ハルヤスミ句会 第百六十一回

2014年3月

《 句会報 》

01 思うさま濃尾平野を春一番      案山子(時・第)

02 春泥の乾き始めの重さかな      ぐり(時・第・タ・忠・順・て・益・春)

03 上げて下げてU型便座や冴返る    てふこ(佳・波)

04 春風にサンドバッグと化す堅さ    順一

05 斑雪野や電車の軋みかな       遊介

06 うんちくの三平皿や浮氷       波子(益)

07 梅の木に不協和音の蕾かな      益太郎(順)

08 石塊の犬の墓なり下萌ゆる      山渓(第)

09 水ぬるみぬひぐるみ噛み続けをり   春休(奥)

10 山も野も畑も農夫も春霞       案山子(時・第・奥・遊・海・波)

11 蝶しづか生まるるときも死のやうに  佳子(第・タ・海・て・益)

12 零点の答案流れくる春日       一斗(海・益・佳)

13 古鉢にぎうぎう詰めや花はこべ    愛(一・時)

14 啓蟄やスタップ細胞家なき子     益太郎

15 小波に名残の雪の遥けさよ      波子

16 料峭や声明低く始まりぬ       タロー(案・一)

17 点心のまんじゅう三口桃の花     一斗(海・波)

18 近くまで歩み寄れぬよ蘆の角     忠義

19 薄皮を蹴って飛び出すみどりの芽   ひろ子

20 啓蟄や帽取れば髪のたうちて     春休(愛・遊・ぐ)

21 右手より左手弱しつくし摘む     佳子(一・て・山・波)

22 ぞろぞろとランナー達の日永かな   第九(奥・愛・順)

23 復興の遅々と進みぬ冴返る      時人

24 石伝ひ春泥の上足踊る        案山子(忠)

25 芋田楽その先しらぬ民話かな     波子(遊)

26 おろしたて花粉眼鏡の曇りたる    タロー

27 炉を塞ぐ付き添う叔父の小唄会    遊介

28 春の炉を囲み唱和の童歌       山渓

29 啓蟄や閘門いづる舟二隻       時人(山)

30 摘み摘みて土筆茹でれば箸の先    愛(奥)

31 凍ゆるむ牛は岩塩舐め続け      タロー(案・一・遊・ぐ・春)

32 癇癪を起こして愉し沈丁花      てふこ

33 風船を追へば献血求めらる      佳子(愛・タ・遊・て)

34 足跡の残れる花壇鳥ぐもり      海音(て)

35 花期長きシクラメンには王冠を    順一

36 ふわふわの腐葉土分けて蕗の薹    山渓

37 2Bの芯に入れ替え春めける     第九(案・時・タ・益)

38 鷹鳩に化し大風に飛ばされぬ     忠義(案・順)

39 しゃぼん玉砂場に居れば子らの武器  順一

40 若布買ふ産地陸前高田なり      つよし

41 鷹鳩と化して前後に首動く      ぐり

42 マスクして斜めに見たる通勤路    一斗(愛・佳)

43 麗らかや夫の淹れし苦きお茶     遊介(忠)

44 真直ぐにずんずん伸びるチュリップ  ひろ子

45 遠足の子が大枝を拾ひけり      海音(忠・春)

46 山笑ふ焼きおにぎりに醤油の香    海音(山・ぐ・佳)

47 東北の震災三年(みとせ)凍返る    つよし

48 このあたりやはり見つけしつくしんぼ 愛(一・春)

49 クロッカスひとつ開くや群れ咲きぬ  つよし

50 春暁の夢に眼鏡を踏みつけり     てふこ(愛・順・ぐ)

51 卒業の手を振り合ってさようなら   ひろ子(山・ぐ)

52 馬刀掘るやたまに外れの穴のあり   忠義(タ)

53 どこまでが許容線量紙風船      益太郎

54 明け方の道に犬ゐる彼岸前      ぐり(佳)

