ハルヤスミ句会 第二百三十回

2020年3月

《 句会報 》

01 ホシは誰死者に口なし実万両     益太郎

02 多喜二の忌ペットボトルの固き蓋   ルカ(雷・光・一・益)

03 原稿はなかなか書けず桜餅      光太郎(時)

04 同胞の巣籠めくや我が祖国      雷太

05 春愁やラジオを流しひと日過ぐ    ひろ子

06 坂登りきり梅林を見晴るかす     つよし(案・順・ぐ・春)

07 矢切より渡船のありき春なかば    みなと

08 後6ミリあとは自然に春床屋     タロー

09 おぼろ夜や「まだらの紐」に寝付かれず こげら(マ)

10 エンジンがあらは余寒の事故車両   春休(こ・案・三)

11 リハビリ病棟窓大きくて鳥の恋    ぐり(マ・奥)

12 バカボンのパパのはちまき初蝶来   佳子(雷・タ・光・高・ぐ)

13 漁網など繕ひ東風の気配嗅ぐ     案山子(時)

14 プロとなる決意を秘めて卒業す    一斗(こ・奥・鋼)

15 染め髪の色抜け朧月夜なる      ぐり(木・高・益)

16 目刺焼く結城紬のたすき掛け     木人(タ・案・時・鋼)

17 三椏の花は田舎のシャンデリア    益太郎

18 うぐひすが下手で送電線の密     佳子

19 ケース入りお狐様の春の雨      順一(三)

20 花水木夕闇の濃き運河べり      明治(時・順)

21 春暖や関節痛の軽くなり       光太郎(奥)

22 くつきりと渕の底見え木の芽山    タロー(ル・佳・春)

23 父との子の喪服の並ぶ余寒かな    雷太(佳・春)

24 春水や川の小石の放す艶       ひろ子(光)

25 桜餅「あせるな」と師のうそぶいて  高弘

26 ウィルスに自由奪われ薄氷      ルカ(愛・益)

27 何十年ぶりの蕎麦屋も花のころ    春休(木)

28 娘ツ子の化粧デビユーや春休     つよし(光・三)

29 椿抱く河童の御座す露天風呂     雷太

30 人嫌いばかり集まり桜待つ      ぐり(光・順)

31 虚子座すや春潮湾にみちきたる    タロー

32 虎杖を摘みつつ待や渡し舟      時人(木・タ)

33 後頭部ガンと殴られ三鬼の忌     光太郎(愛)

34 のどろかやカッパドキアの気球群   愛

35 春愁マッチじゆわつと燃え始む    高弘(春)

36 休校の庭にぽつりとつくつくし    マンネ(木)

37 閏日や煮込みラーメン土色だ     順一

38 春めくやコップ鳴らして洗ひもの   春休(タ・こ・ぐ・佳)

39 いもうとを残してきたる雛の部屋   佳子(マ・順・三)

40 鶯や過去の歴史を繰り返す      順一(雷)

41 ひとり寝の朝寝を覚ます寝言かな   時人(愛・益)

42 看板にうつ伏す猫も春の色      こげら(雷)

43 鎮座するは台湾坊主春の雪      高弘

44 校堂に轟く返事卒業子        ひろ子(こ・三)

45 木蓮の日に日に咲きてはや散りぬ   明治(木)

46 出店者の三人四人蕗の薹       つよし

47 口角を上げてアイヌの漁夫来る    みなと(ル・鋼)

48 この部屋の半分落つる受験生     一斗(愛・鋼・春)

49 淵に来てひとり迷へるながし雛    案山子

50 淡雪や棹さす舟の影絵めき      こげら(マ・ル・案・時・高)

51 治まらぬ流行病(はやりやまひ)や山笑ふ 明治

52 開腹の経過良好春一番        木人(案・ぐ・鋼)

53 くくたちや足指でするぐうとぱあ   愛(こ・ル・奥・佳)

54 しゃぼん玉地球ちぢんでゆくばかり  ルカ(益)

55 壇上にアシモ歩行の卒業子      みなと(雷・タ・順)

56 いぬふぐり見る間に憂さの晴れてきし 愛(奥)

57 つちふるや友と別れに行くところ   案山子(マ)

58 干し竿にシャツのくしやくしや春一番 一斗(ル・愛・ぐ・佳)

59 春疾風六つの駅の名が変はり     マンネ(高)

60 山寺の磴の凹みや春落葉       木人

61 湯豆腐はこんな心地か露天風呂    益太郎

62 うららかや雀は話すごと鳴いて    マンネ(高)

