【 ルカ 選(ル) 】
○06 海みゆる一間に男雛女雛かな 海の見える一部屋。景が広がります。
○17
春雷や水中に根の伸びてをる 水中がポイント。
○30 ねこぐるまはうれんさうをこぼしけり いかにも。大原女を思い出しました。
○32
遠き三月女先生嫁ぎゆく 遠い日のやさしい記憶。
○34 鳥雲に眼鏡かけるかかけまいか とまどいの瞬間。
【 青野草太 選(草) 】
○03 微かなる千鳥の曲や雛の部屋
○11
三月のグレン・グールド疾走す
○23 旧字体ルパン全集春深し
○26 胸中を形にすればしゃぼん玉
○27
終点を知らずにおぼろ夜のバスに
【 石黒案山子 選(案) 】
○10 鶏合逃げず臆せず狡もせず
○27
終点を知らずにおぼろ夜のバスに
○28 ひとつでは買へぬ名代の桜餅
○29 さまざまの芽吹きのありて花辛夷
○37
二つ三つ直に幹よりはつざくら
【 一斗 選(一) 】
(今回はお休みです。)
【 中村時人 選(時) 】
○01 急流の真上や鳥の恋さなか
○05
呼び鈴の鳴れどぐずぐず風邪寝かな
○06 海みゆる一間に男雛女雛かな
○09 一湾の魚臭が届く彼岸西風
○28
ひとつでは買へぬ名代の桜餅
他に気になった句は
02 実万両隠しきれない袖の下
18
かりかりとトタン屋根にて鳥交る
26 胸中を形にすればしやぼん玉
【 土曜第九 選(第) 】
(今回はお休みです。)
【 奥寺ひろ子 選(奥) 】
○09
一湾の魚臭が届く彼岸西風 魚も動き出し始めた知らせですね。
○12 三月の光を浴びる針の穴 隅々まで行き届いていく光。
○13
この息を離れてゆきししゃぼんだま 一瞬で生まれ離れていくしゃぼんだま。
○22
風光るキリンの丈に葉が生ひて キリンがおいしそうにむしゃむしゃ葉を食べている景がうかびます。
○31
紅椿落ちしも色を失なはず 朽ちるまで、紅椿であり続ける
【 滝ノ川愛 選(愛) 】
○02 実万両隠し切れない袖の下
○21
亡き人へエコ風船に思慕のせる
○34 鳥雲に眼鏡かけるかかけまいか
○39 一度だけカーテンコール春の夢
◎41
目隠しの手は姉さんや春夕焼
【 小林タロー 選(タ) 】
○01 急流の真上や鳥の恋さなか 忙しなさの二乗だ。
○09
一湾の魚臭が届く彼岸西風 涅槃西風が臭いとは。
○14 山笑ひて地中を深く活断層 破調が不気味。
○19
草色の複眼欲しき弥生かな 草色の眼でみると(しかも複眼)世間はどう見えるのかな。
○45
花冷や加速しながら目薬来 たしかにそう見えます。
【 森田遊介 選(遊) 】
(今回はお休みです。)
【 小早川忠義 選(忠) 】
○09
一湾の魚臭が届く彼岸西風 彼岸の頃には湾の中に宿る命も活気づく。
○18
かりかりとトタン屋根にて鳥交る 生命の息吹が冷たいトタン屋根を伝って耳まで伝わってくる。
○20
キューピーの眼の先のおぼろかな キューピーって実は真正面を向いていない場合が多い。作者が対峙しているキューピーが微妙に視線を外して朧の空の風景を眺めているとはなんてロマンチック。
○36
茎立のコップの中で太く成り 切ってきた茎立がさらに持つ生命力だと取らせてもらった。意地悪く言えば水耕栽培なのかコップの中に差して太く見えたのかいろいろ意味を
取ることが
できる。
○44
雨粒やはうれんさうの直売に 雨粒を払う人もいなくて瑞々しいほうれん草。上五と下五を入れ替えてもいいと思われる。
02
実万両隠し切れない袖の下 「袖の下」を賄賂と想像させようとするあざとさが鼻につく。
