【 木下木人 選(木) 】
○08 妻の手に嗤ふ南瓜の生まれけり
○23
金木犀女ばかりとなりし家
○30 蔓たぐりをれば園児ら群がり来
○35 焼き鮭の皮の嬉しき夜食かな
○40
今なおも絹織る機や柿の秋
宜しくお願いします。
【 槇 明治 選(明) 】
○02
重き柿もらひてあれが別れとは 喧嘩別れなのか、死別なのかは定かではないが「重き柿」の重きがずしりと心に響いてくる。
○03
鶏頭を剪るやずしりと持ち重り 実体験なのだろう、見た目よりずっと重たいですね、きっと。
○11
少し食べ母は蛹になる秋夜 「蛹になる」は変態というよりは、殻にこもるという感覚か、二人の関係性が妙に気になる句です。
○13
露けくて犬口角を上げ笑ふ 自分も犬を飼った経験があるが、犬が笑うのはついに解らなかった。作者は目撃したのか。季語との離れ具合が好き。
○38
流星や角なき窓の新幹線 視線を窓の外に移すと流星が見えた。「角なき窓」とは確かにそうですね。
【 こげら 選(こ) 】
○02
重き柿もらひてあれが別れとは 生別か死別か。後者のような気がします。今も憶えているあの日の柿の重み。人は儚い。
○11
少し食べ母は蛹になる秋夜 「蛹になる」が動かなくなることの比喩と思うのですが、「秋夜」の作用か本当に蛹になってしまうようなシュールさを感じました。
○17
また柿を見上げちつとも書き進まず 光景がよく見えて面白いです。下五の字余りは意見が分かれると思いますが、私は中々書けないで滞っている感じが出ていると思いました。
○36
締め込みの尻に触ればや秋の風 相撲か、お祭りか、目の前を通りすぎるきゅっと締まった男性の尻。ふと触ってみたくなった(笑)。面白いです。「秋の風」にこの一瞬の感じが出ていると思いました。
○54
秋麗や海みる椅子を青く塗り 今回一番好きな句です。「海みる椅子」が巧みで景が鮮やかに立ち上がる。良く晴れた秋の日にその椅子を塗る。ペンキの青、海の青、空の青。
その他、
03
鶏頭を剪るやずしりと持ち重り 「持ち重り」に少し時間経過が感じられ、「剪るや」の瞬間的な描写とズレを感じました。
16
水害の荒れ地を襲ふ野分かな この光景に「かな」の詠嘆は少しそぐわない気がしましたがどうでしょうか。
22
秋深し指の憶えしリコーダー 長いこと触ってもいなかったリコーダー。子供の時以来かも知れない。記憶の深さと深まる秋。採りたかった句でした。
23
金木犀女ばかりとなりし家 母と娘二人、みたいな家族を想像。金木犀の芳香から娘さんは年頃なのではとも想像させる。少し淋しさも感じられる。
30
蔓たぐりをれば園児ら群がり来 面白い景と思いますが「をれば」でちょっと間延びした感じがしました。語順?
35
焼き鮭の皮の嬉しき夜食かな 「嬉しき」の是非は意見が分かれるかも。
52
小流れに鯉の背鰭や曼珠沙華 綺麗な景ですが、動きが欲しい気がしました。
【 森本光太郎 選(光) 】
○05
秋愁ピエロに黒き涙跡 「ピエロ」という表現に、インパクトがあります。
○18
桑を食む秋蚕や戦後よみがえる 「蚕」は正しく、日本の近代化を支えました。
○22
秋深し指の憶えしリコーダー 「指の記憶」は、確かにあります。
○25
流れ星次の仕事は何にしよ 風の吹くまま、気の向くまま。自由で良いですね。
○54
秋麗や海みる椅子を青く塗り 何となくロマンチックな俳句だと思います。
【 さんきう 選(さ) 】
(今回はお休みです。)
【 ルカ 選(ル) 】
○11 少し食べ母は蛹になる秋夜
○23
金木犀女ばかりとなりし家
○24 小包は干し無花果と一筆画
○35 焼き鮭の皮の嬉しき夜食かな
○39
芋煮会去年の石を見つけたり
【 青野草太 選(草) 】
(今回はお休みです。)
【 石黒案山子 選(案) 】
(今回は選句お休みです。)
【 一斗 選(一) 】
