ハルヤスミ句会 第百十九回
2010年9月
《 句会報 》
01 風鈴を並べし駅の長さかな 春休(順・て・ぐ) 02 影二つ棒となりたる夏の果て 益太郎(無) 03 八朔の風朝市で買ひにけり 無三(佳・波) 04 秋暑の中や近親また逝けり つよし 05 里帰りの嫁に持たせる秋茄子 山渓 06 耳あてて二百十日の洗濯機 てふこ(海・ぐ) 07 子に通ふ母の心音いわし雲 佳子 08 どこまでが夢どこまでが白むくげ 無三(ね) 09 秋夕焼庭下駄なじみゐたりけり 波子 10 天井の隅にかげろふ誕生日 ぐり(海) 11 九号の台風商品めちゃめちゃに 順一 12 弁天を犬のでてくる秋暑かな 華(ぐ・波) 13 二学期の朝や煙のまっすぐに ぐり 14 チョコひとつひとつに音符草の花 春休(海・佳) 15 穂高岳のカールを染むるななかまど 山渓 16 演奏会子規忌に重なるおもしろさ 順一 17 花野まで喧嘩しに来て母姉妹 無三(て・益・佳・鋼) 18 爽やかや針のとまりし腕時計 海音(は) 19 蜩や心休まるとき死せり 益太郎(ね) 20 遅刻魔のダッシュの激し蚯蚓鳴く ぐり 21 秋草の揺れの移りし体かな 海音 22 雷鳴のどんどろどどろちちろ虫 春休(◎山・あ) 23 腰に手をあててこほろぎ聞きゐたる 海音(は) 24 赤い橋色濃くなりて秋の朝 ねね 25 あんのじょうプール停電稲光 あたみ 26 車座の小ぢんまりして子規忌かな てふこ(順・華) 27 幸水の梨の美味さをかぶりつき あたみ 28 糞せずば見過ごすものを菜虫捕る つよし(益・春) 29 大量の小豆の莢を持て余す 順一 30 ちちろ鳴く昔陣屋の白洲跡 山渓(は) 31 たくさんの小豆の莢を庭に撒く 順一 32 かなかなや昨日今日とて忘れ物 あたみ(春) 33 庭下駄の鼻緒に露の湿りかな 華(ね・山・鋼) 34 露草や採血のあと寄りみちす ねね(海) 35 花野にバン来たりてめろんぱん屋かな 春休 36 秋澄むや鳥のオブジェは北を向き 佳子 37 梨食ひし躯たぷんと傾けり てふこ(華・無・波) 38 朝露に靴濡らしたる草野球 山渓(順) 39 もろこしの甘し老ゆるは愉しかり 波子 40 嘴入れて沼濁しをり秋の鴨 華(順・ぐ・春) 41 帰り来し猫の騒ぎや露しとど はなの(無) 42 ねこやなぎ斜めに足に触れて居る 順一 43 女郎花ここが男の泣き所 益太郎 44 バス停に伏せた睫毛のやうな月 ねね 45 引売りのその老犬も菊明り 無三(華・鋼) 46 鶏頭のざくざく太る無言劇 佳子(て・益・無) 47 露しとど弛みし蜘蛛の囲のあらは はなの(あ・鋼) 48 見た目より殿方優し秋彼岸 あたみ 49 冬瓜は食はず食はぬと回し来る つよし(ね・は・波・あ・春) 50 日のさして案山子の耳に穴なくて 春休(華・て・益・佳・あ) 51 露しとど窓開け放ち眠る郷 はなの(山) 52 松虫草リフトに人の影もなし 山渓 53 白菊や朝の日弾く鉋屑 無三(山) 54 外国の船遥かなり雁渡し 波子 |
【 石川順一 選 】 ○01 風鈴を 長いか短いか分からないながら、何かそう言う事を思う瞬間ってよくあるかなと共感できました。 ○26 車座の 俳句関係の集まりでしょうか。何かいいなあと思わせられました。 ○38 朝露に これも共感できました。俳句を詠みたくなるシチュエーションであると。 ○40 嘴入れて これも俳句好みのシチュエーションかなと。巧拙はともかく詠んで見たいとモチベーションを高めてくれる内容だと思いました。 【 湯木ねね 選 】 ○08 どこまでが 秋の午睡かな。 ○19 蜩や 一瞬、すべての音が止む、そんなときを想像しました。 ○33 庭下駄の 季節がかわったのを肌で感じるのは、秋だなあと思います。 ○49 冬瓜は ユーモラスなホームドラマの一幕みたいで、好きです。 【 涼野海音 選 】 ○06 耳あてて 洗濯機の調子はどうだうかと耳を当てたのか、それともただのきまぐれでしょうか。「二百十日の洗濯機」から日常を超えた何かを感じました。 ○10 天井の まさかそんなところにかげろうが、しかも誕生日とは。天井のかげろふに誕生会を覗かれているのような心地。 ○14 チョコひとつ たしかにこのようなチョコレートありますね。音符の形と草の花の形、誰がチョコレートを食べているのか、など楽しく想像できました。 ○34 露草や 採血の後の気晴らしでしょうか。リラックスしているときのほうが露草へ目が行きそう。 【 林 華 選 】 ○26 車座の 何の車座か分からないが、子規忌に合っている。 ○37 梨食ひし 特に意味のなさそうなところがいい。 ○45 引売りの 老犬にも菊の明り、目線がやさしい。 ○50 日のさして いわれて見れば確かにそうだ。案山子に耳の穴はないだろうな。面白い。 次に採りたかった句 21 秋草の 自分も秋草になったよう。 30 ちちろ鳴く きちんとできている句。 36 秋澄むや 気持ちのいい句。景が見える。 42 ねこやなぎ 感触が伝わる、単純でいい。 44 バス停に 月の形を伏せた睫毛のようという表現が面白い。 その他気になった句など 03 八朔の 風を買う?ちょっとわかりません。 09 秋夕焼 下五、別のことを言えるといいと思います。 10 天井の かげろふ、は春の季語ですね。 13 二学期の 何の煙か分かるとよいのでは。窯煙とか。 16 演奏会 子規忌(9月19日)に演奏会があったということでしょうか。 18 爽やかや 余り爽やかとは思えません。 22 雷鳴の 季重ねに意味があるのでしょうか。 49 冬瓜は <冬瓜をもらひて少し困りけり 珊瑚>を思い出した。 【 松本てふこ 選 】 ○01 風鈴を 駅の長さ、という言い方は、ちょっと情報量が足りてない気がするのですが、こういう駅あるよねえ、と一読して共感。「駅」のところ、「駅のホーム」とまで伝えたい! でも『風鈴を並べホームの長さかな』と直すのもどうなんだろう…ホーム、だけで通じるかしら。 ○17 花野まで 永遠のかしまし娘!? 作者を男性と取るか女性と取るかで句のトーンが変わる気がします。花野が効いてます。 ○46 鶏頭の ざくざくがシュール…。取らなきゃ、と思わせるのも、取っていいのか迷わせるのも、このオノマトペ。あと鶏頭と無言劇の取り合わせも良いです。不思議な迫力があって、先に見つけたかったこの取り合わせ! と嫉妬しました。 ○50 日のさして ああ、あわれ。耳に穴がなければ、「飾りじゃないのよ」とは言えまい。〜て、のリフレインがあわれさをさらにかき立てます。上五がちょっと辻桃子風? その他気になった句。 12 弁天を この犬は雄ですね。ちょっとしたスケベ心を犬の中に感じ取ったのでしょうか。秋暑のさ行がとっても気持ちよく響きます。残暑じゃちょっと後味がしつこいんですよね。 45 引売りの 老犬に菊明りなんてやりすぎだけれど(引売り、という表現にもあざとい臭いが)、下五の説得力がすさまじくて何だか取らされてしまった…。 【 足立山渓 選 】 ◎22 雷鳴の 中七の表現に感服。中七と下五がよくマッチしている。 ○33 庭下駄の 庭の踏み石に出しっぱなしの下駄が、夜露に濡れてしまった様子をよく観察されている。 ○51 露しとど 我が家付近でも、まだ30年前まで頃は窓を開けっ放しで眠ったものでした。露の降りる長閑な山村風景が目に浮ぶ。 ○53 白菊や 白菊の美しさ、香と、日に輝く香り豊かな透き通るほどの薄い白い檜の鉋屑との取り合わせが素晴らしい。 【 川崎益太郎 選 】 ○17 花野まで 本当は仲の良い母姉妹、それを喧嘩しに来ると逆説的に言ったことが、上手いと思う。 ○28 糞せずば 糞という詩的でないものを上手く読み込んで、諧謔的詩情を表現した句。 ○46 鶏頭の 鶏頭の力強さ華麗さを、ざくざく太ると言った上手さ。また、無言劇も効いている。 ○50 日のさして 案山子は、耳があっても穴がない。それでも役目は十分果たしている。言われて納得の句。 【 草野ぐり 選 】 ○01 風鈴を 駅のホームの長さは普段そんなに気にも止めていないが風鈴が並べられたことによって「おっ」という改めての発見。 ○06 耳あてて なんか最近ゴトゴトと不穏な音がしてたけど今日は本格的にまずい感じの音が、、。二百十日という厄日とちょっと合いすぎるかと思ったが季語がすごく身近に感じた。 ○12 弁天を 平和でどこか間抜けな感じがいい。若き新鋭の写真家梅佳代さんの写真を思い出した。 ○40 嘴入れて よく水鳥がする仕草だ。沼濁すがリアルで的確。 その他で好きな句 19 蜩や こうありたいという願いだと思うが何故か切なさを感じさせる。 37 梨食ひし どんなに瑞々しい梨だったのだろうか。誇張された表現が梨のおいしさを思わせる。 45 引き売りの 何か昔話のワンシーンのよう。菊明りっていい言葉ですね。 【 二川はなの 選 】 *いただきました。 ○18 爽やかや 季語を裏切る中七・下五に爽やかさが増幅する。 ○23 腰に手を 「腰に手をあてる」このお方の癖なのでしょうが、この場面にはユーモラス。 ○30 ちちろ鳴く 上五は即きすぎかとも思いましたが、映画のような場面が好み。 ○49 冬瓜は 中七・下五から大勢の座での事と。切り口が新鮮。 *他に好きだった句 02 影二つ 立ち消えの恋のような。 07 子に通ふ 中七までから、おんぶ又はだっこされている子又は胎児。母の「心音」に広がる安心感。鰯雲のひろがりは美しさと同時に、なぜか不安な気持ちになるのは私だけでしょうか? 08 どこまでが夢どこまでが白むくげ 10 天井の隅にかげろふ誕生日 26 車座のこぢんまりして子規忌かな 33 庭下駄の鼻緒に露の湿りかな 40 嘴入れて沼濁しをり秋の鴨 【 水口佳子 選 】 ○03 八朔の 「田の実の節」とも呼ばれているという八朔。その朝市で何よりも風を買ったと言う。はてどうやって持って帰ったのだろう。朝市の賑わいの中をさーっと吹き抜ける爽やかな風が感じられ、気持のよい句。季語がよく効いていると思う。 ○14 チョコひとつ こういうチョコ確かに見たことある。キューブ型のてっぺんに音符が型抜きしてあったような。うっかり見逃しがちなところを捉えていて、しかも無駄がない。こういう事も句になるのだと感心。草の花の斡旋も良いと思う。 ○17 花野まで 「喧嘩しに来て」という表現におかしさがある。「母姉妹」というからにはもうそれほど若くはないのだろう。家の中ではじっと耐えていたものが、花野に来てわっと溢れ出したのかもしれない。姉妹であれば喧嘩しているうちに昔のことなども思い出したりするかもしれない。想像が膨らむ。 ○50 日のさして 今まで気づかなかったのに案山子の顔にさっと日のさした瞬間、その耳に穴がないことに気づく。案山子の耳は描いてあるだけなので穴らしく影はつけてあるかもしれないが、凹みはない。そこにちょっとした違和感を感じたのはやはり詩人の目だなあと思う。 ほかに気になった句。 02 影二つ どちらかというと冬のイメージだなあと思いました。 06 耳あてて ちょっと面白い句と思いましたが洗濯機の中の渦と台風の目という事でちょっと分かり過ぎたかなあと。 08 どこまでが こういう句は好きです。白むくげが現実であるとするなら「どこまでが夢どこからが白むくげ」ではないかと思いましたが。 10 天井の 目のつけどころはいいと思いましたが、こういうのを「陽炎」と言っていいのかとやや疑問に思いました。陽炎はもっと大きなものだと思います。 13 二学期の まだ暑さの残る朝でしょうか。「真っすぐ」に色々意味が込められていますね。きっと宿題もきれいに片付いていることでしょう。 21 秋草の これも好きな句。「移りし」の「し」が気になりました。「し」は過去を表わすので厳密には「移りたる」でしょうか。「たる」を使うと句が重くなるのでという理由で「し」にすることもあるようですが・・・ 26 車座の 「小ぢんまり」が子規忌とあっていると思います。 30 ちちろ鳴く これはピシッと決まっていて俳句らしい俳句ですね。こういう句も見逃してはいけないなあと思いました。 34 露草や この句のあまり意味のない所が好きでした。季語がこれで良いか、迷います。 