ハルヤスミ句会 第二百二十一回

2019年6月

《 句会報 》

01 生き延びし筍競う背の高さ      益太郎

02 柿若葉吾の禿頭をなでる子よ     つよし(春)

03 そら豆を貰ひ故郷の話など      時人(誠・ル)

04 辣韭漬く高知鳥取5キロづつ     つよし

05 お詫びにと桑の実ジャムと発泡酒   ぐり(順)

06 登山帽ふちのへたりを指でなぜ    愛(光・時・三・鋼)

07 靴下の穴に臆せず夏座敷       こげら(ル・益・鋼)

08 人を待つ時間が好きや心太      木人(時・愛・タ・鋼)

09 白薔薇や乾び褪せをり巻ホース    タロー(案・ぐ)

10 恵山下賽の河原や大南風       案山子

11 亀の子の四本の脚のばし寝る     春休

12 カサブランカ五輪目開き一つ剪る   ひろ子

13 掌におさまる湯呑み茅舎の忌     ルカ(一・愛)

14 この門を出でてこれより旅の蟻    春休(マ・順)

15 ストローの雫を弾きソーダ水     一斗(時)

16 罌粟畑芥子の薀蓄披露され      つよし

17 洛中の囃子聞こえる母の鱧      誠章(光)

18 白靴に二重の蝶々結びかな      タロー(一)

19 黒き門締まり黒南風吹き勝る     順一

20 蛍や顔の無ひ目と云ふ不思議     案山子(益)

21 訃の朝の大樹を上る蟻の道      佳子(明・一・タ・春)

22 不覚にもテレビ消してる梅雨の雷   時人

23 賀茂の杜囃子が混じる鱧の味     誠章(案・三)

24 引率の声に並ぶや夏帽子       木人(光・ぐ)

25 色鯉や黄金色は聚楽第        順一

26 日曜は家族総出や田草取       光太郎(奥・鋼)

27 紫蘭咲き朝風入れて一筆箋      みなと

28 冷蔵庫開けし理由の曖昧に      一斗(順・佳)

29 寂びはじむ泰山木の花ひとつ     明治(奥)

30 女生徒の笑ひ五月雨傘の内      みなと(タ)

31 欄干に弁当開く夜釣かな       光太郎(誠・マ・木・一・ぐ・佳)

32 朝涼し寝起きまなこ駝鳥めき     ぐり

33 モテ期かと問はれ頷くソーダ水    マンネ(木・愛・益・三)

34 階ごとにポットの草木芒種かな    ひろ子(こ・一)

35 単線の改札ぬけて夕夏野       明治(木・光・ル)

36 薫風やずらりと干して子供服     光太郎(マ・鋼)

37 片蔭の石に腰かけ神籤かな      木人(順)

38 茎折れば水あふるるやアマリリス   マンネ

39 時の日やマリオネットの動く刻    ひろ子

40 屋根被る本のずり落つ昼寝覚     愛

41 余花の雨バイク停めれば日本海    明治(誠・時)

42 尻立てて騎手かけぬくや青葉風    こげら(奥)

43 傘雨の忌豆腐づくしの御膳かな    ルカ(時・春)

44 蚊が飛んでミサイル飛んで飛蚊症   益太郎

45 詮無しとまだ割り切れず枇杷をもぐ  ぐり(ル)

46 ほととぎす鳴く森に母捨てやうか   佳子(マ・明・こ・光・案・奥・タ・益・三・春)

47 堤防に少年ふたり夏の雨       みなと(誠・明・佳)

48 追ひつきて蔭さしくるる白日傘    タロー(マ・木・明・こ・愛)

49 爪を切るただ爪を切る沖縄忌     ルカ(奥・順・益・ぐ)

50 みどりごも揺れてをるなり荒神輿   こげら(ル・佳)

51 首根つこ覆ふ園児の夏帽子      マンネ(木)

52 倒れをる五百羅漢に苔の花      愛(案)

53 アイリスの舌は乙女の二枚舌     益太郎

54 山開き雀は出来ぬ歩くこと      案山子

55 葉桜の水落ち雨は止みしまま     順一

56 花束は薔薇ポケットを膨らませ    一斗(こ)

57 風薫る古墳模型の真白なる      春休(誠・佳)

58 烏柄杓ろくろつ首が口すすぐ     佳子(案・愛)

59 [手偏+宛]ぎたてと友に土産や夏蜜柑     時人

60 三日ほど口はきかねど鱧は出る    誠章(明・こ・タ・ぐ・三・春) 




