ハルヤスミ句会 第百二十三回
2011年1月
《 句会報 》
01 マイナスの十八度越す凍つる朝 山渓(順) 02 可笑しくもないのに笑ふ冬籠 波子(海・佳) 03 雪起こし粒が道路にばらまかれ 順一 04 キイと鳴く小鳥の餌菜雪の下 つよし 05 水仙やボーダーラインは荒々し 順一(益) 06 二股の枝の餌場や冬の鳥 山渓(ぐ) 07 瞬きて冬はすばるぞ廚窓 ぐり(山) 08 震度一察しながらや賀状書く 春休 09 県境にひとりとひとり冬かもめ 益太郎(海) 10 乾燥機の中は真つ暗大旦 海音(佳・春) 11 連嶺の朝日をはじく初景色 山渓(波) 12 みかんみかん家族の温み積み上げる 益太郎 13 刑務所の壁に差したる初日かな 海音(順・佳・鋼・春) 14 初鏡抽斗の中ぞうぞうと 佳子 15 元朝の墓に赤子と犬ときて 華 16 コート買う今日巣鴨まで初着かな あたみ 17 我運ぶ救命士へと年賀かな 無三(春) 18 遅読てふ二文字脳裏に読始 つよし(波) 19 しはぶきの果てていよいよ撫で肩に 春休(海・ぐ) 20 木の肌に触れて初夢だと気づく 佳子(益) 21 伊豆多賀で巣鴨の切符初参り あたみ 22 オロナミンC置かれあり初句会 海音(佳・あ) 23 口開けて首振り合うて寒鴉 ぐり(山) 24 初売りの仔犬あります廓町 無三(海・益・鋼) 25 トランプを捲りつくして四日かな 佳子(ぐ) 26 年初め敬老会に仲間入り あたみ(山) 27 マフラーより漏らさぬやうに毒づきぬ 春休(益) 28 春や福名のみめでたき廓町 無三 29 四の日をのぞいて巣鴨初参り あたみ 30 お隣は寒復習なり廓町 無三 31 老境のしがらみ軽ろし七日粥 波子(あ) 32 地吹雪に身を寄せ合はす岩の陰 山渓 33 外は外心は心寒に入る 益太郎 34 よく振りて凶と出でたる寒の梅 華 35 芸とのみ彫られし塚や廓町 無三(順・ぐ・波・あ) 36 ちょこなんと老いの居所女正月 波子(山) 37 地吹雪に登頂目前引き返す 山渓(鋼) 38 成人の日の情景は車の戸 順一 39 凍朝の出すや盗りゆく粗大ごみ つよし 40 春を待つ心は無限に挫け居り 順一 41 梅林を抜けるや富士のくつきりと 華(鋼) 42 姉が行くスキーの夜外食多かりき 順一 43 受験子の髪に何度も手をやりぬ ぐり(順・波・あ・春) |
【 石川順一 選 】 ○01 マイナスの マイナス18度なので凍つる朝とはあまりに当たり前の事なのでまさかこの句はとるまいと思ったのですが、読んでからしばらくするともしこの句創が実体験から来ているのであればと思うととって見たくなる誘惑を抑えがたく感じどうしようもなくとって仕舞いました。 ○13 刑務所の これは以前名古屋市内を歩いて居る時に見た刑務所の壁が思い出されたのと、この句の何気なさがいいなと思いとりました。 ○35 芸とのみ 自分の見た物が無理なく句作出来て居るなと思いとりました。 ○43 受験子の 自分の思いを行為を通じて無理なく伝えられたのだろうかと言う状況が、そう言った疑念を払拭した形で、句作には無駄な想念を披歴すること無く、実に無駄の無い形で、その時の行為のみが純客観的にまとめられている点に好感が持てる。 【 湯木ねね 選 】 (今月はお休みです。) 【 涼野海音 選 】 ○02 可笑しくも 屈折した感情表現に人間の不思議さを感じました。 ○09 県境に そこはかとない寂しさが漂っております。 ○19 しはぶきの 体全体で咳いたことが間接的にわかりました。 ○24 初売りの 口語体が生かされ情感が出ております。 【 林 華 選 】 (今月は選句お休みです。) 【 松本てふこ 選 】 (今月はお休みです。) 【 足立山渓 選 】 ○07 瞬きて冬はすばるぞ廚窓 ○23 口開けて首振り合うて寒鴉 ○26 年初め敬老会に仲間入り ○36 ちょこなんと老いの居所女正月 【 川崎益太郎 選 】 ○05 水仙や ボーダーラインの争いは、優勝争いより熾烈な場合が多い。寒さの中、崖等急場で可憐な花を咲かす水仙。この取り合わせがうまい。 ○20 木の肌に 木の肌をどうみるか。夢の隣にいる人の肌とみた。きっと温かいやさしい人であろう。初夢の続きにいるような・・・。木の肌と初夢の取り合わせから生まれる世界。 ○24 初売りの 廓町の句が4句もあったが、この句が一番印象に残った。初売りと廓町の取り合わせに、哀愁を感じた。仔犬が効いている。 ○27 マフラーより マフラーをして言いたいことを言った。しかし、外に聞こえぬように。 やっぱり本音は言えない作者の心根が出ている。 【 草野ぐり 選 】 ○06 二股の 分かり易くて素直で好きだ、冬の鳥という大雑把な言い方もイメージがいろいろ膨らむ。 ○19 しはぶきの しつこい咳は体が強張って本当に辛い。やっと止まったら、ただでさえ撫で肩なのにほっとしていよいよ撫で肩になったのだ。いよいよが効いている。 ○25 トランプを 三ヶ日をひたすらトランプ遊びに。捲りつくしてがすごい。なんか鬼気迫るものさえ感じる。 ○35 芸とのみ 芸の一文字に様々な人の人生が込められているのだろう。郭町は調べたら川越にも岐阜にもあるのですね。 14 初鏡 ぞうぞう、、。抽出の中は新年そうそうぐちゃぐちゃなのか、がらんとしているのか。 20 木の肌に とても不思議な句。木の肌に触れてその手触りに思わず目が覚めたのか。 【 二川はなの 選 】 (今月はお休みです。) 【 水口佳子 選 】 ○02 笑しくも 何となくつまらないテレビを見て、たいして面白くもないのに笑ったり、相手の話に合わせて、よく分からないけど一応笑っておこう・・・とか、考えるとちょっと虚しい行為は日常の中に多々ある。季語が〈冬籠〉で良いか、もっと良い季語がありそうな気もするが。 ○10 乾燥機の 何も入っていなければ当り前と言えば当たり前なのだが、元旦早々乾燥機の中の暗さを詠むなんてちょっと珍しい。食卓にはおせちが並び、リビングにも光が満ちているのに、ちょっと裏へ回ってみると、主婦の領域は何と暗いのでしょう・・・作者は男性かもしれないが。 ○13 刑務所の 〈初日〉というのを歳時記で見てみると年が改まった感懐が伴い神々しさがある、と書かれている。事実だけが淡々と述べられているにもかかわらず、何かいろいろなことを思わせてくれる句。〈刑務所の壁〉の人を寄せ付けぬ重々しさと〈初日〉の神々しさとのギャップがそうさせているのか。 ○22 オロナミン 正月ボケの頭を〈オロナミンC〉でスッキリさせて・・・ということか。ありそうでなさそうな・・・なさそうで実際にあったひとコマを見逃さなかった手柄。私なら季語を上五に措くが。 その他 03 雪起し 〈粒〉がいまいちよく分かりません。 05 水仙や 水仙はよく断崖などに植えられているので〈ボーダーライン〉とはそれを指している?中七でもっと言えそうなのにもったいないと思います。 08 震度一 中七の〈や〉がどうも添え物のように感じられて・・・面白い句材だとは思いますが。 09 県境に 惹かれた句でしたが〈ひとりとひとり〉の位置関係が分かりづらいと思いました。 15 元朝の これだと赤子と犬だけが来たように思えます。〈連れて〉来たという表現にしなければ。 19 しはぶきの できている句だと思います。 27マフラーより 面白い句だと思いましたが、やや述べ過ぎの感。〈漏らさぬように〉は省略できそう。 34 よく振りて よく振ったのに凶と出てしまった皮肉はおかしいですね。中七でしっかり切りたい。 35 芸とのみ 無季ですね。意識的に? 36 ちょこなんと 可愛い老人を想像しました。 38 成人の 車体に成人の晴れ着が映っているということでしょうか。面白い景ですが〈車の戸〉が不十分な気がします。私も車に街の景が映っているのをずっと詠みたいと思ってました。 40 春を待つ 無限なのは何か・・・もう少し具象が欲しい。 41 梅林を 美しくてこれぞ日本、という景ですね。 42 姉が行く 焦点を絞って詠みたいですね。材料が多すぎ 43 受験子の 〈の〉が曖昧だと思います。受験子が手をやったのか、作者がか、それとも第三者が、なのか。語順を変えるなどしてみたらいかがでしょう。 【 小津無三 選 】 (今月は選句お休みです。) 【 喜多波子 選 】 ○11 連嶺の 中七の朝日をはじくが良いので選句しました。 ○18 遅読てふ 私も遅読なので解る句です。 ○35 芸とのみ 下五の地名が良いと思い戴きました。 ○43 受験子の 緊張した時の仕草!合格を祈ります。 【 梅原あたみ 選 】 ○22 オロナミンC置かれあり初句会 ○31 老境のしがらみ軽ろし七日粥 ○35 芸とのみ彫られし塚や廓町 ○43 受験子の髪に何度も手をやりぬ 【 鋼つよし 選 】 ○13 刑務所の 飾りもない刑務所の高い壁に初日とは、印象深い景色だったのでは。 ○24 初売りの 初売りされる子犬とはよい事なのか感心しないことなのか廓町でなんとなく救いが。 ○37 地吹雪に 山の怖さは経験あるので無事が何より。 ○41 梅林を 明るくて景色の雄大なのが良い。 【 中村阿昼 選 】 (今月はお休みです。) 【 小川春休 選 】 ○10 乾燥機の さすがに元旦から洗濯なんかしないでしょうから、元日は乾燥機もお休み。ひっそりとした乾燥機の様子が目に浮かびます。個人的には「中真つ暗や」と切った方が響きも明るく、「大旦」らしさが感じられるかと思います。 ○13 刑務所の 最後まで採るべきか悩んだ句。淡々と景を叙していますが、厳然と隔てられた世界の存在を伝えています。