ハルヤスミ句会 第二百三十四回

2020年7月

《 句会報 》

01 梅花藻の宿場やバスを乗り継ぎて   木人(タ・一・ぐ)

02 百万本のひまはり百万分の一     佳子(ル・益・鋼)

03 廃屋の枝から枝へ老鶯は       つよし

04 濃厚なシチューに新じゃがごろごろと 順一(光・鋼)

05 星涼し森へと帰る一輪車       ルカ(雷・一・三)

06 凌霄花の明るき音や午後三時     時人

07 七年を冷し中華で別れけり      こげら(雷・時・順・ぐ・春)

08 明易の川辺に鹿とめぐりあふ     春休(奥・佳)

09 初蝦蛄や圧力鍋のしゅつしゅつしゅ  みなと

10 ごきぶりの夜の静寂をこわしけり   ひろ子

11 あつぱつぱ縄文人の宴めき      タロー(雷・ル・案・奥・益・ぐ・三)

12 炎天やしつかり着込む作業服     光太郎(木・一・佳・三)

13 冷えの講話の後に出てくる氷菓    つよし

14 うち立てし七夕竹も豪雨中      タロー

15 サングラスかけて見事に反社会    光太郎

16 曇り日の男混ぜない缶ビール     みなと

17 炎帝や表紙の朱き文庫本       雷太(順)

18 ビーサンの緒のすぽと抜け蟹の穴   こげら

19 苧殻火や往き交ふひとに会釈して   時人(タ・こ・高)

20 県境をこわごわ越える蝸牛      益太郎(奥・鋼)

21 解体の昭和のビルや大西日      木人(光・一・愛・益)

22 がらり戸の汐傷みして夜の秋     タロー(こ・時・高・佳・春)

23 梅雨晴間千円足りない事に気付く   順一(佳)

24 座敷牢出たし仏桑花を見たし     高弘(愛・益)

25 弱者ゐて優しい世になるラベンダー  案山子(三)

26 紫陽花の二藍増すや雨しとど     ひろ子

27 揚花火玉屋鍵屋も自粛中       益太郎

28 カルデラを遠まはりしてケルンかな  みなと

29 とりあえず枕詞の生ビール      ルカ(雷・木・光・案・順)

30 七千円残る財布に蝉の声       順一(益)

31 魚から魚出てくる夏至ゆふべ     佳子(こ・高)

32 全部降り終えた空ある夕端居     案山子(タ・ル・奥・順・春)

33 くず金魚と呼べぬ尾鰭となりにけり  ぐり(こ・案・佳)

34 夏蒲団携帯電話手離せず       高弘(光)

35 湯気どつと梅雨の晴れ間の粉吹き芋  ぐり(光・高)

36 梅雨最中自粛身に付くさぼり癖    益太郎(案・時・愛)

37 スーパーの袋や葱と白百合と     木人

38 夏の海新人類と呼ばれし日      ルカ(タ・案・高)

39 りんご飴に映る灯濡れし灯と思ふ   春休(ぐ)

40 ストローの先に解けたる氷かな    雷太(木・奥)

41 青葉騒マスク外せと唆す       佳子

42 体温と血圧測り梅酒かな       つよし(木・タ・愛)

43 はるばる往かむ冷房効かぬ車にて   春休(こ・鋼)

44 この滝に負のイオンとや疑似科学   こげら

45 飲んでから聞いて驚く蝮酒      光太郎(順・三)

46 夜店にて求めしままや水中花     時人(ぐ・佳)

47 片手には薔薇の花束赤き靴      雷太(木・鋼)

48 おもむろに黒出目金を掬ひたる    ぐり(ル・時・春)

49 蔕近く青きを残すトマトかな     高弘(ル)

50 「習志野」に隕石二片七月尽      ひろ子(雷・時)

51 香水や嘘と判ずる口の笑み      案山子(一・愛・春)    




