ハルヤスミ句会 第百四十二回

2012年8月

《 句会報 》

01 炎天の道来るわれに似し男    海音(時・ち・順・て)

02 潮風に虹は根よりぞうすれける  春休

03 空蝉を残したままや白い壁    ひろ子(ち・は)

04 水切りに海広すぎる夕涼み    波子(ち・ぐ・佳)

05 打水をバケツ三杯退院日     ひろ子

06 涼しくて少し話をふくらます   春休(ち・愛・土・タ・海・は)

07 黒々しコーヒー飲みし昼寝覚   ひろ子

08 爺婆の釜は別なり麦の飯     つよし(は)

09 ハーブまず炊くや団地の草むしり タロー

10 苦瓜を喰う停電の祖母の家    波子(順・海・春)

11 草で手をふいて夏嶺の昼餉かな  愛(土・忠・海・佳)

12 花火師が筒もて登る丘の上    笛吹

13 無情なり道の真中に落ちて蝉   つよし

14 どうしても差せぬ男の日傘かな  益太郎(奥・愛・タ・鋼)

15 帆に風を集めて速きヨットかな  山渓

16 本めくりたる指に蟻つぶされし  海音(奥・順)

17 風死して模型のソフトクリームよ てふこ(忠・ぐ・佳)

18 水鉄砲せまき玄関開け放ち    ぐり(タ)

19 五輪開くひびく指笛プールわき  愛

20 その奥に壺も魔除けも氷旗    てふこ(奥・愛・海・佳・波・春)

21 炎天や炭酸の抜けた水を飲む   ちこ

22 幾千の蜘蛛の囲に露田の朝    はなの

23 迎火や商店街に風の道      ぐり(ち・土・山)

24 鮎釣の人のひきづる囮箱     てふこ(土)

25 祭りの夜ハッカの詰まった笛を吹く ちこ(時)

26 風切りて風に押されてゆく青野  ひなこ(佳)

27 二日酔いかき氷は水になり    ちこ(益)

28 味噌汁の茄子と素麺絡みあひ   忠義

29 すぐ焦げし鰯のかしら土用照   ひろ子(忠)

30 空き瓶を縁石にして鳳仙花    忠義(時)

31 土塊に休む蜻蛉の息づかひ    つよし(土)

32 蓖麻の実の棘尖りゆく夕べかな  忠義

33 水団でもてなす老舗終戦日    山渓(波・鋼)

34 夏草やオスプレイ見る芭蕉の眼  益太郎(奥)

35 猫の絵が雨を呼び込む酷暑かな  順一

36 投入れし西瓜がばりと河馬の口  時人(笛・ぐ・波)

37 友逝きし尾根の分岐の大ケルン  山渓

38 迎火の揺れて仏のけはひかな   時人(奥)

39 鷹揚に月の来てゐる草ロ―ル   波子(笛)

40 潟よりの風よく通る西瓜畑    ひなこ(山・ぐ)

41 帰省の子まう満腹とは言ひかねて 愛

42 ががんぼの足は丈夫と再稼働   益太郎

43 雷鳴やいつきに屋根を叩く雨   山渓(笛)

44 旅行社の団扇にスイスの青い空  笛吹(鋼)

45 初秋の気中指何度も濡れ居たり  順一

46 水の上におほきく沈む花火かな  ひなこ(て・益・は・鋼)

47 サイダーのしゅわしゅわしゅわや口喧嘩 笛吹(時・愛・海・山・益)

48 外壁を夜のしじまや蝉の羽化   ひろ子

49 得手不得手ありて団地の溝浚   タロー(笛・山・益)

50 バリトンの若き僧侶や盂蘭盆会  時人(山)

51 裏庭へ裏から廻り灸花      タロー

52 稲光父の要求多かりき      順一(タ)

53 すずかけの一皮むけて秋涼し   はなの

54 そこら中稲光の絵が貼ってあり  順一(笛)

55 正絹と金字のタグも盆提灯    はなの(時・春)

56 秋暑し腕の疲れ指にまで     春休

57 夜の虫歯ブラシをもて近付きぬ  順一

58 風吹いてゐるだけのこと鬼貫忌  海音(順・て・益・波)

