23 重ね着や  こちらも頂きたかった句。自身の体験として中七、下五に共感。

【 水口佳子 選 】
○01 小鳥屋の  「小さき聖樹に小さき星」は当たり前ではあるが、それが小鳥屋であったというのがよいと思う。また「小」を3つ使ったところ、この「小」の文字の形が句の中で生きていると思う。これはもちろん意識的にそうされているのだと思うのだが、「小」の文字が連続していることによって、その形態からそれらが小鳥のようにも、小さき聖樹のようにも見えて来る。
○19 スコップ三つ  「三つ」に何か意味があるのか。妙にぴったりしている。「師走の穴」というのも単なる工事なのかもしれないのだが、色々に想像できて面白い。「師走の穴」はどこへ続く穴なのか。新年に続いている穴なのか、墓穴か・・・等など。もしかして銀行強盗かも・・・だいたいそういうのって、3人組だし。
○22 冬花火  冬の花火には夏のそれのように華やかさを感じない(冬に見たことはないのだが)「つっけんどん」という言葉とともに辺りの寒気と深い闇をイメージさせる。余韻に浸る間もなく、寒さだけが残っているということか。
○29 職退きし  ちょっとクスッと笑えて、その後寂しさの残る句。暦に書き込む予定も随分と減ることでしょうね。
 32 東京へ  「東京」という具体的な地名を入れたことによりイメージがより鮮明になったと思う。東京という街にも以前ほどの魔力はなくなってしまったが、作者にとって東京はどういう街なんだろう。凍雲の街は意外とあたたかく、逆に東京では人の心が凍てているのかも・・・

【 小津無三 選 】
○06 冬うらら  こういう内容だからこそ575に収めたいとも思うのですが、表現されていない場面があれこれ想像できて、楽しい句です。
○15 息白く  せっかくの表彰も、以下同文ですまされることがありますね。その時の何とも言えない気持ちがうまく出ていると思います。(先日、私などは名前まで読み間違えられてしまいました。なんだかなあ、でした。)
○25 年末や  「欲し」がもう少し踏み込んだ「買ふ」でもと思ったりもしますが、年の瀬と寝癖とがうまくうつりあっているのではないでしょうか。
○30 一言に  こういう場面に合う月はやはり冬の月なのでしょうね。

【 喜多波子 選 】
○02 霜枯を飴噛み砕きつつ行けり
○11 鞄にもすこし雪積み足早に
○15 息白く以下同文で済まされし
○27 棄てられて聖夜の紅きりぼんかな
以上です。

【 梅原あたみ 選 】
○03 はかせから手紙お山は冬ざるる
○06 生けたれば馥郁として冬のバラ
○11 鞄にもすこし雪積み足早に
○17 平成や仰臥漫録漱石忌
 宜しくお願い致します。

【 舟まどひ 選 】
○09 鯛焼の  ジュとかいって煙を出しながらこげたのでしようね。ブラシの焦げを言ったことで鯛焼の型がリアルにありありと見えてきます。
○15 息白く  暖房の効いてない講堂の壇上か。つぎつぎと免状か証書がてわたされてゆく、その前の瞬間。静粛かつユーモアがある。
○18 冬の蠅  「背中の見えぬ肖像画」には度肝を抜かれた。蝿が止まっていたのか、額縁の質感まで感じられる。
○19 スコップ三つ  年末の道路工事の句はよくありますが、これは言い方に新しさがあると思いました。ただ上七を「スコップや」と上五にしても動きが出るように思います。
その他によかった句   
 14 着ぶくれて昭和のままに止まる町
 27 棄てられて聖夜の紅きりぼんかな
 29 職退きし社より届きて新暦

【 鋼つよし 選 】
○07 白菜の  歳末のよく見かける光景だが留めておくのも良い
○14 着ぶくれて  季語との離れ具合がよいと思う
○27 棄てられて  棄てられるリボン 神の存在怪しいこと
○29 職退きし  新暦の下五が職退くに対してやや裏切りがあってよい

【 山田つばな 選 】
○01 小鳥屋の小さき聖樹に小さき星
○02 霜枯を飴噛み砕きつつ行けり
○21 踏み跡の道くつきりと芝枯るる
○29 職退きし社より届きて新暦
他に好きな句、
 06 冬うらら偽物だつた祖母の指輪
 15 息白く以下同文で済まされし
以上です


【 中村阿昼 選 】
◎01 小鳥屋の  街にクリスマスソングが流れる季節。古くからの商店街にありそうな小鳥屋のレジの横なんかにも小さなツリー、そのてっぺんの小さな星。小さなものならではの美しさ。
○29 職退きし  去年の今頃はまだ年末までの仕事に追われていたのかも。職場での日々、そして退職後の日々、新暦を見ながらいろんなことを思い出しているのでしょう。
○33 真言は  そういえば遍路寺のお堂の前にもよく、かな書きの真言が掲示されています。冬至梅のけなげさ、強さが真言をとなえる人の祈りに通じるように思いました。
○38 届かずに  雪国より戻された賀状。いったいどこに行ってしまわれたのか。小説のタイトルを思わせる「雪国」に、その人との忘れがたくも儚い縁を想像したりして。
他に好きだった句
 09 鯛焼の型を磨くやブラシ焦げ
 10 夜咄は亭主自慢や山の神
 14 着ぶくれて昭和のままに止まる町
 20 張り紙に新豆とありはや師走
 34 ペコちゃんを拭い銀座の年用意

