ハルヤスミ句会 第二百十四回

2018年11月

《 句会報 》

01 秋高し母似の猫背伸ばしけり     ひろ子(飴・第・佳・鋼)

02 木の葉散る蕎麦屋の遅き昼休み    第九

03 人波のジオラマめくや秋の山     ぐり(順)

04 きゆつと巻き冬のはじまるトウシューズ こげら(一・ぐ・三)

05 師走近し赤のリボンを胸に留め    高弘

06 月光を受けて高きは冬薔薇      春休(明)

07 開山千年柚子一本と芋畑       タロー(一)

08 無花果を先に啄まられし今朝     ひろ子

09 冬銀河名もなきものの数ほどに    ルカ

10 自画像と未完の裸婦画山眠る     明治(三)

11 黄落や「ポテトチップ」とをさな声  時人(益)

12 天高し地球は楕円体と聞き      光太郎(明)

13 前後から自転車迫る夜寒かな     第九(一・佳)

14 冬どなり目病の妣の笑ひ声      みなと

15 悉く他人の双子とりかぶと      ルカ(高・順)

16 泊まるなら掃除せよとや隙間風    春休(マ・こ・案・益)

17 すぷぷぷと魔法瓶鳴く夜寒かな    こげら(飴・マ・明・ル・時・ぐ・三・春)

18 冬の霧暗く灯して占へる       佳子(案)

19 小春日や初めて一人旅に出る     飴子(奥)

20 立ち退きの昭和の団地シクラメン   木人(光・奥・鋼)

21 声なくに撃たれ落つるや鴨ひとつ   愛(こ・鋼)

22 寒林に迷い込んだる影となる     ルカ(案)

23 キズりんご詰めはうだいや十八個   明治(光・愛・鋼・春)

24 来日のムンクの「叫び」鵙猛る    益太郎

25 蒲団干し奥の部屋より抱へ出し    つよし(時・高)

26 お社の鍵掛かりをり神の留守     案山子(飴・時)

27 アロワナの魚鱗定かに冬に入る    佳子

28 おでん屋に今夜も同じ顔集ふ     光太郎(こ・奥・順)

29 毛布越し君の心音確かなり      高弘(奥)

30 唐辛子吊るしことさら軋む膝     みなと(高)

31 工具車や敷松葉まで走ります     順一

32 菜箸で崩れてしまふ煮大根      飴子(マ・時・三)

33 しぐるるや上着を傘に地下のバー   木人(春)

34 銀杏黄葉通りよ昼の青空よ      つよし(一)

35 赤銅の素肌に似合ひ黄のセーター   明治

36 登山靴の土まず落とし紅葉宿     ぐり(順・佳・春)

37 地球なき夜空をふっと星月夜     益太郎(ル・愛・鋼)

38 銀ブラや増えし人波愛の羽根     時人

39 カレー屋に祀るシバ神火恋し     タロー(マ・こ・第・ぐ)

40 単一の電池さがすも冬はじめ     マンネ(明・ル・一・第・高・佳)

41 北を背に歩む参道冬に入る      マンネ(光)

42 末枯や砂散らばれる道路かな     順一

43 幕開けの拍手よろしき初時雨     案山子

44 絵葉書のごとき青空山粧ふ      光太郎

45 石蕗の花プチ整形を勧めらる     益太郎(光・時・愛)

46 山頂の岩テーブルに茸汁       ぐり(案)

47 鴨泳ぎその傍では鴨の鍋       愛(奥・益)

48 セーターの肘にめしつぶ干涸びて   マンネ(愛・三)

49 抽斗のウールの匂ひ冬に入る     飴子(マ・明・順)

50 ほほづきの庭に雨降る目覚めかな   みなと(第)

51 小六月泥にまみれた穴惑ひ      案山子

52 降誕祭灯して木々を現責め      佳子

53 あをぞらを鷹すべりゆく棚田かな   こげら(飴・光・ル・佳)

