ハルヤスミ句会 第百三十五回

2012年1月

《 句会報 》

01 巨大なる焼き芋四分割して食べる  順一(忠)

02 数へ日の飛行機雲の太々と     阿昼

03 バスタブに腐食の柚子が浮かび居り 順一

04 数へ日や駅からスキー場が見え   てふこ

05 二時間の雪掻今日のすべてなり   つよし(タ・阿)

06 大掃除日和の庭を見てをりぬ    阿昼

07 動物園より元日の象のこゑ     春休(て・佳・波)

08 狐火を母は語らず雨匂ふ      ぐり(波)

09 ポツリ落つ皺寄る千両朱色なり   遊介

10 鯨汁祖父の好みし藁円座      波子(タ・忠・鋼)

11 注連飾り歩き探せど見付からず   順一

12 初夢のどこか水漏れしてをりぬ   佳子(て・益・ぐ)

13 寒波来る揚げて小鰯骨ごと食ふ   春休(ぐ)

14 露天湯や雪の甲斐駒まなかひに   山渓

15 グランドの隅々に差す初日かな   海音(遊・山・波・阿)

16 初寝覚着ぐるみの夢見しちふが   忠義

17 めでたさは薬師無用のおらが春   つよし

18 オーバーに錆の臭ひの濃くありぬ  てふこ(順・佳・春)

19 山茶花の生け垣大人二人分     順一

20 幼子の選びし太き白破魔矢     遊介(山)

21 初湯してをり明らかにラグビー部  海音(て・ぐ・佳・春)

22 雪明りの一軒宿の露天風呂     山渓

23 寒すばる来し方のみぞ思わるる   タロー

24 喪中にも濃淡ありて初みぞれ    益太郎(遊・春)

25 炉明りや磨きぬかれた床柱     山渓

26 川涸れて電車の中の話しかな    順一

27 裸木の瘤に触れたる訃報かな    佳子(益・ぐ・阿・春)

28 実万両中味は黙秘いたします    益太郎(忠・順・波)

29 よく見れば奥二重なる寒の犬    ぐり(遊)

30 独り身のわれに寄り来るかいつぶり 海音

31 凍結の池にあまたのボールかな   山渓(鋼)

32 青畝でも読もうか松の過ぎたれば  春休(遊)

33 セーターを脱ぐ少女から女     益太郎

34 凍雲の流るる先へ日の暮れて    タロー

35 麦の芽や淡く色つく阿蘇盆地    遊介(山)

36 人知れず濡れ寒菊の花びらは    てふこ

37 松過ぎのアブラカダブラ余震なほ  波子(順・鋼)

38 雪の下見当つけて大根掘る     つよし

39 初芝居外郎売りを違はずに     忠義

40 友逝くや天にオリオンあれば良し  タロー

41 船影に人の明らむ多喜二の忌    波子(順)

42 一月を駆ける子振り返りもせずに  阿昼(佳)

43 パン重くなりけりチーズフォンデュ吸ひ 春休

44 凍裂や重き荷を背の八ヶ岳     山渓(鋼)

45 初日差す煎餅屋なる地球瓶     忠義

46 咲く花の色を忘れし実千両     遊介

47 銭湯に牛乳を飲む霙かな      ぐり(タ・海)

48 ぷすぷすと風邪の寝息の鼻よりす  春休(忠・海・て・山)

49 皮手套殴ってみたき彼と彼     佳子(タ・海・益)

50 麦の芽や風の中行く半ズボン    遊介(海・益・阿)




【 小林タロー 選 】
○05 二時間の  雪掻きはつらい。畔づくりなら畔が残る、石拾いなら畑はきれいなる、が雪掻きは春になれば雲散霧消してきれいさっぱりやったことが残らないのがつらい。それが今日のいう日のすべてだったというだ。
○10 鯨汁  伊豆に住んでいたころにはスーパーでイルカが普通に売られていたが、鯨汁を普通に食するというのはそうないのではないか。藁円座に座り鯨汁をすすり祖父を思い出す。「円座」は夏の季語と思うが、「藁」円座でよろしいかと
○47 銭湯に  牛乳はコーヒー牛乳でしょう、湯桶にはケロリンの宣伝入り。銭湯から上がって牛乳を飲みながら外をみると霙が降ってきた。懐かしいような夢のような銭湯風景。東京の銭湯代は450円、コーヒー牛乳は120円ですので約600円かかるのでは、夢とも言っていられないか〜
○49 皮手套  ぴったりした皮手袋するとぐっと握りしめてファイティングポーズを作りたくなります。仮想敵が複数ならなおさらです。

