【 小中奈央 選(奈) 】 ○13 鉄亜鈴ほどの淋しさ浮寝鳥
○52
冬の雨パン屋で「トイレ」と聞こえ来る
○05 柿ぐはひさしく会はぬ空家主
○37 二の酉の叩き売らるるタイツかな
○46
ステンレス皿の白菜キムチ燃ゆ
【 水玉 選(水) 】
(今回はお休みです。)
【 えみこ 選(え) 】
(今回はお休みです。)
【 さんきう 選(さ) 】
○09
誰もゐぬ家に帰りぬ秋燕 単身者はもちろん、家族がいる人でも無人の家に帰ることは多いのに、それをわざわざ言った人はなかったようです。季語よし。
○15
秋の灯の一つとなりし無人駅 無人駅というのは雰囲気ある言葉なので、便利に使ってしまいそう。この句は無人駅ならではの句でヨイと思いました。
○36
後ろ手のリード伸びきり芝枯るる これはやっぱり枯れ芝ではなく、青芝に犬がいて欲しかった。着眼点がユニークなので頂きました。
○45
不器男の句少なし冬の月ほそし まあ、そうなんですけど、「ほそし」まで言う必要はあるのかなー、と思ってみたり。「少し」「ほそし」がカブっているような…。
○49
若狭より凩通る鯖街道 「言い方はこれでいいのかなぁ」と思いつつ、題材が面白いので一票。鯖が通ったところを凩が通るというのがミソですね。
【 ルカ 選(ル) 】
○18 わが声の上を鳥ゆく冬はじめ 声の上、がいいですね。
○31
タクラマカン越えきしはいつ竜の玉 遥かなる旅路を思いました。
○33
一茶忌やしゅるりしゅるしゅる鳴る薬缶 一茶のユーモアがオノマトペにでています。
○42
いやならばいやと言うべし葛かずら 自分に言い聞かせているような。
○50 冬枯れや波打ち際の砂動く 写生のきいた一句。
【 青野草太 選(草) 】
○09 誰もゐぬ家に帰りぬ秋燕
○12
平淡な食堂釣瓶落しかな
○13 鉄亜鈴ほどの淋しさ浮寝鳥
○26 不機嫌な冬の夜の風聞いて居る
○37
二の酉の叩き売らるるタイツかな
以上です。
【 石黒案山子 選(案) 】
〇01 絡み合ふやうな鳥声柿日和
〇03
糸切れて針穴ひそか秋の声
〇45 不器男の句少なし冬の月細し
〇50 冬枯れや波打ち際の砂動く
〇54
夕日落つ光の帯や冬の湾
【 一斗 選(一) 】
○03 糸切れて針穴ひそか秋の声
○05
柿ぐはひさしく会はぬ空家主
○11 枯野ゆく靴いつまでも馴染まずに
○31 タクラマカン越えきしはいつ竜の玉
○36
後ろ手のリード伸びきり芝枯るる
【 中村時人 選(時) 】
○05 柿ぐはひさしく会はぬ空家主
○11
枯野ゆく靴いつまでも馴染まずに
○34 ゴスペルに眩暈してをり冬の蜂
○37 二の酉の叩き売らるるタイツかな
○43
毛布めくり腋に差しやる体温計
他に気になった句は
01 絡み合ふやうな鳥声柿日和
22
真青なる世界賜り文化の日
以上宜しくお願いいたします。
【 土曜第九 選(第) 】
(今回はお休みです。)
【 奥寺ひろ子 選(奥) 】
○04 霧深き霊山に耳尖りをり
○16
老医師の厚き鞄や冬ぬくし
○24 稲光地上の音吸ひて五秒
○26 不機嫌な冬の夜の風聞いて居る
○29
ベッドごと暖房利かす廊下行く
【 滝ノ川愛 選(愛) 】
○06 からつ風二本の脚の只中を
○23
木履をはひて駆け出す七五三
○26 不機嫌な冬の夜の風聞いて居る
○40 耳元を即かず離れず冬の蜂
○50
冬枯れや波打ち際の砂動く
【 小林タロー 選(タ) 】
○01
絡み合ふやうな鳥声柿日和 柿の実がたっぷりあるのでしょう。
○23
木履をはひて駆け出す七五三 ハレの気分がそうさせるのでしょう、音も聞こえます。
○27
夜鳴き蕎麦ラッパが妙に明るくて 妙だ、そこがおもしろいです。
○28
冬木立エゴン・シーレの女かな エゴン・シーレを知りました。もっといい季語がありそうです。冬ではない方がいいかもしれません。
○44
風吹かば輝きませる枯尾花 仮定(確定条件)にしないで 風吹くや としたらどうでしょうか?
