ハルヤスミ句会 第二百二十二回

2019年7月

《 句会報 》

01 吊るされしワイングラスや夏燈    マンネ(木・時・三)

02 潮の香を胸一杯に帰省せり      光太郎(奥)

03 たまさかに寄る角打ちや梅雨の蝶   明治

04 浴衣帯前で結びて背に回し      愛

05 ひたひたと徴兵令か田水張る     益太郎(鋼)

06 門塀に月下美人の絡みたる      ひろ子(高)

07 二次会は銀座ライオン麦酒酌む    時人(マ)

08 さみだれや伸びし手足を持て余し   春休(こ・ル・一・益)

09 二十歳から阪神ファンに鱧の皮    第九(こ・タ・順)

10 梅雨闇の白眼を剥いて眠る猫     マンネ(第)

11 医者とても見立て難し夏の咳     愛

12 湯あがりの妻を呼びやる夕焼かな   こげら(マ・光・ル・時・奥・愛・三)

13 テーブルに輪染みいくつもビアホール ぐり(ル・奥・愛・順)

14 トマト成り茎が倒れて通れない    順一

15 紫陽花の色に迷うやランドセル    益太郎

16 泥鰌鍋同い年なる初顔と       高弘(明)

17 痴話喧嘩の糸目をつなぐ含羞草    みなと(益)

18 七夕や一時間待ちクリムト展     ひろ子(木・明)

19 屋上の人影ふたつ梅雨の月      第九(三)

20 議論家の居座る小部屋釣忍      みなと

21 老鶯のとよもす小山雨しげき     明治

22 酸っぱさの加減もよろし実梅ジャム  愛(木)

23 梅雨籠なにかゐさうなおもちや箱   マンネ(ル・益・佳・三・鋼)

24 庭園の日時計古りぬ蟇        第九(順)

25 湯の残り穴に注ぐや蟻浮き来     タロー(こ)

26 孫と同じ喜び分ちソ−ダ水      みなと(光)

27 山道のこの明るさや栗の花      明治

28 屈伸の控え選手の日焼かな      つよし(マ・木・明・光・タ・佳)

29 バス停の屋根が焦げるや炎天下    光太郎

30 河童忌やボタンの消えたエレベーター ルカ(愛)

31 模型機の尾翼折れしか草いきれ    こげら

32 待ち人の来たれり氷菓二つ手に    春休(光・三)

33 虹立ちてなるようになる老後かな   光太郎(こ・時・第・鋼)

34 パナマ帽義父にかぶせてしまひけり  こげら(マ)

35 汗だくの彼奴をらむやと共鏡     高弘

36 坂道をゆけば楽器屋青時雨      時人(順・春)

37 象使ひの少年泳ぐ夏の霧       佳子(一)

38 取水口閉じて田んぼの梅雨晴間    つよし(一)

39 二死満塁膝に氷菓の雫落ち      春休(木・こ・奥・愛・高・佳)

40 天金の書を走る紙魚鴎外忌      ルカ(明)

41 短冊に好きと七夕飾りかな      木人(マ・タ)

42 誰彼と茄子丈伸びず実のならず    つよし

43 甚平や野菜炒めに鯖缶を       時人(春)

44 梅霖や換気扇まで蔓伸びて      ひろ子(一・時・春)

45 外出を警戒させる蚊の猛威      順一

46 愛し合ふハンドルネーム西日中    佳子(高)

47 菩提樹の下で外すやサングラス    ぐり(佳・春)

48 夏風邪に棘を落として豊かなり    タロー

49 赤茄子や土の元気のみなぎりて    木人(明・鋼)

50 雨傘を閉じては開き舟遊び      高弘(春)

51 着付屋の女将(おかみ)デニムにアロハシャツ 木人(光)

52 百物語マニキュアの黒光り      佳子(第・タ・益)

53 ががんぼや歯間ブラシにある脆さ   益太郎(第・奥・タ・順)

