01 眼鏡ケース閉づるいきほひ秋高し 春休(遊)

02 ふくらはぎ痛くなるまえで踊りけり ぐり

03 振り向けばしかと鳴き止む法師蝉 忠義(順)

04 遮断機を潜り抜けたる赤とんぼ  山渓(順)

05 伸びながらめくられゆくよ桃の皮 てふこ(波・海・ぐ・佳・春)

06 秋茄子といへどどさりと貰ひけり 山渓(鋼)

07 鬼の子の頭ふるへてゐる月夜   海音(タ)

08 白桃の種を遺恨のかたちとも   佳子(益)

09 乗り込めば座ればすぐに秋扇   はなの(海)

10 無花果の皮が袋の中で腐り    順一(忠)

11 待ちぼうけ持ちぼうけして風の盆 益太郎

12 マスカット葡萄が代わりに届きけり 順一

13 蝋燭のすぐに消へたる墓参かな  山渓

14 広島の鰯雲貨車より長し     海音(は・春)

15 梨むきて銘々皿の濃紫      タロー(ぐ・は)

16 満月や朝の走りに聳え有り    順一

17 刃を入れて桃の果肉のおとろへり てふこ

18 衰へぬ虫の鳴き声秋旱      つよし(遊)

19 崩落の家に紐垂れ秋の風     笛吹(波・益・春)

20 野分風来たれり耳の渦たどり   春休

21 踊り子の小顔近づく秋の風    波子(忠)

22 台風を衝いて速達届きけり    笛吹(山・鋼)

23 天空へ昇り昇るや今日の月    遊介

24 月の夜の招かぬ客に青蛙     つよし

25 朝顔の鉢を直しぬ検針員     タロー(笛・海・山・は・佳・春)

26 雑草といへど光りぬ露の玉    山渓

27 伐採の丸太ごろごろおみなえし  はなの(波・遊・て)

28 水巴忌の廊下や隅に汚れあり   忠義(順)

29 野放図に紫苑有名進学校     ぐり(順・佳)

30 小鳥来るふらんす堂の句集の背  海音(波・て)

31 落鮎の川底削る命かな      益太郎

32 近過ぎる虫の音バッグより聞こゆ 順一

33 食太き鄙のくらしや花茗荷    波子(て・は)

34 事故死なる通夜の帰りの夜露かな 山渓

35 津波跡瓦礫に咲いて茄子の花   笛吹

36 朝露に置かれて缶の収集日    つよし(タ・笛・て・ぐ)

37 香箱を抱える猫や月今宵     遊介

38 爬虫類見て月光に手を洗ふ    佳子(笛)

39 穴に入る蛇の長さを見届けし   春休(遊・忠・益・鋼)

40 七輪に一の文字ひく初秋刀魚   遊介(◎山・益)

41 ばば様の雲見つ佇てり野分中   タロー

42 受話器離せば爽やかに耳に風   春休

43 二百十日ブリキの錆が手に移り  佳子(タ・鋼)

44 庭園のシルバーチケット穴惑い  益太郎(海)

45 掃き終へし庭にごろつと柘榴の実 はなの(笛・山)

46 菊膾仇名ばかりの飛び交ひて   忠義(佳)

47 稲雀緑の中へ没し行く      順一

48 龍淵に潜みゆつくり飯を食う   ぐり(忠)

49 働いて電池発熱体育の日     春休

50 進展の滞りなし雁渡る      波子

51 三日月やボンゴを乗せて列車ゆく てふこ(タ・ぐ)




【 小林タロー 選 】
○07 鬼の子の  近頃はほんとに蓑虫を見ることが少なくなりました。そんな蓑虫が月明かりに照らされて見えている。風に揺られているのではなく、「頭」がふるえているのだ。そこまで見えるかどうか---心象風景かとも思いましたが、そこに俳味を覚えました。
○36 朝露に  今朝は分別ごみの収集日、早めに出すと今朝は冷えたのか露が降りていて、その上に分別ごみを置きました。生活と季節感をうまく掴まえていると思います。
○43 二百十日  ブリキはプラスチックに取って代られ普段の生活ではほとんど触りません。缶詰の空缶に雨水が溜り錆が浮いているのも昔はよく見かけました。今は資源ごみで回収されますので台所でごみ袋に移す時に手についたのでしょう、鉄さびの匂いは洗ってもなかなか落ちません。そのしつこさとやるせなさが二百十日の逼塞感とあっているように思います。
○51 三日月や  むかし「ボンゴ」という車に乗っていたことがあり、一読その車を載せて貨物列車がゆくのだと読みました(笑)。決して主役級ではない打楽器「ボンゴ」が夜汽車に乗せられて揺られている、乗せたのはだれか、どこへ何しに送られているのか、楽器奏者はそばにいるのか、そもそも実景なのか、何から何まで分からないのですが、主役級同士ではないボンゴと三日月の取り合わせが面白いと思いました。

