ハルヤスミ句会 第百十二回

2010年2月

《 句会報 》

01 学童の雪鳴らしつつ歌いつつ   波子(順)

02 四温かな日に三本のバスが前   はなの(波)

03 雪だるま残して行きぬ親子連れ  つよし(順・あ)

04 鍵束のしやきと音立つ寒暮かな  波子(ぐ・佳)

05 膝に手を炬燵出る時どつこいしょ あたみ

06 待春の河馬の背中のひろびろと  阿昼(順・ぐ・無)

07 真鍮の水噴く鶴や春近し     ぐり

08 枝折れの先の一輪梅探る     つよし

09 底冷えや足をぬくめる事が大事  順一

10 福豆をいただき次の酒蔵へ    無三(山・阿・春)

11 春浅き河馬の親子の浮力かな   佳子(鋼)

12 春炬燵江戸俳諧を入力し     無三(順)

13 立春や蚊の交尾する所見る    順一(益・無)

14 子を持ちてなほ薄氷踏みたしよ  春休(波・あ・鋼)

15 卒業やピアノの向きを少し変へ  佳子(は・山・阿)

16 地球儀を乗せたる春の炬燵かな  阿昼(佳・波・あ・山)

17 紀元節本読むに手を洗ふひと   春休(は)

18 竹藪に冬青草は育ちけり     順一

19 下萌や猫の通い路くつきりと   はなの(益)

20 竹育ち冬青草も育ちけり     順一

21 しやぼん玉にはなりそこね雫落つ 春休(益)

22 しばし空見上げて春のすべり台  阿昼(山)

23 春灯をつよく携帯電話売る    春休

24 向こう岸青むや鳶をかぞえもし  はなの

25 冬の川鯉の背ビレが外に出て   順一

26 声高く受験帰りや猫柳      無三(鋼)

27 封筒をひらけば春の星座表    佳子(ぐ・春)

28 カプチーノ河津桜の三部咲    あたみ

29 教科書にぱらぱら漫画寒戻る   ぐり(は・佳・無・阿)

30 鶺鴒のつつ走りや春の雪     つよし

31 平成と昭和を埋める春の雪    益太郎

32 黄梅や詠唱唱えたてまつり    あたみ

33 個性とも違うわがまま春の雪   益太郎(鋼)

34 病むことも歳相応と海苔届く   無三(ぐ・は・あ)

35 ほこほこと弾けて生まる波の花  波子

36 雪解や地図の現在地には星    春休(佳・無)

37 ゆる巻の春キャベツなり二つ買ふ ぐり(益・波・阿・春)

38 子の言葉意外に厳し春の雪    益太郎(春)

39 ぼんぼりや楽人のをる雛飾    無三

40 早朝の露天湯ほほに菜花風    あたみ



【 石川順一 選 】
○01 学童の  シチュエーションが如何様にも想像出来るのがいいと思いました。
○03 雪だるま  どんな雪だるまか出来て居たのか如何様にも想像できるのがいいと思いました。
○06 待春の  想像上の生き物である河童もこう言われるとなんか本当に居る様な気がします。
○12 春炬燵  江戸俳諧は私も研究したいと思って居たので惹かれました。

【 川崎益太郎 選 】
○13 立春や  蚊の交尾にびっくりしたのと、立春との取り合わせに感心。まさに諧謔。
○19 下萌や  夢の通い路の本歌取りで、猫の通い路が面白い。下萌との取り合わせも上手い。
○21 しやぼん玉  しゃぼん玉になれなかったものは、どうなるのでしょうか。やはり雫ですか。夢も希望もないということでしょうか。ものの哀れを改めて感じさせる句。
○37 ゆる巻の  一読、國母を思った。春キャベツは春だからゆるくても許される。二つ買ふが、いろいろ想像させて面白い。

【 草野ぐり 選 】
○04 鍵束の  鍵の冷えきった手触りが蘇る。音立つとまで言わなくてもいい気もする。
○06 待春の  春を待ちわびる気持ちとのほほんとした河馬の大きな背中の取り合わせがいい。
○27 封筒を  こんな手紙をもらったらぐらっと来そう。物語が始まる。
○34 病むことも  病もこんなものよと受け止めるおおらかさと海苔届くが絶妙に合っている。
他に好きだった句
 14 子を持ちて  わかる。子供はもう興味をとうに失ってるのにうれしそうに母は氷を踏んで。
 17 紀元節  季語との離れ具合がおかしい。