59 起き抜けにトマト※[手へん+宛]ぎたる屋敷畑 山渓

60 中年の下腹柔し浮いてこい    ぐり

61 蝉の森とは空蝉の森なり     佳子

62 はらわたの無き涼しさに折鶴は  佳子(忠・て・春)

63 椅子拭いて拭いて八月六日来る  佳子(◎忠・愛・タ・て・ぐ・は・波・鋼・春)

 




【 伊藤笛吹 選(笛) 】
○36 投入れし  カバはスイカを食うんですか。しらなかった。でもカバの口の中が見えたので取りました。「がばりと」寒い海があるのでなく、がばりとカバの口なのですね。確かに、寒い海もかばの口も、なにものかを大きく飲み込んでしまうような迫力には共通性があるような気もします。
○39 鷹揚に  月が「出る」でなく「来る」というところに、少しひっかかりが。鷹揚に来るという擬人化に必然性があるのかしら?「鷹揚に出る」は何か変なのでそうなるのかな。「おっとりと月の出ている草ロール」とか。これも擬人化かな。理屈はともかく、なんか惹かれたので○
○43 雷鳴や  今年は、雷鳴と激しい雨と、この句のとおりのことが、随分多いなあという印象。その印象そのまま写生している感じなので○
○49 得手不得手  蟻にも器用なのと不器用ななのがいるはずだと、どこかで聞いたことがあるのですが、溝浚なんてことにも、確かに、妙にうまい奴と、なんかもたつく奴と、いろいろかもしれません。それが人間かなあ・・ということを、団地の溝浚という卑近な具体例で描いたところがよいと思います。
○54 そこら中  そこら中に稲光の絵が貼ってあるって、なにそれ?という感じですが、妙に気に入ってしまいました。予定調和ではない、なにそれ的人間、なにそれ的状況って、意外と世の中には多いものと思います。そして、不自然さを感じないような何それ的現象は、結構俳句的と思います。不自然さを感じるかどうかは、紙一重ですが。

【 中村時人 選(時) 】
○01 炎天の  世の中にはそっくりな人が三人は居るとか、まして炎天だもの皆似て来る。
○25 祭りの夜  祭の夜は伸び縮みする笛などを吹いて、蛇が出るからと怒られた思い出が
○30 空き瓶を  麦酒壜の花壇をよく見る、大分飲まないと?、鳳仙花がいいですね。
○47 サイダーの  兄弟がサイダーを、分けて飲むように言われ、泡が多い少ないと口喧嘩、よい景です。
○55 正絹と  正絹の盆提灯、金文字タグに書かれた、値段は高そう。(や)でなく(も)にした意味を教えて下さい、いつも悩む処です。
 他に気になった句は
 11 草で手を  中七が字余りの様な気がします、(夏草に手を拭き嶺の昼餉かな)御一考下さい。
 18 水鉄砲せまき玄関開け放ち
 22 幾千の蜘蛛の囲に露田の朝

【 奥寺ひろ子 選(奥) 】
○14 どうしても  この暑さには、日傘を差したいですね。まずは、相合傘から始めてみては、いかがでしょう。きっといつの間にか馴染んでしまうと思うのですが。
○16 本めくりたる  本の中にまぎれてしまったのでしょうか。小さな蟻はすぐつぶされて排除されてしまいますね。ガリバー旅行記を思い出します。
○20 その奥に  普段は、営業しているのかどうかもわからないお店の氷旗にひかれ入ってみると暗い奥座敷には、、、想像がふくらみます。
○34 夏草や  芭蕉が見あげたら、どんな俳句を詠んだでしょうか。戦争のこと、いろいろ考えさせられる俳句です。
○38 迎火の  「風が吹く仏来給ふけはいあり」高浜虚子の句を思い出します。日本人の変わらぬ思いを感じます。

