ハルヤスミ句会 第二百十七回

2019年2月

《 句会報 》

01 東雲の細雨のうちに寒明けり     第九

02 大根の赤黄緑やフォークで食ひ    タロー

03 探梅や寝癖の跳ねを気にしつつ    マンネ(明・時・愛・タ)

04 地の窪を埋めてまだらや春霰     タロー(こ・ぐ・春)

05 ビルを包む防音シート鳥の恋     佳子(ル・一・春)

06 春寒や天気図見せて脅されて     案山子

07 逡巡の後に笑顔の橇滑り       第九(時)

08 利尻富士大雪渓の島の影       みなと(ル)

09 薔薇色の心臓バレンタインの日    佳子(三)

10 問ひたれば絶好調と雪女       愛(明・光・案・タ・高・益)

11 先生に離されまいと青き踏む     春休(木・愛・順・ぐ)

12 捨て難き写真断捨離悴みて      みなと(益)

13 目借時浮子は何度も沈みけり     光太郎(マ・木・第・佳・三)

14 四十年絶えることなく水仙花     ひろ子(第)

15 凍蝶の翅に暗号「今も好き」     益太郎(時)

16 受験子の顔の固きや受験票      木人(ぐ)

17 立春大吉オカリナ演奏会へと     マンネ

18 その昔(せき)の水屋の跡や野梅咲く  愛

19 ピュアの森頻繁に飲み春の星     順一

20 バレンタイン豪華な順に売れ残り   ルカ(光・愛・高)

21 お座敷の三味と都々逸迎春花     木人

22 道具なき五人囃子の手の構え     ルカ(マ・明・こ・一・愛・高・益・佳・三)

23 春立つ日水漏れ事故が起こりけり   順一

24 落ちさうでまた浮き上がり名残雪   マンネ(一・高・益)

25 薔薇の芽の序曲赤子はうまれたか   佳子(順)

26 朗読は「多喜二の母」や二月来る    ひろ子(鋼)

27 中庭の囀の木よ午後抜糸       ぐり

28 春炬燵誰の携帯電話鳴る       高弘(こ・タ)

29 眩きはみな訪ひつつに初蝶来     こげら

30 寒明や鏡磨きて歯を磨く       時人(明・奥・タ)

31 にっこりとされてはてなと大嚔    愛

32 春星の零るるがラヴェルのピアノ   こげら

33 モーツァルト聞かされている浅利かな ルカ(木・時・鋼)

34 さざん花のさの字ざの字と散りにけり 益太郎(マ)

35 脆弱な喉が長引き冴返る       順一

36 居酒屋を迷ふ気持ちや日脚伸ぶ    光太郎(順)

37 朧夜や吊るしのドレス白ばかり    高弘(木・一・第・佳・春)

38 春一番豆腐の角をくずしたる     木人(光・奥・ぐ)

39 高砂を謡ふは二月礼者かな      高弘(マ・第)

40 春一番捕り物騒ぎ猿現れて      つよし

41 言い過ぎを窘められし竹の秋     ぐり(案・高・春)

42 外房や潮の匂ひの春霞        時人(案)

43 囀りや歯を磨くのは笑ふため     春休(案・時・第・順)

44 「獺祭」や酔ひの頭痛に春立てり   明治

45 熱燗や激しき風の漁労小屋      みなと(光・鋼)

46 雪解水そこここに雲映しけり     こげら(マ・ぐ)

47 函館の漁り火白し菜の花忌      ひろ子(三)

48 立春大吉これはまた温き雨なり    つよし(明・タ・佳)

49 シベリアの抑留語る息白し      光太郎(鋼)

50 鬼の面掴む手ぢから鬼やらひ     第九

51 あくがれの人の歩幅に夜の梅     ぐり(一・鋼・春)

52 途中までケーブルカーや山笑ふ    時人(光)

53 鶯や音ひとつ無き伊勢神宮      案山子(奥・三)

54 怺へたる息の一刺し針供養      タロー(愛)

55 水滴の音おぼろ夜のいづこから    春休(こ・ル・順)

56 梅咲いて邪一つ忘れけり       明治(ル)

57 雨や風雪も受け入れ梅香る      案山子(奥・益)