63 風光るすくすく育て麒麟の子     時人  




【 李雷太 選(雷) 】
○02 多喜二の忌ペットボトルの固き蓋  多喜二忌との配合で中七下五が生きている。忌日の句はその季語に対する一定の造詣が深くないと成功しない。この句はそれが見事である。秀句としていただいた。
○12 バカボンのパパのはちまき初蝶来  赤塚不二夫そのものを彷彿させる句だ。バカボンのパパの頭上で舞う蝶の姿は何ともほのぼのとする。
○40 鶯や過去の歴史を繰り返す  歴史は本来過去であるから中七は冗長感がある。が、今のご時世をそれなりに評している句としていただいた。季語の位置には若干の齟齬を感じる。
○42 看板にうつ伏す猫も春の色  春の昼下がり。看板(この看板は何の看板だろうか。おそらく古くからある、例えば大村崑や今は亡き某女優が載っている今では錆びついた看板などを思い出させる)に寝そべっている猫。いかにも春らしい。この場合具体的な色の名前を出したら説明句。中七「猫も」としたところに春のほのぼのさが表現できていると鑑賞した。「猫に」であればその詩情が消えてしまう。秀句。
○55 壇上にアシモ歩行の卒業子  この春は残念ながらこのように卒業生ひとりが並んで壇上で卒業証書を受け取る時間はなかったのが殆んどの学校であろう。しかし、何時もであればこのように緊張した卒業生が並ぶ姿があってこその卒業式である。中七は見事な発見だ。おそらく何回も卒業式を経験した関係者の入念な観察の結果の句であろう。秀句である。

【 大越マンネ 選(マ) 】
◯09 おぼろ夜や「まだらの紐」に寝付かれず
◯11 リハビリ病棟窓大きくて鳥の恋 
◯39 いもうとを残してきたる雛の部屋
◯50 淡雪や棹さす舟の影絵めき
◯57 つちふるや友と別れに行くところ

【 木下木人 選(木) 】
◯15 染め髪の色抜け朧月夜なる
◯27 何十年ぶりの蕎麦屋も花のころ
◯32 虎杖を摘みつつ待つや渡し舟
◯36 休校の庭にぽつりとつくつくし
◯45 木蓮の日に日に咲きてはや散りぬ

【 槇 明治 選(明) 】
(今回は選句お休みです。)

【 小林タロー 選(タ) 】
○12 バカボンのパパのはちまき初蝶来  韻がよかった。
○16 目刺焼く結城紬のたすき掛け  
○32 虎杖を摘みつつ待や渡し舟  
○38 春めくやコップ鳴らして洗ひもの  乱暴にではなく元気よく洗い物をしている。
○55 壇上にアシモ歩行の卒業子  アシモようなかくかくした歩き方をしている卒業子、という見立て。展示会のように見られていると景がある。

【 こげら 選(こ) 】
○10 エンジンがあらは余寒の事故車両  ユニークな句材ですね。むき出しのエンジンが哀れ。でも事故車の部品もリサイクルされていく。
○14 プロとなる決意を秘めて卒業す  「に」と「と」の違いは微妙ですが、私的には「プロと」から既にプロレベルの技術を持っているのでは、と思えました。何のプロかは読者が勝手に想像。スポーツかな。
○38 春めくやコップ鳴らして洗ひもの  きゅっきゅっとコップを鳴らして、心は軽い。キッチンに差し込む春の光も見えるよう。
○44 校堂に轟く返事卒業子  校堂に谺する「はい!」という元気な声がありありと浮かぶ。やや大げさな「轟く」が効いていると思います。
○53 くくたちや足指でするぐうとぱあ  縁側でしょうか。戯れに足指でじゃんけんをしているのか、エクササイズなのか。気持ちのよい春の日が浮かぶ。「で」があまり気にならないし、家庭菜園を思わせるような季語もいいと思います。
 その他、
 02 多喜二の忌ペットボトルの固き蓋  多喜二忌の雰囲気はあると思います。上も下も名詞という形は避けられたのでは。
 31 虚子座すや春潮湾にみちきたる  何だか虚子が超能力者みたい。
 35 春愁マッチじゆわつと燃え始む  「しゅんしゅうマッチ」と読んでしまった。「じゆわつと」はいいと思う。

【 森本光太郎 選(光) 】
○02 多喜二の忌ペットボトルの固き蓋  「固き蓋」という表現が、良くマッチしています。
○12 バカボンのパパのはちまき初蝶来  ユーモラスな俳句だと思います。
○24 春水や川の小石の放す艶  いかにも春の川らしい。
○28 娘ツ子の化粧デビューや春休  娘さんが女性になりますね。
○30 人嫌いばかり集まり桜待つ  人は嫌いでも、桜の魅力には勝てない。