【 伊藤笛吹 選 】
○25 朝顔の  さりげない優しさがさらりと述べられた
○36 朝露に  缶と朝露という意外な取り合わせながら、実感あり
○38 爬虫類  幻想的。ひとつ間違うとひとりよがりになりそうですが、これは好きです。
○45 掃き終へし  柘榴の実に存在感あり

【 森田遊介 選 】
○01 眼鏡ケース  眼鏡ケースというものはなぜパチンと勢いよく閉じるのでしょうか?指を挟みかねない勢いです。その勢いと下五の秋高しの取り合わせがよいと思います。ケースの閉じる勢いとスコーンと抜けた秋がマッチしています。
○18 衰へぬ  初秋には虫の音を風情と感じ、しみじみとした感傷的になるけれど、幾日か経つと絶え間なく鳴き続ける虫の音は時として雑音にも聞こえ疎ましくもあります。秋の時間が経過している景が読めます。
○27 伐採の  ほの暗い斜面に伐採された木々が転がっている。過酷な山男の作業場を最初に思い浮かべました。それと対比しておみなえしの鮮やかな色。景の中に色が見えます。
○39 穴に入る  蛇は気味の悪いものだけれど、どのくらいの大きさなのかを見届ける。恐いもの見たさの興味心。子供であっても大人であってもこんな興味心は大切にしたいものです。

【 小早川忠義 選 】
○10 無花果の  無花果って皮が腐っても中は意外と無事だったりするんです。けど、神経質な人は嫌がるのかな。
○21 踊り子の  踊り子と客は決して結ばれる運命にない。道ならぬ恋に落ちたとしても、その先に春は遠い。
○39 穴に入る  世界最長の蛇は15mのニシキヘビだそうです。入りゃ入ったでとぐろを巻いてじっと春の来るのを待つのでしょう。
○48 龍淵に  蛇が穴に入れば、龍は淵に潜む。農作業を終えた中で寒い冬に備える前のゆったりとしたひと時。

【 石川順一 選 】
○03 振り向けば  何かコント見たいで。
○04 遮断機を  一体感があるような気がしました。虫と自分と言った感じの。
○28 水巴忌の  渡辺水巴と言う俳人に興味を持つきっかけとなりました。何気なさは結構重要なけっかけとなるかもしれません。
○29 野放図に  「野放図」とは大胆なとらえ方だと思いました。「進学校」と意味がつき過ぎず、いい塩梅になっているかと。

【 湯木ねね 選 】
(今月はお休みです。)

【 涼野海音 選 】
○05 伸びながら  桃の皮が剥かれる様子をスローモーションでみているようです。
○09 乗り込めば  強引な句ではありますが、妙に納得しました。
○25 朝顔の  細かなところに気がつく検針員! もしかして朝顔の鉢につまづきそうになったのかも。
○44 庭園の  「穴惑い」は蛇だけど,この句は人間も戸惑っているような。

【 松本てふこ 選 】
○27 伐採の  おみなえしの鮮やかな黄色と丸太の茶と肌色の色あいが鮮やかに見えてくる一句。「ごろごろおみなえし」がすべてひらがなで、前半と打って変わった素朴な愛らしさが加わるところが狙いなのかなんなのか…面白いけれどちょっと迷走しているようにも思い、少し評価に迷いましたが、程よい湿り気を帯びた秋の森の空気が感じられました。
○30 小鳥来る  サイズも装丁も色々だけれど、ふらんす堂の句集には独特の雰囲気があるように思います。作者もきっとその独特の雰囲気を感じ取り、「小鳥来る」と取り合わせてふらんす堂の句集を本棚から抜き取る時(『背』の描写が印象深いのでそう解釈しました)のささやかな幸福感を一句にしたのではないでしょうか。作者は句集を既に出しているのかもしれませんが、句集を出すことへの憧れや畏敬の念も感じました。
○33 食太き  花茗荷は見た目は可憐ですが、庭で育てたりもしますし、どこか図太さを感じさせます。不便ながらも楽しく健やかに暮らしている作者は花茗荷に共感するところがあったのかもしれません。中七で切れる構造も骨太な印象。
○36 朝露に  朝露を配置することによって缶の質感が鮮やかになりました。収集日なので色んな色の缶が集まっているところも想像すると楽しい。秋の朝日を浴びる心地よさも感じさせ、爽やかで秋らしい印象の句です。