【 二川はなの 選 】
○15 卒業や
○17 紀元節  そう言えば、小さいとき「本は大切に、きれいに」と。
○29 教科書に  こちらも「そういえば・・・」。いろんな人間がいた教室。「寒戻る」が好き。
○34 病むことも  上五・中七に共感。生きる「気合い」を感じる。他人様にはやさしく、己は律する。届いた海苔は、きっとご自分でお作りになった品だ。「来年は作れないかも・・・」と。

【 水口佳子 選 】
○04 鍵束の  「立つ」は連体形で「かな」に続いていると解釈。オノマトペはよくよく考えて使わないと陳腐になってしまうが、この場合は成功していると思う。「鍵束」「しやき」「寒暮」「かな」それぞれの言葉の「K」音が冴え渡った空気感を表している。
○16 地球儀を  「乗せたる」は「載せたる」かなあとも思いつつ・・・「乗せたる」で炬燵が空飛ぶ絨毯のように飛んで行くところを想像したりして・・・それも良いかも、と思っている。
○29 教科書に  「ぱらぱら漫画」懐かしい。よくやって遊んでいた。だいたいは授業についていけないとき、時間つぶしにやっていたように思う。ほんの数秒で見終わるパラパラ漫画を繰り返し見ている光景は、少しさみしくもある。「寒戻る」よりもよい季語がありそうな気もするが。
○36 雪解や  言われてみれば確かにそう。星印が付いているのは地図上の現在地であり、作者の人生における現在地でもある。自分の立ち位置をしっかりと確かめて、いざ! 「雪解」は希望につながる佳い季語だと思う。
 06 待春の  やっぱり河馬の似合う季節は春なのだと思った次第で・・・(11番の河馬は私の句でした)
 07 真鍮の  「真鍮の」は水につくか、鶴につくか曖昧。意地悪な見方かもしれないが。
 09 底冷えや  中七以下がやや説明的になってしまった。季語を替えるとちょっと面白くなりそうな気もする。「足をぬくめること大事」と納めたい。
 17 紀元節  面白い句と思ったが、最後の「ひと」が不要かとも。
 22 しばし空  伸びやかで、ゆったりとした空間を感じる。「春の〜」という使い方がやや気になった。

【 小津無三 選 】
○06 待春の  河馬の背中の上に広がる春の気配が感じられて、面白いと思います。
○13 立春や  とぼけたところが魅力です。蚊もけなげに生きているわけですね。
○29 教科書に  寒さがぶり返したとはいっても、もう春もそこまで来ている。そう感じていただいたのですが。
○36 雪解や  「現在地には星」でいただきました。

【 喜多波子 選 】
○02 四温かな  のどかな四温の日ですね 日に3本しか通らないバスがのこのこ来ました 嬉しくなる句です
○14 子を持ちて  子供達が薄氷を割って楽しそうです 母親になっても・・いや 母親だからこそ薄氷を割りたい!
○16 地球儀を  作者の意図とは違うかもしれませんが・・ 小学入学の子が居るご家庭で、先ほど頂いた地球儀を子供さんが飽きずながめ回して居ます 家の明るさが見えるようです
○37 ゆる巻の  先日ゆる巻の春キャベツを買ったのに・・ 句一つ授からない悲しい私でした 緑と黄色が眼にちらつきます

【 梅原あたみ 選 】
○03 雪だるま  暖かい気持ちの良い句で好きです。
○14 子を持ちて  春を待つ親心と子の成長が何よりの幸せを感じる。
○16 地球儀を  夢と現実に向かう人、炬燵の上にはお茶と菓子そして楽しい会話が聞こえて来るようです。
○34 病むことも  贈り物はどなたから?このようにはっきりと(歳)のせいと言われても私は怒れない、贈り物を戴けるだけでも喜ばしい事とあきらめます。

【 山田つばな 選 】
○10 福豆をいただき次の酒蔵へ
○15 卒業やピアノの向きを少し変へ
○16 地球儀を乗せたる春の炬燵かな
○22 しばし空見上げて春のすべり台
他に好きな句、
 12 春炬燵江戸俳諧を入力し
 21 しやぼん玉にはなりそこね雫落つ
 27 封筒をひらけば春の星座表
以上です。

【 鋼つよし 選 】
○11 春浅き  浮力という言葉に惹かれた
○14 子を持ちて  いくつになっても楽しい
○26 声高く  その日の出来でつい声が高くなる
○33 個性とも  春の雪が重くない季語でよい

