【 李雷太(久里脩平改め) 選(雷) 】
○06
冬帝や極彩色の観覧車 灰色の季節に対しての極彩色の風景。少々見えすいた感じがしないでもない。決めては下五の観覧車であろうか。そんな観覧車実際にあったのであろう。観覧車は何処か物悲しい。それを中七で補っている。
○09
ヴィオロンを小脇に抱へ小六月 小脇に抱えるのがヴィオロン。書物を抱えるのは文学青年。何処か生真面目な青年の像が見える。季語との響きは必ずしも全身が震える事はない。
○17
老犬の一匹残る冬木宿 少々予定調和的感覚がないでもない。上五と下五との関係は共鳴しているが中七がどうであろうか。しかし、他の句と比較すればそれなりの共感する句である。
○25
がらくたもフリーマーケットに並べ一葉忌 フリマとして鑑賞した。季語の位置は共鳴する。彼女が現在に生きているとすればこのような環境も納得できる。
○40
冬晴やリトマス試験紙の青さ この句のてがらは上五と下五の対比。それを中七で背景を証明している。下五が鮮やかである。今回の句会で最も共鳴した句。秀句である。
【 大越マンネ 選(マ) 】
○26
終点に降りるはふたり冬の虹 遠出をしたのだろうか。降り立った駅で冬に虹が見れるのはなんだか嬉しい。それも好きな人と一緒だったらなおさら。
○27
カラコロロ隣家の庭へ柿落ち葉 柿の木がある家はこの時期になると落ち葉の行方が気になります。
○28
しぐるるや胴輪ぴしりと秋田犬 ぴしりが秋田犬の凛々しさにぴったり。
○40
冬晴やリトマス試験紙の青さ きりっとした冬の青い空とリトマス試験紙の青の対比が好きです。
○48
塩でよし味噌も又よし衣被 お酒が飲みたくなります。
【 木下木人 選(木) 】
○08 猫の居る路地に足向く小春かな
○11
長引くに任せ切れ切れ真夜の咳
○25 がらくたもフリマに並べ一葉忌
○28 しぐるるや胴輪ぴしりと秋田犬
○46
渋谷スクランブル交差点時雨る
【 槇 明治 選(明) 】
○02
蒼空や泡立ち草は丈なして 上五は「青空」でも十分に泡立ち草の黄色とのコントラストが伝わると感じた。
○12
復興する事の多さや神の留守 年々自然災害が過酷さを増している。人間の所業のこと、神のことを考える。
○25
がらくたもフリーマーケット(フリマ)に並べ一葉忌 いっとき小間物の商いを家業にしたと読んだことがある、上手くいかなかったようだ。
○36
冬の鳥一樹に声をあふれさせ 声で鳥の名を言い当てるのは難しいが、とても知りたくなる。
○49
めだか飼ふ甕の大口初時雨 瓶の口まで水嵩が上がるとめだかが逃げちゃう。
【 こげら 選(こ) 】
○07
横綱のまたも張り手や冬紅葉 相撲観戦、盛り上がっているよう。「またも」が弛い気はするが。
○22
電波時計電波拾ふも冬日中 冬日の雰囲気があると思う。
○28
しぐるるや胴輪びしりと秋田犬 「びしりと」がいい。凛々しい犬の姿が見える。
○36
冬の鳥一樹に声をあふれさせ 沢山群れてかしましい様が見えてくる。
○40
冬晴やリトマス試験紙の青さ 理科教師か。ブルーな心?
その他、
11
長引くに任せ切れ切れ真夜の咳 動詞+形容動詞を多用した面白い作り。「切れ切れ」は咳が出る様子?
