ハルヤスミ句会 第百六十八回

2014年10月

《 句会報 》

01 是好日四方に弾けるばつたかな    案山子

02 秋(蝉の正字) に重たき朝の来てをりぬ     佳子(案)

03 弦月や下手なピアノを聴いてをり   はな

04 名月や象にもあるか土踏まず     益太郎(一・愛・タ・遊・忠・ぐ・春)

05 鰯雲スカイツリーのその先に     遊介

06 田舎道秋蝶あまた舞おりぬ      つよし

07 食べ終へし顔つやつやと菊日和    春休(第・奥)

08 誰彼を引き止めたしや秋うらら    愛

09 月光に濡れてポストの艶かし     はな(案・奥・波)

10 台風来眼下原発あるのにも      つよし

11 蟷螂も何か用かと振り返る      案山子(は・時・奥・順)

12 シェーバーの充電ランプ台風圏    海音(一・波)

13 剥き出しの工場跡や秋茜       案山子(は・時・遊・佳)

14 運動会転び泣く子に貰ひ泣き     つよし

15 裏窓よりゑのころばかり見えてゐる  てふこ(海・ぐ・春)

16 通帳の止まぬプリント颱風来     タロー(て)

17 給料は歩合制です猫じゃらし     益太郎(て・鋼)

18 颱風来かくかく曲る一輪車      タロー(案・愛・益・佳)

19 秋鯖を毟ればややは口を開け     愛(は・時・忠・ぐ)

20 姉妹居て犬サフランの花盛り     波子

21 風に舞ふ蜻蛉は藁にキスをする    順一

22 青蜜柑買ふ早退の道すがら      ぐり(タ・遊・忠・海・波・春)

23 額広き物理学者や秋闌ける      波子(海)

24 天地のしづかなるとき木の実落つ   海音(は・第)

25 色草の風操れぬ風情かな       順一

26 大粒を小皿に分けぬ栗おこわ     遊介(一)

27 鯖雲や腹わためぐる内視鏡      愛(ぐ)

28 草の花どこでも本を開く子よ     海音(愛・タ・忠・順・ぐ・佳・鋼)

29 藍色の筑波を背負ふかかしかな    時人(は・第)

30 秋出水過ぎて地霊の話など      佳子(第・益)

31 朝支度終へて束の間愁思かな     第九

32 陶芸の里に向かへば捨案山子     時人(海)

33 蟷螂の外車の上に仁王立ち      ひろ子

34 萩の枝落ちた小花を掃き散らす    遊介(◎案)

35 ビデオ撮る人に手を振る運動会    ひろ子(愛)

36 まだ誰も起きぬ日曜蔓たぐり     ぐり

37 うそ寒や口笛にくち固くして     春休(案・奥・て・佳)

38 長袖にこする林檎のてかりかな    忠義(時・鋼)

39 新米におかず入らぬと言ひし母    ひろ子(順)

40 うそ寒や湿原の意の英単語      てふこ

41 跡継ぎはおらぬと案山子立ててをり  時人(順)

42 三郎と名付けし案山子捨てに行く   タロー(遊・て・波・鋼)

43 紅葉山まさかお前が噴火とは     益太郎

44 不揃いな馬鈴薯少し笑いけり     はな(益)

45 台風の夜の長々と手紙書く      てふこ(第・奥・春)

46 狐火や擦ると消えるフリクション   波子(益)

47 お会式や白蛇の皮はお守りに     ぐり

48 サルビアの道で別るる下校かな    第九(一・忠)

49 長袖の更の作業着暮の秋       忠義

50 新走り古き背広は肩張つて      春休(タ)

51 かな文字の余白秋蝶自在なる     佳子(一・波)

52 新米や笑つ食へと祖母がいふ     第九(順)

53 落花生割つては次の職探し      忠義(時・愛・タ・遊・海・て・益・佳・鋼・春)

54 おなもみの千切れば黄色を萎びさせ  順一

 




 木村はな 選(は) 】
○11 蟷螂も何か用かと振り返る
○13 剥き出しの工場跡や秋茜
○19 秋鯖を毟ればややは口を開け
○24 天地のしづかなるとき木の実落つ
○29 藍色の筑波を背負ふかかしかな
どの作品も情景がありありと浮かぶしっかりした句だと思いました。

【 荒岩のりひろ 選(の) 】
(今回はお休みです。)

【 石黒案山子 選(案) 】
◎34 萩の枝落ちた小花を掃き散らす
○02 秋蝉に重たき朝の来てをりぬ
〇09 月光に濡れてポストの艶かし
〇18 颱風来かくかく曲る一輪車
〇37 うそ寒や口笛にくち固くして

