ハルヤスミ句会 第百九十二回

2016年10月

《 句会報 》

01 ハモニカの「ファ」のあたり住み秋暑し  草太(え)

02 狩野川の水押され来る九月かな      さんきう(ル・春)

03 まだ鳴かぬ透明の蝉温き夜        奈央

04 赤蜻蛉一匹きりやそれきつきり      つよし

05 木の柵にもたれて秋を惜しみけり     海音(時)

06 天の川行きの青春切符かな        益太郎(順)

07 小鳥来る老チェリストの弾くバッハ    ルカ(草・案・奥・海)

08 鳳仙花ぽつぽつ滅ぶ妣の下駄       みなと(え・さ)

09 ひと枝の揺れて小鳥の来たりけり     ルカ(案・佳・春)

10 倒木にかすかなぬくみ秋の風       海音(え・時・奥・益・ぐ・佳・鋼)

11 虫籠は動くばったと蝉のから       つよし(奈・三)

12 子規の忌や十四五本って何だっけ     益太郎

13 体育の日や花笠の積まれあり       忠義(さ・草・案・愛・ぐ)

14 誰もゐぬ庭の鬼灯鳴らしけり       海音

15 龍淵に潜み休耕田の水を噛む       みなと(順・鋼)

16 たまに逢ふからよしなんて思草      忠義(愛・益)

17 雀蛤となる小学校の学芸会        つよし(益)

18 三代のマトリョーシカや着ぶくれて    草太(奥)

19 秋うらら不定期休の古本屋        ルカ(海・佳・三)

20 槍千本貫く茎の曼珠沙華         案山子

21 擦れ疵の秋茄子ばかり売られをり     時人(三)

22 軍手はめ銀杏拾う早さかな        ぐり(時・順)

23 夏の子の泣いていないと泣きながら    奈央(忠)

24 廃線と廃屋が好き葛の花         益太郎(案・鋼)

25 うすづくや家路に迫る虫時雨       ひろ子

26 灯火親しむももいろの抜糸あと      春休(え・忠・佳)

27 名月や瓦の描く寺の町          案山子

28 水槽のやうな音楽室秋思         佳子(え・海・ぐ)

29 虫集く父ちゃんおとんパパおやじ     えみこ(益)

30 葉の散りて隠れ現る熟柿かな       愛

31 指先に搾る酢橘の種こぼれ        忠義(ぐ)

32 駅前のバス秋の日を溜めゐたり      さんきう(奈・草・案)

33 芋虫や蔓を揺らして上目指す       順一

34 新盆や彼の母校は敗れけり        奈央(忠)

35 秋雨や元気を貯めてゐるところ      案山子(ル・愛)

36 終電や大森蒲田夜業の灯         草太(順・三・鋼)

37 主去りて乱るるままの小菊かな      愛(ル・鋼)

38 虫の夜や湯を溢れさせ我がからだ     春休(さ)

39 千眼堂吊り橋紅し秋の声         みなと

40 入れ替えの衣類を干すや秋日和      ひろ子

41 枯蔓を引つぱりみれば烏瓜        愛(奥)

42 水色の駐禁キップ後の月         ぐり(草・順・益・佳)

43 葡萄棚見えない星の出す光        えみこ(春)

44 息長く終はる讃美歌秋の薔薇       佳子(さ・奥・ぐ・春)

45 夜長にはジュディマリ聞いて選をする   順一

46 素十忌や影踏みの子の影長し       時人(愛・海)

47 脱ぎやすき秋の服なり床に落つ      ぐり(奈・さ・草)

48 きらめきに棹さし行くや冬隣       さんきう

49 寒暖差激しく朝夜寒きかな        順一

50 刈られたる棚田に残る案山子かな     ひろ子(時・三)

51 長き夜や背丈のとめどなく伸びて     春休(奈・忠・海)

52 柿熟れてあけすけという間柄       えみこ(奈・ル・愛・忠・春)