【 李雷太 選(雷) 】
○05 星涼し森へと帰る一輪車  下五の一輪車が様々な一輪車(自転車とか運搬用のそれ、若しくは曲芸や子供たちが乗る一輪車等々)を想像させる。鑑賞者は曲芸などで使う一輪車を想定した。すると幻想的な景がそこに広がる。季語がその幻想的世界をさらに広げる。
○07 七年を冷し中華で別れけり  句意としては一緒に生活した七年目に別れたと言う句であろう。この句を更に想像させるのは中七の「冷し中華」である。一つの物語とすれば別れると二人で相談したそのけじめとして一緒に「冷し中華」を食して別れたと言う物語。他の解釈をすれば別れた原因は冷し中華だったと言う物語がその二である。後者の解釈をさせるのは中七の「で」だろう。段々と鑑賞するにつれこの「で」が気になった。
○11 あつぱつぱ縄文人の宴めき  滑稽な中に季語の位置を明確にしている。中七から下五の発見が作者の手柄であろう。
○29 とりあえず枕詞の生ビール  何故かカンパイはビール。それが生ビールと言うのが今の季感。今年はここ最近句会の楽しみである後の反省会はできていない。オンライン句会でオンライン飲み会は挑戦しては見たが、どことなくビールの味も湿っぽい。枕詞とは言い得て妙。
○50 「習志野」に隕石二片七月尽  鑑賞者が先日の隕石事件を知ったのはニュースでのこと。関東地方にお住まいの方には肉眼ではっきりと見えたことであろう。なんでもその石は見つかり観光資源になるとか、ならないとか。詠み手はこの景を身近に経験されたのであろう。

【 大越マンネ 選(マ) 】
(今回はお休みです。)

【 木下木人 選(木) 】
○12 炎天やしつかり着込む作業服
○29 とりあえず枕詞の生ビール  
○40 ストローの先に解けたる氷かな
○42 体温と血圧測り梅酒かな
○47 片手には薔薇の花束赤き靴

【 槇 明治 選(明) 】
(今回はお休みです。)

【 小林タロー 選(タ) 】
○01 梅花藻の宿場やバスを乗り継ぎて  清流に咲く花を求めて
○19 苧殻火や往き交ふひとに会釈して  今は焚く人も少なくなりました
○32 全部降り終えた空ある夕端居  全部言ってしまった感はあるが、この句はそこがいいと思いました。
○38 夏の海新人類と呼ばれし日  「新」人類も40年前だ、海はいろいろなものを生み出す。
○42 体温と血圧測り梅酒かな  梅酒飲むのもおお仕事です。

【 こげら 選(こ) 】
○19 苧殻火や往き交ふひとに会釈して  煙のにおいが感じられるよう。雰囲気があると思います。
○22 がらり戸の汐傷みして夜の秋  海の近くに住んでいるとこういうことがあるのでしょうね。
○31 魚から魚出てくる夏至ゆふべ  海の中も弱肉強食。びっくり、でもなんだか得した気分。
○33 くず金魚と呼べぬ尾鰭となりにけり  こんなに大きくなるなんて。
○43 はるばる往かむ冷房効かぬ車にて  それでも旅は楽し。
 採ろうか迷った句、
 01 梅花藻の宿場やバスを乗り継ぎて  はるばる来た甲斐があったでしょうね。
 39 りんご飴に映る灯濡れし灯と思ふ  「濡れし灯」という比喩がとてもユニーク。なるほど言われてみればそうなのかも。

【 森本光太郎 選(光) 】
○04 濃厚なシチューに新じゃがごろごろと  美味しそうなシチューです。
○21 解体の昭和のビルや大西日  解体されても、記憶は残ります。
○29 とりあえず枕詞の生ビール  ともかくも生ビールからです。
○34 夏蒲団携帯電話手離せず  ゆっくり眠ることも出来ません。
○35 湯気どつと梅雨の晴れ間の粉吹き芋  元気が良くて美味しそうな芋です。

【 ルカ 選(ル) 】
○02 百万本のひまはり百万分の一  
○11 あつぱつぱ縄文人の宴めき  
○32 全部降り終えた空ある夕端居  
○48 おもむろに黒出目金を掬ひたる  
○49 蔕近く青きを残すトマトかな 

【 石黒案山子 選(案) 】
○11 あつぱつぱ縄文人の宴めき
○29 とりあえず枕詞の生ビール
○33 くず金魚と呼べぬ尾鰭となりにけり
○36 梅雨最中自粛身に付くさぼり癖
○38 夏の海新人類と呼ばれし日

【 一斗 選(一) 】
○01 梅花藻の宿場やバスを乗り継ぎて
○05 星涼し森へと帰る一輪車
○12 炎天やしつかり着込む作業服
○21 解体の昭和のビルや大西日
○51 香水や嘘と判ずる口の笑み

【 中村時人 選(時) 】
○07 七年を冷やし中華で別れけり
○22 がらり戸の汐傷みして夜の秋
○36 梅雨最中自粛身に付くさぼり癖
○48 おもむろに黒出目金を掬ひたる
○50 「習志野」に隕石二片七月尽
 他に取りたかった句,気になった句
 05 星涼し森へと帰る一輪車
 12 炎天やしつかり着込む作業服
 17 炎帝や表紙の朱き文庫本
 26 紫陽花の二藍増すや雨しとど
 49 蔕近く青きを残すトマトかな
 以上宜しくお願いいたします。