19
秋深む土偶そろひて太り肉 少し因果関係が見える気もするが面白い。
32
首こりの首ごりと鳴り一葉忌 針仕事っぽい感じがある。「り」を重ねた効果も。
【 森本光太郎 選(光) 】
○06
冬帝や極彩色の観覧車 冬の方が「極彩色」が際立ちます。
○12 復興する事の多さや神の留守 台風の被害は甚大でした。
○17
老犬の一匹残る冬木宿 何となく魅力的な俳句だと思います。
○19 秋深む土偶そろひて太り肉 豊穣の秋です。
○50
初雪やコンチンつつくトイピアノ いよいよ冬本番です。
【 ルカ 選(ル) 】
(今回はお休みです。)
【 石黒案山子 選(案) 】
〇16 川風に立ち装ひたる野菊かな
〇20
ユーモアが心を開く秋高し
〇29 野に積みて干さるる薪や初時雨
〇37 草の実に撃たれて死すは安楽死
〇41
防風の部屋あり冬の無人駅
【 一斗 選(一) 】
〇13 秋渇き呼びもせぬのに鯉の口
〇25
がらくたもフリーマーケットに並べ一葉忌
〇26 終点に降りるはふたり冬の虹
〇40 冬晴やリトマス試験紙の青さ
〇50
初雪やコンチンつつくトイピアノ
【 中村時人 選(時) 】
〇08 猫の居る路地に足向く小春かな
〇21
色鳥や障子に映る庭の木々
〇26 終点に降りるはふたり冬の虹
〇38 外国人墓地のフエンスや帰り花
〇40
冬晴やリトマス試験紙の青さ
【 土曜第九 選(第) 】
(今回はお休みです。)
【 奥寺ひろ子 選(奥) 】
〇17 老犬の一匹残る冬木宿
〇18
入口で電波の途絶え雪蛍
〇33 共白髪霜につまずく妻と居る
〇40 冬晴やリトマス試験紙の青さ
〇50
初雪やコンチンつつくトイピアノ
【 滝ノ川愛 選(愛) 】
〇02 蒼空や泡立ち草は丈なして
〇03
「風天」の寅さん像に赤とんぼ (瘋癲かな)
〇47 名を呼ぶや落葉の坂をころがり来
〇48
塩でよし味噌も又よし衣被
〇49 めだか飼ふ甕の大口初時雨
【 森 高弘 選(高) 】
○09
ヴィオロンを小脇に抱へ小六月 喜んでいる描写は無いのに伝わる不思議。季語の力。
○12
復興する事の多さや神の留守 世知辛い世の中。
○15 おすそ分け我が家の栗はあと少し 安堵感が出ている。
○18
入口で電波の途絶え雪蛍 ここからが自然の入り口。
○39 失敗の報は続々小六月 緊張感のないことへのいら立ち。
01
マッチ擦り擦り擦り焚火くすぶりぬ 焚火がくすぶっているならマッチを擦るより他にやることがありそうな。
07
横綱のまたも張り手や冬紅葉 季語の本来の使い方ではないのでは。
32
首こりの首ごりと鳴り一葉忌 もっと良くなりそうな気がする。首のリフレインより鳴ることへの凝視がしてみたい。
37
草の実に撃たれて死すは安楽死 戦争ごっこだろうか。下五が唐突過ぎる。
【 石川順一 選(順) 】
○08
猫の居る路地に足向く小春かな 季語は「小春」。気紛れな猫の様なのりをまねしたのかもしれません。
○14
群とんぼ畑に田んぼに家並にも 季語は「とんぼ」。群れを成して蜻蛉が畑に田圃に家にも。
○26
終点に降りるはふたり冬の虹 季語は「冬の虹」。「ふたり」が印象的です。
○34
喪の家を出でばや又も狐啼く 季語は「狐」。願望が洗練されていると思いました。
○48
塩でよし味噌も又よし衣被 季語は「衣被」。里芋好きの集まりがあったのかもしれません。
【 川崎益太郎 選(益) 】
○07
横綱のまたも張り手や冬紅葉 張り手でしか勝負できない老横綱の末路。季語が効いている。
○13
秋渇き呼びもせぬのに鯉の口 よく見る景だが、「秋渇き」の季語が上手い。
○39
失敗の報は続々小六月 失敗や悪いことは、すぐ広がる。
○40
冬晴やリトマス試験紙の青さ 冬晴とリトマス試験紙の取り合わせが上手い。言われて納得の句。
○50
初雪やコンチンつつくトイピアノ リズムが効いた面白い句。初雪も上手い。
【 草野ぐり 選(ぐ) 】
○13
秋渇き呼びもせぬのに鯉の口 お堀などにいる鯉の人の気配に寄ってくる勢いにはドキッとする。そうなのだ、あの口が怖い。秋渇きという季語が実感を持って迫ってくる。
○19
秋深む土偶そろひて太り肉 季語が動くか。しかしあの豊満な土偶の肉付きはやっぱり秋だなと思う。
○22
電波時計電波拾ふも冬日中 電波時計の急にぐるぐる秒針が回り出すのには最初は本当にびっくりした。それが冬日中であれば静かな儀式のようにも。
○24