54 涼み台野菜炒める音は良き      ぐり

55 靴下の穴覗き込むチェーホフ忌    ルカ(一・第・愛・高・益)

56 太陽の重み向日葵傾り行く      順一(高・佳)

57 海鳴りの今日静かなり立葵      タロー(ル・時・鋼) 




【 大越マンネ 選(マ) 】
○07 二次会は銀座ライオン麦酒酌む  一次会はどこだったのということがかとても気になります。
○12 湯あがりの妻を呼びやる夕焼かな  ひとりで見るにはもったいないほど素敵な夕焼けだったのでしょう。妻に対する愛情も感じられます。
○28 屈伸の控え選手の日焼かな  控えだけど人一倍頑張っているのであろうと伺えます。
○34 パナマ帽義父にかぶせてしまひけり  かぶせてしまったという表現にちょっぴり後ろめたいいたずら心が。
○41 短冊に好きと七夕飾りかな  とっくに忘れていたキュンとする気持ちが蘇りました。

【 木下木人 選(木) 】
○01 吊るされしワイングラスや夏燈
○18 七夕や一時間待ちクリムト展
○22 酸つぱさの加減もよろし実梅ジャム
○28 屈伸の控え選手の日焼けかな
○39 二死満塁膝に氷菓の雫落ち

【 槇 明治 選(明) 】
○16 泥鰌鍋同い年なる初顔と  そういえば、彼奴どうしてるかな。などと話すと次の集まりにはやってくるんだこれが。
○18 七夕や一時間待ちクリムト展  「接吻」を観るのに一時間、一年に一度しか逢えない二人に比べれば。
○28 屈伸の控え選手の日焼かな  ドキドキハラハラしてるでしょう、でも正選手に負けないぐらいに練習してきた証拠だね。
○40 天金の書を走る紙魚鴎外忌  「天金も書」と鴎外忌の取り合わせが普通のようで効いている。
○49 赤茄子や土の元気のみなぎりて  自家菜園か、土の元気って、なんとなくそうかと納得してしまう。

【 こげら 選(こ) 】
○08 さみだれや伸びし手足を持て余し  何処にも行けず家でゴロゴロしている作者。雰囲気があると思います。「し」の韻もよい。
○09 二十歳から阪神ファンに鱧の皮  若い頃大阪に移住した人でしょうか。今はすっかり土地に馴染み阪神ファンでもある。一見説明的な上五中七が「鱧の皮」という地域性のある季語によって生きていると思いました。
○25 湯の残り穴に注ぐや蟻浮き来  子供のような好奇心で「この穴にお湯を注いだらどうなるんだろう」と実験している作者が見える。ちょっと面白い。
○33 虹立ちてなるようになる老後かな  雨上がりの美しい虹。くよくよと考えていた重い心も晴れて「何とかなるさ」と開き直った気持ちになる。季語が気持ちと響きあっていてよいと思います。
○39 二死満塁膝に氷菓の雫落ち  一読して光景がはっきり見え、試合の緊迫感が伝わってくる。
 その他、
 05 ひたひたと徴兵令か田水張る  徴兵令が「ひたひたと」来るのは分かるような気もする。やや唐突な気もしますが。
 23 梅雨籠なにかゐさうなおもちや箱  ちょっと怖い。何がいるんでしょうね。
 24 庭園の日時計古りぬ蟇  面白い取り合わせ。光景も見えます。
 28 屈伸の控え選手の日焼かな  日焼けした姿に焦点を当てているのがよいと思う。ただ「屈伸の」と省略したのがやや窮屈に感じました。
 40 天金の書を走る紙魚鴎外忌  森鴎外は「天金」という名の天ぷら屋が好きだったそうですね。この句の「天金」とは意味が違うと思いますが、字面は同じで鴎外忌と響きあう気もします。こんな作り方もありなのかな、と思いました。

