ハルヤスミ句会 第二百回

2017年6月

《 句会報 》

01 窓を出てカーテンなびく早苗月     春休

02 連休の思い出遠き五月尽        光太郎

03 年ごとに弱る足腰茄子の花       愛(時)

04 古傷をやさしく撫でる若葉風      益太郎(第・海)

05 麦湯沸き我を鼓舞する詩歌かな     ぐり(第・忠・順・春)

06 ゆふ蛍橋の袂に人待てり        時人

07 八方に隙なきをんな濃紫陽花      さんきう(え・ル・時・忠・海)

08 新緑や電気自動車止まり居り      順一(光)

09 ビル街に住めば若葉が見たくなる    光太郎

10 紫陽花をひと間ひと間に生けし刀自   ひろ子

11 青梅の空や雀ら翼ひろげ        つよし

12 小舟着きどぼとしらすの計り売り    愛(え・光・ル・時)

13 直感で生きているポチ南風吹く     えみこ(愛)

14 ごきぶりと間合いはかりて身構えり   愛(益)

15 百合の香や通されて目の慣るるまで   佳子(愛・忠・三)

16 桑の実や帰れるうちが故郷と      忠義(光・時・奥・三)

17 木洩れ日の落ち着くところ著莪の花   益太郎(さ・ル・草・案・奥・愛・春)

18 ひとことの軽さ重さよ竹落葉      ルカ(草・案・時)

19 赤い金魚黒い金魚を過りたる      佳子(ル・奥・ぐ)

20 柿の花既に持ちけり柿の顔       案山子

21 モノクロの夢見て汗に目覚めけり    ぐり(佳)

22 揺籠の落ちて今より落し文       案山子

23 色街の真ん中をゆく涼しさよ      海音(第・愛・三・鋼)

24 鼻唄が窓より漏れてかはほりよ     春休(海)

25 噴水の休符音符の踊りだす       ルカ(さ・益)

26 桃太郎飴ムンクの顔に油照り      草太

27 青葉山猿の親子は道に出づ       ひろ子(海)

28 畳まれし思い出ひとつ夏帽子      ルカ(草・案・奥)

29 賞味期限迫る金魚とめだかの餌     案山子(光・順)

30 戒めに言へぬがあまた沖縄忌      忠義

31 やうやうと雨に崩るる牡丹かな     みなと(さ)

32 ほたるぶくろ人差し指に揺らしては   忠義(ぐ)

33 行水や濡れ髪の姉縁側に        第九

34 山開人の数だけ死に処         さんきう(順・鋼)

35 幼虫が蟻に襲はれ土に死す       順一

36 歪みある部屋に沈みし水中花      佳子(さ・益)

37 テッペンカケタカ見舞いに行って励まされ えみこ(春)

38 クラクションふたつが合図夏の月    第九(え・愛・海・益・佳)

39 物で物であふるるお部屋梅雨に入る   つよし

40 男老いてヴィヴィアン・リーと昼寝かな 草太

41 理事集い草むしりせりコカコーラ    ぐり

42 歩き疲れ喋り疲れの青嵐        つよし(順)

43 耳大き地蔵居並び青嵐         第九(忠・佳・鋼)

44 青紫蘇の虫食い抓み薬味にし      ひろ子

45 人の目の気恥ずかしさやアロハシャツ  時人

46 オペレッタの恋いつも目出度し巴里祭  草太

47 髪洗ふアジア人たる頭のかたち     さんきう(ル・草・ぐ)

48 大海に向かひてバナナ剥いてをり    海音(さ・第・忠・佳・三・春)

49 開拓の血筋を今に蟻の道        みなと(草・案・第・益・鋼・春)

50 気まぐれな午後の彷徨薔薇の雨     えみこ

51 五月雨や手術か技術か迷ふ記事     順一

52 男らのブル−ヨ−デル登山宿      みなと

53 参道や蚯蚓乾きて園児の輪       時人(え・ぐ・鋼)

