ハルヤスミ句会 第二百三十二回

2020年5月

《 句会報 》

01 初夏の路地電柱を抜きに来る      佳子

02 土手ふらりコロナ疲れの影おぼろ    益太郎

03 コロナ禍のホモ・サピエンス梅雨寒し  みなと

04 えごの坂わつせと漕いで修道女     愛(順・佳)

05 窓からの眺めにも慣れ走り梅雨     第九(木・ル・一・愛・益)

06 保温不可炊飯は出来街薄暑       順一

07 白服のスクランブルや青信号      時人(タ)

08 意思のあるごと泡溢れたるビールかな  マンネ(雷・高)

09 夏雲や切手の蝶の瑠璃美しき      こげら

10 白南風の髪梳く指の白さかな      木人(タ・ル・時)

11 桜冷ゆ潮見櫓の花田番屋        みなと

12 ルート2を覚えし頃の夏の空      ルカ(雷・木・タ・一・三・春)

13 地にコロナ天に富士ある立夏かな    愛(光・益)

14 草の絮こどもの描く世界地図      ルカ

15 ビール手にウーバーイーツ待ちにけり  マンネ(愛)

16 短夜を針かくかくと古時計       こげら(益・三・鋼)

17 万華鏡花を散らさぬほどの雨      案山子(こ・ル・一・奥)

18 退屈で網戸張替やつて見る       つよし(順)

19 葉桜の最終駅に降りにけり       雷太

20 路地裏に地声の太きあつぱつぱ     木人(雷・案・一・時・愛・三)

21 途切れたるウエーブ会議春の蠅     雷太(一)

22 ケーキ二個揚羽は単独行動で      順一(高)

23 湯気上げて八十八夜の夕餉かな     第九(タ・佳)

24 蝶どもはいづこに眠る緑雨の夜     春休

25 夜通しの風にも散らず白牡丹      つよし(愛)

26 カラメルの鍋に爆ぜたり昭和の日    こげら(光・ル・高・春)

27 水切りの五段で沈み揚雲雀       タロー(こ)

28 惣菜はテイクアウトや缶ビール     マンネ

29 包む葉に大樹の香り柏餅        光太郎(案・奥・佳・三)

30 布マスク知事は手縫いのオリジナル   ルカ

31 シャッターの降りし市中の薄暑かな   ひろ子(木)

32 呼び込みはもつぱら女将うなぎ焼く   光太郎(雷・順)

33 卯の花腐し映画の半ばより眠り     春休(時・奥・佳)

34 弁解の通じぬ方やジギタリス      高弘(光・時)

35 前置きの長き話やビール注ぎ      木人(マ・光・案・奥・益)

36 合言葉忘れてしまふ麦の秋       雷太(奥・鋼)

37 白靴は遊び仕事は黒い靴        光太郎(雷・順)

38 絶交とや金魚玉なぞ見上げては     高弘

39 「不要不急」は吾(あ)の存在か落花   益太郎

40 糠もそへたけのこ無人販売所      タロー(時)

41 母の日や母のレシピの醤油じみ     愛(マ・木)

42 裏道や若葉に傘に雨が鳴り       春休(こ・佳)

43 若葉風マラソン道路マスクして     ひろ子(愛)

44 瀬に渕に高き低きに夏燕        タロー(マ・木・こ・鋼・春)

45 朝日和少し早めの苺摘む        ひろ子

46 芝桜山のうねりをうねり行く      案山子(マ)

47 水鉄砲勝者破顔の歯茎かな       第九(こ・案)

48 ちちははが音叉のやうに立つ夏野    佳子(マ・光・ル・案・高・益・春)

49 知らぬお間に笑くぼは皺に花は葉に   益太郎(高・三・鋼)

50 連休に誰も来ぬなり武者人形      つよし

51 夏柑や掃く間もはらりふたみひら    時人

52 ベル押せば匂ふウィルス薄暑かな    みなと

53 鯉幟鱗マスクに大変身         案山子

54 白めしにベーコンエッグ夏浅し     高弘(タ・春)

55 花は葉に鳥化してゆく彼とわれ     佳子(順)

56 半島をバスで巡るや黄砂降る      時人

57 鳥死して骨は残れり明易し       順一(鋼)  