【 小川春休 選 】
○01 小鳥屋の  小さきものへの愛を感じる句です。個人的には「に」が少し説明っぽい気がするので、「に」を省いて「小さき聖樹小さき星」とした方がリズムも良い気がします(さらに言うと上五も「や」で切った方が良いような…)。
○03 はかせから  ひらがな表記の「はかせ」は、いわゆるほんまもんの博士ではなく、ニックネーム的なものを思わせます(ひょっこりひょうたん島?)。矢野顕子の歌詞の世界のようで、好きな句です。ただ少々気になるのは、この句形だと「冬ざるる」はあくまで手紙の内容ということになり、そこが少し弱みになっている(文の中、絵の中の季語は認めない、という俳人もいるらしい)。例えば「冬ざるるお山のはかせより手紙」とすれば、少なくともその弱みは解消される(手紙の内容にはノータッチですが)。悩みどころです。
○22 冬花火  まさしくその通り、という感じ。単純に言い切ったことで句に強さが出ているように思います。
○32 東京へ  旅立ちへの強い決意が伝わってきます。
 04 小春日の  上五の季語があまり活きていないような…。
 05 黄落や  29という中途半端な数字にリアリティがあります。「黄落」からすると、銀杏の木のある公園のような場所でしょうか。
 06 冬うらら  面白い句なのですが、どうにも下五の字余りが気になります。上五を下五へ入れ替え、「偽物だつた祖母の指輪や冬うらら」と七七五の上五字余りにした方が収まりが良く、句の余韻も増すのではないでしょうか。ちなみに、私の印象では、「童子」では下五の字余りは忌避され、余らせるなら上五を、というのが一般的なスタイル。「澤」では下五の字余り(下五以外も)は結構多くて、強調するための表現技法として字余りが積極的に用いられる例も見受けられます。
 07 白菜の  ひらがな表記の「せーる」からは、青空市や産直市のような、生産者が直接販売もしているような雰囲気が感じられ、好感を持ちました。
 10 夜咄は  わざわざ「夜咄」と言わなくても、自慢する人・される人の姿は中七下五に十分現れているので、季語が少し説明的になってしまっているように思いました。それはそうと、私も自慢される亭主になりたいものです…。
 13 朝寝して  春の「朝寝」と冬の「インフルエンザ」の季重ねですが、主従がはっきりせず、すっきりしません。上五「遅く起き」ぐらいではいかがでしょうか。それでも原因・結果が表に出すぎる憾みはありますが…。
 17 平成や  平成も間もなく22年、「平成や」という詠嘆もだいぶ味が出てきたように感じる今日この頃。上五と下五の取り合わせは面白いと思うのですが、子規の『仰臥漫録』が出てくるとちょっとごちゃごちゃしてしまい、焦点がぼやけているようです。平成と漱石忌だけで充分良い句になるのでは?
 21 踏み跡の  この語順だと、「くつきり」していたのは踏み跡ではなく芝の枯れ様ということになりますが、くっきりと枯れる、という表現は少々違和感があります。踏み跡がくっきりしていたというのであれば「芝枯るる道踏み跡のくつきりと」とあるべきですが、それだとちょっと理が付くようです(芝が枯れたから踏み跡がくっきり見える…等)。
 24 一日置き  下五で思わず笑っちゃいましたが、この面白さはちょっとサラリーマン川柳に近いんじゃないかとも思います。
 29 職退きし  なかなかに味わいのある句。
 31 狭き道  「なれど」と逆接になっていますが、年末・年度末は道路工事の多い時期なので、逆接ではないのでは?
 34 ペコちゃんを  こういう句材は好きなのですが、この句で「銀座」まで言う必要があるかどうか。「ペコちゃんのほつぺた拭ひ年用意」等で十分ケーキ屋の風景が見えてくると思うのですが。
 37 しだれ梅  花屋が道端に花を並べて売ること自体は、珍しいことではありません。道が特殊な道であるとか、心に引っかかりをもたらす「何か」がないと、その句の前をすーっと通り過ぎてしまいます。例えば吉屋信子の〈東海道松の並木に懸大根〉では、景の大きさはもちろんですが、東海道から連想される旅と懸大根から読み取れる日常生活との対比が鮮やかで、それが松の並木に懸けてあるというディテールの確かさもあります。参考にしてみてください。

来月の投句は、1月15日までに、3句お送り下さい・・・・・・投句はこちら

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