ハルヤスミ句会 第百七十九回

2015年9月

《 句会報 》

01 初風やつひ見てしまふ橋の下      タロー(◎案・み・一)

02 青春の蹉跌のごときパセリかな     益太郎(案・一)

03 夕立や目高の世界甕一つ        案山子

04 秋涼し工事現場の進みぐわい      みすず

05 鳴く虫や姿知らねどなつかしき     タロー(第)

06 卓上に愛の証としてトマト       沙代子(一・波)

07 宿題が気になる頃の法師蝉       益太郎(ル・時)

08 菊の酒まはり終電逃したる       ぐり

09 慟哭や三船慰霊碑荻の声        波子

10 あれこれと叩いて買わぬ西瓜かな    益太郎(奥・忠・鋼)

11 引越しの荷より盃星月夜        春休(沙・て)

12 鍵穴のしいんと星の流れけり      佳子(み・一・タ・ぐ・波・春・て)

13 墓なんど作らでええが大根蒔く     つよし(時・タ・て)

14 馬鈴薯を掘るや父母在はさねど     波子(タ)

15 油蝉沁み込んでくる狭き窓       沙代子

16 かなかなや路上に白き道を描く     佳子(第)

17 泣き寝子の涙の跡やちちろ虫      時人(第・忠)

18 唐黍を齧って妣を近うして       波子(タ・佳・春)

19 胎内に石育ちたる秋思かな       忠義(草・鋼)

20 百日紅咲けり食後の白と赤       順一

21 妙齢のをんなに似合ふ曼珠沙華     第九(時・奥)

22 ラフランス尻はまさしくジャンギャバン 草太(ぐ・波)

23 金風や首にうるさき社員証       てふこ(み・時・タ・佳・春)

24 トランプの王のウインク星月夜     ルカ(忠・益)

25 爽やかに森を濡らして雨脚は      てふこ

26 引越してまだ秋灯だけの部屋      春休(奥・ぐ・佳)

27 一人乗りひとり降りゆく月の舟     ルカ(沙・忠・ぐ)

28 夢果つる葛の裏風五丈原        案山子(第)

29 行合の空蜻蛉も恋をして        ルカ(第)

30 蛇穴に入るその前の身繕ひ       ぐり(み・奥・益・て)

31 ひとひらの葉になりきつて秋の蝶    沙代子(案・波)

32 皮付きの林檎が一個残る卓       順一

33 柚子の実をぎゅぎゅとしぼりし誕生日  ひろ子(春)

34 ふと話とぎれし二人浜の秋       草太(案)

35 燕帰る来年この子小学校        つよし

36 ドイツ語の辞書をトイレで読む九月   順一(忠)

37 残り蚊の注射針なる痛さかな      ひろ子(沙・時・益)

38 黒猫は確かこの路地ちちろ鳴く     時人(ル)

39 ウルトラマンしゅわつと仰ぐカシオペア みすず

40 天に銀河地に農民や賢治の忌      草太(益)

41 落下傘急降下せし秋の空        ひろ子(沙)

42 からからとほどけゆく糸曼珠沙華    佳子(益・波)

43 病室のパイプ椅子なる檸檬かな     忠義(ル・草)

44 特売の秋刀魚光つていたりけり     みすず(一・奥・鋼)

45 昼の虫スマートフォンで漫画見る    タロー

46 恋一途鳴きとほす虫鳴かぬ虫      案山子(み・ル)

47 占ひに愚者のカード出ふかし芋     ぐり(沙・佳)

48 すずむしや衣装ケースの大家族     時人(草・案)

49 一人居や昼餉よく噛み秋惜しむ     第九

50 図書館の休み水曜衣被         つよし

51 引越して五年になるが藷届く      春休(鋼)

52 深酒の朝渋茶で障子貼る        第九

53 家長なり秋刀魚の腸の旨さ説き     忠義(草・ぐ・佳・春・て)

54 冬瓜をたぷんと沈め鍋浅し       てふこ(ル・草・鋼)   





【 小島みすず 選(み) 】
○01 初風やつひ見てしまふ橋の下
○12 鍵穴のしいんと星の流れけり
○23 金風や首にうるさき社員証
○30 蛇穴に入るその前の身繕ひ
○46 恋一途鳴きとほす虫鳴かぬ虫
 今月は選評無しですが宜しく御願い致します。

【 中原和矢 選(和) 】
(今回はお休みです。)