【 遠藤ちこ 選(ち) 】
○01 炎天の  われに似ている男とは、兄弟なのか似ている他人なのか、もう一人の自分なのか?太陽がギラギラしていて幻を見ているのか?色々想像しました。
○03 空蝉を  最近、蝉の抜け殻をよく見ます。白い壁に抜け殻がついているのが夏の終わりらしいです。
○04 水切りに  小石で水切りするには海は広すぎるかもしれません。海に行きたくなりました。
○06 涼しくて  涼しくて気分がよくて少し大げさに言ってしまうのが分かるような気がします。涼しいのと話をふくらますを合わせたのが好きです。
○23 迎火や  お盆の時に風の道ができているというのが、風といっしょに霊が商店街を通って自分の家々に帰っているような不思議な気持ちになりました。

【 滝ノ川愛 選(愛) 】
○06 涼しくて  素直な良い句ですね、気持ちがよいので話も弾みます。”ふくらます”がいいです。
○14 どうしても  う〜ん そうかも。この頃見かけますがね。昔々メキシコの田舎のおじいさんがジリジリするほどの炎天下で黒の木綿の傘をさしていました。日本ではまだ暑さが足りないのかも。
○20 その奥に  その店は欝蒼とした樹木に囲まれてあった。奥をのぞくとなにやら曰くありげな壷、それに魔除けまであった。
かき氷を食べなくても、なにかぞくぞくしてきました。
○47 サイダーの  ”しゅわしゅわしゅわ”とくればあまり深刻な喧嘩ではなさそう。サイダーと口喧嘩の取り合わせが妙。
○63 椅子拭いて  原爆投下の日が近づくとなぜ椅子を拭くのか。”拭いて拭いて”のりフレインは何を意味するのか。参列者がたくさん来られるから、そのためか。それとも・・・。”拭いて拭いて”が重く胸に刺さる。

【 土田ひなこ 選(土) 】
○06 涼しくて  話をふくらます、ここに惹かれました。
○11 草で手を  草で手を拭く、山の昼食の美味しさまで伝わるようです。
○23 迎火や  真っ直ぐな商店街が見えてきてます。暑いからか、涼しい句、いいですね。
○24 鮎釣の  釣れたのでしょうか、それとも、釣果が無かったのでしょうか?引きずるに喜びや悲しさが感じられました。
○31 土塊に  羽の微妙な動きを息づかいと、捉えられた、作者の詩心、うらやましく思いました。

【 小林タロー 選(タ) 】
○06 涼しくて  興がのり気候も良しでつい といったところ。涼しさや とか 切れを入れたほうが----とも感じますが。。
○14 どうしても  私は日焼けが嫌いな女々しい男です、と宣言しているようですものね。
○18 水鉄砲  飛ばしてそこらじゅう濡らしてこその水鉄砲、家の中だけではおもしろくありません。動きも想像されて良いと思いました。
○52 稲光  稲光の夜に、父の要求なんて稲光のようにどうせ一瞬のものだと覚めながら要求を聞いている景ですね。
○63 椅子拭いて  拭いての繰り返しが何とも言えぬ切なさ、やるせなさ、悼む心 いろいろのものを感じさせてくれます。原爆忌といわず8月6日といったところにもその切実感があらわれて良かったです。

【 森田遊介 選(遊) 】
(今回はお休みです)

【 小早川忠義 選(忠) 】
○11 草で手を  万葉集での有間皇子の歌を思い出しました。草で手を拭けば臭いが残りますがそれも一興。
○17 風死して  きっとそのソフトクリームの模型には、うっすらと埃が付いていたに違いありません。
○29 すぐ焦げし  その焦げた所からぷわーと穴が開いてきて、煙の色がどんどん黒くなって。ああ、丸干しが食べたくなります。
○62 はらわたの  はらわたがあるからこそ生き物は暑苦しく生命力に満ち溢れているのでしょう。時々その生命力が鬱陶しくなるのも夏独特の感情。
◎63 椅子拭いて  いつの時代も八月六日が特別な日であることを忘れないでいたいという気持ちが、「拭いて」のリフレインや「原爆忌」と詠まなかったことで表れ ています。作者名を聞けばまた印象が変わってきそうです。
 14 どうしても  最近はデザイン的にも男が差して差し支えない日傘もあるそうです。どうしても、が男らしさを強調させます。
 41 帰省の子  中八が惜しいところです。状況が解るだけに。
 47 サイダーの  「しゅわ」の語感も三つ並べたリズムも新鮮ですが口喧嘩と締められるとどうにも景が見えてこない。
 52 稲光  今時は「雷」に「父」というのも「つき過ぎ」といわれるような時代じゃなくなりつつあるのかもしれません。

