ハルヤスミ句会 第百九十九回

2017年5月

《 句会報 》

01 北窓を開いて空の青さかな       光太郎(草・案・時)

02 明るきに三つカーネーションの鉢    佳子

03 うどん屋にだいぶ待たされ蕗の雨    ぐり

04 聖五月年金機構のハガキかな      順一

05 草笛に生垣の道選びけり        時人(一・順・ぐ)

06 休み田のそこらそこらや田水張る    つよし(光・時)

07 草笛や垣根隠れをまた一人       時人(春)

08 春深し植物と云ふ勝れもの       案山子(益・三)

09 ダイビングキャッチ歓声青嵐      第九(え)

10 不登校自分がなるや新教師       光太郎(益・鋼)

11 棘そぎし薔薇や娘は母になる      時人(光・忠・佳)

12 葉桜やさらりと余命聞かされて     ルカ(光・草・案・時・奥・忠・海・三・鋼・春)

13 真ん中の竿は日の丸青葉風       さんきう(ち)

14 余花の雨傘閉じようかもう小降り    ぐり

15 葉桜や谷戸に豊かな水と土       第九

16 つつじ掃きて残りしつつじきはだちぬ  さんきう

17 時に欲しき三十一文字や晶子の忌    草太(さ)

18 蚊の噂ドイツ語辞典広辞苑       順一

19 見馴れたる景色の港つばくらめ     ちあき(奥)

20 部屋整理領域広げる柿若葉       順一

21 硬かろうと筍好きへ泥のまま      つよし(さ・愛)

22 河童忌や世界を閉じる蝶の翅      ルカ(順・ぐ)

23 若葉風更地となりぬ南側        つよし(奥)

24 みどりの夜コントラバスの長き指    ルカ(え・ち・さ・一・海・佳)

25 桜もち最後のひとつ買うてけり     愛(鋼)

26 夏空や紅白帽と万国旗         第九

27 笑ひ合ふ目糞鼻糞目借り時       案山子

28 神に会ふ直前でくちなはの見ゆ     佳子

29 同好の人のぬくもり春惜しむ      案山子(愛)

30 蟇ラジオにどっと笑ふ夜の       みなと(佳・春)

31 ビニールの葉の上すべる水羊羹     愛(ル・時・第・奥・三)

32 ヒューケラの葉陰キラピカ聖五月    えみこ

33 ミュシャの絵の女気取りて百合を手に  愛

34 夏の夜の漏れ来る演歌袖しぐれ     さんきう

35 麦秋や満鉄を知る旅鞄         草太(え・光・ち・さ・ル・案・一・第・海・益)

36 鳥群れて人間ぽつん麦は穂に      えみこ(草・忠)

37 六年の陸奥の海より夜光虫       草太

38 赤子抱く父親集ふ藤の花        ひろ子(さ・ル・忠・海・三)

39 祝婚の声のますぐの夏木立       佳子

40 母の日や米寿の母に添ひ寝して     ひろ子(案・第・愛)

41 五月来る駅に親しき顔見つけ      ぐり(ち・ル・案・第)

42 汝の首刎ぬるがごとく薔薇剪らむ    海音(益・鋼)

43 江ノ電の乗員規制子供の日       ちあき(光・順)

44 海青く葉桜のまだ青足らぬ       春休

45 昼寝覚いま晩年と思ひけり       みなと(え・一・第・愛)

46 庭隅に青大将の赤子居て        ひろ子

47 本名を木札に刻む清和かな       忠義

48 ミサイルの避難訓練春の昼       光太郎

49 修司忌やカレー饂飩に箸染まり     忠義(ち・時・愛・三・春)

50 草いきれより戻り来て何もせず     春休(順・ぐ・佳)

51 どことなく人間臭き春落葉       益太郎(草)

52 岩清水日に赤らめし顔に浴び      忠義

53 さざなみの寄する畔道風薫る      一斗

54 人類類もデトリタスです花筏      益太郎

55 網打てば空に広ごる薄暑かな      一斗

56 また一人来て緑蔭を引き返す      海音(え・草)