【 森田遊介 選 】
○15 グランドの  上五と下五の取り合わせが良いと思います。さらに中七で清々しい光景が浮かびます。
○24 喪中にも  悲しみの中にも現実を観る。上五と下五で悲しい情景が重なり充分に悲壮感が伺えますが、その中に初霙の色合いを観察する作者の理性があります。
○29 よく見れば  散歩する中‘服も着ず靴も履かずにお前は寒いだろうなぁ‘と見やる犬の顔。奥二重だったとは新発見。犬と飼い主の見つめ合いがほのぼのしていて寒といえども温かな一句と思います。
○32 青畝でも  松の内を過ぎてしまえば自分の時間を楽しみたい。まずは青畝でも読もう。年末年始に多忙だった日から解放された作者の心境が伺えます。

【 小早川忠義 選 】
○01 巨大なる  これまた大袈裟な話ですが、実際に包丁なんかで分けなければいけないような焼き芋に出くわしたこと、ありますから。破調も字あまりも連作の中に一句しのばせる位だったらインパクトが大きそうです。
○10 鯨汁  どうしてもこの持ち物は家長のもの、と見做されているものは実はかなり他愛もないものだったりします。昔は鯨汁といえば庶民の食べ物であったはず なんで、今で言う渋谷や赤坂の専門店でしか食べられないという感覚だと間逆になってしまうのですが、崇めるべき存在と普通なら目にも留めない存在 の対比。
○28 実万両  万両の実がひとつの木にいくつも生っていて、それぞれが性格を持っていたら。結句の口語体がそっけなくて斬新。
○48 ぷすぷすと  耳障りではあるけれども心配でないといえば嘘になる。微妙な愛情を表現していて良い。「鼻よりす」がもしかしたら省略可能だったのかどうか。

【 石川順一 選 】
○18 オーバーに  伝えたい事が明確に伝えられていると思いました。最後の「濃くありぬ」が秀逸かと。
○28 実万両  日常のささやかな事でも、結構どきりとする事があるという好例だと思います。
○37 松過ぎの  確かに地震は「アブラカダブラ」と呪文を唱えたくなるような訳のわからない印象を与えるものであると思いました。「アブラカダブラ」と風が吹く様な。
○41 船影に  「多喜二忌」は2月20日で早春の句。ある意味この句の内容は小林多喜二に関するステレオタイプなイメージを含んでいるかもしれませんが、常套なイメージに負けまいとする強さがこの句にはある様な気がしました。

【 湯木ねね 選 】
(今回はお休みです。)

【 涼野海音 選 】
○47 銭湯に  銭湯と霙、内と外の巧みな取り合わせが良いと思いました。
○48 ぷすぷすと  「ぷすぷすと」のオノマトペの細かさに惹かれました。
○49 皮手套  乱暴な句ですが、皮手套が意外と効いている。作者はサドなのでしょうか(笑)
○50 麦の芽や  一昔前の光景といえばいいでしょうか。半ズボンも最近あまり見かけなく気がします。懐かしさを覚えました。

【 松本てふこ 選 】
○07 動物園より  それも淑気のひとつ、と言ってしまえばそれまでなんですが、元日の象のこゑ、という表現が効いている。象の姿を想像しながら、少しずつ声の源に近づいていく作者の心の躍動がシンプルな表現の中にこもっている。
○12 初夢の  初夢の句ってすごく好きになるか嫌いになるか、どちらかしかない。例えば、この初夢を自分で見たら、と想像すると自分の無意識に思いを馳せざるを得ないのでつい気持ちをむき出しにして読んでしまい、結果過剰なほどの思い入れが…となってしまうのかも。この水漏れの句は分かる。好き。どこから漏れてくるのか調べればいいのに、そういうディテールがすっ飛んでいて、漠然とした不安とともに夢が終わる。そんなイメージ。
○21 初湯して  初湯と体育会系男子を取り合わせて気持ちのよい一句に仕立ています。さらっと見ただけですよ、と言いたげな句ですが、そうでもないところが面白い。それらしき団体を認め、うち数人の背丈を推し量り、筋肉のつき方を見たり、会話を聞いたりしてるわけですよね。「明らかに」ってどういうことだろう、と色々考えてしまいます。  
○48 ぷすぷすと  ぷすぷす、という脱力感満載のオノマトペがバカバカしすぎていっそ愛おしい気すらわいてきます。下五もいい意味でひどいです。他にもっと何か言うことはないのでしょうか…(笑)そういうことに腐心するのが俳句なのでは、とかしちめんどくさい定義を句の存在感だけで吹っ飛ばす気持ちよさがあります。