54 麦秋へ別れと分れ道祖神        益太郎

55 灯台や夏至の日のいま沈まむと     春休(光・三)

56 冷奴妻と銘酒を酌み交わす       光太郎(順)

57 終点の駅の小さし雲の峰        海音(え・案・奥・ぐ・佳) 




【 えみこ 選(え) 】
○07 八方に隙なきをんな濃紫陽花   濃紫陽花感でてますね。でも類想あるかな。
○12 小舟着きどぼとしらすの計り売り   どぼと、が言い得ているような、どうかな。
○38 クラクションふたつが合図夏の月   夏の月だと多分、夜ですよね。夜のクラクションより昼にしてほしかな。
○53 参道や蚯蚓乾きて園児の輪   乾き蚯蚓と園児との取り合わせはおもしろい。「や」のきれ、きつすぎるかと。「に」でもいいかと。
○57 終点の駅の小さし雲の峰  小さい駅と雲の峰の果てしなき大きさ。シンプル感。
 ほかに、気になった句
 36 歪みある部屋に沈みし水中花  「沈みし」はいわない方がいいかとも
 41 理事集い草むしりせりコカコーラ  季語は違うのがいいのでは。このままでは説明。
 48 大海に向かひてバナナ剥いてをり  状況説明かなあ。
 52 男らのブル−ヨ−デル登山宿  別の季語にしたい。つきすぎ感。

【 森本光太郎 選(光) 】
○08 新緑や電気自動車止まり居り
○12 小舟着きどぼとしらすの計り売り
○16 桑の実や帰れるうちが故郷と
○29 賞味期限迫る金魚とめだかの餌
○55 灯台や夏至の日のいま沈まむと

【 ちあき 選(ち) 】
(今回はお休みです。)

【 さんきう 選(さ) 】
○17 木洩れ日の落ち着くところ著莪の花  「落ち着くところ」が理屈で書いている印象を受けないので良かったです。
○25 噴水の休符音符の踊りだす  これは「休符」は要らないと思います…。八分音符、四分音符が入り乱れている方が楽しい。(字数の問題とかありますけど)
○31 やうやうと雨に崩るる牡丹かな  ありがちな書き方かなー、と思いつつ。
○36 歪みある部屋に沈みし水中花  「歪みある」は「なるほどねー」ですが、「水中花ってのは大体沈んでいるもの」という気もするし、「あれは沈んでいると言うべきものなの?」という気もするので、そのあたりがどうかな、と。
○48 大海に向かひてバナナ剥いてをり  これは下五が「バナナ剥く」となるような書き方の方がいいのでは?

【 ルカ 選(ル) 】
○07 八方に隙なきをんな濃紫陽花
○12 小舟着きどぼとしらすの計り売り
○17 木洩れ日の落ち着くところ著莪の花
○19 赤い金魚黒い金魚を過りたる
○47 髪洗ふアジア人たる頭のかたち

【 青野草太 選(草) 】
○17 木洩れ日の落ち着くところ著莪の花
○18 ひとことの軽さ重さよ竹落葉
○28 畳まれし思い出ひとつ夏帽子
○47 髪洗ふアジア人たる頭のかたち
○49 開拓の血筋を今に蟻の道
            以上です。

【 石黒案山子 選(案) 】
○17 木漏れ日の落ち着くところ箸我の花
○18 ひとことの軽さ重さよ竹落葉
○28 畳まれし思い出ひとつ夏帽子
○49 開拓の血筋を今に蟻の道
○57 終点の駅の小さし雲の峰

【 一斗 選(一) 】
(今回はお休みです。)

【 中村時人 選(時) 】
○03 年ごとに弱る足腰茄子の花
○07 八方に隙なきをんな濃紫陽花
○12 小舟着きどぼとしらすの量り売り
○16 桑の実や帰れるうちが故郷と
○18 ひとことの軽さ重さよ竹落葉
 他に気になった句は
 14 ごきぶりと間合いはかりて身構えり
 17 木洩れ日の落ち着くところ著莪の花
 24 鼻歌が窓より漏れてかはほりよ
 29 賞味期限迫る金魚とめだかの餌
 32 ほたるぶくろ人差し指に揺らしては
 以上宜しくお願いいたします。