【 石川順一 選(順) 】
○01 炎天の  自分に似ている人は世界に最低7〜10人いると言われる事がありますが、この句では「炎天」の為に少し頭が弱くなっている所へ幻の自分を見たのではないかと思いました。
○10 苦瓜を  停電って普通周辺の他の家もでしょうと思いつつもしかしたら「祖母の家」だけが停電だったのかもしれないとも思いつつ、「苦瓜」がこの句の中で果たしている役割を真剣に思いました。(逆に美味い「苦瓜」を食べたのかもしれない)
○16 本めくりたる  偶然の不幸。「蟻」の不幸。人間はそんな事には頓着しないと強がりつつも、しっかり俳句にして居る。「下手な洒落はやめなしゃれ」みたいな感じを思い浮かべました。ヤッパリ気になるんだ。
○58 風吹いて  季語は「鬼貫忌」。旧暦8月2日。新暦9月15日。河東碧梧桐は「鬼貫忌」を秋の季語とした。達観した境地。自然への没入。全てがザ俳句だと思いました。

【 湯木ねね 選(ね) 】
(今回はお休みです)

【 涼野海音 選(海) 】
○06 涼しくて  何でもないことだけど、「涼しくて」という導入部が巧いと思いました。
○10 苦瓜を  特殊な状況にも関わらず「苦瓜を喰う」豪快さが面白いです。
○11 草で手を  なんと草をおしぼり代わりに。自然の中での昼餉の一こまに共感。
○20 その奥に  「その奥」とぼかすことで空間の奥行きを感じました。
○47 サイダーの  擬音音が効果的に使われていて、その音が口喧嘩の大きな声と通ずるところがあります。

【 松本てふこ 選(て) 】
○01 炎天の  この句は作者が「男」を異性か同性かどちらで解釈しているかによって変わってくるように思います。どちらとも取れないのは良くないのですが、どちらでも面白い。炎天の中でドッペルゲンガーに出会ったような気分になったのか、性転換した自分という幻を見たのか…?
○46 水の上に  おほきく、のざっくりとした措辞が効いています。上五が平凡に見えるけど涼しげでいいですね。
○58 風吹いて  鬼貫はたくさん作品を知っているわけではないのですがさらりとした作風という印象です。この句に晩夏の暑さと静けさ、鬼貫の句の世界への批評的な視点を感じて頂きました。
○62 はらわたの  はらわたが無い、という気づきが手柄です。
○63 椅子拭いて  作者にとっての八月六日は、毎年毎年心を整えて迎えたい一日なのだということが分かります。
繰り返しの表現が淡々としていながら迫力があります。

【 足立山渓 選(山) 】
○23 迎火や  昔の風習の残る商店街の軒ごとに迎え火を焚く。煙が微かに流れる。景が目に浮かぶ。
○40 潟よりの  海沿いの西瓜畑。潮風にあたって美味い西瓜ができたことでしょう。
○47 サイダーの  中七のフレーズが俳諧味あって最高。
○49 得手不得手  我が家周辺は、9月第一日曜日は毎年の溝浚。見ているだけの人、黙々と掃除する人。会話を楽しむ人。
○50 バリトンの  読経の声を「バリトン」ととらえた感性に感服。

【 川崎益太郎 選(益) 】
〇27 二日酔い  かき氷が水になる状態と二日酔いの取り合わせが上手い。身につまされる。
〇46 水の上に  花火が消えていく様子を、おほきく沈むと表現。そのままのような措辞であるが、なかなか言えない表現だと思う。
〇47 サイダーの  しゅわしゅわしゅわ、と、口喧嘩の取り合わせが上手い。
〇49 得手不得手  団地の溝浚が上手い。言われて納得の句。苦手でした。
〇58 風吹いて  忌日俳句は難しいと言われるが、鬼貫忌との取り合わせがぴったり過ぎるくらいぴったり。

