ハルヤスミ句会 第百七十二回

2015年2月

《 句会報 》

01 高枝に一目三百寒雀         つよし

02 氷瀑に月のだんだん透き通る     阿昼(案・一)

03 熟柚子を落として食ふやつがい鳥   ひろ子

04 日脚伸ぶ座敷に懸かる般若の面    案山子(一・第)

05 レジを打つ指先にまで日脚伸ぶ    忠義(奥・順)

06 春来る紙飛行機の高さまで      一斗(奥・タ・益・佳・阿)

07 何はさておきてもここは福寿草    タロー

08 冬服の果敢や巡視船の出づ      波子(ぐ)

09 大根の七難隠す白さかな       益太郎(第・順)

10 節分の月はまあるく出でにけり    ひろ子(遊)

11 鶏鍋や大根大きくやはらかく     阿昼

12 老化して快音響く余寒なほ      順一

13 春手袋去年の映画の半券と      草太(第・て・益・阿)

14 空と山交はるところ春浅し      海音(案)

15 蝋梅やそれにつけてもこの坂よ    タロー

16 閣議という魑魅魍魎や寒鴉      益太郎

17 一枚の障子隔ててひたき聞く     阿昼

18 開拓の碑文なぞれる春の風      波子(第・遊・忠)

19 名のみとてその名うれしきはるや春  案山子(愛・タ・益)

20 輪かんじき吊るして夫の忌を修す   波子(草・時・タ・て)

21 雨ぽつり白梅ぽつりぽつりかな    益太郎(案・奥・タ・遊・海・て・阿・春)

22 雪解村歩きはじめた子がひとり    草太(忠・海・佳)

23 夜鴉の鳴き交はしたる余寒かな    ぐり(第・佳)

24 雪解晴杣が背負ひくるこけしの木   草太(時・タ)

25 自転車に空気入れるや梅ふふむ    タロー(案・時・阿)

26 冬晴れや白鳥追ひし鴉二羽      ひろ子

27 ひもとけば睡魔おし寄す春の雪    つよし(佳)

28 夕梅に夫婦と見えぬふたりづれ    愛(鋼・春)

29 東風吹きて働き口を探さむと     てふこ(忠)

30 喉薬漱ぐコップの水温む       一斗(奥)

31 初午やきゆつきゆつと噛んでソーセージ てふこ

32 片目して糸通しをる日永かな     一斗(忠・順)

33 口々にほつとするねと梅一枝     ぐり

34 角曲るたびに鋭利に恋の猫      佳子(ぐ)

35 吊橋の真下よぎるは囀りよ      春休

36 春の風邪など忘れよと医者の言ひ   忠義(愛)

37 蕎麦食えぬ不満が昨日の春の雪    順一(草)

38 図書館の窓に風花十八歳       第九

39 水温む吊り橋渡る人まばら      遊介

40 勉強が苦手受験子背をのばし     つよし

41 犬ふぐり花に正しき紺の線      時人(草・一・ぐ・阿)

42 左右逆知覚過敏の春寒し       順一

43 恋猫やうましうましと朝の水     愛(時・順)

44 春の夜の卵黄かたち失へり      佳子(海・春)

45 恋猫のやぶから棒の毛づくろい    愛(草・遊・ぐ・春)

46 求人の似たりよつたり犬ふぐり    春休(一・時・奥・愛・益)

47 教会のほとりの水の温みけり     海音(て・鋼)

48 山笑ふスイッチバックの待ち時間   遊介(一・海・鋼)

49 おぼろ夜やあぎとこすれて首ギプス  春休

50 御奉仕の大きな背中鬼やらい     案山子

51 菜の花や黒潮沖を蛇行して      時人(鋼)

52 包丁に傷と光と実朝忌        てふこ(忠・益・佳)

53 母は待つなにより日脚伸ぶること   第九(案・順)

54 わらびもち恋には妬くがよしなどと  忠義

55 さへづりを聞き分ける夫退職す    佳子(草・て・ぐ・鋼・春)

56 イエスノー答へるゲーム亀が鳴く   第九(愛・海)

57 蕗味噌や勝手口より下駄の音     時人

58 鳥帰る山ふところの母校かな     海音

59 向かうより耳先欠けし恋の猫     ぐり(愛・遊)