【 土曜第九 選(第) 】
○04 古傷をやさしく撫でる若葉風 
○05 麦湯沸き我を鼓舞する詩歌かな 
○23 色街の真ん中をゆく涼しさよ 
○48 大海に向かひてバナナ剥いてをり 
○49 開拓の血筋を今に蟻の道 

【 奥寺ひろ子 選(奥) 】
○16 桑の実や帰れるうちが故郷と  本当にそうですね。
○17 木漏れ日の落ち着くところ奢我の花  木漏れ日の中に奢我の花が静かにさいています。
○19 赤い金魚黒い金魚を過りたる  赤と黒が、夏を表しています。
○28 畳まれし思い出ひとつ夏帽子  夏の思い出を心の中にしまいました。
○57 終点の駅の小さし雲の峰  小さい駅と雲の峰が響きあっています。

【 滝ノ川愛 選(愛) 】
〇13 直感で生きているポチ南風吹く  成程犬などの動物は直感で生きてますね。「南風」の季語が作者と犬との穏やかな景を感じさせてくれます。
〇15 百合の香や通されて目の慣れるまで  客間に通されて、まずは百合の香りに迎えられた。視覚より嗅覚が先だったのですね。
〇17 木漏れ日の落ち着くところ著莪の花  著莪の花はよく薄暗いところにさいています。いかにもの景がよく分かります。
〇23 色街の真ん中をゆく涼しさよ  色街は夜は熱苦しいが、きっと昼間はこのようなことがあるのでしょう。”真ん中”がいいです。
〇38 クラクションふたつが合図夏の月  親しい仲の二人、これから夜のお出掛け。さりげないよい句ですね。

【 小林タロー 選(タ) 】
(今回はお休みです。)

【 小早川忠義 選(忠) 】
○05 麦湯沸き我を鼓舞する詩歌かな  感銘を受けて舞い上がるのも良いが、粗熱を取ることも忘れないように。
○07 八方に隙なきをんな濃紫陽花  花言葉は確か「冷淡」とか「毒のある女」だった紫陽花。こんもりとした花群と良く響く。
○15 百合の香や通されて目の慣るるまで  嗅覚から視覚への緩やかな変化。震えた。
○43 耳大き地蔵居並び青嵐  その地蔵は嵐の止む気配がわかるまでじっと耳をそばだてているようだ。
○48 大海に向かひてバナナ剥いてをり  一見関係ないようなのだが本当に面白い景。海水浴にはちょっと早い海の憩い。
 01 窓を出てカーテンなびく早苗月  先にカーテンを持ってくれば分かりやすかったか、または「窓の外に」とするか。
 26 桃太郎飴ムンクの顔に油照り  金太郎飴じゃないところに興味を引いた。季語に「桃太郎飴」の特徴を引き立たせることができなかったか。

【 石川順一 選(順) 】
○05 麦湯沸き我を鼓舞する詩歌かな  季語は「麦湯」。貴重な一服のひと時。鼓舞する詩歌。季語の「麦湯」が活きて居ると思いました。
○29 賞味期限迫る金魚とめだかの餌  季語は「金魚と目高」。ユーモラスですね。魚のえさの賞味期限。どんなものか調べたくなりました。
○34 山開人の数だけ死に処  季語は「山開」。深遠な哲学を語っているようにも思われ俳句としても、季語を生かす意思が感じられました。
○42 歩き疲れ喋り疲れの青嵐  季語は「青嵐」。とにかく疲れた。そして「青嵐」。季語の着地点を想いました。
○56 冷奴妻と銘酒を酌み交わす  季語は「冷奴」。「銘酒」「妻」と言うタームが静かに季語と交流を持って居る様でした。
 以上5句選でした。他に注目した句に
 13 直感で生きているポチ南風吹く  季語は「南風吹く」。ポチの奔放さ。
 26 桃太郎飴ムンクの顔に油照り  季語は「油照り」。ムンクはノルウェーの画家。
 30 戒めに言へぬがあまた沖縄忌  季語は「沖縄忌」。牛島将軍はまだ沖縄に眠る。
 45 人の目の気恥ずかしさやアロハシャツ  季語は「アロハシャツ」。自分の気持ちが濃厚に現れて居る。
 52 男らのブル−ヨ−デル登山宿  季語は「登山宿」。ブルーヨーデルを初めて知りました。

