【 木村はな 選(は) 】 ○07
秋風に触れたる声が歌になる
○17 九段坂登り詰めれば忘れ花
○19 立ち止まるたびに折り来る小鳥かな
○25
鈴生りの柿の実ひとつずつ孤独
○26
冬日向ねこ定位置に陣取れり
【 荒岩のりひろ 選(の) 】
(今回はお休みです。)
【 石黒案山子 選(案) 】
○02
席譲る姿頼もし山眠る
○07 秋風に触れたる声が歌になる
○46 掃き癖のくたびれ箒 落葉炊く
○50
落葉降る舗装工事の真只に
◎52
はらからの返事短し榾明かり
【 一斗 選(一) 】
○10
小春日の飴呑み込んでしまひたる
○22 小六月平たき顔の男来て
○28 凩の狙ひすました盆の窪
○48
大根の葉ばかり大きく水を占め
○56
木守柿人の立ち位置見えてくる
【 中村時人 選(時) 】
○02
席譲る姿頼もし山粧ふ
○20 しぐるるや干からびていた正露丸
○25 鈴生りの柿の実ひとつずつ孤独
○41
城山へ点となりゆき鷹渡る
○55 父に似し人の出てゆくおでん屋よ
他に気になった句は
01
ランドルト環秋風が通り過ぎ
07 秋風に触れたる声が歌になる
10 小春日の飴呑み込んしまいたる
13
革ジャンのまだぴかぴかと煙草かな
35 マフラーは二人分です長く編む
48
大根の葉ばかり大きく水を占め
【 土曜第九 選(第) 】
○07
秋風に触れたる声が歌になる 澄んだ風のような歌声にあこがれます。
○18
けふからは冬林檎なりこの林檎 食べ物を通して季節の移り変わりを感じることは本当に素晴らしいことだと思います。
○19
立ち止まるたびに折り来る小鳥かな 小鳥達と鬼ごっこでもしているような楽しそうな句です。
○31
ゆつくりと魔女となりたし玉子酒 風邪をひいて熱が出ると不思議な感覚に襲われます。私は小さい時風邪をひいて寝込むと天井がどんどん高くなっていく錯覚に陥りました。
○44
おでん喰ふ顔が大きくなりにけり 寒い日に温かいものを食べると確かに顔がひと回りでかくなるような気がします。
【 奥寺ひろ子 選(奥) 】
○06
高い高いされ弟よ七五三 親の喜びと願いが高い高いによく表されている。主役の弟も大喜びだと思います。
○07
秋風に触れたる声が歌になる 詩的でいいですね。
○15
焼き牡蠣をすするデッキに汽笛鳴る すする音と汽笛の音においしそうなにおいまで想像されます。
○29
まう帰っておいで冬日あるうちに 子供のころを思い出します。待っていてくれる人がいる幸せを感じます。
○35
マフラーは二人分です長く編む 青春ですね。
【 滝ノ川愛 選(愛) 】
○20
しぐるるや干からびていた正露丸 久し振りに薬箱の整理をしていたか、又はちょっとお腹が渋るので何かないかと探してみたら正露丸が出てきた。古いのですっかりしわしわになっていた。昔は腹痛には正露丸と決まっていたものです。「しぐるるや」の季語がよく合っています。
○29
まう帰つておいで冬日あるうちに 子供さんに言っておられるのでしょう。冬はあっという間に日が暮れます。私は幼年時代に東北の山間部に住んでいました。夕暮れ近くまで山野で遊んでいると、お百姓さんに「早く帰らんと狐に化かされるぞ」と脅されたものです。
○31
ゆつくりと魔女となりたし玉子酒 おー怖い! 「ゆっくりと」が怖い。いつの間にか、気がついたら側にいた女性が魔女になっていたなんて、でも素敵。「玉子酒」がいいですね。
○35
マフラーは二人分です長く編むむ アツアツなんですね。何年か経つと42の「毛糸編み」になるかもしれません。首を締められないように気をつけて下さい。
○52
はらからの返事短し榾明かり 「はらから」や「榾明かり」から察するに作者も手紙を下さった方もお若くないのでは。歳を重ねるとだんだんに文章が短くなってゆくように思うのですが、でもお元気な文面のようですね。
【 小林タロー 選(タ) 】
○01
ランドルト環秋風が通り過ぎ あの隙間はそれっだったのか。そこはかとなく感じるさびしさとやるせなさ---
○03
初紅葉バック駐車は苦手です 初紅葉とは少し離れた取り合わせがいいです。
○10
小春日の飴呑み込んでしまひたる 少し浮き立つ心、ゆっくり飴をなめている場合ではない。季語があっているとおもうが「の」で「や」か?