45 引き売りの 引き売りと老犬の関係の深さ、無言で何もかもわかりあえているような・・・ 【 小津無三 選 】 ○37 梨食ひし 梨を食ったからといって躯がどうなるわけでもないのが理屈だろうが、このとぼけた味が魅力です。 ○02 影二つ 夏の果ての徒労感が、うまく出ていると思いました。 ○46 鶏頭の 「ざくざく」につよく惹かれました。あの鶏頭のうっとうしいほどの生命力の表現として納得させられました。 ○41 帰り来し 朝帰りの猫と露はあるといえばあるのでしょうが、生き生きとしていて好きな句です。 その他好きな句。 24 赤い橋 12 弁天を 26 車座の 29 大量の 【 喜多波子 選 】 ○03 八朔の 昔の祝日・・1日の嬉しい風を朝市で求めた・・に感心しました。 ○12 弁財天 犬が出てきたというのが大変ユニ―ク!季語の選定が上手いと思いました ○37 梨食ひし みずみずしい幸水か豊水か・・それとも等 梨の美味しさがじわーーーと伝わりました。たぷんと傾けりがいいですね。 ○49 冬瓜は あっさりとして殆どが水分なのですが 食べない方もいるようでブログでも 良く回ってきた・・など書かれています。愉快な句で頂きました。 【 梅原あたみ 選 】 ○22 雷鳴の なんとも調子の良い句でした。 ○47 露しとど 今年はとても蜘蛛の巣が目立ちます。 ○49 冬瓜は 思わず笑ってしまいました。 ○50 日のさして 色々の場面を想像致しました。 【 鋼つよし 選 】 ○17 花野まで 花野という美しい景色の中で、母姉妹という女性が争っているのが現代の世相を表しているように思う ○33 庭下駄の 俳句を作る人ならではの感性か ○45 引売りの 引き売りの人も年配なのだろう、菊明かりの季語が良い ○47 露しとど よく見かける風景だけどうまく五、七、五にまとめられたと思う 【 中村阿昼 選 】 (今月はお休みです) 【 小川春休 選 】 ○28 糞せずば 憎いとは思っていないが、作物を育てるためには排除せざるを得ない…。菜虫への複雑な感情が感じられます。「ものを」がなかなかに巧みです。 ○32 かなかなや 昨日忘れ物をした。明日は気をつけよう!と思ったのに今日もまた…。ちょっと情けない内容ではありますが、必要以上に戯画化したりせず、淡々と表現されている点に好感。「かなかな」に軽いさみしさがあります。 ○40 嘴入れて 動作の描写と景の描写が一体となった見事な写生表現と思います。意見が分かれるとすれば「秋の鴨」でしょうが、個人的には良いと思う。「秋」の一字があることによって、自然と景が澄んだものに感じられ、「濁し」の鮮やかさが増している。 ○49 冬瓜は 動詞が多くごちゃごちゃしているようですが、勢いがあり、情景がよく見えてくる句です。好きじゃないから食べてないだけなのに、回してこられる方いますよね。全メニュー食べさせないと気が済まない、みたいな。 02 影二つ 夏の日差しは厳しく、日中は影も短い。それが棒のようになるのは、日暮れ時の時間帯でしょう。「影二つ」からさまざまに想像が広がります。 06 耳あてて 拙作に〈大揺れや二百十日の洗濯機〉という句がありまして、何だか親近感の湧く句でした。洗濯機からただならぬ異音がしてきたのでしょうか。現代の景でありながら、「二百十日」らしさのある句です。 07 子に通ふ 「いわし雲」からは、広がりと静けさとが感じられます。その広がりと静けさの中でこそ、心音の小ささと確かさが際立って感じられるのです。胎児とも読めるし、胸に幼子を抱いているとも読めますが、これは読み手が好きな方に読んでおけばよいところだと思いました。 10 天井の この「かげろふ」は季語としては読めません。陽炎は、「春の天気のよい穏やかな日に、地面から炎のような揺らめきが立ちのぼる現象」ですので…。それとももしかして虫の方の「かげろふ」でしょうか? 虫の「かげろふ」は部屋の中には居そうにないですし、それも難しい。 13 二学期の 屈託の無い素直な表現ですが、澄み切った空が見えてくる。気持ちの晴れやかさが伝わってきます。 15 穂高岳の 「染むる」が有りがちな詩的描写のため、生き生きと景が見えてきません。