58 網曳くや朝明の沖のしらす船     明治(木・ル・案)

59 初雪や消した記憶がよみがえる    益太郎(奥)

60 ぱ:た:か:ら:ぱ:お口体操薄氷  つよし(こ・佳)




【 大越マンネ 選(マ) 】
○13 目借時浮子は何度も沈みけり  
○22 道具なき五人囃子の手の構え
○34 さざん花のさの字ざの字と散りにけり
○39 高砂を謡ふは二月礼者かな
○46 雪解水そこここに雲映しけり

【 木下木人 選(木) 】
○11 先生に離されまいと青き踏む
○13 目借時浮子は何度も沈みけり
○33 モーツァルト聞かされている浅利かな
○37 朧夜や吊るしもドレス白ばかり
○58 網引くや朝明の沖のしらす船

【 槇 明治 選(明) 】
○03 探梅や寝癖の跳ねを気にしつつ  梅を愛でるどころではないかも、髪のある人は大変だ。
○10 問ひたれば絶好調と雪女  絶好調との返事に元気がもらえそう。
○22 道具なき五人囃子の手の構え  道具類が失われてしまった古雛を大切にしているのだろうか。
○30 寒明や鏡磨きて歯を磨く  早朝のルーティンなのか、特別に鏡を磨いたのか、気分の良さが伝わる。
○48 立春大吉これはまた温き雨なり  大仰な言い回しに春到来をことほぐ気分が伝わる。

 こげら 選(こ) 】
○04 地の窪を埋めてまだらや春霰  じっくり観察して丁寧に描写してある。観念的なことを一切言わない清々しい写生句と思いました。
○22 道具なき五人囃子の手の構え  楽器が外されている五人囃子、でも手の構えは演奏中のまま。景がくっきりと見えます。
○28 春炬燵誰の携帯電話鳴る  家族か友達か、数人で春炬燵に寝転がっている景が浮かぶ。微睡んでいるのかも。鳴り出したのは誰のケータイ?
○55 水滴の音おぼろ夜のいづこから  寝静まっている真夜中でしょうか、何処からか水滴の音が。気になって仕方がない。季語が効いていて不思議な雰囲気があります。
○60 ぱ:た:か:ら:ぱ:お口体操薄氷  「パタカラ体操」というのがあるんですね。ユニークでちょっと面白い。早春の朝が見えてきます。
 その他気になった句、
 03 探梅や寝癖の跳ねを気にしつつ  「卒業」「入学」などもっと人の目が気になる状況にしたいと思います。
 13 目借時浮子は何度も沈みけり  雰囲気はある。個人的には「は何度も」→「いくたびも」としたい。「けり」の詠嘆はやや強すぎるという気もします。
 31 にっこりとされてはてなと大嚔  顔を離れた別の季語ならもっと面白かったかも。
 33 モーツァルト聞かされている浅利かな  こうすると美味しくなるのでしょうか。軽い擬人化のようです。
 38 春一番豆腐の角をくずしたる  風が崩したのでしょうか。だとすれば豆腐は戸外?実景としてどうか。
 47 函館の漁り火白し菜の花忌  小説ゆかりの地を詠み込んで上手く出来ていると思います。採りたかった句。
 49 シベリアの抑留語る息白し  句材はよいと思うが少し説明的で力強さに欠ける気が。たとえば「息白く抑留のこと語りたる」でどうでしょうか。
 50 鬼の面掴む手ぢから鬼やらひ 上五中七で光景は見えるので、別の季語にしたい気がします。

【 森本光太郎 選(光) 】
○10 問ひたれば絶好調と雪女  リアルな感覚が絶好調!
○20 バレンタイン豪華な順に売れ残り  商売上手に乗せられて・・・?
○38 春一番豆腐の角をくずしたる  法螺もこのくらい吹かないと・・・?
○45 熱燗や激しき風の漁労小屋  熱燗というと、小料理屋という感じですが・・・?
○52 途中までケーブルカーや山笑ふ  笑われても、楽な方が良いのが現代人・・・?

