ハルヤスミ句会 第百二十一回

2010年11月

《 句会報 》

01 足湯する二人に釣瓶落しかな   あたみ(て・無・鋼)

02 秋時雨ランプ明りの峠茶屋    山渓

03 短調の雨雨雨や曼珠沙華     益太郎(順)

04 色鳥を見上げてをれば猫もまた  はなの(無)

05 邯鄲の夜を並べゆく銀食器    佳子(て・あ・春)

06 淫するといふこと木の実拾ふにも 無三(益)

07 水澄むや滑車の軋む釣瓶井戸   山渓

08 嫁姑生け花真多呂文化展     あたみ

09 よそんちの畑に入りこみ菊の香を つよし

10 皇后の傘の透明そぞろ寒     佳子(華)

11 金賞の懸崖菊のしほれかけ    華

12 無花果を取りて乳房の白さかな  益太郎(ね・波)

13 赤い実を食べて小鳥になりたしと ねね(春)

14 文化祭嫁の生花の努力賞     あたみ

15 舞茸を割いて落とすや無くなるまで 春休

16 硝子戸にカーテン厚く菊の雨   阿昼(華・ぐ)

17 本屋には本屋の匂い金木犀    益太郎(山・無)

18 山霧や列車の窓にお茶二つ    阿昼(山・春)

19 御下がりの晴着の孫の七五三   山渓

20 十一月目薬させば匂ひけり    春休

21 末つ子が八つ当たりして七五三祝 波子

22 円陣の真中に所長鳳仙花     ぐり(波)

23 鵙の空映りし眼鏡拭きにけり   海音(順・華・ぐ・無)

24 蜂蜜に沈む生姜や今日初日    ぐり(春)

25 振袖を引き摺り紅葉拾ひをり   無三

26 化繊綿革にウールや冬支度    てふこ(鋼)

27 立ちくらみして大綿が視野の端  佳子(ぐ)

28 だだいふに修学旅行入試せり   あたみ

29 すべり台紅葉を先に滑らせて   阿昼(益・佳・あ)

30 富有柿のずつしり座るお仏壇   波子(◎山・鋼)

31 文化の日老いの歩みに合はせ犬  はなの(ね)

32 文化の日路に茣蓙敷き遊びけり  てふこ

33 蟻の巣の口なふさぎそ楢落葉   春休(鋼)

34 十指もて米をとぎをり冬はじめ  波子

35 浅草に肉を買ひたる冬はじめ   華(海・ぐ・無・波)

36 狐火にわが名呼ばれてゐるごとし 海音(佳)

37 とりつかれとりつかれても走る冬 順一

38 玻璃に蠅ぶつかる音ぞ小六月   はなの

39 冬の川鯉にパンやる二人かな   順一

40 原稿料入りし夜の林檎むく    てふこ(順・海・あ)

41 血も骨も解体ショーのマグロかな 無三(佳)

42 人影に雀飛び立つ今朝の冬    つよし(ね)

43 石蕗咲いて神鈴遠く聞えくる   華

44 暮早し木に凭れれば木のぬくみ  ぐり(ね・益・佳・波)

45 虫喰ひの葉つぱも入れて蕪汁   つよし(て・山)

46 冬の蚊の刺さずにゆくよ伊勢のみち 春休(海)

47 鳥葬や朝の枯野に光あり     ねね(海・て)

48 うるささが接続されて冬に居る  順一(益)

49 父母の顔思い出したる囲炉裏端  山渓

50 マンションの最上階の干蒲団   海音(順)

51 枯草の絡み毛足の長き犬     華

52 雪空に文を四行絵本なる     春休

53 「草燃やす」記憶再び冬の日に  順一

54 ボタ山に背筋のびたる枯れ木かな ねね

55 日だまりや歯科の芭蕉の枯れ果てて 無三

56 山里に一筋炭を焼く煙      山渓(あ)

57 冬空を割りて天使の降り来る日  ねね

58 冬ざるる道に蚯蚓の残骸が    順一

59 今日もまたもの食ふて終ゆ冬銀河 無三(華)



【 石川順一 選 】
○03 短調の  作者の心情が雨とどうつながるのか分かりませんが、短調とは言え暗さを感じない所に意義を感じました。
○23 鵙の空  好もしい絵の様に思いとりました。
○40 原稿料  特定の夜、実存と言うか孤高の夜と言う感じがし、屹立して居る様な清潔さを句に感じました。
○50 マンションの  何てことは無い情景と思いながらも俳句としてすんなりうまく行って居る様な気がしてとりました。

