ハルヤスミ句会 第百五十七回

2013年11月

《 句会報 》

01 白露のこぼれし「あつ」と声のせし 一斗

02 運動会遅れ走る子待つ子かな    つよし(奥・土・タ)

03 これからぞ賑やかに咲け菊畑    案山子

04 穴入れに人だかりなり文化の日   順一

05 美瑛路の画布に描き足す秋の声   波子(奥・順)

06 マスクして回答欄のいいえ、いいえ 佳子(奥・海・益・春)

07 葛湯吹くいくたびも空仰ぎし日   海音(第・ぐ・春)

08 絶叫は厠の中から今朝の冬     順一(益)

09 菊花展見に行く妻と別れけり    タロー(海・ぐ)

10 猫の道に毬忘れけり冬隣      案山子

11 秋出水ゑんどうの芽の没しける   つよし

12 美術展いつものシフォンケーキかな 一斗(奥)

13 四分の一に折り曲げ千枚漬     忠義

14 蕎麦刈るや昼餉はティーとフランスパン タロー(土)

15 散もみぢ百葉箱を彩れり      愛(案・ぐ)

16 刈田てふ処女地に駈ける草野球   一斗(忠・順・益・鋼)

17 時雨るるや予報通りとひとりごち  タロー(愛)

18 白鳥来伏せられてゐるマグカップ  佳子(海・山・益・春)

19 袱紗いまひろげるところ花桔梗   益太郎(忠)

20 老農の影のびてゆく刈田かな    第九(愛・佳)

21 前世の夢か寝覚めの足の冷え    ぐり(一・第・遊)

22 連山の彫り深めたる神の留守    時人(一)

23 引出しに星座盤あり冬籠      海音(一・第・愛・タ・遊・山・ぐ・波)

24 寄り添えぬ日中日韓霧襖      益太郎

25 人の歩が電車の如し冬ぬくし    順一

26 小鳥来て少しずつ食ふ木守柿    ひろ子(第)

27 柱時計背に父のゐし秋刀魚かな   第九

28 冬帽子中也のやうな眼かな     海音(一・タ・遊・波)

29 幸せのため息干した蒲団被る    案山子

30 明日生きる老いの身軽ろし頬被り  波子

31 花やつで鍵見つからずじやらじやらと 忠義

32 綿虫の尻ちんまりとさまよへり   波子(タ・遊・佳・春)

33 一坪の貸農園や大根畑       山渓

34 立冬の雪嶽山(ソラクサン)てふ頂に ひなこ

35 鬼胡桃割れてターヘル・アナトミア 佳子(◎忠・案・一・タ・波)

36 黄色みある障子格子や偏頭痛    遊介(佳)

37 粉こぼし引く白線や小六月     ぐり(忠・海・春)

38 石庭の黄金色濃き石蕗の花     山渓

39 夕時雨あとは寝るほかなかりけり  愛(土・順・波)

40 つぶやきの布団に吸はれ届かざる  春休(益)

41 電線に点呼のごとく冬からす    ひろ子(土・佳)

42 山小屋にどぶろく回し飲む夕べ   山渓

43 旅立つや冬帝の待つ信濃路へ    時人

44 遅刻子の堂に入つたる懐手     春休(◎案・愛・順・鋼)

45 吹かれ来る宮の落葉のきりもなや  つよし(山)

46 呼び水にポンプの溢れ石蕗の花   忠義

47 ここに我居座るつもり枯葎     愛(第・海)

48 色づかぬ紅葉にかける「味の素」  益太郎(順)

49 三袋溜まり堆肥に柿落葉      ひろ子

50 黄葉散る売り別荘も車窓かな    時人

51 拍子木の音乾きたる冬の月     ぐり(案・奥・土・忠・山・波・鋼)

52 仏塔のやうな石積み冬ざるる    ひなこ(遊・山・鋼)

53 流し目や手をストーブに向けしまま 春休(愛)

54 枯れ菊を括るも残る匂ひかな    遊介(案・ぐ・佳・鋼)