【 草野ぐり 選(ぐ) 】
○04 水切りに  確かに水切りには海は広すぎる。夕涼みに浜にきてなんとなく水切りを始めて。夏の夕方の海風を感じさせる。
○17 風死して  あの明りの点る大型のソフトクリーム模型は可愛いけれど、可愛いゆえにちょっと暑苦しい感じがする。それが風死すに呼応して、どうしようもない暑さがよく出ている。
○36 投げ入れし  西瓜を見事にキャッチした河馬の口の迫力あるクローズアップ。
○40 潟よりの  気分のよい風景。ここで出来た西瓜も美味しそうだ。
○63 椅子拭いて  これはどこの椅子なのだろうか。拭いてのリフレインにやるせなさが感じられる。しかしひたすら椅子をふくしかないのだ。

【 二川はなの 選(は) 】
○03 空蝉を  白い壁には激しい照り返しが、脱皮した蝉のその後が気に掛かります。
○06 涼しくて  なるほど
○08 爺婆の  納得
○46 水の上に  中七に納得、ありありと景が広がる。
○63 椅子拭いて  上五中七、単純な動作の言い回しに悲しみが増幅する。
 他に好きだった句
 37 友逝きし  どこかに切れがあったら良いなとも。
 51 裏庭へ  面白い表現、しみじみと灸花を見ました。

【 水口佳子 選(佳) 】
○04 水切りに  対岸が見えていれば、水切りの石がそこを目指しているようにも見えるのだが、だだっ広い海でのそれはなんか虚しい。〈水切りに海広すぎる〉はいいなあと思うのだけれど下五が状況説明になってしまったのが惜しい。(でもいただきました)
○11 草で手を  ああそうそう、そういうことってあるよなあと妙に納得。頭だけで作ったのではないということがよく分かる。草の匂いがしてきそう。 
○17 風死して  風のないムーっとした空気の中に無機質な模型のソフトクリームが融けもせずに突っ立っている景。よく見かける景ではあるし今まで特に不思議も感じなかったけれども、この句の前に立ち止まってみると、ちょっと歪んだ空気感がそこにある。 
○20 その奥に  ごちゃごちゃと雑多なものが店の奥に飾ってあったりするのだろう。東南アジアかアフリカあたりの土産物っぽい壺や魔除けかもしれない。余計な説明がない所がよい。 
○26 風切りて  風と青野だけ。そして自然と一体。 
 他に気になる句
 16 本めくりたる  本をめくったのと蟻を潰したのはどちらが先か、〈たる〉と〈し〉が分かりにくくしてませんか。面白い句に化けそうな気がします。
 23 迎火や  〜に風の道、というのはよくあるかもしれませんが、商店街の中にできた風の道は面白いと思いました。
 51 裏庭へ  当り前のような気もするけど裏という言葉の畳みかけが薄暗いイメージに結び付けます。しかも灸花が効いてますね。
 55 正絹と  目の付けどころが面白いと思いました。タグに「正絹」と金字で書かれて(或いは刺繍?)いたのですね。その辺がちょっと分かりづらいようにも。

【 喜多波子 選(波) 】
○20 その奥に  風に氷旗がバタバタしていて店の奥には、不思議な壺、魔よけまである。想像のふくらむ良い句です。
○33 水団で  歴史のある老舗の思いやりと供養。
○36 投入れし  カバの大きな口と大きな西瓜の割れる音ダイナミックな句です。
○58 風吹いて  色々言わないのが・・良い!好きな句です。
○63 椅子拭いて  椅子を何個も何個も拭いて・・悲しみを堪えながら迎える広島忌です。

【 鋼つよし 選(鋼) 】
○14 どうしても差せぬ男の日傘かな
○33 水団で  老舗らしさと終戦日が良い。
○44 旅行社の団扇にスイスの青い空
○46 水の上におほきく沈む花火かな
○63 椅子拭いて  拭いて拭いてが景色が膨らみ一番に目に入った。
 佳句と思う句
10 苦瓜を喰う停電の祖母の家
17 風死して模型のソフトクリームよ
32 蓖麻の実の棘尖りゆく夕べかな
41 帰省の子まう満腹とは言ひかねて
42 ががんぼの  「再稼働」は俳句向きの言葉ではないが原発を連想させるところがある意味諧謔がある。