53 秋深し三日続けてカレー食ふ       時人

54 穂は風に濯がれ秋の深きへと       佳子(ル・時)




【 小中奈央 選(奈) 】
○11 虫籠は動くばったと蝉のから
○32 駅前のバス秋の日を溜めゐたり
○47 脱ぎやすき秋の服なり床に落つ
○51 長き夜や背丈のとめどなく伸びて
○52 柿熟れてあけすけという間

【 水玉 選(水) 】
(今回はお休みです。)

【 えみこ 選(え) 】
○01  ハモニカの「ファ」のあたり住み秋暑し
○08  鳳仙ぽつぽつ滅ぶ妣の下駄
○10  倒木にかすかなぬくみ秋の風
○26  灯火親しむももいろの抜糸あと
○28  水槽のような音楽室秋思

【 賢人 選(賢) 】
(今回はお休みです。)

【 乃愛 選(乃) 】
(今回はお休みです。)

【 さんきう 選(さ) 】
○08 鳳仙花ぽつぽつ滅ぶ妣の下駄  「滅ぶ」がキモですね。こういう風な言い方をされると、採らされてしまうんだよなー。全体の雰囲気が妖しげで気に入りました。
○13 体育の日や花笠の積まれあり  これは「体育の日」を下五にした方がいいと思った。「たいくのひ」と読む感じだと字余り感も無いし…。
○38 虫の夜や湯を溢れさせ我がからだ  むう。こういうナルちゃん(ナルシスト)の句、嫌いではない。季語はこれでいいの?と思ったが、これで良いのかも…。
○44 息長く終はる讃美歌秋の薔薇  賛美歌の終わりが「息長い」ことを発見したのが手柄、ということなんでしょうね。西洋的な植物を合わせなければいけないもんなのかな。
○47 脱ぎやすき秋の服なり床に落つ  一目、「床に落つ」が余計、と思いましたが、ここが眼目だった。服が床に落ちた後のドラマを妄想。

【 ルカ 選(ル) 】
○02 狩野川の水押され来る九月かな  狩野川の水の勢い、実感します。
○35 秋雨や元気を貯めてゐるところ  からっと雨を受け止めているのが新鮮。
○37 主去りて乱るるままの小菊かな  小菊の乱れようが絵画的。
○52 柿熟れてあけすけという間柄  柿の持つ素朴さが身上の一句。
○54 穂は風に濯がれ秋の深きへと  詩情があって好きな句です。

【 青野草太 選(草) 】
○07 小鳥来る老チェリストの弾くバッハ
○13 体育の日や花笠の積まれあり
○32 駅前のバス秋の日を溜めゐたり
○42 水色の駐禁キップ後の月
○47 脱ぎやすき秋の服なり床に落つ

【 石黒案山子 選(案) 】
○07 小鳥来る老チエリストの弾くバツハ
○09 ひと枝の揺れて小鳥の来たりけり
○13 体育の日や花笠の積まれあり
○24 廃線と廃屋が好き葛の花
○32 駅前のバス秋の日を溜めゐたり

【 一斗 選(一) 】
(今回はお休みです。)

【 中村時人 選(時) 】
○05 木の柵にもたれて秋を惜しみけり
○10 倒木にかすかなぬくみ秋の風
○22 軍手はめ銀杏拾う早さかな
○50 刈られたる棚田に残る案山子かな
○54 穂は風に濯がれ秋の深きへと
 他に気になった句は
 08 鳳仙花ぽつぽつ滅ぶ妣の下駄
 16 たまに逢ふからよしなんて思草
 40 入れ替えの衣類を干すや秋日和
 以上宜しくお願いいたします。

【 土曜第九 選(第) 】
(今回はお休みです。)