55 銀杏敷き積む冬ソナの並木みち   ひなこ




【 石黒案山子 選(案) 】
◎44 遅刻子の  ガキ大将でしょうね。「遅刻がなんだ」と云う態度でふてぶてしい様が目に見えるようです。うまい句だなあと感心しました。
○15 散もみぢ  真っ白な百葉箱。それに降り注いだ紅葉が目に浮かびます。とらえどころを得た良い句だなあと思いました。
○35 鬼胡桃  何ともいえないユーモラスな句ですね。クルミを二つに割った姿から人体の解剖図を想像したのでしょう。又、リズムも大変良いと思いました。
○51 拍子木の  寒々とした冬の夜の情景。「火の用心」といいながら拍子木を打った昔を思い出しました。あのころも寒くそして何か寂しかった。
○54 枯れ菊を  もう少し寒々としてきますと、菊もいよいよ終わりになります。そこで括ります。花は終わってもあの菊の香はしみて居るみたいに残っています。命の余韻、そんなことを感じさせる良い句だと思います。
 上記の他に
 05 美瑛路の  この秋の「声」が解り難いと思います。でも、良い句だと感じました。
 39 夕時雨  何か解る気がします。渋いとは思いました。
 41 電線に  朝と夕方、鴉は決まったところで集会みたいに集まります。これは年中みたいで、冬に限ってはいないと思いますが、様子は手に取るようにわかります。
 52 仏塔の  冬の寒さ、寂しさなんかがとてもよく表現されている佳句だとは思います。ただ、「仏塔の様な」が一寸曖昧と思いました。
などの句が印象に残りました。それぞれ良い句だと思いました。
皆様良い句を拝見させて頂きました。ありがとうございました。

【 一斗 選(一) 】
○21 前世の夢か寝覚めの足の冷え
○22 連山の彫り深めたる神の留守
○23 引出しに星座盤あり冬籠
○28 冬帽子中也のやうな眼かな
○35 鬼胡桃割れてターヘル・アナトミア

【 中村時人 選(時) 】
(今回選句お休みです。)

【 土曜第九 選(第) 】
○07 葛湯吹く  両手で葛湯のカップを持って一人考える日々を送っている様子が目に浮かんできます。
○21 前世の  夢であったと教えてくれる現実の感覚が足の冷えというところがリアリティがあると思います。
○23 引出しに  閉じ篭もりがちな冬の季節にあって、意外にも引き出しの中に果てしない宇宙を感じさせてくれる存在があったという驚きが感じられます。
○26 小鳥来て  最後の柿を少しずつ大切に食べる姿に、着実に厳しい冬に向かう季節感が感じられます。
○47 ここに我  人生をここでまっとうしようとする意志、いわゆる骨を埋めるというような強い決意のようなものが感じられます。

【 奥寺ひろ子 選(奥) 】
○02 運動会  こんな世の中、ゆとりがあっていいですね。
○05 美瑛路の  秋の声 意外と力強いかもしれません。
○12 美術展  いいですね。身も心も満腹でしょうか。
○06 マスクして  捉え方がおもしろいですね。質問がいろいろ想像できます。
○51 拍子木の  我が家のまわりにも聞こえてきます。月の美しさと拍子木の音いいですね。

【 滝ノ川愛 選(愛) 】
〇17 時雨るるや 気象庁の天気予報が外れることは多々あります。このことのアイロニー?面白いですね。
〇20 老農の “影ののびゆく”というのは刈田になって障害物がなくなったからでしょうか。ミレーの絵のようですね。今年も無事収穫が終わったという心情まで伺われます。
〇23 引出しに “冬籠”というからには仕事も一段落したのでしょう。冬の大三角系等、冬の夜空は見所いっぱいです。さあ星座盤の出番です。
〇44 遅刻子の 何とまあ大した坊主ですね。きっと遅刻の常習犯なのでしょう。でもきまりが悪くて懐手をして虚勢を張っているのでしょう。
〇53 流し目や 「娘っ子は皆んなこの俺の流し目にクラクラッとするのよ」なんて聞こえてきそうです。ストーブはダルマでしょうか。何となくいけ好かない男を連想してしまうのは私だけでしょうか。

【 土田ひなこ 選(土) 】
○02 運動会  やさしさ、ユーモアも感じます。
○14 蕎麦刈るや  刈り終えた後、普通はおむすびだと思うのですが・・・美味しそうです。
○39 夕時雨  寒い夜は寝るだけですね。
○41 電線に  はい、と返事が聞こえそう。
○51 拍子木の  日本の冬、いい夜です。