60 昼の湯に身を任せてや鳥帰      遊介




【 草太 選(草) 】
○20 輪かんじき吊るして夫の忌を修す  山男なりしや 
○37 蕎麦食えぬ不満が昨日の春の雪  理不尽な日常
○41 犬ふぐり花に正しき紺の線  観察の成果
○45 恋猫のやぶから棒の毛づくろい  高倉さん
○55 さへづりを聞き分ける夫退職す  明るい老後

【 木村はな 選(は) 】
(今回はお休みです。)

【 石黒案山子 選(案) 】
○02 氷瀑に月のだんだん透き通る
○14 空と山交はるところ春浅し
○21 雨ぽつり白梅ぽつりぽつりかな
○25 自転車に空気入れるや梅ふふむ
○53 母は待つなにより日脚伸ぶること

【 一斗 選(一) 】
○02 氷瀑に月のだんだん透き通る     
○04 日脚伸ぶ座敷に懸かる般若の面    
○41 犬ふぐり花に正しき紺の線  
○46 求人の似たりよつたり犬ふぐり      
○48 山笑ふスイッチバックの待ち時間  

【 中村時人 選(時) 】
○20 輪かんじき吊るして夫の忌を修す
○24 雪解晴杣が背負ひくるこけしの木
○25 自転車の空気入れるや梅ふふむ
○43 恋猫やうましうましと朝の水
○46 求人の似たりよつたり犬ふぐり
 他に気になった句は
 09 大根の七難隠す白さかな
 29 東風吹きて働き口を探さむと
 58 鳥帰る山ふところの母校かな
 55 さへづりを聞き分ける夫退職す

【 土曜第九 選(第) 】
○04 日脚伸ぶ座敷に懸かる般若の面  古民家の静謐な空間を想像しました。
○09 大根の七難隠す白さかな  大根は辛味があって毒消しの効果がありそうです。
○13 春手袋去年の映画の半券と  こういう経験よくあって映画にまつわる出来事を思い出したりしてます。
○18 開拓の碑文なぞれる春の風  開拓といえば北海道。雪が解けて顔を出した碑の景が浮かびます。
○23 夜鴉の鳴き交はしたる余寒かな  寒々しくてうら淋しい感じが伝わってきます。

【 奥寺ひろ子 選(奥) 】
○05 レジを打つ指先にまで日脚伸ぶ  差し込む日差しの強さを感じます。
○06 春来る紙飛行機の高さまで  日増しに春を感じますね。
○21 雨ぽつり白梅ぽつりぽつりかな  とらえ方に寂しさを感じます。まだまだ寒い日が続きそうです。
○30 喉薬漱ぐコップの水温む  いつの間にか春がそこまできています。
○46 求人の似たりよつたり犬ふぐり  なかなか条件のよい希望の職にはつけませんね。

【 滝ノ川愛 選(愛) 】
○19 名のみとてその名うれしきはるや春  私は幼年時代を東北で過ごしました。春先はまさにこの心境でした。ボロボロで水のしみ込んでくる長靴を履き、友達と胸膨らませて「早春賦」を歌いながら学校へ行ったものです。「はるや春」がその嬉しさを盛り上げています。
○36 春の風邪など忘れよと医者の言ひ  本人は医者に行くくらいですから辛いんです。それなのに! きっと経験豊富な老齢の医者なのでしょう。しかし虚子も「病にも色あらば黄や春の風邪」とは言っていますね。
○46 求人の似たりよつたり犬ふぐり  ぱっとした求人がないのでしょうか。いえいえ「犬ふぐり」の季語です。可憐だが逞しく、小さいけれどるり色の美しい花をつけます。きっと良い仕事が見つかりますよ。
○56 イエスノー答へるゲーム亀が鳴く  何とも不思議で単純なゲームのようですね。鳴くはずがないのに「亀が鳴く」のとぼけた季語が合っています。
○59 向かうより耳先欠けし恋の猫  耳先の欠けた猫、オスでしょう。恋の季節に戦った時の男の勲章。向こうからやって来るのは堂々としているのでしょうか、それともトボトボ?作者の恋猫に対する優しさを感じます。