【 中村阿昼 選(阿) 】
(今回はお休みです)

【 小川春休 選(春) 】
○10 苦瓜を  停電ぐらいでは動じない祖母、停電も気にせずに食べるごつごつした苦瓜。暑さなどには負けない生活力を感じさせる句です。
○20 その奥に  招き猫などであればよくある句になってしまうところですが、「壺も魔除けも」とはいかにも妖しい、いわくありげな甘味処ですね。人の暮らしの手応えが感じられるところが嬉しいです。
○55 正絹と  非常に上等な盆提灯だったのでしょう。タグは内側についていたのでしょうか、御丁寧にも金字で正絹と書いてある。立派な盆提灯を意外な方向から見る視線に、作者の俳を感じます。
○62 はらわたの  生老病死と言いますが、生きているからこそ様々な苦しみが伴うわけで、無生物たる折鶴ははらわたも持たず、そうした苦と無縁のように見えます。ここからは個人的な感想・印象ですが、「涼しさ」は上五に置くなどして、句全体に響かせた方が良くはありませんか。たとえば「涼しさやはらわた無くて折鶴は」など。原句も良い句ですが、意味のつながりがしっかりしすぎていて、少し窮屈な印象も持ちました。いずれにせよ、重い句、力のある句と思います。
○63 椅子拭いて  式典のために椅子を拭いているとも読めますが、全く無関係の椅子とも読める。多くの人の無念の死を思うと、身近なことからでも丁寧にしっかりとしなくてはとの思いが湧く。それが形になったのが、椅子を拭く、という行為だったのではないでしょうか。簡潔ながら、読み手に様々な思いを広げさせる句です。
 03 空蝉を  中七の内容は、空蝉とはそもそもそういうもの、という範疇を出ていないように思います。
 04 水切りに  気分の良い句。私は川でしか水切りをやったことがないのですが、波が穏やかであれば海でも水切りできるんですね。
 05 打水を  「三杯」という量はこの場合描写としてあまり効果的ではないのではないでしょうか。バケツに満たされた水、そしてそれを撒く動作を描写した方が良さそうです。
 07 黒々し  上五がコーヒーを形容する意図で置かれているのであれば、終止形の「黒々し」ではなく「黒々しき」と連体形であるべきだと思います。終止形だとそこで切れているようにも読めます。
 08 爺婆の  麦は夏に開花、結実するところから夏季としますが、麦飯となると食べる人は一年中食べていますし、季語としての力は弱いと思います。ちょうど、新米は秋季であるのに対し、普通の米は季語ではないのと同じ。
 11 草で手を  いかにも夏嶺らしい、臨場感のある句。
 12 花火師が  良い場面を見ていると思いますが、どのように持っていたのか、人数は、急いでかゆったりか、ディテールでもっと活き活きとしてくる句と思います。いっそさまざまな面から花火師を描いた連作を作られるのも良いかもしれません。
 13 無情なり  上五が一句の答えになってしまっているようです。
 14 どうしても  現実は俳句より奇なり、と申しますか…、今年の夏は、何人かの中年男性が日傘を差している場面に遭遇しました。何年か先には、男性の日傘も普通になっているかもしれませんね。
 16 本めくり  めくるのは本ではなく頁ではないでしょうか。助動詞の示す時間関係も今一つはっきりしません。雰囲気はありますが、描写に具体性が乏しいように感じました。語順や助動詞など、もっと整理することができそうです。
 17 風死して  ソフトクリーム屋や、たこやき屋などの軽食屋の店先に、大きなソフトクリーム模型が見られます。着眼点の面白い句。
 18 水鉄砲  下五があまり機能していないように感じます。それより、玄関の狭さをより具体的に、水鉄砲で遊ぶ子らの動きなどと関連づけて描写したいところです。
 21 炎天や  中七の字余りが不用意な印象です。「炭酸抜けし水を飲む」や「飲めば炭酸抜けし水」など、これ以外にもいろいろと言いようはありますので、自分でも読み上げて、しっくりくるものを選んでみてください。