【 石橋沙代子 選(沙) 】
○11 引越しの荷より盃星月夜
○37 残り蚊の注射針なる痛さかな
○27 一人乗りひとり降りゆく月の舟
○41 落下傘急降下せし秋の空
○47 占ひに愚者のカード出ふかし芋

【 ルカ 選(ル) 】
○07 宿題が気になる頃の法師蝉  その頃のセミの声も青春。
○38 黒猫は確かこの路地ちちろ鳴く  路地の猫の記憶。実感あります。
○43 病室のパイプ椅子なる檸檬かな  パイプ椅子に病室のわびしさ。レモンに哀愁。
○46 恋一途鳴きとほす虫鳴かぬ虫  雄弁な恋も無口な恋もあり。  
○54 冬瓜をたぷんと沈め鍋浅し  入れてから気づくこと。

【 青野草太 選(草) 】
○19 胎内に石育ちたる秋思かな
○43 病室のパイプ椅子なる檸檬かな
○48 すずむしや衣装ケースの大家族
○53 家長なり秋刀魚の腸の旨さ説き
○54 冬瓜をたぷんと沈め鍋浅し

【 石黒案山子 選(案) 】
◎01 初風やつひ見てしまふ橋の下
○02 青春の蹉跌のごときパセリかな
○31 ひとひらの葉になりきつて秋の蝶
○34 ふと話とぎれし二人浜の秋
○48 すずむしや衣装ケースの大家族

【 一斗 選(一) 】
○01 初風やつひ見てしまふ橋の下
○02 青春の蹉跌のごときパセリかな
○06 卓上に愛の証としてトマト
○12 鍵穴のしいんと星の流れけり
○44 特売の秋刀魚光つていたりけり

【 中村時人 選(時) 】
○07 宿題が気になる頃の法師蝉
○13 墓なんぞ作らんでええと大根蒔く
○21 妙齢のをんなのに似合ふ曼珠沙華
○23 金風や首にうるさき社員証
○37 残り蚊の注射針なる痛さかな
 他に気になった句は
 22 ラフランス尻はまさしくギャンギャバン
 40 天に銀河地に農民や賢治の忌
 42 からからとほどけし糸曼珠沙華
 50 図書館の休み水曜衣被り

【 土曜第九 選(第) 】
○05 鳴く虫や姿知らねどなつかしき  ずーっと美しい音色に聞き惚れて来ましたが確かにその姿形をまじましと観察してはいません。
○16 かなかなや路上に白き道を描く  夕方白線を引いたのは、子供達でしょうか、童心にかえった作者でしょうか。
○17 泣き寝子の涙の跡やちちろ虫  わんわんと泣いた子が眠りやっと訪れたしずかな時間。コオロギの音が自然に耳にはいってくる、。
○28 夢果つる葛の裏風五条丈原  大陸のワイドな情景がみえてきます。「つわものどもがゆめの跡」の句に通ずるものがある。 
○29 行合の空蜻蛉も恋をして  夏と秋が同居する空は雄大で美しい。

【 奥寺ひろ子 選(奥) 】
○10 あれこれと叩いて買わぬ西瓜かな  さもさも買うようなおじさん?
○21 妙齢のをんなに似合ふ曼珠沙華    曼珠沙華の美しさが言い当てられています。
○26 引越してまだ秋灯だけの部屋  一人住まいの寂しさ。 
○30 蛇穴に入るその前の見繕ひ  ユーモアがかんじられます。
○44 特売の秋刀魚光っていたり  値段も味も引き付けられます。

【 滝ノ川愛 選(愛) 】
(今回はお休みです。)

【 小林タロー 選(タ) 】
○12 鍵穴のしいんと星の流れけり  鍵穴に象徴された気持ち
○13 墓なんど作らでええが大根蒔く  地に生きて地にかえる 
○14 馬鈴薯を掘るや父母在はさねど  受け継がれた地の馬鈴薯を育てていく
○18 唐黍を齧って妣を近うして   妣 はは と読むのでしょう。唐黍にまつわる思い出があって、それも唐黍の季節になると思い出すという事でしょうが、ややあいまいな感じはしますが、頂きました。
○23 金風や首にうるさき社員証  うるさしは実景でもあり、囚われの身の心象でもある。

【 森田遊介 選(遊) 】
(今回はお休みです。)