【 小林タロー 選(タ) 】
○06 春来る紙飛行機の高さまで  もうすぐという気持ちがわかります。
○19 名のみとてその名うれしきはるや春  修辞の面白さでいただきました。
○20 輪かんじき吊るして夫の忌を修す  雪深き里の静かな忌日。吊るし夫の としたほうがいいよう
な気もしました。
○21 雨ぽつり白梅ぽつりぽつりかな  春先の曇りがち雨がちの景の写生ですね。
○24 雪解晴杣が背負ひくるこけしの木  こけしの木 に少し言葉遣いの違和感がありますが、春を迎え
てさあ仕事という景が捉えられています。

【 森田遊介 選(遊) 】
○10 節分の月はまあるく出でにけり  地上は鬼との戦い(豆まき)をしているけれど,天空には穏やかな丸い月が出ている。地上にいる我々のなんと小さい事か! 地球上の人々がちょっと空を見上げれば、自然界の荘厳さに圧倒され争いも起こらないのに、人間は臆病な物です。
○18 開拓の碑文なぞれる春の風  碑文には何と書いてあるのでしょうか?その苦しかった開拓の頃の記録が季語によって報われるような気がします。
○21 雨ぽつり白梅ぽつりぽつりかな  リフレインが面白い。   
○45 恋猫のやぶから棒の毛づくろい  そうです!猫は突然に毛づくろいをし、突然に甘えてきます。それがたまらなく可愛いと猫派は思うのです。
○59 向かうより耳先欠けし恋の猫  朝帰りの猫でしょうか?怪我をしても激しい恋に燃える猫は凄い!草食系男子は見習ってほしいです。

【 小早川忠義 選(忠) 】
○18 開拓の碑文なぞれる春の風  その風は暖かくともまだまだ固い根雪が残っていそう。
○22 雪解村歩きはじめた子がひとり  年寄りばかりが残る村にも希望がある。
○29 東風吹きて働き口を探さむと  働き続けなければ暮らせないこの身にはちょっと羨ましい。なんならうちで働く?
○32 片目して糸通しをる日永かな  夜なべというには軽そうな繕い物なのだろうか。
○52 包丁に傷と光と実朝忌  本当はや切りするのかも知れないが取り合わせの不気味さにひかれた。

【 石川順一 選(順) 】
○05 レジを打つ指先にまで日脚伸ぶ  季語は「日脚伸ぶ」。上5中7の措辞が秀抜だと思いました。季語への接続が自然で、描写の具体性に隙が無い。
○09 大根の七難隠す白さかな  着想がいいですね。「七難隠す」。「大根」と言う季語を活かし切れて居る。「白さかな」の座5も決まった。
○32 片目して糸通しをる日永かな  季語は「日永」。ちょっとした苦労が達成の喜びを司る。季語の「日永」との連動性もグッド。
○43 恋猫やうましうましと朝の水  季語は「恋猫」。誰が水を飲んで居るのか。猫も人も飲んで居るのであろう。水の美味さが伝わってくる句。
○53 母は待つなにより日脚伸ぶること  季語は「日脚伸ぶ」。願望があからさまな様で居て、実は上品な実質が隠れて居ると感じられる句。
 取れなかった句の中でもいいと思った句
 14 空と山交はるところ春浅し  季語は「春浅し」。爽快な句。
 18 開拓の碑文なぞれる春の風  季語は「春の風」。北海道でしょうか。松浦武四郎を思い出しました。
 25 自転車に空気入れるや梅ふふむ  季語は「梅ふふむ」。つぼみの梅に感じる物があったのでしょう。
 26 冬晴れや白鳥追ひし鴉二羽  季語は「冬晴れ」。白と黒のコントラスト。
 38 図書館の窓に風花十八歳  季語は「風花」。図書館に居て成った句。或いは思い出か
 48 山笑ふスイッチバックの待ち時間  季語は「山笑ふ」。鉄道風景。
 57 蕗味噌や勝手口より下駄の音  季語は「蕗味噌」。日常の何気ない情景。

【 涼野海音 選(海) 】
○21 雨ぽつり白梅ぽつりぽつりかな  「ぽつり」の反復が面白い句。しかも雨の「ぽつり」と白梅の「ぽつり」は異質であるところがさらに面白い。
○22 雪解村歩きはじめた子がひとり  雪が解けて「さあこれから」という期待感が、歩きはじめの子を応援しているような感じでしょうか。
○44 春の夜の卵黄かたち失へり  卵黄の本質を季語とともに捉えた句。
○48 山笑ふスイッチバックの待ち時間  スイッチバックという、俳句ではなかなか詠みにくいものを、季語をうまく生かすことで詠まれた点に感心。
○56 イエスノー答へるゲーム亀が鳴く  とても現代的な景ですが、この句も季語がばしっと決まっていますねー。

