01 山下る雲立ち上がる雷の中   山渓(ぐ)

02 月見草眠りはじめのモノトーン 佳子

03 十薬やちょっぴり苦き薬指   益太郎(て)

04 梅雨明けの空港循環バスに乗る てふこ

05 汗滲むものの数文字消すにさへ 春休(波)

06 光りたる鼻の頭の汗疹かな   ぐり(海・山・春)

07 全盲の登山者ゆけり穂高岳   山渓(順)

08 黄菅咲く丘すれすれにグライダー 山渓(海)

09 水無月のくちびる厚き深海魚  佳子(海・て・益)

10 直売の農家競へり夏野菜    つよし(山)

11 宮さうぢ箒の先に蟇出でて   はなの(順)

12 火蛾払ひけりランボーの詩集もて 海音(順・ぐ)

13 家中が過呼吸であるかたつむり 益太郎(波)

14 冷房の沁みて水色検査着よ   春休(益・佳)

15 茗荷汁また肥えたかと母の問ひ 忠義

16 白玉を口にふふみつ咎める目  ぐり(春)

17 海霧冷えや朝酒所望を言はずゐて 波子

18 風鈴や東の空に光る星     山渓

19 ほおずきやあなたのやさしさ待ってます 益太郎

20 話すことなければ沖のヨット見る 笛吹(順・鋼)

21 辞書に紙魚ページを開けたままにする 順一

22 空港のぐるりを囲み雲の峰   てふこ(山)

23 犬らしき影あり夜の網戸ごし  ぐり(佳)

24 テキストを開ければ紙魚が猛ダッシュ 順一(忠)

25 水遊び潜り合はねばじやれ合へず 忠義

26 もつを焼く玉の汗なり求めけり つよし(春)

27 濃き蚊飛びひたすら腕を避難さす 順一

28 井戸四角蓋四角月涼しかり   春休(海・て・波・鋼)

29 撥ねだしの貝や加工場風通る  はなの

30 梅雨明や遅速の目立つ菊の丈  つよし(山)

31 大量の氷をグラスに入れ放置  順一

32 墳墓地に夏の太陽マッチ擦る  波子(鋼)

33 黙々と歩荷の歩むがれ場道   山渓

34 左手にクワガタ隠しレントゲン 笛吹(忠)

35 あれはたしか胎内で見し夏の霧 佳子(忠)

36 蚊帳吊つてはふり込まれる漫画本 波子(笛・ぐ・佳・鋼・春)

37 捕虫網とカープの帽子古りにけり 海音(笛・忠・て)

38 夏の夜に無料動画三昧祭    順一

39 夏料理出し終えて取るコック帽 笛吹

40 古白の句思ひ出したる夕端居  海音

41 仰向けはとんぼが死んでいる姿勢 笛吹(益)

42 点々と赤紫蘇馴染む握り飯   忠義(笛)

43 葭簀掛け軒の雀の巣は空に   はなの

44 喪服着て母誰よりも日焼して  てふこ(笛・益・ぐ・佳・波)




【 伊藤笛吹 選 】
○36 蚊帳吊って 蚊帳というのは、なんとなくキャンプみたいで、放り込まれる漫画の自由感と合っていると思います。 
○37 捕虫網と 捕虫網とカープの帽子って、まさに私の子供時代の雰囲気です。
○42 点々と 紫蘇の色が目に浮かびました。
○44 喪服来て 母の様子が彷彿としました。

【 小早川忠義 選 】
○24 テキストを  そんなに開かずにいたテキストってことだから、何のテキストだったのかというのが興味深いです。
○34 左手に  クワガタはX線には反応しないような気がしますが、その反応を確かめたいという無邪気な好奇心が表れているのがよいです。
○35 あれはたしか  新潟の北部に「胎内市」という所がありますがそう思うと案外すっと入っていけちゃう。母のお腹の中ともなればシュールになります。
○37 捕虫網と  作者が解りそうな気もしますが、野球帽で色褪せやすいんですよね、赤は。そこには巨人や大洋の帽子を愛用していた自分としては同情も込めて。