04
春炬燵犬の記憶の薄く成り 作者の記憶なのか犬自体の記憶なのかがこのままでは曖昧。
07
義理チョコを奪い合うのも猫の恋 猫の恋は一心に交尾をしているはずなのでせっかくのチョコを奪い合う可愛らしい様子がぼやけてしまう。
11
三月のグレン・グールド疾走す グレン・グールドはピアニストだということが調べて分かった。疾走する曲調を名前を出さずに表現し得るかが腕の見せ所。個人名は詞書で良いかも知れない。
15
るんるんとアルミ風船あとを浮く 下五がわからない。恐らく気持ちだけが先走っている。アルミ風船のあの感覚を別の言葉で詠んでみたいと思った。
25
離婚して未婚の妹と沈丁花 「離婚して未婚」とつながるのでどちらなのかと一瞬思う。結婚を巡る動詞には様々なものがある。
【 石川順一 選(順) 】
○05
呼び鈴の鳴れどぐずぐず風邪寝かな 季語は「風邪」。風邪に甘えて起きられない。ぐずぐずと春眠に・・
○13
この息を離れてゆきししやぼんだま 季語は「しゃぼんだま」。科学的に言えばそうであろうだけでは無くて主観的な哀惜の念が感じられる。
○22
風光るキリンの丈に葉が生ひて 季語は「風光る」。丘でしょうか。或いはそれだけ背の高い草か。キリンが眩しい。
○33
桜咲くスーツケースのまぶしさに 季語は「桜」。スーツケースの眩しさと桜が一心同体と成る程桜が眩しくきらびやかに感じられる。
○43
出窓よりレゲエ流るる花曇 季語は「花曇」。ただの出窓だと思ったら音楽が。レゲエとは驚きだ。せいぜいジャズぐらいしか想定出来なかった。
【 涼野海音 選(海) 】
○01
急流の真上や鳥の恋さなか 水音と鳥の声が、せめぎあうかのよう。
○17
春雷や水中に根の伸びてをる 春雷と水中の根、どことなくシュールです。
○22
風光るキリンの丈に葉が生ひて 童心に返ることができる句。
○23 旧字体ルパン全集春深し 旧字体というのが味わい深い。
○43
出窓よりレゲエ流るる花曇 流れている「レゲエ」が、意外な発見。
【 松本てふこ 選(て) 】
(今回はお休みです。)
【 川崎益太郎 選(益) 】
○04
春炬燵犬の記憶の薄く成り 死んだ愛犬の記憶と春炬燵。取り合わせが面白い。
○10
鶏合逃げず臆せず狡もせず 今の政治家に欲しいもの。
○16 体毛に白きを見つけ亀の鳴く 初老の衝撃。季語が上手い。
○27
終点を知らずにおぼろ夜のバスに 15人が死んだバス事故。
○35
朧三日月カラヴァッジョ失踪す 朧と写実に徹した画家との取り合わせが上手い。
【 草野ぐり 選(ぐ) 】
(今回はお休みです。)
【 水口佳子 選(佳) 】
○01
急流の真上や鳥の恋さなか 急流・鳥の恋・さなか・・・とくれば激しい恋に決まっている。鳥の動き、必死さ、命の躍動を感じる。
○12
三月の光りを浴びる針の穴 針の穴という微小なものへの視点がよい。柔らかな春の日差しのなかでの針仕事、懐かしさもある。
○27
終点を知らずにおぼろ夜のバスに 少し作り事っぽいが、物語を感じる。終点というのはあるいは人生の終点のことかもしれない。
○30
ねこぐるまはうれんさうをこぼしけり ひらがな表記が効いていると思う。猫車はバランスがとりにくく案外扱いにくいもの、そのぎこちなさがひらがなに表れているような。特に内容があるというわけではないがその無意味さがいい。
○33
桜咲くスーツケースのまぶしさに いろいろな旅立ち、真新しいスーツケース、希望にあふれた句。明るすぎ?
