【 小林タロー 選 】
○03
十二月夫が 「見せる」がいいです。男の見栄か妻の気を引きたいのか---可愛いです。
○22
炭爆ぜて 学校か会社(パートかも)から寒い家に帰ってきた。おそらく誰もいないのでしょう、出かける前に厚く灰をかけておいた火鉢か炬燵の灰を寄せて炭を足す----
気が付けばまだ着替えもしていなかった---という景が懐かしく浮かびます。「炭爆ぜて」の手柄でしょう。
○41
尻の穴向けて 犬のお尻は丸見えです。師走の寒い時期だから俳趣もあろうというもの、面白いです。
○43
討入の日や 私どもの世代では上五でNHK大河ドラマで長谷川一夫演ずる大石が討入の前の「各々方---」と気合を入れるシーンを思い出すでしょう(古い話で分からないでしょうけど)。フレックスタイムや自由勤務では朝礼をしようにもしようがないのです。
【 伊藤笛吹 選 】
(今回はお休みです。)
【 森田遊介 選 】
12月の投句を逃しております。師匠でなくてもつい小走りになって12月を過ごしています。選句をさせて頂きます。
○10
海鼠選る グロテスクな海鼠が苦手なのか、それとも好物の海鼠を真剣に選んでいるのかどちらでしょうか? 海鼠を選ぶ時の人の写生がよく判ります。どちらともに小物語ができそうです。
○22
炭爆ぜて 帰宅したばかりの寒い部屋の中を思います。炭が赤くなってもまだ寒い。着替える事なんかとんでもない。寒そうですね。
○28
きっかけは 両親の知り合ったエピソード。照れながら父親が子供らに話している家族だんらんを思いました。
○34
売れるたび 商売熱心な焼き芋屋、それとも学生のアルバイトなのでしょうか?軍手をする手でちびた鉛筆で「正」の字を描いている様子を思い浮かべます。
○37
物欲の 味がしみくたくたとなったおでんと物欲の取り合わせが妙に合います。人間はこんおでんにはなれませんでしょうけれど、おでんから人生訓を学ぶようです。
【 小早川忠義 選 】
○22
炭爆ぜて 恐らく、炭のついでいる部屋以外、屋外も大変寒かったのでしょう。もしかしたら学校や帰宅途中に何か嫌なこともあったのか。
○28
きつかけは 何のきっかけか、ということはもう読者に対して説明するほどのものでもないのかも知れません。その相手は、もしかしたら本当に肩を触れた相手ではないのかも知れませんし。
○31
二人居の 迷ったのですがいただきました。三番目の「の」が「に」だったらどうだったか、などと。
○34
売れるたび どんぶり勘定に見える焼き芋屋が結構きっちりしている。でもそれは芋の皮の炭に汚れた大学ノートだったりもするわけですね。
【 石川順一 選 】
○08
揃へたる うーむそう言われれば、確かに膝を揃えて坐っている人は電車内では少ないかも知れないと想像させられました。冬日に秩序が感じられるような句だと思いました。
○22
炭爆ぜて 気付きが整って居ると思いました。或いは自覚的な「制服のまま」かも知れませんが多分爆ぜた炭は心に響き物理的にはそんなにうるくさなかったのだと推測しました。
○29
芭蕉忌や 実は中尊寺と芭蕉の関係を知らないのでこれから調べたいのですが、この句では妻は芭蕉に興味が無いが、訪れたと言う状況を推測して夫婦のきずなを感じました。
○30
雪吊の 作者は自分の気付きを誇れると思います。と言うかこの具体的状況から違う句を作る際の思い出なり記憶として有用な句想を含んでいる所もいいと思いました。
【 湯木ねね 選 】
(今回はお休みです。)
【 涼野海音 選 】
○07
短日や 柔道場をふっと覗かれたのでしょうか。短日のひかりが見えました。
○28
きつかけは 何のきっかけか色々と想像できるところが面白い。
○38 灯を消して 水つ洟がパソコンに飛びませんように。
○39
みかんむく 嵐の前の静けさといったところでしょうか。気持ちを鎮めるために蜜柑をむいているのでしょうか。
【 松本てふこ 選 】
○03
十二月 「十二月」がいいですね。忙しくてそれどころじゃないのにアンタいきなり何なの!?