【 小林タロー 選(タ) 】
○02 運動会  やさしい子なんです。待っているという句はあまり無いように思います。
○23 引出しに  今朝も早起きしてアイソン彗星を探しましたが見えませんでした。籠っていても思いは宇宙へ
○28 冬帽子  ニットの帽子をかぶった「中也」かな?中也の眼と言われて、どんな眼なんだろと曖昧模糊としたところが良い人も悪い人もいるでしょうが、私はわかんないけど良いと。
○32 綿虫  飛ぶというよりさまよふ感じがぴったり、心象風景でもあるのかな。
○35 鬼胡桃  胡桃が割れて解剖だ!というのではなくて、なんとなくおかしい言葉遊びの面白さがあります。

【 森田遊介 選(遊) 】
○21 前世の  今年一番の寒い朝を想像しました。どんな前世だったのか知りたくなります。
○23 引き出しに  冬の星座が美しい時なのにもう籠ってしまうとは。星座盤持って外へ行きたくもあり暖かい家でぬくぬくとしていたくもあり、揺れる気持ちを感じる一句です。
○28 冬帽子  愛を追い求め潤んだような眼でしょうか。帽子を目深くかぶる中也の眼は強い印象を残します。
○32 綿虫の  尻ちんまりが効いています。冬虫の彷徨える様が少し滑稽にも見えるような句です。
○52 仏塔の  季語が効いています。単なる石積みであっても仏塔に見える程の心細さを思いました。

【 小早川忠義 選(忠) 】
◎35 鬼胡桃  これ、ツボにはまった。しかしながら読む人によっては意味がわからないと言われそう。胡桃の割れた様子って脳味噌のCT写真に確かに似ている。
○16 刈田てふ  「処女地」という仰々しさが面白い。厳密に言えば違う気もするが。
○19 袱紗いま  桔梗の蕾が花開くのは確かにパリッとした袱紗が広げられるような雰囲気がある。
○37 粉こぼし  石灰のラインは確かにラインの外に粉がこぼれる感覚。ノスタルジーが呼び起こされる。
○51 拍子木の  うちの近所でも夜回りは健在。月の白さも際立つようだ。  
 42 山小屋に  確かにある光景、実景であるなら申し訳ないのだが、何故か「嘘?」という感じが頭に過ぎってくる。 

【 石川順一 選(順) 】
○05 美瑛路の  季語は「秋の声」。描き足された「画布」を見てみたいと思いました。
○16 刈田てふ  季語は「刈田」。促成の「処女地」。しかし直向(ひたむき)な少年達?のプレイに田の神も喜んで居る。
○39 夕時雨  季語は「夕時雨」。諧謔味があると思いました。或いは実感としては悲哀があったのかもしれませんが。何れにしてもある種の諦念がこの句を引き立てて居ると思いました
○44 遅刻子の  季語は「懐手」。何と言う大物ぶりであろうか。後生畏るべし。この句に多言は無用だと思いました。
○48 色づかぬ  季語は「紅葉」。着想の面白い句だと思いました。或いは寡聞にしてこの手の句を知らないだけかもしれませんが。何れにしても「味の素」をかけるとは魔法みたいで面白い。
 以下5句選に入らなかった句で注目した句に
 07 葛湯吹く  季語は「葛湯」。空は夢を育んでくれますね。「葛」と言う季語は植物的には秋。くずもちなどの食いものなどでは夏の季語で「葛湯」は冬と結構季節に幅のある「葛」的季語ですが、この句では回想の句(助動詞「し」)として確かな句格があると思いました。
 22 連山の  季語は「神の留守」。雄大な句。「彫り深めたる」がもうちょっと具体的な詠めないかと思いました。難しいところでしょうが。枝葉末節に拘ると句柄や句格が皮相に陥り易い。しかしそこをもうちょっと冒険心を持って細か過ぎず大雑把過ぎずその中庸を詠む精神を嘉したいと思ったのです。
 28 冬帽子  季語は「冬帽子」。あの必ず教科書にも詩集にも載って居る中原中也のの定番の写真ですね。「まなこ」。つぶらな瞳と言うのでしょうか。見慣れている写真だけあって却ってこの句に偏見を持ってしまったかもしれない。
 53 流し目や  季語は「ストーブ」。「流し目」がやや気になりました。顔と体がばらばら?句想としては面白いと思いました。眼球の動きを追っていないとパッと見にはそのばらばらぶりが伝わらないもどかしさが根底にあるのかもしれません。いまいち句意が皮相であるかと。
 54 枯れ菊を  季語は「枯れ菊」。「枯菊」とも表記。「括るも」に軽い驚きが。しかし句想はともかく句意の伝え方が少し浅いと思いました。浅いなら浅いなりの良さがある場合もあると思うのですが、この句では「残る匂ひ」に詩的必然性を感じなかった。偶然かも知れませんが。