○02 重き柿もらひてあれが別れとは
○22
秋深し指の憶えしリコーダー
○39 芋煮会去年の石を見つけたり
○52 小流れに鯉の背鰭や曼珠沙華
○54
秋麗や海みる椅子を青く塗り
【 中村時人 選(時) 】
(今回は選句お休みです。)
【 土曜第九 選(第) 】
(今回はお休みです。)
【 奥寺ひろ子 選(奥) 】
○01 その球で決まる勝敗秋高し ファンも唾をのまず緊迫の一球、秋高し
で結果が想像できます。
○05 秋愁ピエロに黒き涙跡 子供のころ、不思議に思っていました。
○11
少し食べ母は蛹になる秋夜 何とも言えない寂しさが、伝わってきます。
○22
秋深し指の憶えしリコーダー 不思議なもので、昔覚えたことはからだが覚えていることがあります。リコーダーの音が、その時代を懐かしくおもいだします。
○31
柿の村パン屋のパンが、今日も来て時の流れを感じます。
【 滝ノ川愛 選(愛) 】
(今回は選句お休みです。)
【 小林タロー 選(タ) 】
○20 『普及版 字通』の届き鯊の秋
普及版とはいえ『字通』を買うとは偉い。届くや、と切れが欲しいところです。
○28
黄となりし酢橘はぐいと絞るがよし 中7以下は◎、特に「ぐいと」が良かったが、上5は説明っぽい感じがします。
○33
すっと伸びひそと開くや貴船菊 貴船菊はまさにこんな感じ。すつと、ひそと、で季語の説明から脱している。
○43
北向かふ径の際まで蕎麦の花 北へ向かって歩いている、その際まで蕎麦の花、心象風景ともとれる。。
○54
秋麗や海みる椅子を青く塗り うららかに晴れた日にペンキ塗り、しかも海を見るための椅子だ。当然、「春」と思うが、秋なのだ。このギャップが気に入りました。
【 森 高弘 選(高) 】
○22
秋深し指の憶えしリコーダー 中七が理に落ちている気がするが、時間の経過に覚えずとも吹ける曲。
○26
六畳にいびき歯ぎしり在祭 在祭の祭り後の雑多な雰囲気が狭い部屋の中で。
○29
色鳥の声を連れ込む朝のバス 混んでいるバスが扉を開けば秋の鳥の声が大きく。
○30
蔓たぐりをれば園児ら群がり来 手伝う気が無くても野次馬根性だけは一人前。
○31
柿の村パン屋のバンが今日も来て 今日も、が引っかかるが農村の寂しさに大きな声が。
09
葉隠れの負蝗虫やジャンプして 多分飛蝗が飛ぶのは当たり前なので、ひと捻り欲しい。
13
露けくて犬口角を上げ笑ふ 犬を知り尽くしている人ならわかるがわからない人にも共感が欲しい。
14
どこゆけど君にゆく道星月夜 動詞が違っていたらもっと状況が飲み込めたかもしれない。
36
締め込みの尻に触ればや秋の風 季語に問題が。具体的に何をもって締め込みをしているかだろう。
41
竜淵に潜む眼の潤みがち 観念的な季語なら別のもので対比させないと妄想で終わってしまう。
54
秋麗や海みる椅子を青く塗り 絵を描いているのか、見るため使う椅子にペンキを別の場所で塗っているのか。
【 石川順一 選(順) 】
(今回はお休みです。)
【 川崎益太郎 選(益) 】
○02
重き柿もらひてあれが別れとは 「別れ」が、いろいろ想像させる。
○14 どこゆけど君にゆく道星月夜 君こそ命。羨ましい。
○15
花枇杷の産毛まぶしき厠窓 取り合わせが面白い。
○23 金木犀女ばかりとなりし家 女の方が長生き。
○46
蓮の実の飛んで授かる天地眼 斬新な発見。
【 草野ぐり 選(ぐ) 】
○01
その球で決まる勝敗秋高し 九回裏の勝負の一球。秋高しがハマりすぎな気もするが気分がいい。
○02
重き柿もらひてあれが別れとは 急逝されたのだろうか、悲しみを表す言葉はないが柿の朴訥さが切ない。重きを具体的な柿の種類にしたらどうだろうか。
○04
工場の機械うなりて夜食かな 何を作っている工場だろうか、町工場か。機械音の中、夜食をとってもう一仕事!
