ハルヤスミ句会 第百十三回

2010年3月

《 句会報 》

01 蟹の実を剥く時歌を聞きながら   順一

02 首筋を不意に狙はるしずり雪    山渓(あ)

03 狐火や鉄の臭ひの男の手      波子(益・ぐ)

04 性格に斑あり恋猫も我も      佳子(ぐ)

05 子に赤子生れて日脚伸びはじむ   つよし

06 おかみさん早く行きましょ蕗の董  あたみ(無)

07 家族には祖父母入らず梅満開    益太郎

08 幹を見てあをぞらを見て梅見かな  てふこ(益)

09 噛みあわぬ話続きて春炬燵     無三

10 土手を焼く煙電車を取り込みぬ   山渓(あ・春)

11 春めくや回転寿しを旗来たる    春休(ぐ)

12 ラジカセで聞く志ん生や春炬燵   無三(山・は)

13 春うれひとは中々に風呂を出ず   春休(て・佳・波)

14 目白二羽餌付け蜜柑に来てをりぬ  山渓

15 啓蟄の地表雨音はげしかり     つよし

16 囀りや荘のベンチに佇みぬ     山渓

17 お迎への来るまで初蝶の庭に    春休(て・佳・無)

18 野蒜摘む手間暇かけて酢味噌あえ  あたみ

19 地下街にさかなの壁画仏生会    佳子(て・春)

20 通夜であれ恋貫くを猫といふ    無三(順・益)

21 畳屋に貼られしビラも申告期    はなの(無)

22 母すこし他人と思ふ花薊      佳子(益・波・あ)

23 堅物を笑ふ百歳松の芯       はなの(て・順・春)

24 灰色のデジタルカメラで春の景   順一

25 追ひつきてまた追つかける春ぼうし はなの(波・あ)

26 つくつくと発射のごとくつくしんぼ 山渓

27 プリーツにプリーツ触れて卒業す  てふこ(ぐ・佳)

28 紋甲烏賊刺身の烏賊や白梅咲く   順一

29 牡丹の芽これから起こること知らず 益太郎(は・鋼・春)

30 春の田をほじくる雨中鴉かな    順一

31 涅槃図の猫照らしたる灯りかな   無三

32 起き抜けのコップ一杯水温む    つよし(山・無)

33 春の雨港より発つ葬送車      波子

34 食券に売切多き彼岸かな      春休(鋼)

35 ご近所にたった一人や入学子    あたみ(山・鋼)

36 未知という道は未知なり蜷の道   益太郎

37 春の葱落ちて死骸の如きかな    順一(波)

38 腰決めるスーパーモデル春の髪   波子(は)

39 横顔が描けぬ描けぬと春愁     てふこ

40 大小の布の袋を入園児       あたみ(は)

41 春の山トイレ行きたき人は挙手   春休(山・順・佳・鋼)

42 帰郷せば花の盛りと杜氏かな    無三(順)



【 松本てふこ 選 】
〇13 春うれひ  ああ、そうなのかも、と納得。春愁の深刻すぎない、どこかふわりとした心もちを絶妙にすくい取っていますね。
〇17 お迎への  父や母の「お迎へ」を待っている幼い子? あの世からの「お迎へ」を待っている老人? 一読した時は後者の解釈を取ったんです、そうすると「来るまで」という表現ががぜんすごみを増してくる。しかし、季語を考えると前者の解釈を取った方がいいのかな、とも。句の中の人物は飄々としているのに、読んでいて心ざわめく一句。
〇19 地下街に  壁画、という表現が国も時空も飛び越えた読みを誘いますね。さかな、とひらがなにしたところもいい意味での作為を感じます。季語は仏生会? 放生会じゃないの?というところがミソ? 取ったのに作者の意図が分かっていない…! でもこの謎があるところが好きです。
〇23 堅物を笑ふ百歳松の芯  上五中七のまとめ方が見事。お年を召した方って時々はっとするほど自由だけれど、その自由さを簡潔に小気味よく言い当てていると思いました。中七が体言止めなのでブツ切り感が否めないのが惜しいです。季語は若々しさと滋味とのフュージョン、という意味では非常にベタですが、ベタは強し。句にぬけぬけとした味わいをもたらしてますね。
その他気になった句
 05 子に赤子  おめでたい一句ですね。はじむ、としたところが手柄。作者の季語への気づき、そして作者自身の今後の時間も伸びていく心持ちがこの3文字でしっかり伝わりました。
 34 食券に  あの世からお客がたくさん来たせいですかね…

【 足立山渓 選 】
〇12 ラジカセで  「ラジカセで聞く」と言うことは志ん生の落語を幾たびも聞いている。名人の話術に聞きほれている姿が浮かびます。
〇32 起き抜けの  私も、医師の勧めもあって毎朝起き抜けに飲んでいます。
〇35 ご近所に  少子化で友達がなくてかわいそうですね。
〇41 春の山  以前仲間50名ほどで近郊の山を登っていました。一番悩むのは女性のトイレです。

