【 石黒案山子 選(案) 】
◎50 傘干せばかすかにありし秋の風
〇03
八月や自愛されよとだけ文に
〇09 百姓は馬鹿でもできぬ冷し酒
〇25 本性を晒して夏のスキー場
〇38
白木槿妻はどこまで行ったやら
【 一斗 選(一) 】
○05 おたがひの体調訊ぬ夏帽子
○12
学童の白きソックス原爆忌
○21 秋草を握りて小さき嘘を聞く
○45 蜩や稜線青く暮れ残り
○51
菊枕いつしか止みし朝の雨
【 中村時人 選(時) 】
○05 おたがいの体調訊ぬ夏帽子
○12
学童の白きソックス原爆忌
○19 墓までの道にベンガラ送りまぜ
○26 久々の塩辛とんぼ前を飛ぶ
○34
触れ合ふてきゆつと鳴りたる初茄子
他に気になった句は
08 自転車の籠に西瓜をしばりけり
18
右うしろ脚浮かせをり茄子の馬(牛)
【 土曜第九 選(第) 】
○03
八月や自愛されよとだけ文に メールが主役の時代。短文でも肉筆の手紙には自分を気にかけてくれているんだとの確かな愛情を感じます。
○18
右うしろ脚浮かせをり茄子の馬 子供が作ったんでしょうか。不恰好ながらも存在感が伝わってきます。
○21
秋草を握りて小さき嘘を聞く 若いカップルで嘘をつくのは女性の方と想像しました。ドラマの一場面のようです。
○49
薄紙のまま花立てて墓洗ふ 先ずお墓をきれいにしてから花を生ける。祖先に対する敬虔な気持ちと誠実な人柄を感じます。
○51
菊枕いつしか止みし朝の雨 菊の香りの中、朝のまどろんだ、なんともまったりとした様子が伝わってきます。
【 奥寺ひろ子 選(奥) 】
○03
八月や自愛されよとだけ文に どうしようもない暑さなので、手紙文も短めに。
○20
ふるさとの懐に寝て盆の月 なつかしい光景、父と母を思いだします。
○23
八月の式典に行く靴に黴 時は過ぎ去っても忘れてはいけませんね。
○39
秋風のまはりで窓が開くなり 待っていました、先ず窓を開けたいですね。
○51
菊枕いつしか止みし朝の雨 菊枕をして寝てみたいですね。
【 滝ノ川愛 選(愛) 】
〇02 似てるらし声かけられるサングラス
〇13
向日葵やマクドナルドの袋飛び
〇21 秋草を握りて小さき嘘を聞く
〇47 込み合つて芯の明るき百日草
〇49
薄紙のまま花立てて墓洗ふ
【 小林タロー 選(タ) 】
○03
八月や自愛されよとだけ文に 八月や の大きな切れと、されよとの語り口が合って、俳句的緊迫感がでている。
○08
自転車の籠に西瓜をしばりけり 物と物関係がきちんと描かれていて、さりげない良い句だと思う。
〇49
薄紙のまま花立てて墓洗ふ 何はともあれ---。景が具体的でよい。
○50 傘干せばかすかにありし秋の風
○51
菊枕いつしか止みし朝の雨 いつしか が気になるが静かさの伝わる佳句 凡兆の 灰汁桶の〜 を思い出す。
【 森田遊介 選(遊) 】
○06
夏草や独り善がりの平和論 ひょろひょろと長く伸びる「夏草」季語からしてもかなりの独り善がりなのでしょう。8月15日には自分なりの平和論を言ってみたりもします。
○10
夏惜しむ力士の尻が一巡り 夏巡業最後の場所。大きなお尻が目の前を順繰りに回る。夏相撲を惜しむと同時にこの夏も惜しむ。擦り傷、絆創膏あるお尻にも風情を感じる夏惜しむです。
○20
ふるさとの懐に寝て盆の月 「ふるさとの懐」の表現が素晴らしいと思います。帰省してのんびりした様子が充分に読みとれます。そして静かな季語「盆の月」でさらに穏やかな景色が鮮明に見えました。
○28
食べるとも飲むともいえず氷水 真夏のかき氷は手早く食べないとこんな状況になってしまいます。作者の当惑気味の顔を思い浮かべました。
○35
年頃の姉の物腰宵まつり いつもは喧嘩相手の姉だけれど、宵まつりに出掛ける姉が妙に色っぽく見える。なんだか自分が取り残されたような気持ちになっていまう下の子の一句と読みました。
【 小早川忠義 選(忠) 】
○10
夏惜しむ力士の尻が一巡り 力士の体は裸でも裸に見えず鎧の様。
○18
右うしろ脚浮かせをり茄子の馬 手作り感が出ていて楽しい。
○23
八月の式典に行く靴に黴 普段はスーツを着ない者も神妙になる時。
○24
プール帽忘れた者は集められ 見学強要か。直射日光に熱くなっている坊ちゃん刈り。
○38
白木槿妻はどこまで行ったやら 白木槿のやさしく揺れている様が深刻でないことを表している。
○41
