ハルヤスミ句会 第百六十二回

2014年4月

《 句会報 》

01 手をつなぐ指に苦味や蕗の薹    益太郎

02 貝寄風や髪梳る人魚ゐて      一斗(タ)

03 朝からの課外授業や巣箱掛     山渓(奥・ぐ・鋼)

04 初もろこ琵琶湖の香り地酒呑む   のりひろ

05 清明やラジオの目盛りジャズ拾ひ  忠義(時・愛・波)

06 しやぼん玉嬰児元気に乳を吸ふ   時人

07 はうたうのなかなか冷めずさくら時 てふこ(忠)

08 春暁の匂天神社(においのてんじんやしろ)かな 波子

09 すかんぽを噛むや幼き友の顔    愛(奥・山)

10 生ぬるき甘茶に濡れる小仏像    遊介(順・波・春)

11 待たされて待たされて乗る花見舟  つよし(案・奥・遊・山・ぐ・春)

12 そこにもう私はゐない花筵     佳子(て・益)

13 花冷の刃をかまぼこの離れずよ   春休(愛・タ・佳・波)

14 風吹くや阿修羅めきたる花の雨   タロー

15 前線に追ひつ追われつ花の国    一斗

16 石鹸玉呼気を吹込み弱音吐く    時人(愛・益)

17 さえずりに歩調合わせしハイキング ひろ子

18 春惜しむ傘の雫を振り落とし    ぐり(案・一・春)

19 龍天や不義理伝へずそのまんま   忠義(波)

20 立ち漕ぎの速き自転車さくら冷え  波子(海)

21 ちよとなおす額の傾き花曇     タロー

22 花見舟橋を潜れば天守見え     山渓(荒・タ・て)

23 ヴェランダは完全に外春の夜    順一(ぐ・佳)

24 風光る役目を終えしランドセル   益太郎(荒・佳)

25 聞こえ來る豆腐ラッパや花の下   タロー

26 この街は何もないよと散るさくら  てふこ(遊・海・鋼)

27 心元なげに飛んで来春の蠅     遊介

28 けふ街の賑はいゐるは花見人    つよし

29 黒ぐろと桜の下に蝌蚪の群れ    愛

30 それぞれに街の景色やシャボン玉  時人(山)

31 白馬駈くスーホの国へ野遊に    一斗

32 若返り細胞なくし散る桜      益太郎

33 花祭ポップコーンのこぼれたる   海音(一・遊・忠・山・佳)

34 春宵の円卓囲みみな他人      てふこ(順)

35 気の抜けたサイレン鳴るや蜃気楼  遊介(案・春)

36 亀鳴くにまだ治らずよものもらひ  ぐり

37 まつ白な雲の下なる花御堂     海音(タ)

38 銭亀や盥の中で散歩して      のりひろ(奥)

39 昼の湯は老人ばかり花の雨     海音(忠・山)

40 期する日の五日は遅れ燕くる    つよし

41 目借時とほくチエンソ−の音したる 波子(案・奥・忠・海)

42 看板に元祖の文字や初燕      山渓(荒・一・時・愛・忠・順・て)

43 春帽子どこで落としたかは知れず  春休(一・鋼)

44 石段のすき間すき間に春の草    ひろ子(荒・案・時・遊・ぐ)

45 春の宵防音は窓だけの犬      順一

46 しやぼん玉たつぷり膝を濡らしけり 春休(時・佳・鋼)

47 収穫の目こぼしならん春の畑    案山子

48 昨日の喪服干しけり風光る     愛(遊・春)

49 春塵のガード下なり「愛死天流」  佳子(益・ぐ)

50 あきつしま大和亀鳴くうたの國   案山子(荒)

51 雨上がり橋の欄干蝸牛       のりひろ

52 春驟雨くたりと寝心地良きソファー ぐり(愛)

53 のどけくて三人待ちの床屋かな   忠義

54 吾子の歯の乳首に触れし柿若葉   ひろ子(一・時・タ・順・益・波)