【 足立山渓 選 】
○15 グランドの  季語の「初日」を中七がうまく措辞している。
○20 幼子の  幼子にもかかわらず「太き」物を選んだ俳諧味にひかれた。
○35 麦の芽や  中七の措辞により雄大な阿蘇の草千里が春を迎えようとしている景が思いだされた。
○48 ぷすぷすと  上五が風邪をひいて鼻が詰まっている子供の様子を面白く表現された。

【 川崎益太郎 選 】
○12 初夢の  表面はうまく進んでいるが、どこかで不安を感じている作者。その思いが、初夢にも出てきた。初夢が効いている。水漏れが原発の汚染水だったらなお怖い。
○27 裸木の  木の瘤は、いろんな大きさや形がものがある。訃報もいろんな形でやってくる。瘤と訃報の取り合わせが上手い。
○49 皮手套  皮の手袋をすると、何となく石原裕次郎の映画のアクションシーンを思い出す。手袋としないで手套としたところが上手い。彼と彼は誰か?想像と恐怖も広がる。
○50 麦の芽や  冬の小学生の半ズボン姿は、痛々しい感じもするが、寒風の中で発芽する麦の芽のような力強さも感じる。麦の芽と半ズボンの取り合わせが上手い。

【 草野ぐり 選 】
○12 初夢の  初夢だというのに、水濡れなのだ。何がかはわからないが日常にあるちょっとした残念な事件の水濡れ。初夢といってもきっとほとんどの人がこんな拍子抜けするような夢をみているのではないだろうか。
○13 寒波来る  動詞が3つも出て来るのに不思議とごちゃついていない。来る、食ふの勢いが気持ちいい。
○21 初湯して  話ている内容とか体格とかで推理したのだろうが明らかにがどこか誇らしげで楽しい。しかも初湯で。おめでたさと明るさに満ちている。
○27 裸木の  訃報を聞いて、佇むのではなく思わす裸木の瘤に触れたその仕草にどうしようもない喪失感が出ている気がする。

【 二川はなの 選 】
(今回はお休みです。)

【 水口佳子 選 】
○07 動物園より  元日の動物園はおそらく休園ではないかと思う。だとするとこの象の声は象舎から聞こえてきたのだろうか。象舎の中での声が園の外にまで聞こえるというのだから相当大きな声で鳴いたか、辺りがあまりに静かであったか・・・おそらくその両方だろう。めでたさというより何かただならぬ年明けのように思える。   
○18 オーバーに  どんなところで着られていたオーバーなのか。オーバーと錆の臭いは似つかわしくなく、しかも濃くと言われると何やら謎めいている。オーバーという少しレトロな呼び方がよく効いていると思う。
○21 初湯して  どこかの大浴場か。明らかにラグビー部と言い切っているところにおかしさがある。胸板の厚い筋肉質の体がパッと頭に浮かんでくる。  
○42 一月を  何でもない景だけれど子どもの未来を感じる。倒置の表現が余韻を生んでいる。

【 喜多波子 選 】
○07 動物園  震災やら原発事故やら有った年も明けた。元気に鳴く象が「悲しい象の話」・・を彷彿させます。象のこゑがとても良い!
○08 狐火を  母と作者は共に狐火を見たのだろう・・と思いました。でも、母は平然としていてそのことに触れない。作者もあれは?と思いながらやけに匂う雨を見ている。
○15 グランドの  平明で解り易い句です。初日がグランドの隅から隅まで照らす。元旦の清々しさが見える句です。
○28 実万両  口語の七五が上手いです。黙視するというと 色々想像したくなる余韻が良いです。

【 鋼つよし 選 】
○10 鯨汁  なかなか渋い句と頂きました。
○31 凍結の  ゴルフボールでしょうか。滑稽な味があります。
○37 松過ぎの  相変わらず地震速報がテロップされますが巧な措辞でよい句です。
○44 凍裂や  厳寒の景色、背景を大きく表現されている。

【 中村阿昼 選 】
○05 二時間の  「すべてなり」と言い切ったところに、精根尽き果てた感じがでてます。
○15 グランドの  静かな元日のグランドの明るさ。あたたかくていいお正月。
○27 裸木の  言葉にならない思いが伝わってきます。
○50 麦の芽や  幼稚園くらいかな。麦の芽という季語に、幼さと、すくすく育つ強さを感じました。