【 涼野海音 選(海) 】
○06 マスクして  アンケートに答えているのでしょうか。連続で「いいえ」という所が面白いですね。
○09 菊花展  作者自身が「菊花展見に行く」のか、奥様が「菊花展見に行く」のか、ややあいまいですが、夫婦で休日は別行動のようです。
○18 白鳥来  マグカップの色と白鳥の色を重ねて詠まれたのでしょうか。伏せられているマグカップに「詩」を発見したところが良いと思いました。
○37 粉こぼし  運動場の景でしょう。描写が細かく出来ているところが良いですね。
○47 ここに我  「ここに我居座るつもり」という存在感がいいですね。一方で「枯葎」でという季語でいいのかという疑問もありますが・・・。

【 松本てふこ 選(て) 】
(今回はお休みです。)

【 足立山渓 選(山) 】
○18 白鳥来  12文字の措辞より、予想より早く白鳥が来て、まだ餌をやる準備が整っていない様子が浮かぶ。
○23 引出しに  厳しい冬籠を少しでも楽しく過ごそうと、抽斗をさばくっていたら星座盤が見つかった。冬の夜空でも観察して、退屈を紛らそう。  
○45 吹かれ来る  当たり前の光景だが、下五の措辞に感心。
○51 拍子木の  中七の感性に感服。    
○52 仏塔の  12字の措辞と季語がぴった。

【 川崎益太郎 選(益) 】
○06 マスクして  マスクには人を寄せつけない力がある。回答欄もいいえ、いいえ となるのであろう。納得の句。
○08 絶叫は  温まっていない洋式便器の便座は冷たくて座るには勇気がいる。絶叫は実感。
○16 苅田てふ  苅田を処女地と見たところが上手い。草野球もぴったり。
○18 白鳥来  白鳥とマグカップの取り合わせ。伏せられてゐる、がいろいろ想像させて上手い。
○40 つぶやきの  言いたいことを布団が吸取ってしまって、隣に寝ている相手に伝わらない。布団に吸われ、が上手い。これが29の句につながりハッピーエンドとなる?

【 草野ぐり 選(ぐ) 】
○07 葛湯吹く  あまりにも秋空が美しいから空を仰いだのではなさそう。葛湯吹くがちょっと気がかりとか物思いを連想させるせいか。
○09 菊花展  きっと「じゃあ」と素っ気なく別れたのだろう。旦那様はどちらに行ったのか。夫婦の呼吸や今まで過した時間の厚みを感じるようだ。
○15 散もみぢ  最近百葉箱を見ない気がするがどうしたのだろう。百葉箱の白と紅葉の赤や黄のコントラスト。
○23 引き出しに  星座盤!懐かしい。今の子も使っているのだろうか。冬籠がつき過ぎかもしれないが。
○54 枯れ菊を  枯木の匂いと枯れ菊の匂い。匂いで感じる晩秋。

【 水口佳子 選(佳) 】
○20 老農の  刈り終わった田に佇む老農。日が大きく傾き影が伸びる。傾いた日と老農とその影、その全てが何かを語りかけてくる。
○32 綿虫の  一見、綿虫の説明のようではあるが〈ちんまり〉に作者の愛情を感じる。実際、綿虫のどこが頭でどこが尻なのか、そこまで観察する人は少ないと思う。情緒の小道具としてこの季語を使うことが多い中で、生き物としての綿虫を詠んであるところに惹かれた。
○36 黄色みある  少し古くなった障子格子。偏頭痛と無関係のようでどこか関係している微妙さが良い。
○41 電線に  一羽また一羽と鴉が増えていく様子を〈点呼のごとく〉とはうまい表現。不穏な空気が〈冬からす〉から感じられる。
○54 枯菊を  〈くくるも残る〉の表現が少し言い過ぎのようにも思うが、枯れた菊に残る匂いには命を感じる。
 ほかに好きな句
 07 葛湯吹く  空を仰いだ、ということで作者が言いたかったのはなんだろう。
 22 連山の  俳句らしい俳句。こういう句も作りたい。
 27 柱時計  父のゐし・・・は過去のこと。父はもう亡くなったのか。
 52 仏塔のやうな  季語が決まりすぎのようにも。