55 花冷や噛めば崩るる蕎麦稲荷     第九(案)

56 歯を磨く河馬に歓喜や遠足児     時人(奥・山・波・春)

57 階段を掃き降りゆけば霞草      春休(海)

 




【 石黒案山子 選(案) 】
〇16 料峭や声明低く始まりぬ
〇31 凍ゆるむ牛は岩塩舐め続け
〇37 2Bの芯に入れ替え春めける
〇38 鷹鳩に化し大風に飛ばされぬ
〇55 花冷や噛めば崩るる蕎麦稲荷

【 一斗 選(一) 】
○13 古鉢にぎうぎう詰めや花はこべ
○16 料峭や声明低く始まりぬ
○21 右手より左手弱しつくし摘む
○31 凍ゆるむ牛は岩塩舐め続け
○48 このあたりやはり見つけしつくしんぼ

【 遠藤ちこ 選(ち) 】
(今回はお休みです。)

【 中村時人 選(時) 】
○01 思うさま濃尾平野を春一番
○02 春泥の乾き始めの重さかな
○10 山も野も畑も農夫も春霞
○13 古鉢にぎうぎう詰めや花はこべ
○37 2Bの芯に入れ替え春めける
 ほかに気になった句
 18 近くまで歩み寄れぬよ蘆の角
 31 凍てゆるむ牛は岩塩舐め続け
 52 馬刀掘るやたまに外れの穴のあり
 55 花冷や噛めば崩るる蕎麦稲荷

【 土曜第九 選(第) 】
○01 思うさま  自然が持つスケールの大きさを感じます。
○02 春泥の  靴底に粘着する感じが実感できます。
○08 石塊の  生命の循環や生き物への愛情を感じます。
○10 山も野も  穏やかな田舎の風景が目に浮かびます。
○11 蝶しずか  神秘的な美しさを感じます。

【 奥寺ひろ子 選(奥) 】
○10 山も野も畑も農夫も春霞
○11 蝶しづか生まるるときも死のやうに
○22 ぞろぞろとランナーたちの日永かな
○30 摘み摘みて土筆ゆでれば箸の先
○56 歯を磨く河馬に歓喜や遠足児
 今回は選句のみでおねがいします。

【 滝ノ川愛 選(愛) 】
〇20 啓蟄や  冬の間はボロ隠しとばかり、いつも帽子をかぶっていたが暖かくなり帽子を脱いだら何と髪がクチャクチャになっていたという事なのでしょうが、「のたうちて」が面白いですね。
〇22 ぞろぞろと  休日の朝などに多摩川でよくこのような景を見かけます。勿論ランナー達は元気一杯のつもりなのでしょうが、傍から見ると皆さんやや背中を丸めて狭い歩幅で走っておられるのは「ぞろぞろ」がぴったり(失礼)、「日永」の季語がぴったりです。
〇33 風船を  私は血が薄いとやらで献血が出来ません。従って献血車の前を通らないようにしているのですが、この作者は小さいお子さんをお持ちのお父さんかお母さんでしょう。風船を手放してしまったお子さんの為に風船を追いかけて行ったら、あーら献血車の前。
〇42 マスクして  「マスク」と「斜め」が気になる一句。花粉症か伊達マスクでしょうか。どちらにしても今日は会社に行かないつもり。どうぞ誰にも見つかりませんようにという感じがします。
〇50 春暁の  さあ大変、眼鏡を枕元に置いておくからには相当視力が悪い。その大事な眼鏡を踏みつけてしまい目が覚めてしまいました。「春暁」が動かない。

【 土田ひなこ 選(土) 】
(今月お休みです。)

【 小林タロー 選(タ) 】
○02 春泥の  靴に付いた泥の重さの変化を感じるのも春
○11 蝶しづか  向かう岸から見れば生は死となるわけ
○33 風船を  少しは稚気や血の気を抜きなさい、ということ 追ふや としたい。
○37 2Bの  4H→2Bへ、春ですね
○52 馬刀掘るや  全部当たらないから面白い。