【 足立山渓 選 】
◎40 七輪に  七輪で秋刀魚一匹丸ごと焼く懐かしい光景。中七の措辞に感動。
○22 台風を  速達だから台風といえども届けなければならない。配達員さんの苦労がしのばれる。
○25 朝顔の  水道の検針でしょうね。メーターの上に鉢がある。その鉢を動かして数値を読んでいく検針員の景が浮かぶ。
○45 掃き終へし  中七の表現が爆ぜて落ちた柘榴の実を適格に表している。

【 川崎益太郎 選 】
〇08 白桃の  桃の種はぎざぎざして大きい。あたかも遺恨のようである。遺恨が上手い。
〇19 崩落の  地震や津波で崩れた家に垂れる紐は、哀しい。秋の風が一層身にしみる。それは心の崩れた作者かも知れない。
〇39 穴に入る  蛇を見ると長さが気になる。見える部分と見えない部分を足したものが全身である。心も同じである。
〇40 七輪に  一の文字引く。この見立てに感心。

【 草野ぐり 選 】
○05 伸びながら  伸びながらがなんともリアルでしかもくすっとしてしまう表現。あくまでも桃の皮に焦点を絞ったのがいい。
○15 梨むきて  瑞々しい梨が濃紫の皿に映えて本当に美味しそう。濃紫の銘々皿いいですね。私も欲しくなった。
○36 朝露に  缶の収集という超日常の中に秋の気配を見つけた。缶にも朝露のしっとりとした湿り気が移ってひんやりとしているのだろう。
○51 三日月や  ボンゴを乗せた列車はどこにいくのか、絵本の世界のよう。ボンゴと三日月の取り合わせが意外なほどしっくりくる。
 01 眼鏡ケース  気持ちがいい句。三段切れがちょっと気になった。
 20 野分風  独特な感覚が面白い。ただ野分とは秋の暴風の意味だから風はいらないのでは。

【 二川はなの 選 】
○14 広島の鰯雲貨車より長し
○15 梨むきて銘々皿の濃紫
○25 朝顔の鉢を直しぬ検針員
○33 食太き鄙のくらしや花茗荷

【 水口佳子 選 】
○05 伸びながら
○25 朝顔の
○29 野放図に
○46 菊膾
今月は選句のみにさせてください。

【 喜多波子 選 】
今月は・・選句だけですみません。
○05 伸びながらめくられゆくよ桃の皮
○19 崩落の家に紐垂れ秋の風
○27 伐採の丸太ごろごろおみなえし
○30 小鳥来るふらんす堂の句集の背

【 鋼つよし 選 】
○06 秋茄子と  どさりがいい響きで景色が浮かぶ、「と」がなくてもよいのでは。
○22 台風を  よどみなくすっきりとした良い句。切れも効いている。
○39 穴に入る  長さを見届けるが新鮮に映りました。
○43 二百十日  錆がつくというなんでもない事柄が季語を得て俳句になっている。

【 中村阿昼 選 】
(今月はお休みです。)