54 外も内もからから乾き秋深む     愛

55 厳重なマスクの端に涙しむ      高弘

56 帰り花討ち入り覚悟などはなく    順一(益)

57 母の名の増えし墓標に冬日さす    第九(高)

58 世話役は弁当持参草相撲       時人(こ・愛)

59 脇道に入るや背高き枯芒       木人

60 鷹渡る点と現れ点と消ゆ       タロー(ル・案・益・ぐ・春)

61 霧のなか木々みな影を持たぬごと   春休(第)

62 神の留守車道をわたる猫あわや    ひろ子(ぐ)

63 雪囲ひ作業はじまる縄の嵩      つよし(飴) 




【 中谷飴子 選(飴) 】
○01 秋高し母似の猫背伸ばしけり  高い高い秋の澄んだ空が見えるようです。
○17 すぷぷぷと魔法瓶鳴く夜寒かな  夜の寒い台所での何気ない景が伝わってきます。
○26 お社の鍵掛かりをり神の留守  年末にして、神も多忙である。
○53 あをぞらを鷹すべりゆく棚田かな  鷹の雄大に空を飛ぶ姿が見えてくる。
○63 雪囲ひ作業はじまる縄の嵩  ニュースでも見る冬の景。年末差し迫る頃。

【 大越マンネ 選(マ) 】
○16 泊まるなら掃除せよとや隙間風  隙間風でなんだか仕方なく掃除する感じが浮かびます。
○17 すぷぷぷと魔法瓶鳴く夜寒かな  すぷぷぷが良いです。魔法瓶というのも懐かしい。
○32 菜箸で崩れてしまふ煮大根  しまふという表現で、残念な気持ちもみえるし、それが美味しいという気持ちも。
○39 カレー屋に祀るシバ神火恋し  シバ神が俳句になってしまうなんて。
○49 抽斗のウールの匂ひ冬に入る  柔らかくて暖かいセーターが抽斗に詰まっていそう。

【 木下木人 選(木) 】
(選句お休みです。)

【 槇 明治 選(明) 】
○06 月光を受けて高きは冬薔薇  月光と冬の薔薇の取り合わせに新鮮さ、気高さを感じた。
○12 天高し地球は楕円体と聞き  そうか、真円じゃないのか…宇宙も膨張楕円体って聞いたような気が。
○17 すぷぷぷと魔法瓶鳴く夜寒かな  使い込んで愛着のある魔法瓶から茶を淹れてひと休み。
○40 単一の電池さがすも冬はじめ  今どき単一とは、かなり旧式の製品では、季語が効いている。
○49 抽斗のウールの匂ひ冬に入る  嗅覚で感じる季節の移り変わり、たしかに木綿や化学繊維にはない匂いがあるような。

【 こげら 選(こ) 】
○16 泊まるなら掃除せよとや隙間風  人のセリフならラフな宿ですね。山小屋などセルフサービスの宿に書いてある規則かな、とも思いました。雰囲気があると思います。
○21 声なくに撃たれ落つるや鴨ひとつ  臨場感のある句。落ちてくる姿がありありと見えるよう。何羽もいるうちの一羽らしい気がします。落ちてくる時には声を出さないひとつの「物」となってしまう。
○28 おでん屋に今夜も同じ顔集ふ  ちょっとユーモラスな景。個人的には「集ふ」を「ならぶ」にして「おでん屋や今夜もならぶ同じ顔」か「おでん食ふ今夜もおなじ顔ならび」などとしたい。
○39 カレー屋に祀るシバ神火恋し  この祭壇を見ただけで絶対美味い店という気が。字面に「神」「火」と続くのも視覚的に面白い。ただ「に祀る」が少し気になりました。
○58 世話役は弁当持参草相撲  草相撲はあまり知らないのですが景は浮かびます。漢字の多い字面もこれはこれで味があると思います。
 その他気になったのは、
 12 天高し地球は楕円体と聞き  ユニークですが、少し原因結果(〜と聞き→見上げて→天高し)になってしまっている気が。
 25 蒲団干し奥の部屋より抱へ出し  語順?
 29 毛布越し君の心音確かなり  「越え」の方が良いかと。
 31 工具車や敷松葉まで走ります  「や」と、現代語的な切れ「ます」が合わない気が。いっそ「工具車です」とか?
 45 石蕗の花プチ整形を勧めらる  微妙な心理と石蕗の花の取り合わせ。「プチ整形」が俳句の言葉としてどうか。
 48 セーターの肘にめしつぶ干涸びて  終わり方「て」がすこし曖昧な気が。
 49 抽斗のウールの匂ひ冬に入る  「抽斗に」がベターと思います。「ウール」は季重ねを避けるための工夫?
 62 神の留守車道をわたる猫あわや  季語に少し理屈が見えているような。