【 李雷太 選(雷) 】
○08 意思のあるごと泡溢れたるビールかな   泡の溢れ方は何時も同じではない。まるでビールが飲み手に対して何かを伝えているような。。。まさに意思があるのだ。だから飲み手である選者もビールと会話しながら。。。。
○12 ルート2を覚えし頃の夏の空   確かこれを習うのは中学生だったか。この時期は大人への芽生が出てくる頃。その時期を懐かしく思っている詠み手。それは季節で言えば春から夏に向かう時。だから夏の空。秋の空ではもう人生の下り坂。ルート2は忘れている。
○20 路地裏に地声の太きあつぱつぱ  肝っ玉かーちゃんだ。夏の路地裏から聞こえていたのは遥か昔。もうこんな景もなくなった。
○32 呼び込みはもつぱら女将うなぎ焼く   何処も女将がしっかりしていれば、今時のコロナ騒ぎも乗り切って行けるか。近年蒲焼は高嶺の花となりつつある。こんな時こそ女将のお出まし。
○37 白靴は遊び仕事は黒い靴  白靴はお洒落だ。だから遊び。この像は男性へのオマージュ。この句からなぜか映画「張り込み」を思い浮かべた。

【 大越マンネ 選(マ) 】
◯35 前置きの長き話やビール注ぎ  この話の核心までに何杯飲むことになるのか…
◯41 母の日や母のレシピの醤油じみ  愛用して使い古した感じが出ている
◯44 瀬に淵に高き低きに夏燕  たたみ掛けて言っているところが忙しなく飛び回る様子にマッチしている
◯46 芝桜山のうねりをうねり行く  リフレインが効いていると思う
◯48 ちちははが音叉のやうに立つ夏野  音叉に例えたのがユニーク。ぬぼーっと立っているよう

【 木下木人 選(木) 】
◯05 窓からの眺めにも慣れ走り梅雨
◯12 ルート2を覚えし頃の夏の空
◯31 シャッターの降りし市中の薄暑かな
◯41 母の日や母のレシピの醤油じみ
◯44 瀬に渕に高き低きに夏燕

【 槇 明治 選(明) 】
(今回はお休みです。)

【 小林タロー 選(タ) 】
○07 白服のスクランブルや青信号  堰を切ったようにあたふたと動く白服。
○10 白南風の髪梳く指の白さかな  白のリフレインと手櫛でそよぐ髪、夏ですね。
○12 ルート2を覚えし頃の夏の空  √2で自分の発展段階の一点に戻れ、お陰様であの時の青空も思い出しました。
○23 湯気上げて八十八夜の夕餉かな  忘れ霜のころでもあり寒い日もある
○54 白めしにベーコンエッグ夏浅し  卵かけご飯にはしない。夏浅しがいい。

【 こげら 選(こ) 】
○17 万華鏡花を散らさぬほどの雨  万華鏡で遊んでいるのか。外は春の雨が少し。雰囲気があると思う。
○27 水切りの五段で沈み揚雲雀  五段も行くとはかなりの達人か。のどかな光景。
○42 裏道や若葉に傘に雨が鳴り  子供だろうか、裏道を行くのが楽しそう。「鳴り」が上手い表現。
○44 瀬に渕に高き低きに夏燕  あちこち忙しなく飛び回る複数の燕が見える。複数の場所を並記することで光景や動きを描くのは一つのテクニックなのですね。
○47 水鉄砲勝者破顔の歯茎かな  落とし所が「歯茎」というズームが鮮明でした。
 その他、採ろうか迷った句、
 10 白南風の髪梳く指の白さかな  「白南風の」の「の」が少し分かりにくい気がしました。擬人化?を意図されたのでしょうか。
 48 ちちははが音叉のやうに立つ夏野  ちょっと不思議な世界。「音叉のやうに」がユニークで、わかるようなわからないような。
 57 鳥死して骨は残れり明易し  鮮明な映像と思います。夜明け前に見る光景としてはやや意外な気も…。

【 森本光太郎 選(光) 】
○13 地にコロナ天に富士ある立夏かな  天地自然は雄大です。
○26 カラメルの鍋に爆ぜたり昭和の日  昭和は遠くなりにけり。
○34 弁解の通じぬ方やジギタリス  ジギタリスが面白い。
○35 前置きの長き話やビール注ぎ  ここは我慢です。
○48 ちちははが音叉のやうに立つ夏野  難解ですが、「音叉」という表現が面白い。

【 ルカ 選(ル) 】
○05 窓からの眺めにも慣れ走り梅雨  
○10 白南風の髪梳く指の白さかな   
○17 万華鏡花を散らさぬほどの雨   
○26 カラメルの鍋に爆ぜたり昭和の日 
○48 ちちははが音叉のやうに立つ夏野 