【 浅井誠章 選(誠) 】
○03 そら豆を貰ひ故郷の話など
○57 風薫る古墳模型の真白なる
○47 堤防に少年ふたり夏の雨
○41 余花の雨バイク停めれば日本海
○31 欄干に弁当開く夜釣かな

【 大越マンネ 選(マ) 】
○14 この門を出でてこれより旅の蟻  蟻の気持ちになりきって…アニミズムですね
○31 欄干に弁当開く夜釣りかな  孤独の中にもあたたかいものが溢れる感じ。釣果も期待できそう。
○36 薫風やずらりと干して子供服  風になびくたくさんの子供服。清々しいです。
○46 ほととぎす鳴く森に母捨てやうか  ウグイスにヒナを育てさせるというほととぎす。その森に母を捨てようかなんて意味深です。
○48 追ひつきて蔭さしくるる白日傘  昨今、日傘といえば黒やシルバーの機能重視ですが、白い日傘は控えめで古風な女性像が浮かびます。

【 木下木人 選(木) 】
○31 欄干に弁当開く夜釣りかな
○33 モテ期かと問はれ頷くソーダ水
○35 単線の改札ぬけて夕夏野
○48 追いつきて蔭さしくるる白日傘
○51 首根っこ覆ふ園児の夏帽子

【 槇 明治 選(明) 】
○21 訃の朝の大樹を上る蟻の道  知人の死の知らせを受けた朝、蟻の生きるための営みは続く。
○46 ほととぎす鳴く森に母捨てやうか  古来より時鳥の初鳴きは待ちわびる対象だった。「捨てられぬ母」への悲痛な声なのか。
○47 堤防に少年ふたり夏の雨  突然降り出した雨を、ものともせず遊ぶ姿か。
○48 追ひつきて蔭さしくるる白日傘  小津映画『小早川家の秋』の中村鴈治郎と浪花千栄子のカップルかと。
○60 三日ほど口はきかねど鱧は出る  鱧の句、他にもありましたがこの句が妙に気になる。仲違いしてても、今が旬の鱧の味だけは提供しようという愛情?

【 こげら 選(こ) 】
○34 階ごとにポットの草木芒種かな  団地の光景でしょうか。各階に住んでいる人々の生活が垣間見えるようです。
○46 ほととぎす鳴く森に母捨てやうか  介護に疲れたのでしょうか。ホトトギスの托卵のように母親もいっそこの森に預けてしまえたら…。不穏な内容ですが本気で言っているのではなさそうな気もします。
○48 追ひつきて蔭さしくるる白日傘  日傘をさしかけてくれる女性(と思います)の優しい仕草が見えるよう。
○56 花束は薔薇ポケットを膨らませ  プロポーズ!?ポケットには指輪の箱?がんばれー!個人的には中七を「薔薇よポケット」としてもいいかなと思いますがどうでしょう。
○60 三日ほど口はきかねど鱧は出る  破顔一笑の句。なるほどこんな作り方もあるんですね。「鱧」がとてもよく効いている。
 その他、
 15 ストローの雫を弾きソーダ水  惹かれる句なのですが、少し分かりにくいです。(ストローの雫を指で弾いてからソーダ水を飲む、という意味なのか、ソーダ水の飛沫が雫を「弾く」、ということなのか。)
 18 白靴に二重の蝶々結びかな  靴ひもが長すぎたり結び目が解けやすいときなどに、結び目を重ねて結わうことがありますね。ユニークな視点と思います。
 28 冷蔵庫開けし理由の曖昧に  ユニークで面白いのですが状況が少し分かりにくい。(開けた理由を忘れてしまったのか、咎められてうやむやにしようとしたのか。)
 37 片蔭の石に腰かけ神籤かな  景は見えるし季語もよいと思うのですが、「神籤かな」に少し違和感を感じました。
 40 屋根被る本のずり落つ昼寝覚  「屋根被る」の意味は分かりますが少し窮屈な気が。内容は面白いと思います。

【 森本光太郎 選(光) 】
○06 登山帽ふちのへたりを指でなぜ  いかにも使い込んだ登山帽ですね。
○17 洛中の囃子聞こえる母の鱧  京都でしょうか。祭りの鱧料理でしょう。
○24 引率の声に並ぶや夏帽子  次代を担う子供たち。健やかに育ってほしい。
○35 単線の改札ぬけて夕夏野  昭和の田舎の駅、という感じです。
○46 ほととぎす鳴く森に母捨てやうか  相当に深刻な俳句。介護疲れ、介護費用。