55 ガリバーになりて喰はばや春の山  案山子(海・て・益・鋼)

56 飛花落花ブルーシートの山と谷   佳子(順・て)

57 芝桜行きだけリフトに乗って居る  順一(海

 




【 荒岩のりひろ 選(荒) 】
○22 花見舟橋を潜れば天守見え
○24 風光る役目を終えしランドセル
○42 看板に元祖の文字や初燕
○44 石段のすき間すき間に春の草
○50 あきつしま大和亀鳴くうたの國
で宜しくお願い致します。
理由は今回、お休みさせていただきます。誠に申し訳ありません。

【 石黒案山子 選(案) 】
○11 待たされて待たされて乗る花見舟
○18 春惜しむ傘の雫を振り落とし
○35 気の抜けたサイレン鳴るや蜃気楼
○41 目借時とほくチェンソーの音したる
○44 石段のすき間すき間に春の草

【 一斗 選(一) 】
○18 春惜しむ傘の雫を振り落とし    
○33 花祭ポップコーンのこぼれたる   
○42 看板に元祖の文字や初燕      
○43 春帽子どこで落としたかは知れず  
○54 吾子の歯の乳首に触れし柿若葉   

【 遠藤ちこ 選(ち) 】
(今回はお休みです。)

【 中村時人 選(時) 】
○05 清明やラジオの目盛ジャズ拾ひ
○42 看板に元祖の文字や初燕
○44 石段のすき間すき間に春の草
○46 しやぼん玉たつぷり膝を濡らしけり
○54 吾子歯の乳首に触れし柿若葉
 他に気になった句は
 02 貝寄風や髪梳る人魚ゐて
 03 朝からの課外授業や巣箱掛
 09 すかんぽを噛むや幼き友の顔
 18 春惜しむ傘の雫を振り落し
 24 風光る役目を終えしランドセル

【 土曜第九 選(第) 】
(今回はお休みです。)

【 奥寺ひろ子 選(奥) 】
○03 朝からの  生徒も小鳥も心待ちにしている行事ではないでしょうか。
○09 すかんぽを  一緒に遊んだ幼き日の郷愁
○11 待たされて  きっと待たされたことも忘れるぐらい花見はすばらしかったのでは。
○38 銭亀や  盥の中で散歩、亀らしいですね。
○41 目借時  春の明るい音ですね。

【 滝ノ川愛 選(愛) 】
○05 清明やラジオの目盛りジャズ拾ひ
○13 花冷の刃をかまぼこの離れずよ
○16 石鹸玉呼気を吹込み弱音吐く
○42 看板に元祖の文字や初燕
○52 春驟雨くたりと寝心地良きソファー

【 土田ひなこ 選(土) 】
(今月お休みです。)

【 小林タロー 選(タ) 】
○02 貝寄風や  イメージ過ぎますが、夢見る青春俳句としていただく。
○13 花冷の刃  かまぼこのぬらり引っ付く感じが花冷で一層鮮やかに。
○22 花見舟  野崎詣りではなくてお濠めぐり、長閑な城下町が風情です。
○37 まつ白な  春光を浴びた甘茶仏も気持ちよさげです。
○54 吾子の歯の  柿若葉が季語としてどうかな、とも、柿若葉が乳首に触れているようだ、ともとれると思いましたが--- 柿若葉を上五にしてはいかが?