57 路上ライブ囃してゆけり青嵐      ちあき

58 子に聴こえ吾に聴こえず月涼し     えみこ(ル・奥・春)

59 島どこも風のざはめき夏めきて     一斗(順)

60 家出すると言ひたる奴の白靴ぞ     みなと(海・ぐ・佳)

61 山鳩の声しきりなる日向水       海音(ぐ)

62 田吾作は差別用語か田水張る      益太郎

63 煙太く煙突太く田水沸く        春休(一・忠・益・鋼)  




【 えみこ 選(え) 】
○09 ダイビングキャッチ歓声青嵐     歓声と青嵐、色の違う音の重なり。
○24 みどりの夜コントラバスの長き指   コントラバスならそうかも。季語もきれい。
○35 麦秋や満鉄を知る旅鞄    誰かの遺品なんでしょうか、季語でなつかしさ感。
○45 昼寝覚いま晩年と思ひけり   なんか不思議な時間なんですよね、昼寝覚め。晩年にもいろいろありますが・・・
○56 また一人来て緑蔭を引き返す   留まらずに引き返す、なぜだろう。居心地いいはずなのに。

【 森本光太郎 選(光) 】
○06 休み田のそこらそこらや田水張る
○11 棘そぎし薔薇や娘は母になる
○12 葉桜やさらりと余命聞かされて
○35 麦秋や満鉄を知る旅鞄
○43 江ノ電の乗員規制子供の日

【 ちあき 選(ち) 】
○13 真ん中の竿は日の丸青葉風  大変気持の良い句です。
○24 みどりの夜コントラバスの長き指  繊細 な音を生みだす指先。みどりの夜が素敵です。
○35 麦秋や満鉄を知る旅鞄  麦秋が良く効いていると思います。
○41 五月来る駅に親しき顔見つけ  心がわくわくしてきます。
○49 修司忌やカレー饂飩に箸染まり

【 小中奈央 選(奈) 】
(今回はお休みです。)

【 さんきう 選(さ) 】
○17 時に欲しき三十一文字や晶子の忌  単に「言い尽くせない時は七七の部分が欲しい」ということでしょうか。自分の場合は「時に恋しき三十一文字」かな。「短歌と訣別して俳句一本で行くことにしたんだけど…」的な意味で。
○21 硬かろうと筍好きへ泥のまま  これ、言い方が俳句的じゃないんですよね。そこをプラスにとるかマイナスにとるか…。自分はプラスにとりましたが、時間がある時、推敲願います。うーん。
○24 みどりの夜コントラバスの長き指  ちょっとありがちなテーマですよね。きれいきれいで終ってるのかも。
○35 麦秋や満鉄を知る旅鞄  これは良い。寅さん鞄のようなものでしょうか。満州ではなく満鉄なのが◎。
○38 赤子抱く父親集ふ藤の花  「イクメン」などのカタカナ語を使わないのに好感。ただ、「赤子抱く」「父親集ふ」が並列のようになっているのは句の格好としてどうなのかしら、と思ってしまいました。

【 ルカ 選(ル) 】
○31 ビニールの葉の上すべる水羊羹
○35 麦秋や満鉄を知る旅鞄
○38 赤子抱く父親集ふ藤の花
○41 五月来る駅に親しき顔見つけ
○58 子に聴こえ吾に聴こえず月涼し

【 青野草太 選(草) 】
〇01 北窓を開いて空の青さかな
〇12 葉桜やさらりと余命聞かされて
〇36 鳥群れて人間ぽつん麦は穂に
〇51 どことなく人間臭き春落葉
〇56 また一人来て緑蔭を引き返す

【 石黒案山子 選(案) 】
〇01 北窓を開いて空の青さかな
〇12 葉桜やさらりと余命聞かされて
〇35 麦秋や満鉄を知る旅鞄
〇40 母の日や米寿の母に添ひ寝して
〇41 五月来る駅に親しき顔見つけ