【 小川春休 選 】
○05 伸びながら  めくられていく桃の皮を「伸びながら」とはなかなか面白い把握の仕方だと思います。まるで、桃の実から皮がにょきにょき生えてくるような、不思議な映像が脳裏に浮かびます。見るからに意外な内容の句よりも、こういう、身近な物事の不思議な存在感を描き出す方が、俳句に書くべき対象だと思います。個人的には、ですが。
○14 広島の  「広島の貨車より長き鰯雲」という句形にした方が自然のような気もしましたが、これだと原句の言い流した感じが出ないので、やはり原句の方が魅力的ですね。地名から入って、「鰯雲」という大きな季語を打ち出し、視点を地上の貨車に転じながらも広がりを感じさせる。
○19 崩落の  何の紐かは述べられていませんが、電灯の紐でしょうか。崩落した家の中の紐が、外からでも見える。そしてその家を秋風が吹き抜ける。ウエットさを抑えた描写と「秋の風」の情感との取り合わせが、味わい深い句です。
○25 朝顔の  非常に具体的で、かつ景がしっかりと見えてきます。そして、表面的なことだけではなく、何とはなしにこの検針員の人柄のようなものまで感じ取らせるのがこの句の巧みなところです。
 02 ふくらはぎ  原因・結果を全て言ってしまうと、ただの報告になってしまいます。
 06 秋茄子と  うーん、中七の逆接があまり活きていない感じがします。結局具体的な事実としては、どっさり貰った、というだけですし…。ちょっと描写が弱いです。
 07 鬼の子の  「頭」に焦点を絞った点が良いです。月に照らされた蓑虫の頭のつやつやした感じが目に浮かびます。採りたかった句。
 09 乗り込めば  結局、乗り込んですぐに使ったのでしょうか。座ってから使ったのでしょうか。
 11 待ちぼうけ  「持ちぼうけ」とは何でしょう?
 15 梨むきて  きちんと出来ている句ですが、ちょっと物足りない感じもします。
 16 満月や  よく意味が読み取れない句です。朝のジョギングの最中に満月が見えたということでしょうか。下五の「聳え有り」もよく分かりません。上五を「や」で切っているため、何が聳えているのか、句意が非常に曖昧です。満月の様子を聳えると表現したとも、月以外の山や建物が聳えているとも読むことができる。
 17 刃を入れて  非常に繊細なところを描こうとされていますが、その繊細さが迫真性を持ち得ていないのではないでしょうか。描写を深めることで、句に力を与えてください。
 21 踊り子の  この句の面白みは「小顔」に着目したところですが、それ以外の部分でその着眼点を活かすようにされるともっと面白くなる句と思います。「秋の風」ではムードに流されてしまうのでもったいないです。
 22 台風を  文意明瞭ではありますが、「を衝いて」が散文的。散文の文法としては無理のある言い方でも読み手に伝わる、俳句ならではのもっと良い言い方があると思います。
 26 雑草と  「06 秋茄子と」と同じく逆接の句。にわかに逆接ブームが来ているのでしょうか。しかし、この句の逆接は意味はよく分かりますが、理屈の句になってしまっているようです。
 29 野放図に  有名進学校というと、学校の周りもきれいにしてあるイメージですが、現実は違うのかもしれませんね。それとも名前だけ、有名なだけで実質が伴わない、とか…。
 30 小鳥来る  そうなんですよね、ふらんす堂の句集はどれも装幀が素敵なんですよね…。私の句集は自装でしたので、ふらんす堂の句集を見るといつも羨ましく感じてしまいます。良い取り合わせの句と思います。
 31 落鮎の  普羅か水巴かとでもいうような、何だかとても格調高い句のように感じましたが、「落鮎」という季語の本意の範疇にすっぽり収まっているような気も…。
 33 食太き  力強い句ですが、中七でまとめすぎなのではないでしょうか。特に、「くらし」まで言う必要があるかどうか。
 34 事故死なる  人の命のはかなさと露とは、古来からたとえられてきた組み合わせです。もう少し、新鮮味が欲しいように思います。
 35 津波跡  上五のような説明を入れるより、茄子の花の描写にもっと言葉を使いたいところです。「津波跡」と言わずとも、「瓦礫」という語だけで、十分にいろいろなことを読み手に想像させてくれます。
 45 掃き終へし  今掃き終えたばかりなのに、もう柘榴が落ちている。掃除した人には悪いですが、何だかちょっとユーモラスな景ですね。これも採りたかった句です。
 46 菊膾  菊膾というと、どちらかというと上品なイメージの食べ物と言えるでしょう。そこにくだけたイメージのあだ名が飛び交う。これもまたハレとケの対比と言えるでしょう。ただ、気になったのは「ばかり」があまり効いていない。「ばかり」のせいでかえって印象がぼやけてしまっている。たとえば「古き仇名の」等とすると、これまでに述べた内容に加えて、そこにいる人たちの付き合いの古さも感じられるような句になる。中七が工夫のしどころですね。
 48 龍淵に  どことなく、芭蕉の〈朝顔に我は飯食う男哉〉を思い起こします。何でもなさが魅力の句ですが、下五「飯食へり」と文語調にした方が句全体のトーンが整うと思います。
 51 三日月や  現代的というのとも違いますが、いわゆる俳句的ではない景に惹かれます。


来月の投句は、10月15日までに、3句お送り下さい・・・・・・投句はこちら

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