ハルヤスミ句会 第百八十四回

2016年2月

《 句会報 》

01 孤独とは違う孤高や寒鴉      益太郎(タ)

02 大雪が迎へるややの里帰り     第九(奥)

03 あらぬ方へ勝手気ままな氷柱かな  波子(忠)

04 何鳥の慌ただしきは春近し     案山子(益)

05 日脚伸ぶ句友の後ろ姿にも     波子(忠・ぐ)

06 ペンギンの足音いろいろ春近し   ルカ(草・順)

07 新築の基礎の打ち込み名残雪    つよし(奥)

08 雪掻や五十五歳で爺になる     第九

09 雪柳その一輪の開きたる      タロー

10 春一番父の怒鳴り声は聞けず    忠義

11 白梅や寡黙な父の紀行文      ひろ子(草・海・波)

12 船笛のたゆることなき野に遊ぶ   海音(一・タ・ぐ・春)

13 はるいちばん開脚前転二回半    佳子(ル・海・ぐ・春)

14 白梅や蓋だけ銀の彩りで      順一(タ)

15 三寒四温星占ひのあて外れ     忠義(第)

16 夕映に赤鬼の立つ節分会      一斗(順)

17 リリヤンや春一番も気づかずに   ぐり(奥・愛)

18 固き葉に隠れるように紅椿     ひろ子

19 春一番ひね臭き雨置き去りに    忠義

20 椀の蓋はづすや湯気が春灯へ    春休(草・奥・ぐ)

21 沼涸れて折れ棒っ杭に破れ土手   タロー

22 鬼の目に闇を宿して追儺      一斗(益)

23 反り返る準備運動山笑ふ      つよし(一・海・佳・波)

24 早春のインクで描く鳥の羽     ルカ(第・順・佳・春)

25 駐輪の倒して置きし春一番     ひろ子(忠)

26 一食を抜ゐてみやうか春めけり   波子(奥・愛)

27 鉄橋の先はもう止み名残雪     春休(忠)

28 旧正に印泥捏ねて均しもし     タロー(春)

29 薄氷やこのごろ朝日頼もしく    案山子(第・愛・鋼)

30 木蓮の芽吹き弾丸光りして     佳子(鋼・春)

31 春立つやあぶな絵に寄る男どち   愛

32 五年目の復興税欄申告期      つよし(ル・忠)

33 わが頭上春一番と舞ふ鴎      愛

34 ライオンの新しき家水温む     ルカ(順・佳・鋼)

35 土中の犬のむくろに春の雪     益太郎

36 どこをどう修正せんや春化粧    愛(ル・益)

37 雛の世の仕丁はいつも裸足かな   草太

38 受験子の鞄にビターチョコレート  ぐり(一・愛・タ・海・佳)

39 遍路杖高速バスを降りきたる    海音

40 癌研の灯寒夜も消えず多喜二の忌  草太

41 梅見してカメラ忘るる事悔いる   順一

42 早春の山に溜めたる力かな     案山子(第)

43 春こたつ貧乏神が離れない     益太郎(第・波)

44 風花やパラボラアンテナ同じ向き  第九(ル・愛)

45 小太りの独裁者出づ蝌蚪の国    草太(益・佳・鋼)

46 春の空スパゲッティーを追加する  順一(一)

47 日の出前猫用ドアに猫の妻     ぐり(順)

48 遠縁や鴬餅とメロンパン      一斗

49 椅子ひとつ余つてをりぬ卒業歌   佳子(草・一・益・波・鋼)

50 夕遍路小学校を過ぎゆけり     海音(ル・草)

51 鳥の恋つぎつぎ椀をまはし拭く   春休(タ・海・ぐ・波)   





【 ルカ 選(ル) 】
○13 はるいちばん開脚前転二回半  自分が風になったよう。
○32 五年目の復興税欄申告期  もう五年。いつまで続く政府無策。
○36 どこをどう修正せんや春化粧  どこをどうなおしてみてもふくわらい。
○44 風花やパラボラアンテナ同じ向き  いっせいに向いているのは、ある意味不気味。
○50 夕遍路小学校を過ぎゆけり  非日常と日常の交差点。

【 青野草太 選(草) 】
○06 ペンギンの足音いろいろ春近し
○11 白梅や寡黙な父の紀行文
○20 椀の蓋はづすや湯気が春灯へ
○49 椅子ひとつ余つてをりぬ卒業歌
○50 夕遍路小学校を過ぎゆけり

【 石黒案山子 選(案) 】
(今回は選句お休みです。)