【 森本光太郎 選(光) 】
○20 立ち退きの昭和の団地シクラメン  団塊の世代が住んだ、昭和の団地でしょう。
○23 キズりんご詰めほうだいや十八個  「十八個」が何となくユーモラスです。
○41 北を背に歩む参道冬に入る  北風を背中に受ける。いよいよ冬ですね。
○45 石蕗の花プチ整形を勧めらる  「プチ整形」が何となくユーモラスです。
○53 あをぞらを鷹すべりゆく棚田かな  スケールの大きな俳句だと思います。

【 ルカ 選(ル) 】
○17 すぷぷぷと魔法瓶鳴く夜寒かな       
○37 地球なき夜空をふっと星月夜       
○40 単一の電池さがすも冬はじめ     
○53 あをぞらを鷹すべりゆく棚田かな     
○60 鷹渡る点と現れ点と消ゆ 

【 石黒案山子 選(案) 】
○16 泊まるなら掃除せよとや隙間風
○18 冬の霧暗く灯して占へる
○22 寒林に迷い込んだる影となる
○46 山頂の岩テーブルに茸汁
○60 鷹渡る点と現れ点と消ゆ

【 一斗 選(一) 】
○04 きゆつと巻き冬のはじまるトウシューズ
○07 開山千年柚子一本と芋畑
○13 前後から自転車迫る夜寒かな
○34 銀杏黄葉通りよ昼の青空よ
○40 単一の電池さがすも冬はじめ

【 中村時人 選(時) 】
○17 すぷぷぷと魔法瓶鳴く夜寒かな  鳴るにすると擬人化が避けられる
○25 布団干し奥の部屋より抱へ出し
○26 お社の鍵掛かりをり神の留守
○32 菜箸で崩れてしまふ煮大根  菜箸に(濁音はなるべく避けたい)
○45 石蕗の花プチ整形を勧めらる
 他に気になった句は
 23 キズりんご詰めはうだいや十八個
 24 来日のムンクの「叫び」鵙猛る
 30 唐辛子吊るしことさら軋む膝
 33 しぐるるや上着を傘に地下のバー
 40 山頂の岩テーブルに茸汁
 53 あおぞらを鷹すべりゆく棚田かな

【 土曜第九 選(第) 】
○01 秋高し母似の猫背伸ばしけり  秋晴れの日にふとお母さんのことを思い出している何気なさがいいと思いました。
○39 カレー屋に祀るシバ神火恋し  火恋しという季語はこういう風にも使えるんだと感心しました。    
○40 単一の電池さがすも冬はじめ  反射式ストーブには確かに単一でした。昭和の生活を思い出させる句です。   
○50 ほほづきの庭に雨降る目覚めかな  木造、トタン屋根、和風の小さい庭を思い浮かべました。これも昭和のイメージです。   
○61 霧のなか木々みな影を持たぬごと  写真で見たことのある幻想的な景が浮かびました。