【 一斗 選(一) 】
〇05 草笛に生垣の道選びけり        
〇24 みどりの夜コントラバスの長き指    
〇35 麦秋や満鉄を知る旅鞄         
〇45 昼寝覚いま晩年と思ひけり       
〇63 煙太く煙突太く田水沸く   

【 中村時人 選(時) 】
〇01 北窓を開いて空の青さかな
〇06 休み田のそこらそこらや田水張る
〇12 葉桜やさらりと余命聞かされて
〇31 ビニールの葉の上すべる水羊羹
〇49 修司忌やカレー饂飩に箸染まり
 他に気になった句は
 04 聖五月年金機構のハガキかな
 09 ダイビングキャッチ歓声青嵐
 14 余花の雨傘を閉じよかもう小降り
 40 母の日や米寿の母に添ひ寝して
 以上宜しくお願いいたします。

【 土曜第九 選(第) 】
○31 ビニールの葉の上すべる水羊羹  誰もが見ている景ですが、とても美味しそうです。
○35 麦秋や満鉄を知る旅鞄  毎年初夏の晴れやかな日にはるか西の空に思いをはせるのでしょうか。
○40 母の日や米寿の母に添ひ寝して  もしかして寝たきりのお母様でしょうか。飛び切りのプレゼントですね。
○41 五月来る駅に親しき顔見つけ  新緑の清々しい季節に満面の笑顔の出会いが見えます。
○45 昼寝覚いま晩年と思ひけり  ふとした瞬間に人生の落日を見る思いなのでしょうか。切ない句です。

【 奥寺ひろ子 選(奥) 】
○12 葉桜やさらりと余命聞かされて  身に沁みます。
○19 見馴れたる景色の港つばくらめ  毎年、燕のくるのを楽しみにしています。
○23 若葉風更地となりぬ南側  気持ちの良い風が、身も心にも吹いてきます。
○31 ビニールの葉の上すべる水羊羹  するりとすべるみずみずしさが感じられます。
○58 子に聴こえ吾に聴こえず月涼し  月涼しがひびきあっています。 

【 滝ノ川愛 選(愛) 】
〇21 硬かろうと筍好きへ泥のまま  
〇29 同好の人のぬくもり春惜しむ  
〇40 母の日や米寿の母に添ひ寝して 
〇45 昼寝覚いま晩年と思ひけり   
〇49 修司忌やカレー饂飩に箸染まり 
 以上です。

【 小林タロー 選(タ) 】
(今回はお休みです。)

【 小早川忠義 選(忠) 】
○11 棘そぎし薔薇や娘は母になる  作者と娘さんの穏やかなことばかりではなかったような過去まで見えて来る。
○12 葉桜やさらりと余命聞かされて  短い命の象徴のような落花の後の葉桜。余命を聞かされるのは一時葉桜のような気分なのかも知れない。
○36 鳥群れて人間ぽつん麦は穂に  天地人がしっかり描かれていて清々しい。
○38 赤子抱く父親集ふ藤の花  時代の変遷のせいか休日の企画なのか。その父親たちはおそらくお子さんを泣かせない抱き上手。
○63 煙太く煙突太く田水沸く  力強い描写に惹かれる。くどいといわれる向きもあるだろうか。
 17 時に欲しき三十一文字や晶子の忌  意地悪をいえば「みそひと文字」ではなくて「しちしち」だろう。
 23 若葉風更地となりぬ南側  「更地となりし」、だろう。
 28 神に会ふ直前でくちなはの見ゆ  芥川の「蜘蛛の糸」を思い出した。
 42 汝の首刎ぬるがごとく薔薇剪らむ  怖いと思わせることは句を詠む姿勢においては許されることなのか。かつて私も短歌においては恨み言まがいの歌を詠んだことがあった。
 45 昼寝覚いま晩年と思ひけり  そうおっしゃる方に限って「まだ早いですよ」とツッコミが入りそうな。
 58 子に聴こえ吾に聴こえず月涼し  何が聞こえなかったのだろう。
 60 家出すると言ひたる奴の白靴ぞ  季語よりアイデアが先走っていて惜しい気がする。