○22
小六月平たき顔の男来て どんな顔のなのかわからないが、わからなくたっていいじゃないですか、想像が膨らんで楽しい。
○47
息白くハグして子らの別れけり 景が見えて良くできていると思います。「息白や」では「や、けり」になるので「白く」としたと思いますが。「息白や」のほうが季語が生きると思いますが如何?
【 森田遊介 選(遊) 】
(今回は選句お休みです。)
【 小早川忠義 選(忠) 】
○04
付け睫毛並ぶケースの秋思かな あれだけ白い背景に並んでいると怖さも感じる。
○15
焼き牡蠣をすするデッキに汽笛鳴る デッキはクルーザーのデッキと見たので汽笛が面白かった。
○34
冬薔薇隣で陶タヌキは笑ひ 背景は好き。陶タヌキという言い回しが通じるか。
○37
鉄塔の影ながく引き山眠る 眠る山に鉄塔の影が目立つかわからないが。
○52
はらからの返事短し榾明かり 榾明かりだとかなり読むのに期待していたのでは。
【 石川順一 選(順) 】
○08
朝寒やちゆんとも鳴かぬ籠の鳥 季語は「朝寒」。鳥も晩秋と言う事で縮こまって居るのでしょうね。少し淋しいですが「ちゆん」と言うこの表現がこの句に具体性をとエネルギッシュな感じを付与して居ると思いました。
○26
冬日向ねこ定位置に陣取れり 季語は「冬日向」。ふてぶてしい猫。「定位置に」と言ってねこを擁護して居る様にも思えました。
○35
マフラーは二人分です長く編む 季語は「マフラー」。「二人分です」は可愛げあるのでは無くて、むしろはっきりとした言明、其処から来る「二人」の主体性の表明であると思います。主体性の表明によって句にも力動感が生まれる。
○44
おでん喰ふ顔が大きくなりにけり 季語は「おでん」。顔が大きいと言うリラックス感。句柄も大らかに思え、素直に評価できる。
○55
父に似し人の出でゆくおでん屋よ 季語は「おでん屋」。事実をただ報告しているだけにも見えますが、「おでん屋よ」と言う詠嘆、(「よ」は詠嘆の終助詞です)、詠嘆を発生させた原因である「父に似し人」、これらが組み合わさった時の作者の情感を察すると、ただの報告には思えぬ句情を意識出来るのです。
他に注目した句に
04
付け睫毛並ぶケースの秋思かな 季語は「秋思」。ウィンドウショッピングでしょうか。高過ぎて買えない、或いは種類が多過ぎて迷っちゃうなどのシチュエーションを意識出来ました。
12
穴を出て穴惑ひする日和かな 季語は「穴惑ひ」。蛇だって迷うのでしょう。まだ冬眠するべきではないと。
18
けふからは冬林檎なりこの林檎 季語は「冬林檎」。小気味良い断定。分かり切った事でも断定すると抒情が生まれるかも知れない。
25
鈴生りの柿の実ひとつずつ孤独 季語は「柿の実」。人間の様に個性のある柿の実。一つだって同じ物は無い。
37
鉄塔の影ながく引き山眠る 季語は「山眠る」。影の長さに句心を擽られた。
49
枯園やガチャンと自動販売機 季語は「枯園」。
がありました。
【 涼野海音 選(海) 】
○07
秋風に触れたる声が歌になる 声という目に見えないものを感覚的に捉えた繊細な句です。
○10
小春日の飴呑み込んでしまひたる いかにも小春日にありそう。そして誰もが今まで見逃してたなあと。
○14
冬日さす菰をかむれる遍路墓 「菰をかむれる」の描写の手堅さが巧い。
○43
ラジヲから雨の予報や帰り花 「ラジヲ」という書き方が独特の雰囲気を漂わせています。
○51
目と口を描き雪達磨我に似る なんと単純な雪だるま。そして俳句もシンプル。
【 松本てふこ 選(て) 】
○20
しぐるるや干からびていた正露丸 「や」と口語体がちょっとちぐはぐな印象なんですが、時雨と正露丸の取り合わせが面白いのでいただきました。
○32