【 森田遊介 選(遊) 】
○10 山も野も  春霞の景が即目に浮かびます。
○20 啓蟄や  乱れた髪を「のたうちて」と読んだ事に魅かれました。驚くほどにその髪型は乱れていた。驚蟄ですね。
○25 芋田楽  最初はしっかり聞いていた民話でもその結末となると定かではない。田楽の旨さで集中力が耳から舌へ移ってしまった。人間は正直なものです。
○31 凍ゆるむ  季節が変ろうが牛には関係無い事。ひたすら岩塩を舐める牛が微笑ましくもあります。
○33 風船を  子供でなくとも風船には人を引き付ける何かがあります。風船を貰えれば献血してもいいかなぁ・・と思ったりもします。

【 小早川忠義 選(忠) 】
○02 春泥の  まだ乾いていない土がくっついて普段より足取りが重く。
○24 石伝ひ  石の道が春の泥にぐらぐらしているのでしょう。「踊る」より良い動詞がありそうですが。
○43 麗らかや  「夫の淹れたる」で取ります。麗らかさは無粋なひとにも何かさせようとする力があります。
○45 遠足の  その大枝を何に使うわけでもなく。疲れていながらも手持ち無沙汰。
 06 うんちくの  その季語が効いているのかが解らなくて。せともの市の現場なのでしょうか。
 33 風船を  「追う」と「求める」で二つの句が出来そうです。 
 37 2Bの  「入れ替える」という動作が恐らく余計なんだろうと思います。
 今回はすみません、四句選とさせていただきたく。季語と自身の体験が本当に融和しているかどうかを考える機会があって、それに沿うように選ぶと 何故この季語を使ってものを言うんだろうという疑問が多く湧いてきました。取り合わせが本当に自らのものになっているのかどうかもう一度しっかり立ち返って考えないといけないのかもしれないと強く思いました。

【 石川順一 選(順) 】
○02 春泥の  季語は「春泥」。普通水分が乾燥して無くなると、その分軽くなるだろうから、乾燥後に比べれば、乾き始めは重いのだろうかと、取り敢えず理屈で理解した上で、でも理屈に収まらないポエジーを感じさせる句であると思いました。
○07 梅の木に  季語は「梅」。梅ふふむなどの俳句表現からはちょっと想像のつかない「不協和音」と言う言い方。いろいろな具体的な状況を想像させてくれますね
○22 ぞろぞろと  季語は「日永」。季語と「ぞろぞろと」が唱和して居る様に思えました。そんなのんびりとした感じでは無いのだろうけれども。でもそれはあくまでも「ランナー達」の立場。詠み手は冷徹に「ぞろぞろと」と言い放った。
○38 鷹鳩に  季語は「鷹鳩に化し」。想像上の季語。まさに言い得て妙。誰でも思い付きそうでも、多分誰も読んだことの無さそうな詠みぶり、内容。
○50 春暁の  季語は「春暁」。夢の中身は極めて私性の強いもの。それだけに安易に流されがちに。そこを逆手に取るかのように勇気を持って詠めば意外といい句に。
 他に
 11 蝶しづか  季語は「蝶」
 18 近くまで  季語は「蘆の角」
 27 炉を塞ぐ  季語は「炉を塞ぐ」
 33 風船を  季語は「風船」
 45 遠足の  季語は「遠足」
 54 明け方の  季語は「彼岸前」

【 涼野海音 選(海) 】
○10 山も野も  「山も野も畑も農夫も」と思い切って、風景にあるものを重ねた所が手柄。
○11 蝶しづか  一見、生と死は正反対のもののように思えますが、「しづか」という共通性があったとは。
○12 零点の  考えてみれば「零点」ってなかなか採れるものではないかもしれませんねー。それがあたたかな「春日」に流れてることに納得。
○17 点心の  「三口」という具体数が不思議と生きています。
○57 階段を  「霞草」という淡い季語が、「階段」を掃くという日常的な行為と、自ずと結びつく感じです。