【 石川順一 選(順) 】
○05 草笛に生垣の道選びけり  季語は「草笛」。「選び」の主体性を感じます。そこに季語が共鳴して居る様に感じました
○22 河童忌や世界を閉じる蝶の翅  季語は「河童忌」。7月24日ですね。「世界を閉じる」と言う措辞が印象的でした。芥川龍之介と言う実存と拮抗して居る句だと思いました。
○43 江ノ電の乗員規制子供の日  季語は「子供の日」。ニュースをそのまま句にした様なシンプルさに良さを感じました。
○50 草いきれより戻り来て何もせず  季語は「草いきれ」。アンニュイさえ感じました。「何もせず」に確かな着地点であると思います。
○59 島どこも風のざはめき夏めきて  季語は「夏めく」。鳥羽市沖の菅島でしょうか。「風のざはめき」に夏を感じました。
 以上5句選でした。他に
 03 うどん屋にだいぶ待たされ蕗の雨  季語は「蕗の雨」。主観的な時間と客観的な季語。
 09 ダイビングキャッチ歓声青嵐  季語は「青嵐」。風の中に上がる歓声。
 11 棘そぎし薔薇や娘は母になる  季語は「薔薇」。娘は母に。そして棘に対する視点。
 24 みどりの夜コントラバスの長き指  季語は「みどりの夜」。奏者の指に注目した。
 33 ミュシャの絵の女気取りて百合を手に  季語は「百合」。ミュシャはチェコの有名な画家。
 42 汝の首刎ぬるがごとく薔薇剪らむ  季語は「薔薇」。秀次を思い出しました。殺生太閤の噂は本当か。
 45 昼寝覚いま晩年と思ひけり  季語は「昼寝」。「今」の視点。
 54 人類もデトリタスです花筏  季語は「花筏」。デトリタス、それは生物の長い歴史。
 57 路上ライブ囃してゆけり青嵐  季語は「青嵐」。若者らの狂騒。
 62 田吾作は差別用語か田水張る  季語は「田水張る」。田吾作、珍妙な造語。などの句にも注目しました。

【 涼野海音 選(海) 】
〇12 葉桜やさらりと余命聞かされて  「さらりと」というオノマトペが生きている。桜の葉が風に吹かれたときの音も同時に想像した。
〇24 みどりの夜コントラバスの長き指  コントラバスの奏者をよくみている。
〇35 麦秋や満鉄を知る旅鞄  相当、古い旅鞄なのだろう。
〇38 赤子抱く父親集ふ藤の花  育児をする父たちの集いか何かかしら。
〇60 家出すると言ひたる奴の白靴ぞ  なんと大胆な宣言、でもまだ家出はしてないのですね。

【 川崎益太郎 選(益) 】
○08 春深し植物と云ふ勝れもの  植物は動物より数倍力強さを感じる。
○10 不登校自分がなるや新教師  教師も大変です。
○35 麦秋や満鉄を知る旅鞄  やや古いが、「麦と兵隊」。
○42 汝の首刎ぬるがごとく薔薇剪らむ  薔薇を切る時には、覚悟が要る。
○63 煙太く煙突太く田水沸く  太く太くというリフレインに実感がある。

【 草野ぐり 選(ぐ) 】
○05 草笛に生垣の道選びけり    
○22 河童忌や世界を閉じる蝶の翅  
○50 草いきれより戻り来て何もせず
○60 家出すると言ひたる奴の白靴ぞ   
○61 山鳩の声しきりなる日向水 

【 水口佳子 選(佳) 】
○11 棘そぎし薔薇や娘は母になる
○24 緑の夜コントラバスの長き指
○30 蟇ラジオにどっと笑ふ夜の
○50 草いきれより戻りきて何もせず
○60 家出すると言ひたる奴の白靴ぞ