【 奥寺ひろ子 選(奥) 】
○07 小鳥来る老チェリストの弾くバッハ  この光景の中に身をおいてみたいです。
○10 倒木にかすかなぬくみ秋の風  秋をしみじみと感じます。
○18 三代のマトリョーシカや着ぶくれて  四十年前のロシアへの旅を思い出します。
○41 枯蔓を引つぱりみれば烏瓜  気がつかないような所にひっそりとぶら下がっています。
○44 息長く終はる讃美歌秋の薔薇  讃美歌と秋の薔薇が調和して美しさを感じます。

【 滝ノ川愛 選(愛) 】
〇13 体育の日や花笠の積まれあり  笠に付けるピンクと白の花をよく作らされたものです。これから花笠踊りが始まるのでしょう。ウキウキした感じが伝わります。
〇16 たまに逢ふからよしなんて思草  実は「思草」を見た事がなかったものですから図鑑で調べました。思草の風情が思わせぶりでよくあっていますね。
〇35 秋雨や元気を貯めてゐるところ  雨が降ると今日は家で静かにしていようと思います。夏の疲れを回復中。「貯めて」のフレーズが効いています。
〇46 素十忌や影踏みの子の影長し  好きな句です。昔影踏みという遊びがありました。「影踏みの子の影長し」なんてまるで素十その人の句のようです。
〇52 柿熟れてあけすけという間柄  あけすけな間柄になるには時間がかかります。”熟れる”という表現で表していますね。

【 小林タロー 選(タ) 】
(今回はお休みです。)

【 小早川忠義 選(忠) 】
○23 夏の子の泣いていないと泣きながら  たくさん遊べば感情の行き交いもあり子どもの表情も豊か。小さいながら立派な自尊心。
○26 灯火親しむももいろの抜糸あと  まだまだ癒えるのにはかかりそうな傷。静かな時こそ気付くというもの。
○34 新盆や彼の母校は敗れけり  高校野球は郷土愛をかきたてる夏の特別行事。ひそかに思う彼の故郷。
○51 長き夜や背丈のとめどなく伸びて  思春期の少年のつくった句となればこの時しか詠めないもの。眠っている間に骨のきしむ音も聞こえてくるんだとか。
○52 柿熟れてあけすけという間柄  決して飽きたとかでも羞恥心がなくなったとかでもない、熟した関係にしか味わえない甘さ。

【 石川順一 選(順) 】
○06 天の川行きの青春切符かな  季語は「天の川」。宮沢賢治の銀河鉄道の夜みたいな感じがしました。「青春切符」と言う措辞がいいですね。
○15 龍淵に潜み休耕田の水を噛む  季語は「龍淵に潜む」。龍の豪快さと、田の静謐が好対照でした。
○22 軍手はめ銀杏拾う早さかな  季語は「銀杏」。軍手がはめられ、やる気が湧く。銀杏と言う季語が生かされている句だと思いました。
○36 終電や大森蒲田夜業の灯  季語は「夜業」。大森、蒲田など、大田区でしたでしょうか。地名と共に浮かび上がる夜業の静謐さ。
○42 水色の駐禁キップ後の月  季語は「後の月」。水色の駐禁切符が月明りにくきやかに浮かび上がって居る様な句でした。
 以上5句選でした。他に
 52 柿熟れてあけすけという間柄  季語は「柿熟れる」
がありました。

【 涼野海音 選(海) 】
○07 小鳥来る老チェリストの弾くバッハ  老チェリストの奏でるバッハは、どことなく哀愁がただよう。
○19 秋うらら不定期休の古本屋  いかにも個人経営の古本屋。不定期休が、何だかほほえましい。
○28 水槽のやうな音楽室秋思  音楽室の静けさを水槽のようなと表現。実に的確な比喩。
○46 素十忌や影踏みの子の影長し  影踏みの子が、いかにも素十忌とあっている。素十の童心と響きあうからだろうか。
○51 長き夜や背丈のとめどなく伸びて  今まで殆ど注目されていなかったことを、詠んでいる。うなずくばかり。