【 喜多波子 選(波) 】
○23 引出しに星座盤あり冬籠 
○28 冬帽子中也のやうな眼かな
○35 鬼胡桃割れてターヘル・アナトミア
○39 夕時雨あとは寝るほかなかりけり
○51 拍子木の音乾きたる冬の月

【 鋼つよし 選(鋼) 】
○16 刈田てふ  刈り取ったばかりの表現、作者には処女地と映った。
○44 遅刻子の  クラブ活動かなにかでしょうか大物の予感。
○51 拍子木の  冬の月が良いのでしょうか、太平洋側の気候を想像します。
○52 仏塔の  仏塔と冬ざるるは近い気もしますが、冬ざるるの一面と思います。
○54 枯れ菊を  良い匂いで、私も好きです。

【 小川春休 選(春) 】
○06 マスクして  「回答欄のいいえ、いいえ」という表現は、アンケートへの回答によって自分の孤独が浮き彫りになるような感じを受けます。季語も下五の句読点も字余りも効果的で、手練の句という印象も受けました。
○07 葛湯吹く  「いくたびも空仰ぎし日」という表現で、今はもう日暮れということを暗に伝えている。そして冬といってもまだ日中は過ごしやすく、朝晩はぐっと冷え込む頃(ちょうど今ぐらいの感じ)。幾度も空を仰いだ日、仕事で外回りが多かった日でしょうか、日帰りで遠出でもしたのでしょうか。一日を振り返りながら、葛湯にほっと一息。
○18 白鳥来  白鳥の飛来が、冬の訪れを知らせる出来事である土地。そこに暮らす人の生活が静かな実感を持って感じられる句。
○32 綿虫の  「尻」というからにはこの綿虫、後ろ姿な訳です。私自身、綿虫は好きな句材で、よく観察していますが、前後ろを気にしたことはあまりなかったので、その点だけでもぐっと来ました。「ちんまりと」も「さまよへり」も綿虫の描写として目新しいものではありませんが、「尻」というポイントを捉えたことで活き活きとした句になっている。
○37 粉こぼし  遅めの運動会か、それともソフトボールか。白線を引く作業は目立たないけど大事な作業、そして結構コツの要る作業。まだ人の少ない作業風景、穏やかな景に上五の描写が命を与えている。
 01 白露の  せっかく短い一瞬の動きに目を留めているのに、この仕立て方では一句が非常に間延びして感じられます。切れを入れるなど、表現にメリハリを持たせる工夫が欲しいところです。
 04 穴入れに  「穴入れ」とは何のことでしょう。ゴルフのことでしょうか。よく分かりませんでした。
 08 絶叫は  一体何があったのでしょうか。「今朝の冬」などと悠長に言っている場合ではなく、早く助けを呼ぶか、厠へ救出に向かった方が良いのではないかと思いますが…。
 09 菊花展  ちょっと洒落ている句ではありますが、句に描かれている現場は菊花展ではない訳で、こういう用法は季語としては弱いと思います。
 10 猫の道に  獣道なら分かりますが「猫の道」というのは意識したことがないですね。ちょっと無理のある表現という気がします。
 11 秋出水  せっかく世話していたのに出水でやられてしまったのでしょうか。残念ですね。
 12 美術展  気分はよく分かりますが、句の中で「いつもの」と言われると、メリハリも盛り上がりもなく、悪い意味で坦々とした句になってしまうと思います。
 14 蕎麦刈るや  ギャップが何だか可笑しいですね。
 15 散もみぢ  紅葉というものは、数ある季語の中でも雪・月・花に匹敵するぐらい非常に重要な季語であり、それ単体で十分に鮮やかな景を想像させるものです。「彩れり」は言わずもがなです。
 16 刈田てふ  念のため処女地を辞書で引いてみると「まだ開墾されていない土地」という意味で、刈田とは逆です(未開墾の土地が処女地なら、何度も稲を収穫したであろう刈田は子沢山の母親、とでも言うべきか)。それと、刈田で草野球って本当にしますか。ゴロも捕球できないし、走ると捻挫しそうですが…。
