ハルヤスミ句会 第二百三十一回

2020年4月

《 句会報 》

01 花の果て野球無ければ街しづか    春休

02 水草生ふまう袖無しのお嬢さん    ぐり

03 若者の群れ遠巻きに春の野辺     一斗

04 春惜しみつつ君の髪切りそろふ    こげら(マ・タ)

05 亀鳴くや頑固者ほどへそ曲がり    案山子

06 待ち兼ねし本届きたる遅桜      春休(順)

07 耕して祠にいたる日暮れかな     タロー(マ・佳)

08 大根の花野良猫様の通い道      つよし

09 社会的距離とは何ぞ葱坊主      ルカ(案・高・益)

10 雁風呂の客に傷めく手術痕      一斗(ル・三)

11 風呂敷の隅からほろり桜蕊      愛

12 囀りや漁臭のこもるパッカー車    みなと(奥・ぐ)

13 箱根路の躑躅の中のホテルかな    木人

14 木の芽吹くガス火を妻は点しまま   つよし(一・奥)

15 鶯の響き元町商店街         マンネ(木)

16 初蝶にしばらく息を止めておく    佳子(マ・タ・一・高・順・春)

17 亀鳴くや振り駒あかく「ととととと」 こげら(一・高)

18 蜥蜴出て薄き瞼を閉ぢにけり     ぐり(マ・タ・こ・ル・案・三・鋼・春)

19 古書街やプラタナス咲く坂を来て   時人(雷・木・奥)

20 取って置き選ぶ写真や金茎花     ひろ子

21 ひとところ茎透きとほる土筆かな   タロー(マ・こ・光・愛・高・ぐ)

22 てんでんにてつぺん揺れるぺんぺん草 愛(ル・三)

23 しじみ汁妻には勝てぬ口喧嘩     光太郎(愛)

24 逝く春のマスク二枚を支へとす    佳子(愛・鋼)

25 河川敷一羽の雉の雄叫びか      ひろ子

26 山門に磴に手水に落花かな      木人(タ)

27 子と折るや紙風船に騙し舟      時人(奥・益)

28 鳥籠に模造の小鳥春の雲       佳子(一)

29 竹串でたこ焼き返し鳥の恋      ぐり

30 蝶の羽根二枚残して蟻の穴      案山子(こ・高・ぐ)

31 立候補はふたりの鈴木花疲れ     高弘(光・案)

32 富士に腰かけて食らはむ春の山    案山子(こ・光)

33 囀や降りる切つ掛けティータイム   順一

34 若葉風密度異なるバーコード     雷太(奥・愛・順・益)

35 つばくらめ今年の風を連れて来よ   ルカ(木)

36 ビニールのカーテン越しや猫の恋   雷太(木・益・佳)

37 瀧は春鱗の如く岩濡れて       春休

38 駅前に我が名刻まれ花に鳥      高弘

39 茎立ちの葉牡丹夕餉のチキンかな   順一

40 コロナ禍の学ラン生の春マスク    つよし(ル・三)

41 紅白もみな上向きや落椿       タロー

42 しゃぼん玉届かぬものの美しき    ルカ(益)

43 桜咲き今や葉ざくら封鎖都市     愛

44 春愁や家計簿つける妻の顔      光太郎(順)

45 喪の家の桜隠しとなりゐたる     みなと

46 焼きそばの夕餉躑躅が咲き始め    順一(光・一)

47 此処だけの先行販売桜餅       雷太(鋼)

48 亀鳴くや無粋な人は理屈好き     光太郎(雷・案)

49 「ケロリン」の桶や遅日の湯を溜めて 高弘(雷・こ・ぐ・春)

50 山盛りのきんぴらごばう春の雷    時人

51 囀やどうせ行くなら麓まで      マンネ(木・佳)

52 鍬に楔打つて畑打はじめけり     みなと(タ・案・鋼・春)

53 春なのにコロナコロナで句が荒れる  益太郎(愛)