【 石川順一 選 】
〇20 通夜であれ  押しつけがましさが無いでも無いですが、こう言う断定は好もしいのでは無いでしょうか
〇23 堅物を  悟って居られるのでしょうか、背筋がしゃんとなるような心地がしました。松との取り合わせ多少陳腐かとも思いましたが、実景を詠んで居られるならそう言った形式的な批判は当たらないと思いましたのでとりました
〇41 春の山  園児達の遠足でしょうか、シチュエーションによっては大人の観光旅行かとも思いましたがいずれにしてもヒューモラスだと思いました。
〇42 帰郷せば  杜氏と言えば灘とかでしょうか、花の盛りとはちと気が早いかとも思いましたが、思い出の景であるならば、そして花の盛りとは桜が満開と読みましたが、それと杜氏の取り合わせ、華があると思いました。

【 川崎益太郎 選 】
○03 狐火や  鉄の匂ひに惹かれた。
○08 幹を見て  幹と青空で、梅の表現、視点に感心した。
○20 通夜であれ  通夜と恋の取り合わせ、面白いと思った。
○22 母すこし  薊の花は、かわいいけど、棘があって凛とした感じがする。それが母との距離か。

【 草野ぐり 選 】
選評のみですがよろしくお願いいたします。
〇03 狐火や  手の臭いを感じるのはかなり親密な間だろう。狐火と男との時間、現実と幻想が交差する妖しさがいい、出来たら臭ひではなく匂ひの方がいいのでは。
〇04 性格に  奇妙な斑のある猫がいる。性格にも斑があるとは、言い得て妙。
〇11 春めくや  ゼリーとかプリンに旗がたっているのだろうか。春ののほほんさとよく響き合っている。
〇27 プリーツに  卒業証書授与のときのお辞儀の一瞬を捉えたと見た。その微かなプリーツスカートの揺れの繊細さが生徒の心の揺らぎを現しているよう。
その他気になった句
 08 幹を見て  意外に花よりも他の所を見ているもの、それを淡々といっていて面白い。
 13 春うれひ  すごく感覚的な句だが、燃焼しきれない若さがあっていいなあ。
 22 母すこし  花薊が効いている。娘は母が自分の一部のように感じたり、すっと突き放して眺めたりするのだろう。

【 二川はなの 選 】
〇12 ラジカセで  きっと志ん生贔屓だったのね。「春炬燵」が何とも良い。
〇29 牡丹の芽  これから起こることへの期待と不安。華麗な花が咲くと信じて。
〇38 腰決める  ポーズをとった一瞬、軽やかに揺れるボブ「春の髪」。
〇40 大小の  あれこれと必要なものの多さに絶句。子どもの愛らしさがみえる。

【 水口佳子 選 】
〇13 春うれひ  お風呂の中は自分に戻れる時間でもある。何だかもやもやと思いを巡らしているうちについ長風呂に・・・ 共感できるという点でいただいた。もやもやした春うれいだけにとどまらず、号泣になったりすることもあるなあ。
〇17 お迎への  明るい日射しを感じる句。初蝶の庭にはとりどりの花が咲いているに違いない。
〇27 プリーツに  制服のプリーツスカートが触れあったということだけで、満ち足りた学校生活であったということが窺えるから不思議。軽やかさ、快活さ、明るさ・・・等々、「プリーツ」「触れる」という言葉によって生まれた。好きな句。
〇41 春の山  愉快な句。山登りに入ってトイレに行きたくなった時は「お花摘んできまーす!」と言ったりしたものだけど・・・ 今どきはトイレが設置してあるところも多いので、この句の場合、本当のトイレなのでしょうね。
 08 幹を見て  ゆったりとした時間が感じられ良い句だと思う。
 15 啓蟄の  「はげしかり」は「はげしかりけり」とするべきでしょうね。

【 小津無三 選 】
〇06 おかみさん  いったいどこへ行こうとしているんでしょうか。頭を悩ませました。
〇17 お迎への  まさかあのお迎えではあるまいと思いつつも、結局あのお迎えの意味でいただきました。春というものの中にある死の気配が感じられて、興味深い句でした。
〇21 畳屋に  言われると商売をしている友人のこの時期の大変そうな表情を思い出します。
〇32 起き抜けの  コップ一杯の水 にも季節の移り変わりはあるんですね。勉強になりました。
他に好きな句。
 19 地下街にさかなの壁画仏生会
 34 食券に売切多き彼岸かな
 39 横顔が描けぬ描けぬと春愁
 40 大小の布の袋を入園児