というちょっとイラッとする気分なのか、見せられてあら、うちの人もまだまだがんばれるのね…というちょっとポッとなった気分なのか…。どっちでもあるような、どっちでもないような。
○09
辞書二冊 電子辞書で何とかなってしまうこのご時世で辞書を二冊持ち歩くこと、そしてそんな自分の足下が悪いこと。きっと古いけれど大事に使っている辞書なんだろうな、なんて想像させられるいじらしい一句。時雨が、辞書→言葉によって過去の学問と繋がろうとする作者を優しく包むようで素敵。
○20
腹に入れ あるある! 「かさりと動く」のさりげない写生っぷりがいいですね。温度じゃなくて動きなんだ! というのがこだわりポイントか。
○23
息白し 少し説明的かなという気もしたのですが、このすっとぼけた文体が印象的で! 取らされました。
【 足立山渓 選 】
○10
海鼠選り 中七の措辞がブロテスクな海鼠を選別する気苦労をよく表現している。
○13
着ぶくれて 小生の当日の姿を代弁してくれた。俳諧味あって素晴らしい。
○18
若き日の 子供のためならば、マニキアした爪に土が入っても聖樹を飾る母の愛がうかがえる。
○34
売れるたび 見たままの報告俳句だが、売れた数をこまめに記録する焼芋屋の行動をよく観察している。
【 川崎益太郎 選 】
○10
海鼠選る 海鼠と眉間の皺との取り合わせが上手い。食べればおいしい海鼠がなぜあんなにグロテスクなのか。人類で最初に食べた人の勇気が思い出されます。
○36
六林男忌の 六林男といえば、吹田操車場。当時の熱気はどこへ。レールしづかにが上手い。やや付き過ぎの感もあるも、ありにけりも効いている。
○37
色欲の そうなんでしょうね。おでんは、具の中身(本能)が出尽くした方が上手い。
○43
討入の 討入を朝礼と対比。なるほど。言われて納得の句。ところで朝礼はあった方がいいの。私は、会社勤めがないので分からない。
【 草野ぐり 選 】
今月は選句のみでよろしくお願いします。
○08
揃へたる膝に電車の冬日かな
○16 月蝕の昏きところが揺れて冬
○22 炭爆ぜてまだ制服のままでゐる
○40
寒柝の直ぐに児が出づ漁労小屋
【 二川はなの 選 】
(今回は選句お休みです。)
【 水口佳子 選 】
○12 何も見てをらぬ眼のマスクかな
○36
六林男忌のレールしづかにありにけり
○41 尻の穴向けて師走の犬行けり
○43
討ち入りの日や朝礼のなき我が社
今月は選句のみにさせてください。
【 喜多波子 選 】
○03 十二月夫が
○22 炭爆ぜて
○39
みかんむく
○43 討ち入りの
選だけです。
【 鋼つよし 選 】
○08
揃へたる 車内の様子、外の景色など景がふくらんでよい写生句と思います。
○09
辞書二冊 物語や映画の出だしを思い浮かべました。レトロな感じもあってよい句。
○16
月触の 揺れて冬で納めたところが好きです。
○21 日曜の 上を見上げて空を眺めて深呼吸しているような句です。
【 中村阿昼 選 】
(今回はお休みです。)
【 小川春休 選 】
○10
海鼠選る 海鼠を選るという作業も、業としてプロが行うのと、買い物等として素人が行うのとではだいぶ趣が異なる。この句は素人の方でしょうね(プロはこんなに悩まず選るでしょう。多分)。何でもない景のようですが、描写が具体的なのと、海鼠のでこぼこした感じと眉間の皺の質感とが響き合って、面白い句になっていると思います。
○16
月触の あるべき光がそこにないことに感じる不安のようなもの、それが「昏きところが揺れて」見せたのかもしれません。句末の「冬」が最善手かと言われると少し疑問は残りますが、不安のようなものと視覚的なもの(月蝕)と季節の訪れとが響き合う感じ、私は共感しました。
○23
息白し 自分の白息を観察しているのでしょうか。それとも人のを観察しているのでしょうか。真面目に述べているようでどことなくユーモラス、初期の夏目漱石の小説の文体のようでニヤリとさせられました。
○34
売れるたび いわゆる本式の帳簿のようなものではないんですよね。大学ノートみたいなものに正の字か何か、簡単にメモっている。よく見逃さずに句にされたと思います。
01
晩秋の 晩秋という哀調を帯びやすい季語と華やかさとの対比は良いと思いますが、「華やぐ」とずばり言ってしまうと、それが一句の答えのようになってしまいます。もっとどのような庭か、どのように華やいだのか、言葉を尽くして見て下さい。言葉をこれ以上尽くしようがない、これ以上の言葉は蛇足になってしまうと思ったときに、詠嘆の切れ字で余韻を出す、それが正攻法かと思います。
02
釣瓶なき はて、釣瓶の無い井戸の水を汲むのに、何を使われたのでしょうか。言うべきこと書くべきことに、遠回りしてしまってたどり着いていない印象です。
03
十二月 年の暮や数へ日などではない、やや無造作な季語が、その後の内容を上手く引き立ててますね。男というものはいつまでたっても「男の子」が抜けないもんですから、腕力を自慢したり、好きな子にアピールしたりしちゃう訳です。採りたかった句。
04
六道を 六道四生という言葉(『子連れ狼』で覚えた)を思い出しますが、六道という大きなものに対して「ばかり」とはいかに。定めなく降り始めては止む「時雨」も、六道を廻るというイメージではないように思います。大きなものであり、仏教的な用語でもある六道に対する意外性のある言葉、なかなか難しいとは思いますが、ご検討を。一例として拙案を「六道を廻つてきたる隙間風」。