【 一斗 選(一) 】
今回は投句できませんでした。
選句だけでよいのかわかりませんが、選句しました。
○04 名月や象にもあるか土踏まず
○12 シェーバーの充電ランプ台風圏
○26 大粒を小皿に分けぬ栗おこわ 
○48 サルビアの道で別るる下校かな
○51 かな文字の余白秋蝶自在なる 

【 中村時人 選(時) 】
○11 蟷螂も何か用かと振り返る
○13 剥き出しの工場跡や秋茜
○19 秋鯖を毟ればややは口を開け
○38 長袖にこする林檎のてかりかな
○53 落花生割つて次の職探し
他に気になった句は
 01 是好日四方に弾けるばつたかな
 36 まだ誰も起きぬ日曜蔦たぐり
 39 新米におかずいらぬと言ひし母
 44 不揃いな馬鈴薯少し笑いけり

【 土曜第九 選(第) 】
○07 食べ終へし顔つやつやと菊日和  可愛らしいおばあちゃんをイメージしました。
○24 天地のしづかなるとき木の実落つ  静まり返った広大な大地を想像しました。
○29 藍色の筑波を背負ふかかしかな  秋深まった夕方の田園風景を想像しました。
○30 秋出水過ぎて地霊の話など  山村に残る自然崇拝に惹かれます。
○45 台風の夜の長々と手紙書く  台風の夜のとても素敵な過ごし方です。

【 奥寺ひろ子 選(奥) 】
○07 食べ終へし顔つやつやと菊日和  秋の日を浴びながらおいしい食事だったのですね。
○09 月光に濡れてポストの艶かし   月光にポストまで浮き彫りになり艶かしいとは。
○11 蟷螂も何か用かと振り返る    視点がおもしろいですね。
○37 うそ寒や口笛にくち固くして   体も顔も唇も縮こまりますね。
○45 台風の夜の長々と手紙を書く   心配で眠るわけにいかず手紙を書いて心を落ち着けているのでしょうか。

【 滝ノ川愛 選(愛) 】
〇04 名月や象にもあるか土踏まず  名月と象の土踏まずとの関係が良く分からないのですが、何となく納得させられました。象の足の裏を遠くから(勿論)見たことがあるのですが、土踏まずはなかったように思います。でも野生の象は一日に何キロも移動するそうですので、もしかするとあるかも知れません。
〇18 颱風来かくかく曲がる一輪車  今年の台風は大型でかつゆっくりそして進路を殆ど変えませんでしたが、例年はそれこそ”かくかく”と曲がります。一輪車を”かくかく”と表現したところが面白いです。ちなみに一輪車は子供はすぐ乗れるが、大人はそうはゆかないそうです。
〇28 草の花どこでも本を開く子よ  うちの孫娘もいつでも本を持ち歩き、どこでも本を開いています。スマホではないのですね。草の花の季語がそのような子供にぴったりです。
〇35 ビデオ撮る人に手を振る運動会  良く見かける景ですが可愛いですね。子供さんは幼稚園か小学校の低学年でしょうか。ビデオを撮っているいる親御さん(多分)にしてみれば、そんな事をしていないで、しっかりやりなさいと気が気ではありません。
〇53 落花生割っては次の職探し  そうです、ダメなものはダメ。自分を雇おうとしない企業がダメなのですから、すっぱり諦めましょう。その心境に落花生を割るという動作を持ってきたところが手柄。次にきっと良い職が見つかりますよ。

【 小林タロー 選(タ) 】
○04 名月や象にもあるか土踏まず  着想が子供っぽいような気もしますが、面白くていただきました。
○22 青蜜柑買ふ早退の道すがら  何か満たされぬ緊張した気持ちが青蜜柑のきんきんぴかぴかとした感じで表現されている。
○28 草の花どこでも本を開く子よ  どこでもだから何の花でもいいのだ。草の名をだすより草の花があっています。
○50 新走り古き背広は肩張つて  新古の言葉遊びのように思えるが、そうではない。古い服はどこか体にも時代のも合わなくなっている。それが肩こりになって表れる。
○53 落花生割つては次の職探し  内定を10社以上も取る学生もいる昨今、職探しもお手軽。落花生を選びながら割りながらのお手軽さが良く出ている。