【 小早川忠義 選(忠) 】
○11
枯野ゆく靴いつまでも馴染まずに 馴染まない靴を履いて歩くのは枯野でなくても枯野を歩いているようで心も重い。
○16
老医師の厚き鞄や冬ぬくし 往診の医師の丁寧な素振りまで見えてきそうで冬ののどかさと響く。
○23
木履をはひて駆け出す七五三 七五三って案外難しい季語です。「ぽつくりを履いて駆け出す七五三」で取りますね。七五三の晴れ着でぽっくりって意外なような気も。「履きて」の音便だからここは「はいて」で良いでしょう。
○37
二の酉の叩き売らるるタイツかな 二の酉って三の酉があること前提で詠まれることも多そうだけど。年の瀬が迫って売る側も買う側も必死。
○40
耳元を即かず離れず冬の蜂 何か伝えたいことでもあるのでしょうか。さほど攻撃的でもないのに作者を煩わせるとは。
【 石川順一 選(順) 】
○08
長き夜やオレのわたしのテレサ・テン 季語は「長き夜」。テレサテンの根強い人気ぶりを詠んだ
○13
鉄亜鈴ほどの淋しさ浮寝鳥 季語は「浮寝鳥」。譬え方に特徴があるかと。
○24
稲光地上の音吸ひて五秒 季語は「稲光」。五秒と言う俳句的時間。
○40
耳元を即かず離れず冬の蜂 季語は「冬の蜂」。即かず離れずの蜂に俳句の極意を見た?
○44
風吹かば輝きませる枯尾花 季語は「枯尾花」。風が強まり輝きを増した芒。
【 涼野海音 選(海) 】
○03
糸切れて針穴ひそか秋の声 「針穴ひそか」まで、表現できたところが巧み。
○04
霧深き霊山に耳尖りをり 「霧深き霊山」はよくあるフレーズだが、「耳尖りをり」まで踏み込めたところがいいです。
○13
鉄亜鈴ほどの淋しさ浮寝鳥 「鉄亜鈴」と「浮寝鳥」のイメージが、不思議と重なってみえました。
○37
二の酉の叩き売らるるタイツかな 「叩き売らるる」という現在形がグッド。
○45
不器男の句少なし冬の月ほそし 「少なし」「ほそし」と、韻を踏んでいる点は、良いと思いましたが、季語の「冬の月」の効果はいかに。
【 川崎益太郎 選(益) 】
○03
糸切れて針穴ひそか秋の声 糸切れて、がいろいろ想像できて、奥の深い句である。
○08
長き夜やオレのわたしのテレサ・テン 没後20年。時代に翻弄されたテレサ・テン。オレとわたしが上手い。
○13
鉄亜鈴ほどの淋しさ浮寝鳥 重いのか軽いのか、どちらにも取れる鉄亜鈴。
○24
稲光地上の音吸ひて五秒 稲光は、地上の音を吸って発光するという面白い句。
○35
11月てふ曜日で言えば木曜日 11月に感じる木曜日の感覚。面白い。
【 草野ぐり 選(ぐ) 】
○11
枯野ゆく靴いつまでも馴染まずに だいぶ履いたのに足に馴染まない靴ってあります。そんな靴で枯野を行くのは辛そう。
○13
鉄亜鈴ほどの淋しさ浮寝鳥 浮寝鳥と淋しさはつきすぎな感もあるが鉄亜鈴ほどと言われると、一体どんな淋しさなのだろうと気になって仕方がなくなってしまった。
○16
老医師の厚き鞄や冬ぬくし 往診の鞄なのだろう。使い込んだ皮の無骨な鞄。親子二代で見てもらっている家も多いのだ、きっと。頼もしくも厳しい先生。
○32
薩摩芋割りし色かな猫の腹 茶トラの猫かな。わざわざ割りし色とした丁寧さにクスッとしてしまった。しかも腹の色がというのがいい。
○45
不器男の句少なし冬の月ほそし 二十六歳で夭逝した不器男の残した少ないけれど瑞々しい句と冬の鋭い光を持つ細い月がとても合う。
【 水口佳子 選(佳) 】
○01
絡み合ふやうな鳥声柿日和 絡み合うのだから1羽ではない。2羽かあるいは群だろう。柿の実を狙っての縄張り争いともとれる。たわわに実った柿とその上の空。鳥だけが鳴いている静けさ。
○11
枯野ゆく靴いつまでも馴染まずに 〈枯野〉といつまでも馴染まない〈靴〉に、作者の少し重い気分が託されている。
○16
老医師の厚き鞄や冬ぬくし 大きな病院の医師ではなく小さな町の開業医だろう。分厚い鞄を提げてお年寄りの往診に出かける・・そんな景を思った。〈冬ぬくし〉がやや決まりすぎのようにも。
○18
我が声の上を鳥ゆく冬はじめ 小さな声ではなく遠くの人に届けるための大きな声だろう。直線的なその声のさらに上を鳥たちが飛んでいる。我の上ではなく〈我が声〉としたところでより広がりが生まれた。