○15
花枇杷の産毛まぶしき厠窓 厨窓を開けて、花ビワの微かな香も漂ってきそう。産毛に焦点を当てたのがいい。
○22
秋深し指の憶えしリコーダー 何気なくリコーダーを吹いてみたら指が動いて懐かしい曲が吹けてしまった。秋深しにしみじみ感。
【 水口佳子 選(佳) 】
○22
秋深し指の憶えしリコーダー 子供のころ覚えたリコーダー、何の曲か忘れていても意外と指だけはしっかり動く。まだまだ捨てたもんじゃない。自分に言い聞かせるように・・「秋深し」がそんな感じ。
○30
蔓たぐりをれば園児ら群がり来 芋掘りの景だろう。まるで蔓の先に園児らが生っていてそれを引き寄せているような。
○34
豊年や赤子の腹のへこへこと 「豊年」と「赤子」がつき過ぎかとも思ったが、下5の「へこへこと」に赤子の命を感じた。
○50
晩夏光売れ残りたる犬と猫 このフレーズに「晩夏光」はいかにもという感じなのだが、売れ残った犬と猫、赤札になっていたのかもしれない。当の本人たちはそんなこと知る由もない。すべては人間の勝手である。
○54
秋麗や海みる椅子を青く塗り 秋の澄み切った空気感はある。秋麗、海、青の言葉が揃いすぎているようにも思うが。
【 三泊みなと 選(三) 】
○14 どこゆけど君にゆく道星月夜
○25
流れ星次の仕事は何にしよ
○30 蔓たぐりをれば園児ら群がり来
○43 北向かふ径の際まで蕎麦の花
○54
秋麗や海みる椅子を青く塗り
【 鋼つよし 選(鋼) 】
○02
重き柿もらひてあれがわかれとは 手に残る重さがよみがえる。
○31
柿の村パン屋のバンが今日も来て 景色の想像が楽しい。パン屋でなく和菓子屋さんに変えたらというようなエピソードを思い出した。
○39
芋煮会去年の石を見つけたり 大発見です。
○43 北向かふ径の際まで蕎麦の花 風景がよく見える。
○50
晩夏光売れ残りたる犬と猫 複雑な言葉に表せにくい感情がよくわかる。
以上 お願いします。
【 中村阿昼 選(阿) 】
(今回はお休みです。)
【 小川春休 選(春) 】
○08
妻の手に嗤ふ南瓜の生まれけり ハロウィンのかぼちゃですが、「妻の手」「嗤ふ」「生まれけり」と中々手の込んだ表現で面白い。「嗤ふ南瓜」そのものよりも、それを生み出す「妻の手」の方に魔力が秘められているようにも読める。
○15
花枇杷の産毛まぶしき厠窓 非常に具体的に景を描き出している句。しかし、「産毛まぶしき」という点に注意して読むと、そのような細やかな所までよく見えるということは、厠の窓から花枇杷までの距離が非常に近かったのではないかという所にまで想像が肉付けされてゆきます。強い実感のある句です。
○22
秋深し指の憶えしリコーダー 強い共感を覚える内容の句です。私は3か月強の長期研修から帰って来て、職場のパソコンのパスワードが思い出せるか少々不安だったのですが、「指の憶えしパスワード」でした。
○25
流れ星次の仕事は何にしよ 退職・転職、人生の上では結構ハードな局面ですが、季語の明るさ、語り口の明るさが救いのある句にしてくれています。個人的な好みもありますが、上五「星流れ」とした方がより軽妙な句になるのではないかと思います。
○39
芋煮会去年の石を見つけたり 一目で「去年の石」と分かったのは、去年の芋煮会の焼け焦げでもあったのか、よほど特徴的な形の石だったのか。いろいろな要因はあるかと思いますが、この一句を読んだ時に浮かぶ景の鮮度はかなりのものだと思います。
01
その球で決まる勝敗秋高し 勝敗を決める一瞬の緊迫感と、晴れ渡った空との対比が良いですね。採りたかった句です。
03
鶏頭を剪るやずしりと持ち重り 句の内容や、オノマトペを用いている点など、蛇笏の「をりとりてはらりとおもきすすきかな」の焼き直しの印象が強い。
05
秋愁ピエロに黒き涙跡 中七下五の表現は良いと思うのですが、「涙」という言葉に「秋愁」はツキスギでしょう。
07
ショコラ飲む女うるはし秋ドレス 面白い所に目を着けた句と思いますが、「秋ドレス」という季語の処理は少々無理を感じますし、「うるはし」を言わずにどう麗しさを読者に想像させるかが勝負という気もします。
10
常連を気取るも客でひよんの笛 上五中七、どういうことを言わんとしているのか、今一つ分かりません。本人は常連客のつもりが、店からは(常連ではない)普通の客として扱われた、ということ?
