ハルヤスミ句会 第三十九回

2003年12月

《 句会報 》

01 三人の従兄弟それぞれ林檎来る  つよし

02 雪嶺や軽トラックは菜を積みて  じゅん(む・ど)

03 山裾に棄てられしバスしずり雪  どんぐり(春)

04 豚まんを割るや湯気出て汁が出て 春休(じ)

05 手袋を脱ぐ間や蕎麦湯置かれたる むかご(つ・じ・ま・ど)

06 手のひらで茶碗を包む冬座敷   まどひ

07 短日や痴呆がテーマの映画観る  つよし(春)

08 葉のかたち枝のかたちにみぞれつむ 春休(ま)

09 つむじより湯気一本や冬帽子   どんぐり(じ)

10 銀色に地震感知機寒桜      むかご

11 明け方の湯婆の波なぞりけり   まどひ

12 手袋を脱ぎつ近づく宣教師    じゅん(む)

13 応へなく裏へ廻れば花八つ手   まどひ(春)

14 都会ちふ喫茶店から冬田道    どんぐり(つ)

15 狐火の飛ぶや住宅展示場     春休

16 寄鍋の奉行長箸つかひけり    むかご

17 枯れ様に蘆(あし)と葦(よし)との見分け知る つよし(ま)

18 五六人屋根に働く師走かな    じゅん(つ・む)

19 中吊りを差し替へてゆく冬帽子  まどひ(ど)

20 さぼてんの痩せ衰へし年の暮   春休



【 鋼つよし 選 】
○5 手袋を  閑散時に入るとあります。水ではなく蕎麦湯がいいんだろう。
○14 都会てふ  舞台の背景にあるような景でなかなか良い。
○18 五六人 一日この師走、屋根にいるのは大変だろうが、見上げている人の感慨で職人さんはそうでもないかもしれない。
*3 バスの句・・・類景は当地でも見かけるが、俳句にまで仕立てるのは力の要る技で、高度な部に入ると思う。
*6 茶碗の句・・・手のひらで茶碗を包むとは茶会の仕草をいうのか 冬座敷とのつながりがよく分からない。句材は良いと思うが惜しい。

【 じゅん 選 】
○04 豚まんを  先月の春休さんの句「寄鍋やしづくびつしり蓋の裏」を思い出しました。私は『「蓋の裏」で説明になってしまいました。』と書きましたが、むかごさんは『蓋をとった、瞬間の、感動のすべてが蓋の裏で、現されていてすごい。』と書かれ、「なるほど、そういう鑑賞も出来るのか」と素直に思いました。ということで今回は(別に春休さんの句と決めつけているわけではありませんが)「湯気出て汁が出て」で豚まんを割った瞬間の様子をうまく捉えていると思いました。 
○05 手袋を  蕎麦湯は蕎麦の専門店に行けば年中出されるが歳時記では冬の季語。季重なりではあるが句の眼目は、席についてすぐ蕎麦湯が出されたというところでしょう。「今日は一段と冷えますね」などと言いながら、素早く出された蕎麦湯に、庵主の心遣いと雪に囲まれた山里の景色が見えてきます。
○09 つむじより  毛糸の帽子でしょうか、網目の天辺から一筋の湯気が立っている。冬未明、岸壁で荷揚げする漁師の景か、冬季練習のスポーツ選手の景か・・。描写にキレがあり、うまい。
以上3句です。
今月も自分の勉強にと思い、各句の感想を書かせていただきます。失礼の段、ご容赦下さい。 
03 山裾に  「しずり」は「しづり」で漢字では「垂り・垂」と書く。「しづり雪」とは木の枝から落ちる雪のこと。山裾に打棄てられたバスは何年も経って錆び朽ちている。その屋根に「しずり雪」が落ちている…という景でしょう。この句は「山裾に棄てられしバス」までは平凡ですが、「しずり雪」の斡旋で、周りの枯木、山の静けさまでも見えてきました。「つきすぎ」「俳句的情趣」の句ではないかと何度も読み直しましたが、「しずり雪」で救われたと思います。  
06 手のひらで  こういうさりげない句は、見落としやすいが味わいある句です。最初「冬座敷」で景が広がらず素通りしたのですが、二度三度読むうちにじわじはと味が出てきたのでした。   
01 三人の  「 それぞれ林檎来る」がわかりませんでした。「林檎来る」とはどんな状況なのか、宅配か、従兄弟がそれぞれ手に持って来るのか・・そのあたり。
07 短日や  季語と描写が響き合いませんでした。
08 葉のかたち  よく目にする描写でした。
10 銀色に  銀色に光る地震感知機のひんやり感と「か音」の硬質感が響き合っていますが、寒桜までだとつい知を感じてしまって…。素直に読めなくてすみません。
11 明け方の  「湯婆(ゆたんぽ)」の波を詠むのは珍しいですね。しかし「明け方・なぞりけり」に隠された作者の心のありどころが今一つ理解できませんでした。
13 応へなく  描写が説明になってしまいました。
14 都会ちふ  「都会」と「冬田道」を合わせたのはわかりますが、そこに知が働いたのが見えました。「から」も説明になってしまいました。
15 狐火の  「狐火」と住宅展示場との関わりがわかりませんでした。
16 寄鍋の  鍋奉行を俳句にするには難しいでしょう。
17 枯れ様に  葦は枯れ方に差異が出るのですか。  
19 中吊りを  「中吊り」は電車やバスなどの天井に吊るされた広告のこと。あの広告の差し替えは鉄道会社の人がするのですね。その手際のよさに作者は冬を実感したのでしょう。表記ですが「中吊り」は「中吊」、「差し替へて」は「差替へて」でしょう。
20 さぼてんの  「さぼてん」は「仙人掌」と書き、夏の季語。夏には勢いのあったものが冬に枯れたと言うのは平凡でした。