【 石黒案山子 選(案) 】
○20 路地裏に地声の太きあつぱつぱ
○29 包む葉に大樹の香り柏餅
○35 前置きの長き話やビール注ぎ
○47 水鉄砲勝者破顔の歯茎かな
○48 ちちははが音叉のやうに立つ夏野

【 一斗 選(一) 】
○05 窓からの眺めにも慣れ走り梅雨  
○12 ルート2を覚えし頃の夏の空   
○17 万華鏡花を散らさぬほどの雨   
○20 路地裏に地声の太きあつぱつぱ  
○21 途切れたるウエーブ会議春の蠅  

【 中村時人 選(時) 】
○10 白南風の髪梳く指の白さかな
○20 路地裏に地声の太きあつぱつぱ
○33 卯の花腐し映画の半ばより眠り
○34 弁解の通じぬ方やジキタリス
○40 糠もそへたけのこ無人販売所
 他に気になった句は
 09 夏雲や切手の蝶の瑠璃美しい
 41 母の日や母のレシピの醤油じみ
 以上宜しくお願いいたします。

【 土曜第九 選(第) 】
○10 白南風の髪梳く指の白さかな  からっとした夏風にたなびく長い髪。優雅な景です。
○14 草の絮こどもの描く世界地図  どちらも捉えどころのないものですが可能性や未来を感じさせます。季節感がまだ早いですが。
○17 万華鏡花を散らさぬほどの雨  万華鏡のきらびやかな動の景としっとりとしっかりと咲く桜の静の景の対比がいいです。
○24 蝶どもはいづこに眠る緑雨の夜  初夏の美しい蝶は雨の夜どう過ごしているのだろうかと想像すると神秘的なものを感じます。
○35 前置きの長き話やビール注ぎ  コロナ時代になってみるとこんな場面も懐かしく思ってしまいます。
 以上です。よろしくお願いします。 

【 奥寺ひろ子 選(奥) 】
○17 万華鏡花を散らさぬほどの雨
○29 包む葉に大樹の香り柏餅
○33 卯の花腐し映画の半ばより眠り
○35 前置きの長き話やビール注ぎ
○36 合言葉忘れてしまふ麦の秋
 よろしくおねがいします。

【 滝ノ川愛 選(愛) 】
○05 窓からの眺めにも慣れ走り梅雨  百年後の人がああ、あの時の句だと思うでしょう、”走り梅雨”の季語が切ない。
○15 ビール手にウーバーイーツ待ちにけり  これもそうですね。ウーバーイーツという言葉が一般化しました。
○20 路地裏に地声の太きあつぱつぱ  路地裏、太い声、あっぱっぱとこれでもかとひと昔前の下町の様子。あっぱれです。
○25 夜通しの風にも散らず白牡丹  白牡丹の清しさ、強さ。作者の応援する心が見えます。
○43 若葉風マラソン道路マスクして  マスクをして走るのは危険だと言われますが、この時期です。頑張りましょう!

【 森 高弘 選(高) 】
○08 意思のあるごと泡溢れたるビールかな  字余りだが詰めればいける。もっとうまく注げと叱責されているのか。
○22 ケーキ二個揚羽は単独行動で  一読意味が分かりにくいのだがなぜか目を引いて読み解きたくなる句だった。揚羽は無邪気にはしゃぐ子どもだったのか、作者がよそ見した視線の先にあったリアルな蝶だったのか。
○26 カラメルの鍋に爆ぜたり昭和の日  カルメ焼きだろうか。そうなれば季語も響く。
○48 ちちははが音叉のやうに立つ夏野  もしかしたら作者は泣いている?手を打った時にどちらが鳴ったかという一休禅師を思い出したりも。
○49 知らぬお間に笑くぼは皺に花は葉に  身につまされる句だ。無理して作ってもえくぼはあばたどころか。

【 石川順一 選(順) 】
○04 えごの坂わつせと漕いで修道女  季語は「えごの花」。修道女の群れが望見できます。集団の力が垣間見えます。
○18 退屈で網戸張替やつて見る  季語は「網戸」。本来の目的をぼやかして居てユーモラスだと思いました。
○32 呼び込みはもつぱら女将うなぎ焼く  季語は「うなぎ」。役割分担でしょうか、忙しさの中から鰻が匂って来るようでした。
○37 白靴は遊び仕事は黒い靴  季語は「白靴」。使い分けから来る自己の倫理が示されて居る様で好もしいと思いました。
○55 花は葉に鳥化してゆく彼とわれ  季語は「花は葉に」。鳥化してゆくと言うフレーズの解釈を楽しめたと思います。

