ハルヤスミ句会 第百九十四回

2016年12月

《 句会報 》

01 月をかし杖の老婆の小ささよ      奈央

02 見掛けより重し頭上に木の実落つ    案山子(奥・タ)

03 こがらしにふるへ郵便受の蓋      春休(一・海)

04 小春日の太極拳の手の白き       海音(奥・タ・春)

05 連れたちぬ橋のたもとの猪鍋屋     時人(タ)

06 霜月も二日白寿の句友逝く       みなと(第)

07 シャツを干す水の香りや冬来たる    奈央(草・第・忠・ぐ・三)

08 冬灯へはきだす駅の人の波       ひろ子

09 まなじりを終の冬蝶かもしれぬ     佳子(ル・一)

10 雪囲縄の手さばき早し早し       つよし(さ・奥・春)

11 極月や訳の分かった話をと       順一(さ)

12 冬銀河手帳に父の走り書き       ルカ(ち・時・第・海)

13 初めての穴惑ひをる小春かな      案山子

14 着物行く姉も師走の街騒へ       順一

15 極月のペットホテルに犬預け      ぐり(三)

16 外人のワオッと叫ぶ冬桜        タロー(忠・海・益・春)

17 ポケットに鈴鳴れば綿虫がまた     佳子(一)

18 茎の石ひとつ荷台に積まれあり     愛(案・タ・海・ぐ)

19 葬儀の日自分勝手に朝餉のパン     順一

20 雪らしと聞き庭鉢をとりこみつ     愛

21 指でする疑似戦争や冬休み       草太(佳)

22 二人連れマスクはづして笑ひけり    タロー(ち・時・奥・愛)

23 年に一度会う輩とも忘年会       忠義(さ・鋼)

24 上野晩秋みな望郷の獣たち       草太(時)

25 老妻の手になる熱き根深汁       みなと(案・時・鋼)

26 漱石の百年忌なり雪の雷        つよし(春)

27 半纏の背中合わせの会話かな      ルカ(草・忠)

28 熊汁は赤味噌仕立て薬喰ひ       時人(案)

29 火の鳥の羽根は母へとクリスマス    ぐり(ル)

30 闊歩する原宿通り冬冴ゆる       ひろ子

31 かじけ猫人の温もりほつしけり     時人

32 招き猫の髭に埃や去年今年       ちあき(草・忠・ぐ・三)

33 寝不足のライトアップの冬紅葉     益太郎

34 うどん屋の坂の上なる時雨かな     海音

35 寒月やどこまでも缶ころげゆく     春休(第・愛・タ・ぐ)

36 銀杏散るオルガンで聞く子守歌     案山子(ち・ル・一・第)

37 着ぶくれてマトリョーシカと呼ばれけり ルカ(草・益)

38 わけありのをんなわけあり次郎柿    さんきう(時・益)

39 冬林檎その心音を盗みたく       佳子(ル・奥・益・春)

40 駅蕎麦の衣てんぷら実万両       タロー

41 アフリカに「駆けつけ警護」狂い花   益太郎

42 LEDともり哀しきまでに明るき街   ちあき(佳・鋼)

43 忘年の母の箪笥に網タイツ       愛(ル・案・佳)

44 火葬場のけふひときはの雪の富士    さんきう(ち)

45 口ずさむフォーク集買ふ年の市     ひろ子(鋼)

46 雨の帰路光るサンタを数へ行く     奈央(さ)

47 今朝の雪消えてきよらに石段よ     春休

48 雪女今では嬶座で溶けもせず      草太(案・益・三)

49 歳晩や黒湯水風呂交互に        ぐり

50 無駄話肩まで炬燵布団あて       さんきう(愛)

51 煤湯かなブリーフのゴム弾かせて    忠義(草)

52 ペン胸に師走の野球選手かな      忠義(佳)

53 メール受く「今日はここまで」冬紅葉  みなと

54 連れを待つ登校子なり初氷       つよし

55 いじめられそうな顔だな帰り花     益太郎(一・愛・忠・海)