【 土曜第九 選(第) 】
(今回はお休みです。)

【 奥寺ひろ子 選(奥) 】
○08 明易の川辺に鹿とめぐりあふ
○11 あっぱっぱ縄文人の宴めき
○20 県境をこわごわ越える蝸牛
○32 全部降り終えた空ある夕端居
○40 ストローの先に解けたる氷かな
 よろしくおねがいします。

【 滝ノ川愛 選(愛) 】
○21 解体の昭和のビルや大西日  昭和も遠くなりました。大西日の季語が効いています。
○24 座敷牢出たし仏桑花を見たし  ハイビスカスの花をみたら、気持ちも晴れます。
○36 梅雨最中自粛身に付くさぼり癖  実感!私も正にそうなりました。
○42 体温と血圧測り梅酒かな  気にしながらもお酒が飲みたいのですね。“梅酒”が可愛い!
○51 香水や嘘と判ずる口の笑み  本当に分かるものです。
以上です。

【 森 高弘 選(高) 】
○19 苧殻火や往き交ふひとに会釈して  今や苧殻を焚く家も珍しいからこんな状況もアリだろう。
○22 がらり戸の汐傷みして夜の秋  海風を真正面にうける浜辺の家なのだろう。熱帯夜は続く。
○31 魚から魚出てくる夏至ゆふべ  大きな魚の口か腹から出てきた小魚のことか。気持ち悪さが目を引いた。
○35 湯気どつと梅雨の晴れ間の粉吹き芋  鬱屈した時期を打ち破る天候と行動が響く。
○38 夏の海新人類と呼ばれし日  つかみどころのない揶揄的な世代くくりの言葉と回顧の思いとが上五でリンクする。
 02 百万本のひまはり百万分の一  「百人の生徒がいれば百本のガラスの瓶の硫酸ソーダ 田中章義」を思い出す。韻律を考えれば上五の「本」は要らない。
 10 ごきぶりの夜の静寂をこわしけり  ごきぶりは自ら騒ぎを起こさない。上五の助詞次第で大きく状況が変わる。
 17 炎帝や表紙の朱き文庫本  色次第で受け取られ方が変わってくる。下五に色を持っていきたい。
 20 県境をこわごわ越える蝸牛  のろさを示す言葉に蝸牛では捻りがないような。
 29 とりあえず枕詞の生ビール  これだと生ビールが枕詞と読めるから字余りでも上五に助詞が欲しい。
 39 りんご飴に映る灯濡れし灯と思ふ  「思ふ」が不要。りんご飴で季語というのは難しいから夏祭を表す季語が欲しい。
 40 ストローの先に解けたる氷かな  無季と捉えるべきか俳句に乗せるには足りないと判断すべきか悩むところ。
 45 飲んでから聞いて驚く蝮酒  動詞を一つなくせば締まる。

【 石川順一 選(順) 】
○07 七年を冷し中華で別れけり  季語は「冷し中華」。別れの後の余韻が含意され居てるのかもしれません。
○17 炎帝や表紙の朱き文庫本  季語は「炎帝」。新潮社の島崎藤村の文庫本を思い出しました。
○29 とりあえず枕詞の生ビール  季語は「ビール」。「枕詞」が強烈ですね。飲み慣れて居るのかもしれません。
○32 全部降り終えた空ある夕端居  季語は「夕端居」。降り終えた空は始まりを告げていたのかもしれません。
○45 飲んでから聞いて驚く蝮酒  季語は「蝮」。知らずに飲んでしまったのかと思い、却って効能があったのでは?。

【 川崎益太郎 選(益) 】
○02 百万本のひまはり百万分の一  多くなればなるほど、一つの価値は下がる。言われて納得の句。
○11 あつぱつぱ縄文人の宴めき  土偶を見ると、縄文人の大らかさが見える。季語が上手い。
○21 解体の昭和のビルや大西日  最近ビルの解体をよく目にする。季語が黄泉を連想させて上手い。自分もそろそかとも思う。
○24 座敷牢出たし仏桑花を見たし  座敷牢と仏桑花の取り合わせと、出たし・見たしのリフレインが、上手い。
○30 七千円残る財布に蝉の声  蝉の寿命は7日と言われれいる。七千円が、微妙に上手い。