【 森田遊介 選(遊) 】
○04 名月や象にもあるか土踏まず  動物園で象の足跡を観たことがありましたが、土踏まずは有りません。「名月」と「象の足」の取り合わせが面白いと思いました。離れすぎもここまで離れると爽快です。シュウルな一句です。
○13 剥き出しの工場跡や秋茜  一読して即景が浮かびます。季語が強烈な茜色を発します。
○22 青蜜柑買ふ早退の道すがら  熱があるのでしょうか、早びけし蜜柑、それも青い蜜柑を買って帰る作者の気だるさが判ります。
○42 三郎と名付けし案山子捨てに行く  この案山子にはきっと作者の思い入れがあったのでしょう。お役目が終わった三郎さんを棄てるちょっと淋しい作者の気持ちを察します。
○53 落花生割つては次の職探し  次に割る落花生はきっと虫喰いでない綺麗なよい実がはいっているだろう。職探しと言う悲壮感の中にも期待感が感じられる一句です。

【 小早川忠義 選(忠) 】
○04 名月や象にもあるか土踏まず  象の足跡にも見えるクレーター。
○19 秋鯖を毟ればややは口を開け  同じ未来の糧でも美味しいものを。
○22 青蜜柑買ふ早退の道すがら  その蜜柑はまだ甘いか酸っぱいかわからない。
○28 草の花どこでも本を開く子よ  本に泥が付くことなど知る由もない。
○48 サルビアの道で別るる下校かな  明日も赤いサルビア。しばしのお別れ。

【 石川順一 選(順) 】
○11 蟷螂も何か用かと振り返る  季語は「蟷螂」。カマキリがまるで人間みたいで面白いと思いました。
○28 草の花どこでも本を開く子よ  季語は「草の花」。何とも勉強好きな子供ですね。感心しました。
○39 新米におかず入らぬと言ひし母  季語は「新米」。何とも剛毅なお母さんです。それだけ新米が美味かったのでしょう。
○41 跡継ぎはおらぬと案山子立ててをり  季語は「案山子」。何とも因果な物ですね。でも呑気そうに見えて、結構深刻そうなのが季語の「案山子」から伝わって来る様な感じでした。
○52 新米や笑つ食へと祖母がいふ  季語は「新米」。何とも愉快なお婆さんですね。新米がうまくなりそうです。
以上5句選でしたが他にも
05 鰯雲スカイツリーのその先に    季語は「鰯雲」
08 誰彼を引き止めたしや秋うらら   季語は「秋うらら」
17 給料は歩合制です猫じゃらし    季語は「猫じゃらし」
22 青蜜柑買ふ早退の道すがら     季語は「青蜜柑」
35 ビデオ撮る人に手を振る運動会   季語は「運動会」
48 サルビアの道で別るる下校かな   季語は「サルビア」
などの句にも着目しました。

【 涼野海音 選(海) 】
○15 裏窓よりゑのころばかり見えてゐる  「裏窓」と「ゑのころ」、一見なんでもないような句ですが、「ゑのころばかり」と限定しているところが心象的。
○22 青蜜柑買ふ早退の道すがら  「早退の道すがら」というところが、色々と想像できて面白い。
○23 額広き物理学者や秋闌ける  「額広き物理学者」というと一体誰と思わせるところが、この句の技なのでしょうねー。
○53 落花生割つては次の職探し  「割つては」と、動作の反復が巧みに詠まれています。
○32 陶芸の里に向かへば捨案山子  陶芸の里をもっと具体的に言うべきかという問題はありましょうが、「捨案山子」は面白いですね。

【 松本てふこ 選(て) 】
○16 通帳の止まぬプリント颱風来  何の脈絡もなく語られる、通帳記入と台風の接近。取り合わせの魔法を感じました。
○17 給料は歩合制です猫じゃらし  口語体の軽妙さと猫じゃらしとの取り合わせが愉快。へいへい頑張りますよ、とでも言いたげな調子ですね。
○37 うそ寒や口笛にくち固くして  繊細な寒さの描写。「口」「くち」と表記を別にしたところもテクニカル。
○42 三郎と名付けし案山子捨てに行く  41にも案山子の句があって迷ったんですが、41の方がよりありがちかな、という気がしてこちらに。何故三郎? という謎があって味があります。
○53 落花生割つては次の職探し  「割つては」という表現がややあざといように思いましたが、落花生の気軽で素朴な存在感が仕事探しという深刻さと隣り合わせな行為を和やかなものにしていることが伝わりました。

【 川崎益太郎 選(益) 】
〇18 颱風来かくかく曲る一輪車  颱風の来方と一輪車のカクカク感。比喩の上手さに感心。
〇30 秋出水過ぎて地霊の話など  地霊は確かにありそう。人はもっと謙虚になるべし。
〇44 不揃いな馬鈴薯少し笑いけり  馬鈴薯は不揃いが当たり前。少し笑うに俳味。
〇46 狐火や擦ると消えるフリクション  冬になると必ず出てくる季語。擦ると消えるが斬新。
〇53 落花生割つては次の職探し  落花生は、後を引く食べ物の代表。リクルートとの取り合せが上手い。