はたた神汝おそろしく吾たのし 「はたた神」が面白い。普通に雷といわなかったのが勝利。
01
大風に縁流れたる大花火 「流れたる」をもっといいことばにしたいという思いに駆られる。
02
似てるらし声かけられるサングラス 誰に似ているかということに焦点が当たれば。
06
夏草や独り善がりの平和論 中七と下五をどうにかして入れ替えたい。
07
冑脱ぐ蝉の誕生立ち会ひぬ 蝉の抜け殻に「冑」がピンと来ない。
08
自転車の籠に西瓜をしばりけり 中に切れを入れたら良かった。
11 鍵は今明け渡されて花火行く 何処の鍵だろう。
13
向日葵やマクドナルドの袋飛び 誰かが放り投げたように見える。
14
蜩を断ち切るやうに雨戸閉め 「こゑ」と入れないと物騒になってしまう。
33
サイレンの近づくなかれ熱帯夜 聞こえている中で寝付けないイライラ。採りたかった。
【 石川順一 選(順) 】
○03
八月や自愛されよとだけ文に 季語は「八月」。簡潔な文に震撼とする。自己の厳粛な気持ちが素直に句に。
○21
秋草を握りて小さき嘘を聞く 季語は「秋草」。「握りて」に万感の思いが感じられました。「小さき嘘」にはっとする。季語の「秋草」がむしろ主役になって居る。
○24
プール帽忘れた者は集められ 季語は「プール帽」。いかなるシチュエーションかははっきりとは分かりませんが、集められた者等の「プール帽」が句を活気付けて居る様に思われました。
○41
はたた神汝おそろしく吾たのし 季語は「はたた神」。何と言う比較対照でしょう。愉快な感じがしました。雷を雷神図見たいに対象化する。俵屋宗達の雷神風神図見たいでは無いですか。
○50
傘干せばかすかにありし秋の風 季語は「秋の風」。「〜せば」と言う迷信に捉われたかのような、因果律に捉われたかのような詠みぶりが却ってこの句では成功して居ます。自分の動作を起点として、何か自然現象が発生したと言う詠みぶり。句がつまらなくなる場合もありましょうが、この句では季語の「秋の風」が芸術品の様に屹立しました。自分の主観を活かし切った句と言えましょう。
他に取れませんでしたが注目した句に
08
自転車の籠に西瓜をしばりけり 季語は「西瓜」
14 蜩を断ち切るやうに雨戸閉め 季語は「蜩」
17
一雨のあとはすなはち夜の秋 季語は「夜の秋」
28 食べるとも飲むともいえず氷水 季語は「氷水」
34
触れ合ふてきゆつと鳴りたる初茄子 季語は「初茄子」
39
秋風のまはりで窓が開くなり 季語は「秋風」
が、ありました。
【 涼野海音 選(海) 】
○18
右うしろ脚浮かせをり茄子の馬 細かく描写したところがこの句の手柄といえましょう。
○21
秋草を握りて小さき嘘を聞く 誰の嘘を聞いているのか、具体的に想像できたら・・・。私は子どもの嘘のような印象を受けましたが。
○38
白木槿妻はどこまで行ったやら 口語がうまく生かされていますね。
○39
秋風のまはりで窓が開くなり 「秋風のまはり」とまで言ったところ、と「なり」という断定に効果あり。
○47
込み合つて芯の明るき百日草 「込み合つて」という一歩踏み込んだ措辞に共感しました。
【 松本てふこ 選(て) 】
(今回はお休みです。)
【 川崎益太郎 選(益) 】
○01
大風に縁流れたる大花火 縁流れたる、が面白い。真ん中が流れたら事故になる。
○07
冑脱ぐ蝉の誕生立ち会ひぬ 立ち合ひぬ、が厳粛で神秘的な景を引き立てている。
○12
学童の白きソックス原爆忌 学童の白きソックス、はいつも見る景だが、原爆忌と取り合せられると、がぜん輝きを増してくる。
○21
秋草を握りて小さき嘘を聞く 嘘の内容は言ってないが、秋風が効いて、官能的な景が見える。
○30
窓越しのかなかなしぐれ少女A 窓越しと少女Aの取り合わせで、詩的で神秘的な句になった。
【 草野ぐり 選(ぐ) 】
○10
夏惜しむ力士の尻が一巡り 夏巡業か、力士は一年中裸だけれど土俵を一巡りしている力士のお尻を見てしみじみと夏を惜しんでしるのがいい。
○13
向日葵やマクドナルドの袋飛び 向日葵の黄とマックの袋の赤がこれでもかと暑かったこの夏をあらわしているかのよう。
○18
右うしろ脚浮かせをり茄子の馬 上七中五のリズムが不安定に立っている茄子の馬の様子を想いおこさせる。
○34
触れ合うてきゅつと鳴りたる初茄子 瑞々しい茄子を洗っているのだろう。確かにきゅっと鳴るのだ。美味しそうだ。
○49