【 草野ぐり 選(ぐ) 】
○01 梅花藻の宿屋やバスを乗り継ぎて  乗り継ぎてに、やっと辿り着いた喜びが。一度見てみたい植物です。
○07 七年を冷し中華で別れけり  7年が肝。二人の関係が冷し中華に凝縮してる。短編小説のようだ。
○11 あつぱつぱ縄文人の宴めき  昭和の風景か。逞しくあっけらかんとしたおばさん達の井戸端会議かな。
○39 りんご飴に映る灯濡れし灯と思ふ  りんご飴の人工的な赤い艶々に映る灯は確かに濡れている。と思ふ、あえて言ったのが効いているかどうか。
○46 夜店にて求めしままや水中花  夜店衝動買いあるある、ですよね。ビニールに包まれたぺちゃんこの水中花をどうしようかと。

【 水口佳子 選(佳) 】
○08 明易の川辺に鹿とめぐりあふ  実景と捉えても虚として捉えても良いかと。明易の静かな川辺に立つ鹿は美しい。「明易」は明けやすい夜を惜しむ季語。後朝の歌として古来詠まれてきた・・とある。そういうことを踏まえて読むといろいろ深読みもできる句。
○12 炎天やしつかり着込む作業服  炎天なのにさぞ暑いだろう。「しつかり着込む」に作業前の緊張のようなものも伺える。
○22 がらり戸の汐傷みして夜の秋  少し涼しさを感じる「夜の秋」、がらり戸からの風が心地よい。「汐傷み」が夏の間の様々な出来事を物語る。
○33 くず金魚と呼べぬ尾鰭となりにけり  金魚掬いで掬った金魚か。育てているうちに尾鰭の美しい金魚に成長した。「くず金魚」などと呼ばせないわ・・と金魚が言ったか? 「なりにけり」に作者の驚きが。本当は仕方なく飼っていたのかもしれない。
○46 夜店にて求めしままや水中花  珍しくて買ってはみたものの、開封するのももったいないような・・という気分。わが家にも未開封の水中花があるが。最近の夜店にもあるのだろうか。私はネットで購入、意外と高かった。

【 三泊みなと 選(三) 】
○05 星涼し森へと帰る一輪車 
○11 あつぱつぱ縄文人の宴めき 
○12 炎天やしつかり着込む作業服 
○25 弱者ゐて優しい世になるラベンダー  
○45 飲んでから聞いて驚く蝮酒   

【 鋼つよし 選(鋼) 】
○02 百万本のひまはり百万分の一  この一本が百万本の一という見方も素敵。
○04 濃厚なシチューに新じゃがごろごろと  新じゃがごろごろが良い。
○20 県境をこわごわ越える蝸牛  絵本として読むと面白い。
○43 はるばる往かむ冷房効かぬ車にて  冷房が効かぬとあるから故障と読んだ
○47 片手には薔薇の花束赤き靴  赤い靴とはドラマです。