【 川崎益太郎 選(益) 】
○05 窓からの眺めにも慣れ走り梅雨  慣らされる恐怖。
○13 地にコロナ天に富士ある立夏かな  やや、ノー天気な句だが面白い。
○16 短夜を針かくかくと古時計  かくかくの方が時計らしい。
○35 前置きの長き話やビール注ぎ  乾杯前の長話。泡がなくなる。
○48 ちちははが音叉のやうに立つ夏野  意外な比喩が、面白い。

【 草野ぐり 選(ぐ) 】
(今月はお休みです。)

【 水口佳子 選(佳) 】
○04 えごの坂わつせと漕いで修道女  最近は電動式自転車で、高校生なども坂道を楽々のぼってくる。女学生はスカートの裾が捲れるのを気にもしない。掲句は「わつせ」と「修道女」のミスマッチが逆に本当っぽい。坂道に散った白いえごの花も目に見えるようだ。
○23 湯気上げて八十八夜の夕餉かな  「湯気上げて」というだけで美味しそうなホカホカご飯が目に浮かぶ。季語の力。
○29 包む葉に大樹の香り柏餅  端午の節句にいただく柏餅。柏の葉から大樹へ及ぶ思い。「大樹の香り」に少年の将来を思う親心が覗える。
○33 卯の花腐し映画の半ばより眠り  だらだら続く雨と眠くなる映画がどことなく結びつく。面白い取り合わせ。
○42 裏道や若葉に傘に雨が鳴り  中7、下5のリズムの良さ。傘は恐らく透明傘で、若葉に落ちた雨は弾けて肩や腕を濡らす。裏道でも明るい雨。

【 三泊みなと 選(三) 】
○12 ルート2を覚えし頃の夏の空 
○16 短夜を針かくかくと古時計 
○20 路地裏に地声の太きあつぱつぱ      
○29 包む葉に大樹の香り柏餅 
○49 知らぬ間に笑くぼは皺に花は葉に  お間にはミスプリントでしょうね

【 鋼つよし 選(鋼) 】
○16 短夜を針かくかくと古時計  古時計が築何年という家を想像させる。
○36 合言葉忘れてしまふ麦の秋  広々とした麦秋の景色が見える。
○44 瀬に渕に高き低きに夏燕  夏燕のせわしさがよく描かれている。
○49 知らぬお間に笑くぼは皺に花は葉に  「お」をとったほうが良い。皺が良い。
○57 鳥死して骨は残れり明易し  山道のや藪に分け入ると見ることがある。明易しが句を暗いものにしていない。
 以上お願いします。