56 レシートの裏に詩を書く時雨かな    海音(ち・さ・愛・ぐ・佳・三・鋼)

57 コーヒーの車内に薫り12月      ちあき 




【 ちあき 選(ち) 】
○12 冬銀河手帳に父の走り書き
○22 二人連れマスクはづして笑ひけり
○36 銀杏散るオルガンで聞く子守歌
○44 火葬場のけふひときはの雪の富士
○56 レシートの裏に詩を書く時雨かな
です。

【 小中奈央 選(奈) 】
(今回は選句お休みです。)

【 さんきう 選(さ) 】
○10 雪囲縄の手さばき早し早し  「早し早し」とたたみかけることでスピード感が出ています。…って、コメントがありきたりかな。
○11 極月や訳の分かった話をと  「話なり」などではなく「話をと」としたのが描写力が感じられて良かった。
○23 年に一度会う輩とも忘年会  よくいわれることですが、この「も」はどうなんだろう、と思ってしまいました。焦点がこの「輩」にビシっと合わない気がするんですよね。
○46 雨の帰路光るサンタを数へ行く  これは佳い。サンタ自体は光らないのが普通なので、光るサンタを捉えたのが大手柄。
○56 レシートの裏に詩を書く時雨かな  これ、実は作句のメモ書きじゃないでしょうか。雨が降っていて荷物も多いだろうに、ご苦労なこってす。

【 ルカ 選(ル) 】
○09 まなじりを終の冬蝶かもしれぬ  詩情があります。
○29 火の鳥の羽根は母へとクリスマス  火の鳥、手塚なら不死への願い。
○36 銀杏散るオルガンで聞く子守歌  オルガンの音、哀愁あり。
○39 冬林檎その心音を盗みたく  冬林檎には心音、ありそうですね。
○43 忘年の母の箪笥に網タイツ  覗いてしまった母の秘密とも。

【 青野草太 選(草) 】
○07 シャツを干す水の香りや冬来たる
○27 半纏の背中合わせの会話かな
○32 招き猫の髭に埃や去年今年
○37 着ぶくれてマトリョーシカと呼ばれけり
○51 煤湯かなブリーフのゴム弾かせて
               以上

【 石黒案山子 選(案) 】
○18 茎の石ひとつ荷台に積まれあり
○25 老妻の手になる熱き根深汁
○28 熊汁は赤味噌仕立て薬食ひ
○43 忘年の母の箪笥に網タイツ
○48 雪女今では嬶座で溶けもせず

【 一斗 選(一) 】
○03 こがらしにふるへ郵便受の蓋 
○09 まなじりを終の冬蝶かもしれぬ     
○17 ポケットに鈴鳴れば綿虫がまた 
○36 銀杏散るオルガンで聞く子守歌 
○55 いじめられそうな顔だな帰り花 

【 中村時人 選(時) 】
○12 冬銀河手帳に父の走り書き
○22 二人連れマスクはづして笑ひけり
○24 上野晩秋望郷めきし獣たち⇒ で頂きました。
○25 老妻の手になる熱き根深汁
○38 わけありのをんなわけあり次郎柿
 他に気になった句は
 03 こがらしにふるへ郵便受の蓋
 18 茎の石ひとつ荷台に積まれあり
 27 半纏の背中合わ(は)せの会話かな
 42 LEDともり哀しきまでに明るき街
 51 煤湯かなブリ―フのゴム弾かせて
 以上宜しくお願いいたします。

【 土曜第九 選(第) 】
 今月は選句のみ参加させていただきます。
 どうぞよろしくお願いいたします。
○06 霜月も二日白寿の句友逝く  淡々とした中にも大切な人を亡くした惜別、無念の情が伝わってきます。       
○07 シャツを干す水の香りや冬来たる  確かに冬になると、濡れた洗濯物に夏のようなお日様的なものとは別の匂いがするような気がします。
○12 冬銀河手帳に父の走り書き  命日が冬なのでしょうか。遺品を手にし亡き父を偲ぶ気持ちが伝わってきます。  
○35 寒月やどこまでも缶ころげゆく  北風に飛ばされる空き缶。昭和の冬の風景でしょうか。
○36 銀杏散るオルガンで聞く子守歌  外は日に日に寒さを増していきますが、室内では赤ん坊がオルガンの柔らかな音色を聞きながらすやすやと眠っています。