○25
薄紅葉鳩は真上に飛び上がり よく観察しているなあと感心。〈真上〉と言い切ったところが良かった。季語はこれでいいのかなあとも思うが。
【 三泊みなと 選(三) 】
○01 絡み合ふやうな鳥声柿日和
○11
枯野ゆく靴いつまでも馴染まずに
○37 二の酉の叩き売らるるタイツかな
○45 不器男の句少なし冬の月ほそし
○53
洗顔やかぽたぽそそぐ湯婆の湯
【 鋼つよし 選(鋼) 】
(今回は選句お休みです。)
【 中村阿昼 選(阿) 】
(今回はお休みです。)
【 小川春休 選(春) 】
○01
絡み合ふやうな鳥声柿日和 暖かさで鳥達の声も緩んで穏やかになっているような、そんな感覚がよく伝わります。ただ、「やうな」と言わずに、「絡み合ふ鳥声」と言い切ってしまっても良いような気もしますが。
○03
糸切れて針穴ひそか秋の声 針仕事をしていて、ふと糸が切れたときに見る針の穴。その針の穴が「ひそか」だとはなかなか鋭い把握です。根を詰めて針仕事をしていた後に訪れた空隙のような一瞬だからこそ、秋の声もよく聞こえてくるというもの。
○18
わが声の上を鳥ゆく冬はじめ 秋空は天高しと言いますが、冬空も冴え冴えとして良いものですね。そんな空の広がりを、声と鳥との上下関係で上手く表現していると思います。蕉門の凡兆の「上行くと下くる雲や秋の天」を少し思い出しました。
○36
後ろ手のリード伸びきり芝枯るる 後ろ手のリードが伸び切っているのは、飼い主はもう行こうとしているのに、まだ犬はそこを動こうとしない、という状況でしょうか。枯れ芝に、犬の心を掴む何か、名残惜しく思わせる何かがあったのでしょう。
○49
若狭より凩通る鯖街道 若狭から京都へとつながる街道を鯖街道と総称するとのこと。地名を活かして大景を活かした、しっかり出来た句だと思います。
02
手水鉢遺りし社もみづれる 御社に手水鉢が残っていること自体は結構普通のことのような気がするのですが…。「ごく普通の内容を詠んで一句を成立させる」という手法もない訳ではないですが、その場合は表現の仕方や季語の活用法など、かなりの工夫が必要になります。
04
霧深き霊山に耳尖りをり 霧の深い霊山、そこには下界とは異なる気配が漂っている。「耳尖りをり」とは抑制が効いていながらもなかなかに端的な描写で、感覚が鋭敏になっている様子が伝わってきます。採りたかった句です。
05
柿(手偏に宛)ぐはひさしく会はぬ空家主 別の場所に生活の本拠があるのか、空家にほとんど寄り付かない家主。そんな空き家に珍しく人が、と思えば柿をもいでいる。生活感のあるユーモラスな句です。
07
天辺の木守柿食ひ去りし鳥 「あれがこうしてこうなった」的に起こった物事を順序立てて述べている句は、メリハリがなく、俳句としてはあまり面白くありません。鳥が、木守柿を食べて、飛び去った。事実としてはそうなのかも知れませんが、それをどのように一句に仕立てるか、読者の目の前に鮮明な景として見せるか、そこにもっと意を用いるべき。
08
長き夜やオレのわたしのテレサ・テン 中七の言い回しに、男性からも女性からも、幅広く愛されたテレサ・テンの在りようが表されていますね。これから先、ああいう歌手が現れることは、もうなさそうな気もします。
13
鉄亜鈴ほどの淋しさ浮寝鳥 浮寝鳥に淋しさを見てしまうのは、見る側の心の中に淋しさがあるからでしょうね。浮寝鳥の淋しさ、孤独を感じつつも、それをモノとして、「鉄亜鈴ほど」と表現する。複雑な味わいのある句です。
16
老医師の厚き鞄や冬ぬくし 長年往診で使い込んでもまだまだ現役の黒い鞄が見えてきます。このままこの医師の引退の日まで、この鞄にがんばってほしいものですね。
17
獣道湿つてをりぬばつたんこ 獣道に「湿り」を感じた感覚は良いと思いますが、そこで「てをりぬ」と四字も使ってしまうのはもったいないようにも感じました。ここで「湿り」プラスアルファの描写が出来ればもっと良い句になるのではないかと思います。
20