【 湯木ねね 選 】
今回コメント間に合わずもうしわけありませんが
○31 文化の日老いの歩みに合はせ犬
○42 人影に雀飛び立つ今朝の冬
○44 暮早し木に凭れれば木のぬくみ
○12 無花果を取りて乳房の白さかな

【 涼野海音 選 】
今回は選句のみです。
○35 浅草に肉を買ひたる冬はじめ
○40 原稿料入りし夜の林檎むく    
○46 冬の蚊の刺さずにゆくよ伊勢のみち
○47 鳥葬や朝の枯野に光あり

【 林 華 選 】
○10 皇后の  テレビで見た景なのかもしれない。そぞろ寒が効いている。
○16 硝子戸に  外は菊の雨。中はカーテンを暑く引いて。何か雰囲気があります。
○23 鵙の空  眼鏡に映った鵙の空がいいです。
○59 今日もまた  本当にそうだ。と思わせる句
▽次に採りたかった句
 13 赤い実を  子供が言った言葉だろう。そのまま句にしたところがよい。 
 38 玻璃に蠅  上五おもしろいです。
 40 原稿料  ささやかな幸せを感じます。
 44 暮早し  中七以降の表現がいいですね。
▽その他
 04 色鳥を  色鳥を見上げていたのかも知れないけれど、むしろ、紅葉などの方が実感があるように思いますが。
 05 邯鄲の  パーティの準備をしているのでしょうか。邯鄲や、でいいのでは、虫は夜に鳴くので。
 15 舞茸を  どこに落としたのでしょうか。ちょっと分かりにくい。
 17 本屋には  パターンとしてよくありそう。
 20 十一月  十一月が効果的かどうか?
 24 蜂蜜に  上五中七がいいので、下五がもったいないです。
 28 だだいふに  季語は何でしょうか。「だだいふ」が分かりません。
 54 ボタ山に  背筋のびたる、と擬人化しないほうがいいと思います。

【 松本てふこ 選 】
○01 足湯する  足湯、というくつろいだ空間にふっと夜の闇や冷えが訪れる瞬間をさっとすくい取った句。二人、とただ単に人数を言ったところが読者に様々に想像力を喚起させるが、最終的に「釣瓶落し」という、ひとつの変化に焦点を絞ることによって句の姿をくっきりとしたものにしている。
○05 邯鄲の  カ行、タ行のかたさと軽さのある響き、虫と銀食器という取り合わせにセンスの冴えを感じた。
○45 虫喰ひの  類想が色々とありそうだけれど、素朴な一句。大根汁よりもほのかな甘みがある蕪汁によく似合っている気がする。美味しそうだな、と思ったので。
○47 鳥葬や  不思議な非現実感の漂う句。朝の枯野、が鮮やか。光あり、とは聖書のよう。鳥葬の場と作者との距離の遠さのせいか、人間に侵せない世界があることが今更ながら思われる。
 その他気になった句
 10 皇后の  透明、というのがあわれを誘う。そぞろ寒がちょっと狙いが見え透けていて…。
 50 マンションの  都会の一コマ。乾いた視点を感じる。

【 足立山渓 選 】
◎30 富有柿の  仏間にずっしりと安置されている仏壇に冬柿をどさっと飾った景を上手く表現されている。
○17 本屋には  本の匂いと良い香の金木犀との香の対比がすばらしい。
○18 山霧や  霧のため、ぼやあとした遠景と、近景のお茶との対比抜群。
○45 虫喰ひの  無農薬だからこそ虫が寄り付く。そんな葉っぱだからこそ美味しいのです。捨てるのはもったいないですね。
 25 振袖を  よく見かける七五三の一こまでしょうか。
 29 すべり台  孫を連れて公園に行くとこういった光景に会いますね。いいですね。
 32 文化の日  現代的な「文化の日」の季語と、なにかしら古く郷愁を誘う「路に茣蓙敷いて遊ぶ」のフレーズがいいですね。
 50 マンションの  最上階は何階ぐらいでしょうかね。想像させる句で面白い。

【 川崎益太郎 選 】
○06 淫すると  一読どきっとしたが、淫(いん)するとは、物事に熱中するというのが第一義の意味であることを知った。使い方は難しいと思うが、その勇気に1票。
○29 すべり台  すべり台に紅葉はよく見る景であるが、先に滑らせるという詩的な表現がうまい。
○44 暮早し  日が短くなると、夕方の木の暖かさを感じる。詩的な実感。
○48 うるささが  年末の慌ただしさを、うるささが接続されるとした。接続が上手い。
 28番の「だだいふ」は「だざいふ」の誤記かと思います。

