ハルヤスミ句会 第五十四回

2005年4月

《 句会報 》

01 ゆさゆさと杉の大木春嵐     つよし(由)

02 春先の蚊柱なれば風に散る    春休

03 散る桜とどめおきたや春疾風   佐津子

04 不条理のまかりとおりて春怒涛  由宇

05 入院す春の炬燵をそのままに   まどひ(由・鋼・山・春)

06 山吹や裾はふごとく路地満る   佐津子

07 蟻生まれ社長の家に近づきぬ   つばな(佐・ま・◎春)

08 長々の昼のサイレン柿芽吹く   つよし(由・ま・春)

09 弥生野を白装束の神輿かな    どんぐり(山)

10 春祭鳩に従きゆく雀ども     春休

11 楽隊の通り行くなり桜葉に    つよし(山)

12 春祭輿に賽銭箱つづき      どんぐり

13 桜餅婆の手返しはいはいと    佐津子

14 突然の鐘に驚き夕桜       つばな

15 我またも異邦人なり春移動    由宇

16 爺春に「世界は模糊」と言い放つ 由宇

17 春泥をずぼずぼと来て帰りけり  まどひ

18 春驟雨携帯ラッシュの車中かな  由宇(鋼)

19 新参や言葉かければびくとして  まどひ

20 脇腹の寝癖してをり春の犬    春休(ま・ど)

21 送りやる酢文字あおぐも春祭   どんぐり

22 神田川けふの花びらゆきにけり  まどひ(佐・由・鋼・ど)

23 芍薬の芽に跳ね返る雨の粒    つばな(佐・ど)

24 背いつぱい伽羅蕗びんずめ出来上がり 佐津子

25 朧の夜濡れしおむつの重たきも  春休



【 梅原佐津子 選 】
○07 蟻生まれ  早くも蟻の行列を見た、蟻の行く先が、蟻の巣ではなく社長の家の方に近づいている愉快な着眼でした。
○22 神田川  花びらが神田川を今日流れて行く**の解釈で良いでしょうか?優雅な気持ちになります。
○23 芍薬の  芍薬の花は美しい、今芽が伸び雨の粒をはね返らす。美しい花は観賞用に,薬用に貴重な植物と聞いています。大切にしたいものです。

【 金子由宇 選 】
○01、ゆさゆさと  春嵐は、時に台風並みかと思えるほどです。特に杉は、倒れやすいから、ゆさゆさにその気懸かりを感じます。
○05、入院す  春炬燵のまま早く退院したいのか、あるいは片付ける心の余裕のなさなのか、入院時の心理状態がうかがえていいです。
○22、神田川  けふの花びらと詠まれたところが凄いなと思います。
○08、長々の  これもうららかで、春の間延びした昼下がりが伝わってきて捨てがたいです。

【 鋼つよし 選 】
○05 入院す  この入院はたいしたことがなさそう。春炬燵が深刻でない様子を表している。
○18 春驟雨  「携帯」だけでそろそろ辞書の三番目かに『携帯電話の略称』と出そうです。春驟雨が良い。
○22 神田川  神田川は歌枕、俳枕といって良いのだろうが、「けふ」で戴いた。

【 舟まどひ 選 】
○07 蟻生まれ  やはりそちらの方へいきたいんでしょうね。そう思って見ていると、益々ぞろぞろとそちらへ進んでいくようです。まるで詣でているように。
○08 長々の  長々の、という言い方がうまいと思います。
○20 脇腹の  アハハ、よくぞこんなところに目を付け、句にしてくれました。脇腹もうまいし、特選です。

【 渋川どんぐり 選 】
○20 脇腹の  犬を飼った事は無い。へえ、犬の寝癖は脇腹かあ。なんか、一緒にボーっとしてたい春。
○22 神田川  今日流れるのは、今日の花びら。昨日のでも、明日のでもなく。
○23 芍薬の芽に  跳ね返るがなんともいいですね。芍薬の芽の生命力を感じます。
この他に面白かった句
14 突然の  夕桜の姿には、思わず見入ってしまう。そこに鐘。驚くよねー。 
16 爺春に  そうか、爺ちゃん、世界は模糊。でも、春はめぐり来るのだね。
19 新参や  初々しい。私にもこんな時があったような気がする。大昔。

【 山田つばな 選 】
○05、入院す  慌ただしい様子が目に浮かびます。
○09、弥生野を  不思議な景、映画の中のようです。
○11、楽隊の  音が聞こえてくるようです。
他に好きな句 10、春祭 17 、春泥を 以上です。

【 小川春休 選 】
◎07 蟻生まれ  久々に俳句で笑っちゃいました。後からよくよく考えれば、「社長の家」の庭には花も実もたくさんあるだろうから、蟻もそれが目当てなんだろうけど、五七五で言い切っちゃうとそういう裏事情みたいなところは省略されて「社長の家に近づきぬ」だけが残るわけですね。こういう句、作りたいものです。
○05 入院す  「入院」とは、かくも慌しく、突然やって来るものなのか…。この後、春の終わらぬうちにすぐ退院できたのか、それとも春炬燵をしまうことなく夏まで入院生活が続くのか。読み手をそんな想像の世界に遊ばせてくれる句です。
○08 長々の  「長々の」が良いです。のんびりとした昼のサイレンを合図に、一斉に柿が芽吹いたような。のどかで良いですね。
04 不条理の  若々しいですねー。虚子の「春風や闘志抱きて丘に立つ」の句を思わせます。
09 弥生野を  こういう昔ながらの儀式のような静かな祭りも良いですよね。話は変わりますが、最近、何の縁もゆかりもないのによさこいとかソーランを踊るような訳の分からん祭が多くて、がっかりすることが多いです。
12 春祭  あっさりした写生句。けっこう好きです。
13 桜餅  さすがに婆ちゃんは手慣れてますね。軽妙な句です。
16 爺春に  老子・荘子の一節のようですね。漢文にすると「春爺曰、『世界模糊也。』」という感じでしょうか。「世界は模糊」の鍵かっこはおそらく不要。
17 春泥を  「来て」「帰りけり」の二つの動きを入れると、句の焦点が定まりません。どちらかに絞った方が「ずぼずぼ」という擬音も生きてくると思います。
22 神田川  久保田万太郎のようですね。ムードのある句です。「けふの」のおかげで、今日のだけでなく、昨日の景色までおぼろげに見えてくるようです。
23 芍薬の  芍薬の、まだ固い芽が見えてきます。
24 背いつぱい  「背いつぱい伽羅蕗瓶づめ」までは良いと思うのですが「出来上がり」がもったいない。「出来上がり」では風景が、動きが見えてきません。わざわざ「出来上がり」と言わずとも、「背いつぱい背負(しよ)うて伽羅蕗瓶づめよ」で十分一句になる句材です。他にもっと良い言い方があるかもしれません。推敲してみて下さい。


来月の投句は、5月15日までに、3句お送り下さい・・・・・・投句はこちら

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