【 喜多波子 選 】
〇13 春うれひ  風呂好きな私も同じですので頂きました
〇22 母すこし  季語の花薊が生きていると思いました
〇25 追ひつきて  春の帽子が飛ばされる・・此処は風の強い町なの臨場感が有ります
〇37 春の葱  葱の持つ不思議な状態を巧みに切り取られているようです
良い句ばかりで選句に迷いました

【 梅原あたみ 選 】
〇02 首筋を  しずり雪に狙われる事:熱海ではいっこうにこのような事はなく、興味半分雰囲気をあじわいたいものです。
〇10 土手を焼く  春の一番に行う仕事が土手を焼く事でしょうか?とても春の温もりを感じとれます。
〇22 母すこし  何時か誰でもが通る道されど親子の愛情物語下五の花薊が深い意味を感じました。
〇25 追ひつきて  実に明るい春ぼうし又追つかけるが頼もしく成長する最高な場面をみている様でした

【 鋼つよし 選 】
〇29 牡丹の芽  言われてみればその通りでこんな句初めての気がする
〇34 食券に  明るい彼岸の様子が上五で語られている
〇35 ご近所に  景色が浮かんでくるところが良い
〇41 春の山  すっきりと気持ちの良い句

【 小川春休 選 】
○10 土手を焼く  電車が煙に取り込まれるということは、恐らく駅で停車中だったのでしょうね。駅の周りに広がる田園、という景が活き活きと目に浮かびます。
○19 地下街に  地下にも街をつくるのが人間ならば、そこに「さかなの壁画」を描くのも人間。「仏生会」の働きで、人間の営為の不思議さが感じられます。
○23 堅物を  細かい事は気にせず、よく食べよく寝てよく笑うのが長寿の秘訣、という感じがしますね。「松の芯」が元気で良いです。
○29 牡丹の芽  どことなく草田男を思わせる、気迫のある句です。
 01 蟹の実を  蟹は「実」ではなく「身」では? 二つの動作が並行している状態を詠んでいる句ですが、「時」と「ながら」を両方とも用いると、意味が重複する部分があり、もたついた印象になってしまいます。「蟹の身を剥く恋の歌聞きながら」などではいかがでしょうか。
 03 狐火や  狐火に鉄の匂いの手…、猟師でしょうか。五感に訴えかけてくる、リアリティのある句。
 05 子に赤子  単なる「日脚伸ぶ」ではなく「はじむ」と限定した所に勢いがあります。
 06 おかみさん  「蕗の薹」を採りに行くのだと読むと、言いおおせてしまっている句という気がする。そうではなくて「蕗の薹」の前で意味の上でも切れている取り合わせの句と読むと、春先の雰囲気が感じられる句となる。読みで悩んだ句でした。
 07 家族には  そう言われれば、私の携帯電話の番号登録でも「家族」の枠と「親戚」の枠の間には壁があるような…。上五中七の述懐は良いと思うのですが、それに対して下五、特に「満開」が少し強すぎるような気がします。
 08 幹を見て  「梅見」を含めると「見る」が三度も出てきますが、書き手の視線の移ろいを自然に感じさせてくれます。採りたかった句。
 09 噛みあわぬ  「春炬燵」ならではののんびりした句ですね。
 12 ラジカセで  「ラジカセ」というものも、ちょっと懐かしいアイテムになってしまいましたね、まだ電器屋などでは演歌のカセットなど販売してはいますが…。「志ん生」「春炬燵」と相俟って、何だかとても懐かしい句になっています。
 20 通夜であれ  恋を貫く猫の激しさを、「といふ」という形で、書き手の認識を介してワンクッション置いて描かれています。なかなかに巧みな句です。
 22 母すこし  しっかり出来た句だと思いますが、欲を言えば、上五中七の心情の表出に対して、「花薊」のちくちくした花の感じが合い過ぎているのではないかなぁ、という気がしています。
 25 追ひつきて  この「春ぼうし」は、春帽子を被った人という意味に解しました。蕪村の〈春雨やものがたりゆく蓑と笠〉などと同種の表現(身に着けているものによってその人を詠む)。春帽子を被った人に追いつくが、追いついてはまた離される、という景が浮かんできます。「ぼうし」のひらがな表記から、被っているのは子供かなぁ、とも推測してみたりもしました。
 27 プリーツに  感覚の繊細さに好感を持ちましたが、「て」で下五に繋がる句形がちょっとゆるい印象です。「プリーツに触るるプリーツ卒業す」などではいかが?
 30 春の田を  描かれている景は好きなのですが、「雨中鴉」という箇所が硬いように思います。
 38 腰決める  「腰決める」は活き活きとした描写でとても良いと思ったのですが、「春の髪」が気になります。「夏の髪」でも成り立ちそうな気もしますし、「髪」と「腰」とで句の焦点が二つ出来てしまい、まとまりに欠ける気も。「腰」に焦点を絞って、違う季語を検討してみてはいかがでしょうか。


来月の投句は、4月15日までに、3句お送り下さい・・・・・・投句はこちら

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