【 小川春休 選(春) 】
○12 ルート2を覚えし頃の夏の空  ルートを習うのは中学だったか、高校に入ってすぐか。具体的には覚えていませんが、当時の気分のようなものはぼんやりと覚えている。そういうぼんやりとした記憶がこの句に実感をもたらしている。小川洋子の小説『博士の愛した数式』に出て来た少年のことも少し思い出しました。
○26 カラメルの鍋に爆ぜたり昭和の日  「爆ぜたり」ということは、もしかすると少々加熱しすぎかも知れませんね。実は私も先日プリン作りに挑戦(して失敗)した所だったので親近感。季語も良い。
○44 瀬に渕に高き低きに夏燕  一度に巣を巣立ったのか、沢山の夏燕が水辺を思うままに飛び回っている。上五中七の言葉の並びが歯切れが良く、燕の鋭い飛行が見えるだけでなく、周囲の水辺の風景までも自然と想像させるところが巧み。
○48 ちちははが音叉のやうに立つ夏野  「ちちはは」を「音叉」という物に喩えることで、どこか抽象画のような印象を感じさせる句になっている。日は高く、影も無く、音叉のように並んで立つ父と母の存在が、大きくも小さくも感じる。不思議な句。
○54 白めしにベーコンエッグ夏浅し  最初は何と言うこともない内容のような気もしたのですが、「白めし」という言い方が効いている。健康的な句。
 04 えごの坂わつせと漕いで修道女  押さずに漕いで自転車で坂を登って行く修道女。「わつせと」が力強くもユーモラス。面白い句です。
 05 窓からの眺めにも慣れ走り梅雨  今年はちょっと特殊ですが、例年であれば五月の連休明けぐらいが新しい職場にもやっと慣れてくる時期ですね。今年に限って言えば、自粛自粛で外出できず窓から外を眺めてばかりで…、という句。どちらとも読める。
 06 保温不可炊飯は出来街薄暑  ? 上五中七は炊飯器の機能の説明をしているだけのようですが、一句としてどういう意図で書かれているのかよく分かりませんでした。
 09 夏雲や切手の蝶の瑠璃美しき  私が子供の頃の切手は、印刷の色数も少なかったものですが、最近の切手は色彩も美しくなりました。単に蝶の美しさに惹かれたのか、それとも送る相手の好みを考えたか。その辺りは読者の想像に任されている部分でしょうね。採りたかった句。
 10 白南風の髪梳く指の白さかな  髪を梳いたのは風ではなく指だったということであれば、上五の助詞「の」は少し曖昧な印象。「に」の方が自然ではないかと感じる。
 11 桜冷ゆ潮見櫓の花田番屋  北海道には小樽、石狩、留萌などに十か所を超えるニシン番屋が残っているが、国の重文に指定されているのは旧花田家番屋のみとのこと。ただ、「潮見櫓の花田番屋」という表現には少し疑問が。「花田番屋の潮見櫓」と言わないと不自然(○「学校の下駄箱」×「下駄箱の学校」のように)。俳句の字数にも配慮は必要だが、意味もすんなり読めるように両立したい。
 15 ビール手にウーバーイーツ待ちにけり  地方にはまだそれほど浸透していませんが、都心部ではウーバーイーツもすっかりおなじみのようですね。「ビール手に」というところに、手馴れている感じが出ています。
 18 退屈で網戸張替やつて見る  やってみたらどうだったのか、意外と上手く行ったのか、ちょっとねじれてしまったとか、作業中のあれやこれやなど、もっと句にするべきポイントが他に沢山あるように感じる。「退屈で」で済ませてしまうのは少し横着ではないかと思う。
 19 葉桜の最終駅に降りにけり  日本語の問題として、普通は「最終駅」ではなく「終着駅」と言うのではありませんか。
 21 途切れたるウエーブ会議春の蠅  「ウエーブ(wave)」ではなく「ウェブ(web)」ではないですか。
 23 湯気上げて八十八夜の夕餉かな  あまり具体的なことは書かれていないのに美味しそうに感じるのは、季語の働きでしょうか。「八十八夜の夕餉」と言われて想像するのは、御馳走と言うほどにないにせよ、品数も多く、大人数で囲むような賑やかな食事風景。
 27 水切りの五段で沈み揚雲雀  水切りで五段、というのは充分凄いと思いますが、それをどういう表現にするかで作者の思いが出る。私なら「水切りの五段跳ねたり」か「弾むや」などと勢い良くしたい所だが、作者は「沈み」を選んだ。もしかすると、作者は五段ぐらいでは全然不満足で、「昔はもっと上手かったのになぁ」などと思いながら雲雀を見上げたのかも知れません。様々に想像を誘う句です。これも採りたかった句。
 29 包む葉に大樹の香り柏餅  スーパーなどの柏餅ではここまで香りはしないので、手作りのものかも知れませんね。いかにも美味しそう。
 30 布マスク知事は手縫いのオリジナル  時事俳句とでも言うのでしょうか。内容的には説明のみに終始してしまっていますが…。
 34 弁解の通じぬ方やジギタリス  鐘形の花がすらりと高く咲き登るジギタリス。見た目は美しいが毒のあるこの花に、「弁解の通じぬ方」と通い合うものを感じたか。
 37 白靴は遊び仕事は黒い靴  オンとオフをきっちり分ける。余裕のある大人の態度がそのまま一句になったような句で、なかなか面白い。
 38 絶交とや金魚玉なぞ見上げては  〈口論や金魚の水のまつたひら(如月真菜)〉と似たモチーフの句ですが、少し状況が分かりにくいようにも感じる。絶交する相手は今目の前にいるのか、それとも今は一人きりなのか。どうも後者のように感じるのですが、ちょっと曖昧。上五の「とや」、中七の「なぞ」、下五の「ては」、この手の言い回しも、使いようによっては効果もあるが、三つもいっぺんに使っては少しぼやけてしまう。
 43 若葉風マラソン道路マスクして  マスクも鬱陶しいですが、だいぶ慣れてきて、日常的な光景のように感じてきました。昨今の状況を思えば、マラソンが開催できただけでも儲けものかも知れません。
 46 芝桜山のうねりをうねり行く  芝桜が山のうねりに沿ってずっと咲いていたのか、「私」が山のうねりに沿ってうねりながら進んで行ったのか。「行く」は芝桜に対して使わなそうなので、後者と読むべきですかね。
 52 ベル押せば匂ふウィルス薄暑かな  ウイルスに匂いってあるのでしょうか。何のベルなのかもちょっとよく分かりませんでした。
 

 


次回の投句は、6月15日までに、3句お送り下さい・・・・・・投句はこちら

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