ハルヤスミ句会 第三十八回

2003年11月

《 句会報 》

01 渡し場で一番揺れて秋の舟    どんぐり

02 末枯によく乾きたる鼻のなか   春休(つ・む)

03 ぽっくりになほ引き摺りて千歳飴 まどひ

04 日の差さぬ板塀通り手をつなぎ  九鈴

05 野間馬の頸添ひ立てり初時雨   じゅん(九・つ・ま・春)
 ※野間馬(のまうま)……愛媛県今治市野間に生存する日本最小の在来馬
06 目に入るや避けて通れず赤い羽根 つよし

07 霜月の堅焼きそばをほごしけり  まどひ(◎九・じ・春)

08 枯芝に古着古本商える      むかご(ど・ま)

09 神の留守逆さに立ちてマヨネーズ 春休(ま)

10 冬蝉のそこだけ鳴けり楡大樹   じゅん(つ)

11 荷役待つ車の列や冬の波     つよし

12 土竜取り入荷勤労感謝の日    むかご(じ)

13 寄鍋やしづくびつしり蓋の裏   春休(む)

14 ぶつくさと言ひつる人とおでん鍋 まどひ(ど)

15 感謝祭廻し太鼓に跳ね太鼓    九鈴

16 銀杏散る下に靴紐なおすかな   どんぐり

17 焚火して燃え焦がるもの土の上  まどひ(む)

18 短日のボール遊びの続きをり   じゅん

19 席立つや立つやで肩へ冬の蝿   つよし

20 立冬の工場より人湧き出せる   むかご(九・ど・春)

21 磨かれて体育館の床冷える    九鈴

22 特急ニ輌普通一輌石蕗の花    どんぐり(つ・じ)

23 野良犬や霙るる夜は尾を抱き   春休



【 戸田九鈴 選 】
○05 野間馬の  がっちりした野生馬の群が寒さに向かう風景の中に浮かびます。
◎07 霜月の  少し冷たい麺を解す、何でもないけれどいい感じです。
○20 立冬の  日暮は早い。みな家路を急いでいるのだろう。

【 鋼つよし 選 】
○2 末枯れに
○5 野間馬の  馬と初時雨の取り合わせ、江戸俳諧をおもわせる。
○10 冬蝉の  俳句では、大・・・を使いがちだが楡の場合は大木を想像するからいらないかとも思う。
○22 特急二輌  地方路線なのだろう。石蕗の花がよい。
 13 寄せ鍋の句・・句材は面白いのだが、正直すぎと思う。

【 じゅん 選 】
○07 霜月の  堅焼きそばと霜月は何の関係もないと思うが、こう詠まれると堅焼きそばは霜月に似合っていると思える。「ほごす」は「ほぐす」。十二月に堅い焼きそばをほぐしているというだけのことだが、いろんなことを言いたがる私には見習いたい一句である。「焼きそば」は「焼そば」ですね。またそのほうが字ずらも締るでしょう。
○12 土竜取り  どこかのホームセンターか、肥料などを取り扱う種苗屋かの入口に「土竜取りが入荷しました」の張り紙。これを見た作者が、俳諧味を感じて勤労感謝の日との取り合わせを思いついた。「土竜取り」はおそらく簡便な器具だろうが、これがあればお父さんの余分な仕事も省けるというもの。「取り」は名詞なので送り仮名は不要。字は「捕」としたい。
○22 特急ニ輌  私の住む所も似たり寄ったりの田舎町なので、状景がよく伝わります。この句は南方の海べりを走る列車であろうか。ならば車窓には明るい日に照らされた冬の海が広がる。便は一時間に一本ほどしかなく、乗客もわずかである。列車が過ぎた土手には石蕗の花が風に揺れ、南国ののどかな冬の一景が浮かんでくる。
03 ぽっくりに  七五三の女の子。ぽつくりを履かせてもらったはいいが、今にも転びそうな足取り。手にはおじいちゃんに買ってもらった千歳飴。でも何しろまだ小さいので、細長い袋の端は地面を摺っている。何とも微笑ましい七五三の光景である。
01 渡し場で  「一番揺れて」が観念にとれました。 
02 末枯に  「鼻のなか」は詩的でなかったですね。
04 日の差さぬ  無季ですね。下五に季語の斡旋でしょうが、何を持ってくるか・・。
06 目に入るや  「通れず」の用法は五段活用でなく、可能動詞として下ニ段で使われているのでしょうか。この用法について文法に詳しい方がいらっしゃいましたら教えて下さい。「通れず」は「通れぬ」と下五の「赤い羽根」に繋げなければ三句切れになり、句の焦点が分散してしまいます。また「赤い羽根」を「避けて通れず」といったのでは常識的で、面白くありませんね。「目に入るや」も俳句は目に入ったものを詠むものですから、特別な場合を除いて不要な叙述と思いますが、いかがでしょうか。いろいろ書きましてすみません。「赤い羽根」では次のような句があります。
 若ければ胸高く挿す愛の羽根 池田秀水
 赤い羽根四五歩あゆみてつけ直す 肥塚艶子
08 枯芝に  「枯芝に」の「に」で説明になってしまいました。「や」だと一句が締まります。「商ふ」はハ行の四段活用ですので、「商へる」ですね。ただ「る」は完了存続の助動詞「り」の連体形ですので、この形だと「商へり」と終止形で終らせるか、「枯芝や」と切るならば、二句切れを避けるために「る」で終わるのも良いかと思います。句としては「枯」と「古」のイメージが重なっていると思いますが。
09 神の留守  三句切れですね。上下を入れ替えればいいでしょうか。 マヨネーズ逆さに立ちて神の留守
11 荷役待つ  荷役作業が行われている荒涼たる港湾風景が見えてきます。
13 寄鍋や  「蓋の裏」で説明になってしまいました。
14 ぶつくさと  「人と」で散文になってしまいました。「人や」で、句として昇華すると思いますが。 
15 感謝祭  感謝祭の説明になってしまいました。
16 銀杏散る  「靴紐をなおす」行為に特に新しさは感じませんでした。 
17 焚火して  「焚火して」としたことで、焚火の説明になってしまいました。惜しい作品だと思います。
19 席立つや  「立つやで肩へ」の景がわかりませんでした。
20 立冬の  季感の捉え方はうまいと思いましたが、よくある句かと思い、頂きませんでした。
21 磨かれて  景がよく見える一句。近々町内バレーボール大会があり、係員が体育館の床を磨いたばかり。モップでよく磨かれた床は、電灯を消しても外の薄明かりに黒光りする。外は寂々たる星夜。厳しい冷え込みに体育館の床も漆黒に沈んでいる。「冷える」は「冷ゆ」の連体形止め「冷ゆる」でしょうか。
23 野良犬や  「野良犬」「霙るる夜」「尾を抱き」で、寂し過ぎました。