【 松本てふこ 選(て) 】
○02 春泥の  正直なところ共感、とまではいかないのだけれど納得できたし、こういう言い方は見たことありそうでないな、と思ったので。
○11 蝶しづか  少しきざに言いすぎているようにも思いますが、ひとつの美学に貫かれている強さがある。
○21 右手より  取り合わせのような、つくしを摘んでいて思った実感のような。下五の切れをどう解釈するかが難しいが、自らの身体をいとおしむまなざしとつくしを摘む行為とのつながりがもたらす温かさが句を味わい深くしているように思う。
○33 風船を  追へば、と因果関係を作るよりもう少しはっきり切ってしまった方がいい、と個人的には思うのだが、この真面目とバカバカしさのブレンドに好感を持った。
○34 足跡の  曇り空と、ひんやりとした空気と、誰かの足跡。こういう気分は俳句でしか言いとめられない。

【 足立山渓 選(山) 】
○21 右手より  沢山土筆が出ていて、右の利き手ではどんどんとれるが、左手ではなかなか採れぬもどかしさがうかがえる。
○29 啓蟄や  季語と中七がぴったり。
○46 山笑ふ  春の遠足の御昼どきが目に浮かぶ。
○51 卒業の  報告調だが景が浮かび、解りやすい。
○56 歯を磨く  動物園への遠足で見た珍しい光景に、大喜びの児童達。子供の頃を思い出す。

【 川崎益太郎 選(益) 】
○02 春泥を  春泥は乾くと軽くなる。目の付けどころが上手い。
○06 うんちくの  何事にもうんちく屋はいる。浮氷が効いている。
○11 蝶しづか  何でも一人で生まれ、一人で死んでいく。蝶が効いている。
○12 零点の  零点の答案は、作者の心境。零点より、白紙の方が面白い?
○37 2Bの  2Bは作者の心境。2Bが上手い。

【 草野ぐり 選(ぐ) 】
○20 啓蟄や  金田一耕助のような髪でしょうか。のたうつとは髪がうごめいているようで啓蟄と合い過ぎかとも思ったのですが、いかにもと納得してしまいました。
○31 凍ゆるむ  寒さが和らいでくると同時に生命力が新たに湧き上がって来るが、岩塩なめつづけに感じられる。
○46 山笑ふ  おいしそう。山笑ふがいい。おにぎりに春へのエネルギーがつまっているよう。
○50 春暁の  眼鏡を踏みつけるなんてかなりの激情だろう。ほわほわとした春暁とは対象的な激しさに何か一層不穏なものがにじみでている。目覚めたらぐったりしたのでは。
○51 卒業の  仲の良い友ではなく、ひょっとしたらもうあまり会う事もないだろうと感じる人との別れのような気がする。淡々とした淋しさ。

【 水口佳子 選(佳) 】
○03 上げて下げて  なんかばかばかしいけど好き。何が言いたかったのだろう。
○12 零点の  親に見せられなくて川に捨てたのか。でも〈春日〉なので救われる。何もかも大きく包み込む優しさが〈春日〉なのだと。
○42 マスクして  〈斜めに見たる〉という措辞に作者の心の内がうかがえる。マスクをするといつもと同じ風景も違って感じられるのかもしれない。会社休んでゆっくりしたら・・・と言ってあげたくなる。
○46 山笑ふ  幸せ感いっぱいの句。こういう句を見るとどこかに影が欲しくなるのだが、焼きおにぎりがおいしそうなので・・・
○54 明け方の  明け方の道に犬がいることはよくあることだと思うのだが、それが〈彼岸前〉だと言われると、この犬はどこから来てどこへ行くのだろうと思わされてしまう。
ほかに好きな句
 20 啓蟄や 寝ぐせのひどい髪を想像。〈啓蟄〉ともよく合っていると思った。
 31 凍ゆるむ 牛舎の牛はずっと同じ場所で干し草を食べ岩塩を舐めるだけ。それでももう少しすれば、広い牧草地でのんびりと過ごせるのだろう。
 34 足跡の やわらかな黒い土にさっきまで土いじりをしていた人の足跡が。花種も鳥たちも命をつないで行く。