54 息の合はぬテレビ会議や春の昼    マンネ(雷・光・ル・佳・三)

55 亀鳴くを閣議決定平々と       一斗

56 春愁や赤いマスクの地蔵様      ひろ子(順・鋼)

57 合歓の花「宮城まり子」を知らず咲く 益太郎(雷)

58 壷焼のこれは雌ぞと助教授は     こげら(ぐ・佳・春)

59 五輪の輪コロナに見える霾ぐもり   益太郎

60 クレソンの苦味流すや赤ワイン    木人  




【 李雷太 選(雷) 】
○19 古書街やプラタナス咲く坂を来て  都会の景。類似類句あると思うが景は鮮やか。
○48 亀鳴くや無粋な人は理屈好き  その通りである。理屈ばかりを述べる詰め襟の学生。季語からしてそのような学生を何処か揶揄している詠み手。
○49 「ケロリン」の桶や遅日の湯を溜めて  以下はホームページから
「銭湯で子供が蹴飛ばしても、腰掛けにされてもビクともしないケロリン桶は、驚異的な強さから、別名「永久桶」とも呼ばれています。風呂桶とケロリン、両者の関係はイメージとしてはキッチリ結ばれています。
さてこの風呂桶の由来とは...。
CM・広告【メディシンロード・内外薬品の歩み】 当時、内外薬品では、「ケロリン」をはじめとした置き薬向け製品は好調でしたが、全国に薬局薬店がふえ、「ケロリン」を置いてもらいたいという夢を抱くようになり、その夢の実現に向かって、全国の薬局薬店を廻り始めます。 そんなとき、東京オリンピックの前年(昭和38年)、内外薬品に睦和商事の営業スタッフ(現社長)から「湯桶にケロリンの広告を出しませんか?」と持ち掛けられたのがキッカケ。」
 とか。今時残っている家庭は珍しいだろう。季語がきいている。利用しているのは鑑賞者と同様の初老の男性。
○54 息の合はぬテレビ会議や春の昼  テレワークは大変だ。先ず今回はじめて利用された人が多いであろう。タイムラグの中で臨場感が削がれてしまう。春の昼、外は天気が良いのに悪戦苦闘している詠み手の姿が見える。今時の句。必ずしも後生まで評価に耐える句かどうかは今後の流れ次第であろうか。
○57 合歓の花「宮城まり子」を知らず咲く  実は愚娘が暫く「ねむの木学園」で絵画指導の職に就いた。鑑賞者である私も現職時代に全国の特別支援学校校長会のおり、数回宮城まり子と話をさせていただいた。その事もあって私も数回この地を訪ねた。人里離れた地に展開された景は色とりどりの花が乱舞しまさに桃源郷であった。その一隅にあった「吉行淳之介文学館」はそれなりに印象深い。「福祉は文化」と言う彼女の教えは、今でも吾子を支えており、現在或る地方で障害のある子らの絵画教室を開いており、それなりにその地域の方々に認めていただいている。弔句としていただいた。

【 大越マンネ 選(マ) 】
◯04 春惜しみつつ君の髪切りそろふ
◯07 耕して祠にいたる日暮れかな
◯16 初蝶にしばらく息を止めておく
◯18 蜥蜴出て薄き瞼を閉ぢにけり
◯21 ひとところ茎透きとほる土筆かな

【 木下木人 選(木) 】
○15 鶯の響き元町商店街  
○19 古書街やプラタナス咲く坂を来て
○35 つばくらめ今年の風を連れて来よ
○36 ビニールのカーテン越しや猫の恋
○51 囀やどうせ行くなら麓まで

【 槇 明治 選(明) 】
(今回はお休みです。)

【 小林タロー 選(タ) 】
○04 春惜しみつつ君の髪切りそろふ  初々しさ。
○16 初蝶にしばらく息を止めておく  はっと驚きと喜び。
○18 蜥蜴出て薄き瞼を閉ぢにけり  うすきに出てきたばかりの軟らかさがある。
○26 山門に磴に手水に落花かな  このくどさがいいです。
○52 鍬に楔打つて畑打はじめけり  そうだったんどろうなという実感。