【 草野ぐり 選(ぐ) 】
○04 名月や象にもあるか土踏まず  名月を眺めつつ、象の土踏まずに思いを馳せている。不思議だけれどあの月光を浴びているとそんなことも考えてしまいそう。
○15 裏窓よりゑのころばかり見えてゐる  裏窓でゑのころ。淋しい風景にも思えるが、それだけではない柔らかなどこかほっとするような印象がある。
○19 秋鯖を毟ればややは口を開け  秋鯖は塩焼きだろうか。ややというからにはまだかなり幼い子だろうが秋鯖の美味しさを知ってるのだ。毟ればが渋い。食卓に想像が広がる。
○27 鯖雲や腹わためぐる内視鏡  しかもモニターで自分の腸の中を見ているのだろう。そこは密室だが外は鯖雲が広がる秋晴れ。離れ具合がいいです。
○28 草の花どこでも本を開く子よ  外で走り回るより本が好きな子。暇さえあれば本を開いている。きっとおとなしいけれど本の世界を縦横無尽に楽しんでいるのだろう。草の花の優しさがぴったり。

【 水口佳子 選(佳) 】
○13 剥き出しの工場跡や秋茜  〈剥き出し〉という言葉がなんだか痛々しい。廃業になった工場を追われるようにして出て行ったのか?その跡地に秋茜が自由に飛び回っている景が非情で寂しい。〈秋茜〉は個人的な好みとしては平仮名がいいような。
○18 颱風来かくかく曲る一輪車  「カ行」の響きをうまく使ってあり巧み。
○28 草の花どこでも本を開く子よ  お気に入りの絵本あるいは童話なのだろう。この句全体が童話の中の一コマのようで微笑ましい。
○37 うそ寒や口笛にくち固くして 口笛があまりうまくないのだろう。少しの緊張感が〈くち固くして〉に表れている。
○53 落花生割つては次の職探し 求人情報誌を捲りながら落花生をひとつまたひとつと口に運んでいる作者の表情を思うとおかしいようなちょっと寂しいような。落花生と鉛筆を交互に持ち替えてチェック、落花生の殻が山のように・・・〈職探し〉と〈落花生〉とのギャップ、「らっか」という音もよく効いている。
ほかに好きな句
 22 青蜜柑買ふ早退の道すがら
 52 新米や笑つて食へと祖母がいふ

【 喜多波子 選(波) 】
○09 月光に濡れてポストの艶かし
○12 シェーバーの充電ランプ台風圏
○22 青蜜柑買ふ早退の道すがら
○42 三郎と名付けし案山子捨てに行く
○51 かな文字の余白秋蝶自在なる

【 鋼つよし 選(鋼) 】
○17 給料は歩合制です猫じゃらし  上五、下五の取り合わせが意外性がある。
○28 草の花どこでも本を開く子よ  こんな子供目にしたことがある。
○38 長袖にこする林檎のてかりかな  意外にも林檎がよく光る。
○42 三郎と名付けし案山子捨てに行く  捨てるか燃すか三郎さんご苦労さんの気持ちが読める
○53 落花生割つては次の職探し  職を探すという措辞が落花生と離れすぎていてよい句になっている。
 50 新走古き背広は肩はつて  この句も五句のなかに入れたい句です。