【 喜多波子 選(波) 】
○03 上げて下げてU型便座や冴返る
○10 山も野も畑も農夫も春霞
○17 点心のまんじゅう三口桃の花
○21 右手より左手弱しつくし摘む
○56 歯を磨く河馬に歓喜や遠足児

【 鋼つよし 選(鋼) 】
○10 山も野も  霞むなかに緑や黄色が浮んでくる。
○31 凍ゆるむ  この景色は外なのか屋内なのか どちらにしても春を感じます。
○33 風船を  風船の句でこのほうが好きです。
○38 鷹鳩に  季語がタイムリーと思った。
○43 麗らかや  イメージするに苦笑する。
 そのほかでは、
 54 明け方の道に  平凡ながら彼岸前がなかなか良い。
 55 花冷や  この句も花冷の季語で詩になっていると思う。

【 小川春休 選(春) 】
○02 春泥の  靴に付いた春泥なのでしょうね。ただ単に春泥が重いというだけでなく、「乾き始め」というタイミングに絞ったところが一句の鮮度を格段に上げていると思いました。
○31 凍ゆるむ  「続け」というところに、ゆったりした牛の動作と春の時間の流れとが表れています。牛に舐められて濡れた岩塩が見えてくるようです。
○45 遠足の  屈託のない、大らかな句です。こういう句は、詠みたいと思ってもなかなか詠めないように思います。日頃学校の中で活動している子供たちが、遠足で自然と触れ合う。そういう浮き立つような気持ちが自然と想像されます。
○48 このあたり  毎年この辺りでつくしを採る。今年も来てみたがぱっと見、つくしは見当たらない。しかしよく探すとやっぱりつくしが出て来ている。そういう動作や心の動きが想像される句です。
○56 歯を磨く  何十cmもあるブラシで、大きく口を開けたカバの歯を磨く。おそらく一日に一度、動物園で決まった時間にイベント的に行われているものと思われます。これだけ園児たちが喜んでくれたら、河馬もさぞ歯の磨かれ甲斐があったことでしょう。
 03 上げて下げて  「上げて下げて」が何のためにしたことか少しはっきりしないです。上げてから掃除してその後下げたのか、男性が用を足すために上げてその後下げたのか。そういう背景を想像させてくれる手がかりが少しでもあれば、「冴返る」という季語もより実感を持って感じられると思うのですが。
 04 春風に  様々な方向から身体へと吹き付ける春風にサンドバッグとなった気分を味わう。そこで我が身の「堅さ」を意識するところがなかなか独特だと思いました。
 06 うんちくの  上五中七、なかなかに味があり、想像も広がりますが、「浮氷」という季語との関わりがよく読めません。たとえば波多野爽波は、屋内と屋外との微妙に影響し合う様子を、季語を活かして一句にしていますが、その季語の選択はかなり難易度が高いように感じます。この句の季語も、もっと他に適した季語がありそうです。
 08 石塊の  老犬が、今年の厳寒の冬を乗り切れず亡くなられたのでしょうか。周囲に草が萌え出る中の、簡素な石の墓がせつない。「石塊の」より「石塊は」の方が犬への気持ちがより強く感じられて良いかもしれません。
 10 山も野も  PM2.5のせいもあってか、今年の春は濃い霞をよく目にしました。とんとんと調子良く言葉が並んでおりそれだけでも気分の良い句ですが、山・野・畑・農夫と大から小へとスムーズに視点が移ってゆくように配慮された並びも心にくい。採りたかった句です。
 11 蝶しづか  中七下五、非常に印象的なフレーズです。それだけに、少し気になるところがあります。蝶の生まれる様は静かなのが常、それに中七下五の叙述も静けさを感じさせるものなので、「しづか」と言葉にせずとも十分伝わるのではないでしょうか(その場合、上五は「蝶々の」か)。ただ、その点を差し引いても良い句だとは思います。