【 森田遊介 選(遊) 】
○11 待たされて  リフレインによって逸る心が判ります。花見の舟上で花見酒を一献頂く情景まで想像してしまうほどこのリフレインの印象が強烈です。
○26 この街は  散る桜があたかもそう言っているかのようです。日本中が待ちに待つ桜の開花なのに、桜は全くつれない花なのかも知れません。パッと散る潔い花、実はつれない薄情な花ではと思わせる一句です。
○33 花祭  ポップコーンメーカーからぷつぷつポップする情景と子供等が浮足立つ花祭との情景が重なり合います。
○44 石段の  どんな狭い場所でも土けがあれば春の草はヒュッと芽を出してきます。初々しい生命力溢れる情景です。
○48 昨日の  「風光る」によって妙にさっぱりした情景を想像します。どんな事があったのでしょうか?想像を掻き立てる一句です。

【 小早川忠義 選(忠) 】
○07 はうたうの  時を惜しむ気持ちと早く食べたいと思う気持ちの二律背反。
○33 花祭  花御堂は相変わらずの人出。ポップコーンもこぼれるほどの。
○39 昼の湯は  ばかり、と愚痴めいていながらもしっかりとリラックスされている。
○41 目借時  物騒さが遠くにあれば対岸の火事。
○42 看板に  その看板の隅っこは塗装が剥げているところまで見えてきそう。
 09 すかんぽを  ノスタルジーは春の野草には即いている危険性が。
 17 さえずりに  「合はせて」なら取れた。寝たきりにでもなってしまったのだろうか。
 24 風光る  上五が中七に繋がってしまう。
 55 ガリバーに  「食ひたし」では良くなかったか。

【 石川順一 選(順) 】
○10 生ぬるき  季語は「甘茶」。「生ぬるき」は重要なポイントでしょう。余分な説明とは思えず具体的に的確にその時の状況の記憶を言い当てた「生ぬるき」。句がヴィヴィッドに。
○34 春宵の  季語は「春宵」。円卓とはアーサー王伝説みたいだ。しかしここでは「みな他人」と言いきって居る。季語の本意(春宵一刻値千金など)を踏まえた上での、ありきたりでは無い断定で句が生きた。
○42 看板に  季語は「初燕」。「元祖の文字」とは力強い。初燕の輪郭が明確になった。
○54 吾子の歯の  季語は「柿若葉」。新鮮なネタを美味く句にした。「吾子の歯」が美味く季語と連動した。
○56 飛花落花  季語は「飛花落花」。桜吹雪が舞う。ブルーシートには凸凹が。詩情を感じたのでしょう。句にした。
 他に
 03 朝からの課外授業や巣箱掛   季語は「巣箱」
 12 そこにもう私はゐない花筵   季語は「花筵」
 18 春惜しむ傘の雫を振り落とし  季語は「春惜しむ」
 24 風光る役目を終えしランドセル 季語は「風光る」
 27 心元なげに飛んで来春の蠅   季語は「春の蠅」
 48 昨日の喪服干しけり風光る   季語は「風光る」
などの句にも着目しました。

【 涼野海音 選(海) 】
○55 ガリバーに  ガリバーになって「春の山を喰いたい」という半ば強引な願望ですが、面白い発想だと思いました。
○57 芝桜  「行きだけ」はリフト、帰りは徒歩で下山ということでしょう。芝桜が作者を励ましているようですね。
○41 目借時  「目借時」の眠さの中にチェンソーの音がひびいた、その感じが「とほく」という仮名書きに出ています。
○26 この街は  「〜と」の叙法を巧みに用いた句。桜と人間が会話しているかのような。
○20 立ち漕ぎの  自転車の速さが「さくら冷え」を加速させたようにも詠める、爽快な句。