【 奥寺ひろ子 選(奥) 】
○19 小春日や初めて一人旅に出る  前途は明るい方向に。
○20 立ち退きの昭和の団地シクラメン  シクラメンの香りがしてきます。
○28 おでん屋に今日も同じ顔集ふ  いつの間にか気心も知れて。
○29 毛布越し君の心音確かなり  ほっとする気持ちと幸せな気持ち
○47 鴨泳ぎその傍では鴨の鍋  それはないでしょと言いたいが、美味しく食べている自分が。

【 滝ノ川愛 選(愛) 】
〇23 キズりんご詰めはうだいや十八個  台風とかでやられたのでしうか。でもジャムやジュースになります。十八個とはよく詰めましたね。
〇37 地球なき夜空をふっと星月夜  言われてみればそうですね。夜空に地球を探したりして。
〇45 石蕗の花プチ整形を勧めらる  プチ整形ではがらっと変わることはないでしょう。「石蕗の花」の季語ですものね。
〇48 セーターの肘にめしつぶ干涸びる  私も以前はそうでした。お茶碗にたっぷりご飯を盛っていたころは。今は糖質制限でほんの少し。
〇58 世話役は弁当持参草相撲  いいな、いいなこの方。相撲人気が下火にないそうなこの頃、是非続けてください。勿論奥様手作りの”お弁当”でしょう。

【 小林タロー 選(タ) 】
(選句お休みです。)

【 森 高弘 選(高) 】
○15 悉く他人の双子とりかぶと  とりかぶとの季語がうすら寒くて人間関係の寒さもまた。中七は「双子は他人」か「他所の双子や」のどちらかにすれば意味がはっきりする。
○25 蒲団干し奥の部屋より抱へ出し  何のことはないがこの時期眠る時くらい暖かく、という蒲団を出す人の思いも読める。
○30 唐辛子吊るしことさら軋む膝  唐辛子の葉もまた軋んでいる。
○40 単一の電池さがすも冬はじめ  ストーブの点火スイッチか、それとも。
○57 母の名の増えし墓標に冬日さす  まだ刻まれた文字は隣より鮮明で。
 04 きゆつと巻き冬のはじまるトウシューズ  きっと語順が整理できるはず。
 08 無花果を先に啄まられし今朝  何にだろう。椋鳥か鵯か。
 39 カレー屋に祀るシバ神火恋し  カレー屋ならそんなに寒いと思わないのでは。

【 石川順一 選(順) 】
○03 人波のジオラマめくや秋の山  季語は「秋の山」。人波をジオラマに譬えたのがいいと思いました。
○15 悉く他人の双子とりかぶと  季語は「とりかぶと」。「悉く」の主観客観。「他人の」と言う驚き。
○28 おでん屋に今夜も同じ顔集ふ  季語は「おでん」。安堵感があったのでしょう。安堵の中で食べるおでん。
○36 登山靴の土まず落とし紅葉宿  季語は「紅葉宿」。エチケット、清潔好きなど思い浮かび、紅葉宿の輪郭がしのばれました。
○49 抽斗のウールの匂ひ冬に入る  季語は「冬に入る」。抽斗のウールがいかにも冬の始まりと言う感じを感じさせていいと思いました。

【 川崎益太郎 選(益) 】
○11 黄落や「ポテトチップ」とをさな声  黄落をポテトチップと見た可愛い句。
○16 泊まるなら掃除せよとや隙間風  季語に言わせたのが面白い。
○47 鴨泳ぎその傍では鴨の鍋  仕方ない人間のエゴ。
○56 帰り花討ち入り覚悟などはなく  帰り花と討ち入りの取り合わせが面白い。
○60 鷹渡る点と現れ点と消ゆ  点のリフレインが上手い。