【 松尾むかご 選 】
○02 末枯れに  最初、鼻の穴が妥当かなと思ったが枯れきった景に鼻の中を、持ってくると読み手は、トンネルの中のように鼻にはいれる
○13 寄鍋に  蓋をとった、瞬間の、感動のすべてが蓋の裏で、現されていてすごい。
○17 焚火して  土の上と止めたのが、強く、やがては、すべて、大地に帰るのだと、教えられる。

【 舟橋まどひ 選 】

○5 は小さいものの可愛させつなさ。いつも俯いている顔、細い脛。ダービー馬には時雨は似合わない。添ひ立てり〜 がしみじみ・・・
○8 私がよく見るのは表参道で外人さんがアスハルトにいろいろ並べてるやつ。こんな本格的な青空市も見てみたい。
○9 はとぼけた静謐を買います。

【 渋川どんぐり 選 】

○08枯芝に  枯芝、古着、古本、草臥れたもの三連発と思いきや、「商える」の一言でどんでん返しの技。たくましい売り手の登場。古いほど、活きがいい??
○14ぶつくさと  ブツブツ言う人。ブツブツとおでん鍋。似て非なるものなり・・・。静かな夜。わたしゃ、ひたすら、おでん食う。むふふ、シアワセ。
○20立冬の  小春日和の工場の昼休みであろうか。作者は、小高い丘の上??人湧き出せるなんていう所が、木の上の小動物の独り言みたいで、いただきました。
この他に、とりたかった句。
21磨かれて  確かに冬の体育館はこの句の通り。大勢の人が居て、運動している間は、まだいいけど、磨かれたら、冷えは増すばかり。
23野良犬や  霙である。雨に濡れて、雪に濡れて、冷たいんである。山行でびしょ濡れになり、ヤッケの下、首に巻いたタオル一本の暖かさが有り難いことがある。犬の尾は暖かいであろうか。

【 小川春休 選 】

○05 野間馬の  最小とは、どのくらい小さいのでしょうか。一度見てみたいな。雰囲気のある句、上手いです。
○07 霜月の  これは「霜月」なればこそ。「堅焼きそば」のあたたかさがありがたいのです。余計なことを言わないシンプルな句の強さがあります。
○20 立冬の  あくまで「人」を物のように捉える書き方、立冬の肌寒い感じに良く合っています。「工場」という舞台設定も絶妙。
01 渡し場で  「渡し場で」とは、岸から離れるとき? それとも岸に着くとき? そこがよくわかりませんでした。
03 ぽっくりに  「なほ」が曖昧のような。
04 日の差さぬ  ? 無季ですか?
06 目に入るや  気持ちは分かるのですが、理が表に出すぎて、川柳っぽくなっているようです。
08 枯芝に  3句選からは外しましたが、雰囲気があって、好きな句です。
14 ぶつくさと  「言ひつる」より「言ひをる」の方が、今言っている感じが出ると思いますが、いかがでしょうか。
15 感謝祭  「祭」だから「太鼓」となると、当たり前だしツキスギです。「廻し太鼓に跳ね太鼓」だけで祭りの雰囲気は伝わるので、上五はもっと別の季語を持ってきた方が良さそうです。
19 席立つや  冬の蝿がどのような動きをしているのか、読み取れませんでした。
21 磨かれて  景としては良いと思うのですが、言い回しが散文的なようです。切れ・語順など工夫してみては?


来月の投句は、12月15日までに、3句お送り下さい・・・・・・投句はこちら

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