【 ルカ 選(ル) 】
○22 くつきりと渕の底見え木の芽山  
○47 口角を上げてアイヌの漁夫来る  
○50 淡雪や棹さす舟の影絵めき  
○53 くくたちや足指でするぐうとぱあ  
○58 干し竿にシャツのくしやくしや春一番 

【 石黒案山子 選(案) 】
○06 坂登りきり梅林を見晴るかす
○10 エンジンがあらは余寒の事故車両
○16 目刺焼く結城紬のたすき掛け
○50 淡雪や掉さす舟の影絵めき
○52 開腹の経過良好春一番

【 一斗 選(一) 】
○02 多喜二の忌ペットボトルの固き蓋   
○03 原稿はなかなか書けず桜餅     
○11 リハビリ病棟窓大きくて鳥の恋    
○15 染め髪の色抜け朧月夜なる      
○39 いもうとを残してきたる雛の部屋   

【 中村時人 選(時) 】
○03 原稿はなかなか書けず桜餅
○13 漁網など繕ひ東風の気配嗅ぐ
○16 目刺焼く結城紬のたすき掛
○20 花水木夕闇の濃き運河べり
○50 淡雪や棹さす舟の影絵めき
 他に気になった句は
 11 リハビリ病棟窓大きくて鳥の恋  中七の大きくてはいらない気がする
 35 春愁マッチじゆわつと燃え始む
 36 休校の庭にぽつりとつくつくし

【 土曜第九 選(第) 】
(今回はお休みです。)

【 奥寺ひろ子 選(奥) 】
○11 リハビリ病棟窓大きくて鳥の恋
○14 プロとなる決意を秘めて卒業す
○21 春暖や関節痛の軽くなり
○53 くくたちや足指でするぐうとぱあ
○56 いぬふぐり見る間に憂さの晴れてきし

【 滝ノ川愛 選(愛) 】
〇26 ウィルスに自由奪われ薄氷  大人も子供も家籠もり、早く治療薬、ワクチンが開発されないでしょうか。
〇33 後頭部ガンと殴られ三鬼の忌  何故か三鬼の句を読んでいると近親感が湧きます。私の父が彼と同世代、出身地も近いせいではと。高野ムツオばかりでなく頭をガンとやられました。
〇41 ひとり寝の朝寝を覚ます寝言かな  鳥に朝寝を妨げられるのではなく、自分の寝言だというところが俳。
〇48 この部屋の半分落つる受験生  う〜ん、これが現実なのですね。
〇58 干し竿にシャツのくしやくしや春一番  干し竿にぴしっとかけておいたのに、取り込む時にはくしゃくしゃ。春一番のいたずらか。

【 森 高弘 選(高) 】
○12 バカボンのパパのはちまき初蝶来  持主が「これでいいのだ」と振り払うこともなく結び目に寄り添う蝶はじっとしている。
○15 染め髪の色抜け朧月夜なる  また新しく染め直す時期が来ている。
○50 淡雪や棹さす舟の影絵めき  粒の大きな春の雪のかなたに消えていく小舟。
○59 春疾風六つの駅の名が変はり  覚え間違えのないようにしなければ一世代前の人間のままだ。
○62 うららかや雀は話すごと鳴いて  話に加わりたい様子。警告するのとは違う。
 14 プロとなる決意を秘めて卒業す  「秘めて」が恐らく他に言える言葉になりうる。
 30 人嫌いばかり集まり桜待つ  桜が咲くまでみんなが木の下で待っているような。
 54 しゃぼん玉地球ちぢんでゆくばかり  石油会社のCMでそんな情景があった。

【 石川順一 選(順) 】
○06 坂登りきり梅林を見晴るかす  季語は「梅林」。「きり」に万感の思いが。いかにも見晴るかすと言った感じが横溢して居る様でいいと思いました。
○20 花水木夕闇の濃き運河べり  季語は「花水木」。古風な「べり」と言う言い方にもハッとしましたが、夕闇の濃さと言う主観的な判断になりかねない部分をさらっと中7に置いているところがいいと思いました。
○30 人嫌いばかり集まり桜待つ  季語は「桜人」。人間嫌いという小説があったようなきがします、モリエールの戯曲で。ユーモラスな現象だと思いました。
○39 いもうとを残してきたる雛の部屋  季語は「雛」。悔恨の情か単なる客観的な描写か、その両方か、いずれにしても、俳句作品と言う気がしました。
○55 壇上にアシモ歩行の卒業子  季語は「卒業子」。アシモ歩行とはインパクトが有ります。思い出に残った卒業式だったのでしょう。