【 奥寺ひろ子 選(奥) 】
○02 見掛けより重し頭上に木の実落つ  痛かったことでしょう。
○04 小春日の太極拳の手の白き  手の美しさが際立ちます。
○10 雪囲縄の手さばき早し早し  名人芸を見るようです。
○22 二人連れマスクはづして笑ひけり  ほんわか温かい光景が目にうかびます。
○39 冬林檎その心音を盗みたく  寒さの中で、生きる力強さが欲しい。
 今年も楽しく参加させて頂きありがとうございました。
 寒さに向かいお体を大切に良いお年をお迎えください。

【 滝ノ川愛 選(愛) 】
〇22 二人連れマスクはづして笑ひけり 
〇35 寒月やどこまでも缶ころげゆく 
〇50 無駄話肩まで炬燵布団あて 
〇55 いじめられそうな顔だな帰り花 
〇56 レシートの裏に詩を書く時雨かな 
 以上です、
 お願いします。

【 小林タロー 選(タ) 】
○02 見掛けより重し頭上に木の実落つ  痛かったのでしょう。
○04 小春日の太極拳の手の白き  ゆっくりかつしっかりの太極拳と季語が響く
○05 連れたちぬ橋のたもとの猪鍋屋  猪鍋で親しい中、深刻な話ではないと分かる。
○18 茎の石ひとつ荷台に積まれあり  茎石を自転車の荷台で運ぶような土地柄なのでしょう。
○35 寒月やどこまでも缶ころげゆく  かんかんと音をさせながら

【 小早川忠義 選(忠) 】
○07 シャツを干す水の香りや冬来たる  洗濯をした後、乾いた空気の中の香り。
○16 外人のワオッと叫ぶ冬桜  冬の桜も周囲に驚いて開いているようにも見える。
○27 半纏の背中合わせの会話かな  中綿くらいでお互いの気持ちが阻まれることはきっとない。
○32 招き猫の髭に埃や去年今年  その時は思いがあっても商売が軌道に乗ればだれたりもする。来年も商売繁盛。気を抜かないで。
○55 いじめられそうな顔だな帰り花  みんなと一緒じゃないのがいじめのきっかけともなれば帰り花にも同情しそうになる。
 19 葬儀の日自分勝手に朝餉のパン  中七で心情をばらしているのが残念。
 29 火の鳥の羽根は母へとクリスマス  季を変えればよくなりそう。下五はあまりにがっかり。
 31 かじけ猫人の温もりほつしけり  私見ですが、猫って人から逃げるように「かじけて」いるような気も。
 39 冬林檎その心音を盗みたく  抒情的な句。林檎を心臓に見立てたのでしょうか。そうとなれば「その」が勿体ない。切り込める余地はある。
 42 LEDともり哀しきまでに明るき街  LEDは確かに明るいですね。電球や蛍光灯のような情緒はありませんが。だからこそ「哀しき」と言わずにいて欲しかった。
 56 レシートの裏に詩を書く時雨かな  外で書いているのか室内で書いているのか判断が難しい。時雨よりも良い季がありそうです。

【 石川順一 選(順) 】
○03 こがらしにふるへ郵便受の蓋  季語は「こがらし」。「ふるへ」に魂が籠って居る様な気がしました。
○16 外人のワオッと叫ぶ冬桜  季語は「冬桜」。外人の素っ頓狂な声。冬桜が映える。
○22 二人連れマスクはづして笑ひけり  季語は「マスク」。「笑ひ」に深みが感じられました。
○34 うどん屋の坂の上なる時雨かな  季語は「時雨」。坂の上に希望があるような印象を受けます。
○46 雨の帰路光るサンタを数へ行く  季語は「サンタ」。光るサンタとは印象鮮明ですね。