【 ルカ 選(ル) 】
○03 そら豆を貰ひ故郷の話など
○07 靴下の穴に臆せず夏座敷
○35 単線の改札ぬけて夕夏野  
○45 詮無しとまだ割り切れず枇杷をもぐ 
○50 みどりごも揺れてをるなり荒神輿 

【 石黒案山子 選(案) 】
〇09 白薔薇や乾び褪せをり巻ホース  白薔薇のように見えたようです。取り合わせでは近すぎ。
〇23 賀茂の杜囃子が混じる鱧の味  賀茂の祭り囃子に耳をとられながら鱧を食べる。味に「混じる」。感心しました。
〇46 ほととぎす鳴く森に母捨てやうか  赤子を捨てようかと言う俳句がありましたが、その母親版。不如帰は自分の子供を他の鳥に孵させるらしいですが、、、。
〇52 倒れをる五百羅漢に苔の花  羅漢像は新しいものは余り知りません。古いものは時々見かけましたが中には相当ひどく壊れたものもあります。「苔の花」効いています。
〇58 烏柄杓ろくろつ首が口すすぐ  おもしろいです。言葉の取り合わせ。

【 一斗 選(一) 】
○13 掌におさまる湯呑み茅舎の忌 
○18 白靴に二重の蝶々結びかな
○21 訃の朝の大樹を上る蟻の道
○31 欄干に弁当開く夜釣かな
○34 階ごとにポットの草木芒種かな

【 中村時人 選(時) 】
○06 登山帽ふちのへたりを指でなぜ
○08 人を待つ時間が好きや心太
○15 ストローの雫を弾きソーダ水
○41 余花の雨バイク停めれば日本海
○43 傘雨の忌豆腐つくしの御前かな  かな止めにするなら(傘雨忌の)とつないだ方が
 他に気になった句、取りたかった句は
 02 柿若葉吾の禿頭をなでる子よ
 24 引率の声に並ぶや夏帽子
 26 日曜は家族総出や田草取り
 27 紫蘭咲き朝風入れて一筆箋
 28 冷蔵庫開けし理由の曖昧に
 49 爪を切るただ爪を切る沖縄忌
 以上宜しくお願いいたします。

【 土曜第九 選(第) 】
(今回はお休みです。)

【 奥寺ひろ子 選(奥) 】
○26 日曜は家族総出や田草取り
○29 寂びはじむ泰山木の花ひとつ
○42 尻立てて騎手かけぬくや青葉風
○46 ほととぎす鳴く森に母捨てやうか
○49 爪を切るただ爪を切る沖縄忌

【 滝ノ川愛 選(愛) 】
○08 人を待つ時間が好きや心太      
○13 掌におさまる湯呑み茅舎の忌     
○33 モテ期かと問はれ頷くソーダ水    
○48 追ひつきて蔭さしくるる白日傘    
○58 烏柄杓ろくろつ首が口すすぐ 

【 小林タロー 選(タ) 】
○08 人を待つ時間が好きや心太  待つという無意味なようで豊かな時間。待たせてくれる人に感謝。
○21 訃の朝の大樹を上る蟻の道  ふと気が付いた蟻の道、様々な想いが誘発されます。朝や、かな。
○30 女生徒の笑ひ五月雨傘の内  何を笑っているのかわからない怖さ。西東三鬼をおもいだします。老若問わず女は不気味。
○46 ほととぎす鳴く森に母捨てやうか  永田耕衣ばりの非情とも見える表現は、同時に母(=生きるもの)への愛情表現。
○60 三日ほど口はきかねど鱧は出る  喧嘩中でも関西人の矜持というか文化は守る。仲良く鱧食べてください。

【 森 高弘 選(高) 】
(今回はお休みです。)

【 石川順一 選(順) 】
○05 お詫びにと桑の実ジャムと発泡酒  季語は「桑の実」。和解できたのだと解釈していいかと思います。
○14 この門を出でてこれより旅の蟻  季語は「蟻」。芭蕉ののざらし紀行の様な厳しい認識を持って旅立ったのかもしれません。
○28 冷蔵庫開けし理由の曖昧に  季語は「冷蔵庫」。何となく開けて見ると納涼体験が出来る。
○37 片蔭の石に腰かけ神籤かな  季語は「片陰」。神の御加護に縋れば、涼しい気持ちになれるのかもしれません。
○49 爪を切るただ爪を切る沖縄忌  季語は「沖縄忌」。ひたすら爪を切ると言う内容に感銘を受けました。