【 小川春休 選(春) 】
○04 名月や象にもあるか土踏まず  実景として名月の下を歩む象の姿を思うのも良し、月のクレーターの形状から象の足の裏を想像するも良し。なかなか面白い句です。
○15 裏窓よりゑのころばかり見えてゐる  裏窓から外を眺めると、えのころ草ばかりが目に入る。風が吹くと揺れるので、余計に目に付く。決して積極的に見ている訳でも好きで見ている訳でもないが、実はどこかで心惹かれているようでもある、微妙な心情の窺われる句。
○22 青蜜柑買ふ早退の道すがら  朝、出勤(通学?)するときにはさほどでもなかったのが、だんだんと具合が悪くなる。もしくはこれから具合が悪くなりそうだが、まだ本格的ではない、そんな状態。香りの強い青蜜柑と、そんな微妙な体調とが実感を持って想像されます。
○45 台風の夜の長々と手紙書く  「長々と」が、「台風の夜」の長さとも「手紙」の長さとも読めるようになっていますね。ひたひたと迫る、速度の遅い今年の台風を想起させます。
○53 落花生割つては次の職探し  何らかの理由で職を辞め、次の職を探す。人によっては過度に落ち込んだりしてしまうところですが、簡単にはへこたれない、したたかな生活力を感じさせるこの句の描写に好感を持ちました。
 01 是好日四方に弾けるばつたかな  気分はよく分かる句ですが、仕立てに少し難があるように感じました。かな止めの句は一句をすっと言い下すように仕立てた方が姿が良くなると思いますが、この句は上五で一旦切れ、さらに句末にもう一度切れがあるような形になっています。
 02 秋蝉に重たき朝の来てをりぬ  秋蝉の鳴く頃の朝には爽やかさと少しの寂しさのようなものを感じるので、個人的には「重たき」という把握が意外で、印象に残った句です。
 08 誰彼を引き止めたしや秋うらら  芭蕉・蕪村の昔から、秋と言えば旅、というのは一つの典型。この句では、その旅人たちを見送る側に立って詠まれています。
 09 月光に濡れてポストの艶かし  月光に濡れる、と比喩的に表現するよりも、上五を〈月光や〉として切り、何に濡れているのか明示しない方が、より実感のある景を想像させる句になるのではないかと思います。
 11 蟷螂も何か用かと振り返る  蟷螂を人間のように見立てていますが、ちょっと見立てがストレートすぎるように感じました。
 13 剥き出しの工場跡や秋茜  工場跡に対して「剥き出し」とは、大掴みではありますが、なかなか出てこない表現で、景がよく見えてきます。秋茜が切ない。
 14 運動会転び泣く子に貰ひ泣き  私などは、どちらかと言うと運動会で泣いてる子供を見かけるとにっこりしてしまうのですが、例えばリレーの選手などが、自分の転倒のせいで負けてしまったりしたら、こういうこともあり得るでしょうか。
 16 通帳の止まぬプリント颱風来  台風が来る前に、通帳を記帳しておく。入金がたくさんだと嬉しいのですが、これはきっと、引き落としが沢山だったんでしょうね…。台風と相俟って不穏な感じです。
 19 秋鯖を毟ればややは口を開け  なんと良い食べっぷりの赤子でしょう。何でもしっかり食べてくれるのが、親にとっては一番ですね。それにしても秋鯖とは渋いというか美食家というか…。
 23 額広き物理学者や秋闌ける  今回のノーベル賞受賞者の中のどなたかでしょうか。いかにも頭脳明晰そうな容貌が目に浮かぶ。
 27 鯖雲や腹わためぐる内視鏡  室内・室外の別を考えたときに、この句の中七下五に対して鯖雲という季語はそぐわないというか、あまり効果的でないように感じます。窓から見えたと読めば実景としても一応成立するのですが、ちょっと無理があるような印象です。
 28 草の花どこでも本を開く子よ  草の花という季語が、「どこでも」というやや曖昧な表現をしっかりと肉付けしてくれていますね。こういう子、いつかどこかで見たような、懐かしい印象の句です。
 30 秋出水過ぎて地霊の話など  豪雨災害の起きた地域のかつての地名は、「八木蛇落地悪谷」などというおどろおどろしいものでした。昔の人は、自然への畏怖を持って、地霊として接していたのでしょう。
 32 陶芸の里に向かへば捨案山子  用が済めば案山子が捨てられるのは道理ではありますが、どこかさみしい気持ちにもさせられます。あまり人気の無い、陶芸の里の様子が想像されてきますね。
 33 蟷螂の外車の上に仁王立ち  虎の意を借る狐ならぬ、外車の意を借る蟷螂と言った風情で、可笑しいですね。
 40 うそ寒や湿原の意の英単語  夜遅くの受験勉強でしょうか。言葉とそのイメージとが重層的になっており、なかなか複雑な構成の句です。
 42 三郎と名付けし案山子捨てに行く  「三郎」という名は、思い入れがあって付けた名というより、一郎、二郎、三郎、四郎と順番にとりあえず付けた名という感じもして、そこにシビアな現実も見え隠れしています。
 43 紅葉山まさかお前が噴火とは  本当に、まさか、の噴火でした。これが三ヶ月先の噴火なら登山客もいなかったのでしょうに、秋の行楽シーズンなればこその被害者の多さもやり切れないものがありましたね…。「お前」という呼びかけには、山への親しみも窺われます。
 49 長袖の更の作業着暮の秋  これも一つの冬支度と言えるでしょうか。新しい作業着の、まだ固い生地の感触を感じます。
 51 かな文字の余白秋蝶自在なる  例えば蕪村の俳画のようなものを想像すれば良いのかな、とも思いますが、ちょっと抽象的に過ぎるような気もします。

 


来月の投句は、11月15日までに、3句お送り下さい・・・・・・投句はこちら

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