【 松本てふこ 選(て) 】
○13 春手袋去年の映画の半券と  春手袋という表現にはそれほど馴染みがないのですが、ほほう、こうやって使うのか、と。日野草城のようなモダンさを感じます。
○20 輪かんじき吊るして夫の忌を修す  輪かんじきを出すことによって雪深い地域であると伝わり、句に奥行きが出たように思います。夫の遺愛のものだったのかもしれないし、夫にまつわる思い出がなにかあるのかもしれない。直接のつながりはなにもないかもしれないけど、なにかあるのかもしれない、と思わせて巧い。「修す」の終止形が美しい!
○21 雨ぽつり白梅ぽつりぽつりかな  類想がありそうだなとは思いますが、オノマトペに春の寒さをうまく乗せているところがいいなと思いました。
○47 教会のほとりの水の温みけり  「ヌーッとした句、ボーッとした句」の良さがあります。「ほとり」というざっくりした表現と「の」の繰り返しや「けり」の使用など文字数をかけて単純に景を詠んでいて、読者に細部を「読ませる」ように仕向けているなあ、と。
○55 さへづりを聞き分ける夫退職す  これもちょっと類想??とも思うのですが…。春ということもあり、細やかに見聞きすることを忘れず働き続けた(あまり屈折の影を感じないので、定年退職かな?)夫へのねぎらいが感じられ、着実に生きてきた夫婦像が垣間見えます。
 気がつけば夫俳句を二句も取っていました。

【 川崎益太郎 選(益) 】
○06 春来る紙飛行機の高さまで  春を紙飛行機の高さ、と言ったところが上手い。
○13 春手袋去年の映画の半券と  1年ぶりの春手袋と去年の半券が上手い。どんな思い出が甦るか・・・
○19 名のみとてその名うれしきはるや春  「早春賦」のぱくりであるが、面白く句に仕上げた。
○46 求人の似たりよつたり犬ふぐり  求人広告と犬ふぐリの取り合わせが面白い。
○52 包丁に傷と光と実朝忌  包丁の傷と光。波乱の実朝にぴったり。

【 草野ぐり 選(ぐ) 】
○08 冬服の果敢や巡視船の出づ  がっちりしたコートを来て甲板に立っているのだろう。冬服の果敢とぽんと言い切ってしまったところにイメージが広がる。
○34 角曲るたびに鋭利に恋の猫  恋猫の覚悟と気合が上五中七に詰っている。
○41 犬ふぐり花に正しき紺の線  あの犬ふぐりの花の紺を正しき線と。断定されるとそうかあ、と妙に納得してしまった。
○45 恋猫のやぶから棒の毛づくろい  え?というタイミングでの毛づくろい。恋猫でなくてもやりそうだが恋猫だと何かしみじみとしたおかしみと切なさを感じる。
○55 さへづりを聞き分ける夫退職す  仕事人間というより自分の時間も大切にされていたご主人なのだろう。具体的な言葉にはしていないがお疲れさまという感謝がにじみでるようなほっとする句。

【 水口佳子 選(佳) 】
○06 春来る紙飛行機の高さまで  そんなはずはないけどそんな気分。紙飛行機が高く飛べば、さらにもっと春を感じることができる。何度も何度も紙飛行機を飛ばして作者は春を呼んでいるのだろう。紙飛行機のゆったりとした軌跡を私も思い浮かべている。 
○22 雪解村歩きはじめた子がひとり  一茶の句と童謡「春よ来い」を合わせたような句。かつてのような子供の景はなくなったが、それでも歩きはじめた子がひとりでもいることは、何か温かいものを感じる。
○23 夜鴉の鳴き交はしたる余寒かな  「余寒」は少し付き過ぎかとも思いつつ。この句母音の「A」音がやたらに多いことと「カ行」の響きとが夜のひろがりを感じさせはしないか?
○27 ひもとけば睡魔おし寄す春の雪  「ひもとく」には書物を開くという意味もあるが、蕾が膨らむという意味もあり、後者の意味でとらえると睡魔が押し寄せたのは蕾そのもの、とも考えられてまた違った意味でこの句が味わえるなあと。
○52 包丁に傷と光と実朝忌  包丁にある傷と光、淡々と提示したのみであるが、実朝の暗殺という最期を思い出させる。
好きだったけど
 14 空と山交はるところ春浅し  「交はるところ」が分かるようでわからなかった。
 46 求人の似たりよつたり犬ふぐり  「求人」だけでいいのかなあ。分からないではないが。