【 ルカ 選(ル) 】
○05 ビルを包む防音シート鳥の恋  
○08 利尻富士大雪渓の島の影  
○55 水滴の音おぼろ夜のいづこから  
○56 梅咲いて邪一つ忘れけり  
○58 網曳くや朝明の沖のしらす船 

【 石黒案山子 選(案) 】
○10 問ひたれば絶好調と雪女  とにかく可笑しいです。
○41 言い過ぎを窘められし竹の秋  私もよく失敗します。「竹の秋」利いているといます。
○42 外房や潮の匂ひの春霞  「春霞」ちょっと気になりますが、、、。
○43 囀りや歯を磨くのは笑ふため  囀りが人間(ご自分)にも働いていて、可笑しみもあってとても俳句らしいと。
○58 網曳くや朝明の沖のしらす船  早春の気配が漂います。

【 一斗 選(一) 】
○05 ビルを包む防音シート鳥の恋  
○22 道具なき五人囃子の手の構え
○24 落ちさうでまた浮き上がり名残雪
○37 朧夜や吊るしのドレス白ばかり  
○51 あくがれの人の歩幅に夜の梅 

【 中村時人 選(時) 】
○03 探梅や寝癖の跳ねを気にしつつ
○07 逡巡の後の笑顔の橇滑り
○15 凍蝶の翅に暗号「今も好き」
○33 モーツァルト聞かされている浅蜊かな
○43 囀りや歯を磨くのは笑ふため
 他に気になった句は
 04 地の窪を埋めてまだらや春霞
 11 先生に離されまいと青き踏む
 13 目借時浮子は何度も沈みけり
 18 その昔の水屋の跡や野梅咲く
 21 中庭に囀りの木よ午後抜糸
 以上宜しくお願いいたします。

【 土曜第九 選(第) 】
○13 目借時浮子は何度も沈みけり  反復運動は眠気を誘います。催眠術のように。
○14 四十年絶えることなく水仙花  小事ながら生きてきた証のような。人生の宝物。
○37 朧夜や吊るしのドレス白ばかり  透き通るような純白と柔らかな霞。美しい白づくしです。
○39 高砂を謡ふは二月礼者かな   芸達者な人気者で、正月も引っ張りだこで忙しかったのでしょう。
○43 囀りや歯を磨くのは笑ふため  艶かしさを感じます。季語も合っていると思います。

【 奥寺ひろ子 選(奥) 】
○30 寒明や鏡磨きて歯を磨く  やる気満々ですね。
○38 春一番豆腐の角をくずしたる  やわらかい豆腐をもってきたところが面白い。
○53 鶯や音ひとつ無き伊勢神宮  鶯のさえずりだけが聞こえてきます。
○57 雨や風雪も受け入れ梅香る  凛とした美しさと強さが表現されています。
○59 初雪や消した記憶がよみがえる  思いだしては、忘れて、また思いだします。

【 滝ノ川愛 選(愛) 】
〇03 探梅や寝癖の跳ねを気にしつつ  約束の時間を気にして急いだのでしょうか。寝癖はなかなか取れません。
〇11 先生に離されまいと青き踏む  よいしょよいしょ、幼稚園のお子さんかしら、微笑ましい景です。
〇20 バレンタイン豪華な順に売れ残り  なる程、写生句ですね。
〇22 道具なき五人囃子の手の構え  楽器がいつの間にかなくなっていた。来年買ってあげましょう。
〇54 怺へたる息の一刺し針供養  お豆腐に針を刺すのも大仕事!

【 小林タロー 選(タ) 】
○03 探梅や寝癖の跳ねを気にしつつ  少し理がつく気もしましたが、梅の花もなかなか見つからずまだ寒い梅林を歩いている感じがでてます。
○10 問ひたれば絶好調と雪女  確定順接の「ば」、雪女は確かにいて絶好調だと言ったのだ。断言したところがいいです。
○28 春炬燵誰の携帯電話鳴る  だれも動かない気怠さが見えておもしろい
○30 寒明や鏡磨きて歯を磨く  ばかばかしくて面白い、と言えるのも「寒明」がきいているから。
○48 立春大吉これはまた温き雨なり  暦の上にもまして実景の方が春だったという景。立春や で良いと思うが。