【 一斗 選(一) 】
○12 船笛のたゆることなき野に遊ぶ
○23 反り返る準備運動山笑ふ
○38 受験子の鞄にビターチョコレート
○46 春の空スパゲッティーを追加する 
○49 椅子ひとつ余つてをりぬ卒業歌

【 中村時人 選(時) 】
(今回はお休みです。)

【 土曜第九 選(第) 】
○15 三寒四温星占ひのあて外れ  頭では分かっている占いの実現性。期待はづれ感がうまく季語とシンクロしていると思います。 
○24 早春のインクで描く鳥の羽  明るく柔らかい色彩が目に浮かびます。
○29 薄氷やこのごろ朝日頼もしく  まだまだ朝は寒いですが確かに日差しに力がみなぎってきた感じがします。
○42 早春の山に溜めたる力かな  草花、木々、鳥、動物たち、みんな山々のエネルギーを頂いて活動を始めます。     
○43 春こたつ貧乏神が離れない  一人部屋に篭って悶々としているやるせなさが伝わってきます。

【 奥寺ひろ子 選(奥) 】
○02 大雪が迎へるややの里帰り  わあ、行く人も迎える人もたいへんですね。
○07 新築の基礎の打ち込み名残雪  名残雪が融けたら、どんどん建築がすすみそうですね。
○17 リリヤンや春一番も気づかずに  なつかしいですね。ついつい夢中になってしまいます。
○20 椀の蓋はづすや湯気が春灯へ  椀の中には温かいどんなごちそうが入っているのでしょうか。
○26 一食を抜ゐてみやうか春めけり  女性の気持ちを表していると思います。

【 滝ノ川愛 選(愛) 】
〇17 リリヤンや春一番も気づかずに
〇26 一食を抜ゐてみやうか春めけり
〇29 薄氷やこのごろ朝日頼もしく
〇38 受験子の鞄にビターチョコレート
〇44 風花やパラボラアンテナ同じ向き

【 小林タロー 選(タ) 】
○01 孤独とは違う孤高や寒鴉  孤高を孤独と対にしないで、孤高だけで寒烏と詠んだら、もっと孤高が出るように感じました。
○12 船笛のたゆることなき野に遊ぶ  汽笛とは違う感慨が船笛で湧いてきて成功だとおもう。野にもあっている。
○14 白梅や蓋だけ銀の彩りで  景がはっきりしないが、いかようにも読めるところが味か。
○38 受験子の鞄にビターチョコレート  ビターが幾重にもイメージを膨らませてよかった。景をきっちり定める必要はないと思う。
○51 鳥の恋つぎつぎ椀をまはし拭く  季語の意外性がよい。

【 森田遊介 選(遊) 】
(今回はお休みです。)

【 小早川忠義 選(忠) 】
○03 あらぬ方へ勝手気ままな氷柱かな
○05 日脚伸ぶ句友の後ろ姿にも
○25 駐輪の倒して置きし春一番
○27 鉄橋の先はもう止み名残雪
○32 五年目の復興税欄申告期  

【 石川順一 選(順) 】
○06 ペンギンの足音いろいろ春近し  季語は「春近し」。ペンギンの動作に春の胎動が感じられます
○16 夕映に赤鬼の立つ節分会  季語は「節分会」。夕映えに映える鬼。
○24 早春のインクで描く鳥の羽  季語は「早春」。早春のインクで鳥の羽も早春の感じが。
○34 ライオンの新しき家水温む  季語は「水温む」。ライオンの新屋。俳味があります。
○47 日の出前猫用ドアに猫の妻  季語は「猫の妻」。猫用ドアが出色ですね。猫の妻と共振して居ます。

【 涼野海音 選(海) 】
○11 白梅や寡黙な父の紀行文  「白梅」と「寡黙な父」が響きあう。
○13 はるいちばん開脚前転二回半  春一番と「開脚前転二回半」が関係が面白い。
○23 反り返る準備運動山笑ふ  準備運動の具体的な描写がよい。ラジオ体操にもたしか、このような動きがあったはず。
○38 受験子の鞄にビターチョコレート  受験の子の鞄に入っていたのはチョコレート。短時間で栄養補給するのに、ちょうどよい。
○51 鳥の恋つぎつぎ椀をまはし拭く  「鳥の恋」の賑やかさが、出ている一句。「つぎつぎ」が「鳥の恋」にも繋がっているようにも読め、勢いがある。

【 松本てふこ 選(て) 】
(今回はお休みです。)