【 喜多波子 選(波) 】
○06 春来る紙飛行機の高さまで
○21 雨ぽつり白梅ぽつりぽつりかな
○48 山笑ふスイッチバックの待ち時間 
○52 包丁に傷と光と実朝忌
○56 イエスノー答へるゲーム亀が鳴く

【 中村阿昼 選(阿) 】
○06 春来る紙飛行機の高さまで  「紙飛行機の高さ」が、どの程度春めいているのかは、読む人によって違うかもしれないが、私は、木々がまだあまり芽吹かない頃の、日差しの中の紙飛行機を思った。
○13 春手袋去年の映画の半券と  去年の早春に見た映画は、少し切ない思い出なのかもしれない。
○21 雨ぽつり白梅ぽつりぽつりかな  曇り空から雨がぽつり。白梅はとみればまだちらほらと。
「ぽつり」の繰り返しに早春の景の臨場感があると思う。
○25 自転車に空気入れるや梅ふふむ  梅の丸いつぼみが、なんともいえず好きです。自転車に空気入れて、梅を見に走らせたい。
○41 犬ふぐり花に正しき紺の線  可愛らしい犬ふぐりの花だが、「正しき紺の線」で小さいながら品のある感じに。

【 鋼つよし 選(鋼) 】
○28 夕梅に夫婦と見えぬふたりづれ  まじめでもあり滑稽味のある句
○47 教会のほとりの水の温みけり  景色がきれいでよい。
○48 山笑ふスイッチバックの待ち時間  車窓から春の実感を噛みしめている。
○51 菜の花や黒潮沖を蛇行して  高台からは蛇行している黒潮を確認できるらしい。
○55 さへづりを聞き分ける夫退職す  さへづりの季語ががよい。
そのほか 46 求人の似たりよったり犬ふぐり
       60 昼の湯に身を任せてや鳥帰 ほかたくさんよい句あり。