【 森 高弘 選(高) 】
○10 問ひたれば絶好調と雪女  お相手には絶対見せられない句。空元気っぽいけど大丈夫?
○20 バレンタイン豪華な順に売れ残り  モテそうな人が意外にフリーであったりも。「チョコ残り」でも良かったか。
○22 道具なき五人囃子の手の構え  魂が籠っていそうなのに何かが足りないと怖い。寒々しさや薄暗さまで感じる。
○24 落ちさうでまた浮き上がり名残雪  粒の大きな雪はそうだ。「名残雪」というより「牡丹雪」とか「春の雪」で離しても良かったか。
○41 言い過ぎを窘められし竹の秋  窘められて萎縮する感覚。しかし程なく筍が伸びそうな予感。
 06 春寒や天気図見せて脅されて  その格好で出掛けてはまだ寒いと言われているか。下五がやや行き過ぎのような。
 07 逡巡の後に笑顔の橇滑り  分かるのだが熟語が多くて主題に合わない気がする。
 15 凍蝶の翅に暗号「今も好き」  謎が残る句。何とか読み解きたいが。
 34 さざん花のさの字ざの字と散りにけり  短歌などではよく使われているような技法で、あまり新しさを感じない。
 56 梅咲いて邪一つ忘れけり  邪というのも漠然過ぎるのだが、こういう句は好き。

【 石川順一 選(順) 】
○11 先生に離されまいと青き踏む  季語は「青き踏む」。師匠と弟子の遠足で句作力もアップする。
○25 薔薇の芽の序曲赤子はうまれたか  季語は「薔薇の芽」。気がかりな赤子の出生。薔薇の芽の序曲は発展する。
○36 居酒屋を迷ふ気持ちや日脚伸ぶ  季語は「日脚伸ぶ」。いろいろな個性や特徴を比べて迷っているのだと思います。
○43 囀りや歯を磨くのは笑ふため  季語は「囀り」。面白い発想だと思いました。確かにそう言われればと納得がいく。
○55 水滴の音おぼろ夜のいづこから  季語は「おぼろ夜」。何時からなんだと言う感慨。春の夜が見ている。

【 川崎益太郎 選(益) 】
○10 問ひたれば絶好調と雪女  何にでも付く雪女と言われているが、「絶好調」が面白い。
○12 捨て難き写真断捨離悴みて  断捨離の中でも難しいのが、写真と言われているが、一番最初に捨てられるのも写真と言われている。この差を如何にせん。
○22 道具なき五人囃子の手の構え  確かに、何も持っていない五人囃子がいる。何かを待っているようにも見える。面白い句。
○24 落ちさうでまた浮き上がり名残雪  「薔薇の芽」と出産の近いものの取り合わせであるが、「序曲」が上手く繋いでいる。
○57 雨や風雪も受け入れ梅香る  風雪に耐える、とは慣用語であるが、「受け入れ」が、新しい視点。

【 草野ぐり 選(ぐ) 】
○04 地の窪を埋めてまだらや春霰 
○11 先生に離されまいと青き踏む 
○16 受験子の顔の固きや受験票   
○38 春一番豆腐の角をくずしたる  
○46 雪解水そこここに雲映しけり 

【 水口佳子 選(佳) 】
○13 目借時浮子は何度も沈みけり  うとうとしている間に魚に餌を持っていかれた。一読した時には因果が感じられるなあと思いつつ、読み返しているうちに釣りをしている人もそのうち海に持っていかれるように思えて(笑)
○22 道具なき五人囃子の手の構え  松本たかしの句を思い出したが、たかしの句は古雛であった。この句は今飾っている途中なのかもしれない。道具を持たせる前からその構えをして待っているという状態か。滑稽とも哀れとも。
○37 朧夜や吊るしのドレス白ばかリ  貸衣装屋さんのクローゼットにずらりと並んでいるウェディングドレスを思った。朧夜に吊るされている白いドレスがぼーっと浮かび上がる。「吊るし」という言葉に一瞬ぎょっとさせられる。結婚は墓場・・とも言うので。
○48 立春大吉これはまた温き雨なり  「立春大吉」という熟語に対してそれ以下の言葉が緩くて、いかにも春の駘蕩とした感じ。
○60 ぱ:た:か:ら:ぱ:お口体操薄氷  こういうお口体操があるのか知らないけれど、「ぱ:た:か:ら:ぱ」と口にしてみると薄っぺらい響きだなあと。そして口元も薄氷のように次第に緩んでくる。