【 こげら 選(こ) 】
○18 蜥蜴出て薄き瞼を閉ぢにけり  ズームされた映像が鮮明。
○21 ひとところ茎透きとほる土筆かな  丁寧なスケッチで質感がよく出ている。
○30 蝶の羽根二枚残して蟻の穴  映像が鮮やか。「残して」がどうかなと思いつつ。
○32 富士に腰かけて食らはむ春の山  大男?壮大なファンタジーの世界。
○49 「ケロリン」の桶や遅日の湯を溜めて  銭湯に射し込む春の夕日。懐かしくなった。
 その他気になった句、
 24 逝く春のマスク二枚を支へとす  時事俳句としては面白い。平時なら分かりにくいかも。

【 森本光太郎 選(光) 】
○21 ひとところ茎透きとほる土筆かな  良く観察しています。
○31 立候補はふたりの鈴木花疲れ  ユーモラスな俳句だと思います。
○32 富士に腰かけて食らはむ春の山  スケールの大きな俳句です。
○46 焼きそばの夕餉躑躅が咲き始め  「焼きそば」と「躑躅」が、良くマッチしています。
○54 息の合はぬテレビ会議や春の昼  慣れない事は、なかなか上手く出来ませんね。

【 ルカ 選(ル) 】
○10 雁風呂の客に傷めく手術痕 
○18 蜥蜴出て薄き瞼を閉ぢにけり 
○22 てんでんにてつぺん揺れるぺんぺん草
○40 コロナ禍の学ラン生の春マスク    
○54 息の合はぬテレビ会議や春の昼 

【 石黒案山子 選(案) 】
○09 社会的距離とは何ぞ葱坊主
○18 蜥蜴出て薄き瞼を閉ぢにけり
○31 立候補はふたりの鈴木花疲れ
○48 亀鳴くや無粋な人は理屈好き
○52 鍬に楔打つて畑打はじめけり

【 一斗 選(一) 】
○14 木の芽吹くガス火を妻は点しまま
○16 初蝶にしばらく息を止めておく
○17 亀鳴くや振り駒あかく「ととととと」
○28 鳥籠に模造の小鳥春の雲
○46 焼きそばの夕餉躑躅が咲き始め

【 中村時人 選(時) 】
(今回は選句お休みです。)

【 土曜第九 選(第) 】
(今回はお休みです。)

【 奥寺ひろ子 選(奥) 】
○12 囀りや漁臭のこもるパッカー車
○14 木の芽吹くガス火を妻は点しまま
○19 古書街やプラタナス咲く坂を来て
○27 子と折るや紙風船に騙し舟
○34 若葉風密度異なるバーコード

【 滝ノ川愛 選(愛) 】
○21 ひとところ茎透きとほる土筆かな   
○23 しじみ汁妻には勝てぬ口喧嘩     
○24 逝く春のマスク二枚を支へとす    
○34 若葉風密度異なるバーコード     
○53 春なのにコロナコロナで句が荒れる 

【 森 高弘 選(高) 】
○09 社会的距離とは何ぞ葱坊主  生い茂っている葱坊主はぎっしりと距離を詰めているのに。
○16 初蝶にしばらく息を止めておく  意識していると遠くへ逃げてしまう気がして。
○17 亀鳴くや振り駒あかく「ととととと」  振り歩に全部裏返し。後手決定だが相手の出方を見るのも悪くない。
○21 ひとところ茎透きとほる土筆かな  そこまでの凝視が出ている。
○30 蝶の羽根二枚残して蟻の穴  グロテスクだが、生々流転。メメントモリ。