【 三泊みなと 選(三) 】
○08 春深し植物と云ふ勝れもの 
○12 葉桜やさらりと余命聞かされて  
○31 ビニールの葉の上すべる水羊羹 
○38 赤子抱く父親集ふ藤の花 
○49 修司忌やカレー饂飩に箸染まり 

【 鋼つよし 選(鋼) 】
○10 不登校自分がなるや新教師  授業参観などに参加してみてリアルに思います。
○12 葉桜やさらりと余命聞かされて  最近の世相とかや、私も心しておかなくては。
○25 桜もち最後のひとつ買うてけり  最後の一つが良い。
○42 汝の首刎ぬるがごとく薔薇剪らむ  仕草が大げさでよい。
○63 煙太く煙突太く田水沸く  リズムがよく田水沸くがうまい。
 今回 63番の*煙太く*が絶賛の句です。

【 中村阿昼 選(阿) 】
(今回はお休みです。)

【 小川春休 選(春) 】
○07 草笛や垣根隠れをまた一人  おそらく子供でしょう、姿はよく見えないが、草笛の音からそこを行く人の気配を感じる。句全体の言葉があるべきところに収まっている感じがする、特に「垣根隠れ」という言い回しが巧みです。
○12 葉桜やさらりと余命聞かされて  葉桜は、心が浮き立つような桜の花時から現実から引き戻される時期。余命がどの程度の長さかは分かりませんが、もしかすると今年の桜が最後の桜になるのかもしれません。
○30 蟇ラジオにどっと笑ふ夜の  一人では「どっと笑ふ」ことはできません。「どっと笑ふ」からはやはり団欒の景が見えてくる。団欒の中心にラジオがあるというのも、「蟇」という季語も、どこか懐かしい。現代の景ではなく、回想の中の景かもしれませんね。なお、旧かなでは「どっと」は「どつと」です。
○49 修司忌やカレー饂飩に箸染まり  忌日の句はイメージが先行しがちなものですが、中七下五の実感のある描写が「修司忌」のイメージをしっかりと支えている。寺山修司への想いと、年を経た自身を見つめる目とを感じる句。
○58 子に聴こえ吾に聴こえず月涼し  虫の声か鳥の声か、それとも心霊現象か。「月涼し」が夜の静けさや景まで想像させてくれる。
 03 うどん屋にだいぶ待たされ蕗の雨  うどん屋自体がのんびりしているせいでだいぶ待たされているのか、客が多くてだいぶ待たされているのか、この二つではうどん屋の景はかなり違う。その辺りが分かるように表現してほしい。
 06 休み田のそこらそこらや田水張る  良い景なのですが、田に水を張ったら、すなわち水を張っていない田が休み田である、というような理屈が見えてしまう所が少し残念。違う季語ならこの上五中七を活かせるかもしれません。
 08 春深し植物と云ふ勝れもの  言わんとするところは何となく分かるような気もするのですが、どういうところが「勝れもの」なのかがよく分からない。それと、「植物」というのも対象が広すぎる。植物にもいろいろな種類があるのですから、ある程度特定できた方が読み手も想像しやすい。
 09 ダイビングキャッチ歓声青嵐  助詞を使わず畳み掛け、勢いのある句に仕立てられています。採りたかった句。
 10 不登校自分がなるや新教師  内容はよく分かりますが、少し川柳的な発想という気がします。
 11 棘そぎし薔薇や娘は母になる  この句では「既に棘をそいである薔薇」が詠み込まれていますが、「既に棘をそいである薔薇」よりも「今薔薇の棘をそいでいる場面」の方が印象的なように感じる。「薔薇の棘そぎて娘は母になる」とすれば、身重の娘が薔薇の棘をそいでいるという場面が見えてくる。こちらの方が景が具体的で、印象的な句になると思います。
 14 余花の雨傘閉じようかもう小降り  「傘閉じようか」という表現から、雨がもう止みそうか小降りかということは推測できる。推測できるところまで全て句の中に詠み込んでしまうと、広がりのない句になってしまいます。