【 小早川忠義 選(忠) 】
○10 あれこれと叩いて買わぬ西瓜かな  叩くのもいいけれど店の人の渋い顔も見てあげないと。
○17 泣き寝子の涙の跡やちちろ虫  赤子が疲れて眠る頃にはあたりは薄暗く。
○24 トランプの王のウインク星月夜  ウインクするトランプのキングはないけども遊興のさ中で楽しさがそうさせたか。
○27 一人乗りひとり降りゆく月の舟  なんだか不思議な気分にさせられる一句。訃報が相次ぐ中で愁いをそそる。
○36 ドイツ語の辞書をトイレで読む九月  Das、Dem、Dem、Dasだなどとものを出しながら口にも出したりなど。面白い。
 06 卓上に愛の証としてトマト  「として」はくどいので、愛の証がトマトであることを言い切ったほうがいい。
 12 鍵穴のしいんと星の流れけり  鍵穴が静寂を表すのってどこかで読んだことがある。
 20 百日紅咲けり食後の白と赤  ワインであることはちゃんと言わないと。
 22 ラフランス尻はまさしくジャンギャバン  「まさしく」の決め付けではなくてどうジャンギャバンと繋がるか作者の腕を見せて欲しい。
 50 図書館の休み水曜衣被  どう繋がるのかわからないので季語を替えてみたら面白くなるかも。
 54 冬瓜をたぷんと沈め鍋浅し  皮を剥いたりしないでそのまま冬瓜を鍋へ?

【 石川順一 選(順) 】
(今回は選句お休みです。)

【 涼野海音 選(海) 】
(今回はお休みです。)

【 松本てふこ 選(て) 】
○11 引越しの荷より盃星月夜  引っ越しの荷ほどきの序盤戦ですよね、これ。とりあえず終わった!って安堵の気持ち、新生活でも何はなくとも酒でしょ、という作中主体の生活における酒の優先順位、あーもーなんも片付いてねえ!というちょっとやけくそな気分、そういった状況を星月夜で受け止めているところがこの句を「漠然とだけれど前向き」なものにしているのかなと思って。カーテンもまだないのかもなあ。その漠然とした前向きさに共感しました。
○12 鍵穴のしいんと星の流れけり  こちらは引き払う直前の部屋のがらんとした空気が伝わります。星を登場させる必然性はさほど感じないけれど、綺麗にまとめた印象。
○13 墓なんど作らでええが大根蒔く  言った人の死生観が季語を据えるだけで分かってしまう。この季語は動かないなあ。根菜だってところがまたいい。
○30 蛇穴に入るその前の身繕ひ  「蛇穴に入る」で切れてると読みました。蛇に仮託しつつも、人間という生き物としてのしずかな気迫を感じさせてうつくしいです。
○53 家長なり秋刀魚の腸の旨さ説き  ちょっと鬱陶しいのですが気持ちは分かる!かるく茶化したような上五が大人っぽいですね。

【 川崎益太郎 選(益) 】
○24 トランプの王のウインク星月夜  キングのウインクは見たことはないが、星月夜ならウインクもさせたみたい気がする。
○30 蛇穴に入るその前の身繕ひ  蛇も穴に入る時は、身繕いをするかも知れない。
○37 残り蚊の注射針なる痛さかな  ジョギングでよく刺されて注射痕を作っている。実感の句。
○40 天に銀河地に農民や賢治の忌  やや付き過ぎの感もあるが、天と地の組み合わせが上手い。
○42 からからとほどけゆく糸曼珠沙華  曼珠沙華は糸細工のように見える。ほどけた糸の行方が知りたい。

【 草野ぐり 選(ぐ) 】
○12 鍵穴のしいんと星の流れけり  昔のアパートのような。一人住まいの部屋に帰り、鍵穴に鍵を入れる瞬間の気持ちだろうか。
○22 ラフランス尻はまさしくジャンギャバン  えっ。確かにラフランスのお尻はどっしりしているが、まさしくジャンギャバンとは。あまりにも思ってもみなかったのでとってしまいました。
○26 引越してまだ秋灯だけの部屋  カーテンも家具もなにも無い部屋。ただ秋灯だけが。でも淋しい句ではなく未来の明るさを感じさせる。
○27 一人乗りひとり降りゆく月の舟  この月の舟は彼岸と此岸を行き来しているような。幻想的な雰囲気に惹かれた。
○53 家長なり秋刀魚の腸の旨さ説き  上五でいきなり家長なりと言い切ったが。何となく新米の家長というか可愛らしさが漂う。家族も「へー」なんて言って聞き流しているような気が。