【 川崎益太郎 選(益) 】
○02 多喜二の忌ペットボトルの固き蓋  歳のせいか、最近ペットボトルの蓋が開けにくくなってきた。季語が上手い。
○15 染め髪の色抜け朧月夜なる  白髪染めが落ちると老いを実感させられる。
○26 ウィルスに自由奪われ薄氷  今でしか詠めない現実。
○41 ひとり寝の朝寝を覚ます寝言かな  寝言で目が覚めることがある。ひとり寝では、なおのこと。
○54 しゃぼん玉地球ちぢんでゆくばかり  ちぢむだけでなく、かならすこわれる。

【 草野ぐり 選(ぐ) 】
○06 坂登りきり梅林を見晴るかす  急な坂だったのでしょう。見晴るかすに清々しい気持ちが。
○12 バカボンのパパのはちまき初蝶来  なんと言うか、あのバカボンのパパの鉢巻に初蝶が止まったら途轍もなく可憐だと思う。
○38 春めくやコップ鳴らして洗ひもの  薄いコップではなくてちょっと厚手の丈夫なコップですね。洗いものと言う言い方も柔らかくて春らしい。
○52 開腹の経過良好春一番  開腹という大雑把な言い方が春一番にぴったり。ワイルドですね。
○58 干し竿にシャツのくしやくしや春一番  こちらの春一番は若々しさに溢れている。一人暮らしを始めたばかりの男の子かな?

【 水口佳子 選(佳) 】
○22 くつきりと渕の底見え木の芽山 水の透明感。山の生命が動き出した。
○23 父と子の喪服の並ぶ余寒かな 誰が亡くなったのか?母かも・・と想像させる。
○38 春めくやコップ鳴らして洗ひ物 コップのガチャガチャいう音に躍動感。
○53 くくたちや足指でするぐうとぱあ 平仮名表記がよく効いている。類想はあるか
も。
○58 干し竿にシャツのくしやくしや春一番 ひとり暮らしを始めた若者かも。春一番が
明るい。

【 三泊みなと 選(三) 】
○10 エンジンがあらは余寒の事故車両 
○19 ケース入りお狐様の春の雨 
○28 娘ツ子の化粧デビユーや春休
○39 いもうとを残してきたる雛の部屋 
○44 校堂に轟く返事卒業子  

【 鋼つよし 選(鋼) 】
○14 プロとなる決意を秘めて卒業す  句が引き締まって感じがよい。
○16 目刺焼く結城紬のたすき掛け  景色がきちんと描けている。
○47 口角を上げてアイヌの漁夫来る  口角が印象的だったのだろう。
○48 この部屋の半分落つる受験生  意外な視点からの句
○52 開腹の経過良好春一番  実に良さそう。

