ハルヤスミ句会 第百十一回

2010年1月

《 句会報 》

01 いただきし魚に歯朶の掛けてあり 無三

02 晴れ晴れと二礼二拍手冬の蠅   ぐり

03 故郷の山そこにあり大旦     無三(ぐ・波)

04 子を先に立てて嬉しき初詣    波子

05 宝船ぽつくり地蔵の経文と    はなの

06 初雀おほかたとなり村より来   波子(佳・春)

07 年明けてまた退屈の始まりぬ   無三(は)

08 黒豆のふんわり煮込みておすそわけ あたみ

09 家族みな違ふ鍵持ち初写真    佳子(ぐ・無・波・春)

10 白黒のとらの写真の勇ましく   あたみ

11 耳痛きまでの寒さと静寂と    春休(佳)

12 初旅の岩国までの見舞いかな   あたみ

13 一息をついでめくれる新暦    つよし

14 湯豆腐やけふも誰ぞの忌日にて  春休(は・無)

15 入院の弟岩国去年今年      あたみ

16 猫もまた冬帝の威に目つむれる  春休

17 裏白に替へてリースを飾りけり  無三

18 悴みて読む新聞に尋ね人     ぐり(鋼)

19 あ風花物干し台にあがる声    無三

20 次の間に寝入り端なる母の咳   はなの(ぐ・波)

21 倚りかかる壁は空洞余寒なほ   佳子(は・春)

22 腰曲がる曲がる媼や雪の道    つよし(佳・あ)

23 お席まだ御座いますとて女正月  ぐり(無)

24 パンダカート子供ではなく雪のせて 春休

25 除雪機になじむ雪質とんとことん つよし

26 雪しまく拒否され戻りたる葉書  波子(は・あ・鋼)

27 象生れて日本の雪てふを知る   春休(ぐ・佳・あ・鋼)

28 鍋焼のたまご崩す派崩さぬ派   佳子(無・波・あ・鋼・春)

29 丑三つの襖そろりにお帰りと   はなの



【 草野ぐり 選 】
○03 故郷の  今年もまた故郷で新年を迎えることができた喜びがストレートに伝わる。
○09 家族みな  それぞれが独立した家族が久しぶりに集まるお正月の初写真は年々かけがえのないものになっていくのだろう。違ふ鍵持ちがいい。
○20 次の間に  体が温まって寝入り端には気管支が弱いと咳がよく出る。状況をよんだだけだが母への気持ちがしみじみわかる。
○27 象生れて  日本生まれの象は日本が故郷になるのだろうか、それとも見ていないサバンナとかをやっぱり恋しくなるのだろうか。
他に気になった句
 07 年明けて  決して全部本音ではない感じが愉快。
 13 一息を  その一瞬の身の締まる思いがよくわかる。
 19 あ風花  面白い。「あ風花」はあがるというよりささやく声に感じた。
 29 丑三つ  これはこわい。一発で酔いが覚めます。

【 二川はなの 選 】
○07 年明けてまた退屈の始まりぬ
○14 湯豆腐やけふも誰ぞの忌日にて
○21 倚りかかる壁は空洞余寒なほ
○26 雪しまく拒否され戻りたる葉書
他に
 10 白黒の  上五中七、面白い。下五、虎が勇ましいのは普通かな。

【 水口佳子 選 】
○06 初雀  締飾りについている稲穂をいつもなら雀に喰い尽されてしまうのであるが、今年は食べられることなく残っていた。
最近雀が減ってきているというのは本当のようだ。「おほかたとなり村より来」にはいろいろ思わせるものがある。
隣と此処では明らかに違うものがあるらしい。目に見える違いもあれば見えない違いもある・・・そういう句の裏側への想像が膨らむ句。ただ「おほかたと/なり」と呼んでしまいそうなので「となり」は漢字がよいのでは?
○11 耳痛き  「耳痛きまでの」は「寒さ」に掛かっているのだと思うのだが、「静寂」にも掛っているようにも思える。むしろ「静寂」にも掛っていると読んだ方が面白い。その辺の曖昧さを良しとするかしないか、意見が分かれるかもしれない。
○22 腰曲がる  変な句。「腰曲がり曲がる媼」なら分かるのだが「腰曲がる曲がる媼」とあるからその辺が奇妙。曲がり方が一様でないのか?シュール。奇妙な句。だからいただいた。
○27 象生れて  雪とは無縁のはずの象がたまたま日本に生れて雪を知る。幸か不幸かこの子は日本の子。
「生る(ある)」は本来人間に対して使う言葉だと聞いた。この場合も「象生まれ(うまれ)」とした方がよいと思う。

【 小津無三 選 】
○09 家族みな  「みな」「違ふ」にあれこれ考えさせられました。
○14 湯豆腐や  なんとなくあの有名な句への反歌なのかなとも思ったのですが、納得させられた句です。
○23 お席まだ  女正月の雰囲気がよく出ているのではないでしょうか。
○28 鍋焼の  たまごのことで盛り上がっている様子が、いかにも鍋焼きに似合っているように思えます。