【 草野ぐり 選 】
○16 硝子戸に  夏を過ぎカーテンも厚手のものにかえたのだろう。菊の雨の湿り気を含んでさらにカーテンがぽってりと重さを増したよう。
○23 鵙の空  そのレンズにうつる風景だけがだんだん広がっていくような不思議な感覚におちいる。
○27 立ちくらみ  立ちくらみするときはふっと目の前が暗くなるがその暗くなる直前の視野に綿虫が見えた。ひょっとしたらそれも幻影なのか、不安定な気持ちが出ている。
○35 浅草に  浅草に出てちょっと上等な牛肉を買って今夜はすき焼きか。浅草が効いている。
 06 淫すると  夢中になって木の実を拾う恍惚感をあえて淫するという言葉を与えたことに何か納得してしまった。
 40 原稿料  静かな心の弾みと喜びが林檎むくにでている。
 20 十一月  目薬が匂うとは面白い、確かに独特な匂いが目薬にはあるなあ、ただ十一月が動きそうだ。
 38 玻璃に蠅  音ぞと、大仰にいったところがおかしい。確かにあの音ってものすごく気になる。小六月もよくあっている。

【 二川はなの 選 】
(今月は選句お休みです。)

【 水口佳子 選 】
○29 すべり台  そうそううちの子もそうだった・・・と納得。石ころやおもちゃの怪獣やいろんなものを滑らせていた。日常の一瞬をうまく切り取り、しかも平明に詠んであるところに惹かれる。観察の眼が利いている。
○36 狐火に  29の句と違ってこの句は非日常を詠んでいる。狐火の妖しさ、その怪しさに呼ばれているように思ったという作者の感覚・・・句全体が曖昧といえば曖昧ではあるが、こういう句の世界は嫌いではない。
○41 血も骨も  言葉の並びとして、また助詞の使い方がこれで良いかどうか少し迷う所ではある。マグロの解体は私もいつか詠みたいと思っていた。血も骨も全てが王者であるマグロそのものであるにもかかわらず、〈解体ショー〉と言われてしまうと哀れである。鮪でなくマグロとしたところも良い。
○44 暮早し  なんでもない句であるがなかなか味わい深い句。たちまち過ぎてしまった一日の余韻がまだ〈ぬくみ〉として木の中に残っている。暮れてから初めて作者はゆったりした時間を感じているのかもしれない。
 他に気になる句
 03 短調の  雨を〈短調〉と捉えたところは佳いと思いましたが〈雨雨雨〉と続けたところ、あまり効果的と思えませんでした。多分ここは意見の分かれるところかもしれません。
 16 硝子戸に  カーテンが厚いというのは面白いと思いましたが〈硝子戸〉が説明し過ぎたかなと思います。
 17 本屋には  匂い対匂いで損しました。
 25 振袖を 面白い景を切り取ってあるのですが、〈引き摺り〉が不要かとも。その部分は言わなくても想像できるので。
 43 石蕗咲いて  「神鈴の遠く聞こえる石蕗の花」とするとスッキリ。
 47 鳥葬や  こういう不思議な句もいいなあと。ただ〈朝〉に対して〈光〉でない方が良いかなあ。
 54 ボタ山に  荒涼とした感じ、惹かれる句です。
 59 今日もまた  〈食ふて〉は〈食うて〉です。〈食うて〉か〈食ひて〉のいずれかで「〜ふて」という表記は誤り。「ふて寝はいけません」と覚えるのだそうです。
 07水澄むや、20十一月、34十指もて、35浅草に、もっと良い季語がありそう。着眼点は良いと思うのですが。

【 小津無三 選 】
○01 足湯する  旅先での暮れどきのはやい、といって慌ただしい訳ではない旅情が穏やかに表現されていて好きな句です。
○04 色鳥を  見上げる目的は違っても、それも美しい秋の一日です。
○17 本屋には  古本屋などの独特の匂いを思ったのですが、香りが取り合わされているのにくどくないですね。
○23 鵙の空  景の切り取り方に感心しました。
○35 浅草に  浅草という地名がとても効果的です。
その他気になった句、好きな句
 10 皇后の
 12 無花果を
 36 狐火を
 47 鳥葬や 
 54 ボタ山に

