ハルヤスミ句会 第百十七回

2010年7月

《 句会報 》

01 早苗というか細き柱立てにけり   益太郎(て・春)

02 足元に飛んで座りぬ青蛙      つよし

03 パチンコに行きて団扇をもらひけり ぐり(順・鋼)

04 潮騒に耳そばだつる鹿の子かな   波子(は)

05 雨の日のラジオ車窓に跡なぞり   ねね

06 サングラス南半球より帰り     てふこ(海・春)

07 噴水や五分遅刻を後悔す      順一(◎山・益)

08 紫陽花やゆうべの夢の色に似て   ねね

09 床屋にて顔剃る女星祭       無三(海・華・春)

10 雪渓のオンザロックや大休止    山渓(鋼)

11 閉店の貼り紙三行走り梅雨     益太郎(ね・海・は・波)

12 夏至の夜の方位磁針と鸚鵡貝    佳子(華・て・益・春)

13 宝くじ買ふや五月雨傘のまま    春休(ぐ・鋼)

14 夏痩せて虚子の百句を諳ずる    海音(順)

15 梅雨寒のきざはし磨く後ろ向き   佳子(て)

16 瀧壺に辿り着かないやう歩く    春休(佳・鋼)

17 クレームの声も朗らか梅雨の明   無三

18 袋掛ビニール傘の捨ておかれ    華(ぐ)

19 落書きに落書きこたふ星祭     春休(山・は・佳・無)

20 紫陽花に危篤脱すのしらせかな   つよし

21 クレバスをえいと飛び越え山登る  山渓

22 合歓咲くやまた怪電話の方であり  無三

23 シーソーに並べて花火どれ点けよ  春休

24 二回目は切り方違ふ瓜の実よ    順一(無)

25 髪切りて染めて頬杖枇杷の種    ぐり

26 明日の事考へながら髪洗ふ     波子(ね・山・は)

27 草野球七夕の星出づるまで     春休

28 行儀よくおじゃがは大小大小小   ねね(波)

29 俳句甲子園の席にバナナあり    海音(華)

30 田水湧く隣の隣の隣かな      順一(益)

31 退屈な講義に飽きて文字摺草    華

32 白玉や上目遣ひはよしなさい    無三(海)

33 安曇野の青田道ゆく句碑めぐり   山渓(順)

34 美しき臓器あをぶだうが揺れる   佳子(益)

35 蟻の列たどりてゆくや菊の枝に   つよし(ぐ)

36 六歳の夏とうもろこしに追い越され ねね(鋼)

37 広島と広島焼の西日かな      海音(華・順)

38 短夜や掴めるほどに髭伸びて    てふこ(ね)

39 夏の夜や慌てて三倍速にする    順一

40 暑き夜の鎧のやうな指環かな    てふこ(ぐ・佳)

41 あじさいや不協和音という調和   益太郎

42 ケ−ナの音途切れて青嶺遠くなる  波子

43 夏山や山頂めざす午前四時     山渓(ね)

44 あらひ盛る大皿囲む眼鏡かな    無三(山)

45 日射病警戒早めに帰途につく    順一

46 対岸は文教地区や油照り      ぐり(て・佳・無)

47 苦瓜や葉の切り口も苦にがし    ねね(波)

48 早口で源氏読まるる声涼し     華(無・波)



【 湯木ねね 選 】
○11 閉店の  自主制作映画のワンカットのようですね。
○26 明日の事  今日のこと、じゃないとこがすきです。
○38 短夜や掴めるほどに髭伸びて
○43 夏山や  きりりとした、夜明けの空気を感じました。

【 涼野海音 選 】
○06 サングラス  「南半球」から帰ってという所が面白いですね。
○09 床屋にて  女性の細部が描かれているわけではありませんが、「星祭」から色々と想像を膨らますことができました。
○11 閉店の  「三行」にリアリティがあると思いました。
○32 白玉や  「〜よしなさい」という禁止形にインパクトあり。