枇杷の花父は起重機恐れたり 枇杷の花と父が起重機を恐れた関係は分からないが地味で可憐な花だからこそ、物語を感じる。
○41
防風の部屋あり冬の無人駅 駅にはよく透明な壁に仕切られた待合室があるが、それをあえて防風の部屋と。しかも無人駅。寂しいというよりちょっと無機質な景だ。
【 水口佳子 選(佳) 】
○02
蒼空や泡立ち草は丈なして 山間部に行くと泡立ち草の繁茂。かつては畑だった所なのかもしれない。北アメリカからの帰化植物と聞くと、なんだか複雑な気持ちになる。人家の少ない山間の景が浮かび「丈なして」に逆に寂しさを感じる。
○08
猫の居る路地に足向く小春かな 尾道の坂道を思い出す。「猫」と「小春」はややつき過ぎとも思うが、ほっこりとした感じ、柔らかな日差しが見える。
○21
色鳥や障子に映る庭の木々 障子に映る木々が風で揺れる。モノクロの木々の影は幻のようで、それに対して色鳥には実感がある。張り替えたばかりの障子かもしれない。
○28
しぐるるや胴輪びしりと秋田犬 ハーネスを付けた秋田犬が人に寄り添っている。冷たく時雨れている中、姿勢を正して寄り添う忠実な秋田犬の姿、きりりとした様子が季語によって浮かび上がる。
○40
冬晴やリトマス試験紙の青さ このリトマス試験紙が赤に変わったら酸性、という事。晴れているときは青くて、雨が降って濡れると赤くなるのかも。「冬晴」「リトマス試験紙」「青さ」の言葉が少しずつ繋がって想像を広げる句となった。
【 三泊みなと 選(三) 】
○08 猫の居る路地に足向く小春かな
○13
秋渇き呼びもせぬのに鯉の口
○25 がらくたもフリーマーケットに並べ一葉忌
○28 しぐるるや胴輪びしりと秋田犬
○36
冬の鳥一樹に声をあふれさせ
【 鋼つよし 選(鋼) 】
○02 蒼空や泡立ち草は丈なして 青と黄色の対比がよい。
○07
横綱のまたも張り手や冬紅葉 相撲も季語だけれども、張り手を句にしたことを採用。
○15
おすそ分け我が家の栗はあと少し こんな経験一度や二度みんなあるある。
○25
がらくたもフリーマーケット(フリマ)に並べ一葉忌 見るからにがらくたなんだろう。
○49
めだか飼ふ甕の大口初時雨 めだか飼う人増えているよう。
【 小川春休 選(春) 】
○07
横綱のまたも張り手や冬紅葉 「またも」という苦々しげな一語から、「横綱ならしっかり組んで勝負しろよ」という心の声が聞こえてくるような句。一応白星先行しているのでしょうが、往年の力強さは失われ、という横綱の状況と冬紅葉とが重なる。
○13
秋渇き呼びもせぬのに鯉の口 「秋渇き」で感じる渇望は鯉のものではなく自分自身のものですが、それが鯉の食欲と響き合うかのような。「呼びもせぬのに」にぬーっとした不気味さを感じる。「口」と部位にピントを絞った所も良い。
○28
しぐるるや胴輪びしりと秋田犬 寒さに強いのか、時雨などものともせず散歩する秋田犬が凛々しい。「びしりと」というオノマトペが非常に効果的。
○36
冬の鳥一樹に声をあふれさせ 驚くほど沢山の鳥が一本の木に集まっていることがある(私が思い浮かべたのは太田川の中洲にある大きな木)。
○50
初雪やコンチンつつくトイピアノ 屋外の季語と屋内の事柄とがすんなり一句に収まっている。トイピアノのオノマトペが秀逸で、音そのものを思い出させるだけでなく、冷えて張り詰めているような空気感までも感じさせてくれる。
01
マッチ擦り擦り擦り焚火くすぶりぬ うーん、「くすぶ」っているということは一応点火はできている訳で、これ以上マッチを擦っても意味がないような…。〈マッチ擦り擦り擦り焚火まだ点かぬ〉とかなら状況は分かりますが…。
03
「風天」の寅さん像に赤とんぼ 良い雰囲気ではありますが、ちょっと出来過ぎという感じもします。
09
ヴィオロンを小脇に抱へ小六月 「ヴィオロン」とはバイオリンのフランス語読みだったと思いますが、どことなく、文学青年たちが活躍した大正時代の頃を思い起こさせるような言葉ですね。
11
長引くに任せ切れ切れ真夜の咳 もう少し、言葉を整理整頓できそうな気がする句です。
12
復興する事の多さや神の留守 まあ、神様も復興の足しにはなりませんから、留守でも気にすることではない、という気もしますがね。そもそも神様がいたのにあんな大災害が起こっている時点で、神様の御利益も知れたものと思い知らされる昨今です。
14
群とんぼ畑に田んぼに家並にも 最近とんと蜻蛉が群れを成して飛んでいる様など見なくなりました。だいぶ減っているのだと思います。この句では方々に蜻蛉が群れている。懐かしいような羨ましいような景です。