【 三泊みなと 選(三) 】
○09 薔薇色の心臓バレンタインの日 
○13 目借時浮子は何度も沈みけり 
○22 道具なき五人囃子の手の構え  
○47 函館の漁り火白し菜の花忌 
○53 鶯や音ひとつ無き伊勢神宮 

【 鋼つよし 選(鋼) 】
○26 朗読は「多喜二の母」や二月来る  朗読が景色の広がりを感じてよい。
○33 モーツァルト聞かされている浅利かな  心地よい風景で好きな句です。
○45 熱燗や激しき風の漁労小屋  風の激しきのほうが勢いがあると思いますが夜の風景が浮かびます。
○49 シベリアの抑留語る息白し  つらい生活体験を話す人、聞く人々を想像する。
○51 あくがれの人の歩幅に夜の梅  あくがれの文語表現が心をよく表し詩的です。
 以上 お願いします。

【 小川春休 選(春) 】
○04 地の窪を埋めてまだらや春霰  春霰が、地の窪を埋めるというだけならまずまずの句という感じですが、その濃淡を感じさせる「まだら」という表現が良いですね。景の解像度の高い句という印象です。
○05 ビルを包む防音シート鳥の恋  工事中で防音シートに包まれているビルも、このように句にされると、何か美しく変身して出てきそうな感じがします。季語の力を上手く引き出している句ですね。
○37 朧夜や吊るしのドレス白ばかり  もわもわとした朧の質感と、並んだ白いドレスの質感とが読者の脳裏で重なり合う。内容はもちろんのこと、一句全体にちりばめられたら行音が心地良く、句が活き活きとしている。非常に巧みな句。
○41 言い過ぎを窘められし竹の秋  ああ、こういうことあるある、と共感、納得させられる句。季語も気分にぴったりはまる。じっくり味わっていると、我が身のしくじりへの後悔だけでなく、窘めてくれる友の存在のありがたさにも気付かされる。
○51 あくがれの人の歩幅に夜の梅  「あくがれの人」の方が歩幅が広く、それに懸命に付いて行こうとする作者。「あくがれの人」が男性で、作者が女性かな、と想像する。「夜の梅」という季語は、時間帯、周囲の景、雰囲気まで非常に多くのことを読者に想像させてくれる。非常に行き届いた句と思います。
 03 探梅や寝癖の跳ねを気にしつつ  気になるなら帽子でも被ってくれば良いのに、などと思わなくもないのですが、家を出るまで充分な時間が無かったのかも知れませんね。寝癖を見られないように、探梅の一行の一番後ろを歩いたりしてるのかも知れません。
 06 春寒や天気図見せて脅されて  天気予報で、寒波が到来します、などと言っているのでしょうか。だとすると、言われている時点よりも、予報されている未来こそ「春寒」な訳で、季語があまり効果的に働いていないようです。
 12 捨て難き写真断捨離悴みて  「断捨離」という言葉が入っている句で良い句を見たことがありません。この句にしても、「捨て難き」と言った割にはその直後に結局捨てているので、心情が浅いように読めてしまう。
 13 目借時浮子は何度も沈みけり  これは、もう魚がかかっているのに気付いていない、という状況でしょうか? 気持ちが良くて釣り人が眠ってしまったのでしょうか。
 16 受験子の顔の固きや受験票  受験票に顔写真が貼られていて、その表情が固いということでしょうか。「受験」という語が二つ出てくる必要性があまり感じられず、そこがもたついているように感じます。
 17 立春大吉オカリナ演奏会へと  もう少し、言葉を整理すれば、良い句になりそうなのですが…。破調が機能していないように思います。
 18 その昔(せき)の水屋の跡や野梅咲く  「その昔」と書いて「昔」を「せき」と読ませるのは、初めて見ました。「その上(かみ)」なら比較的よく目にしますが、「せき」は違和感が物凄いです。
 22 道具なき五人囃子の手の構え  五人囃子を並べて、これからそれぞれ鼓などを持たせよう、という場面か、それとも楽器類はもう無くなってしまったのか。句にしてこの場面を切り取ることで、時間が止まったような、不思議な景が現れています。採りたかった句です。