【 涼野海音 選(海) 】
○03 こがらしにふるへ郵便受の蓋  郵便受をうまく擬人化しています。郵便受の蓋が鳴る音まで聞こえてきます。
○12 冬銀河手帳に父の走り書き  この手帳は、父上が遺されたものか、それとも他の家族のものかで、句の解釈が分かれそうです。冬銀河という大きな物と手帳をとり合わせた所が見事。
○16 外人のワオッと叫ぶ冬桜  冬桜への驚きと感動を率直に表わした外人なのでしょう。
○18 茎の石ひとつ荷台に積まれあり  着眼点は面白いのですが、もう少し発見があってもよいと思いました。
○55 いじめられそうな顔だな帰り花  口語が巧く使われ、作者個人の思いが、読者にも共有されます。ただ、帰り花という季語が、はたしてどこまで効いているかどうか。

【 川崎益太郎 選(益) 】
○16 外人のワオッと叫ぶ冬桜  冬桜に驚く外国人。「ワオッ」が面白い。
○37 着ぶくれてマトリョーシカと呼ばれけり  やや、そのままの感はあるが、面白い。
○38 わけありのをんなわけあり次郎柿  訳あり女と次郎の取り合わせが上手い。
○39 冬林檎その心音を盗みたく  「盗みたく」がユニーク。
○48 雪女今では嬶座で溶けもせず  「溶けもせず」が面白い。

【 草野ぐり 選(ぐ) 】
○07 シャツを干す水の香りや冬来たる  冬の水の香りを意識したことがなかったのでハッとしました。 
○18 茎の石ひとつ荷台に積まれあり  これから使う石なのか、使い終わった石なのか、どこの荷台なのか、手がかりが少ないがちよっとシュールな風景で惹かれた。
○32 招き猫の髭に埃や去年今年  お店の招き猫なら埃が髭に積もっていたら困るがきっとどこか忘れ去られたような招き猫なのだろう。埃に焦点を当てたのがいい。
○35 寒月やどこまでも缶ころげゆく  どこか不安になるような乾いたカラカラと転がる音が聞こえてくるようだ。
○56 レシートの裏に詩を書く時雨かな  書かずにはいられないフレーズが浮かんで、思わずレシートの裏に。時雨が効いている。
 気になった句
 10 雪囲縄の手さばき早し早し 
 27 半纏の背中合わせの会話かな
 39 冬林檎その心音を盗みたく 

【 水口佳子 選(佳) 】
○21 指でする疑似戦争や冬休み  冬休み中の子供の無邪気な遊びである。しかしいつ本物の銃を持つ日が来るとも限らない・・・そう思うと少しギョッとする。
○43 忘年の母の箪笥に網タイツ  いけないものを見てしまったようなちょっと複雑な気持ちの作者。でも今どき網タイツぐらい90歳のうちの母でも穿きますから(笑)
○44 火葬場のけふひときはの雪の富士  〈雪の富士〉の静かで堂々とした姿に亡き人の姿を重ねているのか。富士山が生きている人も亡くなった人もすべてを包み込むかのよう。
○52 ペン胸に師走の野球選手かな  契約更改ですね。
○56 レシートの裏に詩を書く時雨かな  句としては類想があるかもしれないが[si]の音に透明感を感じる。

【 三泊みなと 選(三) 】
○07 シャツを干す水の香りや冬来たる
○15 極月のペットホテルに犬預け
○32 招き猫の髭に埃や去年今年
○48 雪女今では嬶座で溶けもせず
○56 レシートの裏に詩を書く時雨かな

【 鋼つよし 選(鋼) 】
○23 年に一度会う輩とも忘年会  これもまた会話が弾む。
○25 老妻の手になる熱き根深汁  おいしくて体が温まりそう。
○42 LEDともり哀しきまでに明るき街  同感します。
○45 口ずさむフォーク集買ふ年の市  掘り出し物
○56 レシートの裏に詩を書く時雨かな  ひらめいた言葉を書き留めている。