05
コスモスの 時間の経過を詠み込んだ句にも良い句はありますが、やはり散漫になりやすいので、細心の注意が必要と思います。この句も散文的、説明的になってしまっているようです。
07
短日や 薄味ながら、なかなか良い雰囲気です。
12
何も見て この句単体で見るとなかなか良く出来た句。しかし拙作にも〈風邪の眼の開きて何も見てをらず〉という句あり、発想としては近い。「何も見ていない」句の中では、高柳克弘氏の〈何もみてをらぬ眼や手毬つく〉が今のところ一歩抜きん出ているように思います。
13
着ぶくれて 見たままそのままの何でもない句のようですが、こういう作りの句、後から自分で読み返して「あの時は寒かったよな」とか思い出させてくれるので、けっこう大事だよな、などと思ったりもします。
14
月蝕や ううーん、月蝕の説明句になってしまっている印象です。より深く踏み込むか、ふっと視線の向きを変えるか、一句の中で書き手はもっと自由にわがままに振舞って良いと思います。
17
ゲーム機の 面白みというかオチというか、あまりそういう部分が見えすぎると、読み手からすると面白くないものです。
18
若き母の 字余りの上五がどうにも説明的な印象です。こういうときこそ「母若し」などと言い切った方が、響きの上でも内容面でも印象的な句になるのではないでしょうか。
19
新米や 「ふと」が曖昧で読み切れなかったです。季語もあまり読みの助けにはなってくれないですし…。
20
腹に入れ 中七秀逸ですが、それだけに、「入れ」が無ければもっとすっきりするのに惜しいな、とも思いました。句の焦点は懐炉が動いた瞬間であって、腹に入れる場面はあまり重要でない。動詞は少ない方が句のまとまりが良くなります。上五「脇腹に」や「下腹に」など、ぜひ検討してみてください。
22
炭爆ぜて 着替えが冷たくて寒いから、帰って少しあたたまってからと思ったのでしょう。それが思ったより長くなってしまった。句に描かれているのはあくまで炭が爆ぜた瞬間なんですが、そこに至るまでの時間の経過や空気感のようなものまで感じさせてくれる句になっています。これまた採りたかった句。
25
寒弾きの 三角形…、御本人にはよく分かっているのかも知れませんが、読む方は三角形では広いのか狭いのかさえよく分かりません(冬の大三角形、などという巨大な三角形もあります)。貸スタジオが狭かったと言いたいのであれば、せめて「貸スタジオの細長き」など、狭そうだなと読み取れるような表現にする必要があります。
28
きつかけは 何の「きつかけ」かは全く明言されていない訳ですが、この優しい語り口は、やはり恋を連想させます。それもどちらかというと、激しい恋よりも穏やかな恋、幸せな結末の待っていそうな恋です。
30
雪吊の 景が鮮明、描写は具体的であり、句の形も決まってます。採りたかった句。
32
暮早の 中国・韓国などの人は見た目は日本人とそれほど変わらないので、暮早の薄暗い中でもそれと分かるくらい日本人と外見の異なる「異邦人」だったのでしょう。はっきりどこの国とか人種とか(もしくは特徴的な部位や衣服など)が詠み込まれていても良いような気もします。
33
沢山の どのくらいで「沢山」かはかなり主観の範疇になりますので、もっとボリューム感が分かる表現がありそうな気がします。そうなると蜜柑の皮との対比も一層鮮やかになりそうです。
35
いとほしき 「母の遺せし煤箒」とだけ書かれれば、きっと読み手は、書き手の母への想いをおぼろげながら感じ取ってくれると思いますよ。ですから、「いとほしき」と書いてしまうと、その部分が一句の答えになってしまう。よく見て、よく感じて、言葉を選んで書けば、母への想いも母の遺した物への想いも、句に込めることが出来るはずです。それが、その書き手にしか書けない句、ということです。
37
色欲の 最初から色欲が無かった訳ではなくて、煮込んで煮込んでいくうちに、薄れていったという訳でしょうか。おでんの様子が目に浮かぶようです。そんなことを思いながら読んでいると、日野草城の〈朝顔やおもひを遂げしごとしぼむ〉という句を思い出しました。
40
寒柝の 子どもが寒柝を持って小屋から出て行った、という意味でしょうか。語順がスムーズでなく、意味がすんなり入ってきません。
42
冬至南瓜の 句末で「よ」を用いて詠嘆する形は私もよく使うのですが、この句のごつごつした感じにはミスマッチではないでしょうか。折角のごつごつ感が最後に来てふにゃ〜っとした感じになってしまいます。ごつごつ感を活かした形に言い替えてみると、「冬至南瓜ぐつと構へて愚直なる」上五の助詞「の」も無くても意味は通じますし、無い方がよりごつごつした感じになるのではないでしょうか。句末は「なり」とか「たり」もアリかもしれません。
43
討入の日や おのおのがたー!っていうあれですね。わかります。毎朝おのおのがたー!っていう会社も嫌ですけど、全くないのも淋しいもんだなぁ、という感慨(というほどのものではないか…)が伝わってきますね。
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