【 小川春休 選 】
○18 オーバーに  仕事で付いたにおいでしょうか。それとも車や単車いじりの好きな人か。「匂」ではなく「臭」が使われているぐらいですから、半端じゃないにおいだったのでしょう。この人物に非常に興味を抱かされます。
○21 初湯して  風呂で初めて出くわしたのだと、ラグビー部とは分からず、屈強な青年たちとしか分からない。きっと日中に、ラグビー部の練習風景でも目にしていたのでしょう。風呂場のごっつい男たちと、昼間の練習風景がつながった訳です。そうした背景まで思いをめぐらすと、一層面白さの増す句。
○24 喪中にも  喪中につき賀状欠礼の葉書が届いたのかもしれません。かなしくない訃などありませんが、九十過ぎまで生きての大往生と、三四十代でまだ成人しない子供を残しての死などとでは、やはり濃淡があります。初みぞれの余韻も良いです。
○27 裸木の  静かな実感のある句ですね。具体的な事物の描写に徹していながら、こぼれるように感情が伝わる。
 01 巨大なる  何でもないところに着目していて好感を持ちましたが、ちょっと散文的過ぎるのでは? もう少しメリハリが欲しいです。
 04 数へ日や  中七下五の描写と上五の季語とがあまり響き合っていないような気がします。「数へ日」と「スキー場」が季重ねっぽい感じでもありますし、「スキー場(もしくはゲレンデ)」だけで一句にまとめた方が具体的な句になりそうな気もします。
 05 二時間の  雪掻きをしておかないと、二日分積もられると手がつけられなくなってしまう。今日の雪は今日片付けるしかない。そして二時間の雪掻きで一日のエネルギーを使い果たしてしまった、と。大げさな詠みぶりが楽しい。
 06 大掃除  なかなかにとぼけた句。おーい庭なんか見てないで大掃除始めろよー、と突っ込みたくなるところです。
 09 ポツリ落つ  千両の実が朱色であることは当たり前なので、この際それは言わなくては良いのではないでしょうか。千両の実が落ちたこと、そしてその実に皺が寄っていたこと、この二つを中心に、どこに焦点を当てたいか考えながら、推敲してみてほしいと思います。
 11 注連飾り  売っている店を探したのか、飾っている家を探したのか、今一つ具体的でありません。
 12 初夢の  音で気付いたのでしょうか。それともどこか濡れていたのか。謎の多い句ですが、このような夢を見たことがあるような、納得させられるところのある句です。往年のマンガでは、主人公がおもらししてしまいそうなシチュエーションですね。
 15 グランドの  さすがに元日は運動部の練習も休みだったのでしょう。人のいないグランドにさす初日が明るいです。
 17 めでたさは  内容は書いてあるとおりですが、一茶への挨拶の気分も多分に含まれている句ですね。
 19 山茶花の  「大人二人分」の生け垣というのがどういう分量なのかよく分からなかったのですが…。
 20 幼子の  何ともめでたく力強い。新年詠らしい新年詠です。
 31 凍結の  池が凍ってしまったら沈んだボールはよく見えない気がするのですが…。それともボールが水面に浮いたまま凍っているのでしょうか。その辺りをもっと具体的に描写してほしいです。「あまた(ボールの数)」は描写としてそれほど効果的ではないと思います。
 33 セーターを  「少女から女」という表現は、むかし化粧品CMなんかのコピーで見たことがあるような感じがします。
 35 麦の芽や  中七、描写としては弱いのではないでしょうか。
 36 人知れず  少々ムードに流され過ぎではないでしょうか。「人知れず」と言ってもこの句の作者はしっかり発見している訳ですし。
 38 雪の下  良い雰囲気の場面ですが、もう一歩踏み込んでほしいところでもあります。この人は一体どうやって見当をつけたのでしょう。全くのあてずっぽではないと思いますが、そうしたディテールを句に詠み込むと、読み手にも実感を持って伝わってきます。
 40 友逝くや  故人の好きな星だったのでしょうか。ご冥福をお祈りします。
 42 一月を  「一月」も悪くはないですが、ベストではないように思います。
 44 凍裂や  登山の景を詠み込まれていますが、少し盛り込みすぎの感じです。
 45 初日差す  あの真ん丸い瓶には「地球瓶」という名前があったんですね。元日からやってる煎餅屋、少なくとも私の住む広島にはなさそうな気もしますが、もっと都会だと違うのかもしれない。
 49 皮手套  皮手套を嵌めてまず、手をぐーぱーぐーぱー、開いたり握ったりしてみる。すると握った拳が何だか強そうに見え、こんな発想が頭に浮かんだんでしょう。殴ってみたい相手が一人ではないところなど、なかなか軽妙で(一人だと具体的な恨みなど感じさせて重い…)面白い句。採りたかった句。
 50 麦の芽や  季語の麦の芽が良い。冬だけど、寒々しいばかりでない、生命力を感じます。それにしても、なぜ子供は寒くないのでしょうね。吾子も、冬なのに帰宅すると「暑い暑い!」といって下着姿になったりしています。不思議。


 


来月の投句は、2月15日までに、3句お送り下さい・・・・・・投句はこちら

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