 22 幾千の  蜘蛛の囲がそんなに沢山見えるとは、壮観ですね。蜘蛛は害虫を捕食する益虫、収穫も安心できそうです。
 24 鮎釣の  鮎を釣る人のことは「鮎釣」とだけ言えば通じるので、「人の」は言わずもがなです。
 25 祭りの夜  中七の字余りが不用意な感じであることと、句の焦点がどこにあるのかはっきりせず、いわゆる散文的な句になってしまっています。
 29 すぐ焦げし  日差しの強さとコンロの火の強さとは本来関係ないですが、それを目にする人の心の中でそれがつながる。なかなか余韻のある句だと思います。
 30 空き瓶を  具体的な物を描いて、出来ている句と思いますが、少し踏み込みが足りない印象も受けます。中七の「にして」が少し堅いのが勿体ない。「空瓶の縁石に日や鳳仙花」「空瓶の縁石に砂鳳仙花」などなど、空瓶のディテールを掘り下げたいところです。
 33 水団で  戦時中を偲んで、終戦日にすいとんを出す店があるそうですね。歴史としても、生活のリアリティとしても、戦争のことは忘れられてはならないと思います。
 34 夏草や  どれほど軍事力・科学力が向上しても、やることは源平合戦の頃とそれほど変わらない。それを見やる芭蕉の眼は寂しそうです。
 36 投入れし  勢いのある佳句ですが、中七「西瓜やがばと」もしくは「西瓜にがばと」として西瓜に焦点を当てたいところです。
 37 友逝きし  ケルンの大きさが、亡き友を悼む気持ちの大きさを思わせます。
 39 鷹揚に  草ロールとは刈った牧草をロール状にしたもののことらしいです。そういわれれば見たことあるような気がします。鷹揚な月と相俟って何とも牧歌的な夜の景。
 41 帰省の子  気持ちはよく分かりますが、内容としてはやや川柳的な趣です。
 42 ががんぼの  ががんぼの足などふとした拍子に取れてしまう、とても丈夫なものとは言い難いものですが、それでも代わりの足などないので、危ないなどと言っておられません。原発の再稼働をそれと重ねられているのでしょう。
 43 雷鳴や  雷とそれに伴う雨を丁寧に描写されていると思いますが、それは雷という季語の本意にすでに含まれると思われる部分でもあり、季語を活かし切っていない印象を受けます。中七下五で雨の突然さ・激しさは充分伝わるので、上五はそれがさらに拡がるような季語が良いのではないかと思います。
 44 旅行社の  団扇の絵柄の句は比較的よく見るのですが、「旅行社の団扇」と特定したところと「スイスの青い空」の気分の良さ、独自のものがあり、好感を持ちました。ただ、中七の「に」は必要でしょうか。「に」がなくても団扇にプリントされた写真だと十分読み取れると思うのですが、いかがでしょう。
 46 水の上に  湖や海というのに比べるとこの句の上五はやや抽象的ですが、そのことによるデメリットだけでなくメリットもあると思います。採りたかった句です。
 47 サイダーの  口喧嘩とは関わりもなく立ち上るサイダーの泡がほのかに可笑しい。〈口論や金魚の水のまつたひら〉(如月真菜)という句を少し思い出しました。
 50 バリトンの  こういう、声を「バリトン」と表現する描写はここ十数年定期的に何度も目にしてきた表現で、すでに見慣れてしまった感じがあります。
 53 すずかけの  上五中七、素直な描写で好感を持ちましたが、「秋涼し」はあまり良い季語とは思われません。無理に秋季の季語を持ってきた印象です。
 54 そこら中  独特の雰囲気のある句ですが、稲妻が実物ではなく絵画であることが、季語としては弱さにつながり、句としても少し弱いように思われます。
 58 風吹いて  「誠のほかに俳諧なし」と唱えた鬼貫に、何の変哲もない風が吹くばかりの景が合っています。
 61 蝉の森  下五の字足らずは何だか落ち着きません。

 


来月の投句は、9月15日までに、3句お送り下さい・・・・・・投句はこちら

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