みづどりに会うて来し足ぼんやりと 「会う」という擬人化があざとく見えるのが残念ですが、水鳥に心を寄せるあまりに自分も水鳥になってしまったかのような身体感覚に陥る作中主体の繊細さに好感が持てました。
○36
ネッシーの写真みてゐる日向ぼこ ネッシーって結局でっちあげだったんですよね?懐かしさとバカバカしさが絶妙です。
○44
おでん喰ふ顔が大きくなりにけり 確かにおでんは口を大きくもぐもぐさせて食べるものだから顔が大きく見えそうですね。若干、類想があるような気もしてしまいます。
○53
長財布ぬらりと出でて暮早き 財布って勝手に出てくるものじゃないのに、「出して」だと「ぬらりと」と合わないですしね。多分、一番「ぬらりと」を詠みたかったんだろうなあと。
【 川崎益太郎 選(益) 】
○18
けふからは冬林檎なりこの林檎 秋の季語である林檎が今日からは冬林檎。季節の動きを、俳味のある捉え方をした。
○20
しぐるるや干からびていた正露丸 昔の正露丸は黒饅頭のようで湿り気を帯びていた。それが瓶の中で干からびていた。郷愁を面白い視点で捉えた。
○46
掃き癖のくたびれ箒落葉炊く 掃き癖、くたびれ、付き過ぎの感もあるが、作者の人生が見える。
○49
枯園やガチャンと自動販売機 人気のない枯園に自販機だけの音が響く。芭蕉の「古池」の心境。
○57
枯蓮にかなわぬ想ひ絡ませる やや説明的であるが、枯蓮が詩情を誘う。
【 草野ぐり 選(ぐ) 】
○21
独りにはなれず煮え湯にブロッコリ 自分の時間がつくれない、仕事や家事に大忙しの方でしょうか。煮え湯、という表現にも何か切羽詰まった感じがありますがブロッコリで、ま、これもいいか、という明るさに。
○42
夫待つやこころ鎮めの毛糸編み こころ鎮めがちょっと意味深。様々に読めるが心鎮める手段が毛糸編みなのがいい。
○44
おでん喰ふ顔が大きくなりにけり おでんが大好きで大好きでそのたべっぷりの良さと喜びで顔が大きく!? 意表をつかれました。
○45
湯豆腐やくもり眼鏡の眉下がる 思わずくすっとしてしまいました。心がすっかりほどけ切ってしまっている感じですね。湯豆腐が効いています。
○52
はらからの返事短し榾明り 余計なことは言わずとも解りあえてしまう。榾明りが味わい深い。
【 水口佳子 選(佳) 】
○19
立ち止まるたびに降り来る小鳥かな 公園に住みついている雀や鳩は餌をもらうことに慣れてしまっているので、人が来ても恐れることなく近づいて来る・・・人と小鳥が近づくことが小鳥にとって幸せなことかどうか、ちょっとひねくれた解釈かもしれないが。
○22
小六月平たき顔の男来て 平たき顔、つまり彫の深くない顔ということ。〈小六月〉の季語で平たい顔の人物の性格が分かるような気がする。
○23
菊人形いない今年の菊まつり 菊師がいなくなりつつあるという事か、それとも不景気のためにやめざるを得なかったのか・・・菊人形がいなくなり町そのものも少し寂れたのだろうか。さらりと詠まれているが深い句。
○31
ゆつくりと魔女となりたし玉子酒 言葉の上では魔女と玉子酒のギャップが面白い。〈魔女〉という言葉に色々な姿をかさねることが可能かと。
○53
長財布ぬらりと出でて暮早き 蛇皮のすこし使い込んだ財布かと思われる。札束がびっしり詰まっているのだろう。日暮れの薄闇の中で長財布だけが妙に目立っていて・・・持ち主はただものじゃないのかも。
ほかに好きな句
44
おでん喰ふ顔が大きくなりにけり そんな感じわかる。
50
落葉降る舗装工事の真只に 「真只」で良い? (只中という意味ならば景がよく見える)
【 喜多波子 選(波) 】
○10
小春日の飴呑み込んでしまひたる
○14 冬日さす菰をかむれる遍路墓
○20 しぐるるや干からびていた正露丸
○28
凩の狙ひすました盆の窪
○35 マフラーは二人分です長く編む