薄紙のまま花立てて墓洗ふ さり気ないが写生が効いている。何か静かな気持ちにさせられる。
【 水口佳子 選(佳) 】
○03
八月や自愛されよとだけ文に 〈自愛されよ〉に相手の対する思いがすべて詰まっている。単に〈ご自愛を〉でなく〈されよ〉と書かれているところが温かい。〈八月〉は原爆や戦争やさまざまなことが思い出される月でもあり、命というものをあらためて考える月でもある。
○12
学童の白きソックス原爆忌 整然と並んだ平和学習の学童の姿を想像する。〈白きソックス〉にはイマドキの子供たちの恵まれた環境といったものが反映されているようにも。その一方で原爆に遭った子供たちへと思いは移る。平和学習というのも考えてみればちょっと違和感のある名称だ。
○18
右うしろ脚浮かせをり茄子の馬 4本脚がちょどいい具合に地に着くように作るのは案外難しい。この茄子の馬に乗って帰ってくる魂は、少しやんちゃな魂なのかもしれない。ありがちな景をうまく切り取った手柄。
○27
長老の挨拶長き本祭 長い割には何を話しているのかわからなかったね、というのが常。長老なので途中で止めるわけにもいかない。その辺がおかしい。村のお祭の感じ。
○51
菊枕いつしか止みし朝の雨 〈朝の雨〉が〈菊枕〉の香りを引き立てる。ちょっとだけこの世以外のことが頭を過ったかもしれない。
ほかに好きな句
08
自転車の 西瓜丸ごと買ったのですね。西瓜を食べるときの賑わいも想像できます。
29
狛犬の 阿吽に触れる・・・いろいろと深読みできそう。
43
つゆけしや 休んでいるときの噴水のさびしさに視点を当てたのがいいと思います。
46
エンジン 〈耳を占む〉に胸中の寂寞とした感じが出ていると思います。
【 喜多波子 選(波) 】
○03 八月や自愛されよとだけ文に
○12
学童の白きソックス原爆忌
○30 窓越しのかなかなしぐれ少女A
○40 融雪の井戸掘る音の残暑かな
○51
菊枕いつしか止みし朝の雨
【 鋼つよし 選(鋼) 】
○06
夏草や独り善がりの平和論 八月は議論さかんなれど見極めが肝要。
○14
蜩を断ち切るやうに雨戸閉め 断ち切るがうまく言えている。
○22
船虫の人生逃げてばかりかな 人生と大きく出たのがよいのか苦笑する。
○47
込み合つて芯の明るき百日草 花壇に込み合い咲く花をうまく表現されたのでは。
○50
傘干せばかすかにありし秋の風 この時節秋の気配を感じますが、かさを干すもよいのでは。
【 小川春休 選(春) 】
○10
夏惜しむ力士の尻が一巡り 土俵をずらりと力士が回っていく景でしょうか。「夏惜しむ」という季語との取合せはなかなか独特のものがありますが、不思議と納得させられるところのある句です。
○16
遠雷や雲の向かふの薄明 雷も夕立も、局地的に発生することがままあります。「雲の向かふの薄明」から、晴れていたり雲が厚かったりというまばらな空模様が見えてきます。
○21
秋草を握りて小さき嘘を聞く 「小さき嘘」がどのようなものか、読み手によって読みが分かれるところでしょうが、私はまだ幼い子の嘘(というより誇張のようなもの?)を、親が受け止めてあげている、そんな景と読みました。摘んだ秋草を握る手つきの優しさと、親の心情とがつながります。
○39
秋風のまはりで窓が開くなり 木々の間、家々の間を通り抜けて行く秋風。その秋風をどんな大きさ、どんな形のものと捉えているかがぼんやりと伝わる「まはり」という独特な表現。あえて窓を開ける人の姿を出さずに「開くなり」としたところも、風に感応して自然に窓が開いたようで、人が居るはずなのに人の存在感が感じられない、不思議な感覚の句となっています。
○51
菊枕いつしか止みし朝の雨 中七下五はよく分かる、というかどんな上五でもそれなりに一句を成立させてくれそうな、汎用性の高い描写です。一晩を経た菊枕の香りと朝の雨のもたらす湿度と、なかなか実感のある句です。
01
大風に縁流れたる大花火 景はよく分かりますし、ポイントも絞られている所など良いと思うのですが、「たる」という完了よりも、「縁の流るる」などとした方が今まさに流れている様子が見えてくると思います。
02
似てるらし声かけられるサングラス サングラスを掛けると他人に似てしまった、という理屈の句になってしまっています。
03
八月や自愛されよとだけ文に この文をやり取りする二人の関係性を想像すると、短い言葉だけでお互いを気遣う心の伝わる、長い付き合いの二人なのでしょう。