【 中村阿昼 選(阿) 】
(今回はお休みです。)

【 小川春休 選(春) 】
○04 小春日の太極拳の手の白き  個人的には、中七のところで「や」で切りたい気もしますが、面白いところに目をつけた句だと思います。手の白さも、小春日の好天なればこそ際立って見える。その白い手が、すーっ、すーっと太極拳の型で動く様子が非常に印象的に見えてきます。
○10 雪囲縄の手さばき早し早し  単純なようだが非常に勢いがあり軽快な句。こういう句がすらすらと詠めると楽しいでしょうね。
○16 外人のワオッと叫ぶ冬桜  ここ数年、外国人観光客が増加傾向のようですね。外国の方のダイナミックな感情表現をそのままに詠み込んであり、日本人的でないところが面白いです。個人的には中七「ワオと叫ぶや」としたいような気もしますし、上五「黒人の」「アメリカ人」などと具体的にするのも面白いかも、などという気もします。
○26 漱石の百年忌なり雪の雷  実際にそうだったのかも知れませんが、意外性があって面白い。句の中身をひっくり返して、「降る雪に雷や漱石百年忌」とするのも面白いかも知れません。
○39 冬林檎その心音を盗みたく  冬林檎の心音ということは、冬林檎を心臓に喩えているのだと読める。林檎と心臓の赤さなどの見た目が似ているだけでなく、鼓動を打ち、今にも音を立てそうなほどビビッドな感じを表現している。自分のものではないけれど、盗んででも自分のものにしたい、そんな魅力をこの冬林檎に感じている訳です。
 02 見掛けより重し頭上に木の実落つ  言葉の順序というか、認識の順序の問題でもあると思うのですが、先に「重さ」のことが述べられて、後から「頭上に木の実が落ちて来る」という順序になっています。なぜ頭に落ちる前に重さが分かるのか。読み手が一読、すっと入ってくる句というのは、認識の順序に沿った作りになっています。
 06 霜月も二日白寿の句友逝く  事実なのかも知れませんが、このままだと事実のままの報告になってしまう。何か一点、友の特徴を思い起こさせるような表現がほしいところです。「二日」「白寿」は、わざわざ言わなくても良いことかも知れませんし、もっと適した季語があるかも知れません。
 07 シャツを干す水の香りや冬来たる  上五中七のつながりが少し曖昧で、この「水の香り」がシャツからしたのか、それともシャツ以外の川などからしたのか、よく分かりません。「冬立ちぬ水の香りのシャツ干せば」などとすれば、シャツから水の香りがしたのだとはっきり分かります。
 09 まなじりを終の冬蝶かもしれぬ  上五、「を」という助詞を活かそうとしているとは思いますが、ちょっと「を」だけで描写するのは無理がある印象。「かもしれぬ」などと書き手の思いの言葉に字数を割くよりも、「まなじりを過ぎしは終の冬蝶か」などと冬蝶の動きをしっかり動詞で描写したいところ。
 11 極月や訳の分かった話をと  「また分かり切ったことを言いやがって…」というような感じでしょうか。そうやって一年が過ぎてゆく、やり切れないような気持ちですね。
 15 極月のペットホテルに犬預け  もっと季語を活かすとか、もっと意外性のある季語を使うなどしないと、報告俳句の域を出られないように思います。
 17 ポケットに鈴鳴れば綿虫がまた  綿虫をよく見るのは、比較的風の穏やかな、冬の晴れた日。ポケットの中の鈴の、聞こえるかどうかというささやかな音に呼応するかのようにふっと現れる綿虫。非常に繊細な所を捉えた句と思いました。個人的には、「ポケットに」よりも「ポケットの」の方が、内容も響きもマイルドになるような気もします。
 20 雪らしと聞き庭鉢をとりこみつ  原因と結果が全部句に詠み込まれています。鉢を取り込むときの動きなどの描写をもっと詳しくして、雪に関する部分は季語だけにするとか、もっと活き活きとした句にしてほしいところです。