【 石川順一 選(順) 】
○06 待ち兼ねし本届きたる遅桜  季語は「遅桜」。待望のと言った感じがします。
○16 初蝶にしばらく息を止めておく  季語は「初蝶」。修行の為と言う訳でもないでしょうが、初蝶に魅せられたのかもしれません。
○34 若葉風密度異なるバーコード  季語は「若葉」。若葉と重なって来る密度の違いが眼目だと思いました。
○44 春愁や家計簿つける妻の顔  季語は「春愁」。妻の渋面などが思い浮かんだのかもしれません。
○56 春愁や赤いマスクの地蔵様  季語は「春愁」。赤いマスクとは目立ちますね。秘められた春愁と言う気がします。

【 川崎益太郎 選(益) 】
○09 社会的距離とは何ぞ葱坊主  社会的距離という元々曖昧な言葉が、コロナのせいで、ますます曖昧になった。
○27 子と折るや紙風船に騙し舟  コロナで自宅に籠り、子と折り紙をしている。騙し舟が面白い。
○34 若葉風密度異なるバーコード  当たり前のことだが、コロナで禁密を言われ、思いを新たにした。
○36 ビニールのカーテン越しや猫の恋  恋猫もコンドームか。受難の時代。諧謔の句。
○42 しゃぼん玉届かぬものの美しき  触れられぬものに感じる憧れ。高嶺の花。

【 草野ぐり 選(ぐ) 】
○12 囀りや漁臭のこもるパッカー車  港町の清掃車だろうか、囀りとの取り合わせに実感がある。
○21 ひとところ茎透きとほる土筆かな  最近しみじみと土筆を見ていないがたしかに透き通っていた気が。ひとところの言い回しが春らしい。
○30 蝶の羽根二枚残して蟻の穴  羽は外されて、体は蟻の巣へ。淡々とした写生に惹かれた。
○49 「ケロリン」の桶や遅日の湯を溜めて  昔は銭湯の桶といえばケロリンでした。あの黄色にたっぷり湯をためている。気持ちよそそう。銭湯にいきたい!
○58 壷焼のこれは雌ぞと助教授は  助教授がいい。なんとも言えない可笑しみがある。俳句ならでは。

【 水口佳子 選(佳) 】
○07 耕して祠にいたる日暮れかな  一日の農作業を終え祠へ。田の神様が祀ってある祠だろうか。〜して‥という措辞がやや気になりながら、土と生活する人の日常を見る思い。
○36 ビニールのカーテン越しや猫の恋  濃厚接触しないように、スーパーでも郵便局でも透明ビニールの仕切りがある。「猫の恋」が可笑い・・とばかりも言っていられない昨今の時世を思う。
○51 囀りやどうせ行くなら麓まで  はじめはただのウォーキングのつもりだったのに、こんなに来てしまった・・どうせならあの山の麓まで・・という感じか。フレーズの軽さがそのまま心の軽さを表している。
○54 息の合わぬテレビ会議や春の昼  画面を通しての会議は音声が遅れ気味でなかなかすんなり会話できない。「息の合わぬ」は、音声のずれということもあるが、両者の気持ちのずれのようでもある。
○58 壺焼のこれは雌ぞと助教授は  そんなのどうだっていいから早く食べさせて、と言いたい。「助教授は」の「は」の後に続く言葉をいろいろ想像すると面白い。

【 三泊みなと 選(三) 】
○10 雁風呂の客に傷めく手術痕 
○18 蜥蜴出て薄き瞼を閉ぢにけり 
○22 てんでんにてつぺん揺れるぺんぺん草
○40 コロナ禍の学ラン生の春マスク
○54 息の合はぬテレビ会議や春の昼

【 鋼つよし 選(鋼) 】
○18 蜥蜴出て薄き瞼を閉ぢにけり  物語の始まりのような言葉。
○24 逝く春のマスク二枚を支へとす  時事川柳として秀逸。
○47 此処だけの先行販売桜餅  市が出た日の通りで出会いそう。
○52 鍬に楔打つて畑打はじめけり  冬の間に緩むことまま。
○56 春愁や赤いマスクの地蔵様  赤いマスクには発見あり。