【 松本てふこ 選(て) 】
○12 そこにもう  現実の花見の場面ではなく、遠い未来の話のような、でもひどく現実味を帯びた景色。桜の妖しい咲きぶりが作者の意識を混濁させているのかもしれません。
○22 花見舟  舟の動き、スピードや橋の下からまた光の中へ出た客のどよめき、そういったものがぱっと思い浮かびました。桜の頃にしては少し暑いくらいの晴天のイメージです。
○42 看板に  古さと新しさの交錯、という構図、看板に書いてあるものを詠む、というパターンはかなりよくあると思うのですが、中七で切って下五で収めるなど基本をしっかり押さえて爽快感のある読後感にしあげており、手だれだなあと思います。
○55 ガリバーに  本家の『ガリバー旅行記』にそういう記述があったかは確認しそびれたのですが、春という季節が持つエネルギッシュさを明るくファンタジックに詠むふりをしながら口へんのついた「喰う」を使ったりして一筋縄ではいかない世界を作っている印象を持ちました。
○56 飛花落花  ざっくり詠んだなあ、と思いました。花見は風流だなんだっていうけど所詮こんなものよ、という都会人のニヒリズムを感じます。
 惜しかった句
 13 花冷の  かたちも出来ていますし、日常の中に怖さがよぎるこういう景はいいなあとも思うのですが、いかんせん花冷と刃がつきすぎですねえ。

【 足立山渓 選(山) 】
○09 すかんぽを  学校帰りに「すかぽん」をかじった子供の頃が懐かしい。
○11 待たされて  「待たされてまたされて」の繰り返しが、長時間待たされ疲れた様子が上手に表現されている。
○30 それぞれに  しゃぼん玉に映る景色は当然それぞれ違う。よく観察されている。
○33 花祭  季語と「ポップコーンのこぼれ」実に上手い取り合わせ。   
○39 昼の湯は  いくら雨降りと言えども、昼間に風呂へ行くには老人。当たり前だが、若い人なら桜咲く頃の雨など関係ない・・・ 若人を羨望していることが読みとれる。

【 川崎益太郎 選(益) 】
○12 そこにもう  「千の風」っぽいのがやや気になるが、いろんな場面が想像できる句。
○16 石鹸玉  呼気で生まれる石鹸玉。変な呼気を入れられて困っている石鹸玉。面白い発想。
○49 春塵の  愛死天流=あいしてる。ヤンキー用語らしいが、春塵・ガード下と取りあわされて、若者の鬱積した気持ちが読める、斬新な句。
○54 吾子の  乳首に触れる吾子の歯。草田男の句を連想。
○55 ガリバーに  春の山を愛でるだけでなく喰いたいという発想に感心。

【 草野ぐり 選(ぐ) 】
○03 朝からの  こんな授業のある学校はいいですね!巣箱は手づくりなのかな。
○11 待たされて  観光名所でしょうか。待ちくたびれてやっと乗れた舟からの桜はきっと豪勢なのでしょう。ちょっと疲れ感が句ににじんでいる所もいい。
○23 ヴェランダは  この言い切りに思わずとってしまいました。ベランダは完全に外か、、。部屋の一部のと思っていたのでそう思うとふとヴェランダに出た春の夜の気分が変わります。
○44 石段の  具体的ではなく春の草と大雑把にくくった所に春のぽわんとした感じがよくでている。
○49 春塵の  ちょっと薄暗いガード下に地元のヤンキーがスプレーで殴り書いている当て字が妙に意味深に思えるのは春塵の季語のせいか。

【 水口佳子 選(佳) 】
○13 花冷の  かまぼこは薄く切ると刃にくっついてしまう。その薄く切ったかまぼこが、花びらを連想させ、それがまた未練のように刃を離れずにいる。〈花冷〉の季語がよく効いている。 
○23 ヴェランダは  言われてみれば確かに、と頷ける。ヴェランダが内か外か、そこのところを考えてみたこともなかった。暖かな部屋の中から、まだ少し肌寒い〈春の夜〉のヴェランダに出てみたときの実感であろう。 〈完全に〉という言い方が面白い。 
○24 風光る  小学校を卒業した子のランドセルが少しくたびれて、でも安堵したように置かれている。子供の成長へのやさしいまなざしが〈風光る〉で感じられる。 
○33 花祭  〈花祭〉と〈ポップコーン〉との意外な出会いが面白い。そういう屋台があったりするのかもしれないが。花御堂に飾られたとりどりの花、ポップコーンがこぼれて地面に広がった様子とが句に光を与えている。 
○46 しやぼん玉  しゃぼん玉を詠むときには、それが飛んでいくさま、壊れるさまを読むことが多いが、濡れた膝に視点を向けたところに感心。あまりうまく飛ばなかったのか、何度も膝の上に着地したしゃぼん玉が(あるいは、膨らまないまま)徐々に濡らしていったのだろう。簡単そうで結構コツがいるものだから・・・
 ほかに好きな句
 18 春惜しむ  フレーズ部分、確かに春を惜しむ感じ。「惜春や」がいいか迷うところ。
 34 春宵の  〈みな他人〉と突き放した言い方が効果的。
 39 昼の湯は  今日は雨も降っているし少し冷えるからお湯にでも入って温まろうか・・・というのですね。スーパー銭湯は結構楽しいらしい。