【 小川春休 選(春) 】
○21 雨ぽつり白梅ぽつりぽつりかな  同じ「ぽつり」でも、かたや雨音、かたや小さな花がまばらに咲く様子と、その意味するところが異なるのが巧み。
○28 夕梅に夫婦と見えぬふたりづれ  年齢がかなり離れているのか、それとも他に理由があるのか、夫婦とは見えない「ふたりづれ」。「夕梅」の夕刻という時間も、何か特別な意味を持っているような感じもしてくる。
○44 春の夜の卵黄かたち失へり  卵焼きか、すき焼きか、それともコロッケでも作るのか、かきまぜられた卵黄の明るい黄色が目に浮かんできます。明るさの中に、少しの喪失感が隠し味になっている。
○45 恋猫のやぶから棒の毛づくろい  恋猫の毛づくろいが唐突であったことだけが述べられている句なのですが、どんな場面か想像すると面白い。食事の途中か、はたまた恋の相手が目の前にいる時に突然毛づくろいを始めたのかも知れない。いかにもマイペースな性格の猫といった風情。
○55 さへづりを聞き分ける夫退職す  勤め上げて退職を迎えると気が抜けたようになってしまう男性も多いようですが、この「夫」はどこか飄々としていて、退職後の生活も楽しみを見つけながら送れそうな印象ですね。
 01 高枝に一目三百寒雀  三百とは凄い数ですね! こんなによく見えるのも、まだ寒い時期の、芽や葉がない樹木なればこそでしょうか。
 04 日脚伸ぶ座敷に懸かる般若の面  日脚が伸びてくると座敷に差し込む日差しも次第に強さを増し、般若の面も活き活きと見えてくることでしょう。しかし、下五の字余りは「の」を取れば解消できるのではないかと思います。
 06 春来る紙飛行機の高さまで  気分は何となく分からなくもないのですが、「高さまで」というところが分かるような分からないような…。「高さかな」ぐらいの方が大らかな印象で良いような気もします。
 07 何はさておきてもここは福寿草  有無を言わせぬところのある句ですが、ちょっと漠然としすぎているような印象。「何はさておき」と「福寿草」は残すとして、それ以外の部分で最低限の肉付けをしてほしいところです。
 09 大根の七難隠す白さかな  ことわざとか慣用句を捩った句はなかなか面白くなりにくい気がします。
 11 鶏鍋や大根大きくやはらかく  確かに美味しそうではあるのですが、一句が鶏鍋の説明になってしまっている感じもします。
 15 蝋梅やそれにつけてもこの坂よ  「や」「よ」と切れ字を二つ用いていますが、まとまりのない印象です。下五は「この坂は」ぐらいで良いのではないかと思います。
 19 名のみとてその名うれしきはるや春  季節の移り変わりを観念的に捉えていますが、その観念的なところに、平安朝の和歌の発想(観念の上、暦の上での春と、現実の季節感とのズレを楽しむような)に通ずるものを感じます。
 20 輪かんじき吊るして夫の忌を修す  寒さの厳しい時期にはやはり亡くなられる方が多いですが、この「夫」もその一人だったのでしょう。生活感・実感のある句です。
 25 自転車に空気入れるや梅ふふむ  雪や寒さの厳しい間は自転車の出番もあまり無かったのかも知れませんね。いろいろな物事が動き出す春、といった感じです。
 26 冬晴れや白鳥追ひし鴉二羽  中七の助動詞「し」は、過去にあったことという色合いが強い。この句の場合、過去の「し」を用いるより、「白鳥追うて鴉二羽」などとした方が自然のように感じます。
 29 東風吹きて働き口を探さむと  同じ働き口を探すにしてもその深刻さというかトーンは様々だと思いますが、この句の場合はかなり鷹揚な感じですね。周りは気を揉んでるかもしれませんが、なかなかの大物のようです。
 31 初午やきゆつきゆつと噛んでソーセージ  中七の字余りが気になる。二箇所の「つ」のどちらかを省けば一応字余りは解消できるのですが、どちらが良いか考えているうちに、今のままの形が良いような気もしてきました。擬音語による字余りの過剰さが、質感を強調しているというか…。
 32 片目して糸通しをる日永かな  非常によく分かる句。型もしっかり決まっている。
 34 角曲るたびに鋭利に恋の猫  「鋭利」な声というと、雄猫同士の威嚇し合いでしょうか。結構ぎょっとしますよね。角を曲がるたびにそんな衝突の場面に出くわすとは、すさまじく賑やかな町です。
 36 春の風邪など忘れよと医者の言ひ  ちょっと川柳っぽい趣き。「忘れよと」とあればセリフだと分かるので、句末の「言ひ」が重複しているようにも感じます。
 40 勉強が苦手受験子背をのばし  受験へと向かう、もしくは受験真っ只中の学生の句ですが、「勉強が苦手」と言い切ってしまうと、それが一句の答えになってしまう。句の中の描写から、勉強苦手そうだな、とか、緊張してるのかな、と実感を持って想像できるのが良い句なのではないかと思います。
 41 犬ふぐり花に正しき紺の線  犬ふぐりの花に紺の線があった、というだけでは見たままの句になってしまうところですが、「正しき」という踏み込んだ把握によって、存在感のある句になっています。採りたかった句です。
 43 恋猫やうましうましと朝の水  上五を「や」で切ると、水を飲んでいるのが猫なのか猫ではないのか、今一つはっきりしない句になってしまいます。
 47 教会のほとりの水の温みけり  この「水」は恐らく川か池のようなものだと思いますが、簡潔ながら
 48 山笑ふスイッチバックの待ち時間  内容というか、景としては良いと思うのですが、中七の字余りが不用意な感じがしますし、「待ち時間」というまとめ方も少しぴんと来ない。「スイッチバック待ちをれば」などとすんなり詠んだ方が良いのではないかと思います。
 51 菜の花や黒潮沖を蛇行して  大きな景の句ですが、船が蛇行してゆくのにかかる時間の長さを考えると、ゆったりとした時間も感じられます。
 56 イエスノー答へるゲーム亀が鳴く  はい・いいえで答えていくと最後に「あなたは○○タイプ」などという性格診断が出るようなゲームがありますね。「亀が鳴く」ののんびりした感じが良いです。
 59 向かうより耳先欠けし恋の猫  猫同士の戦いの激しさが想像されます。野性的でもあり、貫録も感じさせます。

 


来月の投句は、3月15日までに、3句お送り下さい・・・・・・投句はこちら

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