 23 春立つ日水漏れ事故が起こりけり  水漏れ事故はどこで起こったのでしょうか。外の水道管などでしょうか、それとも屋内の流しやトイレでしょうか。もう少し具体性があれば、面白い句になりそうです。
 24 落ちさうでまた浮き上がり名残雪  雪に加えて結構風も強いのか、雪が落ちては浮き上がりしている。丁寧に描写されている、採りたかった句です。
 27 中庭の囀の木よ午後抜糸  その日の午後に抜糸が控えている、なかなか珍しい状況ですが、下五に「午後抜糸」と詰め込むのは少々乱暴。句意を汲みつつ仕立て直すと「囀の庭よ抜糸の日の朝の」などとすべき所でしょうか。ぜひ推敲してみてください。
 29 眩きはみな訪ひつつに初蝶来  「眩き」とは何が眩いのか考えてみると、蝶が訪うてゆくのだから、花(菜の花?)ではなかろうか、と推測します。ただ、その推測の上に重ねて「みな」という表現も具体性が乏しく、全体的にぼんやりした句になってしまっている。この推測をもとに、もっと具体的に言い替えるならば、「花を訪ひ花を訪ひつつ初蝶来」。リフレインの効果で、辺りに沢山の花が咲いている様も見えてきます。
 30 寒明や鏡磨きて歯を磨く  何もかも新たな気持ちで、新しい季節を迎えるという訳ですね。
 31 にっこりとされてはてなと大嚔  「にっこり」していた人が「大嚔」をしたということでしょうか? 中七の表現が今一つどういうことかよく分かりませんでした。
 36 居酒屋を迷ふ気持ちや日脚伸ぶ  「迷ふ気持ち」と言ってしまっては、句の答えを作者自身が言ってしまったようなものと感じます。上五中七、「居酒屋のどれに入ろか」などとした方が良さそうな気がします。
 42 外房や潮の匂ひの春霞  「外房」は房総半島南西端の洲崎から勝浦市にいたる太平洋に面した海岸地方のこと。その土地ならでは、という句ですね。
 44 「獺祭」や酔ひの頭痛に春立てり  上五を「や」で切っている割には内容は上五から中七に完全につながっている。しかも句末も言い切りで、切れが二つのような形になっている。どちらの切れを活かすか、推敲が必要と思います。
 46 雪解水そこここに雲映しけり  非常に綺麗な景で、表現もしっかりしている句なのですが、発想としてはややよく見るパターンかな、という気もします。
 48 立春大吉これはまた温き雨なり  「17 立春大吉オカリナ演奏会へと」と同じテイストを感じる句。この句も、何遍読み上げても、リズムがすっと入って来ない。「これはまた温き雨なり」が五七なので、これに下五を足した方が良いのではないかという気がします。よく、「字余りさせるなら上五で」などと言いますが、上五を字余りにした時点で、一句全体で見ると既にかなり負荷がかかった状態になっている。こういう場合の残りの中七下五はかなり注意が必要と思います。
 50 鬼の面掴む手ぢから鬼やらひ  印象的な句であるのですが、どういう状況で誰が「鬼の面」を「掴」んだのかが分かれば、実感のある句になりそうなのですが…。
 53 鶯や音ひとつ無き伊勢神宮  「鶯」も鳴いておらず完全な無音なのか、それとも「鶯」のほかには「音ひとつ無」いと言っているのか、句意が掴みにくい。
 56 梅咲いて邪一つ忘れけり  発想が独特で、なかなか魅力的な句です。「邪一つ」を具体的な悪事に置き換えられたら、また別種の面白さが出てくるかも知れません。
 60 ぱ:た:か:ら:ぱ:お口体操薄氷  上五中七、非常に面白いのですが、「薄氷」という季語が合っているのかどうか、個人的には今一つしっくり来ません。

 

 


次回の投句は、3月15日までに、3句お送り下さい・・・・・・投句はこちら

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