【 喜多波子 選 】
○03 故郷の  元旦を故里で迎えて 故里の山の輝きがありがたい・・そんな気持ちが良く解る好きな句です
○09 家族みな  家族が揃って初写真を撮る・・それぞれが独立していて 鍵束がカシャカシャなる・・その響までが、温かく感じる不思議な句です
○20 次の間に  母が寝入りばなに 軽く咳をした・・それだけを読んでいるのですが一緒に暮らしていても老いた母が心配です。私は、同居しているのではなくてたまたま作者の家に遊びに来たのかしら・・等と想像の膨らむ句です
○28 鍋焼の  たまたま鍋焼きを揃って注文しましたら その癖が二派に分かれてしまった 暖かな鍋焼きと話し声まで聞こえそうな・・そして店の匂いまで・・そんな楽しい好きな句で頂きました 

【 梅原あたみ 選 】
○22 腰曲がる  雪国の生活が眼に浮かびます。腰の曲がるのは何処にでも見かけるのですが媼や雪の道*とこの言葉にとても親しみを感じました。
○26 雪しまく  なにやら切ない気持ちに成ります。
○27 象生れて  おもしろい句ですネ**考えさせられました。日本で象が生まれたので、雪を見るのも日本が始めて、象の気持ちが解からないので、飼育係さんは大変寒くない様に気配りするでしょう。
○28 鍋焼きの  卵崩して食べる方が当たり前の様に思っていたのに,崩さない食べ方も有りなんて*

【 鋼つよし 選 】
○18 悴みて  悴むこの季節にという驚きが感じられる。
○26 雪しまく  破調が雪しまくにあっているようで、破調と句の内容が良い。
○27 象生れて  景色が想像されて良い。
○28 鍋焼の  目の付け所がよいと思う。

【 小川春休 選 】
○06 初雀  日頃この近辺ではあまり見かけない雀が、新年のこの日にやって来た。その内容自体も良いですが、句の言葉、言い回しも自然で伸びやかで良いです。「おほかた」という響きが明るいですね。ひらがな表記もゆったりしていて良いです。
○09 家族みな  兄弟姉妹も大きくなって、それぞれに世帯を構えた、そんな家族が新年に揃って写真を撮る。中々に味わい深い句です。「鍵」にスポットライトを当てたところが良いですね(改悪になってしまいますが、例えば「家族みな住まひ違へど初写真」などではあんまり面白くないですからね)。
○21 倚りかかる  壁をこんこんと叩いて、詰まった音がするところが柱の在り処。この句の場合はよりかかった壁の中が空洞というのですから、壁の中に空気の動き、かすかな風のようなものを感じたのでしょう。少し気が早いですが、「余寒」も気分に合っています。
○28 鍋焼の  言外に、たくさんの人で鍋焼きを食べていること、皆で「玉子を崩すなんて邪道」「いやいや崩した方が美味しい」なんて他愛もない言葉を交しながらの団欒が見えてきます。場の雰囲気を感じさせるところなど、〈初蝶来何色と問ふ黄と答ふ〉(虚子)に通じるところもあり、好きな句です。
 04 子を先に  「嬉しき」が句の答えになってしまっているようです。「嬉しき」がなくても、初詣の晴れがましさが親の心情を読み手に暗示してくれます。季語の働きをもっと引き出してほしいところです。
 07 年明けて  年末年始の忙しさが一気に過ぎ去って、ぽっかりと穴が開いたように感じられたのでしょうか。私自身は4日にはもう仕事初めだったので、何だか少し羨ましいような気のする句でした。
 13 一息を  少し坦々としすぎている嫌いがあります。「一息つぐ」という描写が、景の描写としても心情の描写としても、少し踏み込みが足りないように思います。「新暦一息ついでめくりけり」という句形であれば、「めくる」という動きに焦点が絞られて、幾分すっきりするように思いますが…。
 15 入院の 「12 初旅の」もですが、「岩国」という土地のイメージが、私は隣の県(広島)に住んでいますが、今一つピンと来ません(桜と紅葉の名所、夏は花火と鵜飼…?)。書き手がどこに住んでいるのか知っていれば、そことの距離感で読むことも可能かも知れませんが、それも出来ず、書き手の想いを汲み取ることが難しいです。
 18 悴みて  面白い句だと思いますが、「読む」が蛇足では? 「新聞に尋ね人」と言えば、読んでいることは当然分かります。
 19 あ風花  上五の発言の面白さを中七下五が充分に活かせていないと思いました。上五だけでも声であることが分かるのに、下五で「あがる声」と重複して解説を加えているようで、もったいないです。推敲すれば、もっと生き生きとした句になると思います。
 20 次の間に  心情はよく分かりますが、全体として句の表現が散文的になってしまっているように思います。推敲すればもっと良くなりそうな句です。
 23 お席まだ  一見満席かと思う繁昌振りの店からひょっと店員さんが出てきて、このように仰ったのでしょう。女正月らしい華やかさのある句。
 25 除雪機に  雪が完全に生活の一部になっている感じがしますね。どういう雪質だと除雪機になじむのか、経験がないのでよく分からないのですが、「とんとことん」で何となく分かったような気分になるのが愉快です。採りたかった句。 
 26 雪しまく  なかなか良い句だとは思うのですが、先月のハルヤスミ句会の拙句「届かずに賀状雪国より返る」と似ているように思いました。
 27 象生れて  私の句ですが、佳子さんの御指摘ごもっとも。「生まれ」に直そうと思います。辞書引いてみたところ「生(あ)る」は本来神様に使う言葉で、人間にも一応使うようですが、象に使うのは確かに違和感ありますね。勉強になりました。

来月の投句は、2月15日までに、3句お送り下さい・・・・・・投句はこちら

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