【 中村阿昼 選 】
○10 福豆を  寒造りの蔵元めぐりでしょうか。福豆の心遣いが嬉しいですね。
○15 卒業や  大人への階段をワンステップあがった気のする卒業。ピアノの向きを少し変えることで、それを見える形にしてみたかったのかも。
○37 ゆる巻の  ゆる巻きというのが春のキャベツらしくていい。
○29 教科書に  寒戻る頃は受験シーズンでもあるのに、イマイチやる気が出ないでぱらぱら漫画めくってみたりして。
以下の句も好きでした。
 19 下萌や猫の通い路くつきりと
 26 声高く受験帰りや猫柳

【 小川春休 選 】
○10 福豆を  酒蔵を巡るそぞろ歩き、良いですね。これから春へ向かう気持ちの弾みがあります。
○27 封筒を  理科の教材か何かだと思いますが、「春」の一字が効いています。個人的な好みかもしれませんが、「ひらけば」より「ひらくや」の方が、より明るく軽やかな句になるのではないでしょうか。
○37 ゆる巻の  「二つ買ふ」に生活感というか、リアリティが感じられます。キャベツ二玉購入ということから、おぼろげながらそれを食べる人々(きっとある程度の人数の家族でしょう)も浮かんでくるところが良いです。
○38 子の言葉  「子」の言葉が、書き手=親にとって、思っていた以上に厳しいものであった。その厳しさは、親が普段見逃していた「子」の成長を気付かせてくれるものだったのではないかと思います。親の少し複雑な心情と「春の雪」が響き合っているようです。
 01 学童の  雪を鳴らす、が少々はっきりしません。雪を踏んでも鳴るでしょうし、投げた雪玉が当たっても鳴るでしょうし…。
 02 四温かな  バスが日に三本ということはかなりの田舎だと思いますが、「が前」という表現は、バスが目の前を過ぎたのか、バスが目の前に止まったのか、本人には分かっても読み手には伝わりにくいようです。
 06 待春の  わずかな事柄しか言っていませんが、「背中のひろびろと」から、ほとんど動かずのんびりしている河馬の姿がよく見えてきます。「の」と「と」で形作られるリズムが心地良い。3・4・5(かばの・せなかの・ひろびろと)のリズムは、ゆったりとして安定感があります。採りたかった句。
 07 真鍮の  上五中七の言い回しが不自然だと思います。「水を噴く真鍮の鶴」「真鍮の鶴水噴くや」「水噴いて鶴真鍮や」などなど、他の言い表し方も検討してみてください。
 08 枝折れの  梅そのものを詠むと、「探梅」という季語は梅の部分(一輪)と重複している感じがします。語順等によっては、それを気にならなくすることもできるかもしれませんが…。推敲してみてください。
 11 春浅き  「浮力かな」という下五は、面白いのですが、なかなか使いこなすのが難しそう。少々要素が多いので焦点を絞って、たとえば「親子」でなく一頭の河馬の句として、もっと「浮力」を実感できるような句になるともっと良くなりそうです。
 12 春炬燵  データ入力は私もよくやっていますが、句材としてはあまり味気ないような気も…。「江戸俳諧を書き写し」で良いのでは?
 13 立春や  さすがに二月初旬ぐらいでは「蚊」を見ることはないと思うのですが、かなり暖かい地域にお住まいなのでしょうか? 珍しいからこそまじまじと見た、ということなのでしょうか…。
 16 地球儀を  炬燵の上は食事の場であったり、遊びの場であったり、時には踏み台になったり。この句では一時的に地球儀を乗せてみたのでしょう。個人的には、「春の」が無くても充分成り立つ句なのではないかと思います。
 30 鶺鴒の  中七が字足らずなのですが、「つ」を一字足して「つつつ走りや」が書き手の意図した形でしょうか? 叙景句としてはきちんと書けていると思います。
 31 平成と  心引かれる句なのですが、「埋める」が少しはっきりしないようにも思いました。私の個人的な印象としては、「春の雪」は「埋める」ほど降るイメージではなく、「埋める」を活かしたいのであれば「春の雪」以外の雪(冬季)にした方が良いかもしれない。しかし、「春の雪」には冬の雪とは違う良さがあるので…。
 34 病むことも  病気のことを思ってくよくよするよりも、歳相応のことと思って坦々と日々を送った方が体にも良いと言うもの。旨い海苔でしっかり御飯を食べて、との心遣いが嬉しい。採りたかった句です。

来月の投句は、3月15日までに、3句お送り下さい・・・・・・投句はこちら

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