【 林 華 選 】
今月はいい句があり、4句にしぼるのに苦労しました。
○09 床屋にて  粋なお姐さんかな。今でもこういう人いるんですね。星祭がいい。
○12 夏至の夜の  物を並べただけのように思える句だが、何かを思わせるところがいい。爽波の句(正しく思い出せなくてすみません)を思い出した。
○29 俳句甲子園の  実景だろうと思う。単純でバナナが面白い。
○37 広島と  いかにも暑そう。8月6日を連想した。
次に採りたかった句
 04 潮騒に  鹿の子の耳は印象的だ。鹿島を思い出す。
 06 サングラス  シンプルでいろんな想像がふくらむ。
 14 夏痩せて  夏痩せてまで虚子の百句とはえらい。季語がいいですね。
 46 対岸は  何でもないところがいい。
その他気になった句
 05 雨の日の  雨の日のラジオ、又は雨の跡をなぞる という風に2句できそうな気がします。
 16 瀧壺に  怖いから?
 19 落書きに  ちょっと笑えます。
 23 シーソーに  小さな公園での景。可愛いですね。
 24 二回目は  中七以下面白いが、二回目が分かりにくいので 二つ目は、としてはどうでしょうか。
 25 髪切りて  髪切るか、染めるかどちらかでいいように思いました。
 26 明日の事  よく分かります。
 32 白玉や  白玉がいいですね。思わずハイと言いそうになる。
 40 暑き夜の  鎧のような指環ってどんな指環か見てみたいと思う。別の季語の方がいいように思う。

【 松本てふこ 選 】
○01 早苗という  中七があわれさと力強さの二面性を見事に言いあてた感。これから育ててゆかねば、という前向きな気持ちも感じられる。
○12 夏至の夜の  作者の無意識に眠る冒険心が、季語と具体物を得て一句になったよう。夏至といえば大抵梅雨真っ只中、だけれど高揚感があって、どこか遠いところへいけたらなーなんて思いつつ日がな過ごしたりする。鸚鵡貝の殻って、南太平洋あたりから日本沿岸に流れ着くこともあるとか。距離を飛び越えるダイナミックさを感じます。
○15 梅雨寒の  階段を拭き掃除している家族を見ているのだろうか。梅雨寒だからこその、この他愛ないけれど笑い飛ばせない気持ち。ただちょっと、どんな表情で拭いてるか見せてくれさえすれば、この不安は和らぐのに。
○46 対岸は  人工的なユートピアたる対岸を見つめる作者。対して、作者がいる側は風紀上よろしくない施設もあるのだろうが、ではそこをなくせば私たちを取り巻く問題は全て解決するわけではない。やや理が勝ちすぎる印象もあるが、クールな視点と油照りの強烈さががっぷり四つでぶつかり合うスリリングな一句。
その他気になった句  
 23 シーソーに  可愛いな〜。私はいつもよく吟味せず点けてしまうタイプ。シーソーがほどよくリアル。目をこらして見つめる闇に、シーソーの原色が浮き上がる。

【 足立山渓 選 】
◎07 噴水や  「五分の遅れを後悔す」。たかだか五分の遅刻だが、噴水が止ってしまったのか、あるいはデートに遅れ彼女が帰ってしまったのか、下五が色々なことを想像させてくれる楽しい句である。
○19 落書きに  ユーモアのある楽しい句である。
○26 明日の事  言われてみれば確かに「明日の仕事のこと」を考えながら髪を洗ったこともあったな、実感させられた。
○44 あらひ盛る  美味そうに眼鏡の男たちが地酒を囲みながら「鯉の洗」を食べている光景が浮かんできます。下五の表現が秀。

【 石川順一 選 】
○03 パチンコに  今日偶々七夕行って団扇を貰って来たのですが、何か団扇を配ると言うのは最近やらなくなって来た事の様に思って居たので好もしく感じました。
○14 夏痩せて  普通に好もしく思いました。
○33 安曇野の  そうか安曇野にも句碑が結構あるのかと稚拙な感慨かも知れませんが、素朴に好もしく感じました。
○37 広島と  今日偶々七夕へ行って、家を出たのが丁度18時ぐらいで、西へ自転車で向かって居たので、そうか西日が夏の季語であるのが合点がいったと思って居たので、思わずこの句もとって仕舞いました。

【 川崎益太郎 選 】
○07 噴水や  何に遅刻したとは書いてないが、そこがこの句の良いところ。いろいろ想像できて面白い。噴水も効いている。
○12 夏至の夜の  方位磁針と鸚鵡貝の取り合わせが上手い。鸚鵡貝のユーモラスな揺れと方位磁針の揺れ、加えて作者の揺れ。夏至の夜効いている。やと切らないで、のとしたところもぴったり。
○30 田水湧く  田水湧く情景を、隣の隣の隣とたたみかけたのが面白い。ぶつぶつふくふくが目に見えるようだ。
○34 美しき  一種不気味な絵を見るような感じを受けた。臓器とあをぶどうの取り合わせが斬新。