【 涼野海音 選(海) 】
○04 古傷をやさしく撫でる若葉風  「やさしく」がやや甘いようにも思えましたが、「古傷」と「若葉風」の取り合わせには共感。
○07 八方に隙なきをんな濃紫陽花  「八方に隙なき」まで踏み込めたところがよかった。
○24 鼻唄が窓より漏れてかはほりよ  夕方に鼻唄をうたっていたのでしょう。かはほりという季語がユニークに使われている。
○27 青葉山猿の親子は道に出づ  高崎山のようなところでしょうか。いかにも猿の親子らしい。
○38 クラクションふたつが合図夏の月  一体何の合図と思わせるところが、この句のポイントでしょう。

【 川崎益太郎 選(益) 】
○14 ごきぶりと間合いはかりて身構えり  ごきぶりを見つけると、どうしても身構えてしまう。
○25 噴水の休符音符の踊りだす  噴水の穂を休符音符と見た。面白い発見。
○36 歪みある部屋に沈みし水中花  歪みある部屋は、作者の心。
○38 クラクションふたつが合図夏の月  不倫の予感。
○49 開拓の血筋を今に蟻の道  そうか、蟻は血筋か。

【 草野ぐり 選(ぐ) 】
○19 赤い金魚黒い金魚を過りたる 
○32 ほたるぶくろ人差し指に揺らしては   
○47 髪洗ふアジア人たる頭のかたち
○53 参道や蚯蚓乾きて園児の輪  
○57 終点の駅の小さし雲の峰  

【 水口佳子 選(佳) 】
○21 モノクロの夢見て汗に目覚めけり  モノクロの夢とはどんな夢か?悲しい?怖い?不安?・・といったところか〈モノクロ〉と〈汗に目覚め〉で読み手に想像させる。
○38 クラクションふたつが合図夏の月  ピンポンはしないよクラクションふたつ鳴らすから・・夏の夜、これからどんな時間が流れるのか楽しみ。
○43 耳大き地蔵居並び青嵐 確かにお地蔵さんは耳が大きかったなあと思い出す。大きな耳で青嵐の音を聞いているのだろう。
○48 大海に向かひてバナナ剥いてをり  バナナは海を渡ってくるので大海の向こうに思いを馳せながら・・というようなわけでもないだろう。意味を追わない方が良い。
○57 終点の駅の小さし雲の峰  駅の小ささがその町の小ささを物語る。きっと無人駅。誰もいない駅に降り立ち雲の峰に迎えられた作者。〈雲の峰〉に広がりがあって良い

【 三泊みなと 選(三) 】
○15 百合の香や通されて目の慣るるまで   
○16 桑の実や帰れるうちが故郷と     
○23 色街の真ん中をゆく涼しさよ 
○48 大海に向かひてバナナ剥いてをり 
○55 灯台や夏至の日のいま沈まむと  

【 鋼つよし 選(鋼) 】
○23 色街の真ん中をゆく涼しさよ  涼しさとしゃれたところが良い。
○34 山開人の数だけ死に処  見る角度によればそのとおり。
○43 耳大き地蔵居並び青嵐  耳の大きい地蔵居並ぶ、発見なのだが青嵐の季語きまったかどうか。
○49 開拓の血筋を今に蟻の道  野外作業がやっぱり血筋と読みましたが。
○53 参道や蚯蚓乾きて園児の輪  園児の輪がいいですね。
 以上 お願いします。
 30 戒めに言へぬがあまた沖縄忌  沖縄忌は6月の地上戦の日なのだろうか、後世、戒めの言葉があまたあるのだが言えないことが沢山あると解釈したがどうでしょうか。