以上です。どうぞ宜しくお願いします。
【 鋼つよし 選(鋼) 】
○25
鈴生りの柿の実ひとつずつ孤独 紅葉の名所 舗装もない山道を浮かべました。
○55
父に似し人の出でゆくおでん屋よ 付け睫の五文字がいろんな愁思が想像できます。
○56
木守柿人の立ち位置見えてくる 葉っぱが落ちて柿の実の距離をうまく描写したと思う。
○03
初紅葉バック駐車は苦手です 似た人に出会うことはままあるけどおでん屋がいい。
○04
付け睫毛並ぶケースの秋思かな 個性ある視点からの句でよいと思う。
【 小川春休 選(春) 】
◯20
しぐるるや干からびていた正露丸 面白い取合せで、いろいろと想像させられる句。久々に正露丸を取り出すと干からびてしまっている、季語の時雨もなかなか複雑な味わい。この御仁、寒い時期ぐらいにしか腹を壊さない人なのかも知れないですね。
◯21
独りにはなれず煮え湯にブロッコリ 別れの後の孤独や不便やらを想像して、まだしも現状の方が良いかと思い直す。煮え湯の中でブロッコリーが、穢れを移す人形(ひとがた)のように、身代わりとして責め苦を味わっている、そんな景とも読めます。
◯22
小六月平たき顔の男来て 漫画『テルマエロマエ』中で、ローマ人が日本人のことを「平たい顔族」と呼んでいたのを思い出します。今時のすっとした顔立ちの若き日本人ではなく、昔懐かしい昭和の日本人。「来て」というからには迎える側の人もいる訳ですが、そちらもきっと平たい顔なんでしょうね。
◯49
枯園やガチャンと自動販売機 飲料が落ちて来る音が、予期していたよりもかなり大きかったのでしょう。そして、その唐突な音の大きさが、周囲の静けさをも逆説的に想像させてくれます。
◯55
父に似し人の出でゆくおでん屋よ たまたまおでん屋に居合わせた客が父に似ていた、そこまではまだ、よくある句想と言えるかもしれません。しかしこの句の眼目は、その人がすぐにおでん屋から出て行ってしまうところ。そこに何とも言えぬ余韻を感じました。
02
席譲る姿頼もし山粧ふ 多分、この句の「頼もし」は、書き手の感想であり、一句の答えでもある。先に答えが出てしまっている句は味気ない。どういう仕草や様子を頼もしいと感じたのか、そういったところをしっかり描写して、結果として読み手にも「頼もしい」と感じさせてくれるのが、良い句なのではないかと考えています。
03
初紅葉バック駐車は苦手です 初紅葉という季語には、その年初めての紅葉を見つけた、という発見の驚きも込められている。なので、この句の「バック駐車は苦手」とは、運転中に紅葉などに気が散っているからだろうなぁ、と感じます。一言で言えば、注意力散漫ですね。
04
付け睫毛並ぶケースの秋思かな 付け睫毛がずらりと並んでいる景と秋思との取合せはなかなか面白いと思いますが、「ケースの秋思かな」という繋ぎ方は少々無理がある印象です。
05
肩が触れ足踏まれてや展覧会 展覧会というと静寂を想像しますが、この句は何とも賑やかですね。
07
秋風に触れたる声が歌になる 鋭い感受性を感じる句ですが、それだけに、句の仕立てにあまりメリハリがないのが残念です(特に「たる」が緩いように感じます…)。切れを入れるなど、推敲の余地があると思います。
12
穴を出て穴惑ひする日和かな 単純に疑問に思ったのですが、一旦穴に入った蛇がまた穴から出て来ることが実際にあるのでしょうか。そしてそれを穴惑いと呼んで良いのかも疑問です…。
13
皮ジャンのまだぴかぴかと煙草かな 悪ぶり方がまだ板に付いていなくて可愛いですが、その辺ぐらいで止めておいた方が良さそうですね〜。
14
冬日さす菰をかむれる遍路墓 確かな描写の句ではありますが、墓に菰を被せてある景自体が冬の寒さを思わせるため、季語の冬日と重複している感じがする。結果として季語の冬日が引き立たないのが残念です。