【 草野ぐり 選 】
○13 宝くじ  買うつもりは無かったのがふらっと寄ってみたという感じが五月雨傘にでている。さり気なさがいい。
○18 袋掛  実景なのか、丁寧に袋掛けした果樹の下に多分壊れたビニール傘が捨てられている。違和感のある殺伐とした風景をあえて句にしたのが面白い。
○35 蟻の列  虫の死骸でもなく花でもなく菊の枝をめざして行く蟻の列。たどって行った作者の小さな驚きを感じる。
○40 暑き夜の  擦れ違って触れたら傷ついてしまいそうなごつごつとした指輪。この暑い夜にあえてそんな指輪をしているのはどんな人だろう。鎧という言葉もさらに暑くなるようだ。
 09 床屋にて  きっぱり言い切った。一体どんな女?。星祭との可愛い取り合わせもおかしい。
 11 閉店の  三行のなんとも言えない淋しさ。走り梅雨と少し合いすぎているか。
 34 美しき  わからなかったが是非作者に聞いてみたい。
 44 あらひ盛る  面白い風景だが、盛るで切れてしまう感じがする。

【 二川はなの 選 】
○04 潮騒に  子鹿の愛らしい様子が感じられる。
○11 閉店の  「三行」が三行半を連想させる。走り梅雨はどうかなと。
○19 落書きに  落書きまでが呼応して面白い。
○26 明日の事  考えていることは何でしょう。きっと楽しいことであろう。

【 水口佳子 選 】
○16 瀧壺に  言われてみれば多くの場合少し離れた所から瀧を仰ぐ。〈瀧壺〉という言葉の持つ不思議な感覚、清らかで冷たくて畏ろしくて・・・〈辿り着かないよう歩く〉には単に物理的なことを言うのでなく、もっと心理的な深い意味がありそうだ。
○19 落書きに  〈落書き〉という行為自体は褒められたことではないが、それが〈星祭〉の季語によって、とても素敵なことのように思えてくる。高校時代、教科によっては教室を移動した。私の席に座った誰かが残していった机の落書き、その落書きに落書きで答えたことをふっと思い出した。私にもそんな時代があった・・・
○40 暑き夜の  〈鎧のやうな〉はやや大げさかとも思ったが、暑いときにはそんなものさえ重く感じる。でもそういう読みでは当たり前過ぎるかも。心惹かれた人の指に結婚指輪を見つけ、それを打ち破ることのできない鎧のように感じた・・・そんな鑑賞も可能か。その方がスキャンダラスで素敵。
○46 対岸は  〈対岸は文教地区〉ではこちら側は? 歓楽街?川一本を隔てただけなのにまるで違う生活がある。〈油照り〉のジトッとした感じが作者の複雑な心境を表していると思う。
ほかに好きな句
 06 サングラス フレーズが面白い。
 14 夏痩せて 季語は「夏痩せ」としてあくまで名詞で使いたい、とこの頃思っています。
 18 袋掛 景の切り取り方がいいと思う。
気になった句など
 05 雨の日の 無季ですね。無季を否定する派ではありませんが、この句の場合、上五に季語を入れて〈車窓に雨の跡なぞり〉とすれば明確になると思いますが。
 13 宝くじ  〈五月雨傘〉?
 24 二回目は  〈瓜の実〉という言い方が丁寧過ぎ。〈〜瓜〉と瓜の種類を言えばいいと思います。そしたら○になる所でしたのに。
 29 俳句甲子園の  面白い句。でもバナナでなくてもよさそう。
 08、21、31、43は季語が即き過ぎのように思います。もう少し離した方が句にひろがりが出ると思います。

【 小津無三 選 】
○19 落書きに落書きこたふ星祭
○24 二回目は切り方違ふ瓜の実よ
○46 対岸は文教地区や油照り
○48 早口で源氏読まるる声涼し
申し訳ないです。今日暑気当たりで倒れてしまいました。
選句のみでご勘弁ください。

【 喜多波子 選 】
今月も秀作ばかりで4句選に迷いました。
○11 閉店の  このごろこの張り紙が目立ちます。3行が悲しいです!
○28 行儀よく  詠んで直ぐに迷わず決めました 新じゃがが 眼に見えるようです リズムも良いですね
○47 苦瓜や  切り口からも 苦味が落ちてきそうです。
○48 早口で  暑い時期の源氏物語 早口だから 涼しく感じます 声もころころと澄んでいそうです。

【 梅原あたみ 選 】
(今回お休み)

【 鋼つよし 選 】
○03 パチンコに  パチンコと団扇の取り合わせは想像が膨らんでよい。
○10 雪渓の  景色の雄大さとオンザロックのおいしそうな句が良い。
○13 宝くじ  買う人を見かけているという写生句としても面白い。
○16 瀧壺に  辿り着かないというひねり、こんな句もあって良い。
○36 六歳の夏  親子の会話が聞こえそう。

【 中村阿昼 選 】
(今回お休み)