【 川崎益太郎 選(益) 】
○04 何鳥の慌ただしきは春近し  何の鳥か言わないのがいい。
○22 鬼の目に闇を宿して追儺  鬼の目の闇が不気味。
○36 どこをどう修正せんや春化粧  修正が難しい顔、俳味がある。
○45 小太りの独裁者出づ蝌蚪の国  季語が可哀想であるが北朝鮮の実態。
○49 椅子ひとつ余つてをりぬ卒業歌  不幸にして卒業できなかった友の席。

【 草野ぐり 選(ぐ) 】
○05 日脚伸ぶ句友の後ろ姿にも     
○12 船笛のたゆることなき野に遊ぶ  
○13 はるいちばん開脚前転二回半 
○20 椀の蓋はづすや湯気が春灯へ
○51 鳥の恋つぎつぎ椀をまはし拭く 

【 水口佳子 選(佳) 】
○23 反り返る準備運動山笑ふ  琴バウアーか?「反り返る」に春の気分が
○24 早春のインクで描く鳥の羽  ペン画の細密描写、鳥の羽の1本1本が筆を進めるほどに力強くなっていく。完成したら飛び立っていきそうなそんな早春。
○34 ライオンの新しき家水温む  「新しき家」には若いライオンが?水温むの季語がほどよい感じ。
○38 受験子の鞄にビターチョコレート  ちょっと分かりすぎるかなあと思いつつ
○45 小太りの独裁者出づ蝌蚪の国  どこかの国の独裁者を思った。蝌蚪が群れて右往左往している様子が目に浮かぶ。

【 喜多波子 選(波) 】
○11 白梅や寡黙な父の紀行文  
○23 反り返る準備運動山笑ふ 
○43 春こたつ貧乏神が離れない
○49 椅子ひとつ余つてをりぬ卒業歌   
○51 鳥の恋つぎつぎ椀をまはし拭く  

【 中村阿昼 選(阿) 】
(今回はお休みです。)

【 鋼つよし 選(鋼) 】
○29 薄氷やこのごろ朝日頼もしく  頼もしくが的確な措辞です。
○30 木蓮の芽吹き弾丸光りして  弾丸光り こんな表現もあると素敵です。
○34 ライオンの新しき家水温む  中七、下五の展開が意外でした。
○45 小太りの独裁者出づ蝌蚪の国  21世紀の動物農場。
○49 椅子ひとつ余つてをりぬ卒業歌  想像がいろいろできて秀作です。
 選外として
 08 雪掻や五十五歳にて爺になる
 36 どこをどう修正せんや春化粧