【 川崎益太郎 選(益) 】
○10 倒木にかすかなぬくみ秋の風  切られて間もない倒木に感ずるぬくみ。やや当たり前の感もあるが、季語が効いている。
○16 たまに逢ふからよしなんて思草  もっと逢いたいという願望。
○17 雀蛤となる小学校の学芸会  珍しい季語を上手く使った。
○29 虫集く父ちゃんおとんパパおやじ  虫の音の句の初めて見た面白い句。
○42 水色の駐禁キップ後の月  赤色なら罰金(前科)。水色(反則金)でよかった。

【 草野ぐり 選(ぐ) 】
○10 倒木にかすかなぬくみ秋の風  このぬくみは日差しのぬくみではなく木の生命のぬくみなのだと思う。それが秋風の中、徐々に冷えていく。
○13 体育の日や花笠の積まれあり  イベントのの出し物、「花笠音頭」の笠。パッと映像が浮かんだ。
○28 水槽のやうな音楽室秋思  なるほど、確かに水槽っぽいですね。特に誰もいない音楽室。秋思が少しつきすぎかなとも思いました。
○31 指先に搾る酢橘の種こぼれ  指先に焦点を当てたのがいいです。 
○44 息長く終はる讃美歌秋の薔薇  賛美歌が静かに終わった後の静寂。教会の庭には秋の薔薇が盛りなのだろう。
 他に気になった句 
 36 終電や大森蒲田夜業の灯 
 52 柿熟れてあけすけという間柄 

【 水口佳子 選(佳) 】
○09 ひと枝の揺れて小鳥の来たりけり  小鳥はおそらく1羽だろう。姿は見えないが枝だけ揺れて、鳥の声だけが聞こえている。作者は待っていたのかもしれない。〈来たりけり〉に思いがある。
○10 倒木にかすかなぬくみ秋の風  かすかなぬくみがあるにも拘らず倒木に命はない。〈秋の風〉は寂しいというより優しさを感じる。 
○19 秋うらら不定期休の古本屋  いつ休むか、その日の予定や気分によって決めるという・・・間口も通路も狭い古本屋を想像。〈秋うらら〉が良い。 
○26 灯火親しむももいろの抜糸あと  取り合わせの面白さ。読書をしながら抜糸のあとが気になって思わず触ってしまう。〈ももいろ〉が抜糸したての感じ、柔らかな灯りを想像させる。
○42 水色の駐禁キップ後の月  こういうふうに書かれると駐禁キップも嫌なものに感じないから不思議。

【 三泊みなと(喜多波子 改め) 選(三) 】
○11 虫籠は動くばったと蝉のから 
○19 秋うらら不定期休の古本屋 
○21 擦れ疵の秋茄子ばかり売られをり 
○36 終電や大森蒲田夜業の灯  
○50 刈られたる棚田に残る案山子かな 

【 鋼つよし 選(鋼) 】
○10 倒木にかすかなぬくみ秋の風  日差しに暖かくなっている様がよく分かる。
○15 龍淵に潜み休耕田の水を噛む  休耕田なる現代風景に古い季語の対比。
○24 廃線と廃屋が好き葛の花  絵に写真によくなる葛がよい。
○36 終電や大森蒲田夜業の灯  テンポ、切れがよい。
○37 主去りて乱るるままの小菊かな  この景色まわりにもよくあります。
 そのほか
 53 秋深し三日続けてカレー食う 採りたかった句。
 以上、お願いします。

【 中村阿昼 選(阿) 】
(今回はお休みです。)