【 小川春休 選(春) 】
○16 初蝶にしばらく息を止めておく  内容的にはシンプルながら、非常に鮮明に初蝶と人物との景が眼前に浮かび上がってくる。個人的な好みを言えば句末の「ておく」が少し緩く感じるので、「止めにけり」とした方が緊迫感が出るように思う。
○18 蜥蜴出て薄き瞼を閉ぢにけり  「薄き」とはよくぞ言った、という句。その一点の把握で、蜥蜴の瞼の質感や、蜥蜴の存在感まで実感をもって読者に感じさせている。写生句が成功するか否かはこういうディテールの把握に掛かっているとも言える。
○49 「ケロリン」の桶や遅日の湯を溜めて  「ケロリン」の桶ということは、銭湯ですかね。夕方の比較的早い時刻だと思いますが、日が長くなったので、まだ外は明るい。湯を溜めた「ケロリン」の桶の黄色が明るい。
○52 鍬に楔打つて畑打はじめけり  緩んでしまった箇所に楔を打ち込んで、畑打ちを始める。描くべきポイントがきっちり押さえられていて、臨場感を感じさせる句になっている。「はじめけり」とすっぱり言い切った所も良い。
○58 壷焼のこれは雌ぞと助教授は  こういうことが作品として成立するのが俳句の面白さですね。句に描かれているのはほんの一場面に過ぎませんが、この「助教授」のキャラクターが様々に想像される句です。
 02 水草生ふまう袖無しのお嬢さん  「まう袖無し」とはいかにも涼しげで初夏を感じさせるいでたちですね。ただ、その分、この中七下五自体が季語のような働きをしているので、上五の季語が活きて来ないようにも感じてしまいます。
 04 春惜しみつつ君の髪切りそろふ  雰囲気のある句なのですが、「君」だと少し漠然とするような気も。例えば「子の髪を」もしくは「吾子の髪」などとすれば、親子だとはっきり分かります。
 05 亀鳴くや頑固者ほどへそ曲がり  「頑固者」が「へそ曲がり」なのはあまり意外性がないように感じます。それと、この言い方だと、内容が一般論のように感じる。ある特定の「頑固者」について、その人の意外な側面を端的に捉えて欲しい所。
 08 大根の花野良猫様の通い道  「野良猫」に「様」を付けている事で、いかにも悠々と偉そうに通り過ぎる様子が見えてくる。ただ、上五の字余りと、句全体として漢字が多すぎる点が気になる。上五は「大根(だいこ)咲く」か「花大根」にするとか、中七下五は句全体のバランスを見ながら部分的にひらがなにするなど、推敲してみてください。
 10 雁風呂の客に傷めく手術痕  これは少々説明しすぎのように感じる。自ら解説したのでなければ、何の「傷」か分からないのではなかろうか。身体のどの場所にどのような傷があったのか、もっと具体的な描写の方が読者の想像を誘うのではないかと思いました。
 11 風呂敷の隅からほろり桜蕊  「ほろり」というオノマトペだけでは、どういう状況、どういう動きなのかがよく分かりません。
 14 木の芽吹くガス火を妻は点しまま  何のために火を点けていたのでしょうか。状況がよく分かりません。
 15 鶯の響き元町商店街  なかなか良い雰囲気の句ではあるのですが、個人的には「鶯の響き」という部分が少し引っかかります。「鶯の響き」と言うのと「鶯や」と言うのとでは、どちらがよく「響」いているでしょうか。「鶯や」という季語(プラス切れ字)には、声の響きまで含まれているのではないでしょうか。この辺りの事は、私も句作の際に引っかかったり悩んだりしている所です。
 19 古書街やプラタナス咲く坂を来て  プラタナスの明るさが良いですね。そういえば、古書「街」があるのって多分都会だけですね(広島にはない…)。何となく想像でこういう雰囲気かなとは分かりますが、地方民には少し縁遠い景かも知れません。