【 小川春休 選(春) 】
○06 坂登りきり梅林を見晴るかす  坂の上から見た、遠くの梅林。梅の紅と白とが遠目にもぼんやりと見える。本人の位置がしっかり示されているので、地理的な状況がよく分かり、景のよく見えて来る句。
○22 くつきりと渕の底見え木の芽山  水の透明度が上がったのか、それとも春の日差しが強さを増したせいか、渕の底までもクリアに見える。下五の「木の芽山」という転じ方も心地良い。
○23 父との子の喪服の並ぶ余寒かな  どの位の年代の父子かと想像していたのですが、子が若いと、喪服を着ないんですよね。高校卒業までは葬儀の際に制服着ることが多い。とすると、子もかなり成長していると読むのが自然でしょうか。
○35 春愁マッチじゆわつと燃え始む  周囲が静かだと、確かにマッチに着火する音はこのような感じに聞こえるような気がします。音というよりも、マッチが火に浸食されていく視覚的な様子を「じゆわつと」と捉えたのかも知れません。なかなか面白いオノマトペの使い方です。
○48 この部屋の半分落つる受験生  倍率二倍程度ですと、この句の通りになりますね。何というか、身も蓋も無い現実を突きつけてくる句です。
 03 原稿はなかなか書けず桜餅  以前この句会で「また柿を見上げちつとも書き進まず」という句を出しましたが、お仲間を見つけた思いです。
 08 後6ミリあとは自然に春床屋  上五中七の指示、ミリ単位での指定とはなかなか細かくて、指示を受ける床屋の方もかなり大変そうです。面白い句ではあるのですが、「春床屋」という季語はちょっと無理があるような気も…。
 09 おぼろ夜や「まだらの紐」に寝付かれず  ミステリーの古典と言っても良い「まだらの紐」。なかなか良い雰囲気の句。
 11 リハビリ病棟窓大きくて鳥の恋  「窓大きくて」という中七が表現的に緩く、字数を費やし過ぎのように感じます。縮めて「大窓」と言えば四音で済みます。切れを入れた方がより鮮明な句になるようにも感じます。
 12 バカボンのパパのはちまき初蝶来  面白い句ですが、個人的には順序を入れ替えて、「初蝶来バカボンパパのはちまきに」としたい所。順序が違うだけのように見えるかも知れませんが、この「に」があるとないとでは、二物の位置関係など、けっこう内容にも差が出るように思います。
 13 漁網など繕ひ東風の気配嗅ぐ  「など」や「の気配」といった表現はくどく、句の勢いを削ぐように感じます。
 16 目刺焼く結城紬のたすき掛け  焼いている人の服装の描写のおかげで、目刺が旨そうに感じる。表現が丁寧なのが良いですね。
 18 うぐひすが下手で送電線の密  「コンビニのおでんが好きで」なんていう句もありますが、「が」や「で」は使い方によっては句が散文的になりやすい。口語的なテイストの句に仕立てる狙いがあったとしても、後半の「送電線の密」は口語的ではない表現で、全体として不調和な感じがします。
 21 春暖や関節痛の軽くなり  暖かいから関節痛が軽くなった、という原因・結果を述べているだけのような…。
 24 春水や川の小石の放す艶  何となく言わんとする所は分かるのですが、「放す」という表現がしっくり来ないように感じました。
 25 桜餅「あせるな」と師のうそぶいて  内容は面白いと思うのですが、句中のかぎかっこは不要のように感じます。「と」「うそぶいて」という表現と併せて読めば、かぎかっこ無しでも「あせるな」が師の発言だと分かる。
 26 ウィルスに自由奪われ薄氷  「自由奪われ」という言い方は大きくまとめ過ぎではないでしょうか。学校へ行けないのか、仕事へ行けないのか、旅行が中止になったのか、ある程度「自由」の内容が分からなくては、句が漠然としたものになってしまいます。
 31 虚子座すや春潮湾にみちきたる  句には書かれていませんが、虚子を迎えての句会でテンションの上がっていた波多野爽波の様子などを想像してしまいました。湾に潮が満ちてくる感じとテンションとが私の脳裏で重なったのかも知れません。
 33 後頭部ガンと殴られ三鬼の忌  昔の文学者達ってよく殴り、よく殴られてますよね。現代はだいぶ治安が良くなったのか。
 39 いもうとを残してきたる雛の部屋  書いてある内容は別に普通にありそうな事柄ではあるのですが、一句にすることでちょっと不穏な雰囲気の出ている句。姉か兄かは分かりませんが、雛人形があまり好きではないのかもしれない(生理的に)。そんな印象を持ちました。
 44 校堂に轟く返事卒業子  元気が良くて、そして卒業式が開催できて、何よりでした。
 51 治まらぬ流行病(はやりやまひ)や山笑ふ  うーん…、「山笑ふ」は少しのんきすぎるように感じてしまいます。
 53 くくたちや足指でするぐうとぱあ  なかなか飄々としている句ですが、「足指でする」という言い方は少し堅いように感じる。「足の指もて」ぐらいで良いのではないでしょうか。
 54 しゃぼん玉地球ちぢんでゆくばかり  「地球がちぢむ」というのがどういうことか、今一つピンと来ません。しゃぼん玉は、一旦完成してから割れるまで、ほぼ同じ大きさをキープしています(空気が抜ける穴などがないため)。ですので、しゃぼん玉に映った地球がちぢむ、とか、しゃぼん玉を地球に見立てる、という読みは不合理です。詩歌の表現だから合理性は志向していないと言われるのかも知れませんが、そうであれば合理性を無視しても読者を納得させるだけの説得力が必要だと思います。
 57 つちふるや友と別れに行くところ  この「別れ」、生別なのか死別なのか、はたしてどちらだろうか。敢えてそこを明確にしないという句の作り方もあるとは思うが、個人的にはこの句の「別れ」は明確に(もしくはどちらかほのめかす)した方が良いポイントと思う。
 58 干し竿にシャツのくしやくしや春一番  ちゃんと皺を伸ばして干さんと…、などと小姑のような感想を持ってしまいましたが、一人暮らしを始めた大学生などかも知れませんね。
 59 春疾風六つの駅の名が変はり  「六つ」が効いているかどうか。句の中の景が散漫になって、単なる情報を説明しただけのようになっていると感じます。
 62 うららかや雀は話すごと鳴いて  「ごとく俳句」の比喩として、意外性が少々足りないように感じます。


 



次回の投句は、4月15日までに、3句お送り下さい・・・・・・投句はこちら

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