【 小川春休 選(春) 】
○02 狩野川の水押され来る九月かな  狩野川は、伊豆半島の最高峰天城山に端を発し、駿河湾に注ぐ河川。川の水が、後に続く水に押されるように勢い良く流れてくる。オーソドックスですが、シンプルで力強い句です。
○09 ひと枝の揺れて小鳥の来たりけり  「ひと枝」とポイントを絞った所が良い。枝の揺れて葉の鳴る音、周囲の静けさまで感じます。
○43 葡萄棚見えない星の出す光  宇宙には沢山の星がある。人間には見えないくらいの光の星も、必ずしもその光が弱い訳ではなく、地球から遠すぎて見えないだけかも知れない。そんな星空の下で見る葡萄棚の、つやつやとした葡萄の房のてかり。不思議な質感を感じさせる句です。
○44 息長く終はる讃美歌秋の薔薇  形も良く、非常に落ち着いた印象の句です。個人的な好みですが、下五「秋の薔薇」より「秋薔薇(あきさうび)」の方がすっきりしていて響きも良いように感じます。
○52 柿熟れてあけすけという間柄  柿が青かった頃は、柿を隠す葉もまだ茂っていましたが、柿が熟れる頃には葉も少なく、あからさまに熟柿の色が目に入る。そういう視覚的な景と、人間関係との響き合いがとても面白い。少し気になったのは「という」。「あけすけな間柄」と言った方が自然な感じもしますが、字数の関係で不自然な言い方になっているのかな、という印象です。その辺りに少し推敲の余地があるかと。
 01 ハモニカの「ファ」のあたり住み秋暑し  ハーモニカに住むということは小人なのでしょうか。なかなか面白い着眼のファンタジーではありますが、季語があまり効いていないように感じます。
 03 まだ鳴かぬ透明の蝉温き夜  脱皮したばかりの透明を残した蝉、実物を見てみたいものです。句としては、蝉の描写だけで一句を成立させるべきではないかと思います。「温き夜」であることが句を深めているようには思えない。
 07 小鳥来る老チェリストの弾くバッハ  雰囲気は良いと思います。ただ、雰囲気だけの句という感じもします。
 08 鳳仙花ぽつぽつ滅ぶ妣の下駄  上五と中七がどちらも名詞という形は避けましょう、とよく俳句入門書に書いてありますが、この句もその形。この句の場合、「滅ぶ」のが鳳仙花なのか妣の下駄なのか読み取りづらい。恐らく鳳仙花の花時が過ぎてゆくことを「滅ぶ」と表現したのかとは思いますが、下駄が「滅ぶ」という表現も無くはない。上五下五名詞の形を避けるか、中七の表現の仕方でどちらについての内容か分かりやすくするか(「滅ぶ」ではなく「滅び」とするとか)、推敲が必要と思います。
 10 倒木にかすかなぬくみ秋の風  風は鋭さを増しながらも、まだ日差しはある。日を受けた倒木のぬくみを好ましく感じます。手を触れてみたのか、それとも腰掛けてみたのか。その辺りも見えてくるようだと、もっと実感のある句になるかもしれません。
 12 子規の忌や十四五本って何だっけ  うーん、子規忌の句の割に、この作者は子規のこと別に好きでも何でもないんだなぁ、と少し複雑な気持ちになりました。
 13 体育の日や花笠の積まれあり  体育祭で踊りでも披露するのでしょうか、明るい日差しや活気を感じる句。採りたかった句です。
 15 龍淵に潜み休耕田の水を噛む  龍が潜んだのは淵ではないのですか。だとしたら休耕田の水を噛んだのは誰なのでしょうか。今一つよく分からない。
 16 たまに逢ふからよしなんて思草  なかなか味のある句ですが、個人的な好みを言わせてもらえば、「思草たまに逢ふからよしなんて」と入れ替えたいところ。下五に五音の季語「思草」を配すると、一句が落ち着いた感じになってしまう。下五を「よしなんて」と言い流した方が、句の後に余韻が残るような気がします。
 20 槍千本貫く茎の曼珠沙華  キク科のセンボンヤリ(別名ムラサキタンポポ)という花がありますが、そのことでしょうか。タンポポを貫く曼珠沙華の茎、何だか想像しにくい景です。花の名前や比喩ではなく、本当に千本の槍があったのか。戦国時代のような景ですが、槍を曼珠沙華の茎が貫くというのもよく分からない…。