11
少し食べ母は蛹になる秋夜 比喩としての「蛹」と思いますが、母にも自分の中で何かを大事に育てる、一人の世界を秘めているということでしょうか。上五が少々分かりにくいかな、と感じました。
12
先見えぬ拉致問題や虚栗 時事俳句として、時事問題への俳句ならではの独自性と言うか、違った角度からのアプローチが欲しい。拉致問題に対して「先見えぬ」という表現も、誤りではないのですが、いささか把握が大雑把のように感じます。
13
露けくて犬口角を上げ笑ふ 確かに、ある種の犬種はこういう表情を見せることがありますね。中七下五は面白いのですが、この季語が合っているかは少し疑問です。
14
どこゆけど君にゆく道星月夜 ロマンチックな内容に、ロマンチックな季語。句全体の雰囲気ということで言うと統一感はあるのですが、少し裏切りや意外性も欲しいように感じます。
16
水害の荒れ地を襲ふ野分かな 今年はまさにこの句のとおりの状態でしたが、「水害の荒れ地」という表現は、俳句のものではなく新聞などの散文のものではないかと感じます。
20『普及版
字通』の届き鯊の秋 中々味のある句ですが、「届き」の読みが分かれる点が残念。自分で注文した『字通』が届いたとも、誰かが自分に送ってくれたとも読めてしまう(恐らくは前者かな、とも感じますが…)。読みの分かれないような、他の表現があるのではないかと思います。
23
金木犀女ばかりとなりし家 中七下五の口ぶりは、これまで家に居た男性の欠落を想像させますが、この「女ばかりとなりし家」には寂しさばかりではなく、女所帯ならではの独特なエネルギーも感じさせる。季語「金木犀」の働きもあると思う。
27
畳岩わが影見ばや星月夜 上五下五がどちらも五音の名詞だと、どうしても句のなだらかさが欠けてしまいます。字余りにしてでも上五を「畳岩に」とした方が、全体の収まりが良いように感じます。
28
黄となりし酢橘はぐいと絞るがよし 他の方の選評にもありましたが、上五があまり効果的でないように感じます。中七下五が良いだけに非常にもったいない。この上五のせいで、黄になっていなかったらどう絞ると良いのか…というような余計な枝葉も出て来る。私なら上五「我に貸せ」などとしたいところです。
30
蔓たぐりをれば園児ら群がり来 園児らにとっては珍しかったのか、気付くと取り囲まれている。絡まり合う蔓のごちゃごちゃ感と園児らの賑わいとが響き合っている。採りたかった句です。
34
豊年や赤子の腹のへこへこと 「豊年」と「赤子」という取り合わせ自体は比較的よく見るものですが、「へこへこ」というユーモラスなオノマトペが臨場感を持って赤子の姿を見せています。これも採りたかった句。
36
締め込みの尻に触ればや秋の風 なかなか独特の上五中七ですが、季語「秋の風」がどういう働きをしているのか。あまり効いていないのではないかと感じます。
37
鬼灯や遙か父母懐かしき 多くの俳句は「なつかしい」事物や「うつくしい」事物、「おもしろい」事物を詠んでいる訳ですが、ストレートに「懐かしき」と詠まれてもあまり読者には響いて来ない。どんな父だったか、どんな母だったか、ほんの少しの手がかりでも、そういうことを詠んだ方が実感を持って読者に伝わるはずです。
41
竜淵に潜む眼の潤みがち 空想の季語を、そのディテールを膨らませるような句ですが、「がち」という言い方は少々歯切れが悪く感じます。素直に「眼を潤ませて」ぐらいの方が読者にすっと入って来るのではないでしょうか。
43
北向かふ径の際まで蕎麦の花 意味、景はよく分かりますが、「北向かふ」は「北へ」と「へ」を入れなければ不正確ですし、語順・表現など整理の余地がありそうです。ぱっと思い付く限りでは、「蕎麦咲くや北への径の際までも」などとした方が収まりが良いのではないかと思います。
46
蓮の実の飛んで授かる天地眼 「天地眼」とは「右眼で天をにらみ、左眼で地をにらむ」意で、上は天から下は地に至るまで、悪を見逃さないという意味が込められており、不動明王がこの相をしています。ちょっと「蓮の実」からの飛躍が唐突なような…?
49
掛け違ふボタン指され秋うらら ボタンを掛け違った瞬間の景であれば「掛け違ふ」で良いですが、後から指摘されたのなら「掛け違ひし」とするべきです。ボタンを掛け違った瞬間に指さされるのは、何か監視でもされているようで不自然なように感じます。
51
砂丘背にランタン切るや流星群 流星群を見るためにランタンの灯りを消したということでしょうか。内容的には非常に新鮮なので、仕立て方次第ではもっと良い句になりそうな気もします。上五が少々窮屈なのも少し気になります。
54
秋麗や海みる椅子を青く塗り ロマンチックな中七下五は良いと思いますが、季語が大して働いていないのが非常にもったいない。秋の海辺の植物や鳥たち、後はこの季節にしか吹かない風など、「秋麗」より良い季語がたくさんあるはずです。
|