15
焼き牡蠣をすするデッキに汽笛鳴る 海辺の景なのでしょうが、デッキと汽笛の両方が必要でしょうか。先にデッキが出て来ていると、汽笛の鮮やかさが引き立たないように感じます。季語を含めて、一つ一つの言葉をいかに活かすかを考えたいですね。
16
故郷の山やま程良く紅葉なり 「程良く」というまとめ方は、読む側からすると平板に感じてしまいます。
18
けふからは冬林檎なりこの林檎 「なり」といい「この」といい、かなり念入りに、季節の移り変わりと自分の意識とを擦り合わせようとしている、そんな気分を感じる句です。
19
立ち止まるたびに降り来る小鳥かな 汀女の〈とどまればあたりにふゆる蜻蛉かな〉を思い出しますが、歩みを止めて周囲と自分とが一体化すると、小鳥が警戒心を解く。そういう機微を感じさせる句です。
24
神無月指が止まりぬ上の空 雰囲気は分からなくもないのですが、上五・中七・下五それぞれがぶつぶつと切れてしまっている感じです。
29
まう帰つておいで冬日あるうちに 句またがりの句でも、案外すんなり読めたり、五七五とは異なったリズムを構成したりしているものもありますが、この句はそこまで至っておらず、ごたごたしてしまっている印象です。せっかく良い雰囲気の句なので、勿体無い。
32
みづどりに会うて来し足ぼんやりと 上五の「に」で意味の上では切れていると読みました。水鳥を眺めながら、それほど遠くない過去に会った相手の足をぼんやり思い浮かべている。はっきりとは書かれていませんが、もしかすると逢瀬かも知れない。そんな想像の広がる句です。
34
冬薔薇隣で陶タヌキは笑ひ なかなか面白い取合せの句で独特の存在感がありますが、句またがりが落ち着かない印象です。改案を考えるとすれば、「隣で」という表現がそもそも必要かどうかという点も考える余地があると思います。
38
ピラカンサ赤く燃え立ち立冬 ピラカンサの実の描写として、「赤く燃え立ち」は普通なのではないかと思います。ピラカンサを季語とするなら、実であることを言葉で示す必要があると思いますが、この句では立冬が季語で、ピラカンサを季語としては用いていないように読めます。下五の字足らずは落ち着きません。
44
おでん喰ふ顔が大きくなりにけり 大根かこんにゃくか、大きなおでんの具を頬張ったのでしょう。顔自体も大きくなったように感じる、そんな様子をやや誇張気味に描写しているところが面白い。
45
湯豆腐やくもり眼鏡の眉下がる 寒い一日、ぴんと張り詰めていたものが、暖かい食卓でふっとゆるむ。そんな表情が、湯豆腐、くもり眼鏡、下がった眉というパーツから活き活きと見えてきます。
47
息白くハグして子らの別れけり 描こうとした場面はよく分かります。しかし、白息、ハグ、そしてその後に別れ、と起こった物事を順番に述べていくような構成になっていて、メリハリがないように感じました。例えばこの物事の中の、ハグの場面に一句を集中させて、「息白く別るる前のハグ強く」などとすると、より印象鮮明な句になるのではないかと思います。
51
目と口を描き雪達磨我に似る 何の気なしに描いた顔が自分に似ていたというのはちょっと面白いですね。よほど特徴的な顔なのかな、とも思いました。
52
はらからの返事短し榾明かり こちらは息災でやっている、そちらも達者で暮らせ、とかそんな感じでしょうか。もっと他にも書くべき近況があるだろうとも思いながらも、この短い返事がこの「はらから(兄弟)」のらしさでもあるのでしょうね。物語を感じさせる句です。
57
枯蓮にかなわぬ想ひ絡ませる 「かなわぬ想ひ」がどのようなものか、読み込む手がかりがないため、漠然としてしまっているようです。
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