 21 擦れ疵の秋茄子ばかり売られをり  今年の秋は記録的な野菜の高騰なのだとか。少々の疵ぐらい気にしない気にしない。
 22 軍手はめ銀杏拾う早さかな  「早さかな」と言うだけでは、動きの素早さは見えてきません。作者はどこに素早さを感じたか、そこにポイントを絞って、そこが見えるように描写する必要があると思います。
 23 夏の子の泣いていないと泣きながら  中七下五の描写は、泣いている子供の描写としてよく書けていると思いますが、上五が説明的です。夏である必要性があまり感じられませんし、「夏の子」という表現もちょっとしっくり来ない。「夏帽子泣いていないと泣きながら」などと上五の季語で子供の姿も見えるように描写した方が、より具体的な句になると思います。
 27 名月や瓦の描く寺の町  月光が瓦に反射する様を描写しようとしたのでしょうが、「瓦の描く」という表現で充分に描写できているかというと、あまり成功していないようです。
 28 水槽のやうな音楽室秋思  「水槽のやうな音楽室」という把握は面白いのですが、「秋思」があまり面白くないような気がします。前半の比喩表現に対して、意外性がないというか、ありがちな取り合わせのように感じる。私なら、「水槽のやうな音楽室や月」か「水槽のやうな音楽室や雪」とでもしたいところです。
 30 葉の散りて隠れ現る熟柿かな  「葉の散りて」、「現る」なら分かるのですが、「隠れ」が分からない。隠れたのか現れたのか、どちらなのでしょうか。枝についている熟柿ではなく、地に落ちた熟柿を、散った葉が隠したということでしょうか。
 31 指先に搾る酢橘の種こぼれ  こういう句は、例えば「指先に搾るや酢橘種こぼれ」のように、中七の途中で「や」で切りたい。通常の切れ字(詠嘆)の意味だけではなく、「○○するや否や」のような感じも出て、句に軽快さ、メリハリが生まれると思います。
 34 新盆や彼の母校は敗れけり  内容はストレートでよく分かる句ですが、「や」「けり」と二つ季語を使うのはまとまりが悪い印象です。「は」が抱え字ということで、あえて「や」「けり」にしたのかもしれませんが、そこまでして切れ字を二つ使わないといけない内容の句かというと、少し疑問でした。
 40 入れ替えの衣類を干すや秋日和  天気が良いから衣類を干した、という原因・結果になってしまっています。
 42 水色の駐禁キップ後の月  面白いものに着目した句とは思いますが、この上五中七に対して季語がどう働いているか。私には、この句から月を愛でる心情は全く読み取れない。ただたまたま月が出ていた、としか読めないです。
 47 脱ぎやすき秋の服なり床に落つ  服の描写として「脱ぎやすき」というのは、結構曖昧というか、ぼんやりした表現ではないでしょうか。拙作に、〈春コートすすすすすすと椅子を落ち〉という句がありますが、どのような落ち方をしたか、動きの方に焦点を絞って描写することで服の質感を描き出す方法もあります。
 49 寒暖差激しく朝夜寒きかな  これは「朝寒」「夜寒」という季語の説明ですね。
 50 刈られたる棚田に残る案山子かな  案山子という季語を使うのであれば、そこから容易に想像される、季語に付随するイメージについてさらに言葉を費やすのはあまり効果的ではない。季語を深く読み込む読者であれば、「残る案山子」と言うだけで、この句に書かれている内容はほとんど全て伝わる。
 53 秋深し三日続けてカレー食ふ  書かれてはいませんが、昔より食べる量も減ったなぁ、というようなこともあるのではないかと想像させる句です。
 54 穂は風に濯がれ秋の深きへと  詩情のある句と思いますが、「は」がちょっと理屈っぽいせいか、助詞の多用が少しうるさく感じます。

 


来月の投句は、10月15日までに、3句お送り下さい・・・・・・投句はこちら

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