 17 点心の  饅頭の大きさはよく分かりませんが、ぱく、ぱく、ぱくと三口で完食。健康的な印象です。桃の花とほかほかの点心とが合っているように感じました。
 21 右手より  見所のしっかりとした句で、土筆を摘む感触までも想像されます。
 22 ぞろぞろと  以前都道府県対抗駅伝を観戦しに行ったときには、何十人というランナーが瞬く間に目の前を過ぎて行ったのに驚かされましたが、この句のランナーはあまり速くはなさそうですね。無理して怪我しては元も子もない、時間はかかっても目指せ完走!というところでしょうか。何とものどかです。
 23 復興の  「遅々と」は多くの場合「進まない」という語に係るので、「進まぬ」ではなく「進みぬ」なのは、何となく違和感がありますね。遅いけれども着実に進んでいる、という意味なのでしょうか。
 27 炉を塞ぐ  動詞が多い句が必ずしも悪い訳ではありませんが、中七が倒置法的な叙述になっていることも相俟って、この句の場合は少しごちゃごちゃしてしまっている。上五ですぱっと切るとか、読み易さ、メリハリの点でもう少し推敲の余地がありそうな気のする句です。
 32 癇癪を  癇癪を起こす方は愉しいかも知れませんが、起こされる方はなかなかしんどいですよね…。
 33 風船を  多分に私の好みの問題もありますが、句の内容的に、より軽妙な語り口の方が合うと思います。「風船を追ふや献血求められ」としたいところです。
 34 足跡の  さてこれは、何の足跡でしょうか。花壇の世話をしていた人のものとも読めるし、季語の喚起する連想から、花壇に遊びに来ていた鳥のものと読めなくもない。どことなく、心に残るような句です。
 36 ふわふわの  腐葉土から出てくるとは、蕗の薹を育て、栽培している様子でしょうか。句の響きもやわらかく、書き手の視線のやさしさも感じる。春らしい心持ちの句です。
 37 2Bの  シャープペンシルの芯だと思いますが、おそらく固い芯から柔らかい2Bへ入れ替えたのでしょう。ささやかな、非常にパーソナルな春の感じ方ですね。
 42 マスクして  花粉症か春の風邪か、マスクをずーっと付け続けないといけないのもしんどいものです。この句からも、「仕事行きたくない感」がじわじわ伝わってきますね。個人的には、「見たる」と能動的に言うよりも、「見ゆる」と受動的に言った方が、より無気力な感じがして良いのではないかとも感じました。
 46 山笑ふ  何とも健康的で美味しそう。
 50 春暁の  語順や言い回し次第でもっと印象鮮明な句になりそうな気もしますが、原句のままだと散文的でメリハリのない印象です。
 52 馬刀掘るや  中七下五、詠みぶりが少し坦々とし過ぎているように感じます。「またも外れの穴であり」ぐらいの方が意図がはっきりするのではないでしょうか(あまりはっきりさせ過ぎても面白くない場合もありますが)。
 54 明け方の  飼い犬でしょうか、野良犬でしょうか。明け方に道で急に出くわすと驚きますね。ただ、彼岸前であることにどれぐらい季語としての効果があるかと言うとよく分かりません。
 55 花冷や  蕎麦稲荷とは初めて聞きましたが、いなり寿司のすし飯の代わりに蕎麦が入っているようなものなのですね。ただ、一句としては、季語の効き方が曖昧というか、この季語ではあまり美味しそうに感じないというか…。もっと明るい季語の方が良かったのではないでしょうか。

 


来月の投句は、4月15日までに、3句お送り下さい・・・・・・投句はこちら

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