【 小川春休 選(春) 】
○12 船笛のたゆることなき野に遊ぶ  船笛から、海の近くと分かる。そうすると、単なる「野」ではなく、近くに海のある、潮風の届く野が見えてくる。そういう場面が見えることで、野遊びというものも臨場感を持って想像される訳です。絶えることのない船笛ということは、けっこう大きな港が近くにあるのかも知れませんね。
○13 はるいちばん開脚前転二回半  平仮名表記の「はるいちばん」から、体操服の小学生を想像します。開脚前転二回でぴたっと止まっておけば良かったところを、勢い余って半回転分余計に回って(転がって?)ひっくり返ってしまったようです。そんな元気の良い姿が目に浮かぶ。
○24 早春のインクで描く鳥の羽  インクで鳥を描いた、というのでは景が曖昧になってしまうところを、鳥の羽とポイントを絞ったところが良い。まるでしんにょうのようにペンをすーっと払って鳥の羽を描いている動きまで想像されます。季語もなかなか良く働いている。
○28 旧正に印泥捏ねて均しもし  主に中国などで祝われる旧正月。その飾りの色彩感覚も、日本の新年の飾りとはまた異なる良さがあります。印泥の色合いに、中国の旧正月の色彩感覚を想像させられますね。
○30 木蓮の芽吹き弾丸光りして  活き活きしているというだけでは言い尽くせない、木蓮の芽吹きのぎらぎらした感じを、「弾丸光り」とはよく言った。
 02 大雪が迎へるややの里帰り  「が」と擬人的に表現してあるところがこの句のポイントなのですが、それを良しとするかで読み手の評価は分かれます。私は、「大雪に」ぐらいの方が良いような気がします。
 03 あらぬ方へ勝手気ままな氷柱かな  面白い所に目をつけたと思いますが、「あらぬ方へ」と「勝手気ままな」を両方詠み込むのは少しくどいように感じます。氷柱があらぬ方へ伸びている、もしくは、勝手気ままに伸びている氷柱。それだけで充分面白い。もっとシンプルにした方がその面白さが生きてくると思います。
 06 ペンギンの足音いろいろ春近し  恐らくは水族館、沢山のペンギンたちが、いろいろな足音を立てながら行き来している。春の兆しを聴覚から感じ取っているところが良いですね。
 08 雪掻や五十五歳で爺になる  昨今の晩婚化・少子化の世の中からしたら、五十五歳で孫を持つというのは珍しいことかもしれませんね。まだまだ雪掻きでも現役、若々しい「爺」です。
 10 春一番父の怒鳴り声は聞けず  上五の字余りと中七下五の句またがりとが相俟って、リズムが悪い句になっている。
 11 白梅や寡黙な父の紀行文  寡黙な父がどのような紀行文を書いたのでしょうか。やはり、簡潔に必要最低限の事柄をきっちり書いたような、そんな文章でしょうか。季語の働きで、そんな文章が想像されます。
 14 白梅や蓋だけ銀の彩りで  何の蓋かは述べられていませんが、小物入れのようなものでしょうか。白梅の雰囲気ともよく合います。
 18 固き葉に隠れるように紅椿  「ように」とか「ごとく」とかのような曖昧、比喩的な表現は、使い方に気をつけないとぼんやりした内容の句になってしまいます。この句の場合も、「固き葉に隠れ切らずよ紅椿」などとした方が、葉の質感や椿の存在感が出ると思うのですが、いかがでしょうか。
 22 鬼の目に闇を宿して追儺  意味は分かるのですが、下五が字足らずではありませんか。それとも「追儺」に「ついな」以外の読み方があるのでしょうか。
 25 駐輪の倒して置きし春一番  助詞も含めた語順や言い回しがあまり整理されていないせいで、どういう内容なのかよく分かりません。春一番が自転車を倒して行ったということでしょうか。
 26 一食を抜ゐてみやうか春めけり  露出が多くなるシーズンに向けて、少しダイエットを、ということでしょうか。
 31 春立つやあぶな絵に寄る男どち  こういうものについつい寄っていってしまう、男の動物的な行動ですね。人様に迷惑をかけるようでなければ、どうぞあたたかく見守ってやってください…。
 32 五年目の復興税欄申告期  いつまで納めなくてはならんのだ、という心情でしょうか。ただ、被災地がもう完全に復興したか、と言うとそうでもなく…。
 34 ライオンの新しき家水温む  私がライオンの生態に詳しくないだけなのかも知れませんが、「新しき家」と言われてもあまりピンと来ませんでした。ライオンは、家でなくて巣ではないですか? しかし、ライオンの巣自体、ちょっとした洞穴や木蔭にライオンが集まっているという程度のもので、「新しき」というのもどういう状態を指すのかよく分かりません。
 36 どこをどう修正せんや春化粧  面白い句だな、とは思いながらも、「春化粧」という季語は結構苦しいような気もします。
 39 遍路杖高速バスを降りきたる  現代的な景。そして何だか旅慣れている感じで颯爽としていますね。
 44 風花やパラボラアンテナ同じ向き  街中でふと出会った風花。たくさん見えるパラボラアンテナは、高層集合住宅のものでしょうか。景がくっきり見えてくる句です。
 45 小太りの独裁者出づ蝌蚪の国  おそらく極東の某国のことをイメージしておられるのだと思いますが、日本の現在の政治家たちを見ても、他国のことを言えるほど立派な状況ではない(というか五十歩百歩)のが何とも悲しいですね。
 46 春の空スパゲッティーを追加する  食欲旺盛、いかにも春らしい感じです。
 48 遠縁や鴬餅とメロンパン  「鴬餅とメロンパンは遠縁だよ」ということを言っているのでしょうか。だとしても何のことかよく分かりませんが…。見た目から名前がついた食べ物、という共通点を指して「遠縁」と言っているのでしょうか。だとしても共通点があるイコール遠縁というのもよく分からない理屈です。
 49 椅子ひとつ余つてをりぬ卒業歌  体調不良か何かで、卒業式を欠席せざるを得なかった生徒の椅子がひとつ、余っていたのでしょう。あっさりした詠みぶりですが、景も見え、想像も広がる句です。
 50 夕遍路小学校を過ぎゆけり  小学校という生活の場と、遍路という旅の場。その二つが交差するところに少し不思議な感覚が生まれています。夕方であることも、それを助長しているようです。採りたかった句。

 


来月の投句は、3月15日までに、3句お送り下さい・・・・・・投句はこちら

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