 19 袱紗いま  「ところ」というと爽波の〈鳥の巣に鳥が入つてゆくところ〉がすぐに思い浮かびますが、必ずしもこの句では「ところ」が効果的ではないようにも感じます。花桔梗と袱紗の鮮やかさからも、すぱっと歯切れ良く仕立てた方が、景も鮮明に見えてくるのではないでしょうか。
 22 連山の  現実には、日の短さや日差しの角度が影響しているのでしょうが、「彫り深めたる」と言われると、山の姿はよく見えてきます。
 24 寄り添えぬ  霧襖で完全に遮断できればお互いに平和で良いのですけどね。
 25 人の歩が  電車の如く歩く人の様子が想像できなかったのですが、どんな感じなのでしょう。
 27 柱時計  「背」とは作中主体の背でしょうか、それとも柱時計の背(裏側)でしょうか。「かな」の句としては、一句の中に要素が多すぎ、まとまりに欠ける印象です。
 28 冬帽子  中原中也の有名な写真、帽子とマントを着用したものを思わせますね。
 30 明日生きる  「明日生きる」が分かるようで分からない。中七下五は今現在の状態を詠んでいるようですが、となると「明日」が意味がつながらない。
 31 花やつで  上五と下五が逆の方が句としてはまとまりが良いと思いますが、それでもあまり季語が効いていないように感じます。
 34 立冬の  立冬を旅先(韓国でしょうか)の山頂で迎えるとは、アクティブですね。当地の山は日本と比べると冷え込むのでしょうか。
 35 鬼胡桃  確かに鬼胡桃の実は臓器を思わせる風貌ですね。
 36 黄色みある  元々が明るい色合いの障子格子だったのでしょう。そのせいで黄ばんでいるところが目立っている。
 38 石庭の  「黄金色濃き」と石蕗の花を描写されていますが、そもそも石蕗の花とはそういうもの、という気がします。
 41 電線に  草田男の〈つばくらめ斯くまで並ぶことのあり〉を少し思い出しましたが、鴉がそんなに並んでいるのは珍しいですね(少なくとも私は見たことがない)。近くに良い餌場があるのか。
 42 山小屋に  夕べに、山小屋で、仲間たちと、どぶろくを、回し飲みする。5W1Hがよく押さえられており報告としてはしっかりしているのですが、俳句として読者に迫ってくるものが乏しい。山小屋でどぶろくなんてとても珍しい体験なのですから、どこかポイントを絞って、もっと臨場感のある句にならないものでしょうか。
 45 吹かれ来る  宮は高い所にあるのでしょうか。落葉が次々と吹き落とされてくるのでしょう。
 46 呼び水に  タイムリーなことに、先日「童子」の辻桃子主宰と久々に句会で御一緒しまして、その時に石蕗の花の話が出ました。この時期、石蕗の花や花八手の句が非常に多いが、まあまあ良い句はあっても、ずば抜けて良い句というのはまずお目にかからない、とのこと。石蕗の花自体をメインで写生するならともかく、取り合わせで石蕗の花を使うと、どうしても上記のような感じになってしまう。この句もその範疇から抜けていないのではないでしょうか。
 47 ここに我  私はあまり枯葎に居座りたいと思わないのですが、この「我」はどんな気持ちなんでしょうか。居座って越冬するのでしょうか。
 48 色づかぬ  テレビ番組で、その辺の野草を何でも素揚げや天ぷらにして食べてしまう俳優を見たことがありますが、この紅葉も天ぷらにでもするのでしょうか。
 49 三袋  生活感のある場面に目を留めること自体は良いことだと思うのですが、言い回しというかまとめ方のせいで、説明的な句になってしまっています。例えば「柿落葉堆肥にせんと三袋(みふくろ)も」などと、まとめる人の姿や動きを少しでも連想させるようにすると、いくらかは改善されると思います。
 51 拍子木の  いかにも冬らしいですが、拍子木を打って火の用心を呼びかける夜番・夜廻りは冬の季語。これは良くない季重ねだと思います。

 


来月の投句は、12月15日までに、3句お送り下さい・・・・・・投句はこちら

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