【 喜多波子 選 】
○12 無花果の  無花果と乳房の取り合わせが良いと思います
○22 円陣の  何の集まりか解りませんが円陣の中に居る所長は女の方では・・と、鳳仙花で思いました
○35 浅草に  冬初めにお肉を買った それだけですが場所の浅草で色々想像が膨らみました
○44 暮早し  もう直ぐ夕暮がやって来るひと時、木に凭れて木の温みを感じる・・なんと素敵な時間でしょう。

【 梅原あたみ 選 】
○05 邯鄲の  優雅な生活を物語りあじわい深い感じですうらやましいとも思える銀食器の存在
○29 すべり台  お子様を滑らす前に紅葉の葉を滑らす親子の場面が温かいユウモアを感じます
○40 原稿料  いろいろの事を考えさせられる句彼女か彼かまるで映画の一場面を見ている様な気持ち
○56 山里に  山奥に炭焼き小屋を儲け雪と寒さの中にも、きっと喜びを感じつつ生活する人のまだいらっしゃる事で私まで嬉しくなる

【 鋼つよし 選 】
○01 足湯する  若い二人とも、年配の二人とも読めるとこが良い
○26 化繊綿  冬支度の句では新鮮な句と思う
○30 富有柿の  仏壇にずっしり座るが良い
○33 蟻の巣の  呼びかけの句も久しぶりでよく出来ている。
 ほかに採りたい句
 35 浅草に肉を買ひたる冬はじめ
 40 原稿料入りし夜の林檎むく

【 中村阿昼 選 】
(今月は選句お休みです。)