06
夏草や独り善がりの平和論 この上五には、芭蕉の「兵(つはもの)どもが夢のあと」が下敷きにされているのでしょうね。
08
自転車の籠に西瓜をしばりけり 自転車の籠に西瓜を縛ること自体はそれほど珍しくないような気がします。もう一歩踏み込んで、句の核となるようなディテールが欲しいところです。
09
百姓は馬鹿でもできぬ冷し酒 中七の「ぬ」、打消しの助動詞とも完了の助動詞とも取れます。どちらを意図されたのかよく分からず、どう読んで良いのかはっきりしません。
11
鍵は今明け渡されて花火行く いろいろと言葉が詰め込まれて意味も不明瞭な句になっています。何の鍵が明け渡されたのかも判然としませんし、「花火行く」も、花火を見に行ったとも、花火が行く(飛んで行く)とも読め、曖昧な表現となってしまっています。
12
学童の白きソックス原爆忌 句としては素朴な仕上がりの句ですが、小学生たちにも原爆のことや戦争のことを知っておいてほしい、という作者の願いが感じられる句です。
14
蜩を断ち切るやうに雨戸閉め 「やうに」とか「ごとく」を用いた句は、その比喩に独自性がないとなかなか面白い句にならない、使う場合には特に注意したい用語です。この句の場合、「断ち切る」という表現の力強さが、「やうに」の弱さ・柔和さによってその力を削がれているようです。例えば「やうに」を使わずに〈雨戸閉め蜩のこゑ断ち切りぬ〉と言い切った方が、歯切れの良い句になるのではないかと思います。
17
一雨のあとはすなはち夜の秋 気分としては非常によく分かるのですが、「夜の秋」とはそもそもそういうものであり、季語の本意をなぞっている句なのではないかという印象も受けます。
24
プール帽忘れた者は集められ 語順・言い回しがほぼ散文そのままで、説明的な句になっています。例えば倒置法を使って〈集められプール帽忘れた者ら〉とするとか、よりよく見えるような工夫が欲しいところです。
27
長老の挨拶長き本祭 この上五中七に対して「本祭」という季語では、いかにもありそうな景を詠んだ句という域を出ないと思います。下五はもっと視点を変えて別の季語にした方が良いのではないかと思います。
29
狛犬の阿吽に触れる日傘かな 日傘一つを通すぐらいの幅の狭い、狛犬の間。このこぢんまりとした景はなかなか味がありますが、「阿吽に触れる」というと両方同時に日傘が触れたということでしょうか。両方はちょっと無理があるような気がします。
33
サイレンの近づくなかれ熱帯夜 ただでさえ寝苦しい夜に、けたたましいサイレンに近くを通られると辛いですね。折しもちょうど広島の土砂災害がこのような感じでした(サイレンよりもヘリがうるさかった…)。
37
蜩やゴジラ火を吹き仁王立 蜩という季語から、どこか哀愁のあるゴジラの姿が見えてきます。今年公開された新作のゴジラではなく、昭和のゴジラのポスターなどが目に浮かんできます。
38
白木槿妻はどこまで行ったやら 中七下五のフレーズはちょっとありがちな気もしますが、さっきまで妻がそこにいたという場所にすっくと高く咲く白木槿は、なかなか雰囲気があって良いですね。
41
はたた神汝おそろしく吾たのし このたびの豪雨・土砂災害のことを思えば、雷を楽しいと言っていられるのは、さらに言えば一人ではないということは、幸せなことなんですよね…。普段はなかなか気付きませんが…。
42
造園地猿の腰掛尻並べ この場合の尻とは何の尻でしょう。猿の腰掛の形を尻に見立てているのか、それとも誰かが座っているのか。
46
エンジン音過ぎ荻のこゑ耳を占む 意味や景はよく分かるのですが、言葉が多すぎて(特に下五)ごちゃごちゃしている印象です。〈エンジン音過ぎては荻のこゑばかり〉ぐらいで十分読み取れると思います。
47
込み合つて芯の明るき百日草 ぱっと思い出せないのですが、ほぼ同趣向の句を読んだことがある気がします。もしかするとその句は百日草ではなかったかも知れませんが…。
49
薄紙のまま花立てて墓洗ふ 墓を洗い終わってから花を立てる気がするのですが(洗うのに花が邪魔になる気が…)、一般的にはどうなんでしょうか…。その点はさておき、語順・言い回しの点からは、下五を上五に持ってきて〈墓洗ふ薄紙のまま花立てて〉とした方が景がよく見えると思います。
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