【 草野ぐり 選(ぐ) 】
○04 きゆつと巻き冬のはじまるトウシューズ  ダンサーは一年中トウシューズを履くわけだが足首を結ぶリボンの滑りに冬を感じたのだろう。実感。
○17 すぷぷぷと魔法瓶鳴く夜寒かな  すぷぷぷが、どうなのかに尽きると思うが、こんな風に気がする。こうなるともう魔法瓶は同居している生き物みたい。
○39 カレー屋に祀るシバ神火恋し  原色の派手でひたすらに濃いシバ神に、かえって火を恋しく思う気持ちが湧き上がるという不思議な感覚。不思議な説得力。     
○62 神の留守車道をわたる猫あわや  神の留守との関係はないと思うが、猫あわやにドキドキする。
○60 鷹渡る点と現れ点と消ゆ  鷹の悠々とした飛び方。魅せられたようにずっと目で追っている感じもいい。

【 水口佳子 選(佳) 】
○01 秋高し母似の猫背伸ばしけり  猫背は長身の人に多いように思う。この人の母も長身だったのだろうか?似たくないところが案外似てしまうもの。「けり」の切れがきっぱりとしていて、しかも余韻を生む。
○13 前後から自転車迫る夜寒かな  路地のような細い道なのだろう。前後から迫ってくる自転車に一瞬感じる緊張、「夜寒」でその心理を言い得た。
○36 登山靴の土まず落とし紅葉宿  まず土を落とすという細やかな心配り、土を落としてから違う空間へと入っていく。見落としがちな一瞬を捉えている。 
○40 単一の電池探すも冬はじめ  単1の電池は意外と普段使わない。ストーブや灯油ポンプは確か単1だったような。あの太さが頼もしい。  
○53 あをぞらを鷹すべりゆく棚田かな  棚田の上空の広さ、深さ、穏やかさそれらが「すべりゆく」という言葉に表れている。直接的には言っていないが、集落の森閑とした昼の時間が感じられる。

【 三泊みなと 選(三) 】
○04 きゆつと巻き冬のはじまるトウシューズ 
○10 自画像と未完の裸婦画山眠る 
○17 すぷぷぷと魔法瓶鳴く夜寒かな    
○32 菜箸で崩れてしまふ煮大根 
○48 セーターの肘にめしつぶ干涸びて 

【 鋼つよし 選(鋼) 】
○01 秋高し母似の猫背伸ばしけり  気分がよく分かる。
○20 立ち退きの昭和の団地シクラメン  世相とシクラメンが合っている気がする。
○21 声なくに撃たれ落つるや鴨ひとつ  あわれで芭蕉の俳句に通じるものを感じる。
○23 キズりんご詰めはうだいや十八個  毎朝スムージーを飲むので助かるし美味しそう。
○37 地球なき夜空をふつと星月夜  銀河系はとんでもなく広大だから。