【 森本光太郎 選(光) 】
○12 湯あがりの妻を呼びやる夕焼かな  奥様への愛情を感じます。
○26 孫と同じ喜び分ちソーダ水  お孫さんへの愛情が溢れています。
○28 屈伸の控え選手の日焼かな  控え選手でも、手抜きはしません。
○32 待ち人の来たれり氷菓二つ手に  恋人でしょうか。言うことは何もありません。
○51 着付屋の女将(おかみ)デニムにアロハシャツ  紺屋の白袴でしょうか。

【 ルカ 選(ル) 】
○08 さみだれや伸びし手足を持て余し    
○12 湯あがりの妻を呼びやる夕焼かな   
○13 テーブルに輪染みいくつもビアホール   
○23 梅雨籠なにかゐさうなおもちや箱     
○57 海鳴りの今日静かなり立葵  

【 石黒案山子 選(案) 】
(今回はお休みです。)

【 一斗 選(一) 】
○08 さみだれや伸びし手足を持て余し   
○37 象使ひの少年泳ぐ夏の霧  
○38 取水口閉じて田んぼの梅雨晴間    
○44 梅霖や換気扇まで蔓伸びて      
○55 靴下の穴覗き込むチェーホフ忌 

【 中村時人 選(時) 】
○01 吊るされしワイングラスや夏燈
○12 湯あがりの妻を呼びやる夕焼かな
○33 虹たちてなるようになる老後かな
○44 梅霖や換気扇まで蔓伸びて
○57 海鳴の今日静かなり立葵
 他に気になった句は
 08 さみだれや伸びし手足を持て余し
 32 待ち人の来たれり氷菓二つ手に
 37 象使ひの少年泳ぐ夏の霧

【 土曜第九 選(第) 】
○10 梅雨闇の白眼を剥いて眠る猫  梅雨どきの暗さと虚脱感が上手く表現されていると感じました。
○33 虹立ちてなるようになる老後かな  二千万円話題になっていますが、ケセラセラが理想です。
○52 百物語マニキュアの黒光り  赤黒い爪に妖艶さと怖さがあります。
○53 ががんぼや歯間ブラシにある脆さ  歯間ブラシ愛用者ですが確かに突然にひん曲がることがあります。
○55 靴下の穴覗き込むチェーホフ忌  60年代70年代の学生を思い浮かべました。憧れの時代です。

【 奥寺ひろ子 選(奥) 】
○02 潮の香を胸一杯に帰省せり
○12 湯あがりの妻を呼びやる夕焼かな
○13 テーブルに輪染みいくつもビアホール
○39 二死満塁膝に氷菓の雫落ち
○53 ががんぼや歯間ブラシにある脆さ

【 滝ノ川愛 選(愛) 】
○12 湯あがりの妻を呼びやる夕焼かな   
○13 テーブルに輪染みいくつもビアホール 
○30 河童忌やボタンの消えたエレベーター 
○39 二死満塁膝に氷菓の雫落ち      
○55 靴下の穴覗き込むチェーホフ忌    
 以上です

【 小林タロー 選(タ) 】
○09 二十歳から阪神ファンに鱧の皮  鱧というと京都、京都人と阪神ファンには違和感があります。とは言っても私は新宿生まれの新宿育ち、ほんとのところはわかりません。二十歳、というのがキモなのか? ファンや、としたい。
○28 屈伸の控え選手の日焼かな  野球名門校の控え選手、そこらの補欠とは違う雰囲気がしみ込んだ日焼けから漂います。
○41 短冊に好きと七夕飾りかな  目立たぬように裏側の隅の方にね。
○52 百物語マニキュアの黒光り  一つ消えるごとにマニキュアの黒に朱色が混じってくる----。
○53 ががんぼや歯間ブラシにある脆さ  たしかにぽろっと折れる。またニッチなことを詠んだものですね。