【 小川春休 選 】
○01 早苗という  早苗を「柱」ととらえたところが良いと思います。しっかり育ってくれよ、という祈りのようなものが感じられます。
○06 サングラス  「南半球」という大きな把握が心地良い。「サングラス」から感じるかすかなウィットも良いです。ちなみに私の脳裏に浮かんだサングラスの主は、ロベルト本郷でした。
○09 床屋にて  何やら祭の前の身支度のようですね。男勝りのこの「女」にも、織姫彦星のような恋の存在を感じさせる何かがあったのかもしれません。味のある句。
○12 夏至の夜の  ものが並んでいるだけ、言葉が並んでいるだけですが、読み手を想像の世界に遊ばせてくれる句です。「方位磁針と鸚鵡貝」はかつて旅した地の思い出の品でしょうか。
 03 パチンコに  「行きて」だと出発地点(家など)が思い浮かんでしまうので、「来たりて」などの方が良いのでは? こういう句は、意味も表現もなるべくシンプルを志した方が活きてくると思います。
 05 雨の日の  語順・言い回し等ちょっとごちゃごちゃしているようです。一言で雨といってもいろいろあるので、「五月雨」「雷雨」「夕立」などと言った方がイメージがしっかりしてくるようにも思います。
 11 閉店の  「三行」が切なくさみしいですね。
 15 梅雨寒の  中七下五の描写は良いと思いますが、「梅雨寒」ではあまり広がりがない(「後ろ向き」の醸し出すマイナスイメージとやや近いため)ように感じました。
 17 クレームの  「朗らか」なのは「梅雨明」だから、という理が感じられてしまうのが残念。
 18 袋掛  リアリティのある景ですが、ちゃんと美味しく育つのかという不安も…。
 24 二回目は  芭蕉の〈初真桑四つにや断ン輪に切ン〉を面影にして、中々味わいのある句ですが、気になる点がいくつか。「二回目」は堅いので「二つ目」の方が良いのでは?「違ふ」よりも「違へ」「変へて」などの方がより能動的な生き生きした句になるように思います。「瓜の実」は具体的な瓜の名(真桑瓜とか)の方が景がしっかりしてくると思います。
 25 髪切りて  客の多い日などかなり待たされて、髪のカット・カラーリングも案外疲れるものです。その疲れが「頬杖」という動作に自然に表されています。
 26 明日の事  とても共感できる句。
 28 行儀よく  何よりリズムの良さが楽しい句。しかしそれなら中七の「は」が無い方が良いのではないか、という気も。
 29 俳句甲子園の  暑い中の大会であり、出場する選手にはかなりたいへんな頭脳労働でもあり、「バナナ」でエネルギーと糖分を補給するのは非常に合理的で自然だと思います。でもちょっとユーモラスでもありますね。
 30 田水湧く  漢字は「湧く(水などが地中から噴き出る)」ではなく「沸く(水などが熱せられて沸騰する)」ですね。阿昼さんの〈お向かひの向かうで蛙鳴いたらし〉を思い出しました。
 31 退屈な  「退屈」であれば「飽きて」は言い過ぎ、どちらかだけで良い。例えば何の講義なのかとか、他に詠むべき事柄がありそうな気がします。
 32 白玉や  上品なお母さんに叱られている子供と、ひんやりした甘味処の店内の空気が浮かんできました。会話の導入が効いてます。採りたかった句。
 34 美しき  確かに「あをぶだう」は臓器を思わせます。少しあやしい美しさではあります。
 37 広島と  私自身は、お好み焼きは寒い時期食べるのが好みですが、暑い時期に「暑い暑い」と言いながら食べるのもまた捨て難い良さがあります(特にビールをお供にされる方には)。旅の思い出の中でも、暑さ寒さは強く記憶に残りますね。
 38 短夜や  中七下五の表現には力がありますが、上五が生きているかどうか。「短夜」のうちにこんなに髭が伸びてしまった、というような理が少し感じられてしまいます。もっと良い季語があるはずです。
 40 暑き夜の  非常にゴツい、ドクロのついたような指環も時折見かけますが、それと「暑」では、取り合わせの意図が見え過ぎという気がします。
 43 夏山や  「山」の二字の重複がちょっともたついた印象です。「いただき」とか「頂上」とかに言い替えても良いかもしれません。
 47 苦瓜や  「葉の切り口」という特定の箇所に限定して苦味を詠んだところにリアリティがあります。
 48 早口で  元々早口の方というよりも、読み慣れているからこその早さという感じがします。何といっても「声涼し」ですからね。

来月の投句は、8月15日までに、3句お送り下さい・・・・・・投句はこちら

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