【 中村阿昼 選(阿) 】
(今回はお休みです。)

【 小川春休 選(春) 】
○05 麦湯沸き我を鼓舞する詩歌かな  ふつふつと泡が沸いて来る麦湯と、心の中に湧き上がってくるものと。どこか草田男の句を彷彿とさせるような句です。
○17 木洩れ日の落ち着くところ著莪の花  木洩れ日が落ち着くとは、木々の葉を揺らす風が届かない場所ということ。つまり、少し奥まった森のような場所を想像しました。いかにも著莪が咲いていそうな場所を、実感を持って想像させてくれる句。
○37 テッペンカケタカ見舞いに行って励まされ  ほととぎすはいろいろと暗い逸話もあり、不吉な印象もある鳥ですが、「テッペンカケタカ」という呼び方をすると途端に明るい印象になる。また、青々とした山に近い病院のように入院しているのかとも読める。なかなか巧みな季語の用い方です。
○48 大海に向かひてバナナ剥いてをり  虚子の「川を見るバナナの皮は手より落ち」を少し思い出しますが、虚子句よりもこちらの方がのびのびと素直に詠まれている印象。
○49 開拓の血筋を今に蟻の道  日本で開拓といえば北海道がすぐに思い浮かびます。開拓してその地に根付いた人々と、その地で日々懸命に暮らす蟻たちと。当然この人々と同じように蟻たちにも先祖があって今がある訳です。蟻へのシンパシーがしっかりと伝わってくる句。
 02 連休の思い出遠き五月尽  五月が終わる頃には連休の思い出も遠くなる、というのは理屈ではありませんか。
 04 古傷をやさしく撫でる若葉風  雰囲気は良いのですが、ムードだけという感じもする句。「撫でる」という語には元々「やさしく」というニュアンスが含まれており、その部分が少々言わずもがなに感じます。
 07 八方に隙なきをんな濃紫陽花  女と紫陽花との取り合わせの句として読むと面白いのですが、紫陽花を女にたとえた句と読むと途端に面白くなくなる。現状、どちらとも読める句になっているので、前者の読みへと誘導するような書き方をしてほしいところ。
 11 青梅の空や雀ら翼ひろげ  のびのびとした句ですが、少し下五の字余りがもたついているようにも感じます。
 12 小舟着きどぼとしらすの計り売り  勢いがある句ではあるのですが、構成としては少し「あれがこうしてこうなった」という感じにもなっている。上五を「舟着くや」とすれば、内容の面でも「舟が着くや否や」という感じでスピード感が出て来る。
 14 ごきぶりと間合いはかりて身構えり  なかなか面白いところを句にされていますが、上五中七を読んだだけで、身構えていることが想像できてしまうので、下五が少々蛇足に感じます。
 15 百合の香や通されて目の慣るるまで  屋外から屋内に通されて、その明るさのギャップに目が徐々に慣れてゆく。鋭い感覚の句ですが、「まで」が少々曖昧に感じます。
 18 ひとことの軽さ重さよ竹落葉  季語以外にはほとんど具体性がない句ですが、「軽さ重さ」と並べることで余計に曖昧な印象になっている気がします。
 19 赤い金魚黒い金魚を過りたる  碧梧桐の「赤い椿白い椿と落ちにけり」を少し思い出します。
 20 柿の花既に持ちけり柿の顔  「柿の顔」とはどんな顔でしょうか。
 21 モノクロの夢見て汗に目覚めけり  面白い感覚の句ですが、「見て」が蛇足なのがもったいなく感じます。「モノクロの夢」と現実との対比を際立たせるべきなのに、句末を「けり」で強調してもしょうがないように感じます。
 23 色街の真ん中をゆく涼しさよ  気分の良い句ではありますが、日中の人気のない色街の句としても成立するし、夜の賑わっている色街を闊歩している句としても成立してしまうところが難点と感じます。季語からだいたいの時間帯が推測できれば、そう言った曖昧さは解消されるかと思います。