【 喜多波子 選(波) 】
○05 清明やラジオの目盛りジャズ拾ひ
○10 生ぬるき甘茶に濡れる小仏像 
○13 花冷の刃をかまぼこの離れずよ
○19 龍天や不義理伝へずそのまんま
○54 吾子の歯の乳首に触れし柿若葉

【 鋼つよし 選(鋼) 】
○03 朝からの  朝からはつらつした感じが描かれている。
○26 この街は  桜のつぶやきと見るのもよいと思う。
○43 春帽子  春らしさが出ている。
○46 しやぼん玉  視点のひねりがよいと思う。
○55 ガリバーに  ユニークでのどかな気分も出ている。

【 小川春休 選(春) 】
○10 生ぬるき  この甘茶も、淹れたときには熱かったのでしょう。それをある程度冷まして、仏様に掛けるようにしてある。その甘茶に残る生ぬるさや小仏像の質感などが、皮膚感覚として、実感的に感じられる。
○11 待たされて  リフレインという技法は、五七五で伝えられる単純な意味の量は減る訳ですが、その代わりに句にリズムが生まれ、気分も伝える効果がある。この句も、内容は何でもないようですが、花見舟への期待感がしっかりと伝わってくるのは、リフレインの効果でしょう。こういう目を持って身の回りのものを見られれば、様々なところに句が潜んでいそうですね。
○18 春惜しむ  振り落とした雫もまた春の雨。春を惜しみながらも、時の流れを止めることは出来ず、季節は初夏へと向かっている。そういう、後ろ向きな心情と、それを振り切る心情、という両面性を感じた句です。
○35 気の抜けた  ぼーっと気の抜けたサイレンの響く、日常の中でもゆるみ切ったような情景に立ちのぼる蜃気楼。日常から地続きの、水木しげる的な異界の存在を感じさせます。
○48 昨日の  「昨日の喪服」とはなかなかに密度の濃い表現。この表現から、たっぷりとした時間の流れを孕んだ奥行きが見えてくる。そして感傷を抑えて「風光る」という季語に託したところなど、とても好感を覚えます。
 01 手をつなぐ  手をつないだときに、どうしてその指が苦いことが分かったのか、気になります。手をつないだ相手に自分の指をペロッと舐められて、「あなたの指、苦いですね」と言われたらぎょっとしそうです…。
 03 朝からの  おのおの自作の巣箱でしょうか。何とも明るく、楽しそうな句。
 05 清明や  今時目盛りのラジオというのも懐かしく、「ジャズ拾ひ」という下五の表現も味がある。しかし、「清明」という季語が合っているかというと、少し疑問。
 06 しやぼん玉  しゃぼん玉を飛ばしているのはこの赤子の兄か姉でしょうか。授乳は室内でしているのでしょうが、外からの明るい日差しが存分に入って、明るい室内に母子の姿が浮かんできます。
 07 はうたうの  甲州辺りの景でしょうか。あつあつのほうとうは、夜桜見物などには持ってこいですが、下五の「さくら時」は少々漠然としているように感じます。もっと具体的な季語の方が印象鮮明な句になるのではないかと思います。
 14 風吹くや  阿修羅めく、という表現が印象的ですが、そこがちょっと分かりにくい。阿修羅そのものが、激しい戦闘神でもありながら、興福寺阿修羅像のような憂いを秘めた青年のイメージもあるせいでしょうか。修羅場めく、というのであればもう少し単純に、分かりやすくはなりますが、その辺は作者の判断でしょうね。
 15 前線に  分かるような分からないような句です。桜前線が追いかけてくるのは分かりますが、桜前線を追いかけるとはどういうことでしょう。桜前線の前後を行ったり来たり旅をしていたのでしょうか。