【 森 高弘 選(高) 】
○06 門塀に月下美人の絡みたる  蔓性ではないのに絡むとすれば似つかわしい。
○39 二死満塁膝に氷菓の雫落ち  ひと時も目を離せない。
○46 愛し合ふハンドルネーム西日中  二人はリアルで逢っていないのに。現代ならでは。
○55 靴下の穴覗き込むチェーホフ忌  一句の中に寺山修司が潜んでいる。
○56 太陽の重み向日葵傾り行く  ありそうだが、重みが目を引く。
 05 ひたひたと徴兵令か田水張る  上五の副詞の意味が足音と水嵩で違和感がある。
 09 二十歳から阪神ファンに鱧の皮  上下を入れ替えないと鱧の皮を阪神ファンにあげているように読める。
 12 湯あがりの妻を呼びやる夕焼かな  どこに呼んでいるか次第で変わってきそう。
 13 テーブルに輪染みいくつもビアホール  あんまりキレイとは言えない。
 25 湯の残り穴に注ぐや蟻浮き来  外なのか中なのか?
 26 孫と同じ喜び分ちソ−ダ水  もう少し詳しく聞きたい。
 28 屈伸の控え選手の日焼かな  助詞のスポットライトが効いてないので、語順を入れ替えて何を強調するのか練った方がいい。
 30 河童忌やボタンの消えたエレベーター  怖い。ボタンの「文字」ですよね?
 32 待ち人の来たれり氷菓二つ手に  もう既に融けていそう。
 36 坂道をゆけば楽器屋青時雨  楽器屋が「古本屋」ならば歌謡曲の歌詞にある。

【 石川順一 選(順) 】
○09 二十歳から阪神ファンに鱧の皮  季語は「鱧の皮」。ファンを大事にするファンが居るのかもしれません。
○13 テーブルに輪染みいくつもビアホール  季語は「ビアホール」。儲かっている証拠かもしれませんし、大盛況の内にも生じるリアルな現実。
○24 庭園の日時計古りぬ蟇  季語は「蟇」。蓄積された時間と今。蟇が悠然と現在に居る。
○36 坂道をゆけば楽器屋青時雨  季語は「青時雨」。楽器屋に感じる風格。坂道のアスファルトが雨水を吸収して居る。
○53 ががんぼや歯間ブラシにある脆さ  季語は「ががんぼ」。物の脆さが実感される時。

【 川崎益太郎 選(益) 】
○08 さみだれや伸びし手足を持て余し  さみだれを受けて成長した手足を持て余しているという面白い捉え方。
○17 痴話喧嘩の糸目をつなぐ含羞草  痴話喧嘩の仲裁は、含羞草がぴったりというくらいの痴話喧嘩。大した喧嘩ではない。
○23 梅雨籠なにかゐさうなおもちや箱  おもちゃ箱で癒される引きこもり。「なにかゐさう」が面白い。
○52 百物語マニキュアの黒光り  怖い百物語。黒光りが、不気味。
○55 靴下の穴覗き込むチェーホフ忌  靴下の穴と「チェーホフ忌」の取り合わせが上手い。

【 草野ぐり 選(ぐ) 】
(今回は選句お休みです。)

【 水口佳子 選(佳) 】
○23 梅雨籠りなにかゐさうなおもちゃ箱 自身も梅雨に籠っている。おもちゃ箱の中にも籠り続けている何かがいそうだという大きな箱から小さな箱への構図が面白い。
○28 屈伸の控え選手の日焼かな 「控え選手の日焼」がレギュラーと同じように、いやそれよりももっと練習してきたのだということを思わせる。屈伸しているというのはいよいよ出番が回ってきたという事か。
○39 二死満塁膝に氷菓の雫落ち 情景がよくわかる。氷菓など舐めている場合ではない。立ち上がって応援せねば。
○47 菩提樹の下で外すやサングラス お釈迦様が悟りを開いたとされる木。サングラスを外して素の自分に戻ったという事だろう。わかり過ぎと言えばそうかも。
○56 太陽の重み向日葵傾り行く 向日葵と太陽は仲良し・・でも毎日付き合えば少々疲れもするだろう。ややノイローゼ気味の向日葵とも。