 26 桃太郎飴ムンクの顔に油照り  桃太郎飴と言うと、製法は金太郎飴と同様で、デザインが桃太郎・猿・犬・雉になっているもののようですが、中七下五に一体どうつながってゆくのか。
 27 青葉山猿の親子は道に出づ  「は」が少し理屈っぽいのと、読み上げたときにどうもすんなり読めないのが気になる句です。例えば「青葉山親猿子猿道に出て」などとすれば、もう少しすっきりしそうです。
 30 戒めに言へぬがあまた沖縄忌  気分は分かるような気がする句なのですが、少し思わせぶりというか、曖昧な印象です。
 31 やうやうと雨に崩るる牡丹かな  「やうやうと」がどういう意味と解釈して良いのか分かりません。オノマトペとして読んでも、どういう状態なのか分からない。辞書を引いても、要用・陽葉・様様・鷹揚・夭夭・揚揚・揺揺・溶溶・遥遥など数多く候補があり、よく分からない(中にはひらがな表記だと「えうえう」なものもあり、それは候補から除外する必要がありそうですが…)。
 34 山開人の数だけ死に処  季語以外に具体的に見えてくるものがないところが弱く感じます。
 36 歪みある部屋に沈みし水中花  「歪みある部屋」というのがどういうことかよく分からないのですが、手抜き建築とか姉歯物件とかいう類のものでしょうか。
 38 クラクションふたつが合図夏の月  古き良き時代の映画のような、雰囲気のある句です。季語も明るくて良いです。
 39 物で物であふるるお部屋梅雨に入る  上五の畳みかけなど勢いがあって良いのですが、「お部屋」の「お」が句の内容に不似合いなのがもったいない。ここが「部屋よ」か「部屋ぞ」であれば採っていた句。
 40 男老いてヴィヴィアン・リーと昼寝かな  以前「男老いてヴィヴィアン・リーが初夢に」という草太さんの句があったのですが、そっくりです。いや、これは夢の中ではなく実物のヴィヴィアン・リーと昼寝しているという句なのでしょうか。
 41 理事集い草むしりせりコカコーラ  少し面白いところに目をつけた句ではありますが、散文的というか、あれがこうしてこうなった的な句になってしまっています。たとえば「理事長や理事のむしりし草捨てて」とか、もっとその場面自体を掘り下げて行けそうです。
 42 歩き疲れ喋り疲れの青嵐  中七、「の」でつなげるのは少し無理があるように感じます。「て」か「や」か、それとももっと他に良い案があるか、推敲してみてください。
 43 耳大き地蔵居並び青嵐  地蔵の特徴としての「耳大き」が効いているかといえば、少し微妙なのですが、たくさんの地蔵が並んでいるという描写がよく景を見せている。青嵐も、周囲の自然を感じさせてくれる。
 45 人の目の気恥ずかしさやアロハシャツ  得てして他人はそれほど人の服装など気にしていなかったりするものですが、やはり本人は気になるものなのでしょうね。
 50 気まぐれな午後の彷徨薔薇の雨  「彷徨」とはそもそも「気まぐれ」なものではないですか(きちんと目的地を定めて移動するのは「彷徨」ではない)。そういう言わずもがなのお決まりの表現は、俳句を一気に陳腐化します。
 53 参道や蚯蚓乾きて園児の輪  景は分かりますが、少しごちゃごちゃしているようにも感じる句。「参道や蚯蚓囲みて園児たち」ぐらいで良いと思いますが、いかがでしょうか。
 57 終点の駅の小さし雲の峰  終点の駅の先に広がる、雲の峰、青空、山々。駅の小ささとの対比が景をくっきりと描き出しています。これも採りたかった句です。

 


来月の投句は、7月15日までに、3句お送り下さい・・・・・・投句はこちら

back
back.
top
top.