15
おすそ分け我が家の栗はあと少し 状況や気分はよく分かるのですが、少々分かり過ぎる。
18
入口で電波の途絶え雪蛍 雰囲気は何となく惹かれるのですが、何の「入口」なのかもう少し読みの手がかりが欲しい。例えば上五を「門入れば」などとすれば、どんな「入口」か少しは想像できる。
20
ユーモアが心を開く秋高し こうしてまとめてしまうと、あらすじのような俳句になってしまう。どんなユーモアが心を開いたのか、その内容を端的に具体的に描写してほしい所です。
21
色鳥や障子に映る庭の木々 屋外の季語と屋内の場面とを取り合わせている句と読みましたが、障子が閉じていると、色鳥を見たり感じたりするのはちょっと難しいかも知れませんね。そういう意味で、少し取り合わせに難があるかも知れません。
23
有明や宇宙船追ひ乗車駅 宇宙船の打ち上げでも見に行ったのでしょうか? よく分かりませんでした。
24
枇杷の花父は起重機恐れたり 大きな工事現場などには起重機はつきものですが、それを「恐れ」るとはどういう状況なのでしょう。倒れて来そうなのでしょうか。季語「枇杷の花」は、やや地味ながら優しい花。庭や畑にもよく植えられるので親しみも感じる花です。その花の印象と、中七下五の内容とがどう響き合うのか、よく読み取れませんでした。
25
がらくたもフリーマーケットに並べ一葉忌 生計を立てるために一時雑貨店のようなこともしていた樋口一葉。その面影をフリマに重ねたということでしょうか。それにしても、「フリーマーケット」と書いて「フリマ」と読ませるのは少々苦しく感じます。上五を思い切り字余りにして、「フリーマーケットにがらくた並べ一葉忌」とした方が良いのではないか、と個人的には思います。
26
終点に降りるはふたり冬の虹 まるでドラマの1シーンのような場面ですが、俳句としては景がちょっと出来過ぎのように感じます。
27
カラコロロ隣家の庭へ柿落ち葉 「カラコロロ」とは柿落葉の音でしょうか? それとも寒いのに誰か下駄で歩いていたのでしょうか。もし落葉の音なら、ちょっと落葉の音としては独特すぎるような気がします。
32
首こりの首ごりと鳴り一葉忌 オノマトペに限った話ではありませんが、俳句は字数が限られますので、情報の重複は避けたい。この句の場合、「首ごりと」と言った時点でもう「鳴った」ことは言わずとも分かる。「ごりと」と「鳴り」に重複している部分がある訳です。「鳴り」の二音分で、どんなディテールが加えられるか、腕の見せ所ですね。
33
共白髪霜につまずく妻と居る 「共白髪」という言葉に夫婦という意味も含まれているので、下五が蛇足に感じます。霜の描写や動きの描写に字数を費やす方が句を深めるには効果的と感じる。
40
冬晴やリトマス試験紙の青さ 冬空の青さをリトマス試験紙に喩えているのか、それとも冬空とリトマス試験紙の青さには直接関係はないのか。「や」で切ることでいたずらに句を曖昧にしている印象です。前者の読みで良いのなら、上五は「冬晴は」としたい。
41
防風の部屋あり冬の無人駅 「防風の部屋」という言い方はいかにも堅い。その堅さがこの句の味と言ってしまえばそれまでですが、単なる待合室ではないか、という気もしてしまう。
44
新しき供養搭建ち立冬 下五の字足らずが落ち着かない。色々と推敲の余地のある句と思いますが、「新しき供養塔」について、「建ち」は無くても建てられたことは分かるのではないかな、と思います。
46
渋谷スクランブル交差点時雨る 変則的な句またがりですが、音数的には十七音に収まっている。しかし句末を「時雨る」と動詞にするとどうしても詰屈な感じがするので、「時雨(しぐれ)」と名詞にした方が良いのではないかと思います。名詞にすると、「交差点」の後で軽く切れている感じになります。
47
名を呼ぶや落葉の坂をころがり来 名を呼ばれたのは誰か・何かを意図的に伏せてあるようですが、あまり表現としては成功していないような気がします。
49
めだか飼ふ甕の大口初時雨 中七、「甕大口や」もしくは「大口甕や」としたい所です。もしそうなら五句選に入った可能性が高い。
51
マリーゴールドの黄なほ鮮やかや冬立ちぬ 上五の字余りはまだ良いとして、中七まで字余りになっているようで、「や」が要らないのではないかと感じる。「なほ」と「冬立ちぬ」との間にやや理が付くようにも感じます。
|