【 三泊みなと 選(三) 】
○01 吊るされしワイングラスや夏燈
○12 湯あがりの妻を呼びやる夕焼かな
○19 屋上の人影ふたつ梅雨の月
○23 梅雨籠なにかゐさうなおもちや箱
○32 待ち人の来たれり氷菓二つ手に

【 鋼つよし 選(鋼) 】
○05 ひたひたと徴兵令か田水張る  芸能人が政治の話をすると非難されるとかコマーシャルを外されるとか寛容さがきになります。
○23 梅雨籠なにかゐさうなおもちや箱  動き出すようなものがいそう。
○33 虹立ちてなるようになる老後かな  心配することがない安堵。
○49 赤茄子や土の元気のみなぎりて  元気のよい力のある句。
○57 海鳴りの今日静かなり立葵  浜辺からおおきな景色が浮かぶ。
 以上よろしくお願いいたします。

【 小川春休 選(春) 】
○36 坂道をゆけば楽器屋青時雨  こんな所に楽器屋が、という驚きが実感を持って伝わってくる。「青時雨」という季語と「坂道」という場が、周囲の状況をいろいろと想像させてくれます。
○43 甚平や野菜炒めに鯖缶を  良い意味で大雑把な料理、という感じがよく伝わってきます。季語もリラックスした様子がよく見えてきてなかなか良いです。
○44 梅霖や換気扇まで蔓伸びて  家の外壁の上の方にある換気扇の吐き出し口、そこへ向かって蔓が伸びている。雨を吸収して、ぐんぐんと成長する蔓の生命力を感じさせる句。
○47 菩提樹の下で外すやサングラス  サングラスを外した瞬間の菩提樹の緑の鮮やかさを思うと、涼を感じますね。
○50 雨傘を閉じては開き舟遊び  もう雨やんだかな、と思ったらまだ少し降っていた、という。舟遊びの気持ちの弾みも伝わってくる、読み上げるとリズミカルで楽しい句です。
 01 吊るされしワイングラスや夏燈  壁から出た二本の棒などにワイングラスを引っ掛けられるようになっているのを、たまに見かけますが、あれを詠まれたのでしょう。ただ、「吊るされし」という表現が的確かというと、ちょっとしっくり来ないような気もします。
 02 潮の香を胸一杯に帰省せり  この表現では、この「潮の香」は帰省する前に吸い込んだのか、帰省先でのものか、今一つはっきりしません。雰囲気だけの表現になってしまっているように感じます。
 03 たまさかに寄る角打ちや梅雨の蝶  上五中七の内容は味があると思いますが、季語が合っていないように感じる。もう少し、時間帯や状況などを読者に想像させる季語の方が良いように思う。
 05 ひたひたと徴兵令か田水張る  こまごまとしたことは言わずに「ひたひたと」という言葉の持つイメージに句意を託している句ですが、ちょっとふわっとほのめかす程度に留まっているようにも感じます。
 07 二次会は銀座ライオン麦酒酌む  この上五中七の内容に対してこの下五は当たり前すぎます。例えば「夏の月」などとすれば、一次会から二次会への移動中に見えた景ということになります。もっと景を広く、読者にいろいろと想像させてくれる季語を考えてみてほしい所です。
 09 二十歳から阪神ファンに鱧の皮  いかにも、という句ですが、中七の助詞「に」が少々意味的に無理を感じる。「や」とか「ぞ」で切ってしまった方が分かりやすくはなると思います。
 12 湯あがりの妻を呼びやる夕焼かな  心情も景もよく伝わってくる句です。
 15 紫陽花の色に迷うやランドセル  来年4月から使うランドセルを選ぶのに、どの色にするか迷っている、という場面でしょう。「紫陽花の色」といっても、紫陽花自体が様々に色を変化させる花。どんな色だったかは読者の想像に任せるということでしょうか。
 16 泥鰌鍋同い年なる初顔と  初めて顔合わせした相手と話すうちに、お互い同い年だと言う事が判明する。場がちょっと盛り上がる瞬間ですね。「泥鰌鍋」という所がなかなか味がある。