【 松尾むかご 選 】
○02 雪嶺や  遠くに白い山、トラックには青々とした菜、いかにも、冬
○12 手袋を  脱ぎつ近づくで、宣教師が、くっきり、浮かび上がる
○18 五六人  屋根に働く人達には、師走の町どう見えるんでしょうね、上も下も忙しない師走。

【 舟橋まどひ 選 】
○05 手袋を  寒くてすぐに飲みたいんだけど、という急ぐ様がありあり。蕎麦湯が流石です。
○08 葉のかたち  私は俳句を殆んど知らないのでなんですが、過去にこの様な句がないとしたら、凄い句だと思います。みぞれの危うさ。
(特選)17 枯れ様に  子育ても終わる頃になって、こうすればよかったと解かる。人生も終焉に近づく頃こう生きればよかったんだということが解かるのでしよう。真っ只中の時は自分が蘆だか葦だかも解からない。

【 渋川どんぐり 選 】
○02雪嶺や  冬青空に白い峰。山麓の高原道路。雪の村でとれた菜は何処へ行くんだろう。
○05手袋を  外は寒いんだろうなあ。食後の蕎麦湯も良いけど、さっと出てきた蕎麦湯がうれしい。
○19中吊りを  差し替えの作業はきっと職人芸みたいに手際がいいに違いない。都市に働く人の冬帽子だ。
この他に印象的だった句
15狐火の  ひえーっ!!狐火って冬の季語なんだあ。家に人が入り、住宅街が大きくなって行くと、狐火ともサヨナラかな。

【 小川春休 選 】
○03 山裾に  ほんと、田舎に行くとバスが棄てられてますね。しずり雪も良い雰囲気です。
○07 短日や  中八で、しかも中下が散文的なんですが、それがかえって句の内容に合っているように感じました。「痴呆がテーマの映画観る」ってインパクトありますね。
○13 応へなく  ひっそりとした静けさをしかと感じとれます。季語もとても良く合っているように思いました。
01 三人の  言葉が詰まりすぎてる感じです。意味は何となく推察できるのですが、やはり「従兄弟より」とちゃんと言うべきだと思います。
02 雪嶺や  良い雰囲気だと思います。三句選でなければ採る句でした。
09 つむじより  「一本」というほど、湯気ははっきりくっきりと出ない気がするんですが…。
10 銀色に  地震感知機と寒桜はちょっと離れすぎの感ありです。
14 都会ちふ  「都会」と「田」との対比が眼目の句だと思うのですが、ちょっとその対比がはっきりしすぎのように感じました。
17 枯れ様に  内容は良いと思ったのですが、どうも言い方が散文的な気がして…。特に下五。例えば「枯れ様のまざと異なり蘆(あし)と葦(よし)」などとした方が引き締まった感じではないでしょうか。
18 五六人  「五六人屋根に働く」ということは、大きな屋敷なんでしょうね。寺や神社かな? 師走らしい雰囲気のある句。
19 中吊りを  一年中いつでも中吊りの差し替えはしてるんでしょうが、こう言われると何だか冬ならでは、と感じさせられますね。今回なかなか良い句が多かったです。


来月の投句は、1月15日までに、3句お送り下さい・・・・・・投句はこちら

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