【 川崎益太郎 選(益) 】
○07 靴下の穴に臆せず夏座敷  穴を見つけても、どうどうとしている作者。私にはできない。
○20 蛍や顔の無ひ目と云ふ不思議  蛍には顔がない。言われて納得の句。
○33 モテ期かと問はれ頷くソーダ水  臆面もなく頷く。これもモテ期の故。
○46 ほととぎす鳴く森に母捨てやうか  本心は母を深く愛している作者が読める。
○49 爪を切るただ爪を切る沖縄忌  逃げる術もなく死に追いやられる。ただ爪を切るように。

【 草野ぐり 選(ぐ) 】
○09 白薔薇や乾び褪せをり巻ホース   
○24 引率の声に並ぶや夏帽子  
○31 欄干に弁当開く夜釣かな  
○49 爪を切るただ爪を切る沖縄忌 
○60 三日ほど口はきかねど鱧は出る 

【 水口佳子 選(佳) 】
○28 冷蔵庫開けし理由の曖昧に  冷蔵庫を開けたとたんに「あれ?なんだったっけ?」・・・日常のそんな一コマ。こういう事ってあるなあと、可笑しくなった。何となく小腹がすいた時や口さみしくなった時、でも結局何も取り出さずに閉めてしまう。
○31 欄干に弁当開く夜釣かな  橋の上からの夜釣り?実際にその場にいなければできなかった句ではないかと思う。何でもない内容だが、「弁当開く」にリアリティがある。
○47 堤防に少年ふたり夏の雨  何だかBLっぽい。二人の少年が堤防に入るだけならありがちだと思うが、「夏の雨」がその場の雰囲気を妖しくしている。雨の中で海を見ながら何を語り合っているのか、ただみつめているだけなのか、妄想が広がる。
○50 みどりごも揺れてをるなり荒神輿  お父さんに肩車されて神輿を見ているみどりごが目に浮かんだ。荒神輿の高揚感が幼い子の血をも揺さぶっている。
○57 風薫る古墳模型の真白なる  この「古墳模型」はペーパークラフトか?あるいは資料館などにあるような模型なのか? 本来は樹木などで覆われていて、経てきた時間を思わせる古墳、しかし目の前にある古墳模型は真白でどこか軽々しい。樹木の匂いをはらんだ薫風と無機質な模型とが対照的。

【 三泊みなと 選(三) 】
○06 登山帽ふちのへたりを指でなぜ
○23 賀茂の杜囃子が混じる鱧の味
○33 モテ期かと問はれ頷くソーダ水
○46 ほととぎす鳴く森に母捨てやうか
○60 三日ほど口はきかねど鱧は出る

【 鋼つよし 選(鋼) 】
○06 登山帽ふちのへたりを指でなぜ  ちょっとしたいつもの仕草。
○07 靴下の穴に臆せず夏座敷  気がついたときはすでに遅し。
○08 人を待つ時間が好きや心太  心太が良い。
○26 日曜は家族総出や田草取  近くに住む兄弟姉妹も駆りだされ。
○36 薫風やずらりと干して子供服  こんな風景に出会うと気分が良い。
 以上、お願いします。