【 水口佳子 選(佳) 】
○18 唐黍を齧って妣を近うして  唐黍でなくてもいいかもしれないが、じんわり味わって、噛みしめているんだなあと。 
○23 金風や首にうるさき社員証  こんな爽やかな風が吹いているのに仕事に縛られて・・・という思いが〈うるさき〉に表れている。
○26 引越してまだ秋灯だけの部屋  ちょっと寂しい秋灯。こういうこともあるなあと共感。
○47 占ひに愚者のカード出ふかし芋  ふかし芋のとぼけたところが良い。上5、中7がやや説明的かも。
○53 家長なり秋刀魚の腸の旨さ説き 秋刀魚の腸の旨さがわかるようになればいっちょまえ。いきなり〈家長なり〉と宣言しているところがおかしい。

【 喜多波子 選(波) 】
○06 卓上に愛の証としてトマト 
○12 鍵穴のしいんと星の流れけり 
○22 ラフランス尻はまさしくジャンギャバン 
○31 ひとひらの葉になりきつて秋の蝶 
○42 からからとほどけゆく糸曼珠沙華 

【 中村阿昼 選(阿) 】
(今回はお休みです。)

【 鋼つよし 選(鋼) 】
○10 あれこれと叩いて買わぬ西瓜かな  叩いて買わないのも世の中あり
○19 胎内に石育ちたる秋思かな  石とはなにぞや聞いてみたい
○44 特売の秋刀魚光つていたりけり  秋刀魚やくのはどうもという家庭が多いとか
○51 引越して五年になるが藷届く  毎年豊作のあかし
○54 冬瓜をたぷんと沈め鍋浅し  滑稽味があってよい。