もっと見た人でないと書けない表現を望みます。 17 花野まで 女性ばかりの家族の中に一人男性がいると、きっといたたまれないだろうなぁ、とお察し申し上げます…。まあでも、年中そういう環境で暮らしていると、慣れてくるんでしょうね。そんな慣れが、こういう句を書く余裕につながるのかもしれません…。 20 遅刻魔の 「蚯蚓鳴く」はそんなに大きな音ではないので、こんなバタバタした状況では聞こえないと思いますよ。例えば〈遅刻魔のダッシュの過ぎし蚯蚓鳴く〉のようにすれば聞こえてくるかもしれません。 21 秋草の この秋草は、比較的多い、見渡す限りの秋草ではないでしょうか。視野の中のものが皆揺れていると、揺れていない自分の方が、かえって揺れているような、錯覚のような感覚を覚えます。気になったのは「し」、基本的には過去の意を表す助動詞なので、句から勢いを削いでいるように感じました。「移れる」とした方が今現在の表現になるのでは? 24 赤い橋 きっと日光の加減なのでしょうが、秋めいてくると、さまざまな物の色が濃くなったように感じられます。 26 車座の きちんと出来た子規忌らしい句なのですが、子規忌という季語の持つ情趣の中に収まってしまっている感じも少し受けました。忌日の季語は、離し過ぎると季語自体の必然性が乏しくまとまりのない句になってしまうし、その辺りの間合いが難しいですね。 27 幸水の 食べ物を句にするときに、「美味さ」と言ってしまうと逆に平板に感じられます。それと、動作・認識の順序として、「かぶりつき」より前に「美味さ」があるのは、食べる前に味が分かっていたようでおかしい。敢えて「美味さ」を残すなら、「幸水の梨の美味さやこぼさず食ふ」などとすべきでしょうか。 37 梨食ひし 瑞々しい梨、そしてそれを食べることによって起こる変化を、感覚的に詠まれていて面白い句だと思いました。「傾けり」というさりげない動作のリアリティが感覚的な内容を支える働きをしています。採りたかった句です。ここからは雑感ですが、「躯」という漢字のチョイスが興味深かったです(私ならたぶんひらがなで「からだ」と書きそうな内容)。 39 もろこしの こう言えるのはうらやましいことですね。精魂込めて育てたもろこしなのかもしれません。 42 ねこやなぎ 猫柳が足に触れる、という句はよくありますが、「斜めに」というところにリアリティがあります。 44 バス停に 中七下五は、薄い月に靄がかかったような景を思わせる表現と思いますが、バス停が案外曖昧です。バス停は街中にも山奥にも(トトロの居る山にも)あり、景の輪郭をはっきりさせるのにあまり効果的ではないと思う。景の輪郭をはっきりさせることが書き手の意図でないとしても、もっと別の選択肢があるのではないかと思いました。 45 引売りの 明るさと老いと、その対比がせつないですね。引き売りも、郷愁を誘われます。 46 鶏頭の 印象は強烈なのですが、なかなかに読みきれない句。鶏頭と無言劇とを別物と読むか、鶏頭の様子を無言劇と喩えたものとして読むか。 47 露しとど 見所が二つでちょっとまとまりのない印象。蜘蛛の囲が弛んでいることと、蜘蛛の囲があらわであること。どちらかに焦点を絞って、より鮮明な描写にすることが出来るのではないかと思います。 51 露しとど 用心の要らない郷ということなのでしょうが、「露しとど」の頃には窓閉めないと夜寒いのではないかと現実的なことが気になってしまいました。何年か前、三瓶にて先輩のところにお世話になった時、夏でもかなり涼しく、少し寒いぐらいだったのを思い出しました。 53 白菊や 明るい色二つの対比が鮮やかな句です。朝の日をはじく鉋屑は、当然削りたての新鮮なものであり、視覚的な要素だけでなく、菊の香りと鉋屑の香りも読み込めば感じられてくるのです。すっきりしていながらなかなか深みのある句。 |
来月の投句は、10月15日までに、3句お送り下さい・・・・・・投句はこちら |
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