刻まれし浅漬与ふ粥に混ぜ 俳句入門書などでよく「一句に入れる動詞を少なく!」と言われますが、この句も動詞が多くまとまりがない印象です。「あれがこうしてこうなった」的に物事が述べられていて、メリハリがない。切れを入れたり語順を工夫するなどして、どの動詞がこの句の中心となるものなのか、分かるように一句を仕立ててほしいと思います。
24
稲光地上の音吸ひて五秒 内容は独特な把握で面白いと思うのですが、口に出して読んでみると非常にリズム感が悪く、メリハリがない句のように感じてしまいます。無理のある句またがりの形にせず、上五を字余りにしてでも「地上の音吸ひて五秒の稲光」とした方が良いと思います。
25
薄紅葉鳩は真上に飛上がり 薄く紅葉し始めた樹を越えて、真上へと飛び上がる鳩。景を立体的に捉えている所が良いですね。ただ、「薄紅葉」だとどのような樹か少し漠然とするので、具体的な木の名前が入った方が良いのではないかとも感じました。
29
ベッドごと暖房利かす廊下行く 病院内の廊下をベッドに載せられたまま移動しているという、なかなかに珍しい場面を句にされています。ただ、一言「暖房」と言えば、「利かす」は言わずもがなという感じもします。
32
薩摩芋割りし色かな猫の腹 比喩が独特で、一句としても明るい句になっています。
33
一茶忌やしゅるりしゅるしゅる鳴る薬缶 一応出来ている句。生活感のある句にはなっていますが、どうしても「一茶忌」でないといけない、という必然性は感じられない。もっと景の見えてくる季語、一例としてですが、「黄落やしゅるりしゅるしゅる鳴る薬缶」などとした方が生活感と自然の移ろいとの響き合いが一句から感じられる句になるかと思いますが。
37
二の酉の叩き売らるるタイツかな 軽い味わいの句ですが、なかなか悪くないですね。
39
我が家の土瓶平茸の味なら知っている 松茸は味は値段が高いから知らない、というような含意でしょうか。発想が、良くない意味で川柳的のように感じます。
43
毛布めくり腋に差しやる体温計 毛布をめくられ体温計を腋に差される。されるがままになっている様子を見ると、この毛布の人、既にかなり具合が悪いのかも知れないですね。
47
紅葉見やわれも息つめいろは坂 夏井いつき先生のプレバトでの出題でしたね。
48
時雨忌の雨にけぶるや浜離宮 松尾芭蕉の忌日は、芭蕉忌や翁忌という呼び名もありますが、この句の場合は時雨忌という語自体の持つイメージを上手く景の描写へとつなげている。なかなか巧みな句と思いました。
50
冬枯れや波打ち際の砂動く 「冬枯れ」という季語で、水辺へと視点を運んだ所が良い。ただ、「波打ち際の砂」という把握は少し大雑把すぎる印象です。「波」と「砂」との関係をもっと具体的に見えるように描きたい所です。
51
クラーナハどのまなざしも寒月光 確かにクラーナハの描く人物と寒月の光とは共通する部分を感じますが、「どの」と対象を無闇に拡げてしまうと、表現としての鮮度が落ちてしまうのではないでしょうか。読者がある特定の絵画を思い浮かべるような句である方が、より印象的な句になるのではないかと思います。
52
冬の雨パン屋で「トイレ」と聞こえ来る 発言やセリフの句が成功するかどうかは、そのセリフがどういう状況・場面で、どういう人が言ったかが読み取れる場合だと思います(口調や方言などで、性別・年代、発言したときの感情などもセリフから表現できます)。さらに言えば、視覚的な状況などを描写するよりも、セリフ一つ述べた方が雄弁に景が見えてくるような場合に、句の中でセリフが生きてきます。この句では、どのような人が言ったのか全く分からない所がまず良くない。「トイレ」とかぎかっこで括って、セリフだということが分かっているのに、「聞こえ来る」というのも表現としてはあまり効果的ではありません。
53
洗顔やかぽたぽそそぐ湯婆の湯 中七下五、オノマトペが効果的でなかなか面白いのですが、上五は一体どういうことなんでしょうか。顔を洗いながら同時に湯たんぽに湯を入れるのは無理があるような…。「洗顔や」と顔を洗っていることを強調されても困ってしまう。
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