【 石川順一 選 】
○07 全盲の  「全盲の」に力強さを感じました。作者はただ見たのでは無い、心に強く感じたのだと確信できる句だと思いました。
○11 宮さうぢ  ユーモラスな場面である。神も微苦笑しているのではないか。
○12 火蛾払ひ  作者は必死だ。「ランボー詩集が」季語であるかのように感じました。
○20 話すこと 日常の一コマの良さを感じました。「沖のヨット」が擬人化されて居るかの様に読んでも違和感が無いと思いました。

【 湯木ねね 選 】
(今月はお休みです。)

【 涼野海音 選 】
○06 光りたる  一読して芥川龍之介の「鼻」を思い出しました。だんだんと汗疹にズームアップしていってます。
○08 黄菅咲く  「すれすれに」がこの句の眼目。「黄菅」より相応しい季語がありそうかも・・・
○09 水無月の  水族館で深海魚を見ているのでしょうか。深海魚の「くちびる」に注目したところに大いに共感しました。「水無月」という季語を配したことで、深海魚の存在も際立っているように思えました。
○28 井戸四角  「四角」という語の畳みかけるリズムが心地よい。「し」の連続も効果的。

【 松本てふこ 選 】
○03 十薬や  〜や、としておいて新かなで「ちょっぴり」と使ってくるとか、一句全体のトーンがはっきりしないのが欠点ですが、十薬と薬指(私にとっては結婚のことを考えざるを得ないキーワードです…詳細は現在発売中の「guca2」をお読み下さい)との取り合わせが新鮮で。
○09 水無月の  取り合わせは水に魚、実に直球。しかし、深海魚、と一気に句の世界を想像しづらいところにもっていくことで句全体に独特の艶かしさが生まれた。水に引き寄せられる作者の心のうつろいが伝わってくる。中七に意外な説得力。
○28 井戸四角  四角、四角、そして美しい丸(満月に近い月を想像した)。抽象画のようなシンプルな描き方が涼しげ。
○37 捕虫網と  一読、これって今はもうない球団だったり身売りした球団にする方が分かり易いのでは、と思ったのですが、昔から球団名も変わらず身売りもしなかった球団の帽子にして、持ち主の人生と重ね合わせるからこそ生きる句なのだな、と何回か読んで納得。

【 足立山渓 選 】
○06 光りたる  確かに鼻の頭にはよく汗疹が出来ますね。日常のことを簡単に句にまとめている手腕に敬服。
○10 直売の  農協でも道の駅でも昨今は農家の方々は、生産者名をつけて販売していますよね。それを競うと感じられた感性が佳。
○22 空港の  常滑から中部空港を眺めた景色そのままを思い浮かべました。
○30 梅雨明や  我が家も家内が挿し木で菊を育てており、掲句の通り遅速がある。単純なことだがよく観察され美味く纏められた。

【 川崎益太郎 選 】
○09 水無月の  くちびる厚きに実態感あり。水無月も効いている。
○14 冷房の  服を脱いで検査着に着替える。冷房が素肌に沁みて検査に対する不安もよぎる。水色も効いている。
○41 仰向けは  とんぼの死と我が姿を重ねた。キリストの形でもある。
○44 喪服着て  働き者の母の姿が目に浮かぶ。母に対する尊敬の念と少々の悔悟の念。

【 草野ぐり 選 】
○01 山下る  山の天気はあっという間に変わってしまう。もうこれは急がなければ。
○12 火蛾払ひ  都会では火蛾が部屋に入ってくることは滅多になくなってしまった。夏の夜をランボーの詩集を読んで過ごすのはどんな人だろう。
○36 蚊帳吊つて  懐かしい夏休みのひとこま。一日が長かったあの頃は眠りに落ちる一瞬まで楽しいことを考えていた。
○44 喪服着て  喪服から出る白いうなじや手首はドキッとするが母は誰よりも日焼しているのだ。化粧もせずおそらくその手は節ばっているのだろう。家族ためにひたすら働いてきた母。誰よりも悲しみにくれている母。

【 二川はなの 選 】
(今月は選句お休みです。)