 21 指でする疑似戦争や冬休み  現代のスマートフォンのゲームにも戦争をモチーフにしたものもありますが、古くは将棋や囲碁も擬似戦争な訳です。そう考えると、男の子の好む遊びはかなりの割合で擬似戦争と言えるかもしれませんね。
 22 二人連れマスクはづして笑ひけり  「くすくす」ぐらいではなく、大きく笑ったのでしょうね。わざわざマスクを外すくらいですから。ただ、「二人連れ」はちょっと説明っぽい表現。「お互ひに」とか、二人であることが分かる、もっと良い表現が他にありそうな気がします。
 24 上野晩秋みな望郷の獣たち  雰囲気はある句なのですが、ちょっと全体的に漠然としている。「上野」というのも広い範囲を指す地名ですし、「みな」というのも非常に広い対象を指す。望郷ということは、上野はふるさとではないということでしょうか。鑑賞の手がかりが少なすぎます。
 27 半纏の背中合わせの会話かな  ちょっと綺麗にまとめすぎのような印象、特に下五の「会話かな」の部分。「半纏や背中合せにもの言ひて」などとした方が、臨場感が出るように思いますが、いかがでしょうか。
 28 熊汁は赤味噌仕立て薬喰ひ  たぶん「熊汁」だけで冬の季語になるので、季重ねになってしまう。下五をもっと別の内容にした方が良さそうです。
 29 火の鳥の羽根は母へとクリスマス  教会で子供たちが演じる劇、火の鳥が出てくるお芝居だったのでしょうか。
 31 かじけ猫人の温もりほつしけり  かじけ猫とはそもそもそういうもの、という季語の本意をなぞっているだけのように感じます。
 32 招き猫の髭に埃や去年今年  いかにも年季もの、といった風情ですが、たまには綺麗にしてやらないと、招き猫の御利益もあまり期待できないのではないかなぁ、という感じもします。もう商売をやめてしまっているのかも知れませんね。
 34 うどん屋の坂の上なる時雨かな  もう少しメリハリというか、動きがほしい。例えば、「うどん屋や時雨の坂をのぼり来て」など。
 38 わけありのをんなわけあり次郎柿  次郎柿のわけありの「わけ」なんてたかが知れてますが、女の訳ありは要注意ですね。繰り返しのフレーズが楽しい句です。
 42 LEDともり哀しきまでに明るき街  恐らくクリスマスのイルミネーションのことを言おうとしているのだとは思いますが、「LEDともり」だけでは季語になりません。
 44 火葬場のけふひときはの雪の富士  亡き人の人徳のおかげで目にすることの出来た絶景でしょうか、火葬場から目にした雪の富士の景は非常に印象的だったでしょうね。
 48 雪女今では嬶座で溶けもせず  良くない意味で、ちょっと川柳的すぎるのではないかと思います。
 49 歳晩や黒湯水風呂交互に  下五が字足らずのようです。「水風呂と黒湯交互に年の暮」などとすればきっちり収まります。
 52 ペン胸に師走の野球選手かな  「かな」で大きくまとめてしまうと、意外性や驚きが伝わって来ず、ちょっと報告っぽくなってしまいます。語順や切れなどで、どこかポイントを絞って強調したいところです。こういう場面を句にされることは少ないので、着眼点としては面白いと思うのですが。
 55 いじめられそうな顔だな帰り花  周りが枯れていく中で時ならぬ花を咲かせる帰り花。そうした帰り花の美しさへの嫉妬もいじめにつながる、ということでしょうか。面白そうな句なのですが、ちょっと上五中七と季語との関連が読み取りづらい印象です。
 56 レシートの裏に詩を書く時雨かな  冷たい時雨の中、取る物もとりあえずレシートの裏に詩を書き付ける。どんな時でも詩のことが頭を離れない、かなり詩に執着している人物の姿が浮かんできます。採りたかった句。
 

 


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