【 喜多波子 選(波) 】
○04 春炬燵犬の記憶の薄く成り
○14
山笑ひて地中を深く活断層
○32 遠き三月女先生嫁ぎゆく
○39 一度だけカーテンコール春の夢
○41
目隠しの手は姉さんや春夕焼
【 中村阿昼 選(阿) 】
(今回はお休みです。)
【 鋼つよし 選(鋼) 】
○18
かりかりとトタン屋根にて鳥交る 音があって明るく感じました。
○23
旧字体ルパン全集春深し 行間が詰まって、文字も小さく好きです。
○24 この人と三十余年雛の宿 実感があふれ出ています。
○28
ひとつでは買へぬ名代の桜餅 同情しました。
○29
さまざまの芽吹きのありて花辛夷 花辛夷が上五、中七にあっている。
選句外では
33
桜咲くスーツケースのまぶしさに
【 小川春休 選(春) 】
○09
一湾の魚臭が届く彼岸西風 彼岸頃になると、生き物たちがいよいよ活発に活動を始める。風が運んでくる魚の臭いも、気温の上昇も相俟って、生々しいものになってくる。そういう感じが強く出ている句だと思いました。ただ、「が」ではなく「の」とした方が句の奥行き、落ち着きが出ると思います。
○18
かりかりとトタン屋根にて鳥交る 上五中七の描写から、鳥の脚の爪まで想像されてきます。いろいろなごちゃごちゃした状況を「鳥交る」という季語一つにまかせてしまって、それ以外の部分の描写にしっかり言葉を使っているところが良いですね。
○30
ねこぐるまはうれんさうをこぼしけり 率直に、大らかに詠まれているところが良いですね。猫車いっぱいに収穫されたほうれん草が見えてくる。いかにも明るい句です。
○33
桜咲くスーツケースのまぶしさに 「まぶしさ」と言ってしまわずにもっと具体的に描写することが可能なのではないか、という気もしますが、桜と光を反射するスーツケースとを取り合わせた感覚は瑞々しくて良いなと思います。
○43
出窓よりレゲエ流るる花曇 「隣は何をする人ぞ」と芭蕉翁は詠みましたが、春、桜の時期にレゲエとはちょっと意外ですね。
02
実万両隠し切れない袖の下 蕉風流行以前の談林俳諧のような…。ちょっと趣向が古いのではないでしょうか。
04
春炬燵犬の記憶の薄く成り 意図的に、堅い言葉での表現にされていますが、犬がいなくなってしまったことのさみしさがしみじみと伝わってくる句です。
05
呼び鈴の鳴れどぐずぐず風邪寝かな 呼び鈴が鳴っているけどなかなか出られないのは風邪を引いているから、と一句の中で原因と結果が述べられています。
07
義理チョコを奪い合うのも猫の恋 猫はチョコレート食べるのだろうかと思って調べてみたところ、「チョコレートに含まれるカカオの成分は中枢神経を刺激するため、犬や猫には毒となる。約4.5kgの犬の場合は、60グラム(小さめの板チョコ1枚分)で致死量になる」そうです。猫に義理チョコを奪われないように飼い主が注意してください。
08
雪雲の端に連なる春の雲 私自身がこういう景を見たことがなく、雪雲と春の雲とが一度に見られるような景を見てみたいですね。
11
三月のグレン・グールド疾走す 何となく雰囲気は分かるのですが、何故三月なのかについてはあまり説得力がないように感じました。雰囲気以上の確かなものが欲しいところです。
14
山笑ひて地中を深く活断層 上五の字余りが効果的でないように感じます。「山笑ひ」か「山笑ふ」とすれば普通に五音に収まります。
16
体毛に白きを見つけ亀の鳴く 夜、湯船で一息ついているときに思わぬところで見つけた白髪。老いを感じる瞬間ですが、季語のおかげで深刻になりすぎずに、とほほ感が出ています。採りたかった句。
17
春雷や水中に根の伸びてをる 春雷と水中に伸び広がる根とに、そのフォルムの共通性を見て取られたのだと思います。視覚的な感覚の鋭さを感じる句です。一つ気になったのは、下五の「伸びてをる」が意味的にも響きとしても、ちょっと緩みを感じさせる表現であるところです。ここをもっと緊迫感のある表現に出来れば、さらに良い句になると思います。
19
草色の複眼欲しき弥生かな バッタか蜻蛉にでもなってみたい、ということでしょうか。複眼にどんな景が見えるのか、気になりますね。
22
風光るキリンの丈に葉が生ひて 何だか少し不思議な句です。ぽっかりと木とキリンだけが浮かんでくる。
23
旧字体ルパン全集春深し 季語からも、これまでこの書物が経てきた時間の重みが感じられます。これも採りたかった句。
25
離婚して未婚の妹と沈丁花 上五の「離婚して」が妹に掛かるのかそうでないのかも分かりにくく、また、「妹」は所謂女きょうだいではなく恋人や妻を指す場合が俳句ではままあり、いろいろな意味で分かりにくい句になっています。
28
ひとつでは買へぬ名代の桜餅 報告に過ぎないのではないでしょうか。
29
さまざまの芽吹きのありて花辛夷 確かに辛夷の花の咲く時期はこういう感じなのですが、一句としては少し漠然としているような印象も覚えます。
31
紅椿落ちしも色を失なはず 「落椿」と言えば一言で済むところを五七五にしただけのように感じます。
32
遠き三月女先生嫁ぎゆく 高柳重信の〈きみ嫁けり遠き一つの訃に似たり〉を少し思い出しました。ただ、この句の場合、「遠き」が何に掛かるのか、少しピンと来ないところがありますね。
42
牛丼や早春そろそろ終りかな 「や」「かな」と切れ字を二つ使ってはまとまりが悪い。上五は「や」でなく「に」で良いのではないでしょうか。
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