【 水口佳子 選 】
○14 冷房の 人間ドックの時に「こちらに着替えてください」と渡される検査着。きちんと糊づけされていて手を通した時の感触を覚えている。その時すでに検査着は冷ややかな感触ではあるが、病院内の冷房がさらに沁み込んでくる感覚は、慣れない検査への戸惑いや不安へと繋がっていく。〈水色〉というのもいい。最後の〈よ〉はどうかな・・・付け足しのように思えないでもない。
○23 犬らしき 〈犬らしき〉と言いつつ犬ではないかも知れない、というちょっとした疑問を残しているところが面白い。もし犬でなかったら・・・という所からどんどん夜の網戸の向こう側へと思いを引き摺られていく。
○36 蚊帳吊つて 良き時代の夏の夜。蚊帳の中には子供達だけの時間があった。エアコンなどなくても夜は結構涼しかったなあ。ほんの半世紀ほど前のことなのに、ものすごく昔だったようにも思える。〈はふり込まれる〉のは漫画本でありながら、子供たちもその空間に放り込まれたということだろう。
○44 喪服着て  喪服のあまり似あわない母がなんだか悲しい。母の来し方が思われる。〈着て〉〈日焼けして〉のリズムもいい。
 その他
 12 火蛾払ひけり  〈火蛾〉と〈ランボーの詩集〉は意外性があって面白いと思います。でもほんとかしら?とも思ってしまって。
 20 話すこと  映画のワンシーンのような句。ちょっと出来過ぎかなあとも思う。
 25 水遊び  これは好きな句でした。中7下5で十分水遊びと分かるので、季語は他のものでも良かったかと思いました。
 37 捕虫網と  すごく納得。皆かぶってるんですカープ帽を、広島ではね。ローカルな感じが好きな句です。

【 喜多波子 選 】
○05 汗にじむ  下五 消すにさへが上手いと思います
○13 家中が  過呼吸の家族 それに家を持っている蝸牛も・・ 納得させられました。好きな句です。
○28 井戸四角  余り状況を言っていないが 井戸がある鄙びた田舎を想像しました。季語 月涼しかり 句またぎが良いと思いました
○44 喪服着て  自分のようで可笑しくて! 良く見ていると思います。

【 鋼つよし 選 】
○20 話すこと  なかなか詩的な風景で良い。
○28 井戸四角  四角、四角ときて月涼しと決めたところが素晴しい。
○32 墳墓地に  暑そうな景色がよく出ている。
○36 蚊帳吊つて  43の葭簾の句と迷いましたが漫画という元気そうな句を選んだ。雀の巣も句の広がり、余韻があってよい句と思います。

【 中村阿昼 選 】
(今月はお休みです。)