【 小川春休 選(春) 】
○07 七年を冷し中華で別れけり  七年というと、どんなに長生きしたとしても、人生の中で決して短くはない期間。そんな相手との別れの食事が「冷し中華」であった、と。冷し中華の味から想像されるような、さっぱりした別れだったのか。それともこれから毎年、「冷し中華始めました」という貼り紙を見る度に、別れた相手のことを思い出すのか。様々な物語が想像される句。
○22 がらり戸の汐傷みして夜の秋  今年はコロナや豪雨と災害続きですが、暑さが極端な猛暑ではないのが唯一の救い。今年もどうにかこうにか夏を越せそうだという安堵感のようなものを感じる句です。
○32 全部降り終えた空ある夕端居  あんなに降り続いていたのが嘘のように晴れて…、という夕空が目に浮かぶ。このたびの豪雨災害のことも、句の背景にはあったのかも知れない。
○48 おもむろに黒出目金を掬ひたる  ボリューム感のある黒出目金は、金魚掬いではかなりの難易度でしょう。作者は「おもむろに」と表現していますがこの御仁、最初から小さい金魚には目もくれず、黒出目金の隙を虎視眈々と窺い続けていたのかも知れません。
○51 香水や嘘と判ずる口の笑み  ちょっと表現の仕方がクラシカルな所が気にかかったのですが、なかなかに表情豊かな句です。単に「笑み」というだけではなくて、「口」とポイントを絞ったことで、表情や雰囲気がしっかり出ています。
 04 濃厚なシチューに新じゃがごろごろと  美味しそうではありますが、句としては説明の域を出ていないように思います。
 10 ごきぶりの夜の静寂をこわしけり  G自体は「かさこそ」程度の音しか発生させませんので、「夜の静寂をこわしけり」は少々大袈裟のように感じます。
 11 あつぱつぱ縄文人の宴めき  呑めや歌えや、という感じでしょうか。見立てが面白い。
 12 炎天やしつかり着込む作業服  作業服は「何かあったときに身を守ってくれる防護服」でもある訳で、どんなに暑くてもしっかり着ないといけないんですよね。危険な作業に従事する場合などは特に。
 13 冷えの講話の後に出てくる氷菓  句またがりがきつ過ぎて内容がすっと入ってきません。もう少し語順等、整理できそうな気がします。「講話の後の氷菓」で充分意味は通じるので、「出てくる」も削れそうです。
 16 曇り日の男混ぜない缶ビール  「男を混ぜない(つまり女だけの会)」なのか、「男がビールを混ぜずに飲む」のか。たぶん作者の意図は前者なのだろうなとは思いつつ、表現として不十分と感じる。「曇り日の」という上五も今一つ効果的ではない。書くべきポイント、書きたいポイントをよく整理して、それがきちんと伝わるように推敲してみてほしい。
 17 炎帝や表紙の朱き文庫本  「炎帝」で「朱」はツキスギというか、作者の意図が見え過ぎる感じがします。
 18 ビーサンの緒のすぽと抜け蟹の穴  個人的な好みかも知れませんが、下五を上五に持って来て〈蟹の穴ビーサンの緒のすぽと抜け〉としたい。上五の季語で、最初に周囲がどういう場所かをしっかり提示して、下五に一番面白い所(オチ)を持って来て終わる。
 19 苧殻火や往き交ふひとに会釈して  路地での人々の交流の様子が、昭和を思い起こさせる。
 23 梅雨晴間千円足りない事に気付く  「30 七千円」の句もそうなのですが、「千円」という金額が具体的なようであまり具体的でない。何を買おうとしたのかとか、もっとその場の状況が分かる要素を詠み込みたい。
 24 座敷牢出たし仏桑花を見たし  座敷牢とはまた古めかしい…。横溝正史の世界ですね。
 25 弱者ゐて優しい世になるラベンダー  そうあってほしい所ですが…。実際には、田舎ではコロナ感染者やその家族は実質村八分にされたり、難病に苦しむ高齢者を「安楽死」などと称して殺害する元官僚なども現れて、一筋縄では行きそうにありません。
 29 とりあえず枕詞の生ビール  「生ビールを注文するときに枕詞のように『とりあえず』と言ってから注文する」という意図で詠まれた句だとは分かりますが、そのようにすんなり読み取れる表現になっていません(助詞「の」一文字でつなげている訳ですが、「の」は結構どうとでも読めてしまう所があり、作者が文脈の構成をしっかりする必要がある)。〈「とりあえず」を枕詞に生ビール〉とでもするべきかと思います。
 30 七千円残る財布に蝉の声  旅先で七千円しか無ければ心もとないが、近所での買物なら充分な額(買う物にもよるが…)。そういう意味では、「七千円」は具体的なようでそうでもない。
 31 魚から魚出てくる夏至ゆふべ  釣られる前に食べていた魚が、魚の中から出て来る。実際にあることだが、季語の働きや表現の仕方のおかげで、少し幻想的な雰囲気も出ている。採りたかった句。
 35 湯気どつと梅雨の晴れ間の粉吹き芋  梅雨というだけでも気が滅入るのに、今年はそれに加えてコロナウイルス蔓延も重なっています。くさくさした気分を晴らすかのような、勢いの良い湯気。「どつと」が良いですね。採りたかった句。
 36 梅雨最中自粛身に付くさぼり癖  内容的にはよく分かる、共感もする句なのですが、説明句になってしまっています。
 38 夏の海新人類と呼ばれし日  「新人類と呼ばれ」たのは、私よりも上の世代のことでしたので、今はけっこう良い歳になってるでしょうね。今となってはもう昔話ですね…。
 42 体温と血圧測り梅酒かな  健康のことを気にかけながらも、それでも酒は呑む、と。「梅酒」という所が少し微笑ましいです。
 46 夜店にて求めしままや水中花  祭の時のテンションで買ってしまって、冷静になると…、という感じ。よく分かります。
 50 「習志野」に隕石二片七月尽  隕石が落下したのは七月二日でしたので、「七月尽」という季語が微妙にタイミングが外れている感じがします。それと、「習志野」とかっこ付きで表記した意図がよく分かりません。

 

 


次回の投句は、8月15日までに、3句お送り下さい・・・・・・投句はこちら(夏雲システム)

back
back.
top
top.