 18 七夕や一時間待ちクリムト展  内容がかなり説明的ですし、三段切れのようになってしまっています。一番気になるのは中七の「一時間待ち」、どのくらい待ったか、よりも、どのように待っていたのか、を描写した方が実感も出るのではないかと思います。
 23 梅雨籠なにかゐさうなおもちや箱  中七下五、とても面白いのですが、上五も五音の名詞というのは避けたい。意味的にも、中七下五で「おもちや箱」のことを詠めば室内にいることは想像がつくので、「籠(こもり)」は言わずもがなとも感じる。
 25 湯の残り穴に注ぐや蟻浮き来  面白い場面の句ではありますが、動詞が多くごちゃごちゃしている印象が否めない。「注ぐ」と「浮き来」は削る訳にはいかないので、せめて上五をもう少しシンプルにできないものかと思います。
 26 孫と同じ喜び分ちソ−ダ水  なんとなく雰囲気は分かりますが、表現が曖昧で雰囲気しか分からない句になってしまっています。「同じ喜び」って何だったのでしょうか。
 28 屈伸の控え選手の日焼かな  日焼した控え選手が屈伸をしている、という景だと思うのですが、語順が不自然なような…。この句の語順で読むと何だか非常に頭に入って来にくいです。
 30 河童忌やボタンの消えたエレベーター  古びたエレベータの景ですが、「ボタンの消えた」というより「ボタンの(階数表示の文字が)消えた」ということなんでしょうね。ちょっと表現の正確さを欠いているかも知れません。
 31 模型機の尾翼折れしか草いきれ  模型機の尾翼が折れたのだろうか、という疑問を抱いている訳ですが、どういうタイミングで、どんな場所でそういう疑問を抱いたのでしょうか。模型機を直に見られる状況であれば、折れたかどうか一目瞭然で疑問を抱く余地もないので、間近で直に見られる状況でないようですが…。いろいろと考えても、今一つ状況がすっきりしない句です。
 33 虹立ちてなるようになる老後かな  昨今の様々なニュースを聞いていると、私はとてもこの句のような大らかな気持ちになれず…。私という人間の器が小さいだけかも知れませんが。
 34 パナマ帽義父にかぶせてしまひけり  なかなかユーモラスな場面の句。かぶらせたのが嫁か婿かでちょっと雰囲気が違うような気もしますが、そういう細かいことを言い出すとユーモラスな部分をスポイルしそうな気もしますね。
 37 象使ひの少年泳ぐ夏の霧  これは、海か湖を泳いでいる句なのか、それとも「夏の霧」の中を進んで行くことを「泳ぐ」と表現している句なのか、ちょっと曖昧のように感じました。
 42 誰彼と茄子丈伸びず実のならず  今年の冷夏の影響がこんな所にも…。
 51 着付屋の女将(おかみ)デニムにアロハシャツ  意外性と軽いユーモア、語呂の良さもあり好感を持ちました。採りたかった句です。
 52 百物語マニキュアの黒光り  男性から見ると、女性の髪とか爪というのは、情念を感じるパーツではあります。いろいろなことを想像させる「マニキュアの黒光り」ですが、「物語」と「黒光り」で脚韻にもなっている所にソツのなさを感じる。これも採りたかった句。
 54 涼み台野菜炒める音は良き  気分は非常によく分かるのですが、「良き」と言ってしまうのが良いかどうか…。もっとドンピシャの表現があるのではないかという気もする。
 55 靴下の穴覗き込むチェーホフ忌  「靴下の穴」という発想自体がちょっと古い感じは否めませんが、「チェーホフ忌」には合っているのかも知れませんね。


次回の投句は、8月15日までに、3句お送り下さい・・・・・・投句はこちら

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