 21 ひとところ茎透きとほる土筆かな  そういえば部分的に透けているような所がありましたね、土筆。何か土筆の匂いまで思い出しました。採りたかった句。
 22 てんでんにてつぺん揺れるぺんぺん草  語呂合わせのように響きの似た言葉を上手く並べて仕立てられた句。個人的な好みかも知れませんが、「揺れる」よりも「揺れて」とした方が句全体が軽やかな印象になるように思います。
 24 逝く春のマスク二枚を支へとす  我が家にはそのマスクすらまだ届かないのですが、どうしたものですかね…。花粉症対策で買っていたマスクももう底をつきそうです。
 26 山門に磴に手水に落花かな  並列で言葉を並べて行って、景をどんどん展開していく。なかなか巧みな句です。
 28 鳥籠に模造の小鳥春の雲  多分この作者、鳥籠に鳥を閉じ込めておくことをあまり良く思っていない。この鳥籠が売れるということは、つまり鳥がその中に閉じ込められるということなんだな、と模造の小鳥の姿を見ながら考えている。雲の浮かぶ空こそが鳥たちにはふさわしいのに、と。
 30 蝶の羽根二枚残して蟻の穴  蟻の穴の近くに、蝶の翅だけが二枚残されている。そこからどういうことがあったのか想像させる、なかなか巧みな句。
 32 富士に腰かけて食らはむ春の山  なかなかスケールが大きくて面白い句なのですが、「春の山」って美味しいのでしょうか。ちょっとそこがピンと来ませんでした。
 36 ビニールのカーテン越しや猫の恋  あれよあれよという間に、スーパーやドラッグストアではレジに「ビニールのカーテン」が設置されました。どれほどの効果があるのかはよく分かりませんが、今しか書けない句ではありますね。採りたかった句です。
 38 駅前に我が名刻まれ花に鳥  何か駅前に名前が刻まれるような偉業を成し遂げられたのでしょうか。下五が何とも晴れがましい。
 44 春愁や家計簿つける妻の顔  この時期けっこうよく見かけますが、「春愁」というのもなかなか扱いの難しい季語。この句で言うと、妻が「春愁」なのか、妻を見ている夫が「春愁」なのか、はっきりしない。
 45 喪の家の桜隠しとなりゐたる  桜に覆い隠された家。何とも華やかなのに、それが喪の家であるという裏切り。源氏物語にも引用された「深草の野辺の桜し心あらば今年ばかりは墨染めに咲け」なども思い起こされます。
 46 焼きそばの夕餉躑躅が咲き始め  夕餉を食べるような時刻に、躑躅が咲き始めたことを気付くものでしょうか。たまたま食卓から見える場所に躑躅が植えられているのか。状況を考えると何かしっくり来ない取り合わせ。
 48 亀鳴くや無粋な人は理屈好き  これも「05 亀鳴くや頑固者ほどへそ曲がり」の「頑固者」と「へそ曲がり」の組み合わせと同じく、「無粋な人」が「理屈好き」なのはありがちというか、意外性がなくて面白くない(そういえばどちらも季語が「亀鳴く」ですね)。人物造型がパターン化している印象です。「無粋な人」なんだけれども、実はこんな隠れた一面が…、という句が読みたい。
 51 囀やどうせ行くなら麓まで  天気も良く、囀りに気持ちも弾んで、当初の想定よりも遠くまで足を延ばそうか、と。いかにも健康的で気持ちの良い句。これも採りたかった句です。
 56 春愁や赤いマスクの地蔵様  確かにお地蔵様は赤い前掛けをよくしているので、マスクを付けるなら赤だろう、と思って誰かが作ったのでしょう。面白い場面を捉えています。ただ、この中七下五の内容にこの季語はあんまり面白くないような…。個人的には、「愁」を前面に出すより、「行く春や」ぐらいにしておきたい所です。

 

 


 



次回の投句は、5月15日までに、3句お送り下さい・・・・・・投句はこちら

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