【 小川春休 選 】
○06 光りたる  汗疹に「光」を見出だす視点は、俳人ならではのものですね。褻の事物、俗な事柄の中に光を見出だし、それが「生きること」を描くことにどこかでつながっている。
○16 白玉を  なぜ咎められるのか全く状況が分かりませんが、変な怖さというか、妙に心にひっかかるものがあります。自分を咎める相手の心の働きと食べる行為が並行して行われているというリアリティ、さらに白玉の質感が「咎める目」の白目をも連想させる。
○26 もつを焼く  売られている物自体の見た目だけでなく、それを作っている様子というのも重要です。汗かいて焼いているモツはさぞ旨いでしょう。中七下五の「なり」「けり」の畳み掛けも、あまりに旨そうなので迷わず即購入!という感じが伝わってきて巧みです。
○36 蚊帳吊つて  中七の動きと言葉のダイナミズムで、句が生き生きとしたものになっています。「蚊帳吊るや」と切る形もありかなぁ、と思いました。
 01 山下る  はらはらする下山の景ですが、敢えて人の姿を描かず、雲と雷だけで一句にした方が、焦点が絞られてよりダイナミックな句になるのではないかという気もしました。
 02 月見草  月見草ではちょっと甘いかなぁと思います。
 08 黄菅咲く  景としてはとても鮮やかですが、花に「咲く」という語はあまり使わなくても良い場合が多いです。一句に動詞はなるべく少なく、という事がよく言われますが、それは動詞が多くなると句の焦点がぼやけてしまうから。この句においては、句の焦点はグライダーの動きの方であり、花が「咲く」という動きを描写するメリットはないと思います(花が咲く事自体を主題とする句の場合はそうとばかりも言えませんが)。例えば「グライダー黄菅の丘をすれすれに」等々。
 09 水無月の  中七の描写は端的で見事ですが、その分、上五の季語が物足りない感じがしました。「の」でつなぐより「や」で切った方がくっきりするような気もします。もっと良くなる句と思います。
 11 宮さうぢ  言葉の運びがこなれているところが良いですね。箒の先に蟇出でて   はなの
 12 火蛾払ひ  「ランボー」の箇所に他の詩人の名を入れることも可能な訳ですが、どれだけ入れ替えが利かない名前を持ってくるかがこういう句の成否を分けます。この句の「ランボー」は合っていると思います。蕪村の句に〈鍋敷に山家集あり冬ごもり〉〈梶の葉を朗詠集の栞かな〉などがあるのを思えば、詩人の名より詩集の名、「ランボーの詩集」より『地獄の季節』を持ってきた方が印象鮮明な句になるかもしれません(字数が一字足りませんが)。
 15 茗荷汁  肥えることでいろいろと健康上の問題が起こることもありますが、おいしいものを食べたら肥える、というのは自然でもあり、幸せでもあると思います。この母堂の料理がおいしいせいで肥えたのかもしれませんね。
 17 海霧冷えや  「冷え」まで言うと「朝酒」に理が付いてしまう感じです(今朝は冷え込むから酒は止めておこう、など)。「冷え」は言わずに「海霧」だけで使いたいところ。中七下五も少々分かりにくい(結局飲みたいのか飲みたくないのか?)ので、もう少しきっぱりと言うべきところは言ってほしいように思いました。
 20 話すこと  しっかり出来た句ですし共感もしますが、少々出来すぎという感じもします。
 22 空港の  空港と雲の峰という景は良いと思うのですが、中七の「ぐるりを囲み」は、あまり練られずにするするとオートマティックに出てきた言葉という感じがしてあまり感心しません。「ぐるりを」「囲み」のどちらかだけで良い気がしますし、もっと描写すべき点が他にあると思います。
 23 犬らしき  「や」「けり」に比べて「かな」は詠嘆の度合いが強く、句作の上で具体的な描写を採るか「かな」の詠嘆を採るか悩むことはままありますが、この句も「かな」にした方が良いのではないかな、と思いながら読みました。例「犬らしき影ある夜の網戸かな」。そう思うきっかけは「ごし」が蛇足と感じたから、というのもあります(影が網戸の向こう側なのは言わずもがななので)。
 24 テキストを  紙魚の猛ダッシュを見たことがないのですが、どの程度のダッシュぶりだったのでしょう。私も見てみたいものです。
 25 水遊び  きゅんとしますねぇ…。でもちょっと季語の説明になってしまっている感も…。海とかプールだということが分かる別の季語はいかがでしょう、例えば「海開き」とか。推敲してみてください。
 30 梅雨明や  蕪村の〈二(ふた)もとの梅に遅速を愛す哉〉を思い起こさせますが、こちらの句は蕪村句と比べると具体的な描写となっていると思います。
 32 墳墓地に  炎天下の強い日差しの中で、線香に火を点すときの感じを思い出しました。
 37 捕虫網と  私などは広島生まれの広島育ちなので共感すること頻りなのですが、上五中七いずれも「古りにけり」と懐かしむのにふさわしすぎる対象なのが物足りない気がします。こんな意外なものまで古びてしまった、もしくはそんなものを懐かしむ人がいるのか、などという軽い驚きを伴う句になっていないと、ノスタルジーの範疇に収まりきってしまうと思います。
 39 夏料理  全て句の中で原因・結果を出し切ってしまっているので、散文的で広がりがありません。「夏料理出し終えて」という直接的に述べるのではなく、一仕事終えた後であることを読み手に読み取らせたいところです。
 42 点々と  このままでもおいしそうな句なのですが、個人的な好みを言えば、「馴染む」か「握り飯」のどこかひらがなにするともっとおいしそうな気がします。
 44 喪服着て  親類縁者が一同に会する場で、母の日焼けぶりに今更ながら気づく。健康的な母、という読みも成立するはずなのだが、どちらかというと誰よりも苦労している母、と読んでしまうのは、葬儀という場のトーンの影響でしょうか。しっかり人物が描かれていると思いますが、小説やドラマで描かれたことのある世界という印象も受けます。


来月の投句は、8月15日までに、3句お送り下さい・・・・・・投句はこちら

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