また、季題「初日」の句として、めでたいばかりでない、複雑さのある句となっている点も評価できると思います。 ○17 我運ぶ 何らかの身体のトラブルで救命士のお世話になることになったようですが、意識もはっきりしていて言語も明瞭。となると非常時でも最低限の挨拶はする訳で、この句の場合ではそれが新年の挨拶だった。飄々としていて良いですね。ただ、もしかすると下五もっと良い言い方があるかもしれません。 ○43 受験子の 言葉で励ますのは難しいもの。もう十分に頑張ってる人に対して「頑張れ」というのも案外言いにくい、かといってネガティブなことも言えない。この句では、さりげない行動に込められた心情が伝わってくる点が良いです。 01 マイナスの 上五中七は「凍つる朝」の説明に過ぎないのではないでしょうか。また、「マイナスの十八度」という言い方も気になります。通常、「マイナス十八度」とは言っても「マイナスの十八度」とは言わないのではないでしょうか。もちろん意味は通じますが、たどたどしい印象を受けてしまいます。 05 水仙や 何の「ボーダーライン」でしょうか。荒々しいボーダーライン…。時期的に、ボーダーラインと言われると大学入試の合格の基準となる得点が思い起こされますが、違いますよねぇ…。 06 二股の これはぜひとも「枝の」ではなく「枝を」としてほしいところです。「枝の」だと景の描写のみですが、「枝を」とすると動きも少し見えてきます。 09 県境に 私自身の住んでいる地域が山に近いため、「県境」というと山を想像しましたが、この句では「冬かもめ」とあるので、海沿いの県境なのでしょう。ただ、山中の県境というのは人里離れたさびしいところが多いですが、海沿いの県境はどうでしょう? 例えば広島・山口の海沿いの県境を思うと、特段県境ならではという雰囲気はないです。ちょっと景がはっきりしてこないなぁ。 11 連嶺の きちんと出来ている句と思います。 12 みかんみかん 残念ながら、こう言ってしまうと一句の答えが出てしまいます。「みかんイコール家族の温み」ということを、いかに表現すれば読み手にも実感を持って伝えられるか、そこが思案のしどころです。 14 初鏡 「ぞうぞうと」というオノマトペがよく分かりません。どういう状態でしょうか。 16 コート買う 何だかごちゃごちゃした印象です。作中主体は今どこにいて何をしているのでしょうか。今コートを買っているのか、これからコートを買いに行くのか、必要以上に読みの可能性が分かれています。 18 遅読てふ 読んでいるものの内容ではなくて、自分の読む速度の方に意識が行っている訳ですが、「読始」の説明という気がします。 20 木の肌に 現実とは異なる触感に、夢の中の出来事だと気付く、繊細な感覚ですね。文体は、意図的に散文的にされているのだと思いますが、「木の肌に触れて気づきぬ初夢と」等の形もありかなと思います。 22 オロナミンC 肩に力を入れず現代の景を描いていて好感を持ちましたが、句としては少々薄味かな、という気もしました。「置かれあり」にもう一工夫できそうな気がしています。 24 初売りの 「あります」の無造作さが悲しいですね。それが「初売り」というのも感慨深い。 29 四の日を 「四の日をのぞいて」がよく分かりませんでした。「四日を避けて」ということでしょうか。「四」が「死」につながるから縁起が悪い、などといういわれがあるのでしょうか。それとも初参りの途中などに店を「のぞ」くのか。 36 ちょこなんと 飄々とした句のたたずまいに好感を持ちました。 37 地吹雪に 劇的な内容の句のはずですが、散文的な言い回しのため、鮮度をもって伝わってきません。もっと良い言い方があるのではないでしょうか。 38 成人の ちょっと読む手がかりが少なすぎる気がします。成人の日に、晴れ着を着て、愛車の前で記念撮影でもしたのかと推測しましたが、それにしても「情景」の意味するところがかなり不明瞭であり、「戸」と限定するのも不自然な気がします。そもそも私の推測自体が見当外れかもしれませんが…。 39 凍朝の 意図するところは分かりますが、「出す」と「盗りゆく」で主語が異なるため、そこがすんなり読めない。例えば「盗られし」などであれば、自然に読めると思います。 41 梅林を 気分の良い句ですが、綺麗すぎて実感が感じられません。 42 姉が行く 破調であること自体が悪いという訳ではありませんが、もう少しすっきり出来るのではないでしょうか。「外食」は姉が食べるのか、作中主体か、それもあまりはっきりしない。 |
来月の投句は、2月15日までに、3句お送り下さい・・・・・・投句はこちら |
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