【 小川春休 選(春) 】
○02 柿若葉吾の禿頭をなでる子よ  この子、小学校に上がる前くらいの小さい子でしょうか。「禿頭」が珍しかったのかも。柿若葉のつやつやと、禿頭のつやつやが響き合います。
○21 訃の朝の大樹を上る蟻の道  訃と蟻・大樹の生命力との対比に圧倒されます。蟻などの生き物を愛した人の訃だったのかも知れません。
○43 傘雨の忌豆腐づくしの御膳かな  これはなかなか味のある取り合わせです。他の方の指摘にもありましたが、このままだと上五で軽く切れてしまうので、「傘雨忌の」としたい所ですね。
○46 ほととぎす鳴く森に母捨てやうか  ほととぎすの託卵の習性が下敷きになっているのでしょう。卵は他の鳥に託せても、老母を託せる鳥などいないから、「捨てやうか」と言っているのでしょうか。いろいろと想像させられる句。
○60 三日ほど口はきかねど鱧は出る  人間関係がぱっと想像される所が巧み。
 06 登山帽ふちのへたりを指でなぜ  長年使ってきた登山帽を労わるように、といった風情。描写が具体的でよく見える句です。
 07 靴下の穴に臆せず夏座敷  面白い句ですが、面白みが見え過ぎるという嫌いもあるように感じます。
 08 人を待つ時間が好きや心太  どことなく星野立子のような趣を感じる句。率直な言葉遣いが、心情の素朴さを感じさせてくれます。採りたかった句。
 09 白薔薇や乾び褪せをり巻ホース  薔薇の輝かしい白、褪せたホースの色、そして夏の強い日差しも感じる。色彩の鮮やかな句です。
 13 掌におさまる湯呑み茅舎の忌  晩年の茅舎の闘病生活を少し想像させるような句です。
 20 蛍や顔の無ひ目と云ふ不思議  「顔の無ひ目」とは? どういうことなのかよく分かりませんでした。蛍の顔のことを言っているのでしょうか? なお、「無ひ」は旧かなでも「無い」(もしくは「無き」)と表記します。
 24 引率の声に並ぶや夏帽子  「引率者に指示されたから並んだ」というのでは説明に過ぎないのではないかと思います。例えば引率者の声の大きさだとか、列に並ぶ迅速さだとか、そういうニュアンスを盛り込んでいかないと、説明句から脱することが出来ないように思う。
 26 日曜は家族総出や田草取  昨今は高齢者ばかりになった地域では草取りや溝浚いも大変、なんて話も耳にしますが、この句は「家族総出」でちょっと楽しそうにも感じます。明るい句。
 28 冷蔵庫開けし理由の曖昧に  ストレートに「忘れた」という句は結構あるのですが、この句の良い所は「曖昧に」と含みのある言い方にしている所。ここに微妙な味がある。これも採りたかった句です。
 30 女生徒の笑ひ五月雨傘の内  この「女生徒」は一人で笑っているのでしょうか、それとも複数名? その辺りが読み取れるように書けると良いのですが…。
 31 欄干に弁当開く夜釣かな  釣竿はしかけたまま、欄干で弁当を食べる。なかなかリアリティのある景ですね。採りたかった句。
 32 朝涼し寝起きまなこ駝鳥めき  中七が字足らずのようで落ち着かない。「駝鳥めく寝起きまなこや朝涼し」などと上下入れ替えて「や」で切ると良いのではないかと思う。
 33 モテ期かと問はれ頷くソーダ水  内容は面白いのですが、言い方が少し説明的に感じる。個人的には「頷く」よりも「微笑む」ぐらいで少しぼやかしたい気もします。
 36 薫風やずらりと干して子供服  子供はよく汚してきますから、ずらりと洗濯物が並ぶのも納得ですね。たくさんの洗濯物を干した後の充実感も伝わってくる。
 40 屋根被る本のずり落つ昼寝覚  顔に本を載せて昼寝をしていた、という景でしょうか。あんまり聞いたことないのですが、「屋根被る」という言い回しは一般的なのでしょうか?
 42 尻立てて騎手かけぬくや青葉風  入門書などでよく「一句に動詞は一つ」などと言われますが、この句も動詞が二つなせいで少し見所が分かれている印象。上五を「尻高く」とすれば、その弊害も解消できるかと思います。季語が少々ツキスギというか、はまりすぎである所もちょっと気になりますが…。
 48 追ひつきて蔭さしくるる白日傘  カゲの表記には陰と蔭がありますが、個人的には草かんむりの方の「蔭」は草木のカゲに用いたい。そういう意味ではこの句は「陰」の方が良いと思う。
 49 爪を切るただ爪を切る沖縄忌  雰囲気はよく分かりますが、「爪を切る」にそこまで必然性があるか、少し疑問が残る。「菜を刻む」でも「髪洗ふ」でも同じように成立してしまうような気も…。
 52 倒れをる五百羅漢に苔の花  羅漢の倒れた所に苔の花が咲いていたのか、倒れた羅漢の体から苔の花が咲いていたのか、助詞「に」の一文字にこの辺りの処理を全部任せるのは少し無理があるように感じます。
 54 山開き雀は出来ぬ歩くこと  句意は一応分かりますが、三段切れのようになってしまっています。これを解消するなら「歩くこと出来ぬ雀も山開き」のようにすると良いのではないかと思います。
 55 葉桜の水落ち雨は止みしまま  葉の上の溜まっていた雨が落ちてきたということでしょうか。「止みしまま」というと、ずーっと長い間雨が降っていないようにも感じますが、作者はどの程度の時間のボリュームを想定しておられたのでしょうか。ちょっとこの辺りがしっくり来なかったです。
 


次回の投句は、7月15日までに、3句お送り下さい・・・・・・投句はこちら

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