 17 時に欲しき三十一文字や晶子の忌  上五中七、時には短歌を読みたい、もしくは詠みたいということでしょうか。「欲しき」が結構曖昧です。また、この上五中七の内容に対してこの季語では、句の内容に具体性も出ないですし、ツキスギと感じる。
 19 見馴れたる景色の港つばくらめ  「見馴れたる景色の港」という表現は、見馴れている本人にとっては自明のことかもしれませんが、見馴れていない読み手にとってはピンと来ません。港のどういうところに見馴れているのか、ポイントを絞って描写してほしい。
 21 硬かろうと筍好きへ泥のまま  野菜などに泥がついている、という句は非常によく見ます。
 22 河童忌や世界を閉じる蝶の翅  「世界を閉じる」とはどういうことなのかよく分かりません。季語を二つ入れず、蝶だけで一句に仕立てた方が良いのではないかとも思います。
 24 みどりの夜コントラバスの長き指  内容は良いと思うのですが、上五と下五がいずれも名詞の形は避けたいところ。下五を「指長き」か「指長く」にしてはいかがでしょうか。
 27 笑ひ合ふ目糞鼻糞目借り時  「目糞鼻糞」のような慣用句やことわざを俳句に導入すると、非常に陳腐な印象になります。
 28 神に会ふ直前でくちなはの見ゆ  感覚的な把握を生かした句と思いますが、仕立て方がぎこちない印象です。特に「直前で」という言い回しは説明的で堅い。もっと違う表現を使って、メリハリのある、印象鮮明な句にならないものかと思います。
 31 ビニールの葉の上すべる水羊羹  下五が字余りであることもありますが、下五に名詞を持ってくると、どっしりと安定した印象の句になる。この句の場合は、「すべる」という動きを中心にした方が良いように感じます。例えば「水羊羹ビニールの葉をすべりては」など。
 35 麦秋や満鉄を知る旅鞄  満州鉄道時代を知る旅鞄、さすがに今は現役ではなく展示品か何かでしょうか。季語の働きも相俟って、これまでの歴史を想像させてくれます。採りたかった句です。
 36 鳥群れて人間ぽつん麦は穂に  鳥・人・麦、という三者の対比が面白い句ですが、中七が少し詰め込みすぎというか、舌足らずになっている。「人間」を「人」と言い替え、「人はぽつんと」としてはいかがでしょうか。
 38 赤子抱く父親集ふ藤の花  大体母親より父親の方が背が高いですから、この句は赤子に近くで藤の花を見せようと、父親が赤子を抱いているのかと思いました。
 42 汝の首刎ぬるがごとく薔薇剪らむ  角川春樹の〈向日葵や信長の首切り落とす〉を思い出しました。
 47 本名を木札に刻む清和かな  本名より芸名や筆名の方で知られた人だったのでしょうか。この「本名」にどのような重みがあるのか、この句だけではよく分かりません。連作の中の一句であれば、印象も変わってくるかも知れませんね。
 56 また一人来て緑蔭を引き返す  独特の余韻のある句。少し漢詩にも通じる趣のある句です。
 59 島どこも風のざはめき夏めきて  気分の良い句ではあるのですが、少し漠然としている。島は島でも、波打ち際と山のてっぺんでは印象も大きく違う。場所をもう少し特定できた方が良いと思います。
 60 家出すると言ひたる奴の白靴ぞ  白靴というディテールに目を向けたところが面白い。中学生か高校生でしょうか。気になったのは、中七のもたつき。「家出すると」という上五をもう一工夫すれば、セリフであることが分かるようになり、「言ひたる」などとわざわざ言う必要もなくなります。もう一度推敲してみてください。

 


来月の投句は、6月15日までに、3句お送り下さい・・・・・・投句はこちら

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