【 小川春休 選(春) 】
○17 すぷぷぷと魔法瓶鳴く夜寒かな  湯を注ぐときなどに空気が洩れるのか、魔法瓶が「すぷぷぷ」と音を立てる。生活感のある景を上手く句にされています。ただ、このオノマトペが充分に機能しているので、その上さらに「鳴く」という擬人法を用いる必要はなさそうです。「鳴る」で充分でしょう。
○23 キズりんご詰めはうだいや十八個  上五中七の、産直市で貼り紙などに書いてあったとおりの言葉を句にそのまま取り込んだような味わいも良いですが、下五で「十八個」と具体性を持ってダメ押しした所がさらに良い。勢いのある句です。
○33 しぐるるや上着を傘に地下のバー  当初、このバーに行く予定はなかったのが、時雨に降られたから急遽立ち寄った、という訳。スピーディーな人の動きがよく見える点も良いし、街をよく知っている感じも出ていて、なかなかに魅力的な句です。
○36 登山靴の土まず落とし紅葉宿  こういうさりげない動作に、人柄が出る。そこを起点に、この登山靴の人物に自然と好感を持ちますし、どんな良い雰囲気の宿だろうか、と想像も広がるというもの。なお、旧かなでは「まづ」と表記します。
○60 鷹渡る点と現れ点と消ゆ  長い距離を渡って行く鷹、視界に現れるときも小さな点なら、消えてゆくときも小さな点。周囲の空の大きさや、鷹が現れてから消えるまで、放心したかのように見送る人の様子まで目に浮かびます。
 01 秋高し母似の猫背伸ばしけり  単純なようでなかなかに複雑な情感の込められた句と感じました。
 04 きゆつと巻き冬のはじまるトウシューズ  俳句ではあまり目にしない、珍しい場面を丁寧に詠まれている句。それだけに、「はじまる」と言わずに動詞は「巻き」の一つだけに絞って、そこに焦点が合わせられるように仕立てたい。そのためには、中七を「冬のはじめの」「冬立つ朝の」などとして動詞を使わずに述べたい(「立つ」は動詞ですね…)。推敲のしどころだと思います。
 07 開山千年柚子一本と芋畑  「開山千年」などというと、さぞかし御立派な寺院を想像しますが、「柚子一本と芋畑」とはなんとささやかな。景もよく見えますし、好感の持てる寺院ですね。採りたかった句。
 08 無花果を先に啄まられし今朝  中七下五の表現、意味は分かりますが、表現の仕方が回りくどく、すっと入ってきません。舌頭に千転すべし、ですね。
 09 冬銀河名もなきものの数ほどに  格好は良い句なのですが、少々決まりすぎではないでしょうか。
 12 天高し地球は楕円体と聞き  着眼点は面白いのですが、「と聞き」がその面白みをぼやけさせているようにも感じます。「と聞き」とあるせいで、「地球が楕円体であること」と、「その話を誰かが自分にしてくれたこと」という二つの要素が入り混じっている。ここは前者だけに絞って「天高く楕円体なる地球かな」などと直球勝負した方が良いのではないかと思います。
 13 前後から自転車迫る夜寒かな  狭い道、もしくは歩道を歩いている時の景でしょうか。歩道を猛スピードで走ってくる自転車にはヒヤッとさせられますね。
 14 冬どなり目病の妣の笑ひ声  中七下五の内容に対して、作者はどのような感情を抱いているか、読者はどのように読めば良いか。季語の働きから読み解いていくと、これからどんどん寒くなっていく気候から、「妣」の病状もどんどん悪化していくように読めるのですが、それだとあまりにも救いのない句と感じる。それが作者の意図した通りであれば読者としては致し方ないですが、そうでなければ、季語を再考すべきと思います。
 15 悉く他人の双子とりかぶと  上五中七、語呂は良いのですが、具体的にはどういうことを言っているのかが曖昧でよく分かりません。季語の働きを援用して読もうとしても、あまり見当がつきませんでした。
 20 立ち退きの昭和の団地シクラメン  私の実家もこういう感じの団地なのですが、団塊の世代が一斉に入居しているものだから、町ひとつが一気に高齢化していく感じでいたたまれないんですよね…。「シクラメン」が気分によく合っている。
 21 声なくに撃たれ落つるや鴨ひとつ  スパッとした瞬間を切り取るような描写の仕方ではなく、「声なく」「撃たれ」「落つる」と言葉を連ねた、連綿たる感情を感じさせる描写となっていますが、作者の鴨への同情がこういう描写を選ばせたのでしょうね。
 27 アロワナの魚鱗定かに冬に入る  景としても、感情の働きとしてもよく理解できる句で、出来ている句です。しかし、切れ字を入れて、「定かや」として魚鱗のくっきりしている様への驚きを打ち出すと、景も季節の移り変わりも、より劇的に感じられるように思います。