【 小川春休 選 】
○05 邯鄲の  語と語のつながりが少しずつ小さな飛躍をしていて、句全体として不思議な世界を作り出しています。
○13 赤い実を  鳥の暮らしは、子供の目には、好きなときに好きなものを食べて、どこへでも飛んで行ける、自由な暮らしに映ったのでしょうね。発言がそのまま句になったような詠みぶりが良いです。子供の句はとかく甘ったるくなりがちですが、こういう書き方(どこにも「子供」とは書いてませんが子供の発言と分かる内容)にするとそれも大分カモフラージュされます。
○18 山霧や  「山霧」はなかなかにつかみどころのない季語という印象ですが、中七下五に支えられて、実感のあるものとなっています。広がりのある句でありながら、「お茶二つ」にびしっと焦点が合っている。
○24 蜂蜜に  生姜の蜂蜜漬けはノドにも良く、風邪を予防し体調維持にも効果有りです。坦々とした描写でありながら、「初日」にかける意気込みが静かに伝わってきます。
 01 足湯する  余計なことを言わず、言いたいことは季語に託してあり、好感を持ちました。
 02 秋時雨  「秋時雨」「ランプ」「峠茶屋」、あまりにも道具立てが揃いすぎていて、絵葉書のような句になってしまっています。いずれかに焦点を絞って描写を掘り下げ、実感のある句を書いてほしいところです。
 06 淫すると  面白い句だとは思うのですが、以前私も〈負けん気といふもの木の実拾ふにも〉という句を詠んだことがあり、もしかするとこういう発想自体がありがちなのかも知れないなぁ、と…。もちろん私の句も含めて、ですが。
 07 水澄むや  「水澄む」はなかなかに難しい季語で、何にでもそれなりに合いますが、「水澄む」でなくては!と言えるような句を書くのはかなりの困難事。この句の取り合わせも悪くはないですが、「水澄む」はそれほど効いていないように思います。
 14 文化祭  この場合、「生花」は「せいか」と読むのでしょうか? 「いけばな」では中七が字余りになってしまいます。それとも「嫁」と書いて「こ」と読む?
 16 硝子戸に  作中主体はどこにいるのでしょう。屋外なのか屋内なのか、はっきりしません。屋内であれば、カーテンが厚いと菊が見えない気がしますし、屋外と読むのも何だか不自然な感じです。位置関係の手がかりがもう少し欲しいところです。
 17 本屋には  「本屋の匂い」を感じ取られた点には感性の閃きを感じますが、「金木犀」との取り合わせはあまり感心しません。「匂い」と「金木犀」との連想はある種パターンとも言えますし、「本屋の匂い」のような繊細な匂いは「金木犀」の強い香には負けてしまう。個人的には、花を取り合わせるのなら「花八手」や「枇杷の花」などの香の強くないものの方が「本屋の匂い」が活きてくると思います。
 23 鵙の空  「映りし」だと過去の出来事というニュアンスが強く、「鵙の空」と「眼鏡」を拭くという動作に時間的な隔たりが感じられてしまいます(鵙の空が映ってから眼鏡を拭くまでの間にかなりの時間が経過)。それを防ぐには「映れる眼鏡」または「映る眼鏡を」とすべきかと。
 28 だだいふに  「だだいふ」は「大宰府」の書き間違いかと思いますが、それより謎なのは、今どきは「修学旅行」と同時に「入試」を受けるなんてことがあるんでしょうか。それでは「修学旅行」自体全く楽しめない気がしますし(翌日入試なのに枕投げしてる場合じゃない! 入試後も、結果が気になって枕投げなんてできない!)、さらに不思議なのは、学年全員が同じ学校の入試を受けるんでしょうか? よく分かりませんでした。
 29 すべり台  非常によく分かり、共感もする句ですが、最後を「て」止めにすると締まらない感じがします。個人的には、こういう素直な内容の句こそ句末を言い切る形にした方が余韻が出るように思うのですが、多分に個人的な好みが出る部分かもしれません。
 30 富有柿の  「富有柿」の擬人化表現として「ずつしり座る」はありがちな印象です。擬人化表現はよほど新鮮で、なおかつ本質を掴んだ表現になっていないと、平凡な句になってしまいがちです。
 32 文化の日  「路に茣蓙」を敷いて遊ぶ、というのは、昔ながらの遊びという面もあり、また治安の保たれた平和な世でなければ成り立たない遊びでもあります。その辺りの意味合いと「文化の日」との響き合いから、様々なことが思われる句です。
 34 十指もて  家事初心者である私の素朴な疑問ですが、私が米を研ぐときって、左手でボウルを支えて右手で研いでいるので、「十指もて」研ぐという感じがよく分かりません。ボウルよりもっと大きな安定した容器(でかい桶とか?)で、両手で研いでたんですかねぇ…。
 35 浅草に  「浅草」という地名の持つイメージ喚起力を損なわない為に、中七下五をシンプルな(ある意味漠然とした)表現にされたのかもしれませんが、もう少し具体性があった方が良いように感じました。具体的に言いますと「冬はじめ」は
 38 玻璃に蠅  ささやかな事物を丁寧に描かれていると思いますが、「ぞ」が強くて句のトーンと不調和な感じです。「も」ではどうでしょう。
 40 原稿料  「原稿料」というものへの意識から、「書くこと」にかける思いが感じられて、好きな内容でした。でも、好きな内容だからこそ、ちょっと散文的ではないかという気もしています。いろいろ推敲した末に原型に戻る可能性も重々承知の上で言わせてもらえば、例えば「林檎むく原稿料の入りし夜は」などの形も有りかと。
 43 石蕗咲いて  内容はシンプルなのですが、言い回しがすっきりしていません。動詞が多いのが良くないのだと思います。特に、「見る」「聞く」のたぐいの動詞は使わなくてもそれと分かるように書くことができる場合が多く、この句の場合も「神鈴遠く鳴りにけり」とした方が句の姿が良いようです。思うに、「聞く」と書くと、物音だけでなく聞いている人物も描いていることとなり、要素も増え、焦点もぼやける恐れがあります。「鳴る」と書くと、そこには物音があるだけで、シンプルです。以上のことを了解の上で、それでも敢えて人物の存在を句に刻印したい時には、「聞く」という言葉を使うべきだろうと思います。
 44 暮早し  ささやかなぬくもりですが、木のぬくもりにはほっとしますね。上中下のそれぞれの最初に配されたカ行音の生み出すリズムも良いですね。採りたかった句。
 45 虫喰ひの  手作り野菜や収穫物(つまり商品でないもの)の描写として「虫喰ひ」はありがちです。ここからさらに描写を深めてほしいところです。私の好きな虫食い句として、〈虫の穴縮み消えつつ干菜かな〉(岸本尚毅)を例に挙げておきます。
 50 マンションの  「マンション」という現代的なものと、生活感のある「干蒲団」との対比ですが、こういう対比はもうそれほど珍しくないと思います。
 51 枯草の  枯草が絡むのは犬の毛足が長いからです、という原因・結果をそのまま句にしても面白くありません。もっとすっきりと、「枯草の絡みて犬の毛足かな」などで良いのではありませんか。
 57 冬空を  雲を割る、なら分かるのですが、空を割る、となると少々事情が違ってきます。割れた空から見えるのは大気圏外の真っ暗闇?
 59 今日もまた  正しい音便では、「食うて」と表記します。基本形「食ひて」がウ音便「食うて」になるのです。音便になると、ハ行ではなくア行の表記となります。

来月の投句は、12月15日までに、3句お送り下さい・・・・・・投句はこちら

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