 16 石鹸玉  心の中に閉じ込めていた弱音が、しゃぼん玉に呼気を吹き込んだはずみで、ついこぼれてしまったのでしょうか。なかなか実感のある句。
 19 龍天や  「龍天に登る」を略して「龍天に」とは言いますが、「龍天や」というのはちょっと無理があるのではないかと思います。「や」でなく「に」であれば、採ろうか採るまいか悩む句でした。
 23 ヴェランダは  花か春の月か、眺めに惹かれてベランダに出てみる。「完全に外」という感慨は、窓ガラス一枚隔てた外気の思わぬ冷たさから出たのでしょうか。なかなか面白い句です。
 26 この街は  個人的には、桜が咲いて散る景色だけでも十分という気がしますが、「この街は何もないよ」というのは、気負わない謙遜の言葉なのでしょう。
 29 黒ぐろと  季重ねではありますが、必然性があるので問題ないでしょう。桜の華やかさと黒々とした蝌蚪の群れとの対比が生々しく感じられる句です。
 33 花祭  ものにピントが絞られている句ではありますが、例えば「ポップコーンをこぼしつつ」とでもすれば、店で買ったポップコーンを持ち歩いている姿も見えてくる。
 36 亀鳴くに  意味がつながらないという訳ではないですが、上五・中七・下五のつながりに微妙な屈折があり、そこにちょっと面白みのある句です。亀のまぶたとものもらいに腫れたまぶたとが重なる。
 38 銭亀や  盥の中を歩き回っている様子を「散歩」と表現するのはあまり正確でないように思います。
 41 目借時  実感として気分のよく分かる句なのですが、それだけにリズムが良くないのがもったいない(字余りの句にも、字余りでしか出せない味わいのある句もありますが、この句はそうではないと思います)。中七下五を「チエンソーの音とほくより」とでもすれば五七五にきちっと収まります。
 42 看板に  かっちりと無駄なく出来ていて気分の良い句です。
 44 石段の  出句したことがあるかは忘れましたが、ほぼ同じような句を私も詠んだ覚えがあります。ということは、あまり独自性のある描写ではなさそうですね…。
 47 収穫の  よく収穫されずに放置されている畑を目にするのですが、せっかく出来た作物、この句ぐらいの気概を持って収穫してほしいですね。
 51 雨上がり  雨上がりの欄干にかたつむりが出てきました、という散文そのままの句になっています。
 52 春驟雨  中七の字余り、あまり効果的とは思えませんでした。
 53 のどけくて  いかにものどかなのですが、季語自体が一句の答えになってしまっている感があるようにも感じます。
 54 吾子の歯の  中七の「触れし」という収め方がベストなのか少し気になるところですが、柿若葉のつやつやした感じと、生え始めたばかりの歯とは、なかなか良い取り合わせと思いました。
 55 ガリバーに  夏目漱石の〈菫ほどな小さき人に生まれたし〉とは逆の、大仰な空想の楽しい句です(あれ、でもガリバーって本来普通の人間サイズで、小人の国に行ったから巨人に見えただけじゃなかったっけ、という話は置いといて)。「春の山」という大きな季語が生きています。
 56 飛花落花  風も強く、ブルーシートの下は平坦な地面ではないのかもしれません。なかなかに野趣溢れる句。

 


来月の投句は、5月15日までに、3句お送り下さい・・・・・・投句はこちら

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