【 小川春休 選(春) 】
○12 鍵穴のしいんと星の流れけり  この鍵穴は、部屋の中から見たものか、外から見たものか。私は中から見たものと読みました。部屋から外へ開かれているのは、窓と鍵穴だけ。鍵穴の静かさ、暗さと窓の外の流星の躍動との対比が鮮やか。
○18 唐黍を齧って妣を近うして  妣とは、亡き母という意味の漢字。「近うして」という少し曖昧さのある表現も、様々な想像を誘う、良い方へ働いていると思います。かつて一緒に唐黍を食べた思い出を想像しても良いし、身近に母が居るように感じるというふうに読んでも良い。母が亡くなった年に自分が近づいている、という読みも有り得る。唐黍の甘みが母への思いも想像させてくれる。
○23 金風や首にうるさき社員証  具体的な景が見えるだけでなく、「うるさき」に込められたものが実感としてよく分かる。秋風ではなく金風というところも、中七下五の内容との対比が効いていると思う。
○33 柚子の実をぎゅぎゅとしぼりし誕生日  誕生日だから、自分の好きなメニューを。そこで選ばれたのが柚子というところが良い。焼き魚に柚子を少々絞って、なんてのも良いですね。
○53 家長なり秋刀魚の腸の旨さ説き  自分が家長になって思うのですが、家長って結構孤独なんですよね。この「家長」も、他の家族が秋刀魚の腸の旨さを理解してくれないのが、内心では寂しい。本当はその旨さを共有してくれる人がいてほしい、でもどこか意固地になってしまって偉そうになってしまう。
 01 初風やつひ見てしまふ橋の下  「つひ見てしまふ」と言うからには、去年かそれよりもっと前の年にも、つい橋の下を見てしまったことがあるのでしょうね。秋の初風が、そういう来し方のことなども、さりげなく、何となく思い起こさせます。
 03 夕立や目高の世界甕一つ  中七下五、確かにその通りではありますが、まとめすぎという印象です。目高にとって世界そのものという甕の中、その中でもいろいろな出来事や変化があると思うのです。そういうポイントに焦点を絞った方が、活き活きとした句になるのではないかと思います。
 04 秋涼し工事現場の進みぐわい  工事現場で働く屈強な作業員もやはり人間、秋になって過ごしやすくなると作業もペースが出て来たのでしょう。
 05 鳴く虫や姿知らねどなつかしき  丁寧に、共感を呼ぶ句として仕立てられていますが、秋の「虫」という季題の本意とこの句の内容とは、ほとんど重なっているように感じます。
 07 宿題が気になる頃の法師蝉  気分はよく分かりますが、「頃の」が少し説明的に感じます。さらりと「宿題が気になつてきし法師蝉」とでも詠んでおいた方が色々と想像が広がるように思います。
 08 菊の酒まはり終電逃したる  飄々とした句ですが、原因・結果になってしまっているような…。「まはり」が説明的な印象も受けるので、その辺りの内容は「菊の酒」という季語だけで読み取らせたい。「終電はとうに行きけり菊の酒」とでもしたいところです。
 09 慟哭や三船慰霊碑荻の声  第二次世界大戦末期、日本の降伏文書への調印予告後の昭和20年8月22日、樺太からの引揚者を乗せた日本船舶3隻がソ連軍の潜水艦による攻撃を受け沈没、1,700名以上が犠牲となった三船遭難事件。慰霊碑のある場所は知りませんが、荻の原に風が吹き過ぎて行く、そんな場所なのでしょうか。
 10 あれこれと叩いて買わぬ西瓜かな  客の側とすれば、実の充実ぶりを確かめるためにあれこれ叩いた訳で、思ったより手応えのない音がすれば当然買わない。店の側からすれば、商品を叩き回された上で買わないというのは気分が良くない。お互い言葉には出さないが、内面での攻防がある。
 13 墓なんど作らでええが大根蒔く  散骨などもだんだんと世間で市民権を得てきたようですね。これだけ核家族化も進み、生まれ育った土地を離れることも増えた現代では、墓を維持していくのも難しくなってきました。ただ、元気に大根を蒔いている様子を見ると、まだまだ墓が必要になるのは先の話、というふうにも見えますね。
 15 油蝉沁み込んでくる狭き窓  芭蕉の〈閑さや岩にしみ入る蝉の声〉と言葉は似ていますが、芭蕉の句は涼しさや澄んだ感じで、この句の油蝉は暑苦しい。その差が面白いですね。
 16 かなかなや路上に白き道を描く  蝋石で道にいろんなものを描く遊び、なつかしいですね。かなかなは、夕方でしょうか。まだ遊びたいけど、そろそろ家路につかなくてはいけない頃。
 19 胎内に石育ちたる秋思かな  生老病死と言いますが、ある程度の年代になってくると、病気と付き合っていかなくてはならなくなりますね。世間一般では当然のことでも、いざ自分のこととなると、いろいろと考えさせられます。
 22 ラフランス尻はまさしくジャンギャバン  ジャン・ギャバンがどんな尻だったかよく覚えていませんが(演じる役者によっても違うでしょうし…)、「まさしく」という言い切りでそう納得させられてしまう。
 25 爽やかに森を濡らして雨脚は  秋の通り雨を、森の大きさと時間の経過とともに描いています。「雨脚は」と言いさした形もなかなか巧みです。
 27 一人乗りひとり降りゆく月の舟  船と舟の漢字の使い分けは、舟の方がより小さな船、というふうに読めます。いかにも月の舟らしい、静かな句です。
 30 蛇穴に入るその前の身繕ひ  蛇が穴に入る、その前に念入りに身繕いをした。内容自体は良いと思うのですが、句の仕立てにはもっとメリハリが欲しいところ。「その前の」はちょっと説明的です。
 32 皮付きの林檎が一個残る卓  最後の一切れは遠慮して手を出しにくいもの。景としてはよく分かりますが、ちょっと物足りない感じもする句です。
 36 ドイツ語の辞書をトイレで読む九月  文献と辞書セットではなく、辞書だけで読むのも案外面白いものですよね(大学時代、第二外国語でフランス語を勉強してた頃を思い出しました)。そういう部分の面白さは感じるのですが、さて「九月」という季語が働いているかというと、ちょっと疑問です。
 45 昼の虫スマートフォンで漫画見る  ゆるい感じの句ですが、なかなか味がある。最先端の機械を手にしても、何をするかと思えば漫画を読んでいる訳ですから、どこかとぼけたような感じがしますね。
 47 占ひに愚者のカード出ふかし芋  愚者のカードが出ても、「あ、やっぱりなぁ」というような感じで受け流している、そんな印象です。「ふかし芋」の生活感が良い。
 48 すずむしや衣装ケースの大家族  生活感があってなかなか面白い句ですが、「大家族」まで言ってしまうと読み手の想像の余地が狭まるように感じます。衣装ケースの多さなどを描写することで大家族であることを読み手に想像させることが出来たら、さらに面白い句にできるかも知れません。
 49 一人居や昼餉よく噛み秋惜しむ  動詞が多いというか、詰め込みすぎてごちゃごちゃしてしまっている印象です。「一人居」はわざわざ言わなくて良いのではないか、「昼餉」と言わずに何を食べているかなど、もっと描くべきディテールがあるように思います。
 52 深酒の朝渋茶で障子貼る  意味も景もよく分かりますが、語順や内容が散文的な印象です。
 54 冬瓜をたぷんと沈め鍋浅し  何と言うことのない句のようですが、「たぷん」に鍋の浅さや冬瓜の大きさが感じられる。
 

 


来月の投句は、10月15日までに、3句お送り下さい・・・・・・投句はこちら

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