 29 毛布越し君の心音確かなり  「心音」と言っていますがこれは、聴覚的なものだけでなく、視覚的に、「生きている」と感じさせるようなささやかな動き(鼓動)を毛布越しに見ている、そのことが合わさって作者には「心音」と感じられた、ということではなかろうかと思います。非常に実感のこもった句、これも採りたかった句です。
 32 菜箸で崩れてしまふ煮大根  これは「で」よりも「に」でしょうね。不用意に「で」を使うと、必要以上に口語っぽくなりますし、理屈っぽい感じもしてしまうので注意が必要です。
 34 銀杏黄葉通りよ昼の青空よ  句としては少々淡いのですが、景としても気分としてもよく分かる句です。
 35 赤銅の素肌に似合ひ黄のセーター  これも、「似合ひ」を言わずに、似合ってる感をいかに出すかが勝負の分かれ目、という感じがします。
 37 地球なき夜空をふっと星月夜  確かに、満天の星を目にしていても、自らの足元にある地球は目には入らない訳で、「地球なき夜空」には違いない。普段そのようなことを考えたこともなかったので、意外性を感じて面白かった。しかし、「ふっと」が良くない。凡人はすぐ句の中に「ふと」とか「ふっと」を入れたがる、それが凡人の凡人たる所以、とプレバトの夏井先生も言っていました。
 39 カレー屋に祀るシバ神火恋し  上五中七、俳句ではあまり見かけない、珍しい物が出て来たと思ったのですが、「火恋し」という季語があまり合っていないような…。カレー屋の中はそれほど寒くないでしょうし、カレーを食べればさらに暖まる。そんな場所で「火恋し」とは思わないのではないかと疑問に感じました。
 40 単一の電池さがすも冬はじめ  確かに、最近あまり見かけない単一電池ですが、暖房器具やガス給湯器(あとは子供のおもちゃとか)では今でも単一を使ってますね。いかにも冬の始まりという感じが出ている。
 42 末枯や砂散らばれる道路かな  「や」「かな」を両方使うのは避けたい。どちらを句の中心とするべきかを考えて、どちらかだけにするべきでしょう。
 43 幕開けの拍手よろしき初時雨  場面としてはよく分かりますが、「よろしき」が一句の答えになってしまっている感じです。「よろしき」を言わずに、いかにして「よろしさ」を出すかが腕の見せ所でしょう。
 45 石蕗の花プチ整形を勧めらる  「プチ整形」などという現代的な事柄を詠み込まれていますが、それが成功するか否かはやはり季語の選択による部分が大きいと思われます。「石蕗の花」はあまり成功していないような感じです。
 46 山頂の岩テーブルに茸汁  景としては抜群に良いのですが、残念ながら、仕立てに少々行き届かない点があるように感じます。私案ですが、「山頂や岩を机に茸汁」であればぜひ採りたいですね。
 47 鴨泳ぎその傍では鴨の鍋  面白みが見え過ぎてしまっているのではないかと思いますし、少々理屈っぽい句でもあります。
 48 セーターの肘にめしつぶ干涸びて  自分では気付きにくい場所の「めしつぶ」、もしかして誰か他の人に指摘されて気付いたのかな、などと想像が広がります。
 49 抽斗のウールの匂ひ冬に入る  雰囲気は良いのですが、「抽斗のウール」とは要するに冬服のことでしょう。冬服と「冬に入る」では、やはりツキスギと感じてしまいます。
 51 小六月泥にまみれた穴惑ひ  この季重ねはあまり成功していないように感じます。
 53 あをぞらを鷹すべりゆく棚田かな  非常に気分の良い景を、余計な言葉を入れずに素直に詠まれている点に好感を持ちました。これも採りたかった句。
 55 厳重なマスクの端に涙しむ  雰囲気は分かりますが、マスクの描写として「厳重な」が少々しっくり来ないように感じました。
 57 母の名の増えし墓標に冬日さす  作者の意図は分からないではないですが、「〜〜に○○さす」という表現はやや説明的に感じる。「母の名の増えし墓標や冬日さす」もしくは「母の名の増えし墓標に冬日かな」としてはいかがでしょうか。
 63 雪囲ひ作業はじまる縄の嵩  「雪囲ひ」を作る作業の初めの場面に着目した点は良いと思いますが、句の中で使うには「作業」という言葉が固く、不調和に感じます。「作業」という言葉を使わず、例えば「雪囲ひはじめや縄を嵩高く」などという言い方でも通じるのではないかと思います。


 


次回の投句は、12月15日までに、3句お送り下さい・・・・・・投句はこちら

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