ハルヤスミ句会 第二十三回

2002年8月

《 句会報 》

01 舟虫の子の透きとおりつつ走る    阿昼(む)

02 洗濯にすすぎし水を打ちゐたり    つよし

03 風を分け夏木一本立ちにけり     春休

04 土曜鰻産地聞けども答へざり     つよし

05 舟虫の止まる西瓜の影の中      阿昼(ふ・春)

06 竹こして朝顔のつるとなり家に    やすみ

07 足湯して数えてゐたる流星      むかご(ふ・つ・や)

08 雨音のむかうに蝉の声かすか     春休(や)

09 山鳩のしきりに鳴くや川施餓鬼    むかご

10 屋上へみな駆け上がり大文字     ふみ(阿・つ)

11 盆の月二階の窓が開いたまま     むかご(阿)

12 新涼や合わせ鏡の中の朝       ふみ(阿)

13 刃がふれて白桃は香を放ちけり    春休(ふ)

14 ひるよると指の跡より桃朽ちて    やすみ

15 蒲の穂やちひさき鯉のあつまり来   つよし(春)

16 切り落ちし髪さわさわと西鶴忌    ふみ(む・春)

17 乾ききる土のかたまり豆を引く    つよし(や)

18 舟虫ののろまが眼まんまるよ     阿昼(◎つ)

19 猫去りて草の実ばかりちらばりぬ   やすみ

20 ただいまといふもおしろい花越しに  春休

21 豆しぼり頭にまかれ案山子立つ    やすみ(む)



【 松尾むかご 選 】
01 舟虫の・・・透きとうりつつ走がいいですね 若い時ってこんな感じ
16 切り落ちし・・・西鶴忌がぴったっと収まっている 舞台の一場面のように、迫ってくる。
21 豆しぼり・・・やる気まんまんの案山子ってとこが 可笑しくて、悲しい

【 中村ふみ 選 】
05 舟虫の  西瓜の緑と黒くてはっきりとした影とのコントラストが構成的で美しい。そこへ舟虫が加わることで、単なるデザイン的な面白さを超えて、はっとするような時間の切り口が表現されている。
07 足湯して  足はひんやり、星はきれい、ああ、気分の良い夜だ。人間にとって心地よいことを素直に表現することは、やっぱり大事だと思います。
13 刃がふれて  清涼感ある爽やかな句。“刃がふれて”は読む人をどきっとさせるけど、その緊張感がかえってぱあっと広がる桃の香りを印象づけている。知的でロマンチックで、こういう句が好き。

【 中村阿昼 選 】
○11 盆の月  外から月を見ていたら二階の窓が開いたまま、という、一見なんでもないような句だけど、開いたままの窓の暗さが何か忘れ物をしたような感じで切ない。
○12 新涼や  上手い。合わせ鏡にいろいろな角度で映る朝には、夏から秋にかけて映りかわる季節や人の心のいろいろなかけらが散りばめられているようだ。
○10 屋上へ  おおっという声が聞こえてきそうで勢いのある句。
14 ひるよると  中七以降とても面白いのに、上五が観念的で惜しい。
16 切り落ちし  「切り落ちし」は文法的に無理なのでは。薄幸の美女の落飾って感じで中七以降は面白い。
15 蒲の穂や  中七以降可愛らしくて好きなんだけど、蒲の穂から鯉まで視点が上下すると思うのだが。
17 乾ききる  松山は完璧に旱です。リアリティのある句。    
13 刃がふれて  ハ行の韻が効いていて上手い。でももしかしたら類句がありそうな気も。

【 鋼つよし 選 】
◎18 舟虫の  ま音をうまく綴っておもしろい句になっている。
07 足湯して  足湯というなつかしい題材と流れ星との取り合わせがよい。
10 屋上へ  屋上へ駆け上がるがよい。
そのほかの佳句
11 盆の月二階の窓   20 ただいまといふもおしろい花
21 豆しぼり頭にまかれ
そのほか
09 山鳩の「しきりに鳴く」中七が常套的なのが惜しいと思う。
19 猫が去らない方がよい。

【 小川やすみ 選 】
○07 足湯して  自宅でのんびりリラクゼーション。いいですね。
○08 雨音の  夕立に蝉もおとなしくなったのでしょうね。
○17 乾ききる  今年の夏のように雨が少ないと畑の土は乾いて固くなってしまうのです。

【 小川春休 選 】
○05 舟虫の  今回舟虫の句が3句あった訳ですが、この句は絶対見てないと作れない句ですね。そこにこの句の強さがあるのだと思います。「物」中心の句っていうこともあると思いますが。そういえば、舟虫って大きな石の影とか、ああいうとこが好きだよなぁ。
○15 蒲の穂や  実って重くなり、水面に近くなった蒲の穂に、小さい鯉が集まってくる。むだな言葉がないところはもちろんですが、何だかとても心ひかれた句です。
○16 切り落ちし  阿昼さんの指摘の通り、「切り落ちし」は文法的にちょっとムリ。正しく言えば「切り落とせし」。でも字余りになってしまうので、「切られ落つ」「切られたる」などなど推敲してみてください。句の内容は、髪を切るという行為にひそんでいる決意みたいなもののイメージを、うまく季語で増幅させていて、とても良いと思います。
01 舟虫の  これも良い句なのですが、「美しい句」と「強い句」だったら私は後者を選びます。なのでこちらはとらずに05をとりました。
10 屋上へ  確かに大文字ってこういう感じなのですが、季語のイメージの範疇をはみ出ているところが少しもないので、ちょっと紋切り型の俳句になっているように思います。私の俳句の読み方がひねくれてるっていうのもあるかもしれませんが。
11 盆の月  盆の月を見ていたら、ふっと目に入った家の二階の窓が開いたまんまになっていた。ただそれだけなんですが、どこか不安な感じもして、おもしろい句だと思います。
12 新涼や  「新涼」と「鏡」という取り合わせは良いと思うのですが、「朝」が唐突な感じがして、ちょっと読み切れませんでした。
14 ひるよると  「ひるよると」と言うと、どうしても間延びしてしまいます。長い時間の流れを句の中に読むとしても、あくまで句の内容は瞬間的な(短時間の)事柄を書いて、そこから読み手に長い時間の流れを感じ取らせるようにした方がいいでしょう。といってもそれが難しいのですが。
17 乾ききる  これも「乾ききる」が微妙に文法的におかしいようです。時制から言っても「乾ききりし」が正しいでしょうね。しかし、「豆引くや土のかたまり乾ききり」とした方が締まった感じになる気がします。


来月の投句は、9月15日までに、3句お送り下さい・・・・・・投句はこちら

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